報道発表資料

平成13年9月18日
総合政策
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諫早湾における夏季環境調査の結果について

環境省は、諫早湾において平成13年6月上旬から9月上旬に水質(底層を含む)、底質、底生生物及び浮泥の堆積状況に係る現地調査を実施した。この結果、
○ 7月中旬、湾中央部を中心に底層に貧酸素水塊が形成されていたこと、
○ 貧酸素水塊の形成後、底生生物が激減していたこと
○ 浮泥堆積量は、最も厚いところで25〜30cmであったことなどが明らかとなった。
今般、この他の調査結果、考察等と併せて報告する。
【調査目的】環境省(当時、環境庁)は、諫早湾干拓事業の実施に際して環境保全の観点から、公有水面埋立法に基づき昭和63年3月8日付で意見を示し、この中で「今回行われた環境影響評価の予測結果に関してレビューを行い、必要に応じて対策を講じること。」という意見を述べた。
このレビューは、事業者である九州農政局により実施され、今年8月9日に公表され、環境省としての見解は8月27日に示したところである。今般、環境省としても諫早湾の現況を把握することが必要と考え、特に環境の悪化が懸念された夏季に環境調査を行ったものである。

【調査日】*1平成13年6月6日、7月18日、8月23日及び9月5日
*1必ずしも全調査日に全地点、全項目の調査を行ったものではない。また、複数の日にまたがって調査した日があり、この場合は水質調査の実施日を記載した。なお、このほか、諫早湾を含む有明海全域について、当省水環境部が2月23日及び8月5日に調査を実施した。

【調査地点】

【結果と考察】
  1. 水平分布調査 (→表1〜3及び図1〜2)
    ○調査結果…6月調査及び8月調査の結果、水質、底質等の環境状況が総じて最も良好なのは湾口南部(B-5)、最も悪いのは湾中央部(B-1)であることが明らかとなった。
    排水門前の地点については、栄養塩(全窒素及び全りん)及び懸濁物質(SS)の濃度が高いほかは、南部排水門前(Y)はB-1と同程度、北部排水門前(X)はB-4と同程度であった。

    ○考察 …潮流の強さは、諫早湾干拓事業環境影響評価レビュー報告書(九州農政局、平成13年8月、以下「レビュー報告書」という)によれば、B-5>B-1>B-4とされていることから、潮流の強さと環境状況にある程度の関係があると推測された。
    また、排水門前の地点で栄養塩濃度がやや高かったのは、調整池*1からの排水の影響を受けやすいためと考えられる。ただし、排水門前の地点では、調整池からの排水の影響を受けやすく、排水門の開閉状況によって水門外近傍の水質が大きく変動するので、調査の実施及び考察には注意を要する。

    *1レビュー報告書によれば、調整池の水質実測値(平成10年4月〜12年8月)の平均は、全窒素が1.31mg/l、全りんが0.232mg/lとされており、諫早湾より1桁高濃度である。

  2. 貧酸素水塊の形成 (→表4〜5及び図3)
    ○調査結果…7月調査の結果、底層の溶存酸素濃度(DO)*1が最低0.7mg/lと著しく低い水準であったことを確認した。
    また、7月調査の際、上層の塩分濃度は12〜13psu程度と通常値*2の半分以下となっており、上層と底層の水温差は3〜4℃であった。

    ○考察 …今回の調査結果と8月上旬に環境省水環境部が実施した有明海全域の補足調査、さらに独立行政法人水産総合研究センターによる調査結果(9月3日公表)等と合わせると、諫早湾では、湾中央部を中心として7月上旬から8月上旬の約1ヶ月間にわたって底層の溶存酸素濃度が著しく低かった(貧酸素水塊の存在)ことが明らかとなった。一般に貧酸素水塊は、
    海底付近で有機物の分解作用により酸素が消費されることと
    塩分濃度や水温の差から生じる躍層の形成により、空気中の酸素が底層に供給されにくくなること
    などから発生すると言われている。今年の夏季、諫早湾では、塩分濃度や水温の差から生じる躍層が発達したが、上層の塩分濃度が低下した原因は、6月中旬から7月中旬までの断続的な降雨のため*3と推測される。
    なお、一般的に富栄養化した閉鎖性海域では、多量の降雨の後、穏やかな好天の日が続くと赤潮が発生しやすく、諫早湾では、7月上〜下旬にべん毛藻による大規模な赤潮*4が発生している。


    写真
    7月18日調査の時の諫早湾の様子(櫓はX地点に立地しているもの。画面左側の海は調整池からの排水で白濁しており、右側は赤潮で赤く変色している)


    *1社団法人日本水産資源保護協会が定めた水産用水基準では、内湾漁場の夏季底層において最低限維持しなくてはならない溶存酸素は4.3mg/lとされている。
    *2外洋の表面塩分は、大部分は33〜37psu(‰に相当する単位)の範囲にあるとされている。
    *3諫早市では、6月13日に50ミリの降雨があり、その後7月17日までの35日間で775ミリ(10ミリ以上の降雨があった日が15日)の降雨があった。ただし、今年の降水量は、6月は平年(1979〜2000年)の78%、7月は平年の110%であったから、特に平年より雨量が多かったということはない。
    *4諫早湾〜島原市沖においては、水産庁速報によれば、7月8日〜13日にクリプト藻類による赤潮が、7月18日〜24日に渦べん毛藻(プロロセントラム・ミニマム)による赤潮が発生している。なお、7月中・下旬の赤潮は、佐賀県海域全域(東部沿岸域を除く)及び熊本県の熊本市から宇土市一体に拡がった大規模な赤潮であった。

  3. 底生生物 (→表5〜6及び図4)
    ○調査結果…底生生物*1は、6月上旬には13〜34種類、約920〜2,700個体/m2、60〜1,260wet-g/m2であったが、8月下旬には0〜11種類、0〜400個体/m2、0〜260wet-g/m2と湾中央部を中心として種類、個体数、重量ともに著しく低下していたことを確認した。

    ○考察 …今年、諫早湾中央部を中心として底生生物が激減した原因は、底層の溶存酸素濃度が低下したため(貧酸素水塊の発生)と推測される。
    有明海の別の場所では1980年代初頭から底層の溶存酸素が著しく低くなる現象が観測されており*2、諫早湾でこのような現象がいつ頃から生じていたのかは不明であるが、貧酸素水塊の発生は、底生生物の生息にとって大きな影響を与えると懸念されるので、今後、環境監視の充実と貧酸素水塊の形成機構の解明を図ることが必要である*3。

    *1ここでは、マクロベントス(0.5mmのふるい上に残る底生生物)を指標とした。これより小さな底生生物をメイオベントス、更に小さいものをミクロベントスと称する。
    *2佐賀県沖の有明海では1980年から底層の溶存酸素の測定が行われており、一部地点では、測定当初から2mg/lを下回ることが珍しくなかったが、諫早湾では同様の測定が行われてこなかった。なお、九州農政局は1990年頃から底生生物の出現状況を季節ごとに調査しており、出現個体数については、「変動が大きく、一定の季節的傾向は特に見られない。」としている(レビュー報告書)。
    *3環境省は、8月27日にレビュー報告書に対する見解をとりまとめ長崎県知事に通知したが、この中で底層の溶存酸素について「日本水産資源保護協会が定めた水産用水基準にも留意しつつ、その監視の充実を図ること。また、引き続きプランクトン及び底生生物の環境監視を行い、底質及び底層の溶存酸素との関係に特段の注意を払い、必要に応じて対策を実施すること。これらの環境監視等の実施にあたっては、諫早湾及びその周辺海域において、多量の降水があった後に環境が悪化していることに十分留意すること。」としたところである。


  4. 底質 (→表7及び図5)
    ○調査結果…2月下旬に実施した有明海全域の補足調査及び6月調査の際に、湾中央部(B-1)で±0mV前後であった酸化還元電位(ORP)が、8月調査では約−130mVまで低下し、底質が還元状態(嫌気性)に変化したことが明らかとなった。同様の傾向は他の地点でも見られ、湾口南部(B-5)では2月下旬に約190mVであった酸化還元電位が6月上旬に約90mVに低下し、8月下旬には約−50mVまで低下した。
    このほかの項目については、サンプリング誤差を考慮すると明瞭な変化は現れていない。

    ○考察 …底質の無機態窒素濃度が8月調査で高かったが、底層が還元状態となったため、底泥から栄養塩が溶出したためと推測される。

  5. 浮泥の堆積状況 (→図6)
    ○調査結果…浮泥については定義自体が明確に示されていないが、今回は、8月23日にダイバーが潜水し、底泥に抵抗なく手を差し込める深さ*1を測定した(以下「ダイバー法」という)。
    この結果、北部排水門前(X)及び南部排水門前(Y)の位置で浮泥堆積量が最も多く、概ね25〜30cmであった。ただし、底泥表面が底泥の巻き上げによりかなり懸濁しており、厳密な測定は困難な状況にあった。また、湾中央部(B-1)も浮泥堆積量が20〜30cmとかなり多く、湾口北部(B-4)も10〜20cmと比較的多かった(これらの地点では底泥表面を明瞭に区別できた)。
    一方、湾口南部(B-5)では海底が貝殻混じりの砂泥となっており、浮泥はほとんど堆積してなかった。
    また、今回、潮受堤防から約2.5km以内の範囲について、水面から200kHz*2及び12kHzの音波を海底にあて、これらの示した距離の違いで浮泥の堆積状況を調べる方法(以下「音波法」という)も試みた。音波法で浮泥堆積量が最も多かったのは、北部排水門前及び南部排水門前で(いずれも30cm弱)、測定した範囲では20cm前後の範囲が最も広かった。

    ○考察 …北部排水門前(X)及び南部排水門前(Y)において、ダイバー法と音波法のいずれとも浮泥堆積量が30cm弱となったことから、広域調査を行いやすい音波法も実用に耐えるものと判断された*3

    *1この深さは貝殻が一様に密集している層までの深さと一致した。なお、こうした浮泥がいつ頃から堆積したものであるかはわからない。
    *2200kHzの音波をあてる方法は、水深の測定方法として一般的に採用されている。
    *3ただし、波やうねりがあるときの調査は困難とのことである。

添付資料

連絡先
環境省総合環境政策局環境影響審査室
室長:森谷  賢(内線6231)
 補佐:立川裕隆(内線6233)
 03-5521-8237(夜間直通)

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