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農薬生態影響評価検討会第2次中間報告について(概要)

 

第1部 農薬生態影響評価の基本的考え方について

第1 農薬生態影響評価の基本認識

 

1.生態影響評価を巡る最近の情勢 

  • 新しい環境基本計画では、持続可能な社会の構築のために、全ての経済社会活動は、生態系の構造と機能を維持できるような範囲内で、またその価値を将来にわたって減ずることのないように行われる必要があるとしており、また、 農薬を含めた様々な化学物質による生態系に対する影響の適切な評価と管理を視野に入れて化学物質対策を推進する必要があるとしている。
  • 昨年7月にまとめられた総理主催の「21世紀「環の国」づくり会議」報告でも、自然と共生する社会を実現する上で、他の産業分野と同様農業についても「自然共存型」の関係を生態系との間で構築することが求められている。
  • 農薬は、その本来の目的から、生理活性(病害虫の防除効果等)を持つ化学物質を田畑等の開放系で使用することが基本であり、他の化学物質以上に環境との接点が多いという点を考慮すると、他の化学物質以上にその取扱いには十分な配慮が求められものと考えられる。
  • 持続可能な社会の構築を実現する上で、農薬の評価制度の中に実質的に生態系の保全を視野に入れた取組を強化することは喫緊の課題である。

2.農薬による生態系への影響の実態

  • 農薬が我が国の生態系に与えている影響を調査するために2年間、野外調査等を実施した。結果を総括すると、野外調査において農薬の影響を区別、評価することは困難であったが、河川水を用いた水生生物毒性試験は農薬の影響を示唆するものもあり、その程度は不明であるが、農薬が我が国の生態系に何らかの影響を与えている可能性は否定し得ない。
  • 野外調査では農薬の散布前後で個体数や種数の減少が一部で見られたが、自然のサイクル(例えば羽化)によるものか、農薬によるものか定かでない。降雨の影響、他の環境要因の変化等があること、対照区を設定し難いこともあり、現在の野外調査から農薬の影響のみを評価・区別することは困難であった。
  • 農薬散布後の河川水を採取して水生生物毒性試験を実施した結果では、河川水中の農薬濃度がミジンコのEC50値(半数遊泳阻害濃度)を超え、100%の遊泳阻害を示すデータも得られた。この影響は大河川水でも見られ、農薬が農地周辺の水生生物に影響を与えている可能性がある。

3.現行制度上の課題

  • 現在、農薬取締法に基づく登録保留基準として、水産動植物に対する被害防止の観点から、水田使用農薬についてコイに対する48時間半数致死濃度及び毒性消失日数等に基づく基準が定められている。当該基準には以下の課題がある。
    1. 比較的感受性の低いコイの魚毒性のみに着目しており、他の魚種やエビ等甲殻類、のり等藻類への影響が評価されていない。
    2. 農薬の種類に係わらず一律の基準として設定され、当該農薬の安全性評価に環境中での農薬の曝露量が十分考慮されていない。
    3. 水田以外で使用される農薬については適用されない。
    4. 田面水中での分解が早い農薬は魚毒性が強くても適用されない。
  • また、使用段階での規制として、登録農薬の不適切な使用による水産動植物への被害を防止するための農薬安全使用基準の設定や、まとまった使用による水産動植物への被害を防止するため一定地域における使用を許可制にする水質汚濁性農薬への指定が行われている。しかし、水産動植物被害防止の観点からの水質汚濁性農薬への指定は昭和46年に指定された2農薬にとどまっている。

4.今後の農薬生態影響評価の基本認識

  • 上記の課題を踏まえつつ登録保留基準を少しでも生態系そのものの評価に近づけ、より注意深く登録段階での評価を行うため、下記の対応が必要である。
    1. 評価対象生物種を増やすこと
    2. 毒性値と曝露量を比較する評価方法に改めること
    3. 水田使用農薬の他、畑や果樹で使用される農薬についても評価対象とすること
  • また、併せて登録後の適切な事後評価システムを確立し、事前評価と適切に組み合わせて評価することを基本方針とすべき。
  • これらの評価を行うに当たっては、欧米の既存の生態影響評価スキームとの整合性に留意しつつ、我が国における降雨、河川等の自然条件、生態系成立条件、水田等農地の諸条件を十分踏まえて対応する必要がある。

第2.当面の農薬の生態影響評価の基本的な考え方

 現段階で施策の具体化を図ることができる部分を整理すると以下のとおり。
  1. 評価対象とする生態系
     水域生態系に加え陸域生態系及び遷移帯生態系も含めて農薬の生態影響を評価するのが望ましいが、複雑な生態系を総体としてとらえるのは技術的に困難であり、水域生態系を除いて毒性試験法が十分確立されていないことから、知見の進んだ分野から施策を具体化するため、当面の評価対象とする生態系は水域生態系とする。
  2. 対象農薬
     農薬取締法で定義される農薬のうち、今回の評価方法で評価が可能な農薬として化学合成農薬を対象とする。ただし、樹木注入剤等水域生態系での曝露が想定されない農薬は対象としない。
  3. 農用地・農業用施設の扱い
     農薬の使用が当然視され、農作業や水環境によって変化する人為的な生態系である水田や、灌漑による水量変動等農業生産活動に伴う他の影響と農薬による影響を区別することが困難な排水路の水生生物への農薬影響は、当面生態影響評価の対象とはせず、今後の検討課題とする。水田や農業用施設に生息する水生生物については、農薬の使用方法の遵守やより影響の少ない代替剤の使用など地域における生物種の重要度等に応じた個別のリスク削減対策等異なる手法により保全を行うことが重要。
  4. 生態保全の目標及び評価の基本的な考え方
     「持続可能な農薬使用」、「自然共生型の農薬使用」が将来的な目標になる。しかしながら、農薬の生態系への影響の程度を実環境において定量的に分離・特定するのが困難な現状では、少なくとも水質環境基準点があるような河川等の公共用水域において農薬取締法の保全対象とされる水産動植物への影響が出ないように現状の評価手法を改善し、影響の可能性を現状より削減することを当面の目標とすることが適当。
  5. 評価方法
   

 当面、農薬の単回散布による短期的な環境濃度を予測し、急性毒性に係る毒性試験値と比較することにより、生態影響を評価することとする。 

(1)リスク評価及びリスク削減(新規登録の場合)

  1. 評価対象生物種は魚類、甲殻類、藻類を代表する生物種とし、これらの毒性試験結果から、急性影響濃度(AEC:Acutre Effect Concentration)を導く。ここで、魚類等の中での種類を考慮し、種差の不確実係数(1~10)を導入する。
  2. 急性影響濃度と短期の環境中予測濃度(PEC:Predicted Environmental Concentiration)を比較し、評価を行う。環境中短期予測濃度の算定に当たっては、モデル流域を設定し、その最下流の河川における濃度を予測する。また、農薬の使用条件(水田の止水期間等)、剤型、物理化学的特性(環境分解性等)を可能な限り反映した予測式を用いることにより、生態系への影響の少ない農薬開発を促進する。
  3. 評価は試験及び評価コストの効率化を図るため段階制を採用することとする。
  4. 評価の結果、水産動植物への影響があると判定された場合は、更なるリスク削減対策を講じる。

(2)リスク評価及びリスク削減(既登録農薬の場合)

  1. 既登録剤については、生態系への影響のポテンシャルが高いと考えられる剤から評価を行う。
  2. 既登録剤では、環境中でのモニタリング調査が可能なことから、急性影響濃度とモニタリングデータを比較する。
  3. 必要に応じて生態影響野外調査を実施し、水産動植物への影響を確認する。
  4. 評価の結果、水産動植物への影響があると判定された場合は、更なるリスク削減対策を講じる。

第2部 具体的な当面の生態影響評価手法等について

  第1 具体的なPEC算定方法 (別紙1)
第2 具体的な毒性評価手法 (別紙2)
第3 評価体系図 (別紙3)

第3部 今後の検討課題

  1. 当面の施策の具体化に向けた課題
     既登録農薬の効率的評価に向け、毒性試験データ等のデータベースの整備、モニタリングデータの具体的収集方法の検討等を行う。
  2. 水域生態系の評価手法の更なる充実に向けた課題
    (1)「持続可能な社会」、「自然共生型社会」の実現に向けた生態系保全目標の検討
(2)慢性毒性と他の生物種の導入の是非と具体的な手法の検討
(3)一過性の散布の際の回復性試験の必要性と具体的な手法の検討
(4)複数農薬による相加的・相乗的あるいは拮抗的な影響に関する検討
(5)生態影響モデルであるマイクロコズム試験に関する研究の推進
(6)水域生態系をめぐるその他の問題
  3. 陸域生態系及び遷移帯生態系の評価手法の確立に向けた課題
     農地内生態系を含め、これまで評価の対象とされていない全ての生態系においても、生態系保全の在り方や、評価手法の検討が必要である。
 陸域生態系及び遷移帯生態系影響評価に関して、実態の把握、曝露シナリオ、定量化のための手法の開発を進める。
 蓄積のおそれのある農薬について、食物連鎖を通じた高次の生物の生息に関与する可能性もあることから、幅広く影響の可能性を検討する必要がある。