廃棄物処理基準等専門委員会報告

平成9年10月

生活環境審議会廃棄物処理部会

廃棄物処理基準等専門委員会

第1 はじめに

第2 最終処分場関係

1 安定型最終処分場
2 管理型最終処分場及び一般廃棄物最終処分場
3 遮断型最終処分場
4 最終処分場の廃止の基準
第3 生活環境影響調査
1 調査事項
2 調査対象地域
3 生活環境影響調査のための現況把握、予測及び考察方法

第4 保管基準

1 保管の方法
2 保管量
第5 特別管理産業廃棄物
1 PCBの処理
2 その他
第6 おわりに

生活環境審議会廃棄物処理部会廃棄物処理基準等専門委員会委員名簿



第1 はじめに

廃棄物の適正な処理を確保するためには、廃棄物の排出抑制やリサイクルを推進するとともに、廃棄物処理の安全性や信頼性の一層の向上を図ることが必要である。
このような認識の下、生活環境審議会においては、平成8年2月、廃棄物処理部会に産業廃棄物専門委員会を設置して、今後の産業廃棄物対策のあり方等について本格的な検討に着手し、同年9月には「今後の産業廃棄物対策の基本的方向について」と題する報告書がとりまとめられた。
これを受けて、厚生省において施設設置の手続きの明確化、不法投棄対策の強化等を内容とする廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法という。)の一部改正法案が作成されたが、同法案は生活環境審議会の答申を経て、先の通常国会に提出され、本年6月に成立、公布をみたところである。
一方、同報告書においては、処理施設の基準等についてさらに専門的に検討する場を設けるべきという提言もなされており、これを受けて、平成8年9月の生活環境審議会廃棄物処理部会において本委員会の設置が了承され、廃棄物の処理に関する基準の充実・強化について検討することとされた。
本委員会においては、その後12回にわたり、最終処分場に関する基準、焼却施設におけるダイオキシン対策、生活環境影響調査の考え方、保管の基準等について審議が重ねられ、本年2月に「最終処分場の類型、基準等の見直しに係る中間的意見集約」をとりまとめるとともに、特に実施が急がれるダイオキシン対策については、本年7月に「廃棄物焼却施設に係るダイオキシン削減のための規制措置について」をとりまとめたところである。
このような経過を経て、今般、本委員会において、ダイオキシン対策以外の上記課題について検討結果をとりまとめたので、ここに報告するものである。

第2 最終処分場関係

廃棄物の適正な埋立処分を確保する観点から、最終処分場に係る搬入管理、構造及び維持管理並びに廃止の基準として強化・明確化すべき事項を検討し、次のような結論を得た。なお、基準の強化・明確化の効果が十分に発揮されるようにするため、委託基準の強化、マニフェストの確実な使用、都道府県による積極的な立入検査の実施等が図られることが重要である。

1 安定型最終処分場

安定型最終処分場は遮水工や浸出水処理設備等を設置していないので、埋立処分することができる産業廃棄物は、性質が安定しており、浸出水による生活環境保全上の支障が生ずるおそれがない物(安定型産業廃棄物)に限定されている。
しかしながら、安定型最終処分場の中には、安定型産業廃棄物以外の物が混入・付着した廃棄物が埋立処分された結果、浸出水によって周辺環境を汚染している等の例もみられ、安定型最終処分場全体の安全性や信頼性について疑問が生じたり、地域紛争の要因となっている。
そこで、安定型最終処分場への安定型産業廃棄物以外の物の搬入を防ぎ、安定型最終処分場の安全性や信頼性を回復するため、以下に示すような安定型産業廃棄物の品目の見直しや搬入管理の徹底等を行うべきである。

(1) 安定型産業廃棄物の品目の見直し

安定型産業廃棄物以外の物の混入・付着した廃棄物は安定型最終処分場に埋め立ててはならない。そのため、安定型産業廃棄物以外の物の混入・付着の蓋然性の高さや廃棄物それ自体の有害特性などから安定型産業廃棄物の品目を再検討した結果、以下のような見直しを行うべきである。

(A)ガラス・陶磁器くず及び建設廃材については、
排出から処分までの間に安定型産業廃棄物以外の物と混在したことがないことが明らかである物
上記ア以外の物であって、選別施設等で、通常の目視により木くず等の混入が認められず、かつ、熱しゃく減量が5%以下となるまで選別された物に限って安定型産業廃棄物とする。

(B)金属くずについては、上記(A)と同様の限定を行う。なお、鉛の溶出が懸念されている鉛管などについては、安定型産業廃棄物から除外する。

(C)廃プラスチック類及びゴムくずについては、排出から処分までの間に安定型産業廃棄物以外の物と混在したことがないことが明らかである物に限って安定型産業廃棄物とする。

(2) 搬入管理の徹底

(A) 安定型産業廃棄物以外の物が混入・付着している廃棄物が搬入されないよう、安定型最終処分場の設置者は、廃棄物を一旦搬入車両等から降ろさせて広げ廃棄物の性状を自ら目視で確認する「展開検査」を行い、その結果を記録すること。また、混入・付着が認められた廃棄物については、回収・搬出しなければならないこととすべきである。

(B) 今後埋め立てる廃棄物層を通過した水(以下「浸透水」という。)を採取することができる設備を設け、採取した浸透水について、生物化学的酸素要求量(BOD)を原則として月1回以上、有害物質に係る項目を年1回以上測定することにより、安定型産業廃棄物以外の物が混入・付着した廃棄物が埋立処分されていないことを確認すべきである。
浸透水のBOD又は有害物質に係る項目の濃度に異常な上昇が認められた場合には、速やかに都道府県知事等への連絡、新たな産業廃棄物の搬入の停止、浸透水の水質の詳細な調査の実施その他必要な措置を講じなければならないこととすべきである。

(3) 定期的な点検

(A) 地下水汚染が生じていないことを確認するため、新たに、次のような定期的な点検を行うこととすべきである。
地下水の水質を定期的に監視するために、当該最終処分場の浸透水による地下水汚染の有無が判断できると考えられる少なくとも2地点に地下水観測井戸を設置する(既存の井戸を活用しても良い。)。
地下水観測井戸における埋立開始前の地下水について、地下水環境基準項目を測定し、記録する。
埋立開始後、地下水観測井戸において、地下水環境基準項目を年1回以上測定し、記録する。

(B) (A)の点検により、地下水質に異常が認められた場合には、上記(2)(B)に準じて必要な措置を講ずることとすべきである。

(4)その他

「建設廃材」という呼称は、産業廃棄物のうち「工作物の除去に伴って生じたコンクリートの破片その他これに類する不要物」の略称として定められたものであるが、工作物の除去に伴って生じた廃木材等安定型産業廃棄物以外の物も包含しているかのような誤解を生じさせ、安易な処理を招くおそれがあるため、「がれき類」のように、より内容を明確に示すことができる呼称に改めるべきである。


2 管理型最終処分場及び一般廃棄物最終処分場

管理型最終処分場及び一般廃棄物最終処分場(以下「管理型最終処分場等」という。)は、浸出水により公共用水域及び地下水を汚染するおそれのある廃棄物を処分する施設であるため、遮水工、浸出水集排水設備、浸出水処理設備等が適切に整備され、管理される必要がある。一方、管理型最終処分場等について、遮水シートの破損により地下水汚染が生じるのではないか等という不安感・不信感を解消しない限り、新たな施設の建設が非常に困難な状況となっている。そこで、管理型処分場等に関する基準については、遮水機能、浸出水処理、定期的な点検を強化するため、次のような見直しを行うべきである。
なお、本報告書においては、陸上埋立地を想定して強化すべき基準を記述しているが、水面埋立地については立地条件が大幅に異なるので、その特性を踏まえつつ、同様の方向で見直しを行うべきである。

(1) 遮水機能の強化

遮水工が基準に適合しているか否かの判断を容易にするとともに遮水工に対する信頼性を確保する観点から、以下のとおり、遮水工が最低限満たすべき構造等に関する基準の明確化及び遮水機能の強化を行うべきである。

(A) 管理型最終処分場等の遮水工は、基礎地盤、遮水シート等の遮水層、上部保護層の各部分によって構成されるものであり、地下水集排水設備や浸出水集排水設備等の関連施設の機能と相まって、遮水機能を発揮するものである。
しかしながら、遮水シートだけで遮水機能を確保しているかのように誤解されやすい実態がある。そのため、遮水工について、それを構成する各部分の構造にわたって基準を明確化すべきである。
その際、遮水工は、立地場所の地形、地質、地下水の状況などの自然的条件に応じて設計・施工しなければならないこと、様々な工法があることなどから各種の遮水技術を現場の状況に応じて適切に選択して施工できるように基準化すべきである。また、遮水工を構成する各部分の確実な施工を確保するため、遮水工工事段階での都道府県等による立入検査の実施、設置者に対する施工管理の指導が必要である。

(B) 最終処分場の底面又は法面の表面に設置する遮水工を構成する各部分については次のような基準を満たすものとすべきである。

ア 基礎地盤
遮水工の底盤部を構成する基礎地盤は、廃棄物等の荷重を支えるとともに、遮水工全体を支持・保護するものである。このため、突起物や角れき等の除去、抜根を行った上で整形及び締め固めを行う等により、十分な強度を有し、かつ平滑に仕上げたものでなければならない。

イ 遮水層

次のいずれか又はこれらと同等以上の遮水機能を有するものでなければならない。

(ア) 粘性土等を厚さ50cm以上かつ透水係数1×10-6cm/sec以下となるよう施工した上に、一定の規格を満たす遮水シートを空隙のないように敷設したもの。
(イ) 水密アスファルトコンクリートを厚さ5cm以上かつ透水係数1× 10-7cm/sec以下となるよう施工した上に、一定の規格を満たす遮水シートを空隙のないように敷設したもの。
不織布等の保護マットの上に、一定の規格を満たす二重の遮水シートを敷設したもの。二重シートの中間には、二重シートが同時に破損することを防ぐための保護層が設けられていること。
(ウ) 不織布等の保護マットの上に、一定の規格を満たす二重の遮水シートを敷設したもの。二重シートの中間には、二重シートが同時に破損することを防ぐための保護層が設けられていること。

ウ 上部保護層
廃棄物の投入や重機の運転等による損傷から遮水層を保護するため、遮水シートの上面には、不織布等を下層とし砂等を上層とする保護層を設けること。なお、不織布等は、紫外線や伸縮等による劣化から遮水シートを保護する役割も有していることから、遮水シートの敷設後、速やかに敷設すること。

エ 法面遮水
遮水工の施工を確実なものとするため、法面勾配は 1:2よりも緩くすること。ただし、地形的制約からそれが困難な部分では、地形性状などを考慮して浸出水が滞留するおそれがないと認められるところに設ける遮水工については、遮水工の安定性を確保する観点から上記の遮水工に代えて、モルタル処理した基礎地盤の上に一定の規格を満たす遮水シートの敷設又はゴムアスファルト吹き付けを行う方法その他これらと同等以上の遮水機能を有する方法により遮水工を設けることができることとすべきである。

(C) 現行の基準において遮水工を設けなくてもよいとされている部分について以下のように基準を明確化することが適当である。
地形、地質等に関する十分な調査を実施した結果、埋立地と公共用水域及び地下水との間にある地層がすべて、厚さ5m以上であり、かつ、透水係数1×10-5cm/sec以下の土質地盤又はルジオン値1以下の岩盤であることが確認された部分、その他これらと同等以上の遮水機能を有するものがあると確認された部分。
なお、遮水工を設けなくてもよい場合であっても、浸出水集排水設備等の設備が必要であることは言うまでもない。

(D) 地形、地質等に関する十分な調査を実施した結果、埋立地の地下に、厚さ5m以上であり、かつ、透水係数1×10-5cm/sec以下の土質地盤又はルジオン値1以下の岩盤、その他これらと同等以上の遮水機能を有する地盤があると確認できた場合であって、それらの地盤に達するまで埋立地の浸出水による埋立地の周辺の地下水及び公共用水域の汚染を防止することができる鉛直方向の遮水工を設けるときは、(2)に示す遮水工を設けなくてもよいこととすべきである。
ただし、この場合の鉛直方向の遮水工は、埋立地下の地質、地下水流等を十分に把握した上で、埋立地の外への地下水の流下を遮断できるように、埋立地下の難透水性の地層までの間に、次の方法又はこれらと同等以上の機能を有する方法による遮水工を設けること
グラウト工法によりルジオン値1以下の鉛直遮水層を形成する方法
地中連続壁を厚さ50cm以上かつ透水係数1×10-6cm/sec以下となるよう施工する方法
鋼矢板を連続的に打設し、かつ、継ぎ手部分に止水材を注入する方法

(E) 地下水の湧出等により遮水機能が損なわれることを防止しなければならない。そのため、地形、地質等に関する調査を行った上で、地下水の湧出場所及び湧出量を予測し、必要に応じ、地下水を有効に排除することが可能な地下水集排水設備を設けるものとすべきである。

(2) 浸出水処理の強化

(A) 浸出水処理設備の放流水については、全国すべての最終処分場が達成しなければならない最低限度の基準を次のように強化する。
代表的な水質汚濁の指標であるBOD又は化学的酸素要求量(COD)及び浮遊物質量(SS)については、現在適用されている基準は、最大値としてそれぞれ160mg/l、160mg/l、200mg/lとなっているが、浸出水処理技術の向上の実態を踏まえ、最大値としてそれぞれ60mg/l、90mg/l、60mg/lに放流水の水質基準値を強化する。
上記以外の項目については、従前通り、現行の基準で準用している排水基準を定める総理府令第1条に規定する排水基準の数値を用いることとする。

(B) 浸出水処理設備の処理能力を超えた浸出水の流入を回避するとともに、放流水の水質基準を確実に達成できるようにするため、浸出水の水量・水質の変動を調整することができる調整池を設けることとする。

(C) 浸出水処理設備からの放流水の水質検査については、次のとおりとする。
水質検査の頻度は、原則として生活環境項目については浸出水が発生しない季節を除き月1回以上、有害物質については年1回以上とする。
水質検査項目は、放流水の水質基準の項目を標準とする。ただし、埋立処分する廃棄物の種類、放流水の状態から判断して問題とならないことが明らかとなった項目については省略することが可能とする。

(3) 定期的な点検の強化

遮水工が有効に機能していること及び地下水汚染が生じていないことを確認するため、定期的な点検に関する基準を次のように明確化する。

地下水の水質を定期的に監視するために、当該最終処分場の浸透水による地下水汚染の有無が判断できると考えられる少なくとも2地点に地下水観測井戸を設置する(既存の井戸を活用しても良い。)。
地下水観測井戸における埋立開始前の地下水について、埋立開始前に、地下水環境基準項目及び電気伝導度又は塩素イオン濃度を測定し、記録する。
埋立開始後、地下水観測井戸において、地下水環境基準項目を年1回以上、イで測定した電気伝導度又は塩素イオン濃度を月1回以上測定し、記録する。なお、埋立処分する廃棄物の種類、放流水の状態から判断して問題とならないことが明らかとなった項目については省略することが可能とする。また、埋立開始前の地下水の電気伝導度又は塩素イオン濃度が高い場合など、電気伝導度又は塩素イオン濃度を地下水汚染が生じていないことの指標として用いることができない場合にあっては、他の適切な指標を用いることも差し支えない。
ウの測定により、電気伝導度等に異常が認められた場合には、電気伝導度等を継続して測定するとともに、地下水汚染の有無を地下水環境基準項目を測定して確認することとする。その結果、地下水汚染が判明した場合には、速やかに都道府県知事等への連絡、新たな廃棄物の搬入停止等、必要な措置を講ずることとする。


3 遮断型最終処分場

日本全国に設置されている遮断型最終処分場は、平成8年3月末現在で稼働中、埋立が終了し未閉鎖のものを合わせて40か所存在している。平成5〜7年度の埋立実績をみると、年間平均処分量は1万 1,400トンであり、そのうち約90%の1万 400トンが製鋼業等から排出される重金属を含むばいじんであり、その他は汚泥、燃えがら等である。
しかしながら、有害な産業廃棄物として最終処分されてきた廃棄物についてみると、同種の廃棄物の多くがすでに焼成処理、キレート処理、コンクリート固型化処理等の無害化処理が行われていることから、今後は無害化処理をしないままでの埋立処分を回避することが適当である。
一方、無害化処理技術がない廃棄物が生ずることがないよう製造、加工等の工程について配慮が行われることが必要であり、無害化処理技術の開発を進めるべきである。そのような廃棄物がやむを得ず生じた場合には、遮断型最終処分場の方式によることも含め、排出事業者責任の下での廃棄物の性状に応じた適切な保管等の管理の方法について検討を進めるべきである。


4 最終処分場の廃止の基準

今回の法改正により、最終処分場の廃止に当たっては、都道府県知事が廃止の基準に合致しているか否かを確認することとなった。
この廃止の基準については、廃棄物処理施設としての規制を行う必要がない状態になれば最終処分場を廃止することができるという考え方に立って、廃棄物処理施設としての通常の維持管理を続けなくても、そのままであれば生活環境の保全上の問題が生じるおそれがなくなっていることを判断するものとして、設定すべきである。
具体的には、構造基準・維持管理基準に適合していること、及びガスの発生がほとんどみられないこと又は一定期間発生ガス量の増加がみられないことに加え、以下の要件を満たしていることを基準とすべきである。ただし、遮断型最終処分場については、個別の事例に即して、引き続き検討すべきである。

(1) 安定型最終処分場については、浸透水のBODが安定的に20mg/l以下であることが確認されていること。

(2) 管理型最終処分場等については、浸出水の水質が浸出水処理設備を用いなくても当該最終処分場について定められている浸出水処理設備の放流水の水質基準を安定的に満たしていること。
なお、埋立跡地の大幅な改変を行っても生活環境保全上の問題が全く生じ得ない状態になるまで廃止させない基準を設定することには、施設の設置者に対して極めて長期間にわたる維持管理義務を課すことになるという問題がある。土地改変に伴う生活環境保全上の問題が生じないようにすることは、通常当該土地改変を行う者が責任をもって対応すべき問題であり、このような問題の未然防止については、最終処分場に係る届出台帳制度を活用し、跡地の利用者が、廃棄物の種類や量、施設の維持管理の状況等適正な跡地利用に資する情報を容易に入手できるようにすることにより対処することが適当である。


第3 生活環境影響調査

平成9年の廃棄物処理法改正により、廃棄物処理施設の設置に当たって、申請者は、当該施設の設置が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査結果を記載した書類を申請書に添付することとされた。
設置許可申請に際しては、当該書類とともに、例えば、最終処分場については、施設の構造図面、設置場所の地形、地質、地下水の状況等の情報が書面及び図面として申請書に添付され、住民に縦覧されるものである。
この生活環境影響調査において対象とすべき調査事項、調査対象地域の範囲並びに現況把握、予測及び考察方法についての基本的考え方については、次のとおりとすることが適当である。

1 調査事項

(1) 調査事項は、廃棄物処理施設の稼働並びに当該施設に係る廃棄物の搬出入及び保管に伴って生じる大気汚染、水質汚濁、騒音、振動及び悪臭とする。

(2) 各調査事項の具体的な項目(例えば大気汚染の場合、二酸化硫黄、二酸化窒素などの項目であり、以下「調査項目」という。)については、廃棄物処理施設の種類及び規模並びに処理対象となる廃棄物の種類及び性状を勘案して必要な調査項目を申請者が選定するものとする。


2 調査対象地域

(1) 調査対象地域は、施設の種類及び規模、施設立地場所の気象及び水象等の自然的条件並びに人家の状況などの社会的条件を踏まえて、調査事項が生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域として申請者が設定するものとする。

(2) 調査対象地域の設定のために必要な自然的条件及び社会的条件の現況に係る関連情報の把握は、次により行うものとする。

(A) 把握すべき情報

廃棄物の処理に伴って生じる排ガス、排水等の排出の場所、量、性状等に応じて、それらが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を考察するためにあらかじめ把握しておくことが必要な情報とする。
具体的には、調査事項ごとに次の中から選定できるものとする。

・大気汚染…気象、人家等、交通量の状況
・水質汚濁…水象、水利用の状況
・騒音………人家等、交通量の状況
・振動………地盤性状、人家等、交通量の状況
・悪臭………気象、人家等、交通量の状況

(B) 把握の方法
原則として既存の文献、資料により行うこととし、不十分な場合は、現地調査によりこれを補うこととする。

(3) 調査事項ごとの調査対象地域の設定は、調査実施時点で一般的に用いられている影響予測手法を用いて設定するものとする。

(A) 大気汚染
煙突から排出される排ガスによる影響については、プルーム式、パフ式等の大気拡散式に基づき計算される寄与濃度が相当程度変化する地域とする。
廃棄物運搬車両の走行によって排出される自動車排気ガスによる影響については、廃棄物運搬車両により交通量が相当程度変化する主要搬入道路沿道の周辺の人家等が存在する地域とする。

(B) 水質汚濁
対象施設から公共用水域に排出される排水による影響については、対象施設の排水口からの排水が十分に希釈される地点までの水域とする。

(C) 騒音
対象施設から発生する騒音による影響については、騒音の距離減衰式により騒音の大きさが相当程度変化する地域であって人家等が存在する地域とする。
廃棄物運搬車両の走行によって発生する騒音の影響については、廃棄物運搬車両により交通量が相当程度変化する主要搬入道路沿道の周辺の人家等が存在する地域とする。

(D) 振動
振動は、騒音と同様の考え方で設定する。

(E) 悪臭
煙突から排出される悪臭による影響については、大気汚染における煙突から排出される排ガスによる影響と同様の考え方で設定する。
対象施設から漏洩する悪臭による影響については、対象施設周辺の人家等が存在する地域とする。
廃棄物運搬車両の走行によって発生する悪臭の影響については、廃棄物運搬車両により交通量が相当程度変化する主要搬入道路沿道の周辺の人家等が存在する地域とする。


3 生活環境影響調査のための現況把握、予測及び考察方法

(1) 調査項目の現況把握
調査項目に係る現況把握は、原則として既存の文献、資料により行うこと とし、不十分な場合は、現地調査によりこれを補う。

(2) 生活環境影響の予測は、対象施設の構造及び維持管理に異常がない状態を前提として、調査実施時点で一般的に用いられている予測手法により行うこととし、定量的な予測が可能な項目については計算により、それが困難な項目については同種の既存事例からの類推等により行うものとする。

(3) 生活環境影響の調査事項ごとの考察は、調査項目の現況、予測値及び環境基準等の環境目標等を考慮しながら、次のとおり行うものとする。

(A) 大気汚染
煙突から排出される排ガスについては、二酸化硫黄、二酸化窒素、その他処理される廃棄物の種類及び性状により排出が予想される項目を対象として、また、廃棄物運搬車両の走行によって排出される自動車排気ガスについては、二酸化窒素及び一酸化炭素を対象として、プルーム式、パフ式等の大気拡散式に基づき寄与濃度が最大となると予測される地点(同等の寄与濃度が複数地点において生じる場合は、それらのすべての地点。)及びその周辺の人家等を含む地域における影響を考察する。
短期的な影響を考察すべき調査項目(二酸化硫黄、一酸化炭素等)については、影響が最大となると想定される運転条件及び気象条件を仮定した場合について考察するものとする。
年間の平均的な影響を考察すべき調査項目(二酸化硫黄、二酸化窒素、一酸化炭素等)については、年間の通常の運転計画を基に、年間の平均的な状況を予測し、考察するものとする。

(B) 水質汚濁
対象施設から排出される排水については、BOD(海域・湖沼についてはCOD)、SS、その他処理される廃棄物の種類及び性状により排出が予想される項目を対象として、水道の取水地点における利水上の支障などの影響を考察する。

(C) 騒音
対象施設及び廃棄物運搬車両から発生する騒音については、騒音の大きさを対象として、騒音の距離減衰式により騒音の大きさの寄与が最大となると予測される周辺の人家等の地点(同等の大きさの寄与が複数地点において生じる場合は、それらのすべての地点。)における影響を考察する。

(D) 振動
振動は、騒音と同様の考え方で考察する。

(E) 悪臭
煙突から排出される悪臭については、悪臭物質のうち廃棄物の種類及び性状により排出が予想される悪臭物質の濃度又は臭気指数を対象として、プルーム式、パフ式等の大気拡散式に基づき寄与濃度が最大となると予測される地点(同等の寄与濃度が複数地点において生じる場合は、それらのすべての地点。)及びその周辺の人家等を含む地域における影響を考察する。
対象施設から漏洩する悪臭による影響については、対象施設周辺の人家等が存在する地域における影響を考察する。
廃棄物運搬車両の走行によって発生する悪臭の影響については、廃棄物運搬車両により交通量が相当程度変化する主要搬入道路沿道の周辺の人家等が存在する地域における影響を考察する。

(4) 生活環境影響調査の結果については、調査項目の現況、予測値及び環境基準等の環境目標等並びに調査項目ごとの対象施設による影響を考察した結果を併せて記載するものとする。
この場合、対象施設の構造上発生することが想定されない調査事項(例えば、排水を排出しない施設の場合の水質汚濁など)については、具体的な調査を実施する必要がないと判断した理由を記載しなければならない。


第4 保管基準

産業廃棄物の保管については、排出事業者、処理業者を問わず、例えば処理施設の能力に比して過大に行われている事例や、保管の場所の囲いを越えて飛散し、又は流出するおそれがある事例などがみられるため、そのような状態に至る前に改善措置を講ずることが可能となるよう、保管基準を次のように明確化、強化することが必要である。

1 保管の方法

(1) 囲いが崩れそうな保管がみられるため、保管の場所の囲いによって保管する廃棄物の荷重を支える場合には、当該囲いの変形、破損等による廃棄物の飛散、流出が生じないよう、必要な構造及び強度を有しなければならないこととする。

(2) 産業廃棄物が排出事業場の外で大量に積み上げられる例についての改善措置を速やかに講ずることができるようにするため、事業場から搬出された後の廃棄物の保管の場所には、入口の見やすい箇所に、保管の場所の外からみて分かりやすい方法で、保管する廃棄物の種類、管理者名、連絡先を表示しなければならないこととする。

(3) 汚水が浸出するおそれがある廃棄物を屋外にそのまま積み上げて保管する場合は、保管の場所に流入する地表水によって廃棄物又は廃棄物からの汚水による地下水又は公共用水域の汚染が生じないようにするため、次の措置を講じなければならないこととする。

(A) 保管の場所の周囲に地表水が保管の場所へ流入するのを防止することができる開渠その他の設備を設置すること。

(B) 廃棄物からの汚水が地下に浸透しないよう、保管の場所の底面をコンクリート等の不浸透性の材料で被覆すること

(C) 廃棄物からの汚水を滞留させず集水できる構造とし、集められた汚水等を生活環境の保全上支障が生じないよう処理できるようにすること

(4) 屋外に、廃棄物が崩落するおそれがあるほど急勾配に積み上げて保管する例がみられるため、廃棄物を積み上げてもその物理的安定性が損なわれることのないよう、保管の場所の境界から一定の勾配線を超えてはならないようにすることとする。
ただし、(1)の構造及び強度を有する囲いがある場合は、囲いに接する廃棄物の高さについては囲いの高さよりも一定以上低くするとともに、上記勾配線の起点は、囲いから一定の距離を離した地点に置いてもよいこととする。
また、屋外に廃棄物をそのまま保管する場所には、保管の場所の外からみて分かりやすい方法で、保管する廃棄物の最大の高さを表示しなければならないこととする。

2 保管量

保管と称して廃棄物を大量に集め、事実上放置するような事例がみられるため、必要な改善措置を早急に講じさせることができるよう、次のように保管量の基準の明確化を検討し、それと併せて、保管の場所に最大保管量を表示させるようにする必要がある。

(1) 処分のための保管量
廃棄物を処分するための保管量は、廃棄物の発生量又は再生品の需要の季節的な変動を吸収するためにやむを得ない場合を除き、その処理施設に係る一日あたりの処理能力に対応する上限を設けることとする。

(2) 積替保管

廃棄物の積み替えのための保管量についても同様に、その積替施設に係る一日あたりの平均排出量に対応する上限を設けることとする。


第5 特別管理産業廃棄物

1 PCBの処理

PCB(ポリクロリネイテッドビフェニル)は化学的に安定で絶縁性が高い等の特性を有することから、トランス等の絶縁油、熱交換器の熱媒体、感圧複写紙等に使用されていたが、その毒性が問題となり昭和49年に製造、輸入、使用が法律で原則禁止された。
昭和50年に高温焼却による方法が廃棄物処理法に基づく処理基準として定められ、一部の廃PCBの焼却処理が行われたものの、大部分のPCBは処理されず長期間にわたり保管され、紛失等の問題も懸念されている。一方で、近年、化学処理等の新技術が開発されて実用化が実証されており、また、欧米においてはこのような技術を用いてPCBの処理が行われている。
このような状況に鑑み、新技術を踏まえた処理基準等を次のように定めることとする。

(1) 廃PCB等の処分基準の見直し

廃PCB等(廃PCB及びPCBを含む廃油)を分解することができる処理技術として、

(A) 化学反応によりPCBの塩素基を水素基や水酸基と置換してビフェニール類に分解する脱塩素化処理の方法
(B) 強い酸化力及び油も溶解する溶媒特性をもつ高温・高圧の水の特性を活かして、PCBを二酸化炭素、水及び塩酸に分解する、超臨界水などによる酸化処理の方法
について実用化が実証されている。
そこで、これらの方法を用いた場合に適用可能な廃PCB等の無害化処理基準を設定するとともに、脱塩素化処理施設等について許可が必要な産業廃棄物処理施設として位置づけて必要な規制を行うこととする。
その際、脱塩素化処理によって生ずる処理済油については、最終的に焼却される際に生活環境保全上の支障とならないことを確保しつつ、PCBの含有量についてアメリカ、カナダにおける脱塩素化処理の目標値、処理済油中のPCBの分析精度、技術的可能性等を勘案して油中濃度として0.5mg/kg以下になるまで処理されたものを、廃PCB等としての特別の管理を要しないものとする。なお、油自体も分解する超臨界水などによる酸化処理を行った場合には、発生する排水等については排水基準などによる規制が行われるものである。

(2) PCB汚染物の処分基準の明確化

現行の処理基準では、PCB汚染物(紙くずのうちPCBが塗布されたもの、廃プラスチック類若しくは金属くずのうち、PCBが付着し、若しくは封入されたもの)を処分する方法のひとつとして洗浄液によって洗浄し、PCBを除去する方法が定められており、洗浄液については廃PCB等として処理されることとされている。これまで、廃PCB等の処理体制が未整備のため、PCB汚染物の洗浄も行われてこなかったが、廃PCB等の処理体制の整備と併せてPCB汚染物の処理も推進するため、洗浄液中のPCB含有量が一定濃度以下となるまで洗浄されたものをPCB汚染物としての特別の管理を要しないものとするなど、洗浄の程度の明確化を図るべきである。

(3) PCBをふき取ったぼろ布等の取扱い

現在、 廃PCB等、PCB汚染物等については、特別管理産業廃棄物として指定され、保管されている。
PCBをふき取ったぼろ布、廃PCB等が浸み込んだ木くず、紙くず等の廃棄物についても同様に保管されているものも多く、これらについても今後、PCB汚染物として取り扱い、適正な処理を推進することとする。
ただし、木くず等の廃棄物については、(2)による十分な洗浄が難しいことに留意すべきである。

2 その他

有害物質対策については、平成3年の廃棄物処理法改正により、特別管理産業廃棄物という区分を設け、一般の廃棄物とは異なる特別の規制を行っているところであるが、その規制の徹底を図るとともに、未規制の有害化学物質等の問題も指摘されていることから、その廃棄物としての排出の動向、国際的な規制の動向、処理技術等に係る知見の集積状況等を踏まえ、引き続き特別管理産業廃棄物の追加指定等について検討すべきである。


第6 おわりに

この報告書は、今後の廃棄物処理の安全性・信頼性を向上させるために必要な基準について提言したものである。提言の中には、廃棄物処理の方法等の大幅な変更を求めることになる内容も含まれている。このため、新基準の施行に当たっては、廃棄物処理の実態や施設の対応能力等も考慮して、適切な猶予期間や既存の施設に対する経過措置等を設けることが適当である。
さらに、新基準を円滑に施行していくために、国において、必要な技術指針等を作成するとともに、地方公共団体の担当技術者に対する研修や情報提供などを強化し、廃棄物処理行政の体制の強化を図ることが必要である。地方公共団体においても、報告徴収や立入検査を積極的に実施するなどして、廃棄物処理法及びそれに基づく基準の改正の効果が十分発現するよう一層の努力を求めたい。
また、例えば、一般廃棄物の焼却灰を溶融又は焼成し、環境中で安定的かつ安全なものにする技術など急速に開発が進められているものもあるので、今後とも、一層廃棄物の減量化、再生又は無害化を進めるための研究や技術開発等を積極的に推進するとともに、その成果や、廃棄物の処理の実態、関連制度における規制の動向等を踏まえて、廃棄物処理に関する各種の基準等を適切に見直していくべきである。最終処分場をはじめとする廃棄物処理施設についての耐震性の向上などの新しい課題にも取り組むべきである。
廃棄物問題の解決はまさに国民的課題であり、適切な基準の設定とその確実な施行は廃棄物処理行政の中核をなすべきものである。この報告書の提言が国、地方公共団体、事業者及び処理業者の協力の下に速やかに制度化されるとともに、確実に実施されることを強く期待するものである。

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