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フグ

Takifugu rubripes Ocellate puffer

フグ目フグ亜目フグ科(トラフグ)

写真 フグの中でも高級なトラフグ

写真:トラフグ

1.フグの仲間

フグの仲間はフグ目という大きなグループに属しており、10科50属129種 (世界に10科100属約340種)が含まれています。「フグ」は主にフグ科に含まれる種類の総称で、トラフグやクサフグ(フグ科)、ハリセンボン(ハリセンボン科)などが有名です。 特にトラフグは瀬戸内海でも多く漁獲されており、水産上重要種に位置付けられています。

このフグ目にはほかにもよく知られた魚が含まれています。味が良く釣り人に人気のカワハギや、変わった体型とのろい動作で水族館の人気者となっているマンボウも、実はフグの仲間なのです。

表 フグ目の分類
フグ目 モンガラカワハギ亜目 ベニカワムキ科 ベニカワムキ
ギマ科 ギマ
モンガラカワハギ科 モンガラカワハギ、アミモンガラ、ムラサメモンガラなど
カワハギ科 カワハギ、ウマヅラハギなど
イトマキフグ科 イトマキフグなど
ハコフグ科 ハコフグ、ウミスズメなど
フグ亜目 ウチワフグ科 ウチワフグ
フグ科 モヨウフグ、マフグ、トラフグ、クサフグ、ナシフグなど
ハリセンボン科 ハリセンボン、ネズミフグなど
マンボウ科 マンボウ、クサビフグなど

2.特殊な形態

フグの体は一般にずんぐりとしていて、他の魚と違うのは一目瞭然ですが、さらに細かく見ると非常に特殊な魚であることが分かります。

まず魚に特有のひれですが、普通は背びれ、胸びれ、腹びれ、尻びれ、尾びれという組み合わせになっているのに対し、フグにはこのうち腹びれがありません。その使用法も特異で、多くの魚が主に尾びれを使って泳ぐのに対し、フグは背・尻びれを使って泳ぎ、尾びれは方向転換などの舵の役割をしています。

図:フグの形態(各部名称)

また、歯も特徴的で、いわゆるフグと呼ばれるフグ科魚類の歯は、細かい歯ではなく、板歯と呼ばれる板状の歯が上顎、下顎にそれぞれ2枚ずつ、計4枚の強大なクチバシ状となっており、釣り糸など簡単に噛み切ってしまいます。

当然指などを噛まれると大変危険なので、漁獲されたフグはすぐにペンチなどで歯を折るようにしています。養殖でも噛み合いで体に傷が付き、それが原因で病気にかかってしまう場合もあるため、管理面から歯の一部をカットする「歯切り」を行っています。

図 フグの板歯
上下2枚ずつ、合計4枚から成る。
(歯切りは中央の尖っている部分をカット)

図:フグの板歯

ほかにも皆さんおなじみの、水や空気を飲んで腹をふくらませる独特の姿がありますが、さらに特殊な例としてはハコフグ、ハリセンボン、マンボウの仲間が挙げられます。

ハコフグの仲間は体の表面が骨板に覆われて硬く、ハリセンボンの仲間は体の表面に多数の頑丈なとげがあります。また、マンボウは尾びれがなく、代わりに舵びれという構造があります。この舵びれは、背びれと尻びれの一部が変形したものであることが分かっています。

3.生態

フグ目の多くは沿岸性で、200m以浅の岩礁や砂泥底、サンゴ礁などに生息していますが、フグ科の中には河川へ入り込む種類もいます。また、外洋域で暮らす種類や深海から採集された種類のほか、アフリカや東南アジア、南アメリカでは淡水に生息する種類も知られています。 このように、フグ目は姿形と同じく生態も多様なので、ここではよく知られているトラフグを主体に説明します。

オスは2歳、メスは3歳で成熟し始め、湾口部や海峡など狭くて流れの激しい水深10~50mのやや粗い砂礫底で3~6月に産卵します。瀬戸内海は島が多く、平均水深も約38mと産卵に適しており、尾道や備讃瀬戸に産卵場があります。瀬戸内海以外では有明海湾口や関門海峡、伊勢湾口などが産卵場として知られています。卵は直径1mm前後の球形沈性粘着卵で、砂泥、石、岩などに産み付けられ、約10日でふ化します。(水温16℃)

稚魚は主に底生性の小型甲殻類を食べ、成長に伴ってエビ・カニ類やイカ類、 魚類などを食べるようになります。大きさは1歳で全長25cm前後、2歳で40cm前後、3歳で50cm前後となりますが、6歳ぐらいから成長は極端になるようです。最大では80cm近い記録もあります。

トラフグは大きな移動・回遊を行うことも特徴的で、はるばる東シナ海、黄海、渤海から 西日本各地の産卵場へ移動して産卵し、再び戻って行くことが知られています。 また、産まれた仔魚は成長に伴い湾奥、湾口、湾外と生息場所を変えながら沿岸域に留まり、2歳くらいになると東シナ海や黄海方面の外洋へ移動します。

位置図:瀬戸内海におけるトラフグの産卵場

このほか、フグ類には砂にもぐる習性があります。観察例が少なく、詳しいことは分かっていませんが、 睡眠や外敵からの逃避、環境変化への対応などが考えられています。 また、釣りの外道としてよく知られるクサフグは、5~6月の大潮前後の満潮時に砂浜などの 波打ち際に大挙して押し寄せ、産卵を行います。

4.分布

フグ目のほとんどの種類が、世界の温帯から熱帯の暖かい海に広く分布しています。日本では北海道以南の各地に分布しており、沿岸の岩礁や湾内に普通に見られ、種類によっては港の中などでもよく見られます。中でもトラフグは遠州灘、日本海西部、瀬戸内海、東シナ海などで 量が多く、特に瀬戸内海は産卵・生育場として重要な海域になっています。

5.猛毒!テトロドトキシン

フグの最大の特徴と言えるのが、皆さんもよくご存じのフグ毒です。フグの毒については古くから知られており、フグ食が広く普及した江戸時代後半には中毒死する者が多数出たため、各藩で禁止令が設けられたという記録も残っています。

フグ毒について専門的な研究が始まったのは100年ほど前で、1909年、東大の田原博士によりテトロドトキシン(Tetrodotoxin)と命名されました。 語源はフグ科の学名であるTetradontidae(四つの歯を持つの意)から来ています。その構造が明らかになったのは40年ほど前で、分子式ではC11H17N3O8で表されます。テトロドトキシンは神経毒で、最少致死量は結晶で2mgとされ、加熱しても分解せず、解毒剤もありません。

中毒症状としてはまず唇、舌、指先などの痺れから始まり、知覚麻痺、運動機能障害、 言語障害、呼吸困難、血圧低下などの症状が現れ、末期には意識が混濁し、呼吸停止により死に至ります。現在も決定的な治療法はなく、早ければ摂取後20分程度で症状が現れ始め、1.5~8時間で死亡しますが、6時間以上経って発症した場合は比較的軽症で、適切な処置により死ぬことはほとんどありません。

このテトロドトキシン、フグ目ではフグ科のみに見られ、種類によって有毒部位や毒性の強弱が異なります。また、同じ種類でも個体差が見られ、生息海域、季節によっても毒性に違いがあることが報告されています。さらに養殖フグに至ってはその大半が無毒で、フグ毒を混ぜた餌を与えると毒を持つようになることも分かりました。

図 テトロドトキシン保有動物の毒化機構(野口・阿部・橋本:1997より)

図:テトロドトキシン保有動物の毒化機構(野口・阿部・橋本:1997より)

また、フグ特有の毒と思われがちですが、ヒョウモンダコやツムギハゼ、ボウシュウボラといった魚介類もテトロドトキシンを持っており、カエルやイモリの仲間、さらには海藻の仲間である石灰藻からも見つかっています。これらのことからテトロドトキシンは体内で合成されるのではなく、食物連鎖によって蓄積されることが判明し、その大元は海洋に大量に生息する海洋細菌の仲間であることが突き止められています。しかし、なぜフグがテトロドトキシンを蓄積できるのかなど、不明な点も残っています。

フグは、ストレスを与えると体表から毒を放出して身を守ることも解明されていますが、我々人間はそんなことは お構いなしに漁獲・賞味しています。
が、素人がむやみに料理して食べると、先にも書いたような恐ろしいことになりかねません。やはりフグ料理は免許を持ったプロにおまかせ、ということですね。

6.フグの利用

これまでご説明したとおり、フグは強い毒を持っているため食べるのにもいろいろと制限が設けられています。それでもその味の良さに古くから親しみがあり、時には禁を破ってまで食べようとする人までいます。

日本近海のフグでは21種類について厚生労働省から可食認可がなされていますが、その中でもトラフグは利用価値が高く水産上有用種とされています。

フグの漁場は北海道以南の各地に点在していますが、瀬戸内海もそのひとつで、2000年には約1400tが漁獲されています。 その漁法は延縄、一本釣り、小型定置網、小型底曳網、刺し網など多種多様ですが、代表的なトラフグなどは近年漁獲量の減少が見られ、栽培漁業や資源管理型漁業への取り組みが進められています。 そのひとつとして種苗生産技術が確立され、養殖や放流事業に利用されています。 瀬戸内海でもトラフグの養殖生産量は全国の約10%(2000年)を占めています。

図:トラフグの代表的な漁法(底延縄))

フグの中でも人気のトラフグは、白身できわめておいしく、フグ料理の高級材料として 扱われています。特に下関のものはブランド化しており、高値で取り引きされています。

フグ料理と言えばフグ刺し、ちり鍋が有名ですが、他にも唐揚げやたたき、白子の塩焼き、ひれ酒など、様々な形で賞味されます。この他、見た目の特異なハコフグも美味とされ、沖縄ではハリセンボンの仲間も食用になっています。

食材以外では有名なフグちょうちんや、皮を使った漁具などに利用されています。

7.フグあれこれ

フグ食の歴史は非常に古く、約3000から4000年前の縄文後期の貝塚から、たびたびフグの骨が 見つかっています。このことから、日本人がフグを食べ始めたのは縄文時代からと考えられています。

日本人とは切っても切れないフグ、ここでちょっとこれまでとは違った雑学知識をご紹介しましょう。

●フグの語源は?

ふくれた様子が豚のよう、ふくべ(ひょうたん)に似ている等いろいろな説があります。

●漢字で書くとなぜ河豚?

「豚」という漢字は見た目からも納得できますが、なぜ「河」なのでしょうか?これは中国が元で、中国では昔からメフグという種類が食用とされていますが、メフグはある時期になると河の中流域まで遡り、これを漁獲していたことから「河豚」となったのです。我々からすると「海豚」としたいところですが、残念、既にイルカという読みが付いているんですね。

●昔は食べるのを禁止されていた時もあった!

江戸時代にはかなり一般的に食されていたようですが、その反面中毒による死者も増えたため、フグ食を禁じていた時期もありました。武家では禁を破った場合、家名断絶などの重い罰則もあったそうです。

●フグなのにカラス?

カラスと言えば普通鳥のカラスを思い浮かべますが、実はフグの仲間にもカラスという種類がいるのです。しかもトラフグと同じく美味で高級魚。本家本元のカラスとは随分扱いが違うものです。

●本場下関では「フク」と呼ぶ

TVや雑誌などでもよく紹介されていますが、下関ではフグのことを「フク」と呼びます。これは「福」にかけていて、 フグでは「不遇」になるから、と言われています。

●なぜ刺身は薄いのか?

フグの肉は弾力があって独特の歯ごたえがありますが、あまり厚く切ると硬すぎて折角のうまみが台なしになってしまいます。 つまり、お皿の模様が透けるほどの薄切りがちょうど良いのです。別にケチケチしているわけではないのですね。

●フグは鳴く?

生きたフグを持ったことのある方はご存じかと思いますが、フグは釣り上げたりつかんだりすると、グーグーと鳴くことがあります。 これは上下の板歯を擦って威嚇をしているのです。鳴いたりふくらんだり毒を持ったり、フグも大変です。

【参考文献】

  1. 松浦啓一・山田梅芳:フグ目.日高敏隆監修,日本動物大百科-6.魚類,平凡社,東京,188-193(1998).
  2. 落合明・田中克:新版魚類学(下).恒星社厚生閣,東京,1009-1030(1986).
  3. 松浦啓一・宮正樹編著:魚の自然史.北海道大学図書刊行会,北海道,76-95(1999).
  4. 中坊徹次・町田吉彦・山岡耕作・西田清徳編:以布利黒潮の魚.海遊館,大阪,271-280(2001).
  5. 橋本周久編:フグ毒研究の最近の進歩.日本水産学会監修,水産学シリーズ70.恒星社厚生閣,東京,117(1988).
  6. 多部田修編:トラフグの漁業と資源管理.日本水産学会監修,水産学シリーズ111.恒星社厚生閣,東京,138(1997).
  7. 野口玉雄・阿部宗明・橋本周久:食品衛生に関係する有毒魚介類携帯図鑑.緑書房,東京,82-91(1997).
  8. 原田禎顕・阿部宗明:フグの分類と毒性.恒星社厚生閣,東京,1-23(1994).
  9. (社)水産資源保護協会:わが国の水産業ふぐ.(社)水産資源保護協会,東京,1-15(2002).
  10. 小坂淳夫編:瀬戸内海の環境.恒星社厚生閣,東京,342(1985).
  11. 青木義雄:ふぐの文化.成山堂書店,東京,204(2003).
  12. 出口宗和:雑学魚あれこれ辞典.西東社,東京,210(1986).

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