世界で約10万種、我が国で約5万種流通していると言われる化学物質の中には、人の健康及び生態系に対する有害性を持つものが多数存在しており、これらは環境汚染を通じて人の健康や生態系に好ましくない影響を与えるおそれがある。
こうした影響を未然に防止するためには、「潜在的に人の健康や生態系に有害な影響を及ぼす可能性のある化学物質が、大気、水質、土壌等の環境媒体を経由して環境の保全上の支障を生じさせるおそれ」(環境リスク)について定量的な評価を行い、その結果に基づき適切な環境リスクの低減対策を進めていく必要がある。
このため環境省では、平成9年度より化学物質の環境リスク初期評価に着手し、その結果を3次にわたりとりまとめ、「化学物質の環境リスク評価」(第1巻〜第3巻)として公表してきたところである。この中で「詳細な評価を行う候補」とされた化学物質については、関係部局との連携のもとに必要に応じ行政的対応を図ってきたところである。
化学物質の環境リスク評価とは、評価対象とする化学物質について、[1]人の健康及び生態系に対する有害性を特定し、用量(濃度)−反応(影響)関係を整理する「有害性評価」と[2]人及び生態系に対する化学物質の環境経由の暴露量を見積もる「暴露評価」を行い、[3]両者の結果を比較することによってリスクの程度を判定するものである。
ここでは、環境リスク管理のための施策を念頭に置きつつ、多数の化学物質の中から相対的に環境リスクが高そうな物質をスクリーニングするための初期評価として、健康リスク及び生態リスクにわたる「環境リスク初期評価」を実施している。本初期評価では環境にとって高いリスクがある物質を誤って見過ごしてしまう危険性を可能な限り小さくするため、暴露評価で検出最大濃度を利用し、有害性評価ではより感受性(sensitivity)の高い知見を利用するなどにより、安全側でのリスク評価を行っている。
環境リスク初期評価の目的に鑑み、未だリスクの評価及びこれに基づくリスクの管理がなされていない物質の中から、これまでの公表分に引き続き優先度が高いと考えられる新たな化学物質を評価対象物質として、PRTR対象物質、化学物質審査規制法の指定化学物質(現在は第二種監視化学物質)、内分泌攪乱作用の疑われる物質等から選定している。
本初期評価はスクリーニングとしての目的で限られた情報に基づきリスクの判定を行い、詳細な評価を行う候補物質を抽出するものであり、今回の結果を受け直ちに環境リスクの低減対策等が必要であると判断すべきものではない。
環境リスク初期評価を実施した20物質の評価結果は以下のとおりである。
健康リスク | 生態リスク | |
---|---|---|
A. 相対的にリスクが高い可能性があり「詳細な評価を行う候補」 | 【1物質】 1-ブタノール |
【1物質】 ニトリロ三酢酸 |
B. リスクはAより低いと考えられるが「関連情報の収集が必要」 | 【1物質】 ニトリロ三酢酸 |
【1物質】 リン酸トリクレジル |
C. 相対的にリスクは低いと考えられ「更なる作業を必要としない」 | 【13物質】 エチレングリコールモノエチルエーテル、塩化ベンジル、クロロエタン、o-クロロトルエン、trans-1,2-ジクロロエチレン、テトラヒドロ-1,4-オキサジン、N-ニトロソジフェニルアミン、二硫化炭素、2-ブロモプロパン、α-メチルスチレン、メチル−t−ブチルエーテル、リン酸トリクレジル、リン酸トリ-n-ブチル |
【12物質】 エチレングリコールモノエチルエーテル、塩化ベンジル、trans-1,2-ジクロロエチレン、テトラヒドロ-1,4-オキサジン、N-ニトロソジフェニルアミン、二硫化炭素、フェナントレン、1−ブタノール、2-ブロモプロパン、α-メチルスチレン、リン酸トリフェニル、リン酸トリ-n-ブチル |
D. 得られた情報では「リスクの判定ができない」 | 【5物質】 エチレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、2-ビニルピリジン、フェナントレン、リン酸トリフェニル |
【6物質】 エチレングリコールモノメチルエーテル、クロロエタン、o-クロロトルエン、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、2-ビニルピリジン、メチル-t-ブチルエーテル |
環境リスク初期評価を実施した20物質のほかに、PRTR対象物質のうち強い生態毒性が示唆されるなど生態リスク評価の必要性が高いと考えられる9物質を選定し、生態リスク初期評価を行った。ここで実施した生態リスク初期評価の方法は、上記環境リスク初期評価の中で実施したものと同じである。
判定を行うことのできた2物質の評価結果は以下のとおりである。
A. 相対的にリスクが高い可能性があり「詳細な評価を行う候補」 | 【0物質】 |
B. リスクはAより低いと考えられるが「関連情報の収集が必要」 | 【0物質】 |
C. 相対的にリスクは低いと考えられ「更なる作業を必要としない」 | 【2物質】 アクリル酸エチル、酢酸2-エトキシエチル |
評価結果は、物質ごとに評価文書の概要を要約したプロファイルとともに「化学物質の環境リスク評価 第4巻」としてとりまとめるとともに、インターネットを活用して成果を広く公表する。
環境リスクの判定の結果、情報の収集が必要とされた物質や、リスクの判定ができなかった物質については、関連情報を収集の上、その情報に応じて今後必要な初期評価を行う。