環境省水・土壌・地盤環境の保全土壌関係中央環境審議会等における検討中環審答申及び検討会土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会

土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会(第4回)会議録


1.日時

平成13年3月6日(火)10:00~14:00

2.場所

都道府県会館 401会議室

3.議題

(1)関係者からのヒアリング
(2)その他(次回の日程等)

4.出席者

(委員)
大塚 直 委員 河内 哲 委員 嶌田 道夫 委員
高橋 滋 委員
谷川 義夫 委員(谷中 新潟県環境生活部環境対策課参事 代理出席)
中杉 修身 委員
野口 基一 委員(伊藤 神奈川県環境農政部大気水質課副技官 代理出席)
林 祐造 委員 原田 尚彦 委員 細見 正明 委員
松村 弓彦 委員 吉田 文和 委員
(事務局)
石原 一郎 水環境部長
福井 雅輝 水環境部企画課長
伊藤 洋 水環境部土壌環境課長
仁井 正夫 水環境部水環境管理課長
小柳 秀明 水環境部土壌環境課地下水・地盤環境室長 他
(ヒアリング対象者)
前川統一郎 (社)土壌環境センター技術委員長
美坂 康有  (社)土壌環境センター乗務理事
倉水 勝  (社)電子情報技術産業協会地下水/土壌対策アドホックグループ主査
弓場 清正  (社)電子情報技術産業協会化学物質対策(委員会)WG委員
桑原 孝  (社)電子情報技術産業協会環境・安全部長
高木 寛  (社)日本電機工業会環境部課長

5.配付資料

資料4-1土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会委員名簿
資料4-2関係者からのヒアリング資料

6.議事

【事務局】ただ今から土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会(第4回)を開催する。
 まず、本日の配付資料を御確認いただきたい。(資料の確認)
 それから、谷川委員の代理として新潟県環境対策課の谷中参事に、野口委員の代理として神奈川県大気水質課の伊藤副技幹に御出席いただいている。
 それでは、座長に議事進行をお願いする。

(1)関係者からのヒアリング

【座長】今回は前回に引き続き、関係者からのヒアリングを行いしたい。最初に土壌調査を実施している立場から、2番目に土壌浄化事業を実施している立場から、3番目に有害物質を取り扱っている立場からお話を伺う。それぞれ30分程度の説明の後、15分~20分程度の質疑を行いたい。

【事務局】まず、土壌調査を実施している立場から、(社)土壌環境センターの前川技術委員長からお願いしたい。

【前川氏】本日は、土壌汚染の調査やコンサルタントを実施する立場から土壌汚染の実態等についてお話しする。最初に土壌汚染の調査の状況について、2番目にその調査の経験から得られた土壌汚染の発生要因等についてお話ししたい。
 まず、土壌汚染の調査についてだが、本日は技術的な内容というよりも、調査を行うきっかけや手法、評価、精度管理の4点についてお話しする。
 土壌汚染の調査を行うきっかけは様々であるが、大きく五つに分類される。
 1番目は、トリクロロエチレン等の有害物質を取り扱う事業者による独自調査である。これは調査会社に依頼せずに、独自に社内で調査(例えば土壌ガス調査)をする。その結果、問題がありそうならば調査会社に依頼して詳しく調べて、その対策計画を立てるというケースである。
 2番目が、事業者がISO14000シリーズを取得するときに、有害物質を取り扱っていれば地下水の汚染調査をする。それに伴って観測井を設置するケースである。
 3番目が、条例等で土壌調査が義務づけられている場合である。例えば神奈川県であれば、土地区画形質の変更時には土壌の調査結果の届出が必要である。そういった条例に基づき、土壌調査を行って届出をするケースである。
 4番目が、マンション用地として取得する予定の工場跡地を「土壌・地下水汚染に係る調査対策・指針」(以下「指針」という。)に基づいて調査を行うというケースである。
 5番目は、例えば米国の企業が日本のメーカーを買収するという際に、その企業が環境上の問題がないかについて確認する、いわゆるデューデリジェンス調査である。
 このうち最初の二つのケース、つまり、自主的な調査を契機に調査・対策しようというケースとISO14000シリーズの取得に関して調査するケースが、数年前からかなり増加している。
 また、最近、特に昨年来から急増しているのが、不動産に係る土壌汚染調査である。この理由については、米国等の外資系企業が日本に参入する際、必ず土壌調査をするため、それがきっかけとなっているのではないかという見方がある。最近不動産の取引に絡む土壌汚染のトラブルが多くなってきたためではないかと思う。
 次に、調査手法についてだが、一般的には指針に基づいて実施されている。この指針の概要は、事業者等が調査又は対策を実施する場合に参考として活用されるよう、一般的な技術的手法を示したものである。指針に基づいた調査が実施されているが、この指針を画一的に扱うことによる弊害も多少実態としてあると思う。
 また、地方自治体によっては、独自の調査手法や基準を設定している場合もある。例えば、東京都板橋区には、板橋区汚染土壌処理基準があり、指針とは若干異なる手法で調査が行われている。また、神奈川県の生活環境の保全等に関する条例の中では、進め方自体は指針とほぼ同一だが、調査項目にフェノール等が含まれている。千葉県では千葉県地下水汚染防止対策要綱が定められており、特に地下水汚染が発生した場合、汚染機構解明調査が古くから実績のある手法で行われている。したがって、我々が調査する際は、指針と地域の条例等に基づく手法の二つを組み合わせた調査を実施することになる。
 また、例えば外資系企業がデューデリジェンスを行う場合は、米国の材料検査協会の規格によるPhase1に基づいて調査を実施することが多い。この調査法は、指針にある資料等調査とよく似ている。また、米国と日本では、行政の持つ資料の量、あるいは情報の集めやすさについて、かなりの違いがある。指針に基づいた調査を行っても、まず問題ない。米国の材料検査協会では、Phase1とPhase2という調査がある。Phase1は、指針での資料等調査(机上調査と現地踏査のみ)に相当する。また、Phase2は概況調査及び詳細調査に相当する。ここでおもしろいのがPhase1は、英語でStandard Practice for Environmental Site Accessment、Phase2はStandard Guide for Environment Site Accessmentなっている。つまり、Phase1は規格化された評価が要求される。これに対してPhase2は、評価者が柔軟な対応を行いながら評価することが許される。このことは、後述する指針を使う側に対する参考になると思う。
 次に、このような調査結果の評価についてだが、調査結果について評価をする者(評価者)、また評価を受ける者(被評価者)ともに、土壌あるいは地下水の汚染が発生しているかどうかが最大の関心事である。汚染の有無についての判断基準は土壌環境基準であり、汚染の程度は土壌環境基準値の何倍かということで判断されるのが一般的である。
 さらに、土壌汚染対策を実施する場合も、土壌環境基準を判断基準とし、適合しない範囲を対策範囲と考えるのが一般的である。そのほか土地の売買の場合は、土壌環境基準のほかに含有量参考値を超えた範囲までを対策範囲として、掘削除去して外に持ち出すという例が多く見られる。
 このように土壌環境基準を判断基準とすることは、環境保全上は当然のことだろうが、環境リスクという観点からは多少合理性に欠けると考えられる。例えば環境リスクからは全く同等と思われる二つのサイトについて、片方のサイトでは土壌環境基準の1.1倍、片方のサイトは0.9倍であった場合、0.9倍であったサイトは問題がないが、1.1倍のサイトは汚染地であると判断され、価値も大きく変わってしまうことになり、多少合理的ではないと思われる。
 環境リスクを考えながら対策を行えばよいと考えられるのだが、実際にそのようにしている事例は、一部の自主的な取組を除いてごくわずかだと思う。特に不動産の売買の際は、工場跡地を別の工場用地とする場合以外は、完全な浄化、すなわち敷地内のすべての地点で土壌環境基準を適合させるのが一般的である。
 ここからは私自身の考えを申し上げるが、このように不動産取引の際に完全な浄化を求めるという傾向が続けば、汚染原因者が財力のある企業の場合や、汚染地が広い場合はさほど問題がないが、汚染原因者に金銭的余裕がない、あるいは汚染地が狭い上に汚染の程度が著しい等の理由で土壌汚染対策ができない土地は、そのまま売れ残ってしまうだろう。また、そのような土地が都市内に虫食い状に残された場合、例えばクリーニング業者跡地のように住宅と工場が混在している地域で工場跡地が残されていくと、その地域全体の開発に影響を与える。すなわちブラウン・フィールド現象につながるのではないかと懸念している。これも私見だが、調査をしてみたところ、環境リスクの観点からはほとんど問題がないサイトも多く見られる。したがって、環境リスクが十分に軽減されていれば、完全に浄化されていなくても不動産としての流通が可能という社会的なコンセンサスが必要だと思う。
 次に、調査結果の精度についてだが、環境省の指針に基づいて調査を行えば、誰がやっても結果は同じかというと、そういうことは絶対にない。その理由は、広い範囲に10センチ程度の穴を掘って試料を採取し、そのうちの数個のみから分析するからである。一般的には、土地を約1,000平方メートルに区分し、そこから5試料を採取し、混合して分析する。その試料は、深さ約10センチの穴から採取する。言ってみれば、牛乳瓶の中に針を入れたぐらいの率である。そのようにして採取した試料を分析し、土壌環境基準に適合するかどうかと示すということであり、誰がやっても同じ結果になるわけではない。しかし、それでは不合理であるので、指針の中では一般的な手法を示すことによって、誰がやってもおおむね妥当な結果が得られるようにしている。
 ところが、この指針に基づいた調査であっても、必ずしも妥当な結果が得られない場合もある。例えば、指針ではトリクロロエチレン等の揮発性有機化合物による土壌汚染の場合には、まず最初に表層土壌ガス調査をすると書かれている。そこで指針に基づいた調査として、必ず表層土壌ガス調査が実施される。しかし、そのサイトの特性をよく理解していないと、誤った結果が得られることもある。トリクロロエチレン等の浸透は地下のピットから起こるのだが、そこより上にガスを通しにくい層があった場合は、同じような深さから土壌ガスを採取して分析しても、ガスの通りにくい層を通過した穴からは高濃度のガスが検出され、そのような層を通過しない穴からは検出されない。この結果、前者の採取地点では問題が判明したという、誤った解釈がされることがある。
 一方、表層土壌ガス調査よりも別の方法が有効な場合がある。例えば地下水位が浅い場合は、表層土壌ガス調査より地下水調査を行った方が有効である。しかし、指針にはそのような手順が記載されていないため、指針に基づいて調査した結果、地下水調査をするよりも過大な調査となる例も見られる。
 このように、指針の位置づけをよく理解した上で指針に基づいて調査すればよいのだが、画一的に指針に従うと誤った解釈をしてしまうという問題がある。
 このような問題を解決するためには、調査をする側の地質調査業や建設コンサルタント、分析機関の技術者の育成が必要だと思う。またそれに加えて、調査結果の評価又はその指導に当たる行政職員の育成も必要である。その理由は、行政職員自身が、指針の位置づけがよく分かっていない場合もあり、指針に示された方法を画一的に指導するため、我々調査をする側が別の方法を提示するなど柔軟的な立場で臨んでも、指針に基づいた調査をやらざるを得ない。したがって、調査を行う者とともに指導する立場の行政職員の育成も必要だと思う。
 そのために、現在、(社)土壌環境センターや地盤工学会等の学会、あるいはNPO等が現在、土壌汚染・地下水汚染の調査技術に関する講習会を開催している。このような講習会の活用も有効だろうが、更に今後のニーズにこたえるため、制度的な育成も必要だろう。
 調査については以上とする。次に、我々が経験から見た土壌汚染の発生要因等について御説明する。
 土壌汚染の発生要因として、まず、現在の生産活動によるものがあげられる。これは非常に分かりやすいのだが、土壌汚染はその他にも様々な要因によって発生することを覚えておいていただきたい。例としては、過去の生産活動によって起こった土壌汚染があり、現在はその上に盛土をしてあるため、汚染が分からなくなってしまった例もある。その他に、汚染物質を含む土壌の搬入によるもの、あるいは廃棄物の埋立地や、盛土に自然起源の重金属が含まれていた場合、さらに外部から汚染物質が流入してきたような場合等土壌汚染の原因は様々である。この中で現在の生産活動による影響の場合は、比較的分かりやすいため、それほど大問題にはならない。しかし、過去の生産活動による影響等については、後で大きな問題となることがよくある。
 最近起こったマンション建設中の土壌汚染に係るトラブル例であるが、1番目の例は、大阪府豊中市のものである。これはマンション建設中に、敷地内土壌に廃棄物が埋まっていることが判明した例である。この土地は廃棄物の処分場跡地ではなく、廃棄物は30年以上前に投棄されたものである。その中からベンゼンや農薬類、PCB等が検出された上、どのような廃棄物が埋められているか分からないという状態であったため、この場所でのマンション建設の継続は不可能と判断され、建設中のマンションを解体した例である。マンション建設前にこのことを知ることができたかについてだが、過去の航空写真を詳しく調べてみると、当該地は採土場であったらしい。さらに採土場の跡を何かで埋め戻していることは分かったが、航空写真からは、埋め戻したものが廃棄物かどうかは分からない状態であった。
 2番目の例は東京の江東区の事例である。マンションの開発業者が社員寮の跡地を購入し、マンションを建設した。その土地は社員寮の前は倉庫として使われていた。建設途中で地面から非常に強いにおいがしたため、調査したところ、ナフタリンやクレゾールが検出された。そのため、詳細な調査をしたところ、ベンゼン等による土壌汚染も発生しているということが発覚した。当該地の履歴を更に詳しく調べると、昭和30年代にナフタリン等の製造工場があったことが判明した。この例については、直前とその前までの履歴までは調査したものの、更にその前の履歴までは調査しなかったことと、建設前に簡易的な土壌調査を実施し、その段階で異常が確認されたにもかかわらず、法制度がなく、以前は社員寮あるいは倉庫であるから大きな問題ではないだろうという理由でマンションを建設したことが問題である。
 3番目の例は、マンション用地として工場用地の一角が売却された際、購入者が土壌ガス調査を行ったところ、トリクロロエチレンあるいはシス-1,2-ジクロロエチレンが検出されたというものであるが、土地を売却した企業はその物質を全く使ったことがなかった。検出された地点はその工場の敷地と隣の工場の敷地の境界部分であったため詳細な調査をしたところ、トリクロロエチレン等が隣接地から流れ込んできて汚染されたのではないかということである。この例では、汚染が判明したために、土地の売買契約が解除された。
 このように土壌汚染あるいは地下水汚染が発生した場合、次に周辺環境に対してどのような影響が生じているかについてだが、よく指摘されるのは、地下水汚染による周辺の井戸への影響である。都市部に住んでいると、地下水をあまり利用しないため、大丈夫ではないかと考えられることが多いが、東京郊外や、横浜市の山の方、栃木県、群馬県、茨城県等では上水道が整備されていても井戸水を使用している場合がある。井戸水を飲用、入浴用あるいは庭の散水等に一般に使用しているところは多く、このようなところでは上水道があっても、かなり健康リスクがあるのではないか。
 また、井戸水の場合は調べて問題があれば使用を禁止すればよいと考えられるが、意外に忘れられているのが湧水ではないか。湧水は、常時水が流れているので使用の有無にかかわらず、常に環境への影響が生じている。湧水は今後、親水環境として活用されようとしているところでもあり、一定の対応が必要かと思う。
 このように水を起源とした周辺の環境への影響に加えて、汚染土壌の直接摂取が問題と思われる事例も見られる。例えば鉛や水銀について、土壌環境基準未満であっても土壌中の含有量がかなり高い場合があり、含有量参考値の数倍を超える値も出る場合がある。このような場合は、土壌環境基準、すなわち地下水を経由した周辺環境へのリスクよりも、土壌の直接摂取によるリスクの方が大きいのではないかと考えられる。
 さらに、一般的な土壌汚染対策として、汚染土壌の除去・清浄土壌との入替えを考える傾向が見られる。しかし、掘削の際や運搬の際の汚染土壌の拡散を考えると、むしろ地中に存在している方が環境リスクが少ないのではないかと考えられるケースもある。
 また、汚染土壌を場外処理する際、不溶化処理後に残土として処分する事例もよくある。このこと自体は法律的には問題がないと思われる。また、不溶化処理も適正に行えば問題ないと考えられる例が多い。しかし、中には重金属の含有量が非常に高い土壌を不溶化処理後に残土として処分する例もある。その場合、新たな環境リスクの要因とならないか懸念される。
 以上のように、土壌汚染対策自体が環境リスクとなる場合がある。土壌・地下水汚染対策の本来の目的は環境保全であり、それをどのように達成するかを考えると、土壌汚染箇所における土壌環境基準の達成のみを目的とするのではなく、全体的な環境リスクの軽減を目的とした調査あるいは対策が必要ではないか。
 次に、企業側から考えて土壌・地下水汚染対策を遅らせる要因についてであるが、大きく5つあると思われる。一つは実施責任が不明確なことである。以前の所有者等が汚した土地を現在の所有者が浄化しなければならないという実施責任が不明確なことである。
 2番目に、対策を行う合理性がないことである。法律がなく、地下水は全く飲用されていないにもかかわらず、なぜ対策しなければならないのか。あるいは、地下の土壌汚染よりも排気ガス汚染の方が重要ではないか。こういった声があり、土壌汚染対策を実施する合理性について説明できない。
 3番目が経済性である。対策費が地価よりも高くなる例もあるとのことである。
 4番目は不確実性である。経済性や合理性とも関係するが、どこまで対策をすればよいのか、対策をすればその土地が売れるのかという、企業にとって非常に重要な事項があいまいだということである。こういったことのために企業の自主的な取組が遅れているのではないかと考えられる。
 最後が情報公開についてである。最近は情報を公開する事例が多く見られる。企業が情報を公開する大きな要因としては、自治体からの指導が挙げられる。例えば埼玉県では土壌汚染が判明した場合、行政は必ずその企業に情報公開を求めている。同様なことが東京都や三重県にも見られる。その他に、最近では、内部告発による問題発覚の回避等企業のリスク管理の面から、情報公開が有利と判断する例も増えていると思う。このような情報公開において重要なことは、周辺住民についてどう考えるかということである。つまり、周辺住民にとっては、土壌・地下水汚染問題は大気汚染や水質汚濁と比べてなじみがない。また地面から下で発生し、目に見えない問題であることから、土壌汚染や地下水汚染の発生は、住民にとって、一時的であっても、大変な恐怖を感じてしまうことがある。そのために住民の間にパニックが起こることも少なくないと思う。
 しかし、住民の不安をかき立てないように情報公開を遅らせたり、重要な情報を隠すことは、逆に住民と事業者の信頼関係を損ねてしまう。土壌汚染対策を進める上では、どうしても住民と事業者の信頼関係が必要となる。すなわち地域住民が安心できる環境を一刻も早く取り戻すためには、情報公開を行った上で迅速な対応をとることが望ましい。
 ただ、情報を公開すると、まだまだ批判的な論調でマスコミに取り上げられるため、どうしても情報公開を行った企業が不利になってしまう。そのため、汚染の事実を公表した企業が、隠している企業よりも評価されるような仕組みも必要と思う。
 最後に、今後の課題としては、早期の情報公開とともに、住民に対して土壌・地下水汚染による環境への影響についての正しい情報発信を行うこと、その上で、事業者・市民・行政のコミュニケーションを保つことが重要だと思う。そのためには事業者と住民、行政の立場と役割を明確にすることが必要である。また、調査を行う者やコンサルタントの役割としては、このような住民・事業者・行政との間の仲介役となることが望まれているのではないかと思う。

【座長】ただ今の御説明に対し質問等あるか。

【A委員】先ほど、含有量参考値の数倍になる事例があり、直接摂取のリスクもあるのではないかというお話だったが、直接摂取のリスクが問題になった事例としては、どういうものがあるのか具体的に教えていただきたい。

【前川氏】実際にリスク計算をして問題となった事例はない。しかし、私の知る限りでも、工場跡地の調査をしたところ、鉛の含有量が数千mg/kgというオーダーになった事例がある。そういった場所が開発されず、そのまま放置されている例がある。そのような工場跡地に人が立ち入った場合、土壌によって鉛を暴露することが考えられる。そのような観点から、先ほど申し上げたようなリスクが考えられると説明した。

【A委員】そういった場合、誰が汚染原因者だと推定できるか。

【前川氏】そのような場合の汚染原因者は大体が工場である。経験的に言っても、含有量が高いのは表層部であり、50センチメートルの深度では、含有量参考値を超過することは極端に少なくなる。よって、重金属類はほぼ土壌の表層部分に存在すると考えられる。

【B委員】一般には土壌環境基準がクリアできても、地下水の環境基準は簡単にクリアできないだろうが、対策を行う企業の立場としては、一般的にはどちらが目標になっているのか。もちろん、個別事例ごとによって違うのだろうが、土壌環境基準が目標で地下水環境基準はクリアできなくても仕方がないと考えているのか、それとも積極的に地下水環境基準を目標としているのか、どちらが一般的なのだろうか。

【前川氏】企業としての考え方による。理念の高い企業は地下水の環境基準のクリアを目標とするが、実際にそこまでできている例はほとんどないのではないか。実態としては、土壌環境基準の達成が目標となっているのがほとんどである。

【座長】先ほど、土壌の環境基準が非常に画一的に運用されているという、若干御不満のあるニュアンスの御発言があったが、ここを改めたらよいという点があればお話しいただきたい。

【前川氏】まず、地面から下は非常に不均一であるということである。土壌の環境基準の数倍から数分の1の範囲で数値にばらつきがあることも多い。これは、分析の誤差あるいはサンプリング場所の誤差等の色々な問題によるものである。また、現在の土壌環境基準は溶出値であることから、含有量に比べて、土壌中の絶対量をはっきり言いきれないところもあり、様々な要素がある。したがって、土壌環境基準の付近は非常にばらつきがあり、不確実な値が多い。我々自身が評価する際は、土壌環境基準近くの値を重視はしない。しかし、対策の際には考慮せざるを得ない。そのような不合理性を解消するため、評価する立場の人にもっと柔軟な対応を許容してもらいたい。もう一つ重要なのは、その上で環境リスクを考えた対策についても認めてもらいたいということである。
 しかし、どうしても許してもらえない。それは、環境問題の主体は住民であり、住民が理解しない限り、どうしようもない。だから情報公開という問題がある。要するに、情報公開をした上で、このような柔軟性が許されるようになることが望ましいと考えている。

【座長】先ほど土壌環境基準値の例えば1.0mg/kgに対しての、0.9mg/kgと1.1mg/kgの差についてお話があったが、例えば土壌環境基準値を10倍にしても9.9mg/kgと10.1mg/kgの差という話になる。その議論を始めてしまうと、土壌環境基準をどの値に設定しても結果的には同じ議論になる。暴露リスクを計算してもリスクの大きさで同じ問題が起こってくるだろう。ある程度は割り切らなければならないと思う。確かに全体を見て判断すればもう少し細かく判断できるだろうが、どこかに区切らなければならないし、どこで区切っても、結局はその問題はつきまとってくるのではないか。

【前川氏】例えば私のかかわった調査事例では、住民に説明したところ、住んでいる上では問題ないということで、何か問題があれば事業者が速やかに対応することを明言し、それで問題が終息したということがあった。そのため、そのような住民対応を行いつつ、そのサイトに応じた対策目標を決めていくことが重要ではないかと思う。

【C委員】実際に土壌調査を行った場合、土壌中から大きながれき等が出てくることが非常に多い。土壌の分析の際には、2ミリメートルの目のふるいをかける等とあるが、その場合、どのようにがれきを扱っているのか。

【前川氏】まず、そのようながれきが土壌の表層部分の砕石等として使用されている場合は、土壌としてみなさない。その下にある土壌を評価する。がれきそのものが汚染されていることもあるが、そのようなことはほとんどない。よって、周辺の土壌を調査することで、その場所での土壌汚染について評価している。

【C委員】がれきは土壌として扱っていないということか。

【前川氏】扱っていない。

【D委員】目的は土壌環境基準の達成ではなく、環境リスクの軽減であることはそのとおりだと思う。ただ、やはり土壌環境基準は、リスクが容認し得る範囲内であるという基準であると考えられる。もし基準を超過している場合、基準は超過しているがリスクは容認できるというレベルまで下げるためには、どういう対策を講じるべきかという点が伴わなければ、単なる基準の達成が目的ではないとはいえ、あまり意味がなくなってしまう。もちろん超過のレベルや土壌の特性によっても違うだろうが、そういう対応というのは、個別的に考えや方法があるのだろうか。

【前川氏】土壌以外にも地下水等の環境調査を実施して思ったのだが、環境問題について決定するのは周辺住民である。例えば地下水の利用がその地域にとって重要であれば、地下水の保全が非常に重要になってくる。その場合、例えば土壌環境基準値が0.01mg/Lの物質が実際に0.01mg/Lと検出されたら住民は嫌がる。全く検出されないのが一番望ましいが、それはその地域住民が決めることである。つまり、どこまで許容できるかについては、住民と話し合わなければ本当は決まってこないのではないか。

【B委員】ただ今の御発言を補足すると、前回も議論したように、土壌環境基準は、飲料水と同様な考えで設定した基準であり、同時に他媒体に対する汚染源という観点から設定したものである。飲料水と同様な考えでの基準ということは、即暴露リスクにつながる。だから、他媒体の汚染源という観点からは、例えば地下水が基準を超えていなければ、地下水についてのリスクがないと判断ができる。もう一つは、汚染はしていても、それを人あるいは生物に暴露しないよう何かの対策がとれれば、リスクがないという判断もできる。暴露防止としての対策を付け加えることができるという意味では、リスクがないという考え方もできないわけではないだろう。

【E委員】先ほど、許容できるかどうかについて、地域との関係で決まるとの御発言があったが、これは土地の利用形態、あるいは土壌の形態によっても決まるという趣旨も含めているのか、あるいは住民の合意を特に念頭においているのか、お伺いしたい。
 もう1点は、事実を公開した企業が不利益を被らない仕組みが必要というのは、確かにそのとおりだと思う。これについて、いい考えがあればお話しいただきたい。

【前川氏】最初に、地域で許容されるかどうかについては、大きく2点ある。周辺住民がどう考えるかということと、土地の価値や利用がどうなるかいうことである。
 一つの事例として、私が現在かかわっている事例をあげる。あるマンション予定地なのだが、マンション事業者は土地を浄化したいと考えている。浄化のためには掘削しなければならないが、掘削すると非常に強いにおいがする。そのため、周辺住民は反対している。要するに、周辺住民としては、汚染土壌があったとしても、地中にある限りにおいはしないから掘削しなくてもよいということだと思う。双方について考えなければならないが、どちらを重視するかについては、ケースによって異なってくるだろう。
 次の情報公開が不利益にならないための仕組みについては、私自身もよく分からない。

【座長】住民の合意が非常に重視され、総合的に判断するとのことだが、それは土壌環境基準が達成されていない場合でも、周辺の住民が構わないと言えばそれでよいということか。

【前川氏】そう考えている。

【座長】そうであれば、土壌環境基準は最低限遵守しなければならない基準としての意味を失う場合もある。ほんの目安にすぎないといった感じになってしまうのだろうか。

【前川氏】それについては、土壌環境基準は一つの目標として当然なくてはならないと思う。しかし、土壌環境基準を達成する方法は色々あると思う。土壌環境基準は、最悪の事態を考えた上での基準であるとすれば、実際としては土壌環境基準が達成されたのと同じような状態にあれば、それでよいと考えられることもあるだろう。

【E委員】土壌環境基準は比較的厳しく設定されていると言われているが、今お話のあったように、土壌環境基準がなかなか達成できない場合に、周辺住民との合意により、土壌環境基準を達成する必要はないという判断をした例は、実はかなりあるのだろうか。

【前川氏】例としてはあまりないと思う。合意といったものより、住民に説明して、それで終わっているということかもしれない。

【F委員】調査技術の将来の見通しについてお教えいただきたい。1,000平方メートル当たり5地点からサンプルを採取して混合して調査するということだったが、将来、技術が画期的に進んだ場合、例えば何らかの機械を走らせれば、水平方向及び垂直方向についてもある程度の全体的な分析ができるといったことは当面見込みがないのだろうか。そうなれば、当然非常に効率よく調査できて浄化のコストも低くなると思う。

【前川氏】それは難しいだろう。まず、指針に記されている調査方法はかなり完成されていると考えてよい。ただ、先ほど申し上げたとおり、残るは使い方の問題だと考えている。調査手法は開発が進められてはいるものの、どうしても地中における直接的な濃度の測定が必要なことがあり、掘削技術という手法は残る。その掘削技術を補完するために、地表から物理探査技術等によって、サンプリングに最適な地点を判断する技術はできてくるかもしれない。また、サンプリングを行うときに、統計的な解析を行うことでサンプリングの最適化を図るという技術も研究されている。研究はされているが、現在のところ、そこまで需要がないというところではないか。最も重要なのは、地表面の下はかなり不均一なものであり、すなわち、汚染の発生のメカニズム、地下における移動のメカニズム、あるいは汚染物質そのものの移動の特性等について、かなり不確実な要素があるため、調査者の能力の向上がまず必要と考えている。

【座長】では、次に土壌浄化事業を実施している立場から、(社)土壌環境センターの常務理事である美坂氏からお願いしたい。

【美坂氏】本日は、私の所属する土壌汚染の調査・浄化を行っている企業での経験も含めお話しする。
 土壌の汚染情報が判明すると、まず管轄の地方自治体に届けられることになるが、指針の策定前後では、相当顕著な差がある。この2年間で届出が大幅に増加したと言えるだろう。
 土壌汚染があった場合、調査・浄化を行う企業は、土地所有者からの依頼に基づき、内容の整理、報告書の作成、処理対策計画案の作成のサポートを行う。汚染の事実を地方公共団体に届けた場合は、その自治体の状況に応じて、例えば情報公開条例があれば、それに従って公開される。
 周辺住民に対する説明会については、基本的に我々は出席をする立場にないが、要望があれば、技術面についてのサポート、例えば住民に対しての技術的な説明を行うことも増えてきた。
 汚染についての届出を受け取る地方自治体の行政担当者の対応も様々である。非常に経験を積んだレベルの高い自治体もあれば、そうでないところもある。2、3年前は、忙しいのに更に仕事が増えてしまうので、このような話を持って来ないでほしい、聞かなかったことにするという対応も実際にあったが、最近は顕著に変わってきている。
 検討を要する課題として、まずインベントリー化について挙げる。これは米国の一部の州にあるシステムで、汚染等が判明した場合に、担当する行政部署に届けると、状況に応じてインベントリーに登録されるが、対策が完了すれば削除されるというものである。そういうようなシステムができないものか。積極的に情報公開した者が不利益を被ってはならない。こういったことを踏まえてインベントリー制度といったシステムがあればよいのではないか。
 次に、汚染サイトにおける対策技術の適用についてであるが、揮発性有機物質と重金属類で適用できる技術が分かれるが、最近は定着した技術が使用されるようになった。更に、鉄粉処理や酸化処理等の新しい方法もある。しかし、塩素系有機物質については、バイオレメディエーションによる処理は簡単ではない。不可能ではないが、非常に難しいと思う。
 重金属類については、掘削除去、不溶化、固化等の処理法が大半である。EPAの資料でも、重金属類については、圧倒的に不溶化、固化が多い。我が国でも、こういう処理が多いと思う。今後の重金属類の処理については、一つは指針に示されているとおり、不溶化処理後に溶出量を下回った場合は遮水工に、上回った場合は遮断工に封じ込めるという方法だが、依頼者にこの方法を提示すると、不溶化した上に更に遮水工あるいは遮断工を行う必要性はあるのかと納得しない場合が多く、明快な説明が難しい。これは検討を要する課題ではないかと思う。
 また、掘削除去した土壌あるいは原位置で汚染土壌から重金属を抽出できればよいのだが、そのような技術はなかなか実用レベルにはなっていない。これは技術的な課題だと思う。
 油汚染については、現在土壌環境基準は設定されていないが、実際に我が国で油汚染土壌を処理するケースが少しずつ増加している。ガソリンスタンド等の汚染は規模が小さく、また、処理費用もなかなか確保できないとのことだが、大手の石油会社、特に外資系ではかなり大規模な油汚染の対策を実施するようになっている。
 (社)土壌環境センターでは油汚染に関する研究活動を行っており、分析法や処理技術等についての書籍を刊行する予定である。
 技術開発については、我が国はまず欧米諸国から先進技術を導入することから始め、およそ10年が経過した。我が国で開発された技術も非常に利用されるようになった。このような状況は、例えば昨年12月に開催された「第7回地下水・土壌汚染と対策に関する研究集会」の講演資料を見ると、我が国の技術開発が進んでいる状況がよくわかる。
 技術開発については、環境庁(当時)が新技術の実証・評価を実施していた。また、浄化を実施する企業が自ら投資して行うこともある。こういった浄化事業を行う企業自身による投資は、現在少なくとも年間20億円、多ければ年間50億円程度になると思う。また、引き続き海外から技術が移転されている。
 また、環境ビジネスの市場は、現在、年間およそ500億円と思う。勿論、毎年市場は拡大している。ちなみに、日本産業機械工業会の統計によれば、環境装置産業は大気、水質、騒音、振動、悪臭等を含め、年間約1兆7千億円の市場で、横ばいである。この土壌・地下水汚染については新規参入する業者が増加している。現在、(社)土壌環境センターの会員企業は105社になった。
 このビジネスの特徴は一過性であることである。一度浄化すれば、再度同じ場所に関する浄化の注文はないという、非常に特徴的なビジネスである。
 それから、土壌汚染の調査を行った場合、浄化終了まで一貫して行う事例が圧倒的に多い。今後も、調査は環境省の指針の他、先ほどの米国の材料検査協会(ASTM)、Phase1、Phase2あるいはISO14015等を主体に今後も進むと思われる。
 また、汚染の状況はサイトごとに異なるとよく言われているが、事実は全くそのとおりであり、標準的な仕様になりにくい。この傾向は特に大・中の事業所で顕著である。1地点ごとに設計をし、浄化をしなければならない。それに比較して、ガソリンスタンドやクリーニング店等の小規模事業所は標準化しやすい。実際、(社)土壌環境センターでは小型汎用の浄化装置の開発についても行っているところである。
 不動産鑑定については、前回の検討会で専門家にヒアリングしたということなので、特に追加して申し上げることはない。
 次は汚染評価方法の問題点についてである。土壌中の含有量が少なければ、溶出はほとんどない。しかし、同じサイトから採取した土壌試料であっても、含有量が非常に少ないにもかかわらず、溶出量が非常に多いものもある。こういう例があることから、含有量は表層土壌で直接摂食による暴露、溶出量は地下水経由の暴露という観点であるが、これらを今後どのように取り扱っていくのかが課題であると考える。
 また、溶出基準については、ISOTC190の活動にも関与しており、平成3年の環境庁告示第46号による溶出基準が国際規格の中で認められるよう、活動しているところである。
 それから、現在、我が国の土壌環境基準項目は25物質であるが、欧米諸国では非常に多くの物質を基準項目にしている。基準項目物質が増加すれば、分析費用も増大していく。したがって、土壌の汚染程度について、リスクを評価するための総合的な指標はできないかという話題が、最近少しずつ出ている。
 土地用途別の浄化目標あるいは発動要件の設定についても、既に様々な議論があるわけだが、オランダの改正前の法律のように、厳しすぎるために対策が進まないということがあってならない。これは非常に重要と考えている。柔軟な対応という発言もあったが、そういうことが必要だと思う。
 浄化終了については、3年前に(社)土壌環境センターが行ったアメリカの実態調査結果によれば、サイトクロージャーを浄化終了と置きかえれば、様々なパターンがある。
 まず、すべて土壌環境基準値未満となれば何ら問題なく終了できることができる。
 次に、リスク・ベースド・クロージャーは、目標値を達していないが、発がん性物質及び非発がん性物質について残留汚染に基づいたリスク評価をして、許容できれば終了するというものである。
 テクニカル・インプラクティビリティは、技術的に目標値までの浄化が不可能であり、土地用途を制限して、モニタリングを行って汚染が周囲に拡散しないようにして終了する。
 イントリンジック・レメディエーションは、ナチュラル・アテニュエーション、すなわち自然作用による濃度低減によって浄化終了するものである。
 パッシブ・コントロールというのは、レアクティブ・バリアー、つまり鉄粉を詰めた壁等の動力を使わない装置を作って処理を続けることで、対策を終了するものである。
 アクティブ・コントロール・クロージャーは、幾つかあったアクティブを1つくらい残して後は止めてしまうものである。
 今後の参考として申し上げると、私の経験では、浄化を行っても、あらゆる地点で土壌と地下水の両方が環境基準値を満たすことのできる例は非常に少ない。特に地下水は簡単ではない。そこで、ある方法で浄化をし、あるレベルまで浄化されたら、そこで終了を検討することが、今後の制度上必ず必要になるのではないか。
 対策を進めていくと、濃度は平滑化する。土壌からの汚染物質の回収量も同じく安定状態に達する。つまり、その浄化法でそれ以上対策しても無駄ということである。そこで、前述のクロージャーから幾つかを示しながら対策を終わりにする。住民及び行政担当者も交えて検討する。対策の終了は認められないとなると、また新たな方法で費用をかけて対策を行わなければならない。そうすることが果たして正しい方法と言えるかどうか。
 汚染者不明の際の問題点についてだが、近隣地から汚染が流入しており、調べてみると同じ帯水層の上流から汚染が流入して来た場合、上流側に汚染原因者を発見できる場合もあるが、分からない場合もあり、問題だと思う。
 また、汚染が自然起源であるかどうかの判別についても、色々と議論されている。
 私自身は、最初にお話しした汚染情報インベントリーが非常に重要な課題と認識している。浄化後の土壌の再利用も是非促進したい。浄化後の土壌についての規定が不明確であるが、浄化された土壌は処分場等に持ち込まないよう、埋め戻し等再利用できればよいと思う。また、土地の用途に応じた柔軟な浄化目標を設定することも重要かと思う。
 (社)土壌環境センターでは、このような重要課題を踏まえ、制度に関する意見を取りまとめようと考えている。今後、そのような意見を聴取するような機会をこの検討会で設けていただければ大変ありがたい。
 以上で説明を終わるが、土壌汚染サイトの写真をお見せする。(OHPを用いて説明)
 (写真1)このように建物の近くで掘削する場合は、人が見て細かく指示し掘削する。しかも道路の上からパワーショベルで掘削するので、掘削費用は1立方メートル当たり1万円を超えるだろう。それに比較して、オープンスペースで矢板も何も打たずに少しずつ周辺から掘る場合は1立方メートル当たり数千円程度であり、現場の状況によって費用が非常に異なってくる。
 (写真2)土壌の不溶化処理は、掘削した土壌をこのような鉄製容器に入れて薬剤を入れて攪拌するものである。処理前又は処理後の土壌はパイルに積んでシートをかぶせておいてある。これは不溶化の薬剤を土壌に混ぜる機械であり、攪拌後の土壌はコンベアーで出てくる。その後1か月~2か月間養生させてから、試料を採取して溶出試験を行い、基準値を満たせば、その性質に応じて埋め戻す、あるいは管理型の廃棄物処分場に入れる。
 (写真3)揮発性有機化合物を浄化する場合で、このストリッパーの上から水を垂らして、下から空気を送る。汚染物質を揮発させて活性炭で吸着するという、極めて標準的な、よく使われる技術である。
 (写真4)屋内に設置する機材である。屋内は高さの制限があるので、建物内に入るようなデザインのストリッパーが2基並んでいる。海外の例だが、バイオレメディエーションの中にバイオパイルというのものがあり、土壌中に配管を通して、空気を送ったり、あるいは水分調整をし、窒素や燐を添加するなどし、シートで覆いバイオレメディエーション処理を行う。石油系の汚染は数か月で浄化される。
 (写真5)7、8年前のベルリンでの例だが、石油によって汚染された土壌をパイルに積み、時々切り返しをして、酸素に触れさせる。そうすると、数ヶ月で土壌1キログラム当たり数千ミリグラムあったものが、この場合は150ミリグラムまでに減った。その後、その土壌は許に元に埋め戻すといった事業が盛んに行われている。

【座長】では、質問等あるか。

【E委員】土壌環境基準の対象項目が増加すれば確かに分析費用が増大するだろう。しかし、例えば米国のスーパーファンド法のハザードランキングシステムといった、総合的なリスクレベルでの評価は、当然様々な対象項目について評価をしなければならないと思う。そうすると、総合的なリスクレベルの評価にもかなり費用がかかると思うのだが、こちらの方が安くなるという御趣旨か。

【美坂氏】全く違った観点で化学物質として評価するのではなくて、総合的に、例えばミミズを使って生物的に毒性を評価するといった、すべてを化学量だけで判断するのではない、総合的な評価というイメージである。

【E委員】そちらの手法はほとんど完成されているのか。また、費用は安くなるのか。

【美坂氏】我が国ではこのような研究をほとんどしていないだろうし、米国の最近の状況も把握していないので、完璧かどうかは分からない。
 費用についてだが、安くなるからこういう方法を検討するのではなく、やはり結局は健康への影響から検討するのではないか。土壌中の化学物質の含有量を測定しても、なかなか健康への影響の把握につながらないのではないかという観点から検討しているので、費用が安くなるかは疑問であるし、時間も相当に必要だろう。

【E委員】米国で従来行われてきたリスクアセスメントとは必ずしも同じではないということか。比較的最近の動きなのだろうか。

【美坂氏】米国で行われているものと恐らく関連はあるだろう。リスクだけを単独にアセスすることは、あまり考えられない。

【B委員】ただ今の御説明に補足するが いわゆるバイオアッセー法は、生物や、細菌、細胞を使って、様々な影響を見る方法だが、我々も二十何種類かの方法で同じ物質、いろいろな化学物質に対する反応を見るため、手法を検討している。学会もあって、研究も随分なされている。ただ、実用性はまだまだである。具体的には、色々と反応があって、影響は見つけられるが、人の健康との関連性の解明が非常に難しい上に、健康影響の数が非常に多いので、バイオアッセーという一つの手法では全部カバーできないのではないか。そうすると、バイオアッセーの手法を幾つか組み合わせなければならず、多くの物質を分析する場合と、どちらが低コストかという問題がある。
 極端な話をすれば、炭鉱に入る際、ガスを検知するためにカナリアを持っていくといった類である。すぐ実用化できるかは疑問であるが、これをうまく使った形で、土壌だけではなく、排水や水道の管理等でこの手法を用いた研究はされている。

【G委員】環境ビジネスの市場規模が500億円というのは、現時点での推定ということか。

【美坂氏】そのとおりである。400億~500億円の規模と考えている。

【G委員】一過性の市場でリピート需要がないとのことだが、規制が変わることを推定しているのか、あるいは業界にとってそのサイトは一過性であっても市場規模は大きいと推定しているのか。

【美坂氏】それはどちらとも言えない。一つのサイトについては一過性であるが、御指摘のとおり、サイトが多くあればビジネスとして続くことになる。
 (社)土壌環境センターでは、昨年、日本全体の土壌調査を行い、その結果汚染が判明すれば浄化するという想定で費用算定をした。調査費が約2兆3千億円、浄化費用が約11兆円、合計で13兆3千億円という費用を算定し、公表した。関連としてはそういうこともある。

【G委員】技術開発と技術移転について、90年代以降は、まず欧米から技術を取り入れ、その後国産技術の開発が盛んに行われたということだが、当初非常に浄化費用の見積りが高かったのは、欧米の技術をそのまま導入したためで、日本の実状に合わせた技術開発を行った結果、浄化コストが非常に安くなることが分かったと、私自身幾つかの自治体で聞いたことがあるが、実際にその傾向はあるか。

【美坂氏】私はそのような傾向があると聞いたことはないし、それが正しいとは思わない。しかし、経験を重ねることによって、試行錯誤が少なくなり、コストダウンにつながるということは当然あるだろう。

【D委員】インベントリー化についてお伺いする。対策終了後は削除するとのことだが、どこで対策終了と判定するのかというポイントについて、最後のサイトクロージャーとの比較で教えていただきたい。

【美坂氏】御指摘のとおり、インベントリー化が実現した場合、対策が終了した際に削除するというのは、削除する前にサイトクロージャーの発想がある。やはりサイトごとに周辺環境や住民等様々な違いがあるので、そういう違いを勘案して、いずれかのクロージャーの手法を採用して、納得されたらリストから削除するというイメージを持っている。

【D委員】こういうクロージャーでリストから削除したというただし書がつくことになるのか。

【美坂氏】そうなるだろう。

【D委員】溶出量と含有量の間の相関関係は確かに希薄だろうし、これが四つに区分されることも御意見のとおりと思うが、やはり土壌の特性を示す指標の一つと考えられる。逆に言えば、このことは環境リスクの軽減を考える上での良い判断材料の一つとなるのではないか。判断材料としては、やはり溶出量と含有量の両方があればよいと思うが、どうだろうか。

【美坂氏】我が国は溶出量を基準にするのに対し、諸外国では含有量基準が中心という対照的な状況であるが、判断材料という意味で溶出量に含有量を加えることは、多角的な評価をするという点から意義深い。しかし、調査に手間がかかる上、実際に調査した際に、例えば溶出量と含有量がともに少ない土壌と、溶出量が少ないが含有量は多いと土壌をどう判断していくのかという、諸外国も経験したことのない難問に直面すると思う。

【C委員】浄化技術は、途中までは非常に浄化効率が良いが、徐々に効率が悪くなるとのことだが、そのためにこれ以上対策をしても仕方がないと言われると、土壌環境基準が厳し過ぎるということの論拠になってしまうと思う。まずどの程度まで対策すべきかを議論して、その技術がどの程度対策できるはずかという観点で技術選定をするのだろうが、今の御意見は、例えばVOCが浄化できるはずの技術が実際にはあまり浄化できなかったという経験を踏まえてのことと思う。その点については、まず技術ありきなのか、土壌環境基準ありきなのかという点が問題である。お話の趣旨は、浄化を行う立場として、汚染現場に応じてリスクアセスメントを行えば、土壌環境基準とあまり差のない汚染であったときにサイトクロージャーに近い形にしていきたいということだと思うが、それでよろしいか。

【美坂氏】そのように考えている。まず技術ありきだとは考えていない。日本の場合、土壌環境基準値が浄化目標値なので、飽くまでもそれを全うするつもりで対策するのだが、現実に経済性を考えた場合、土壌環境基準の完全な達成は困難である。
 例えばスチームインジェクション、あるいはホットエアインジェクション等を行って、同時に土壌ガス吸引を行うことができれば、相当高度な除去効率が得られるだろうが、費用との関係で難しい。当初のリスクに比べれば、例えば90%は低くなったとして対策するのが現実であって、技術ありきで発想することは基本的にない。

【水環境部長】不動産についてのお考えを是非伺いたい。

【美坂氏】売却を前提として不動産鑑定をした場合、汚染程度によって浄化費用がかかるので、その分が評価額から減額されるということである。一説によれば、浄化費用が評価額の5%~20%程度であれば浄化を行ってから売却するが、浄化にそれ以上の費用がかかる場合、売却を前提とした浄化を行うことは難しいとのことである。汚染によるマイナス評価を定量的にどのように決めるかという問題もある。我が国にはそれを決める定型的なパターンは、恐らくまだないと思うが、これは無視できないと思う。

【座長】先ほど、費用をかけて対策を講じると、それに応じてリスクが低減していくというグラフを見せていただいたが、あのようなデータを周辺住民に見せて合意が得られれば、対策を終了してもよいだろうという趣旨だったと思うが、私もそれに同意見である。
 今までにそういったデータ等を示して住民が対策の終了に同意した例はあるか。何を持って住民の同意を得られたとして良いか、これについて良いアイディアがあれば取り入れたいのだが、どうだろうか。

【美坂氏】住民に対して浄化効果について説明し、対策の終了を提案した事例はほとんどないが、今後は増えていくのではないかと思う。もしそのような機会があれば、事実を話し、リスクが減少したことを示すのだろう。リスクの評価という問題があるが、土壌中の濃度を示して同意を求めるという感じだろう。
 恐らく欧米で行われているようなヘルスリスクアセスメントであれば、リスクが相当軽減したと言えるだろう。私の持論としては、ヘルスリスクアセスメントを簡単な手法でもよいから実施して、周辺住民に対し発がん性等のリスクを示すことができれば、納得してもらえると思う。そこまでできないとしても現実のデータを示して御理解いただくということになるだろう。

【B委員】周辺住民に納得してもらうためには、最初の対応が非常に大きく影響するのではないだろうか。実際は、多くの場合、情報公開が遅れたため、住民は最初から汚染原因者である事業者に不信感を持っており、なかなか合意ができないだろう。住民の同意を得て対策を終了させることを考えるなら、汚染の発覚した最初から、手順をうまく組む必要があると思うが、その点についてはどうお考えか。

【美坂氏】今までの汚染事例で、最初からそういったことを行っているのは非常に少ない。今後の話だと思うが、例えば汚染や浄化についての情報を定期的に社外へ公表することが考えられるだろう。
 セイコーエプソンでの事例のように、最初から行政・住民・マスコミに対して情報を明らかにしていれば、対策に当たって問題があれば指摘を受けて、それに対処すれば良い。今後の大きな課題で、是非そのようにしたい。

【G委員】情報公開について、今、非常に多くの企業が環境報告書を出しているが、その中で土壌汚染について公表している企業を調べたことがある。公表による市場の反応に非常に関心があるのだが、私の全体的な印象では、まず外資系の企業が海外での判断基準で公表し、それに対して市場も非常に評価している。日本の事例でも、汚染を隠していたことに対して非常に否定的な評価がされ、最近では、市場でも公表に対しての積極的な評価がされる傾向にある。それがトレンドになっているかはよく分からない。アメリカでもTRIの公表データが株価にどのように影響したかといった経済学の論文がかなり出ており、経済と市場評価としても非常に大きなテーマになっているが、その点についてはいかがか。

【前川氏】最近の事例では、持田製薬が土壌汚染を公表した後、株価は約200円下がった。これが今後の一つの事例となるかもしれないが、経済学の専門家が分析すれば、土壌汚染だけでなく、他にいろいろな要因があるということになるだろう。
 その前に大正製薬が公表したが、その場合は株価は下がっていなかったと思う。だから、私の印象では、汚染と株価はそれほど連動していないという感じである。
 しかし、インターネットの掲示板を見たのだが、持田製薬についても、やはり土壌汚染に対する批判的な書き込みがあった。そういう書き込みがあるということは、やはり公表する企業に対して、評価する声は少ないということだろう。であれば、まだ企業が情報公開をためらってしまうと思う。

【A委員】不溶化処理は、どのぐらいの安定性があるのだろうか。周囲の環境変化や熱といった色々な要因があっても、不溶化処理の安定性が長期間保つことができるのか、教えていただきたい。

【美坂氏】環境の変化によって化学物質が変化しないという保証は全くない。不溶化処理を行う際、耐久性についてよく質問を受ける。(社)土壌環境センターでも、平成13年度に、長期安定化のための不溶化の条件設定について研究を始めようかという状態であり、基本的には耐久性を保証できる状況はない。ただし、pHが変化する、大量の水と接する、温度が変化する等の周辺環境の変化がなければ、何年でも安定していると思われる。しかし、周辺環境の変化に対して、どういう逆変化が起こるかについてはなかなか分からない。

【F委員】自然起因の汚染であっても浄化する場合があるということだが、この場合、対策費用はどういう経過で、どういう議論のもとで負担が決められるのか、事例でよいので教えていただきたい。

【美坂氏】実際に、砒素の汚染事例でそういったことがあった。いろいろ調査をしたのだが、砒素化合物を購入しあるいは使用したことがないにもかかわらず、汚染が判明した。行政や学術関係者に相談しても、汚染原因が明らかにならない。しかし、汚染があるのは事実なので、それを浄化したという事例である。
 汚染が自然起因か否かについては、ISOの会議等でいろいろと話を聞く等したが、判断は難しいようである。この事例の場合は、将来的に砒素の汚染について問題とならないよう、浄化したということである。

【座長】では、ここまでとする。


(前川氏、美坂氏退席)

【事務局】次に有害物質を取り扱う立場から、(社)電子情報技術産業協会から地下水/土壌対策アドホックグループ主査の倉水氏、化学物質対策(委員会)ワーキンググループ委員の弓場氏、環境・安全部長の桑原氏、(社)日本電機工業会環境部課長の高木氏に御出席いただいている。代表として、倉水氏からお願いする。

【倉水氏】まず、土壌汚染問題に関する認識についてだが、化学物質の使用者として、皆さんと同様に、人の健康に係る重大な問題であると認識している。また、そのような問題が起こったときの対応は、リスクの状況によって早急な対策をするということで、やはり同様の認識である。
 しかし、前向きに調査をし、公開をし、浄化をするという手続を踏む過程において、場合によっては汚染を公表した企業が批判を受けることがある。このことは新聞等で報道されており、よく御存知と思う。
 汚染の形態についても、過去の土地所有者によるものや、近隣の他者からの汚染、あるいは複合汚染等原因が特定し難いケースもある。汚染原因者が自分だけであればそれなりに対応できるが、複数の企業が汚染原因者の場合は、責任の特定が非常に難しく、対策や公表が遅れるという例もある。
 さらに、鉛のように自然界に元々存在する物質について、工場敷地内土壌調査の結果、汚染が判明した場合、自分が汚染したものか、あるいはバックグラウンドレベルであるのか判断が非常に難しいケースもある。
 しかし、先ほど申し上げたように、健康阻害に至る可能性があれば、汚染の除去をすべきであるという点については、皆さんと同様の考え方だと思う。
 2番目の課題は、我が国の国土は非常に狭い中で複雑、多様に利用されており、そのリスクの大きさ等を考慮した浄化の措置を講じなければいけないのではないか。例えば人里離れた山中と工業団地の中、あるいは街の中といった土地の利用状況によって対策の緊急度を決めるといったことも是非検討していただきたい。
 それから、浄化はまず物理的処理というのではなく、最近米国等でも取り入れられつつあるナチュラル・アテニュエーションの考え方も取り入れつつ、効果的かつ経済的な浄化が行われるよう、御指導をお願いしたい。
 新会社が跡地を購入して工場を建てる場合、昔は現在ほど土壌汚染を重要視しなかったため、改めて調査すると汚染が発見され、しかも汚染原因者不明という場合がある。これを一体どうすべきか。法的な規制のない状態で、積極的に対応しつつも、企業として非常に悩ましい。原因者が複数の場合の責任の在り方についても十分御検討願いたい。
 米国では、汚染原因者が複数の場合に責任とその分担について裁判となり、決着がなかなかつかないために対策が遅れるという例もあるという。こういった場合の行政の指導、関与について是非御検討願いたい。
 次に、汚染対策のための調査技術、浄化技術及び資金的問題の解決が大きな課題である。業界としては塩素系物質による汚染問題の経験があるが、調査・対策には非常に多額の費用がかかり、大企業はともかく、中小企業では耐えられない現状がある。塩素系物質であれば、検知管によってそれなりの調査地点数で簡単に汚染範囲を調査することができる。重金属の場合はガス化しないため、揮発性有機物質並みの調査をする場合は、非常に多額の費用が必要だろう。重金属については安価な簡易測定法があればよいが、測定の精度が問題になるのではないかと考えている。
 情報公開については、やはり汚染が判明した場合に、企業のイメージが悪くなることがまだまだ多く、これに対する企業側の警戒心は相当に強いと思われる。企業が過去の土壌汚染を調査して報告すると、あたかも悪いことでもしているかのように扱われ報道される事例がある。情報の開示のあり方について、いろいろと御検討願いたい。企業にとっては、社会的な信用の失墜が事業経営に大きく影響する。このため、情報公開が企業のリスクマネジメントの一環として重要なポジションにある。過去の汚染の開示によって企業の信用を失墜させられるようであれば、どうしても情報の公開に対してちゅうちょせざるを得ない。
 3番目の国に対する要望事項については、まず、対策に非常に多額の費用がかかるため、資金的な援助、税制優遇等を御検討いただきたい。観測井戸を一つ掘るのに数百万かかるということになると、大企業ならまだしも、中小企業にとっては相当な負担である。まして、現在は経営環境が厳しい中である。もちろんそういう状況下でも調査・対策は行わなければならないが、いかに安い費用で効率よく行うか悩んでいるところである。
 それから、公平性と客観性が確保された制度の確立である。過去において、企業もニーズがあって有機塩素系物質や重金属を用いた製品を製造せざるを得なかったという状況がある。その製品により利益を得た者も当然いるわけで、企業にも責任はあるものの、そういったことを勘案した公平性、客観性が確保された法制度の在り方について、御検討願いたい。
 次に、地域の実情に合った浄化の目安及び浄化期限の設定については、その土地の利用目的、あるいはリスクの程度によって対策の緊急度、それから浄化のレベルを変えるということである。また、有機塩素系物質は、地下水に達すると、水の流れによって拡散、流出していくという傾向があるが、重金属の場合、特に建屋の中に汚染源があった場合には、ほとんど地下に浸透しないで、浅いところでとどまっている。やはり物質ごとに汚染の傾向が違うのではないか。したがって地下水の水位、土質、地層等を含め、汚染源の動態を把握した上での環境対策、浄化対策が必要と考えている。
 それから4番目は調査技術、浄化技術の開発支援、指導である。先ほども説明があったが、重金属については、塩素系物質のように何百点ものポイントを調査するのは相当大変だろう。汚染の特定方法、その確認のための調査方法、調査技術等を御検討いただきたい。
 最後に、情報開示制度についてである。企業が調査した際に、汚染が判明すると批判が殺到し、後ろめたい気持ちで対策をしなければならないことが多い。このことについて、理解してもらえるよう、行政からの国民への指導・啓発を是非お願いしたい。

【座長】ただ今の御説明について、質問等あるか。

【B委員】情報公開について、確かに現状としては、汚染を公表することにより批判を受けるのは確かだが、私は、汚染があることに対する批判よりも、公表が遅くなったことに対する批判の方がよほど大きいのではないかと認識している。その点についてはどのように考えているのか。公表を抑制するよりむしろ誘引するような、公表した方が良いという傾向があるのではないかと認識しているのだが、どうだろうか。

【倉水氏】基本的には御指摘のとおりである。公開については基本的に賛成なのだが、現実的には批判を受けてしまう。企業としては経営上、信用失墜が最大の問題になる。この兼ね合いがあると思う。また、企業の方針も関係してくると思う。そういう面で今後は、やはり公開のレベルが問題であり、例えば何万坪の土地に数十平方メートルの土壌汚染があった場合、非常に影響の大きい汚染であるがごとく、土壌環境基準値の何千倍という数字だけで発表することは問題だと思う。汚染の規模やリスク等を勘案して公表するのは賛成である。しかし、何万坪という土地のごく限られた面積の汚染が本当に問題なのか、常識的に考えても、やや疑問に思う。

【B委員】私は、土壌環境基準値の1万倍程度の汚染であればどこでもあり得ると必ず申し上げている。基準値の何倍といったことは気にする必要はないと思う。
 ところで、原因が特定できないことがあるとのことだが、特定しようとすれば不可能ではない。費用の問題だと思う。
 また、確かにMNAを採用せざるを得ない場面が多いと思うが、米国もMNAを少し見直そうという方向である。すべてMNAに入ってしまい、それが言いわけにされてしまう。今、我々は、MNAはかなりコストがかかるのではないかと認識している。要するに、汚染源の状態がより詳細に判明しないと今後の対応が決まらない。ただ単に対策の結果、濃度が低くなったというだけでは済まない。調査費用及び浄化費用をどの程度かけるか。自然起源の汚染だという証明には多額の費用がかかる。そうなると汚染規模が小さければ、その前に浄化した方が良いということになる。そのあたりのバランスが大切だと思う。

【倉水氏】御意見のとおりである。

【B委員】浄化対策の総額次第だとは思うが、費用がかかっても短期間で処理を行う場合と、長期間で徐々に処理を行う場合の二つが一般的に考えられるが、企業としてはどちらが望ましいか。

【倉水氏】非常に難しい。私の経験から申し上げると、汚染範囲が非常に狭く、深度も浅い場合は、確かに掘削除去の方が安い。しかし、地下水域が敷地内に広がっている場合は、やはり敷地外に汚染を広げないことが対策の第一段階となる。その後に最も高濃度の地点の対策に進むことになるので、汚染範囲が広い場合は、どうしても対策が長期間になる。

【B委員】電機関連業界は、結果として汚染原因となる物質を購入している。当然、販売業者からその物質について説明を受け、十分検討した上で購入すると思うが、その点についてはどうか。
 説明責任の有無はともかく、実際には安全な物質として説明して販売するといったこと、例えばクリーニング業者に対して石油系より引火しにくく安全という説明をして販売した、あるいは溶剤の安全性を示すために営業担当が飲んで見せたといった話を聞いたが、そういったことに関して、どのように考えているか。

【倉水氏】有機塩素系物質の場合は特に、洗浄能力が高く、非常に脱脂作用が良く、しかも毒性や火災・爆発の危険性がないという理由で、企業は過去にそういう物質を使用してきた。
 技術や科学が進歩すると、使用物質を毒性・有害性という面からを評価するようになった。PRTR法も、そういった人間の健康への影響がまず重要視されている。
 過去は過去として、今後、企業としては、PRTR法が施行され、化学物質等安全データシート(MSDS)の提供が義務化されたことを踏まえ、製造の前の設計段階から、使用する物質を危険性の少ないものに移行するよう指導している。
 また、そういう最近の傾向として、環境公害問題への意識が高まるようになってからは、企業では、汚染原因物質を穴を掘って埋めるようなことがなくなっている。過去は、汚染原因物質を穴を掘って埋めたり、川に廃棄したりとすることもあったが、環境が重要視される時代になって、企業がそういうことをすることはまずあり得ないと考えている。そういった教育、指導をしている。
 過去は、使い勝手、つまり洗浄性や爆発性という観点で物質が評価されてきたが、やはり健康障害という観点での評価も必須だと思う。今後も新しい情報を世の中に提供してほしい。特に物質を購入する側としてはMSDSの入手が義務化されたので、物質の販売者は是非有害性についての情報を明記してMSDSを提供してほしい。

【G委員】最近特に土壌汚染問題が明らかになる背景には、やはり環境問題や健康被害への関心の高まりのほかに、最近の経済状況の変化の中でバブル崩壊以後、リストラとして工場跡地の取引を行わざるを得ないといった事情があるだろう。様々な経済再生関係のプランに関する報告書でも、企業活動を行う上での明確なスタンダードを設定するよう要望が幾つかあったと思うが、貴業界として、そういう意味での認識はあるか。

【倉水氏】結論としては、まだスタンダードといったものはない。ただ、バブル崩壊後、組織の統廃合が進んでおり、その中に土地の売却も含まれるだろうが、売却の過程でどこまで浄化すべきか問題になっている事例がある。
 そもそも我々工業界としては、特に有機塩素系物質については、約10年前に既に法規制についての問題があり、売却以前の問題としてとらえているのが現状である。

【A委員】情報開示の問題について伺う。主張としては、汚染という客観的な事実の開示については反対しないが、例えば情報公開制度を通じて開示する場合、リスクが正しく理解されるように、行政からの情報の提示や土壌汚染についての理解が得られるような配慮を制度として設定してほしいということか。例えば土壌環境基準値の1万倍といった数値は通常起こり得るとか、汚染は過去に起こったことで民事的な責任を問う等道徳的に追及されるべきではないという情報も一緒に出してほしいということか。

【倉水氏】まず、とにかく悪者扱いされるが、これを払拭する制度が欲しい。
 次に、情報の公開に関して、例えば1万坪面積の土地に数十平方メートル~数百平方メートル程度の汚染があった場合、どう扱うべきか。こういう場合も情報開示すべきかということである。
 一つのアイデアとして、汚染のレベル分けが考えられるのではないか。例えば原子力発電のようにトラブルの大きさを何段階かにレベル分けする。これが浸透し、レベルについての認識が高まれば、この汚染はレベル3かと、住民が自ら判断することもできる。現在は、土壌環境基準値の何千倍あるいは何万倍という数値だけで、驚かれてしまう。周辺住民は健康に影響があるのではないかと不安になる。
 情報の開示に当たっては、国民が汚染程度を認識し、リスクを理解しやすい開示方法についても工夫できると思うので、是非御検討いただきたい。

【F委員】情報開示のあり方についていろいろと御希望をお話しいただいたが、開示のあり方以外に、例えばここで不利にならないインセンティブ等とあるが、開示の方法以外に何か御意見があれば、お伺いしたい。

【倉水氏】私の個人的なアイデアだが、例えば開示によって浄化が進むのであるから開示自体は良いのだが、情報開示すれば対策費が補助されるとなれば、経営者にとって資金的にも有利であり、奨励策になるかと思う。有利なことが何もなく、マスコミに報道されて批判を受けるだけでは望ましくない。また、大企業はまだしも、やはり中小企業は資金的な不安があるため、汚染を隠した方が良いという後ろ向きの対応になってしまう。やはり税制優遇措置等を含めた奨励策は一つのアイディアではないか。

【座長】情報公開制度について、システムの作成は非常に難しいことであるので、なにか御要望や御意向があればお話しいただきたい。我々もそれを知っておいた方がよいと思う。
 それから、極めて基本的なことだが、私自身、20年ほど前から公害行政に関わり、事業者負担法や健康被害、費用負担の問題についてよく論じてきた。当時の考え方は非常に単純で、まずは汚染者負担の原則(PPP)ということで、過去の汚染であっても、汚染に対する寄与度に応じて、費用負担させるという傾向が非常に強かった。
 ところが、本日のお話では、公平性が重要視されている。本日のお話を聞いている限りでは、戦中戦後から企業は非常に努力し、日本経済に貢献してきた。当時、特に戦中は、多少環境に負荷をかけても仕方ないという考えだったし、そのことについては国民も同意していたので、そういった事実も考慮して、機械的にPPPを適用しないことが公平性であるという御意見なのか。
 つまり、自然由来を除いて、汚染に対する寄与度に応じて最終的な対策費用を機械的には分配するということではなく、これまでの企業の社会的評価、あるいは長年にわたる慣行といったものを踏まえて費用負担を減らすべきであるという御意見か。

【倉水氏】いわゆる公平性には、2種類あると思う。まず、国民、国、企業という三者の立場で考えなければならない。先ほどから、汚染を公表した場合の国民の理解について話があったが、例えば近所で土壌汚染があった場合、理解されるかどうかという問題があるだろう。住民も企業による供与を受けてきたし、その地域もその企業が存在することで経済的に発展をしてきた。そういった意味での公平性である。国民に対して費用を負担してほしいという意味ではなく、立場を理解してほしいという意味での公平性と御理解いただきたい。
 もう一つは、複合汚染についての公平性である。この場合は難しいが、汚染物質の使用量又は濃度等を考慮して、汚染の責任や費用について分担するための基準づくりについてである。

【座長】企業の負担について御意見伺いたい。

【倉水氏】一つの事例について申し上げると、隣接する企業からの汚染の流入があったケースにおいて、行政からは、物質の使用量に応じて負担するように指導されたのだが、過去の使用量についてはあまりよく分からない。では、濃度で判断するといっても、本当に濃度だけで決めていいのか疑問である。汚染範囲や敷地外の流出の有無といったことも含めて、費用負担のあり方を十分検討しないと、もめ事になってしまい、そのために対策が遅れてしまう。

【座長】その点は賛成する。しかし、企業として、社会的に非常に貢献したのだから、費用負担について割り引いてほしいという気持ちはあるか。

【倉水氏】私個人としてはそのような考えはない。企業として、やはり汚染された土壌については対策をするというのが基本である。

【G委員】公平性ともかかわるが、公害防止事業費事業者負担法の関連で、事業者の費用負担について、自然汚染の問題や寄与度等斟酌しなければならない項目が幾つかある。確か、歴史的経過あるいは事情を配慮するという項目があったように思う。例えば、地方自治体がドライクリーニング事業者に対して石油よりも安全であるとトリクロロエチレンの使用を指導した経緯があった場合、その物質についての危険性の認識が十分でなかったり、基準がなかった場合等の歴史的な経過や事情を配慮した上で負担額を決めるということだったと思う。そういったことについて、もっとこの問題でも考えてほしいということなのか、その点がよく分からない。

【倉水氏】当方でもその点については深く議論していなかった。また議論したい。

【座長】その点について御意見があったらお知らせいただきたい。
 公害防止事業費事業者負担法の検討の際も、G委員がおっしゃったような議論があり、法文上明記されていないが、「等」か何かで読むという感じにしたと思う。
 そのかわり、目安として事業ごとの負担割合を記してあるのだが、例えば4分の1以上2分の1以下としてあるのは、そういったことを考慮してという説明が審議会ではあった。この問題をどう考えるかについて、事業者から御指摘いただきたい。過去に引き起こした汚染であっても、汚染に寄与した分に応じて費用を負担せよということになる可能性が非常に高いのではないか。もちろん今後議論していくべき問題であるが、率直な御意見を伺いたい。

【倉水氏】当方でも再度検討してから御意見を述べることとしたい。

【B委員】情報公開について、インセンティブ制度を作ってほしい要望はわかるが、それは、このように情報公開すべきだいう制度を作ってほしいということか。例えば、面積100平方メートル当たり、この程度の濃度であれば公開する、あるいはしなくてよいという目安を欲しいということだろうか。恐らくそういったことは情報公開になじまない。それは企業で自主的に判断するしかない。
 情報公開に関しては、企業がリスク管理の中でどうするかという問題だと思う。例えば公表しなかった汚染事例について情報が漏れた場合、そのリスクをどうとらえるかという点で判断すべきものではないか。先ほどの情報公開に関する要望は、行政に対して社会の認識を少し変えるようなキャンペーンを行政としてしてほしいということなのか。情報公開について具体的にどのようなことを要望されているのか。

【倉水氏】具体的な検討はしていないのだが、やはり行政の情報開示のあり方についてである。例えば埼玉県であれば、濃度の高い低いは関係なく、ほとんどすべてがホームページに掲載され、かつマスコミに対して公表するという例もある。その他の県ではホームページには掲載しないが、周辺住民に対して説明会を開催する。地方自治体によって、そのようなばらつきがある。そういうことで、情報開示のあり方や条件について要望した。

【B委員】それは、事業者による情報開示についてではなく、行政が得た情報をどう出すかについての要望ということか。

【倉水氏】事業者から汚染について自治体に報告する場合もある。まず自治体に報告して、自治体から、こういう手続で開示しようという場合もある。また、自治体が汚染を調査した結果、事業者の知らないうちに汚染源者と特定される場合もあるし、みずから汚染を発見して自治体に報告する場合もある。

【座長】自治体は客観的事実を公表するのだが、その際の開示の仕方について、システムとしてこのような条件を付けて開示してほしいとか、そういったことを伺いたい。
 汚染を公表した事業者が悪者にならないようにしてほしいということだが、どういったものがあればよいのか教えていただければ、我々としてもそれを取り入れた制度について大いに考えたい。

【弓場氏】対策の進まない理由は、まず浄化費用である。もし現在使われている技術の10分の1の費用で済めば、もっと情報公開も浄化対策も進むだろう。企業の所有地だけでなく、国有地や公有地の浄化も進むだろう。現在は浄化の費用が高いため、公開したがらないし、公開した場合の株価の下落も心配するといった、付加的な要因が出てくる。
 浄化を進める際、所有地の汚染の状態を示した上で、複数の浄化事業者による競争入札を行えば費用が非常に下がると思う。しかし、公開が進んでいないため、複数の浄化事業者に当たることができない。すると、やはり価格は下がらない。公開と費用にはそういった関係があるので、是非御検討いただきたい。
 健康リスクの話をすれば、環境基準の10倍のトリクロロエチレンに汚染された水を飲むことと、たばこを1日20本吸うことと、どちらがリスクが高いのかということになる。そういったことまで分かる人は少ない。トリクロロエチレンは発ガン性があるので危険である。隣の工場で使っていたから危ないと、短絡的に考えがちである。しかし、リスクについて理解していれば、その程度の汚染であれば大した問題ではないと考える人もいるだろうが、それは一般的ではない。
 もちろん、企業としての責任から逃れるつもりはなく、汚染があればすぐに調査や浄化を行っている。しかし、どの程度まで対策するかについて、企業側でも判断がついていない。もう少し対策を講じればよいのだが、そうすると費用が10倍になるといったコスト面での問題が出てくる。そのあたりについて、どこで線を引くかが非常に難しい。

【B委員】公表に関して言えば、汚染を隠していたのだが、内部告発で明らかになったという汚染事例があった。汚染が判明した時点で、企業は既に浄化対策を行っていたのだが、マスコミから、この件は何が問題なのかとコメントを求められた際、私自身は「土壌を汚染したこと及び浄化対策を実施していることは全く問題ない。しかし、公表していれば、汚染が判明してから発覚するまでの期間、周辺の住民は汚染した地下水を飲用せずに済んだかもしれない」と答えた。
 幸いにもこの場合は、地下水は飲用されていなかったので、そういった問題はなかったのだが、汚染が隠されていた間に汚染された地下水が飲用されていたとすれば、重要な問題である。そういった意味からの対応が必要である。企業敷地周辺の井戸水をすべて調査する訳にはいかないだろうから、行政にすぐ届けて、飲用というリスクを減らす必要がある。それはたばことの比較論では済まない話である。
 確かに、その後、行政がどう対応するかについて、もう少し配慮してほしいということについては御指摘のとおりだと思うが、住民が一番問題にするのは、そういったリスクだろう。

【倉水氏】それは御発言のとおりだと思う。企業としては、周辺の住民に御迷惑をかけないことが最も重要であると考えている。
 問題なのは手続だと思う。自ら調査をし、大小関係なく汚染が発見された場合に自治体に報告すること自体はやぶさかではない。当然すべきことである。その後の手続が問題で、小規模な汚染であっても、すぐに自治体のホームページに掲載されたり、マスコミに発表してしまうといった手続に若干工夫や改善が必要だと思う。

【G委員】そういった公表の仕方について、批判や不満があるのはよくわかる。私自身も全国の様々な事例を調査しているのだが、ごく最近でも、ある日本海側の県の電子工業が盛んなところでは、企業では内部調査を随分と行ったのだが、自治体への届出が遅れたために、かなりの時間、周辺の住民が汚染された地下水を飲用していたという事例がある。そういった汚染が、後に地元の新聞に出て批判をされる。実際に飲用していた住民がいたことが、やはり問題になってしまう。そういったことについては、同じ業界の中でも企業によって立場も違うし、方針も異なるわけだが、その点が最も問題になるところだと思う。

【土壌環境課長】我々は、全国の自治体のアンケートをもとに調べた個別の事例を解析しているが、その中で電子工業の業界は、むしろ非常に前向きに情報公開をしていると認識している。これまで全国で多くの汚染事例があっただろうが、マスコミ等から聞いたところでは、情報開示やその後の対策を非常にうまく行っており、それを全国の工場、事業所にも拡大していると聞いている。そのように取り組んだ背景等を教えていただきたい。

【倉水氏】個別事例について詳しく調べたわけではないのだが、やはり全く開示をせずに浄化を実施している企業もある。また、情報を公表することのメリットとして、先ほどお話にあったように、入札を行って対策費用を安くできると聞いている。しかし、公開したことについて、社会の批判から受けるデメリット等については聞いていないので、それについてはお話しできない。
 電子工業界は比較的汚染を公開していると思う。我々から見れば、他の業界でも汚染原因となる物質を大量に使用していたはずだが、なぜ汚染事例が公開されないのかと思う。そういった公開の公平性の根本的には、やはり公開した場合に批判を浴びるという問題があるのではないかと考えており、そういったことについても是非御検討いただきたいと思う。

【座長】では、ここまでとする。
 今後、いただいた御意見を十分に念頭に置いて検討したい。今後も情報あるいは御要望や御意見をお知らせくださるよう、お願いする。


(倉水氏、弓場氏、桑原氏、高木氏 退席)

【座長】それでは、事務局に追加説明をお願いする。

【事務局】資料4-2の8ページにある、電気事業連合会からの要望について御紹介する。(紹介)

【座長】以上で本日のヒアリングは終了する。最後に、全体を通じて御意見等あるか。

【H委員】お願いしたいことがある。土壌汚染問題が発生した際、汚染サイトのある自治体の担当者は、恐らくキーパーソンになるのだろう。実際、今までに県内で起こった事例についても、職員がキーパーソンとしての役割を果たさなければいけない場面がいろいろとあった。しかし、土壌汚染については、都道府県の担当者はそこまでのレベルにはなかなか達していない。つまり、大気汚染、水質汚濁、騒音、振動といった問題については、都道府県の行政担当者も研究担当者もいろいろと経験を積んでいる。しかし、土壌汚染は事例も少ない上、地盤環境の分かる行政担当者、研究担当者は極めて少ない。都道府県によって多少事情は違うだろうが、それが平均的な状況だろう。
 そういう中では、実態把握すら難しいだろう。大気汚染や水質汚濁であれば、都道府県として調査を行い、実態を把握して、原因を明らかにし、対策を進めてきた事例は多いが、土壌汚染の場合は、どういう状況かということですら把握しにくい。把握するのに非常に費用がかさむ上、コンサルタント業者の独壇場になってしまう。そこでコーディネイトもする力もないという例が多いと思われるので、地方自治体の職員で土壌汚染問題を適切に扱うことのできる行政担当者及び調査のできる研究者の育成に力を入れていただきたい。例えば環境省の研修所での研修を行うなどして、自治体職員の育成を是非行っていただきたい。個々の自治体では、なかなか土壌汚染について扱いきれない。地盤沈下や地下水等の汚染事例を多く経験している自治体では、ある程度経験のある職員が育っているだろうが、そういう自治体は多くないだろう。
 それからもう1点は、様々な汚染事例と対策事例を収集し、まとめて公開してほしい。そのようなツールがあれば、土壌等の汚染を評価できる自治体の職員が、例えば、県内の企業の環境担当者を集めて、汚染事例とそれに伴う費用やトラブル、汚染防止のための注意点等について説明できる。
 また、汚染事例が判明した際は、自治体担当者とよく連携し、適切な調査をしなければならない。そもそもの現状把握を誤ると、非常に時間と費用をかけたにもかかわらず、地下水のモニタリングをしてみたとこら、一向に改善しない。そうなると、そもそも現状把握が間違っていたということになり、振り出しに戻ってしまう。そういった例も実は多いのではないかと思われるので、是非自治体職員が企業と住民との間でキーパーソンの役目を果たしていくために必要な下地づくりに御協力いただきたい。

【座長】ただ今の御意見は事務局に聞いておいていただきたい。他に御意見がなければヒアリングは以上とし、その他として、本検討会の今後の予定等について事務局から御説明いただきたい。

(2)その他

【事務局】次回の第5回検討会は、3月29日(木)午後2時から、合同庁舎第5号館別館の共用第13会議室において開催する。
 次回の内容については、ヒアリングを一つ行い、その後に第1回検討会でお話したとおり、これまでの検討やヒアリング等を踏まえ、検討課題を再整理し、改めてその検討課題について、また御議論いただきたいと考えている。

【座長】本日は大変熱心な質疑をいただきありがとうございました。では、進行を事務局にお返しする。

【事務局】では、第4回の検討会を終了する。

-以上