報道発表資料本文


別紙2

平成16年度オゾン層等の監視結果に関する年次報告書の概要


I オゾン層の状況

(全球的なオゾン層の状況)

 全球的なオゾン全量は、1980年以前(1964〜1980年の平均)に比べて少ない状態が続いており、特に高緯度域の春季において著しく減少している。人工衛星センサーによる2004年のオゾン全量(TOMS(オゾン全量マッピング分光計)データ)は、南北両半球の中緯度〜高緯度域においては、時期により参照値(1979〜1992年の平均値)に比して少ない領域が見られた。

(南極域上空のオゾン層の状況)

 2004年の昭和基地上空のオゾン全量は、7月を除き、一年を通してオゾンホールが明瞭に現れる以前(1961〜1980年)の平均値より少なかった。8月以降は10%以上少なく、9月中旬から10月にかけてはオゾンホールの目安である220 m atm-cm以下の値を観測した(図1)。2004年のオゾンホールは、面積、オゾン欠損量(破壊量)ともに、過去10年(1995〜2004年)の中では3番目に小規模であった(図2)。これは、8月下旬及び9月中旬から下旬にかけて発生した成層圏の突然昇温などの気象条件によるものであり、現時点でオゾンホールに縮小する兆しがあるとは判断できず、南極域のオゾン層は依然として深刻な状況にある。

(我が国におけるオゾン層の状況)

 2004年の日本上空のオゾン全量は、参照値(1971〜2000年(那覇のみ1974〜2000年))と比べて、札幌では春から秋に、つくばでは年の前半に少ない月が見られた。特に、札幌の10月、つくばの5月は観測開始以来各月の値として最も少なく、つくばの2月は2番目に少なかった。一方、那覇では年の後半にほぼ継続して多く、特に7、10、11月は観測開始以来、各月の値として最も多かった。日本上空のオゾン全量は、札幌、つくば及び鹿児島において長期的な減少傾向が見られ、その傾向は札幌において最も大きい(図3)。

(成層圏オゾンの減少要因)

 成層圏オゾンの全球的な減少傾向は、既知の自然現象からは説明できず、クロロフルオロカーボン(CFC)等の大気中濃度の人為的な増加が主要因であると考えられる。特に、1980年代以降の南極域上空におけるオゾンホールの発達は、大気中のCFC等の濃度増加によると考えることが最も妥当である。

(科学・環境影響評価パネル報告要旨)
 オゾン層破壊の長期的な変動や今後の予測に関して、モントリオール議定書の科学評価パネル報告(WMO,2003)*によると、
[1]
成層圏における塩素総量はピークかそれに近いが、臭素量は依然として増加していること
[2]
化学・気候モデルの予測では、成層圏のハロゲンが予想どおり減少すれば、南極域の春季のオゾン層は2010年頃に回復に向かい、今世紀中頃には1980年レベルに戻ること
[3]
観測データが蓄積されるにつれ、オゾン全量の減少が紫外(UV)照射量の増加をもたらしていることが確証されつつあること
などが報告されている。

II 特定物質の大気中濃度

(北半球中緯度における特定物質の大気中濃度)

 特定物質(オゾン層保護法に基づき生産等が規制されているフロン等)の大気中濃度については、北半球中緯度域の平均的な状況を代表するとみなせる北海道の観測地点において、1990年代後半以降CFC-12の濃度はほぼ横ばいであり、CFC-11、113については約1%/年の割合で減少している。また、大気中での寿命の短い1,1,1-トリクロロエタン(CH3CCl3)については、生産等の規制が始まった1993年以降、約17%/年の割合で急速に減少している(図4)。
  一方、CFCの代替物質であるHCFC-22、141b及び142bの大気中濃度は増加傾向にあり、またHFC-134aの増加率は、観測を開始した2000年以降、約15%/年と極めて大きい(図5)。さらに、ハロン1211及び1301についても、約2%/年の割合で今なお増加の傾向が続いている。

(都市域における特定物質の大気中濃度)

 都市域の状況の一つとして川崎市で測定したCFC-11、12、113、1,1,1-トリクロロエタン及び四塩化炭素の大気中濃度については、次第に安定し、北海道におけるこれらの物質の大気中濃度のレベルに近づきつつある。これらは1989年7月から開始されたモントリオール議定書に基づく規制の効果と考えられる。

(特定物質の大気中濃度とオゾン層)

 現在の特定物質の大気中濃度は、南極域でオゾンホールが観測される以前の1970年代に比べてかなり高い状況にあるため、成層圏オゾン層の状況が改善されるためには、これらの物質の濃度が更に低下することが必要である。

III 太陽紫外線の状況

(太陽紫外線の観測目的)

 成層圏オゾン層の破壊に伴い、有害な紫外線(UV−B)の地上への照射量が増大すると、皮膚がんや白内障の増加、さらに免疫抑制などの人の健康への影響のほか、陸生、水生生態系への影響が懸念される。このため、UV−B量や紅斑紫外線量(波長による人の健康への影響度の違いを考慮した指標)の長期的な変動の傾向を把握する必要がある。

(世界の太陽紫外線の状況)

 地上に届く紫外線の量は緯度によって異なり、一般に緯度が高くなるにつれて紫外線量は減少する。一方、オゾン量の減少が深刻な南極域に近いニュージーランドでは、近年夏季のオゾン量の減少に伴う紫外線量の増加が観測されている。

(南極域の太陽紫外線の状況)

 2004年の昭和基地におけるUV−B日積算値を参照値(1991〜2003年の平均値)と比較すると、10月中旬から下旬にかけて多く、11月上旬以降は大きく変動した。これは、昭和基地上空のオゾン量の変動にほぼ対応したものである。

(我が国における太陽紫外線の状況)

 2004年の国内の4観測地点(札幌、つくば、鹿児島及び那覇)におけるUV−B日積算値の月平均値は、那覇の1月を除き、一年を通して参照値(1991(つくばは1990)〜2003年の月平均値)と同程度かそれより多かった(図6)。特に、つくばと鹿児島では、夏季を中心に参照値を大きく上回った。これは、この時期に晴天の日が多かったことを反映したものと見られる。
  近年、紅斑紫外線量の多い年がよく観測されているが、晴天の多さとの対応も見られることから、天候の影響によるものと考えられる。なお、紫外線量の観測値はオゾン全量のほか、天候(雲量)や大気混濁度(エアロゾルによる大気の濁り具合)等の影響を受けるため、長期的な変動傾向の把握にはなお一層のデータの蓄積を要する。



* UNEP/WMO: Scientific Assessment of Ozone Depletion:2002, 2003.




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