公共用水域に係るダイオキシン類重点調査の結果
I 調査の内容
1.調査の背景・目的
環境庁では、平成9年度に実施した「公共用水域の水質におけるダイオキシン類調査」及び「ダイオキシン類の総合パイロット調査」並びに平成10年度に実施した「ダイオキシン類緊急全国一斉調査」の結果を踏まえ、比較的高濃度の汚染が見られた地域の河川(水系)を対象に、平成10年度から11年度にかけて本調査を実施した。
本調査の目的は、これら地域の河川の水質及び底質についてダイオキシン類の汚染状況を追跡し、汚染の地域的な広がり等を確認することにある。
また、本調査の結果は、今後地方公共団体が実施する常時監視等に適切に反映されるなどにより、ダイオキシン汚染対策の一層の充実に資するものとなる。
2.調査内容
(1) | 調査対象地域及び調査地点数 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
調査地域は以下の10水域であり、調査地点数は計110である。(別添図参照) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(2) | 調査地点の設定及び調査媒体 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
汚染の面的な広がりの把握が可能となるよう、各対象地域の対象河川に沿って10〜15地点をバランスよく配置し、それぞれの地点で水質及び底質を一回採取し、測定した。なお、試料は平成11年3月から4月にかけて採取した。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
(3) | 調査対象項目 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
調査対象項目は、ダイオキシン類対策特別措置法に定義されたダイオキシン類(PCDD、PCDF及びコプラナーPCB)(表1参照)とした。また、調査結果はWHO-TEF(1998)によりダイオキシン類を2,3,7,8-TCDD毒性等量(TEQ)に換算して集計した。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
(4) | 分析方法 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
水質の分析方法については「ダイオキシン類に係る水質調査マニュアル(平成10年7月環境庁水質保全局水質規制課)」、底質の分析方法については「ダイオキシン類に係る底質調査暫定マニュアル(平成10年7月環境庁水質保全局水質管理課)」によった。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
(5) | 検出下限未満の数値の取扱い | |||||||||||||||||||||||||||||||||
それぞれの異性体について、検出下限以上の値はそのままその値を用い、検出下限未満のものは当該異性体に係る検出下限の1/2の値を用いて各異性体の毒性等量を算出し、それらを合計してダイオキシン類の毒性等量を算出した。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
(6) | 精度管理 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
調査を委託した測定機関の組織体制を含めて、測定結果の精度を管理するため、(財)日本環境衛生センターの協力のもとで次のような精度管理の方法を採用した。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
[1] | 測定機関が作成した試料採取、前処理、分析の各段階における精度管理計画書を調査開始以前に提出させ妥当性を審査した。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
[2] | (財)日本環境衛生センター、専門家及び環境庁職員が、測定機関の査察を行うとともに、分析手順のチェック、分析チャートの精査を行った。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
II 調査結果
1.水質の調査結果について
調査対象とした10地域の水質のダイオキシン類濃度は表2のとおりであり、個別測定地点ごとの測定結果は別添図に示したとおりである。また、全110地点における測定値の分布状況は図―1に示したとおりである。本調査では比較的高濃度の水域を対象としているため、一般的な全国調査の平均と比べると高い結果となっている。
測定値の範囲は、0.041〜19pg-TEQ/l、調査地点の総平均は1.3pg-TEQ/lであり、過去の調査結果(検体ベース)の範囲内にある。しかし、いずれの地域においても、最大濃度地点の値は水質に係る環境基準(1pg-TEQ/l)を超える状況にあり、地域内の平均値でみると4地域(綾瀬川水域、引地川・柏尾川水域、濁川水域及び恩智川・第二寝屋川水域)で環境基準レベルを超える状況にあった。なお、平成10年度ダイオキシン類緊急全国一斉調査で最高濃度(検体ベースで25pg-TEQ/l)が検出された岩田川の観音橋については、本調査では環境基準以下であった。
綾瀬川水域と恩智川・第二寝屋川水域では、特に、汚染の面的な広がりが見られたが、本調査の結果からは汚染原因を特定するには至らなかった。このため、埼玉県及び大阪府は、今後さらに追跡調査を行い、原因の究明に当たることとしている。
また、引地川・柏尾川水域の引地川下流域の高濃度の主な原因は(株)荏原製作所藤沢工場の排水管の誤接続にあったことがすでに判明している。
引地川・柏尾川水域のいたち川、濁川水域及び岩田川水域については、その 後の関係地方公共団体による調査結果では環境基準を超えるダイオキシン類は検出されなかった。
なお、その他の地域を含めて、いずれの地域についても、関係地方公共団体において引き続き環境監視や高濃度汚染の原因究明調査が進められる予定である。
2.底質の調査結果について
調査対象とした10地域の底質のダイオキシン類濃度は表3のとおりであり、個別測定地点ごとの測定結果は別添図に示したとおりである。また、全110地点における測定値の分布状況は図―2に示したとおりである。
測定値の範囲は、0.12〜720pg-TEQ/gで、調査地点の総平均は21pg-TEQ/gであり、綾瀬川水域の古綾瀬川の松江新橋で測定された720pg-TEQ/gを除いて、過去の調査結果の範囲内にある。なお、古綾瀬川の松江新橋において、平成11年度公共用水域等のダイオキシン類調査の結果では120pg-TEQ/gであった。
綾瀬川水域の底質汚染については、原因を特定するに至っておらず、埼玉県は、今後、実態調査を実施する予定である。
また、その他の地域を含めて、いずれの地域についても、関係地方公共団体において引き続き環境監視や高濃度汚染の原因究明調査が進められる予定である。
3.まとめ
本調査は、環境庁が過去に行った各種のダイオキシン類汚染調査の結果、比較的高濃度汚染が認められた10地域を対象に実施された。
本調査の実施過程において、引地川下流域の主たる汚染原因が突き止められたほか、綾瀬川水域や恩智川・第二寝屋川水域の広域的な汚染の状況を明らかにするといったいくつかの成果が得られた。
しかし、今回の調査では、測定回数が各地点1回にとどまっており、また、調査密度においても十分なものとは言い難い面があり、本調査結果のみをもって汚染原因を究明するには至らなかった。
本年度より、地方公共団体によりダイオキシン類対策特別措置法に基づく大規模な常時監視が開始されており、また、その他にも比較的高濃度の汚染の原因究明のための調査も開始されている。今後、環境庁としては、地方公共団体が行うこうした調査が円滑に進められ、その汚染構造や汚染原因の解明及び所要の改善対策が推進されるよう、必要な支援に努めていくこととしている。