水・土壌・地盤・海洋環境の保全

特別インタビュー 建築家 伊東 豊雄 氏

伊東豊雄氏

地中熱で人にやさしく快適な環境をつくる

技術を駆使して、現代でも自然と親密な関係を結ぶ建築を

今日、世の中で一般的に考えられている建築は、自然から切り離した人工環境を作ることを主旨とする近代主義思想に基づいています。しかし、その思想が西洋から輸入される以前、木造住宅を中心とした日本の建築は、冷暖房がない代わりに、自然と良い関係を保っていました。我々は、近代主義思想の先に、技術を駆使して自然と親密な関係を結ぶ建築を、現代においてもつくることはできないだろうかと考えてきました。その一環として地中熱があり、太陽光や自然換気があり、消費エネルギーを少なくすることにつなげられています。

床吹出空調が地中熱のヒントに

90年代の初め頃から我々は床吹出空調を積極的に取り入れ、「せんだいメディアテーク」(平成13年開館)で全面的に採用しました。そこで、空調の過程で冷えたり温まったりした床が、輻射成分に置き換わり、快適性を高めることに気が付きました。床を中心とした環境づくりが有効だと分かり、床を直接的な輻射帯とする方法を考えた結果、地中の熱
に至りました。そして、地下水を利用した「みんなの森ぎふメディアコスモス」が一つのテストケースとなりました。

せんだいメディアテーク Ⓒ宮城県観光課

せんだいメディアテーク Ⓒ宮城県観光課

仙台メディアテーク床暖面設備のダイアグラム

ぎふメディアコスモスの建設地は、もともと大学病院の跡地で、長良川からの豊かな伏流水に恵まれています。1日約数百トン汲み上げても周辺に影響が出ていないという情報をもとに、地下水を直接汲み上げて効率よく活用する方法を検討しました。イニシャルコストを短期間で回収するのは難しいですが、ランニングコストを低減し、化石燃料をできるだけ使わなくても熱を得られるのは意義あることだと思います。また、デザインに影響しない点も好ましく感じています。
この建築の基本的な考え方は、「大きな家と小さな家」を作るというもので、縁側があって南から北へとグラデーショナルに変化する昔の日本の建築を、せめて二段階で作ろうと考えたのです。大きな家の中はまだ外に近く、小さな家を最も良い環境にしました。地中熱も活用し、空気の循環や自然光も取り入れて、従来より効率の良い、消費エネルギーの少ない建築物になりました。岐阜の暑い夏であっても、設定温度は27~28℃と高めながらも床面が20~21℃で輻射帯となり、かつ湿度を下げて快適性を保っています。
地中熱の魅力は、輻射冷暖房と組み合わせやすいエネルギーなので、それにより人にやさしく快適な環境ができる点です。また、地域の特性をうまく活用できるエネルギーで、新青森県総合運動公園陸上競技場や川口市めぐりの森でも、それぞれの地域特性に合わせた形で活用しています。

脱炭素社会に向けて需要者側の議論を

脱炭素社会といったときに、供給側がいかに自然エネルギーに頼るかばかりが議論されていて、需要者・利用者側の論理が議論に上らない。さまざまな技術を組み合わせ、ぎふメディアコスモスは消費エネルギーを2分の1まで削減できました。どんな建築でも消費エネルギーを減らすことはできると思うのです。そうすれば供給エネルギーも少なく済む。そのためにはたとえ断熱性能が低い空き家であっても、新たな技術を導入して、ぎふメディアコスモスのようにコントロールを可能にすれば、空き家の活用にもつながりますし、需要者側の論理を、思想として大きくすることが2050年に向けて必要だと思います。

建築家 伊東 豊雄 氏

現在、水戸に建設中の新しい複合施設にも地中熱を使っています。最近では公共施設のコンペティションの応募要項で、地中熱の利用が謳われるようにもなり、ここ数年の間でずいぶん認識されてきたと思います。我々も、今後も地中熱を積極的に取り入れたいと思っています。

みんなの森 ぎふメディアコスモス 室内環境のダイアグラム

みんなの森 ぎふメディアコスモス 室内環境のダイアグラム

地中熱導入事例

●みんなの森 ぎふメディアコスモス

みんなの森 ぎふメディアコスモス

Ⓒ中村絵

場  所:岐阜県岐阜市
主な用途:図書館、市民活動交流センター(多文化交流プラザを含む)、展示ギャラリー、ホール
開  館:平成27年7月

●新青森県総合運動公園陸上競技場(カクヒログループアスレチックスタジアム)

新青森県総合運動公園陸上競技場(カクヒログループアスレチックスタジアム)

Ⓒ川澄・小林研二写真事務所

場  所:青森県青森市
主な用途:陸上競技場
供用開始:令和元年9月


●川口市めぐりの森

川口市めぐりの森

Ⓒ中村絵

場  所:埼玉県川口市
主な用途:火葬場
開  館:平成30年4月