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イカナゴ

Ammodytes personatus Girard

硬骨魚綱 スズキ目 イカナゴ科


1.イカナゴってどんな魚?
 イカナゴはスズキ目イカナゴ亜目イカナゴ科に属する魚で、体は非常に細長く、円筒形をしています。頭は小さく尖っていて、 下顎が鋭く前方に突出しています。ひれは全て柔らかい軟条から成っていて、タイの仲間やカサゴのような硬い棘(とげ)の ような鱗(うろこ)はありません。また、多くの魚にみられる腹びれはなく、体の表面に斜めに走る細かいしわが見られます。 一見鱗はないように見えますが、小さな円鱗(えんりん)が斜めに並んでいます。体長は15cm前後のものが多いですが、 大きいものでは25cmに達します。


写真:イカナゴの頭
写真:イカナゴの体表
写真 イカナゴの顎
イカナゴの体表

2.分布
 イカナゴの仲間は、北半球の寒帯域から温帯域を中心に熱帯域まで、世界中に5属18種が分布します。 沖縄を除く日本列島沿岸では、このイカナゴが普通種で、北海道や瀬戸内海には特に多く生息しています。 瀬戸内海では全域に生息していますが、漁獲割合から見ると大阪湾、播磨灘、燧灘などで多いようです。 なお、イカナゴの生息場所として、海底が砂質か、きれいな砂泥質(さでいしつ)であることが重要とされていますが、 播磨灘の明石海峡近くには鹿ノ瀬という砂地の浅瀬があり、やはりイカナゴの好漁場となっています。 この砂地の秘密は、後ほどご説明いたします。  

3.生態
 イカナゴは沿岸の砂泥底(さでいてい)に生息し、主にプランクトンを食べています。1歳で成熟し、 12〜1月に水深10〜30mの砂底(すなぞこ)で群れて産卵します。卵は表面が粘着質で覆われていて、産み出された後は海底に沈んで砂礫に粘着します。このため卵が大きく移動することは少なく、 卵からふ化した稚仔魚(ちしぎょ)は、産卵場付近に12月下旬から2月中旬にかけて見られます。 仔魚(しぎょ)はしばらく比較的表層を群れで遊泳しながら、小さな動物プランクトンを食べて成長し、 春には6cm前後となって着底、夜間は砂にもぐるようになります。1年で9cm前後に成長しますが、 北海道のものは成長が良く、同じ1年でも13cm前後にまでなります。

写真:イカナゴの仔魚
写真 イカナゴの仔魚(格子は1mm)

瀬戸内海での産卵場としては、先ほどもご紹介した播磨灘の鹿ノ瀬や、大阪湾の上ノ瀬、沖ノ瀬、 備讃瀬戸の塩飽諸島、下津井〜丸亀水域、燧灘の三原水道などがよく知られています。このように、瀬戸内海のイカナゴは瀬戸内海の中で生活を送っているため、仔魚(しぎょ)から成魚までその資源量はかなりのものと推定されています。 このためイカナゴは中・大型魚の餌として重要な位置にあり、これを狙ってブリやサワラなど水産上有用種を始めとする多くの魚類が瀬戸内海に入って来ます。イカナゴは、瀬戸内海を豊かにしている重要な魚なのです。

4.夏は寝て過ごす!
 イカナゴには先に述べた以外に、最大の特徴とも言うべき生態があります。なんと水温の高い夏の間、砂にもぐって冬眠ならぬ夏眠をするのです。瀬戸内海では、 水温が19℃に達する6月に、大群が一挙に貝殻混じりの砂中にもぐり込み、3.5〜5.0cmほどの深さに身を隠してそのまま夏を過ごします。尖った下顎は、この砂にもぐる時に役立つようです。仮眠中は餌を食べませんが、体内(消化管)に脂質状物質を蓄えており、極端に痩せ細ることはありません。秋になって水温が下がると、 砂中から出てきて再び餌を食べ始め、しばらく経つと産卵期に入ります。なぜ夏眠をするのかは明らかになっていませんが、大事な産卵期を前に敵から身を守り、 体力を温存しているのではないでしょうか。先の項目で述べた、海底が砂質かきれいな砂泥質であることが重要、と言うのは、砂地がないと夏眠が出来ないためなのです。
 ヨーロッパでは、イカナゴの仲間が夏に市場に並ぶそうです。ハテ?夏は砂にもぐっていて漁獲できないのでは?ところがどっこい、この習性を逆手にとって、潮が引いた時に砂地を掘り返して獲る地方があるとのこと。潮干狩りで魚を掘る、何とも奇妙な光景ですね!

5.名前あれこれ
 イカナゴという名の由来にはいろいろな説がありますが、イワシ類のシラスによく似た稚仔魚をさして、「如何なる魚の子か」という意味から、というのが一般的です。 また、漢字で書くとなぜか「玉筋魚」。これは、稚仔魚が細長い群れ(玉)になって泳ぐ習性があり、春先に海表面を泳ぐその姿から、このような漢字が当てられているそうです。このほか、小さいものは小女子(コウナゴ)、地方名では女郎人(メロウド)などと呼ばれますが、これは細長く華奢な姿形から女性のイメージが強いため 、と言われています。瀬戸内海に面する地域では、3〜4cmの仔魚(当歳魚)をシンコ(新子)、未成魚や成魚をフルセ、カマスゴなどと呼びます。

6.イカナゴの利用

図:イカナゴ漁場
図 イカナゴ漁場(村上(1976)より)

 イカナゴは私たちとの関わりも深く、各地で漁獲されています。特に瀬戸内海は北海道や東北地方と並んで漁獲量が多く、古くから重要な水産資源となっています。漁法も様々で、古くは淡路島周辺で沖のカモメの乱舞を目印に、その下にいるイカナゴの大群をタモ網ですくう餌床(えどこ)漁業というものがあったようですが、現在は灯火(とうか)を利用した棒受(ぼううけ)網、定置網、船曳網が主流となっています。瀬戸内海での漁場は先にご説明した産卵場とほぼ同一で、大阪湾、播磨灘、燧灘などが有名です。

 

 瀬戸内海では漁獲対象のほとんどが当歳魚で、春先に船曳網によって漁獲されます。兵庫県の明石周辺一帯では、この当歳魚を佃煮にした「くぎ煮」があまりにも有名で、 各家庭でも盛んに作られることから春先の風物詩となっています。「くぎ煮」という呼び名は、醤油、みりん、ザラメ、生姜などで煮詰められた仔魚の、折れ曲がって赤茶色になっているさまが、錆びた釘(くぎ)に似ていることから名付けられたと言われています。このほか、シラスのちりめんじゃこのように、天日干ししたちりめんイカナゴ(かなぎちりめん)もあります。

写真:くぎ煮
写真 仔魚を佃煮にした「くぎ煮」

写真:冷凍イカナゴ
写真 養殖魚餌料として用いられる冷凍イカナゴ

 成魚はどちらかというと海産養殖魚の餌料としての需要が高く、冷凍したものが生餌として用いられています。食卓にあがる場合は唐揚げなどで賞味され、漁師の間では新鮮なものを刺身で食べることもあるそうです。また、成魚を3か月以上醤油に漬け込んで作る「イカナゴ醤油」もあり、香川県の伝統的特産物となっています。このように、多く漁獲され仔魚から成魚まで人間の生活と密接に関わっているイカナゴですが、近年漁獲量は高水準で安定してはいるものの、 やはり一時期に比べると全体的に減少しているようです。その原因は、海砂などの採取やしゅんせつによる生息場所の荒廃・減少によるものと考えられています。瀬戸内海に春を告げる風物詩が消えてしまわないよう、豊かな自然を大事にしていきたいものです。


【参考文献】
1) 松浦啓一・山田梅芳:イカナゴ亜目.日高敏隆監修,日本動物大百科−6.魚類,平凡社,東京,188-193(1998).
2) 落合 明・田中 克:新版魚類学(下).恒星社厚生閣,東京,1009-1030(1986).
3) 千田哲資・南 卓志・木下 泉編著:稚魚の自然史.北海道大学図書刊行会,北海道,265-266(2001).
4) 村上彰男編:瀬戸内海の海域生態と漁場.(株)フジ・テクノシステム,東京,202-203(1976).
5) 小坂淳夫編:瀬戸内海の環境.恒星社厚生閣,東京,221(1985).

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