環境省廃棄物処理技術情報

廃棄物処理等科学研究費補助金
TOP廃棄物処理等科学研究費補助金過去の交付情報>「平成13年度廃棄物処理等科学研究費補助金」に係る終了研究の事後評価結果について

「平成13年度廃棄物処理等科学研究費補助金」
に係る終了研究の事後評価結果について

平成13年度終了研究8件について廃棄物処理対策研究審査委員会(研究事業)および廃棄物処理等科学研究企画委員会(推進事業)にて事後評価を実施しましたので、結果をつぎのとおり、発表します。

1,平成13年度終了した研究 (審査は各項目5段階評価)

番号 研究者の
代表
研 究 課 題 名 目標の
達成度
成果の
学術的
貢献度
成果の
社会的
貢献度
4 八木 美雄 廃棄物処理過程におけるダイオキシン類縁化合物の挙動と制御に関する研究 4.0 5.0 5.0
7 田中 勝 病院付設焼却炉の機能評価と運転管理技術の高度化に関する研究 3.0 2.0 2.7
9 川尻 聡 超臨界二酸化炭素によるダイオキシン類分析技術の研究 3.3 3.7 3.3
10 久松 由東 プラスチック類の熱分解、燃焼反応による有害化学物質生成の抑制に関する研究 4.0 4.0 3.7
12 諸頭 達夫 化学物質の循環・廃棄過程における制御方策に関する研究 4.0 4.0 4.7
18 平石 明 生物学的ダイオキシン分解技術の開発研究 4.0 4.0 4.0
20 筧 淳夫 医療廃棄物の減量及びリサイクルに係る環境負荷に関する研究 3.7 3.3 4.0
29 川島 修 RDFの利用促進に関する研究 4.3 3.0 4.0

2,平成13年度終了した推進事業 (審査は各項目5段階評価)

法人名 推 進 事 業 名 目標の
達成度
成果の
学術的
貢献度
成果の
社会的
貢献度
日本環境衛生センター
研究会・シンポジウム等による廃棄物研究の普及・推進事業
4.3
4.3
4.0

3,廃棄物処理対策研究審査委員名簿(50音順)

氏  名 所属・職名
浅野 直人 福岡大学法学部教授
飯野 靖四 慶應義塾大学経済学部教授
市川 陽一 (財)電力中央研究所狛江研究所大気科学部上席研究員
占部 武生 東京都環境科学研究所廃棄物研究室副参事研究員
小林 康彦 (財)日本環境衛生センター専務理事
寺嶋 均 (社)全国都市清掃会議技術部担当部長
中杉 修身 独立行政法人国立環境研究所化学物質環境リスク研究センター長
永田 勝也 早稲田大学理工学部教授
中野 加都子 神戸山手大学人文学部環境文化学科助教授
花嶋 正孝 福岡県リサイクル総合研究所センター所長
原 雄 千葉県環境研究センター廃棄物・化学物質部部長
平岡 正勝 京都大学名誉教授、立命館大学エコ・テクノロシ゛ー研究センター長
藤田 賢二 (財)水道技術研究センター会長
森田 恒幸 独立行政法人国立環境研究所社会環境システム研究領域長
森田 昌敏 独立行政法人国立環境研究所総括研究官

4,廃棄物処理等科学研究企画委員名簿(50音順)

氏  名 所属・職名
田中 勝 岡山大学大学院自然科学研究科教授
中島 尚正 放送大学東京多摩学習センター所長
西岡 秀三 独立行政法人国立環境研究所理事
平岡 正勝 京都大学名誉教授、立命館大学エコ・テクノロジー研究センター長


○研究目的、方法、結果と考察


4. 八木 美雄:廃棄物処理過程におけるダイオキシン類縁化合物の挙動と制御に関する研究
【研究目的】
本研究ではPBDDs/DFs,PBDEs等の廃棄物処理過程における挙動と対策技術に関する検討を主たる目的とする。

【研究方法】
1.ダイオキシン類縁化合物の分析方法:
[1]廃プラスチック等のダイオキシン類縁化合物の高精度分析法
[2]ヘキサブロモシクロドデカン(HCBD)分析方法の文献調査と課題把握
[3]PXDDs/DFsの分析法確立のための基礎調査
[4]バイオアッセイ手法のダイオキシン類縁化合物への適用性検討を実施した。
2.リサイクル破砕過程におけるダイオキシン類縁化合物の排出実態調査:
[1]粗大ごみ破砕施設からのダイオキシン類縁化合物の排出実態調査
[2]廃家電リサイクル施設からのダイオキシン類縁化合物の排出実態調査を実施した。
3.燃焼処理におけるダイオキシン類縁化合物の排出実態調査:
[1]実廃棄物のダイオキシン類縁化合物の含有実態調査
[2]小型実験炉における燃焼実験を実施した。
4.焼却施設からのダイオキシン類縁化合物の排出実態調査:
[1]焼却施設からのダイオキシン類縁化合物の排出実態調査
[2]ダイオキシン類縁化合物の抑制効果の実証的確認
[3]ダイオキシン類及び重金属類排出量削減効果の実証を実施した。
5.溶融処理におけるダイオキシン類縁化合物の排出実態調査:
[1]溶融処理におけるダイオキシン類縁化合物の排出実態調査
[2]ガス化溶融処理におけるダイオキシン類縁化合物の排出実態調査を実施した。
6.一般環境におけるダイオキシン類縁化合物の実態調査:
廃棄物処理施設が周囲にない一般環境中でのダイオキシン類縁化合物の濃度を測定し検討を実施した。

【結果と考察】
1.[1]廃プラスチック等のダイオキシン類縁化合物の高精度分析法
[2]ヘキサブロモシクロドデカン(HCBD)分析方法の文献調査と課題把握
[3]PXDDs/DFsの分析法確立のための基礎調査
[4]バイオアッセイ手法のダイオキシン類縁化合物への適用性検討等、本研究に係わる測定値の信頼性評価及び分析方法の精度向上を目的とし、分析上の課題点を検討すると共にクロスチェック実験を実施した。また、本研究では対象としなかったダイオキシン類縁化合物や分析手法についても検討を加え、分析上の技術開発に努めた。
2.[1]粗大ごみ破砕施設からのダイオキシン類縁化合物排出実態調査:粗大ゴミ破砕施設の稼動時にダイオキシン類及び類縁化合物が検出されるものの臭素系難燃剤以外はその発生量が少なく且つバグフィルタからなる排カ゛ス処理装置において殆どダストとして捕集される実態が明らかになり、現有設備の適正な運用によって類縁化合物等の破砕施設から大気への放出は抑制可能であることを確認した。
[2]廃家電リサイクル施設からのダイオキシン類縁化合物の排出実態調査:廃家電リサイクル施設施設において成形前廃プラとRDFでは、RDFの方がPBDDs/DFs4-8が濃度・量とも大きい。また成形機排気が他の排気よりもPBDDs/DFs4-8の濃度,量とも大きく、成形工程における加温、摩擦熱によりPBDDs/DFsの生成の可能性がある。また隣接する廃棄物焼却施設におけるダイオキシン類縁化合物の収支は、PBDDs/DFsが1/500~1/11000に減少し、PBDEも同様に1/80~1/1600に減少した。
3.[1]実廃棄物のダイオキシン類縁化合物の含有実態調査:廃テレビのケーシング13体、廃パソコンのケーシング2体、廃テレビプリント基板3体のダイオキシン類縁化合物の含有量について調査した。PBDDs/DFsは、臭素系難燃剤を使用していないと思われる1984年製の2台のテレビでは9.81~70ng/gであったが、その他の廃テレビ12台では2,000~200,000ng/gの検出が見られた。製造年代別に見ると、1990年代前半のテレビでは21,000~200,000ng/g、1990年代後半のテレビでは2,000~14,000ng/gであった。
[2]小型実験炉における燃焼実験:臭素系難燃剤により難燃処理された樹脂ペレットや実廃棄物を対象に、試料中に含有されるダイオキシン類縁化合物について調査と、小型実験炉を使用して燃焼実験を実施した。燃焼実験にて、排ガスフローにおけるPHDD/Fsについて、PHDD/Fs中の各ダイオキシン類の濃度比率について、燃焼過程におけるダイオキシン類縁化合物の流入総量と流出総量の関係について等の知見を得た。
4.[1]焼却施設からのダイオキシン類縁化合物の排出実態調査:対象とした施設の試験結果では、塩素化ダイオキシン類除去対策により、臭素化ダイオキシン類も塩素化と同様に除去・分解できることが示唆されるデータが得られた。
[2]ダイオキシン類縁化合物の抑制効果の実証的確認:ダイオキシン類規制に対応し改造工事中のごみ焼却炉において、廃テレビケーシング破砕物をごみに混入し、従来の数十倍に該当する臭素化ダイオキシン類の条件にて試験した。排ガス中のダイオキシン類は、高度排ガス処理工事による燃焼改善等に伴い、低減化が確認できた。臭素化ダイオキシン類、一臭素・塩素化ダイオキシン類も同様であり、ダイオキシン類の低減対策がこれらの物質にも有効であると考えられる。
[3]ダイオキシン類及び重金属類排出量削減効果の実証:ダイオキシン類排出削減恒久対策工事を実施している処理施設を対象に、対策工事前と工事後の炉において、ダイオキシン類縁化合物と重金属類の濃度を測定し、恒久対策工事の効果を確認した。塩素化・臭素化塩素化ダイオキシン類については、改造効果により、排ガス、主灰、飛灰など濃度が低減していた。臭素化ダイオキシン類については、煙突入口排ガスでは定量下限以下で、飛灰、主灰中の濃度は改造前後でほとんど差が無く、飛灰中よりも主灰中にその濃度が高い点が特徴的であった。重金属類に関しては、水銀については改造工事の効果によって明確に排ガスとしての排出量が低減されていた。また、亜鉛、鉛、クロムについても排ガス中濃度の低減を確認できた。
5.[1]溶融処理によるダイオキシン類縁化合物抑制効果の確認調査:破砕した廃家電と都市ごみ焼却炉から排出される焼却残渣を3.5:96.5の割合で混合したものを被溶融物として溶融処理実験を実施した。廃家電が溶融助燃剤として寄与し、単位処理量あたりの灯油使用量は焼却残渣のみの溶融に比べて約20%減少し、溶融システム全体におけるダイオキシン類縁化合物の分解率については、PCDDs/DFsで約99%、Co-PCBsで約98%、PBDDs/DFs、Br1ClyDDs/DFs、PBDEs、TBBP-A、HCBでは99%以上という高い結果が得られた。
[2]ガス化溶融処理によるダイオキシン類縁化合物抑制効果の確認調査:臭素系難燃剤であるPBDEsやTBBP-Aはガス化燃焼により燃焼分解された。PBDDs/DFsについては廃テレビに多く存在するが、ガス化燃焼により99.99%以上燃焼分解し、再合成も見られなかった。MoBPXDDs/DFsについては燃焼分解される点と徐冷工程での合成がみられる点、活性炭での吸着除去や触媒分解が可能な点でPCDDs/DFsと同様の挙動であった。
6.大気中濃度と大気降下量との関係はPBDFs、PBDEsについて、大気中濃度と大気降下量との間に相関関係が読み取れた。大気試料について、PCDDs/DFs濃度とMoBPXDDs/DFs濃度との間に相関があること、およびPBDDs/DFsおよびPBDEs濃度とPCDDs/DFs濃度との間に相関が見られないことが読み取れた。また、PBDDs/DFsはPBDEsとよい相関が見られた。

【結論】
3年間に実施した「ダイオキシン類縁化合物の分析方法」「リサイクル破砕過程におけるダイオキシン類縁化合物の排出実態調査」「燃焼処理におけるダイオキシン類縁化合物の排出実態調査」「焼却施設からのダイオキシン類縁化合物の排出実態調査」「溶融処理におけるダイオキシン類縁化合物の排出実態調査」「一般環境におけるダイオキシン類縁化合物の実態調査」等の研究により、PBDDs/DFsやPBDEs等のダイオキシン類縁化合物の廃棄物処理過程における挙動と対策に関する知見が得られた。これらは廃棄物処理過程の対策を考える際、有効に活用されることが期待できる。

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7. 田中 勝: 病院付設焼却炉の機能評価と運転管理技術の高度化に関する研究
【研究目的】
医療器具や機材等の多様化により、医療機関から排出される廃棄物が焼却されたときに多種多様な汚染物質が排出される可能性がある。適正な廃棄物処理行政および病院管理行政の面から、これらの実態を早急に把握することが重要である。本研究では1999年度から2001年度にかけて、燃焼性生物中の汚染物質挙動の解明、病院で用いられている焼却炉の機能評価と高度運転管理技術の検討、および望ましい医療廃棄物処理システムのあり方についての検討を行い、今後の我が国における医療廃棄物処理のあり方を提言することを目的とした。

【研究方法】
本研究は1999年度から3ケ年計画で進められた。各年度と研究内容および方法について、下記に示す。
<1999年度>
(1)病院における医療廃棄物の処理と院内焼却処理の実態に関する調査研究:全国の病院に対するアンケートを実施し、廃棄物の院内処理の状況、院内焼却炉の運転管理方法について調査した。
(2)欧州における医療廃棄物処理の状況:欧州における医療廃棄物処理に対する取り組みについて調査した。
(3)病院付設焼却炉等小型焼却炉の排出ガス特性:病院付設焼却炉からの排ガス等に含まれる微量有害物質の測定を行い、実態について調査した。
<2000年度>
(1)排ガス特性からみた病院付設焼却炉の機能評価:病院付設焼却炉からの排ガス等に含まれるダイオキシン類、多環芳香族炭化水素類および重金属類の排出と、施設運転状況との関連性について調査した。
(2)日米欧における医療系廃棄物の処理システムの比較検討:特に法制度や技術的側面について欧米諸国との比較を行い、我が国での医療廃棄物の適正処理のあり方について検討を行った。
<2001年度>
(1)ダイオキシン類排出パターンの比較検討:病院付設焼却炉について、適正な燃焼管理を行うことで法規制を満足できるかどうか、実際に焼却試験を実施してダイオキシン類の排出評価を行った。
(2)都市ごみ焼却施設での医療廃棄物の処理の可能性調査:医療廃棄物を都市ごみ焼却施設へ受け入れることが可能か否か、医療機関および自治体等へのアンケート調査により、その可能性や受け入れる際の条件等を検討した。(3)医療廃棄物処理残渣等の安全性評価:焼却処理および実用化されている焼却代替処理について、処理が適切に行われたか否かをバイオアッセイ等による毒性評価で確認した。

【結果と考察】
<1999年度>
(1)院内焼却炉の約半数が二次燃焼室や助燃装置が設置されていなかった。焼却炉の稼動時間および焼却量は廃棄物の排出によって決まるため、変動が大きい。将来的に約1000の病院で焼却炉が使用される見込みである。
(2)EU加盟国の傾向としては、医療廃棄物について院外での集中焼却の方向を目指す国が多い。一方、英国やフランスでは、焼却を含めた院内処理も見られた。
(3)6ケ所の小型焼却炉を調査した結果、排ガス中ダイオキシン類濃度は3.2から100ng-TEQ/Nm3であった。これは、焼却炉形式や運転方法、ごみ質の違いによってダイオキシン類発生量に大きな違いが見られることを示している。この調査では、COやHClとダイオキシン類について明確な相関は見られなかった。
<2000年度>
(1)感染性廃棄物に対し、二次燃焼室温度が940℃と860℃の場合とで、ダイオキシン類や多環芳香族炭化水素化合物濃度に差はみられなかった。またこのとき、金属類(Sb,Pb,Zn,Cu,Ba)が高濃度で検出された。これは、金属類が医薬品やプラスチックの安定剤、顔料に使用されることが多く、感染性廃棄物にこれらが多く含まれていたと推測できる。
(2)米国では、医療廃棄物の管理に係わる中央政府機関は複数あり、それぞれの目的に応じて感染性廃棄物を定義・規制している。焼却処理は技術的には可能であるが、住民の焼却忌避感情等で存続が困難になり、焼却炉稼動数は極端に少なくなっている。これにより、焼却代替技術の開発が盛んであり、既に40種を超えている。ただし、これらの技術には、全ての廃棄物に有効でないなどの短所も見られる。
<2001年度>
(1)近年開発された小型焼却を用いて焼却試験を実施した結果、燃焼排ガス中のダイオキシン類濃度は0.036-3.1ng-TEQ/Nm3であった(燃焼温度:800℃ CO濃度:1以下~25ppm)。この値は、焼却能力50kg/hr以上2t/hr未満の新設炉の排出基準値である5ng-TEQ/Nm3未満(H14年12月1日から適用)を達成している。また、焼却灰中のダイオキシン類濃度は0.00450.27ng-TEQ/gであり、規制値である3ng-TEQ/gを下回っている。これらの結果は、適切な小型焼却炉にて適切な焼却処理を行えば、病院内で発生する廃棄物を院内で焼却処分することが十分可能であることを示している。しかしながら、排ガス処理装置を設置しない場合は、HCl等の抑制が課題である。
(2)アンケート調査(有効回答率:13.8%)の結果、約99%の病院が将来的に感染性廃棄物の処理を外部委託処理に頼る結果となった。委託業者の有無、コスト面から、病院側としては感染性廃棄物等の都市ごみ焼却施設への受入を希望している。しかし、ほとんどの自治体では感染性廃棄物の受入を行わない予定である。また、医療現場では廃棄物の多種多様な分別・処理が行われている。
(3)焼却、高圧蒸気滅菌および電磁波滅菌残渣のうち、焼却残渣以外から生菌が検出された。また、細胞毒性試験およびエストロゲン性試験から、医療廃棄物中間処理残渣には様々な毒性が残存していることが明らかになった。

【結論】
医療廃棄物の処理方法について、欧州では院外での集中焼却を目指す国が多かった。米国では焼却処理は技術的に可能としながら、周辺住民の焼却忌避感情などによって代替処理の開発が盛んである。我が国では感染性廃棄物の処理は外部委託がほとんどであり、現状大部分を焼却に頼っている。病院側としては処理コスト面等から、医療廃棄物の都市ごみ焼却施設への受入を希望しているが、医療現場では多種多様な医療廃棄物の分別・処理が行われているという課題もある。一方、ほとんどの自治体では医療廃棄物を都市ごみ焼却施設へ受け入れる予定はないという調査結果が得られた。焼却代替処理としては高圧蒸気滅菌や電磁波滅菌などがあるが、処理残渣から生菌が検出されるなど、滅菌効率向上などの課題がある。院内付設小型焼却炉の運転状況を調査した結果、施設によっては高濃度のダイオキシン類が検出された。しかし、近年開発された小型焼却炉を用い、適正な運転管理のもとで医療廃棄物を焼却処理した結果、ダイオキシン類の発生を規制値未満に抑制できることが確認された。ただし、排ガス処理を行わないとHClや重金属等の有害物質が排出される可能性がある。以上から、我が国における医療廃棄物の適正な処理システム構築に際しては、[1]院内付設焼却炉を含む焼却をベースとした医療廃棄物処理システムの構築、[2]焼却代替技術の開発と普及、[3]医療現場における分別基準の統一、の3つの側面から、確立を目指していくべきであると考えられる。

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9. 川尻 聡:超臨界二酸化炭素によるダイオキシン類分析技術の研究
【研究目的】
ダイオキシン類の定量は、超微量領域で行わねばならないため、測定・分析を行える施設が限定される。また、限定された施設においてもダイオキシン類の分析は細かい作業の積み重ねが必要となるので、他の分析に比べ膨大な時間とコストが必要となる。この問題に関して、原因とされるのは、煩雑な前処理工程である。これは、この前処理工程の成否がそのままダイオキシン類の定性・定量測定結果に影響を及ぼすためであるが、その操作の殆どが分析作業員の手に委ねられているのが現状である。中でも、分析試料からダイオキシン類を抽出する工程と抽出物を分離する工程には時間と手間を要し、分析に必要な時間の約半分がここで消費される。
そこで本研究では、抽出と分離の操作が連続的に行うことができる超臨界流体抽出及び超臨界吸脱着分離技術の技術を確立し、連続式の前処理システムの構築を行って、ダイオキシン類分析の迅速化及び省力化に資することを目的としている。

【研究方法】
超臨界二酸化炭素を用いたダイオキシン類の抽出とその抽出物の分離・分画によるダイオキシン類分析における前処理負荷の軽減を目的とする研究開発の中で、まず、試料として用いた焼却飛灰中のダイオキシン類分布状況の確認と、物性と抽出現象との相関を確認するために、日内、日間における複数の飛灰サンプル中のダイオキシン類濃度を測定した。次に超臨界二酸化炭素によるダイオキシン類の抽出パラメーターの最適化を進めた。超臨界二酸化炭素による抽出では、圧力、温度、溶媒流量、抽出時間、被抽出物と溶媒の接触、溶媒の分散、補助溶媒の併用効果などが挙げられる。そのため、各パラメーターの影響について確認を行って最適な抽出条件を決定した。確認を行った条件は、抽出圧力は10、20、30、40、50MPa、温度は40、50、100、150、200℃における抽出率について確認した。抽出時間は1、2、4、8、16時間と変化させたときの抽出率について確認した。また、時間については比較のため、トルエン-ソックスレー抽出でも1、2、4、8、16、32時間抽出を行った。溶媒流量は、液体二酸化炭素流量ベースで5、10、15、20ml/minと変化させた。抽出容器内における溶媒(超臨界二酸化炭素)と飛灰の接触効率向上の影響を確認するために、不活性なガラスビーズを添加して、その添加率の変化と抽出率の関係について確認を行った。また、前処理工程における酸処理工程が、抽出に与える影響を確認するため、試料飛灰をそのまま抽出容器に投入して、超臨界二酸化炭素単独で抽出を行った。比較のため、トルエン-ソックスレー抽出法による非酸処理飛灰中のダイオキシン類抽出も行った。また、2N-塩酸による前処理を施した飛灰の抽出も行った。 抽出物の分離については、まず抽出物の溶出パターンを確認した。次に類似物質(アントラセン、ビフェニル)を用いて、超臨界二酸化炭素雰囲気下での分離試験を行った。HPLCを利用して個々の留分の分離能に関する検討を行った。

【結果と考察】
試料である焼却飛灰の均一性についての確認の結果、同一地域から同日に採取された焼却飛灰中にダイオキシン類の分布幅は極めて小さく、ほぼ均一に分布していることが確認された。また、日内及び日間における誤差も僅少であった。
非酸処理飛灰を用いた超臨界二酸化炭素抽出では、抽出圧力、時間を変化させたが、抽出率が低い上に、圧力依存性や時間の影響も確認できなかった。比較のために行ったトルエン-ソックスレー抽出法による非酸処理飛灰中のダイオキシン類抽出結果も同様に低かった。ところが、2N-塩酸で酸処理を行った飛灰の抽出では、圧力の増加に伴って著しく抽出率が向上する結果を得た。抽出温度は、臨界温度(≒31℃)に近いほど抽出率が高いことが確認された。抽出時間は、1時間でも16時間でも大きな差はなかった。同様の飛灰を用いて行ったトルエン-ソックスレー抽出法では、時間の経過に伴って抽出率が変化した結果と対照的であった。充填材の影響は、充填する量が増加すると抽出率も向上した。
これらのことから、酸処理を行わないとトルエンでも超臨界二酸化炭素でも抽出は困難であることが明確となった。これは、飛灰表面を覆っているカルシウム化合物が溶媒の粒子内への浸入を阻害しているためと考えられる。圧力や温度の影響については、接触させる超臨界二酸化炭素量に対して溶解するダイオキシン類濃度が極めて低いことから、ダイオキシン類の超臨界二酸化炭素に対する溶解度の影響よりはむしろ、飛灰粒子マトリクに吸着しているダイオキシン類の脱着、すなわち飛灰粒子からの抽出が促進されたと考えることができる。抽出時間については、1時間の操作で十分、抽出できることが確認された。このことは、時間消費が著しい抽出工程の迅速化に大きく寄与する結果であると考えられる。充填材の影響については、不活性なガラスビーズが微粒子である飛灰を満遍なく容器内に分布させることで抽出溶媒である超臨界二酸化炭素との接触効率を向上させたことに起因すると考えられる。供給する二酸化炭素に対して30ml/hrの有機溶媒(トルエンやメタノール)を補助溶媒として添加したところ、ほぼ100%の抽出率を達成できた。
超臨界二酸化炭素による抽出物の分離・分画技術では、まず、抽出されたダイオキシン類の溶出のパターンについて確認を行った。ダイオキシン類は、20~30分でほぼ全量が抽出され、co-PCB類は、ダイオキシン類より少し遅れて溶出した。溶出は、脱着現象のようにピークを持ったパターンを呈した。次に超臨界状態での分離確認のためダイオキシン類の類似物質(アントラセン、ビフェニル等)を用いて検討した。その結果、圧力の上昇に伴って、滞留時間は短くなり、ビフェニルに比べ、アントラセンがやや遅れて溶出した。HPLC(高圧液体クロマトグラフィ)における、ダイオキシン類の分離に関する検討では、移動層を変化させることで、試料中に存在するco-PCB類とダイオキシン類の溶出分離が可能なことを確認した。
2本の抽出カラムと昇圧効率向上のためのアキュムレーターを有する抽出装置を製作した。昇圧に要する時間は、立上げ時のみ必要で、30MPaで30分、50MPaならば45分程度となった。アキュムレーターの設置により、2本同時抽出が可能となった。抽出後の圧力降下に要する時間は30分程度必要であるが、昇圧に要する時間が軽減されるため、1検体あたりの抽出に要する時間は1.5~2時間で完結した。抽出後、ヘキサンにてライン洗浄を行って、系内のコンタミネーションを防止すると共に超臨界二酸化炭素で抽出したダイオキシン類をヘキサンに転溶した。その液にサンプリングスパイクを添加したあと活性炭、アルミナシリカゲルカラムなどを通過させて分離を行った。その検液で直接ダイオキシン類を定量した。同一ロットの飛灰を公定法で分析した濃度に比べてやや低くなったが、ライン洗浄と多層カラムの改良などを実施すること、多数のサンプルをクロスチェックすることで、実用化は十分可能であると考えられる。

【結論】
超臨界二酸化炭素を用いた焼却飛灰からのダイオキシン類の抽出は、圧力等の変化により抽出率の制御が可能である。ソックスレー抽出に比べて、非常に短時間で抽出が可能であり、また、複数の抽出カラムによって装置を構成すれば、昇圧や脱圧といった時間を加味しても1.5~2時間で1検体の抽出操作が完了したことから、超臨界二酸化炭素抽出法はダイオキシン類抽出操作の迅速化に大きく寄与する方法で、ソックスレー抽出法の代替法として実用化が可能である。分離については、抽出系統のクリーニングに用いるヘキサン等を脱圧後の抽出液と混合して、それをHPLCの検液として利用して分離する方法と抽出雰囲気を維持した状態で汎用的なODSカラムによって分離する方法が可能であると考えられる。抽出と分離を連続して行うことでダイオキシン類前処理工程の迅速化及び省力化が図られる。今後、公定法とのクロスチェックを行って実用化を進める。

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10. 久松 由東:プラスチック類の熱分解、燃焼反応による有害化学物質生成の抑制に関する研究
【研究目的】
軽い、腐食性、耐久性に富むなど色々な特性に富むプラスチック類は用途の拡大や開発が進められている一方で、プラスチック材料の廃棄量も年々増加している。プラスチック材料を焼却処理する際の熱分解、燃焼反応による有害物質の生成もまた懸念されて久しく、有害物質、特にポリ塩化ビニルの熱分解、燃焼反応によるダイオキシン類の生成については比較的よく研究されている。その一方で、癌(変異)原物質の生成の観点からの研究や抑制に関する研究は少なく、多環芳香族炭化水素の生成についての知見があるのみである。プラスチック類の熱分解、燃焼反応では有害化学物質が多種生成することが推察される。どのような物質が生成するかは素材であるポリマーの構造が主要因であるが、さらに共存するガス状物質や金属化合物等の影響による二次生成反応による有害物質の生成が推察される。本研究ではポリ塩化ビニルやポリエチレン等の使用量の多い数種のポリマーの熱分解、燃焼反応による有機塩素系化合物や変異原性試験に基づいた変異原物質の生成など有害化学物質の生成反応を、酸化鉄や酸化銅等の金属化合物や塩化水素等のガス状物質の共存下、さらに異種ポリマー共存下で行い、生成物の分離、同定や生成機構を解明する。これらの成果を基に、金属化合物の触媒作用等による有害化学物質生成の抑制や分別処理についての基礎資料を作成する。

【研究方法】
ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリエチレン(PE)の熱分解、燃焼反応は全自動開閉環状炉を用いて行った。熱分解、燃焼反応生成物の捕集にはU字管を2本用い、一方にはガス状物質の捕集材として多孔質ポリマーヒ゛ーズ、TENAX-TA、を充填し、もう一方には揮発性有機化合物の凝縮物(タール状物質)の捕集材として石英繊維製ウールを詰めて捕集した。反応は空気、酸素、窒素雰囲気下で行い、流速は約200ml/minに調整した。熱分解、燃焼反応終了後、石英繊維製ウールとTENAX TAを三角フラスコに取り出し、溶媒としてアセトンを加え、超音波抽出を行った。金属化合物が共存した実験では抽出物をnーヘキサンに再溶解し、この溶液にNaOH溶液を加えて振盪し、金属化合物をNaOH溶液相に分配し、除去した。nーヘキサン相を分取し濃縮、乾固した後、試料として用いた。反応生成物の変異原性試験は、Salmonella typhimurium TA98、TA100菌株を用い、Amesらの方法を一部改良したプレインキュベーション法により行った。反応生成物は多種存在するため、分取型高速液体クロマトグラフィーにより各成分含有分画を分取し、各画分についての生成物の定性分析は主にガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)を用いた。ベンゾ(a)ピレンなど多環芳香族炭化水素の定量分析には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、各化合物に特定の励起波長と蛍光波長を設定して行った。PVCやPEの重量変化は熱重量-示差熱分析装置(TG-DTA)を用い、熱重量変化と同時に生成する生成物の定性分析(燃焼反応により生成するCO2,PVCからのClの脱離により生成するHCl、多環芳香族炭化水素類の生成の指標としてベンゼンの生成)はTG-DTAとMSを接続して行った。また、反応に共存した酸化銅や酸化鉄等の状態の測定は粉末X線解析法(XRD)を用いた。 これらの実験方法、手法により、生活関連材料や建築材料として多量に用いられているPVC及びPEの熱分解、燃焼反応における酸化銅や酸化鉄等の触媒作用を、反応生成物の変異原性、生成物種や金属化合物の状態変化から解析した。また、焼却過程に於けるポリマーの混合組成の影響を、PVCとPEの混合について検討した。

【結果と考察】
ポリ塩化ビニル(PVC)の熱分解、燃焼反応により生成する揮発性有機化合物の濃縮物(タール状物質)は高い間接変異原性(約400℃)を示した。焼却過程ではプラスチック類は種々の金属化合物と混在し、焼却されることから金属化合物の共存下における熱分解、燃焼反応生成物の変異原性を検討した。酸化銅や塩化銅な銅化合物が共存すると熱分解、燃焼反応生成物の変異原性は直接変異原性が著しく高なり、非共存下の約40倍も高い。酸化鉄等、鉄化合物が共存すると反応生成物の変異原性は間接、直接変異原性共に著しく低くなる。一方、ポリエチレン(PE)の熱分解、燃焼反応生成物の変異原性は低く、生成物は主に直鎖状の脂肪族炭化水素である。酸化銅や酸化鉄の共存下では反応生成物の直接変異原性は高くなる。
これらの結果を基に、
1)金属酸化物の変異原物質生成における作用を、各々の熱分解、燃焼反応(400℃)生成物の生成プロファイルの変化や反応前後の金属酸化物の状態の変化等から解明した。PVCの熱分解、燃焼反応は3段階で起こり、200-360℃で塩化水素(HCl)が脱離し、残存するポリエンがDiels-Alder反応により、ベンゼン等の環状化合物を生成する。酸化銅が共存すると、TG/MS(熱重量分析/質量分析)の分析結果から、非共存よりもHClの生成が激減し、XRD(粉末X線回析法)分析より塩化銅の生成が認められることから、酸化銅はPVCから脱離したHClと反応し、塩素化される。この塩化銅が生成した環状化合物と反応し、有機塩素系化合物を生成する。すなわち、ジベンゾダイオキシン類、ポリクロロベンゼン類など多種の含塩素芳香族炭化水素が生成することから、著しく高い直接変異原性を示すものと思われる。Fe2O3等、酸化鉄が共存すると、XRD分析の結果から、PVCの熱分解、燃焼反応でFe2O3は構造変化しないことが認められた。Fe2O3が塩素化しないことでPVCの熱分解、燃焼反応に酸素を供給し、より効率的な燃焼が起こることが示唆された。また、酸化鉄が共存すると多環芳香族炭化水素(PAH)の生成量は定量分析から明らかに減少しており、GC/MS分析から、多種の脂肪族炭化水素の生成が認められ、これらの生成が変異原性を抑制しているものと思われた。
2)ポリマー材料の焼却過程におけるポリマー組成の影響を多量に使用されているポリエチレン(PE)とPVCの混合物について検討した。PE/PVCの熱分解、燃焼反応においては、PVCとPEの混在により難燃性の塩素化有機化合物の生成が増し、高温度領域で多段階的に熱分解反応が起こった。このポリマー組成による燃焼特性の変化は、生成物分布やその変異原性にも大きく影響した。PVCの熱分解、燃焼反応生成物が高い変異原性を示し、PEの熱分解、燃焼反応生成物の変異原性は低かったが、PE/PVC試料の熱分解、燃焼反応生成物は、PE/PVC混合比によらず塩基対置換型、フレームシフト型の双方に高い変異原性を示し、PVCおよびPEの熱分解、燃焼反応生成物の相互作用による変異原物質の生成が示唆された。生成物分布も変異原性に応じて変化した。PE/PVC試料の熱分解、燃焼反応ではPE量から推測される脂肪族炭化水素の生成量は抑制され、低分子量(3環系以下)のPAH等の生成量が増加した。HClやベンゼンの生成はPEとPVC単独の生成量から推測される加成性はなく、PVC/PE比の増加に応じて多くなる。PE/PVC試料では、PVC由来のClラジカルがPE炭素主鎖から水素を引き抜き、炭素ラジカル生成とCxHy付加の遂次的縮合による環形成が起こるためと考えられた。また炭酸ガスの生成はPVC/PE比が小さくなると低温で起こり、PEが低温から自己発火、燃焼すること等によりPVCの燃焼やその他の生成物の生成が促進される可能性も示唆された。反応過程において酸素不足下および窒素下では、熱分解反応が支配的に進むため、PEとPVCが混在することによる生成物およびその変異原性への影響は小さくなった。
3)CuO共存下でのPE/PVC試料の熱分解、燃焼反応生成物の変異原性は直接変異原性が著しく高くなり、一方間接変異原性は弱くなる傾向が認められた。CuOが共存したときの反応では、間接変異原性を示すPAHが塩素化されるか、塩素化された炭素鎖が環化することによって有機塩素系化合物が生成するものと思われる。PVCおよびPE/PVCの熱分解、燃焼反応では、脱離したHClはCuOと速やかに反応し、CuClとなることがXRD分析により示された。さらに、CuO共存下、PVCの熱分解、燃焼反応では、GC-MSの測定結果から、ジベンゾダイオキシンやジベンゾフラン類等多種の有機塩素系化合物が生成するのに対し、PE/PVC試料においてはPVC比が小さくなるにつれて有機塩素系化合物の生成が減少し、PE/PVC=2の試料では生成したタール状物質が非常に強い直接変異原性を示し、主にヘキサクロロベンゼンが確認された。しかし、PE比の大きいPE/PVCにおいてはPAHの生成が増加した。このことはCuClと芳香族化合物の接触確率が低下することによる有機塩素系化合物の生成の抑制がみられ、PAHの生成が促進されたものと思われる。

【結論】
ポリ塩化ビニルの熱分解、燃焼反応生成物の変異原性は非常に高く、間接、直接変異原物質が生成する。銅化合物が共存すると有機塩素系化合物等、直接変異原物質が多量に生成するが、酸化鉄が共存すると変異原物質の生成が抑制されることが認められた。一方、ポリエチレンの熱分解、燃焼反応生成物の変異原性は低いものの、酸化銅や酸化鉄等の金属化合物が混在すると変異原性が高くなり、また、ポリ塩化ビニル/ポリエチレンの混合系の熱分解、燃焼反応生成物の変異原性が高り、ヘキサクロロベンゼン等の生成が認められた。異種プラスチックの混在は廃棄焼却時の燃焼条件や酸化銅等の共存により、生成物の変異原性や生成物種等に大きく影響することが示された。これらの結果は、プラスチック類や金属材料等の分別収集や処理条件、小型焼却炉の燃焼温度等の条件の充分な管理が重要と考える。またポリ塩化ビニルを素材とした製品化等における酸化鉄の有効利用も考えられる。

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12. 諸頭 達夫:化学物質の循環・廃棄過程における制御方策に関する研究
【研究目的】
循環型社会を目指したリサイクルが推進されるなか、家電・OA機器等の廃棄・リサイクル工程において、それらに含まれる有害な金属類、難燃剤、及び廃木材に含まれる防腐剤等の化学物質等の環境への排出負荷を適切に制御する方策に関して、以下の6テーマについて分担して研究した。
テーマ[1]:廃家電等の資源化、処理工程における有害化学物質の環境負荷に関する研究
化学物質の循環・廃棄過程における制御方策の検討に向けて、化学物質の循環・廃棄での使用・廃棄の実態等を把握するとともに、今後、循環・廃棄過程において化学物質を適切に制御するための基本的な考え方を整理することを目的とした。
テーマ[2]:廃材の再利用に向けた再生工程での化学物質の挙動に関する研究
解体家屋一部の部材、木製電柱・枕木等は防腐・防蟻等の薬剤処理が施されている。これらの廃棄物は、焼却と埋立が一般的とされている。燃焼過程、埋立過程での挙動及びリサイクル過程での挙動について調査し、廃木材に適切に対処するためのシステム構築や制御策、リスク低減のために必要な基礎知見を得ることを目的とした。
テーマ[3]:真空加熱分離法による二次電池のリサイクルに関する研究
資源有効利用促進法により、OA器機等に使用されている二次電池の回収・リサイクルが、より一層促進される事が期待される。しかし、二次電池には水素吸蔵合金、リチウムイオンの発火など、安全面から課題が多い。
本研究は、真空加熱分離法(Vacuum Thermal Recycling :以下VTR法)を用い、ニッケル、コバルト、カドミウム、稀金属等の有用な金属を分離回収する条件を見出し、二次電池のリサイクル・回収方法の実証を行う。
テーマ[4]:家庭用パソコンのリサイクルによる環境負荷低減効果の評価に関する研究
有害物質を含むパソコンをリサイクルすることで得られる環境負荷低減効果について、コストベネフィット分析を行う。
テーマ[5]:マルチメディア型モデルを用いたリサイクルによる有害化学物質低減効果の評価に関する研究
パソコンおよび二次電池を対象として、これらが廃棄・循環利用される過程で、プラスチック製品の難燃剤に使用される有機臭素化合物や有害金属がどのような環境リスクをもつかを検討し、そのリスクを制御する方策の検討に資することを目的とした。
テーマ[6]廃棄物処理過程における化学物質の評価に関する研究
廃棄物処理分野の事故防止と事故抑制を図るため以下の調査を行った。
○廃棄物処理施設において過去に発生した事故事例をデータベース化、事故の特徴の把握
○ シュレッダーダストに付着する可能性の高い潤滑油(エンジン油)の発熱・発火危険性への金属の影響と発火温度低下の要因についての検討
○ 化学物質の混触が原因となった事故事例についての、熱量分析器を用いた事前評価の可能性の検

【研究方法】
テーマ[1]について  鉛、カドミウム、クロム、水銀、砒素、臭素系難燃剤等を対象とし、文献調査、ヒアリング調査等により、それら化学物質の使用・廃棄に係る実態を把握する。
テーマ[2]について
薬剤処理木材の排出形態は、解体家屋のように他の廃木材と一緒に排出されるものと、廃枕木、廃木製電柱のように薬剤処理木材のみで排出されるものとに分けて検討できる。前者は、平成11~12年度に実施した廃木材発生動態調査により、小規模事業者から事業系一廃として粗大ごみとして排出されるケースで、無機系、有機系薬剤処理されたものが混入していたことが確認されている。薬剤処理された廃木材は、焼却と埋立されるのが一般的とされているため、焼却過程での化学物質の挙動や埋立処分での溶出挙動についても調査した。12~13年度は、建設廃材からパーティクルボードの製造過程で発生する粉じん等に含まれる化学物資の調査、クレオソート処理された廃枕木のPAHs等の含有量調査するとともに、廃木材を原料とした活性炭製造過程で生成する木酢液についても調査するなど廃棄・循環システムでの化学物質の挙動を把握した。
テーマ[3]について
VTR法は、処理対象物を真空密閉な系にて加熱し、対象物中に含まれる物質の蒸気圧の差により蒸発・分離・回収する技術である。本研究では、炉の操作条件を圧力1.0~80.0×102 Pa(1~80mbar)、加熱温度100~800℃の範囲で、金属等の分離・回収特性を調査した。各操作条件での蒸発回収物の組成を分析する他、実験終了後炉内に残留した電池残さについて、重量、元素組成、性状の調査を行い金属としてのリサイクル、再資源化の評価を行った。
テーマ[4]について
パソコンのリサイクルにおいて大きな課題となっている回収・運搬コストを対象に、複数の収集シナリオを設定し、最も安価な回収シナリオを調査した。また、パソコンのリサイクルによる環境負荷低減効果、省資源効果など多角的に評価した。
テーマ[5]について
対象化学物質の物理化学性状と環境条件にもとづいて、マルチメディア型モデルを用いた運命予測計算を種々の排出シナリオのもとで行い、地域環境中に放出された後の定常時の環境内分布濃度と質量分布を評価し、リスク評価を行った。また、環境への排出量制御がどのようにこれらの物質による分布濃度およびリスク削減効果に寄与するのかを検討した。予測に必要な各種の物質特性値について広範な文献調査を行なったほか、特性値と分子内臭素置換数との相関関係に基づく推定によっても求めた。予測対象地域は神奈川県とし、マルチメディア型モデルであるフガシティーモデルレベルIIIまたは統合型リスク評価モデルであるEUSES ver.1.0を用いた。環境排出量に関して、仮想的な量を設定した場合、化学物質の用途に応じた排出係数を利用したモデル予測量を設定した場合の2通りを設定した。
テーマ[6]について
廃棄物処理施設において過去に発生した事故事例を要因別に整理し、データベース化した。近年数々の事故例が報告されているシュレッダーダストに注目し、シュレッダーダストの発火温度を高圧TG-DTAを用いて実測するとともに、シュレッダーダストに付着する可能性の高い潤滑油(エンジン油)の発熱・発火危険性への金属の影響を検討した。さらに、実際の事故事例の中から,化学物質の混触が原因と考えられる火災あるいは爆発事故の事例を取り上げ、熱分析器を用いて事故発生の有無をこれらの測定装置を使用することにより事前に検知可能であったかについて検討した。

【結果と考察】
テーマ[1]について
〇化学物質の循環について:文献調査等をもとに、鉛、カドミウム、クロム、水銀、砒素、臭素系難燃剤に関する循環・廃棄フローの量的な把握を試みたが、鉛については大筋で把握できたものの、カドミウム、クロム、水銀、砒素、臭素系難燃剤についてはその実態が不明な部分が残った。
〇化学物質の使用量削減努力について:ヒアリング調査等により業界団体、メーカーの取組み状況を調査した結果、業界団体、メーカーの中には数値目標の設定、原材料・部品に対するグリーン調達、製品審査基準等を設定し取組みを進めている例がある一方で、削減努力に対するコスト増を価格に反映できないなど、流通・消費者に対する理解が不十分等の問題が指摘されている。
〇業界全体としては代替品の開発、リサイクル容易な製品開発など循環社会形成に向けた取組みが行われている。
〇3ヵ年の調査により得られた化学物質の循環・廃棄の実態等に関する調査結果を踏まえて、今後、循環・廃棄過程において化学物質を適切に制御するための基本的な考え方を整理した。
テーマ[2]について
〇薬剤処理木材の発生動態について:小規模事業所から排出される粗大ごみの廃木材には、無機系(CCA、ホウ素)及び有機系(PCP、クレオソート)の薬剤で処理された可能性のあるものが確認され、また他の報告からも、現在これらの薬剤処理木材が排出されている可能性が高いと推察される。
〇薬剤処理木材の燃焼実験の結果:ラボスケールの燃焼炉において無機系薬剤処理木材から揮発した重金属類については、バグフィルタで効果的に除去されることがわかった。PCP処理木材については、PCPによる燃焼過程のPCDD/DFs挙動への影響として、二次燃焼過程まで高塩素化PCDDs支配の同族体分布があるケースが見られた。しかし、制御下においてはPCP及びその不純物であるPCDD/DFsはほとんどが分解された。一方、非制御下の燃焼においては、PCDD/DFsやPAHsは生成系となることがわかった。
〇薬剤処理木材の最終処分について:CCA処理木材からのクロム、銅、ヒ素の溶出が著しく、特にヒ素については溶出が長期に及ぶ可能性の高いことがわかった。また、ホウ素系薬剤処理木材からのホウ素の溶出について、溶出率は粉体試料で70~100%に達すること、特に初期に大半が溶出する可能性があることがわかった。
〇薬剤処理木材のリサイクリングについて:
(1)市販されているクレオソート及び廃枕木等に含まれるPAHs(US EPA指定16種)及びPCDD/DFsの含有量を分析した結果、国内で市販されているクレオソート油及び廃枕木にはベンゾ[a]ピレンがそれぞれ930ppm、40ppm(平均)含まれており、いずれも欧州の規制値(生産・販売禁止)を上回る値と考えられた。
(2)クレオソート油、廃枕木表層及び芯部におけるPAHsの分布から、枕木使用中のPAHsの挙動として、低分子量PAHsは表層から多量に揮発・流出する一方、高分子量PAHsは芯部へ浸潤後ほとんど移動せず、廃枕木中にも多く残存する、と考えられた。
(3)廃枕木からは比較的高濃度のPCDD/DFs(24ng-TEQ/g)が検出され、PCPにより一次処理されていた可能性が考えられ、目視によるクレオソート処理の判断だけでは対処できないものがあることが示唆された。このPCDD/DFsの含有については、一試料のみの分析値であり、検体を増やして検証する必要がある。
(3)活性炭製造プラントにおける調査においては、重金属類や残留性有機汚染物質は全て問題のないレベルであり、サンプリング時に供給された廃木材は適切に原料選択され、加工されていたと考えられた。
(4)市販されている木酢液に含まれるPAHs(US EPA指定16種)及びPCDD/DFsの含有量を分析した結果、高分子量PAHsがほとんど含まれておらず、またPCDD/DFsも検出されず、適切に原料選択・製造が行われていたものと思われた。ベンゾ[a]ピレンも検出されなかったが、ベンゾ[a]ピレンを1とするTEFsを用いて木酢液摂取(飲用)による暴露評価を行うと、一部の木酢液は実質安全用量(VSD)をやや上回る結果となった。ただし、このVSDでは過大評価を招く可能性があり、確実に問題となるのは、原料として薬剤処理木材が供給された場合や、不適切な製造方法がとられた場合と考えられる。
テーマ[3]について
〇VTR装置を用いて温度など操作条件を検討し、リチウムイオン電池ではリチウムを不活性化でき、ニッケル水素電池は真空雰囲気なので爆発を起こすことなく処理できた。
〇二次電池の電解液は蒸発・分離でき、安全かつクリーンにリサイクルする処理条件を確立できた。
〇VTR処理で金属類のリサイクル率を算定するとニッケルカドミウム電池では84wt%、リチウムイオン電池では50~70wt%、ニッケル水素電池では76wt%と期待できる。
テーマ[4]について
〇家電リサイクル法の収集システムを利用しつつ、ノート型パソコンを消費者が直接電気店に排出するケース(家電リサイクル法収集方式)が最も収集コストが安価となった。 〇パソコンのリサイクルによって、人への有害影響、資源枯渇性、地球温暖化といった項目での環境影響が低減されることが分かった。
テーマ[5]について
〇有機臭素化合物11種の予測から、ブロモベンゼンを除いて大気中の存在割合はきわめて小さく、土壌中に主に分布するか、または、オクタノール/水分配係数(KOW)がlog KOW:8以上の化合物では主に底質に蓄積する。log KOW:4程度以下の化合物では水中の存在割合も大きくなることが認められた。
〇リスク評価の結果、呼吸による摂取リスクは非常に小さかったが、すべての摂取経路を含めたリスクは高くなり、特にテトラブロモビスフェノールAについては呼吸のみに比べ106倍高くなることが示された。
〇金属については摂取量に関する収集データをもとに、カドミウムと砒素についてはリスクが高いという結果を得た。
テーマ[5]について
〇廃棄物処理施設において過去に発生した事故事例に関するデータベース化し、これら事例を発生工程,発生原因,被害状況等により分類・整理し,事故発生の特徴を把握した。
〇近年数々の事故例が報告されているシュレッダーダストに注目し,シュレッダーダストの発火温度を高圧TG-DTAを用いて実測した。またシュレッダーダストに付着する可能性の高い潤滑油(エンジン油)の発熱・発火危険性への金属の影響を検討し,発火温度低下の要因を考察した。
〇実際の事故事例の中から,化学物質の混触が原因となり火災あるいは爆発事故に至った事例を取り上げ,化学プロセスにおける熱危険性評価ツールと使用されている,C80,ARCおよびRSSTといった熱分析器を用いて,事故発生の有無をこれらの測定装置を使用することにより事前に検知で可能であったかについて検討した結果,RSSTは化学物質の混触危険性を判断する上で有用なツールとなりうることを明らかにした。

【結論】
テーマ[1]について
〇6種の化学物質の国内での循環について整理した結果鉛については概ね把握できた。
〇現在廃棄されつつある世代の家電4品目、パソコン・携帯電話などを対象に鉛の使用量を概ね把握できた。
〇現在製品化さている家電製品については、メーカー毎に化学物質削減に向けての数値目標を設定しているので廃棄・循環過程での化学物質の削減は期待される。
〇家電リサイクル法の施行によって一般廃棄物中間処理施設の焼却残さ中の鉛含有量は減少している事例は見られるがさらに調査が必要である。
テーマ[2]について
〇小規模事業所から排出される粗大ごみに薬剤処理木材が排出されている可能性があった。〇薬剤処理木材の焼却、埋立処分過程での薬剤の挙動を明かにできた。
〇燃焼実験により、無機系薬剤処理木材から揮発した重金属類については、バグフィルタで効果的に除去されることがわかった。
〇PCPで処理された木材を制御下で燃焼するとPCP及びその不純物であるPCDD/DFsはほとんどが分解されたが、非制御下の燃焼では、PCDD/DFsやPAHsは生成系となることがわかった。
〇市販されているクレオソート油及び廃枕木にはベンゾ[a]ピレンがそれぞれ930ppm、40ppm(平均)含まれており、いずれも欧州の規制値(生産・販売禁止)を上回る値と考えられた。
〇クレオソート油、廃枕木表層及び芯部におけるPAHsの分布から、枕木使用中のPAHsの挙動を明らかにした。
〇クレオソート処理されている廃枕木から比較的高濃度のPCDD/DFs(24ng-TEQ/g)が検出され、PCPにより一次処理されていた可能性が考えられ、目視による判断だけでは対処できないものがあることが示唆された。
〇活性炭製造プラントにおける調査においては、重金属類や残留性有機汚染物質は全て問題のないレベルであり、プラントに供給される廃木材は適切管理されていたと考えられた。
〇市販されている木酢液には高分子量PAHsがほとんど含まれておらず、またPCDD/DFsも検出されず、ベンゾ[a]ピレンも検出されなかった。
〇入浴用などの木酢液を誤飲をすると、一部の木酢液は実質安全用量(VSD)をやや上回る結果となり、原料として薬剤処理木材が供給された場合や、不適切な製造方法がとられた場合では、問題になると考えられる。
テーマ[3]について
〇廃棄二次電池の安全な処理、リサイクルにおいてVTR法は非常に有効な手段であり、電池の開発と共に二次電池のリサイクル技術の確立は、ますますその重要性が増すと考える。
テーマ[4]について
〇廃パソコン収集コストの考察から、分別型家電リサイクル法収集方式が最も安価であることが分かった。また、環境影響低減という面よりパソコンリサイクルの正当性を確認できた。
テーマ[5]について
〇有機臭素化合物を対象に、排出シナリオを種々設定することにより環境中での定常時濃度を予測し、これと環境排出シナリオとの関連性を抽出して有機臭素化合物の環境リスク削減方策を検討した結果、環境挙動の特徴を各化合物について把握することができた。
〇実際に水域および底質の濃度を測定し、従来数少なかったこれらの化合物に関するデータを取得した。予測結果の検証を行い、また実測から推算される排出量を得た。
テーマ[6]について
〇事故事例のデータベース化により、事故の原因、被害状況等を多角的に整理し、事故の特徴を要因毎に整理できた。
〇シュレッダーダストの発火温度を実測し、エンジン油の発熱・発火危険性への金属の影響を把握できた。
〇化学物質の混触による火災・爆発事故の事前検知に、熱分析器(RSST)が有効である。

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18. 平石 明:生物学的ダイオキシン分解技術の開発研究
【研究目的】
本研究の目的は、自然界における微生物群集および分離微生物のダイオキシン分解機構に基づいて、ダイオキシン汚染環境の修復やダイオキシン含有土壌・焼却灰の分解処理に適用できる生物学的技術を開発することである。まず、環境微生物群集のダイオキシン分解ポテンシャルとその分解機構を解明することを目的として、ダイオキシン汚染環境、湖沼底土、およびコンポスト化処理過程における微生物群集構造とダイオキシンの分解活性を調べた。次に、生分解技術に適用できると考えられる既知細菌や新規分離菌の分類学的特性評価と同時に、分解活性、分解代謝経路、およびダイオキシン分解性と細胞表層構造について研究を行ない、分解技術開発のための基礎情報とした。また、特定分解細菌のモニタリングのためのプローブとしてRNAアプタマーの創製を試みた。そして最終的に、ダイオキシンの還元的脱塩素化と好気的酸化分解の原理を適用した分解技術の開発を目的として、嫌気・好気式固相バイオリアクターを考案し、本リアクターによる分解性能を評価した。

【研究方法】
環境試料として大阪府豊能郡能勢町のダイオキシン汚染土壌および長野県諏訪湖の底泥を用いた。多塩素化ジベンゾ-p-ジオキシン/フラン(PCDD/Fs)は定法により抽出分画し、GC/MS法で分析した。微生物の分析には培養の他、キノンプロファイル法、FISH等の蛍光顕微法を用いた。ジベンゾフラン(DF)分解菌は生理生化学的性状、化学分類学的性状および16S rDNA塩基配列の系統解析に基づいて分類同定した。黄色代謝産物を産生するDF分解代謝経路についてSphingomonas yanoikuyae B1の培養液を用いて調べた。その培養液から黄色代謝産物をHPLCで分離し、吸収スペクトル、NMR、質量分析によって構造解析を行なった。Sphingomonasのスフィンゴ糖脂質(GSL)の構造解析にはNMR,質量分析を用いた。膜透過性の測定には、細胞膜に取り込まれると強い蛍光を発する1-N-phenylnaphthylamineを用いた。RNAアプタマーの創製には標的菌としてSphingomonas yanoikuyae B1株を用いた。SELEX法により、菌体への親和性が高いRNA分子の集団を得た後、サブクローン化によって単離した各々のアプタマーの結合能を5'末端放射性標識法で定量評価した。固相バイオリアクターとして、市販家庭用生ゴミ処理機を改造したものを用いた。このリアクターにダイオキシン含有焼却灰2 kg、市販分解基材(木材チップ)2 kg、馴養済みコンポスト2 kgを入れ、生ゴミを電子供与体および栄養源として添加し、運転を行った。リアクターは原則として1日あたり5分間撹拌、55分間停止の12サイクル(計12時間)と12時間完全停止の組み合わせで運転した。適宜リアクター内の処理物を採取し、PCDD/F同族体の消長を分析した。

【結果と考察】
本研究における主要6テーマについての結果を、順次以下に示す。
1.環境微生物群集と分解ポテンシャル
 ダイオキシン汚染土壌の微生物調査を行なった結果、非汚染土壌とは異なる特異的な微生物群集構造が認められ、また、これらの微生物群集はPCDD/Fsを脱塩素化できることが明らかにされた。同様のPCDD/Fsの還元的脱塩素化は、湖沼底泥を静置嫌気培養したときにも確認された。さらに、生ゴミを処理するコンポスト化過程においてもPCDD/Fsが脱塩素化される現象が認められた。これらの事実から、自然界や汚染環境におけるダイオキシン生分解の主要機構の一つが還元的脱塩素化であることが示唆される。
2.新規ダイオキシン分解菌の分解活性および特性評価
 ダイオキシン汚染環境には還元的脱塩素化を示す微生物群集と同時に、DF分解能を示すSphingomonas属細菌や高G+Cグラム陽性細菌等の好気性細菌が存在していることがわかった。しかし、DF分解性の細菌分離株についてダイオキシンの分解性を調べた結果、単独でPCDD/Fsを分解できるものは無かった。河川水およびダイオキシン汚染土壌から分離された新規DF分解菌7株は、DF分解時に黄色代謝産物を生成するグラム陽性細菌で、Nocardioides属の新種とすべき細菌であることが判明した。
3.ダイオキシン分解性Sphingomonas属関連細菌の分類およびモデル化合物分解機構
 ダイオキシン分解菌として知られてきたSphingomonas sp. RW1の分類学的性状を精査し、新種名Sphnignomonas wittichii sp. nov.を提唱した。また、同系統のグループにいくつかのDF分解菌を認め、その中の一つを新種Porphyrobacter sanguineus sp. nov.として命名提唱した。P. sanguineusやSphingomonas yanoikuyae B1はS. wittichiiとは異なり、DF分解時に黄色代謝産物を産生した。この分解代謝系を解明するために、B1株の黄色代謝産物の同定を進めた。初期分解生成物として、2種類の黄色色素1、2が生じることがわかった。黄色色素1は、DFの芳香環の水酸化、メタ開裂によって生じた化合物(分子量232)で、ケト・エノール互変異性があることが明らかとなった。一方、黄色色素2は、黄色色素1と類似した構造を有していると類推され、黄色色素1とは独立に生成する化合物(分子量232)であった。この代謝系は、従来の微生物には見られない新規のダイオキシン類の分解経路を有している可能性が示唆される。
4.ダイオキシン分解性と表層構造、膜透過性の関係
Sphingomonas wittichii RW1株について、膜構成脂質であるスフィンゴ糖脂質GSLの化学構造を詳細に調べたところ、本菌のGSLはS. yanoikuyaeと類似しているが、糖のアノマー構造に違いがあることが明らかになった。次にSphingomonasに属する既知の分解菌およびその他のSphingomonas属菌株について、膜のGSL組成と疎水性物質透過性の関係を調べた。糖鎖が長いGSLを有する菌株に比べて単糖型GSLのみを持つ菌株は疎水性物質の透過性が高い傾向がみられたが、GSLに加えて莢膜様物質の影響も考慮に入れる必要があることが示唆された。
5.Sphingomonas属細菌に特異的なRNAアプタマーの創製
 ダイオキシン分解菌のモニタリング技術の開発として、Sphingomonas yanoikuyae B1に特異的に結合するRNAアプタマーの創製を試みた。10ラウンドのSELEXによって得られたRNAアプタマーを選択取得したところ、この中の5クローンに高い結合能がみられ、RNAアプタマーによる特異的プローブ作成の可能性が示された。
6.固相バイオリアクターによるダイオキシンの分解
 固相バイオリアクターに焼却灰を入れ、電子供与体および栄養源として生ゴミを添加しながら運転したところ、262日目でPCDD/Fsの減少率は70%となった。同時に、リアクター内の3塩化以下の低塩素化ダイオキシンを測定した結果、その分解率はPCDD/Fsの分解率とほぼ一致した。したがって、リアクター内ではPCDD/Fsの還元的脱塩素化と生成した低塩素化物の好気的酸化分解が同時進行し、効率よくダイオキシンが分解除去されたものと考えられる。さらに、固相バイオリクターの最適条件でより高濃度のダイオキシンを含む焼却灰の処理を試みたところ、リアクター内初期濃度約1,800 pgTEQ.g-1 dry wtのPCDD/Fsが3カ月で約50%分解除去されることを確認した。これは、PCDD/F分解除去速度約30 ng.g-1 dry wt.month-1 (300 pgTEQ.g-1 dry wt.month-1) に相当する。

【結論】
本研究において、ダイオキシン汚染土壌、湖沼底土、およびコンポスト系の微生物群集が還元的脱塩素化反応によってPCDD/Fsを低分子化できることが明らかにされた。またSphingomonas属関連細菌や新規グラム陽性細菌等の好気性細菌に新しいDFの分解代謝経路が存在することも示唆され、このような細菌が汚染環境に共存していることも確認された。これらの事実は、還元的脱塩素化を行う微生物群集と酸化的分解を行う好気性細菌の組み合わせによって、ダイオキシンを効果的に分解できる可能性があることを示唆している。還元的脱塩素化と酸化的分解の原理を固相バイオリアクターに応用したところ、最適条件で、PCDD/F分解除去速度約30 ng.g-1 dry wt.month-1 (300 pgTEQ.g-1 dry wt.month-1) が得られた。このような固相バイオリアクターによるダイオキシンの分解除去技術は、特に汚染土壌や焼却灰を直接処理する目的に適用できると考えられる。

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20. 筧 淳夫:医療廃棄物の減量及びリサイクルに係る環境負荷に関する研究
【研究目的】
医療機関から排出されるいわゆる医療廃棄物については,その処理の問題から始まって,医療廃棄物の減量化やリサイクル,そして院内における適正な医療廃棄物管理手法など様々な問題が顕在化している.環境問題が最重要視されるこれからの時代にあっては,継続可能な安全で環境負荷の少ない廃棄物処理システムを確立することが今後の医療施設の経営指標として欠かせない条件となりつつある.また一方で,医療廃棄物処理に関わるコストを考慮に入れた廃棄物管理も経営的側面から重要であり,これらの適切なバランスを配慮した指針を示す必要があるものと思われる.そこで,本研究においては環境負荷から評価した新しい医療廃棄物処理システムと,医療施設内における廃棄物のマネージメント方法に関するガイドラインを明らかにすることにより,これからの医療施設における廃棄物管理の指針を得ることを目的としている.

【研究方法】
平成11年度は廃棄物処理法の改正およびダイオキシン特別措置法に各医療施設での処理の状況および今後の取り組み等について全国アンケート調査及び実施調査を行い,また医療廃棄物処理の制度の改正と医療現場での取り組みと問題点についての検討を行った.アンケート調査対象病院は全国の病院9,339病院であり,2,911病院(回答率31.7%)より回答を得た.
平成12年度は医療施設及び在宅における医療廃棄物管理の問題を明らかにするために、欧米における先進的な事例と様々な規制を明らかにした。そのために、医療施設の管理実務者や廃棄物処理業者、および医療施設コンサルタント、医療施設計画研究者などによる研究班を開催し、フランス、ドイツ、米国における医療施設内における医療廃棄物管理の現状とそれらを取り巻く規制・ガイドライン等の周辺環境について分析を行った。
平成13年度は,医療施設内における医療廃棄物のマネージメントについて検討を行うために,国内の先進的な廃棄物マネージメントを行っている医療施設を複数施設取り上げ,詳細な実地調査を行うとともに,現状の医療施設内における廃棄物管理の問題点を明らかにした.また,環境問題において数多くの蓄積を持っているオーストラリアのニューサウスウェールズ州における医療施設内での廃棄物管理に関する現状を,法制度の側面,及び医療機能評価の問題とも絡めて調査を行った.

【結果と考察】
平成11年度の結果は以下の通りである.
アンケート回答病院の内,焼却炉を用いて院内処理をしている施設が390病院(13.4%)あることが分かった.またこの内,感染性廃棄物を焼却炉にて処理しているのは108施設(3.7%)にすぎないことが分かった.
また,厨芥類の院内処理を行っている施設は52施設(1.8%)あり,このうちコンポスト処理をしている病院は38病院あった.
医療廃棄物の組成モデルからみると,500床の病院を例に取ると,一般可燃物は約300kg/日,感染性廃棄物も約300kg/日,紙おむつは約150kg/日,厨芥類は約450kg/日あることから,厨芥類のコンポスト化は医療廃棄物の排出量を抑える上での大きな効果が期待できる.
おむつに関しては回答病院の約96%以上が紙おむつを使用していることが分かる.
紙おむつの使用についても,ダイオキシン類の削減に配慮して,布おむつ等への切り替えを指示する声があるが,おむつ業界によるダイオキシンの試験結果からみると,適正な焼却炉で焼却する限りにおいてダイオキシン類の排出量は少ないことが分かる.
平成12年度の結果は以下の通りである.
フランス、ドイツ、米国の各国における医療施設内及び在宅における医療廃棄物管理の現状を明らかにするために、文献及び現地調査を実施した。その結果を各国別に示す。
●フランス
[フランスにおける廃棄物処理の概要]
[廃棄物処理関連法の重要なポイント]
[危険廃棄物処理に関する規約]
●ドイツ
[医療性廃棄物の定義と分類]
[処理方法の原則]
[医療性廃棄物の概念と特殊性]
●米国
米国には医療の質を評価する団体であるJCAHOが活発に活動を展開している。このJCAHOの評価項目の中に、Environment of Careが位置付けられている。これは、治療環境の質を評価する項目であり、そこ評価項目の中に下記の7つの項目が上げられている。
1.Safety Management(安全性の管理)
2.Security Management(セキュリティ管理)
3.Hazardous Materials and Waste Management(危険物質及び医療廃棄物の管理)
4.Emergency Preparedness Management(危機管理プログラム)
5.Life Safety Management(防火管理)
6.Medical Equipment Management(医療機器管理)
7.Utilities Management(設備管理)
平成13年度の結果は以下の通りである.
国内の医療施設における実態調査及びオーストラリアにおける医療施設内での医療廃棄物の取り扱いの問題の調査結果をもととして,以下のように医療廃棄物の院内管理に関する指標を策定した.
1.廃棄物管理の必要性
医療施設内において廃棄物を適正に管理することは,単に様々な疾病の感染を防止するだけでなく,患者をはじめ,医療スタッフそして廃棄物を取り扱う作業者の安全を確保するとともに,医療施設から排出する廃棄物の減量に関連している.
2.廃棄物管理の経済性及びコスト管理について
廃棄物管理に関わる費用の問題についてはただ単に処理に関わるコストを管理するだけでなく,対象物品の購入価格及びそれらを再生する費用と処理に関わる費用との関係において検討する必要がある.
3.廃棄物の分類
いわゆる廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物に分けられ,これらは感染性の観点から感染性一般廃棄物と感染性産業廃棄物に分けられている.ここで問題となるのは,明らかに感染性ではないと分かっている廃棄物で血液や体液等が付着した廃棄物の取り扱いの問題である.一般に非感染性廃棄物でありながら,血液や体液が付着したというだけで,感染性廃棄物の取り扱いをすることは,病院の運営において処理コストに多大なる負担をかけることとなる.
4.廃棄物の分別
分別方法として,感染の可能性による分別,液体,鋭利物,固体などの形状による分別,リサイクルの可能性による分別がある.また廃棄物に直接触れる人数を限定するといった観点から,できる限り分別はその医療廃棄物が発生する現場においてなされることが望ましい.
5.医療廃棄物の一時保管場所
部門毎の一時保管場所のスペースは,医療廃棄物の分別の種類,数とそれぞれの廃棄物を搬出する頻度との関係によって決まることとなる.
6.医療廃棄物の回収・搬送
医療廃棄物の回収・搬送は,対象となる廃棄物の感染性の有無,回収容器の形状,それぞれの廃棄物の重量,そしてその容積によって方法が異なる.また,それらの搬送ルートについては他への汚染のリスクを少なくするために,専用の搬送ルートを確保することが望ましい.
7.廃棄物集積所
廃棄物業者が業務を円滑に進めるために目途に合わせた区分整理ができるように十分なスペースが必要である.

【結論】
近年,廃棄物処理法等の改正に伴い,焼却炉により院内処理を行う病院の数が減ってきている.さらに,平成12年1月の「ダイオキシン類特別措置法」施行に伴い,法的適用を受ける焼却炉の規模がこれまでの200kg/hであったものが50kg/hにまで引き下げられた.多くの病院がこの基準に抵触することになり,焼却炉の改造費用や維持管理費用の面から焼却炉による院内処理を行う施設が激減してきている.
一方,医療廃棄物の管理については、ひとつにはフランス及びドイツに見られたように廃棄物が発生する現場において徹底的に分別を行い、コストのかかる感染性廃棄物の総量を減らすことにより、廃棄物処理にかかるコストを削減し、同時にその後の廃棄処理における安全性を確保する方法がある。また米国に見られたように、感染の可能性のあるものをスタンダードプレコーションとして広くとらえ感染性廃棄物として処理する方法がある。わが国では病院内での医療廃棄物の管理に関して,こうした米国に見られた方法が少しずつ広まってきているようにも思えるが、院内におけるより適切な医療廃棄物の管理方法がその後の院外での廃棄物処理にも深く関連をもつことを考えると、医療廃棄物の処理問題は院内での管理方式から最終処分までを一連の流れとしてシステム化する必要性があると考える。
そうした中で,研究の最終年度に廃棄物管理の指針を整理したが,これら医療施設における廃棄物の管理を適正に継続するには,医療スタッフに対する継続的な教育・啓蒙活動が必要不可欠である.近年,Infectious Control Nurse(感染管理看護師)などを院内に配置し,院内感染予防に積極的に取り組んでいる医療施設もあるが,これらの問題についてただ単に医療職のみが関わっている事例も少なくない.こうした活動に積極的に事務職,特に施設管理に携わっている職員が関与する必要性が感じられる.

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29.川島 修:RDFの利用促進に関する研究
【研究目的】
本研究は、ごみの広域化処理の推進とごみを資源としてできる限り有効活用しようとする社会的要求に基づき、全国的に設置が推進されているRDF施設及び製造されるRDFの安全性について実証的研究を行う。併せて、既存の有効活用方法である小型ボイラ、地域暖房用ボイラ等についてRDF利用の有効性及び環境負荷面からの安全性について実証的研究を行う。
平成10年~11年度研究「RDF施設におけるダイオキシン類の生成に関する研究」では、RDF中のダイオキシン類がごみに比較してやや多いこと等が確認された。その結果を受けて、本研究ではRDF施設におけるごみ及びRDF中のダイオキシン類について実態をさらに解明するとともに、ダイオキシン類の低減化方策の検討を行うこととした。また、RDF利用促進に向けて、現在のRDFの利用先を調査するとともに、新たな利用先の確保について調査・検討を行うこととした。

【研究方法】
1 RDF施設でのダイオキシン類の実態調査
平成12年度は、稼働中の10ヶ所のRDF施設でごみ及びRDF中のダイオキシン類を調査するとともに、製造工程におけるダイオキシン類の増減を検討するため1施設において乾燥前、乾燥後、成形後のダイオキシン類を測定した。平成13年度は、3ヶ所のRDF施設で乾燥前、乾燥後、成形後のダイオキシン類等の追加調査を行った。
2 RDF利用可能施設での実用試験
平成12年度に、下水道汚泥溶融施設でRDFを燃料として利用する試験を行い、RDFの利用可能量、RDF利用の利点や課題について調査を行った。
3 RDFの利用状況及び研究情報の調査
平成12年度に、RDF施設(36施設)を対象にRDF利用の実態調査を行うとともに、RDF利用が行われているセメント業界と製紙業界に対してRDF利用の実態調査を行い、合わせてRDF利用に関する研究の文献調査を行った。
4 RDF利用促進に向けた技術検討調査
RDF利用促進には、民間企業での利用拡大を前提に、RDF利用にあたっての課題とその解決策について検討を行った。

【結果と考察】
平成12年度調査結果
1 RDF施設でのダイオキシン類の実態調査
(1)10施設のダイオキシン類毒性等量(乾ベース、以下同じ)は原料ごみで0.29~8.0pg-TEQ/gで、RDFで2.9~8.7pg-TEQ/gで、全ケースでRDFの方が高く、RDF製造工程でダイオキシン類が増える傾向にあることが確認された。
(2)1施設でのRDF製造工程別のダイオキシン類毒性等量は乾燥前(原料ごみ)2.1pg-TEQ/g、乾燥後3.0pg-TEQ/g、成形後(RDF)3.1pg-TEQ/gと増加する傾向が確認された。
(3)10施設の調査では、乾燥機入口温度等とダイオキシン類の増加率(RDFのダイオキシン類/原料ごみのダイオキシン類)及び増加量の相関係数は低く、明らかな相関は見られなかった。また、製造工程の調査では、成形前(乾燥後)に比べ成形後の方がダイオキシン類絶対量は低かった。
2 RDF利用可能施設での実用試験
(1)下水道汚泥溶融施設でのRDFの使用可能量は、コークスとの熱量比率で概ね60%であった。
(2)RDF使用による二次生成物(排ガス、排水、スラグ、脱水ダスト)への影響はほとんど無かった。
3 RDFの利用状況及び研究情報の調査
(1)RDF施設設置者及び利用先に対する調査
[1]RDFの製造施設内での利用は冷暖房、給湯、ごみの乾燥熱源用が主である。RDFの主な利用先は、業種ではセメント製造業、製紙業等、利用方法ではボイラ燃料、セメント焼成炉燃料、補助燃料、冷暖房・給湯熱源であった。RDFの運搬・引取では、運搬費は製造者負担、引取では利用者が買い取るケースが多かった。
[2]利用先での問題点は塩素含有、不適物含有、臭気等を、利点として循環型社会あるいは地域社会への貢献、コストダウンである。
(2) 製紙業界、セメント業界に対する調査
製紙工場31事業所、セメント製造会社19社に利用実態に関するアンケート調査を行った。 [1]製紙業界では、熱量不足、品質不安定、塩素含有、ダイオキシン類発生等の理由から、回答のあった20工場のすべてが「使用するつもりはない」との回答であった。
[2]セメント業界では、16社中の6社が使用しており、1社が使用を計画しているとなっており、使用量は2,500~7,700t/年であった。
平成13年度調査結果
1 ごみ及びRDF中のダイオキシン類の実態調査
(1)ダイオキシン類毒性等量は、乾燥前1.2~5.0 pg-TEQ/g、乾燥後1.8~2.8 pg-TEQ/g成形後2.9~3.5 pg-TEQ/gで、乾燥前に比べ乾燥後の値が高かったものは2ケース、低かったものは4ケースであった。また、乾燥後に比べ、全ケースともに成形後の値が高かった。乾燥前(原料ごみ)に比べて成形後(RDF)の値が高かったものは3ケース、低かったものは3ケースであった。
(2)乾燥前、乾燥後、成形後において、ダイオキシンの同族体別、コプラナPCBの異性体別の絶対量、毒性等量と同族体、異性体の比率との関係は確認できなかった。
(3)乾燥前後でのダイオキシン類の増加率、増加量と乾燥機入口温度、乾燥機滞留時間等との相関係数は低かった。
(4)ごみの種類組成別のダイオキシン類調査結果をもとに、ごみの種類組成比率からごみのダイオキシン類(乾ベース)を計算したが、計算値と実測値の相関係数は低かった。
2 RDF利用促進に関する技術検討調査
RDFの新たな利用先として、民間工場でのボイラ熱源としての利用を検討するために、製紙工場を例に、RDFボイラと石油ボイラとでケーススタディを行い経済性を比較した。RDF利用が適当と考えられる蒸気使用量10~40t/h規模の製紙工場を想定し、石油ボイラをRDFボイラに変更した場合の経費削減分を相対的利益として投下資本利益率を試算したが、投下資本利益率は-8.5~9.5%と民間企業の投資意欲が高まると言われる15%以下であった。一方、RDFボイラ設備費に対して50%公的補助を行った場合、もしくは、RDF購入に対して補助(6,000円/t-RDF)を行った場合には、蒸気使用量が30t/h規模で投資利益率が15%以上となり、民間企業のRDFボイラ設置に対する投資意欲が高まると考えられる。

【結論】
1 ごみ及びRDF中のダイオキシン類の実態調査
(1)原料ごみ中のダイオキシン類濃度について
原料ごみのダイオキシン類濃度は、平成12年度調査で0.29~8.0pg-TEQ/g、平成13年度調査結果で1.2~5.0pg-TEQ/gであり、平成11年度に実施された他の調査結果、1.63~3.46pg-TEQ/gと同レベルの値であった。
(2)RDF製造工程でのダイオキシン類の増減
[1]2年間の結果では、RDF製造工程において原料ごみに比べRDFのダイオキシン類が増えるという明らかな傾向は確認できなかった。
[2]平成13年度の結果では、乾燥後に比べ成形後に増える傾向が認められ、その要因として成形工程における圧力下での摩擦等が考えられるが断定はできない。
[3]原料ごみ中ダイオキシン類濃度のばらつきの大きいことが、RDF製造工程におけるダイオキシン類の増減の解明が困難なことの一因と考えられる。
(3)RDF中のダイオキシン類濃度について
RDFのダイオキシン類毒性等量は、平成12年度調査結果で2.9~8.7pg-TEQ/g、平成13年度調査結果で2.9~3.5pg-TEQ/gであったが、参考となる土壌に関する基準等と比較して、RDF中のダイオキシン類濃度はRDF施設の作業環境や周辺環境へは影響のないレベルであり、製造、貯蔵、運搬、使用の各段階において問題のないレベルであると考えられる。
2 RDF利用促進に関する技術検討調査
(1)RDFの利用促進には、RDFの民間工場での利用、特にボイラ熱源としての利用が有効と考えられる。
(2)現状では、RDFボイラは石油ボイラと比較して経済的に不利であるため、民間企業がRDF利用に対して投資意欲を高める方策が必要である。RDF利用設備の建設やRDF購入に対する、未利用エネルギーの利用やCO2削減を名目とした公的補助もひとつの方策と考えられる。
(3)適切なサーマルリサイクル推進に向け、RDFを「循環資源」として位置づけ、RDFの引取が有価か否かに関わらず、一定条件(品質、一定以上のエネルギー効率を有する利用)を満たした場合には、通常の廃棄物処理施設と同等の公害防止基準をRDFの利用施設にも適用することを前提に、RDFに対する廃棄物としての規制の一部を緩和することが有効な利用促進策のひとつと考えられる。
(4)RDF利用促進にあたっては、住民のRDFに対する理解と安心を高めることが重要である。そのためは、RDFの「循環資源」としての有用性についての説明を広く行うとともに、適正なRDF利用を維持する目的で、RDFの品質、利用方法、利用設備、維持管理について評価する第3者機関の設立に向けた検討が必要であると考えられる。 

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○事業概要、事業内容

日本環境衛生センター:研究会・シンポジウム等による廃棄物研究の普及・推進事業

【事業概要】  
廃棄物処理等科学研究の成果の普及を図るため、平成12年度に実施された研究課題の成果発表会を一般に公開して開催し、併せて循環型社会の形成・廃棄物処理等の分野において、今後期待される研究や方向性に関するシンポジウムを開催した。これらの分野における研究ニーズについて調査し、シンポジウムの資料とした。また、廃棄物処理科学研究に係る文献を収集し(1990年~2001年)、情報データベースを作成した。さらに、研究発表会、シンポジウムの内容や情報データベースをインターネットやその他の広報媒体を通じて広く情報提供を行った。

【事業内容】

(1)第1回廃棄物処理科学研究シンポジウムの開催 平成13年9月20日、21日に、以下の内容で第1回廃棄物処理科学研究シンポジウムを開催した。参加者数は190名であった。また、本シンポジウムに関してのアンケート(回収率32%)では、パネルディスカッション、研究発表会ともに、70%以上の回答者から期待以上、期待どおりであったとの評価を受けた。
  ●パネルディスカッション(平成13年9月21日(金)13時~15時)  
テーマ:「循環型社会構築と廃棄物処理にかかる科学研究の将来展望」
コーディネータ:平岡 正勝(立命館大学エコ・テクノロジー研究センター長)  
パネリスト:中島 尚正(放送大学教授)
中杉 修身 (国立環境研究所化学物質環境リスク研究センター長)
田中 信壽 (北海道大学大学院工学研究科教授)
三橋 規宏 (千葉商科大学政策情報学部教授)

パネルディスカッションでは、4つの小テーマごとに以下の内容で討論された。
 ○総論
我が国の廃棄物処理体系の展開の歴史的背景、循環型社会構築に向けた技術開発の必要な分野(「エコ・テクノロジー」)やその内容について述べられた。(平岡)

○テーマI 
社会的・経済的手法開発の重要性 -循環型社会の創造に向けて社会経済システムをどう変革すべきか-  循環型社会構築の必要性、循環型社会のイメージ、構築のためのポイントとなる真の生産性を高めるための方法について述べられた。(三橋)  ライフスタイルの改善やこれからのレンタルに関して、その解決のための考え方についてコメントされた。(中島)

○テーマII 
リサイクル技術等開発の課題 -循環型社会のあるべき姿を達成するため何をすべきか-  技術開発における社会的有用性の事前判断、リサイクル技術におけるブラックボックスの解明、環境問題全般をにらんだリサイクル技術の評価及び循環型社会を形成するために必要な科学的な知見の集積等の必要性について述べられた。(中杉)  リサイクル技術の課題として、グローバル化した製造業の中での製品情報の的確な集積等の必要性についてコメントされた。(中島)

○テーマIII 
研究・開発を推進する主体と役割 -どのようにして、これらの技術を研究開発していくか-  総合科学技術会議の内容と合わせ、研究主体として、研究者が専門分野を世の中に合わせて広げていく努力の必要性について述べられた。(中島)  廃棄物問題における市民の声での評価、廃棄物循環における理工学系と社会科学系との連携、産官学以上の分野を越えた協同の必要性、社会的有用性の判断と国民への情報提供についてコメントされた。(田中)

○テーマIV 
研究体制のあり方-研究体制はどうあるべきか-  研究基盤の整備(大学における基盤の拡大再生産)、研究開発の評価(情報公開と住民参加)、地域における研究開発の推進(画一的な政策から地域における多様な選択)、研究資金の拡充と適切な配分(研究費の位置づけと調整)、人材確保、成果の普及(透明性を上げること)について述べられた。(田中)  人材育成や本質論の重要性についてコメントされた。(中杉)  なお、これらの小テーマについて、事前に、環境省廃棄物処理等科学研究企画委員会委員、平成12年度廃棄物処理等科学研究研究者及び廃棄物学会研究委員会委員の計102名を対象としてアンケートを実施した(回答数26)。この結果から、小テーマごとの研究課題を抽出し、パネルディスカッションの資料とした。

●研究発表会(平成13年9月20日(木)、9月21日(金))
平成12年度廃棄物処理等科学研究費補助金の交付を受けて実施された研究成果として、廃棄物適正処理研究課題9題、ダイオキシン類対策研究課題16題の発表があった。平成12年度終了課題6題については30分、その他については20分の時間内で(ともに質疑時間含む)、原則として主任研究者により発表がなされ、活発な質疑・応答が行われた。
 
(2)廃棄物処理科学研究に係る情報データベースの作成  廃棄物学会誌、土木学会誌、各国立研究所報、地方研究所報等から、廃棄物処理科学研究に係る文献を収集し(1990年~2001年)、情報データベースを作成した。収録件数は 11,731件である。
 
(3)廃棄物処理等科学研究成果等の情報提供
 以下の研究成果等を当センターホームページを通じて公表した。
・第1回廃棄物処理科学研究シンポジウム(パネルディスカッション概要)
・第1回廃棄物処理科学研究シンポジウム(研究成果)
・廃棄物処理科学研究に係る情報データベース  

また、以下の内容について、製本及びCD(各100部作成)による情報提供を行った。
・第1回廃棄物処理科学研究シンポジウム パネルディスカション概要、会議録
・第1回廃棄物処理科学研究シンポジウム 成果発表予稿・資料集
・廃棄物処理科学研究に係る情報データベース


環境再生・資源循環局 廃棄物適正処理推進課

TEL: 03-5501-3154 FAX: 03-3593-8263 E-mail: hairi-haitai@env.go.jp