プロジェクト
Water Style

Japan Water Style ミーティング

花王株式会社インタビュー

花王株式会社 常務執行役員 SCM部門統括 環境・安全推進本部長 森村元博氏

「自然と調和する こころ豊かな毎日をめざして」をコーポレートメッセージとして、私たちの毎日の生活を支える様々な製品を提供している花王株式会社。今回は、常務執行役員 SCM部門統括 環境・安全推進本部長 森村元博氏に、花王株式会社が考える水リスクやその取組などについてお話を伺いました。

「日用品」など水に密接につながった製品を多く扱っていらっしゃる御社において、事業活動での「水」との関わりをどのようにお考えになられておられるか、また、どのような取組をされておられるか、お聞かせください

インタビューのようす1 弊社は、1887年に創業して、今年で128年を迎え、事業を拡大してまいりました。現在は、ビューティーケア事業、ビューマンヘルスケア事業、ファブリック&ホームケア事業といった皆様に毎日お使いいただく暮らしに身近な製品のほか、世界各国の産業界に向けた様々な工業用製品を提供するケミカル事業、この4つの事業を展開しています。

事業の拠点は、日本のほか、主にアジア、欧州、米州において展開しており、2014年度の売上高は、1兆4,017億円に達しました。こうした事業の展開にあたって、弊社は一貫して、消費者、顧客の立場に立ち、心を込めた「よきモノづくり」を行い、世界の人々の喜びと満足ある豊かな生活文化を実現するとともに、社会のサステナビリティに貢献することを目指しています。

インタビューのようす1 そして、弊社と「水」との関係ですが、これはとても深く、創業より販売している石鹸から始まりました。石鹸を使用するときには当然、水が必要です。このように弊社が扱う製品の多くが、水があって役に立つものです。そのため、使用後の排水による自然への影響を小さくするために、リンを使わない無リン洗剤や生分解性を高めた原料を利用した製品の開発などをこれまで行ってきました。最近では、衣料用洗剤「ウルトラアタックNeo」、食器用洗剤「キュキュット」、シャンプーの「メリット」など、使用時の水の量を少なくした製品の開発も行っています。これらの製品は、「いっしょにeco」マークを付け、消費者の皆様に節水製品であることが分かるようにしています。現在のところ、「いっしょにeco」マーク製品による節水効果は、設計ベースですが、年間1億2,000万トンとなっており、これは約100万人の人々が1年間に使用する生活用水の量に相当します。(国土交通省生活用水使用量より花王算出)

また、製品を製造する場面においても「水」はとても重要です。現在、世界で35ヶ所の工場が稼動しておりますが、冷却水や洗浄水、配合水などに多くの水を用いています。これらの水はカスケード利用するなど、日々工夫をしながら使用量を最小限にするよう努めておりますし、排水の際にも、環境に問題ないレベルに処理して放出しています。このほか、海外の工場などでは、地下水の制限がある地域や水質に恵まれていない地域もありますので、原水をRO膜などにより精製して使用しています。また、排水の面でも、排水基準をしっかりと遵守し、処理水のリサイクル使用など、排出量の削減に取組んでいるほか、排水のクローズド化に向けた技術開発も行っています。

御社の今後の事業活動の継続や発展に向けて、現在、どのような「水」に対する意識や考えをお持ちでしょうか?課題や問題意識などがありましたら、併せてお聞かせください

インタビューのようす1 ご家庭において、水をお使いになる場面を想定しますと、洗面所、浴室、洗濯、台所とトイレが思いつくと思いますが、これらの場面で多くの弊社の製品が使われています。 弊社の製品をお使いになる時に消費される水の量は、日本の水道水の15%程度になります。(国土交通省生活用水使用量より花王算出)こうした水と密接に関わる製品を多く提供している会社として、製品を通じた節水の取組を広げていく責任があると考えています。また、弊社が事業展開している中国、インドネシア、ベトナムなどは、日本ほど豊富に水を使える環境にありませんし、下水処理施設も十分ではありません。そこで、先にも述べました節水などの製品の技術を応用して、グローバルに提供していくことで、弊社製品を通じて、それぞれの国や地域の水が循環し、多くの人々の清潔で健康的な、豊かな暮らしの実現に少なからず貢献できるものと考えています。そのためにも今後も、節水製品のカテゴリーの拡大に力を入れていきたいと思っています。また、節水製品を利用いただくことは、各ご家庭の水の使用量の削減にむすびつくほか、浄水場や下水処理場といった施設などの負荷の低減にもつながり、エネルギーの削減など、様々な効果を創出することにもつながります。節水は、地球温暖化防止の面からも重要な取組みであり、消費者の環境意識が深まり、節水商品を多く利用する社会になることは、弊社の事業の発展にも寄与するものと考えています。

御社にとって、事業活動における資源調達、バリューチェーン、サプライヤーといったステークホルダーと、商品や製品を購入・使用される多くのお客様・ユーザーというステークホルダーがいらっしゃると思いますが、今後、持続可能な水循環のために、御社が最も重要と考えておられるステークスホルダーと、そのリレーションシップのお考えなどについて、お聞かせください

インタビューのようす1 重点をおいている分野は2つあります。一つは、やはりお客様です。こちらについては、先ほどご説明したとおりです。もう一つは、原材料をご提供いただいているサプライヤー様や弊社の工場の水リスク管理です。すなわち、原料や製品の製造時には、高い品質の水が豊富に必要であるからです。また、高い品質の水の確保が、弊社製品をお客様にお届けするための重要な条件であると考えています。

まず、サプライヤー様との取組みについてご説明します。水リスクは、国や地域によって異なります。例えば、渇水などの水確保のリスク、環境規制などの排水リスク、さらに洪水などの工場や輸送に関する操業リスクがあります。これらのリスクをサプライヤー様と共有し、お互い協力して、そのリスクを低減していくことが必要だと考えています。その一環として、今年からCDPウォーターサプライチェーンプログラムに参加しています。水リスクが高いと思われるサプライヤー様に対し、同プログラムに回答いただき、水リスクを共有するところから始めています。

お客様へは、様々なアプローチを行っています。自治体や流通様が主催される環境イベントに積極的に参加し、節水の重要性と弊社製品を通じた節水の仕方などをお客様一人ひとりに啓発しておりますし、小学校や中学校へ、洗剤の仕組みと水の大切さを勉強する環境出張授業も実施しています。また、工場見学なども積極的に実施しており、和歌山工場では「花王エコラボミュージアム」を開設し、展示や映像、体験プログラムなどを通じて、弊社製品の製造過程や毎日の家事をエコの視点で学ぶなど、様々な視点から環境について学べる機会を提供しています。そのほか中国でも2012年から、中国環境保護部宣伝教育センターと共催で、「中国清潔・節水全国運動」を行い、中国の方々の節水意識の向上や節水啓発に取り組んでいて、今年で4回実施しています。

御社にとって、直接の顧客でもある国民も、水循環を支える重要なステークホルダーですが、実際に国民一人ひとりに、水循環に対する知識や意識を持っていただくためには、どのような働きかけが大切だとお考えでしょうか。御社の取組なども含めて、アイデアなどお聞かせください

国民一人ひとりが、自分の身の回りの水について、「どうして水がここにあるか」を考えることが大切だと思います。

日本の降水量は、世界平均の約2倍ですが、季節間の差が大きく、河川の勾配が大きいため、使える水はそう多くはありません。また、一人当たりの降水量でみると、サウジアラビアなどよりも少ないなど、けっして水環境がよいとは言えません。歴史から見ても、古くから、渇水や洪水の恐怖、水が原因の争いが続いていました。それに対し、先人たちはため池の構築、堤防の建設などを行い、江戸時代には利根川などの大河川の治水工事も行われ、明治に入り、ダムの建設が行われ、水を安定的に使える現在の日本が完成したわけです。水との戦いは、様々な技術開発につながり、様々な産業の発展にも大きく寄与しています。

インタビューのようす1 このような先人たちの努力や知恵、それによる恩恵を分かりやすく伝えることで、日本人としての誇りを育むとともに、水への関心を高め、水の大切さ、便利さ、怖さを考える機会を提供してはいかがでしょうか?日本は非常に水に恵まれ、水と安全はタダなどと言われていましたが、当たり前にあると思っていた水を、その大切さを思い、どう自分ごと化するかが、重要だと思います。例えば、水に関する歴史を子どもたちに伝え、絵で表現し、大人たちが学ぶというのも良いかもしれません。

弊社では、「花王国際こども環境絵画コンテスト」を2010年より実施しています。子どもたちに、身の回りの環境について考えてもらい、それを絵に表現してもらうコンテストです。今年は世界から1万2,000点を超す作品が集まりました。子どもたちの絵は斬新で、鋭く、大人たちをハッとさせます。

最後に、プロジェクトに参加している企業の皆さんに向けて一言お願いします

インタビューのようす1 今月(11月)、パリでCOP21が開催されますが、地球規模で最優先課題の環境問題は、地球温暖化対策と水問題だと考えております。弊社としても、これらの問題に取組むことは、企業として当然の責務だと考えています。

「水」は、ウォータープロジェクトの参加企業だけでなく、世界中のすべての企業が関わっていると思います。しかも関わり方は、すべての企業で異なっています。この多様性こそが、強靭な水循環を形成する源だと思います。

今後も、ウォータープロジェクト参加企業の皆さんとともに、それぞれの視点で、水のつくり方、水の使い方、水処理の仕方、水の楽しみ方などを提案し、持続可能で優れた水循環社会の構築をリードしていきたいと思っています。

<企業インタビュー>

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