里海ネット

里海と物質循環

里海を育む太く、長く、滑らかな物質循環

森に降った雨は、葉や腐葉土の中に蓄えられ、その過程で栄養分が溶け込み、ゆっくりと川や海へと流れ込みます。海では、その栄養は植物プランクトン、海藻などに利用され、食物連鎖により動物プランクトン、魚類などへとつながります。魚類は、漁獲や、遡上、陸上動物による捕食などによって再び陸地に戻ります。
森・川・里・海の絶妙なバランスにより、健全な物質循環が構築されます。

里海を育む太く、長く、滑らかな物質循環のイメージ

森・川・里・海の物質循環の現状や課題

森が伐採されると、雨は山の表土を浸食し、栄養分の無い濁った水が川から海へ流れ込み、海での生物生産性が低下し、海藻の群落が衰退する磯焼けや、養殖ノリの色落ち、漁獲量の低下などを引き起こします。沖縄県では、湿地の開発や河川改修などによって赤土が海に流れ込み、サンゴ礁に大きな被害を及ぼしている例もみられています。

また、人間活動により、大量の工場排水や下水が海に流れ込むことにより栄養が過剰になり、植物プランクトンが大繁殖することによって赤潮が発生します。赤潮が発生すると、その大部分は枯死して海底に沈降するため、栄養分が動物プランクトン等の生物に転送されないため、短い物質循環となります。また、海底に沈降した植物プランクトンは微生物に分解され、そのときに大量の酸素が消費され、生物の生息に必要な水中の酸素量が低下します。

森・川・里・海の物質循環の現状や課題のイメージ

里海づくりの取り組み

健全な物質循環を構築するために、各地で様々な取り組みが行われています。

森での取り組み

森林は、適度な保水能力を持ち、川や海に色々な栄養分を含んだ水を安定的に供給する役割や土砂流出防止機能などを持つことから、里山に暮らす人だけでなく、漁民や川の上・中流域などに住む人による森づくりが行われています。

川での取り組み

ダムや堰があると、魚が遡上できなくなる、干潟や浅場の維持に必要な土砂の供給が少なくなる、ダム湖内で栄養が植物プランクトンによって消費され下流に届かなくなるなど、物質循環が切断されることがあります。  このため、ダムや堰における魚道の設置、ダムにおける定期的な土や水の放流などによる管理が行われています。

森での取り組みのイメージ

里での取り組み

海へ流れ出る汚濁物質の多くが、人間活動によるものです。瀬戸内海では、陸域から排出される汚れ(COD[化学的酸素要求量])のうち、生活から排出されるものが4割、産業活動から排出されるものが5割を占めています。
そのため、各地域では下水処理場等によって汚れを減らす取り組みが行われています。
それに加え、各家庭においても、洗剤の適量利用や油の複数回利用など、生活排水の汚れを減らす取組を心がけることが大切です。

海での取り組み

汚れた海をきれいにするために、生物の浄化能力を活用した取り組みが行われています。 福岡県の洞海湾では、地元小学校などとの協働により、ムラサキイガイを使った栄養物質の除去の取り組みを行っています。垂下したロープ(マイロープ)にムラサキイガイを付着させて、栄養塩を吸収させ、そのムラサキイガイを陸上に回収し、堆肥(マイ堆肥) として活用する取り組みです。
富山湾では、水質浄化を目的として、冬季にマコンブを養殖し、栄養塩を吸収させて、春~夏頃に刈り取るという取り組みを行っています。
海域の生態系に応じた適切な漁獲や、栄養が豊富な海域で行われるノリ養殖なども、海域から栄養物質を除去する重要な役割を果たしています。

ムラサキイガイを使った水浄化技術
マコンブの養殖(富山湾)

こちらから、森・川・海における物質循環と人との関わりがダウンロードできます。

各地での取り組みについては、実践事例の紹介をご覧下さい。