環境省水・土壌・地盤・海洋環境の保全地下水・地盤対策関係

地熱発電所の熱水の多目的利用について

平成25年9月
水・大気環境局 土壌環境課 地下水・地盤環境室


「エネルギー分野における規制・制度改革に係る方針(平成24年4月3日閣議決定)」に基づき、地熱発電所の熱水の多目的利用に関する基本的な考え方について、水質汚濁防止法の趣旨を踏まえ、以下のとおりまとめた。

1.背景

一般に、地熱発電では、地下深部から取り出した蒸気と熱水のうち、蒸気を発電に利用し、熱水については、還元井を通じて再び地下深部に戻している。ただし現状でも、一部の地熱発電所では、この熱水のエネルギーを、井戸水や河川水等と熱交換し、温水として利用している例がある。

今般の規制・制度改革方針における「熱水の多目的利用」とは、井戸水や河川水との熱交換を経ずに、地下深部からの熱水を直接利用することを指しており、これによって地熱エネルギーのより効率的な活用が期待されている。熱水の用途としては、農業利用、温泉利用などが想定されている。

しかしながら、熱水には、砒素等の有害物質が含まれている場合があり、砒素及びその化合物の濃度が、水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号。以下「水濁法」という。)上の排水基準値を超える例も確認されている(基準については下記「参考1」参照)。地熱発電所は一般的には水濁法上の特定事業場には該当せず、公共用水域や地下への水の排出・還元について水濁法の排水規制は直接的には適用されないものの、このような熱水をそのまま河川等に放流した場合、健康影響が生ずる可能性もある。なお、水濁法上、排水規制が直接的には適用されない事業場であっても、事業活動に伴う汚水等による水質汚濁の防止のために必要な措置を講ずる一般的な責務を有する。

こうしたことを踏まえ、水濁法の趣旨を踏まえつつ、熱水の適切な多目的利用について、基本的な考え方を整理することとしたものである。

(参考1)環境基準及び排水基準(砒素及びその化合物)
水質汚濁に係る環境基準:0.01mg/L以下
地下水の水質汚濁に係る環境基準:0.01mg/L以下
排水基準:0.1mg/L以下

なお、ここでは、規制・制度改革における議論を踏まえ、具体的に、以下の用途を想定して考え方を整理することとする。

また、以下の整理は一般的な事業形態を前提としたものであり、実際の事業実施に当たっては、水質汚染の未然防止の観点から、個々の事業の実態を踏まえて判断することが必要である。

2.熱水利用の基本的考え方

(1)発電所の敷地外での熱水利用について

水濁法では、特定事業場から公共用水域へ排出される水について、排水基準を定め規制を行っている。一方、地熱発電所において、多目的利用のために発電所敷地外へ熱水を導出する場合については、地熱発電所が水濁法上の特定事業場に該当しておらず、また熱水を公共用水域に排出するわけでもないため、熱水の敷地外への導出自体は水濁法の規制の対象とはならない。

ただし、熱水の導出先の施設が水濁法上の特定事業場に該当する場合には、その事業場からの公共用水域への排水等については水濁法に基づく規制が適用される。また、導出先の事業場が水濁法上の特定事業場に該当しない場合であっても、事業者は、公共用水域への排出又は地下への浸透の状況を把握し、事業活動に伴う汚水等による水質汚濁の防止のために必要な措置を講ずる一般的な責務を有し(水濁法第14条の4)、また、事業活動に伴う汚水の公共用水域への排出や地下への浸透により人の生命や身体を害した場合には、事業者には賠償責任が生ずる(同第19条)。

(参考2)水濁法の規制対象となる事業場の概要と地熱発電所等との関係
種別* 適用される主な規制 地熱発電所 温泉入浴施設
特定事業場 排水基準(水濁法第12条) 非該当 一部該当**
有害物質使用特定事業場 排水基準(水濁法第12条)、地下浸透基準(水濁法第12条の3) 非該当 一部該当†
  • * これらの種別に該当しなくても、事業者は、その事業活動に伴う汚水等による水質汚濁を防止する一般的な責務があり(水濁法第14条の4)、また、汚水により健康被害等が生じた場合には、損害賠償責任が生ずる。(水濁法第19条)
  • ** 例えば、入浴施設を有する旅館業者であれば、特定事業場に該当する。
  • † 例えば、洗濯施設を有する旅館業者であれば、有害物質使用特定事業場に該当する可能性がある(例:有機溶媒を用いるクリーニング施設等)。

(2)多目的利用後の水の回収及び地下還元について

地下深部から取り出した蒸気・熱水については、地表面付近において放出すると公共用水域等の水質汚染に繋がるおそれがあるが、元の地下深部に適切に還元することにより、こうした水質汚染が防止されるほか、地下深部の水の収支バランスを保ち、持続可能な地熱資源の利用にも資する。このことから、地熱発電所からの熱水の多目的利用を行う場合には、利用後の水の全量を回収し、元の熱水が存在した地下深部に還元することを基本とすべきである。その際、具体的な還元地点としては、地熱発電所敷地内や、蒸気・熱水を取り出す地点の周辺などが想定される(その他の地点に還元する場合には個別地域状況を踏まえて判断する。)。

なお、熱水の多目的利用の過程において、地下深部には通常存在しない有害物質が混入する可能性がある等の場合には、水濁法に基づく規制が適用され地下還元に当たって適切な処理が必要となることがある。(例:ドライクリーニング設備を有する温泉旅館が熱水を利用し、回収する熱水に有機溶媒が混入する場合等)

また、水濁法第29条において、特定事業場以外からの地下浸透について地方公共団体が条例により必要な規制を定めることを妨げない旨の規定があり、当該地域における条例の規定を確認することが必要である。

(3)施設の管理及び事故時の対処について

地熱発電所敷地外への導出から地下深部への還元までの各段階について、熱水の管理の責任の所在を明らかにしておくべきである。

また、多目的利用の過程において熱水が漏えいした場合には、公共用水域や地下水への汚染が懸念されることから、実際に漏えいが起こらないよう管路や還元井の管理及び担保措置の検討、利用する熱水の有害物質の含有状況や漏えいの監視に加え、万が一漏えいが確認された際の対処方針及び責任について、周辺住民を含む関係者と事前に相談し、明確化しておくこと。その際、多目的利用する熱水の水質に関する情報(含有成分、濃度等)をあらかじめ利用先の事業場に情報提供しておくことが重要である。

担保措置については、例えば、熱水からのスケールの析出による管閉塞への対処、定期点検の実施方法等といったものを検討しておくこと等が考えられる。

3.補足

本取りまとめは、現状想定される熱水の多目的利用の形態や内容について、水濁法の趣旨を踏まえて基本的な考え方を整理したものである。しかしながら、今後の熱水の多目的利用の動向によっては水質汚濁に繋がる可能性が否定できないことから、人の健康及び生活環境への影響の未然防止の観点から、必要に応じて見直しを行っていく。

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