報道発表資料本文


平成15年度ダイオキシン類の蓄積・暴露状況及び臭素系ダイオキシン類の調査結果について

 

I.ダイオキシン類の人への蓄積量調査

1.調査方法

 平成15年度ダイオキシン類の人への蓄積量調査では、我が国の一般環境におけるダイオキシン類の人体への蓄積状況を把握するために、全国5地域15地区の対象者に対し、血液中のダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCBsを「ダイオキシン類」という。)濃度を測定するとともに、食事調査、及び食習慣や喫煙歴等に関するアンケート調査を実施した(以下、「全国調査」という)。
 また、人体でのダイオキシン類の蓄積状況に関する経年変化を把握するために、平成10年度より環境省が血液中のダイオキシン類の調査を行った大阪府能勢町地域、埼玉県地域(所沢市、狭山市、川越市等)の対象者に対し、血液中のダイオキシン類濃度を測定するとともにアンケート調査を実施した(以下、「継続調査」という)。

(1) 全国調査
血液測定(人体の蓄積状況について)
全国5地域(北海道東北、関東甲信越、東海北陸近畿、中国四国、九州沖縄)の都市地区、農村地区、漁村地区の対象者272名に対して血液中ダイオキシン類濃度を測定した。
食事測定(蓄積量との関連について)
人体へのダイオキシン類の摂取経路のうち最も寄与割合が高いとされる食事とダイオキシン類蓄積量との関係を明らかにするため、血液測定の対象者のうち75名に対して食事中ダイオキシン類濃度を測定し、食事経由のダイオキシン類摂取量を計算した。
(2) 継続調査
血液測定(経年変化について)
大阪能勢町地域と埼玉県地域の38名に対して血液測定を行い、過年度の測定結果と比較した。


2.調査結果

(1) 全国調査
○血液測定について
血液中ダイオキシン類濃度については、対象者全員の平均値は24pg-TEQ/g-fat、中央値は21pg-TEQ/g-fatであり、範囲は3.1〜110pg-TEQ/g-fatであった。
5地域の平均値の範囲は19〜29pg-TEQ/g-fat、3地区の平均値の範囲は21〜27pg-TEQ/g-fatであった。また濃度レベルは、これまで我が国で行われた既存調査とほぼ同じであった。
加齢により血液中ダイオキシン類濃度が増加する傾向が認められた。
○食事測定について
調査期間中の食事経由のダイオキシン類摂取量については、対象者全員の平均値は1.3pg-TEQ/kg体重/日、中央値は1.0pg-TEQ/kg体重/日であり、範囲は0.17〜6.7pg-TEQ/kg体重/日であった。
5地域の平均値の範囲は0.91〜1.9pg-TEQ/kg体重/日、3地区の平均値の範囲は1.2〜1.4pg-TEQ/kg体重/日であった。
血液中ダイオキシン類濃度と調査期間中の食事経由のダイオキシン類摂取量との間に平成14年度調査では関連が認められたが、平成15年度調査では関連は認められなかった。
(2) 継続調査
 大阪府能勢町地域及び埼玉県地域の対象者について、経年変化を見た場合、個人により差は見られたものの、平成15年度平均値(32〜41 pg-TEQ/g-fat)と昨年度までの平均値(25〜43 pg-TEQ/g-fat)は、全体的にはほぼ同じレベルの濃度であった。
 

II.野生生物のダイオキシン類蓄積状況等調査

1.調査方法

 ダイオキシン類による環境汚染の実態を把握するため、平成14年度に続き、鳥類(カワウ、ハシブトガラス)、海棲哺乳類(スナメリ)及び陸棲哺乳類(アカネズミ)について、また、新たにアザラシ類、イノシシについて、ダイオキシン類の蓄積状況の調査を行った。さらに、野生生物への影響に関する調査も行った。


2.調査結果

(1) 蓄積状況調査結果
 カワウでは他の生物に比較してダイオキシン類の蓄積量(湿重量あたり毒性等量)が高い個体が見られた。ハシブトガラスはカワウや海棲哺乳類よりも蓄積量が相対的に低い傾向がみられた。海棲哺乳類(スナメリ、アザラシ類)では、陸棲哺乳類(アカネズミ、イノシシ)に比較して、特にコプラナーPCB類の蓄積量が高かった。また、アカネズミではダイオキシン類の肝臓への高濃度蓄積が認められた。経年的変化については、本年度極端に蓄積濃度が高くなった種はなく、濃度は横ばいもしくは減少傾向にある。

(2) 影響調査
 ダイオキシン類の蓄積による影響について検討を行うため、薬物代謝酵素活性、病理組織学的変化、血中ホルモン濃度について、カワウとハシブトガラスを用いて調査を行った。その結果、ダイオキシン類の蓄積濃度と薬物代謝酵素活性の間に正の相関関係が認められたが、誘導される薬物代謝酵素の種類に生物種差があった。病理組織学的変化については、ダイオキシン類の蓄積濃度に関連すると考えられる変化は認められなかった。また、血中ホルモン濃度については、カワウとハシブトガラスのダイオキシン類の蓄積濃度と甲状腺ホルモン濃度との間に負の相関関係を認めた。
 今回の調査結果から、ダイオキシン類蓄積による影響の指標として、カワウおよびハシブトガラスにおいて薬物代謝酵素活性誘導および血中の甲状腺ホルモン濃度を活用できる可能性が示唆された。今後、検体数を増やしてさらに調査する必要があると考えられた。
 

III.人における暴露実態調査

1.調査方法

環境中のダイオキシン類による暴露状況を把握するために、環境省等の政府機関等が実施及びとりまとめた平成14年度における各種環境媒体等の調査結果を解析し、個人総暴露量の推計等を行った。


2.調査結果

(1) 暴露の推定に用いた調査について
[1]環境中からの暴露について
 環境中(大気及び土壌)からの暴露については、ダイオキシン類に係る環境調査(環境省)の結果を用いて推計を行った。平成14年度調査の結果は次の通りであった。
ア. 大気:0.0066〜0.84pg-TEQ/m3(n=761、算術平均値0.093pg-TEQ/m3)
イ. 土壌:0〜250pg-TEQ/g(n=2282、算術平均値3.4pg-TEQ/g)
[2]食事からの暴露について
 食事からの暴露については、食品からのダイオキシン類一日摂取量調査(トータルダイエットスタディー:厚生労働省)の結果を用いて推計を行った。平成14年度調査の結果、推計暴露量は0.57〜3.40pg-TEQ/kg/day(n=36、算術平均値1.49pg-TEQ/kg/day)であった。

(2) 個人総暴露量の推計
 ダイオキシン類による暴露の主な経路を[1]食事、[2]大気、[3]土壌に区分し各媒体の算術平均値を用いて各経路別の平均的な暴露量を推計したところ、[1]食事経由は1.49 pg-TEQ/kg/day、[2]大気経由は0.028 pg-TEQ/kg/day、[3]土壌経由は0.0068 pg-TEQ/kg/dayであり、個人総暴露量は1.52pg-TEQ/kg/dayとなった。食事からの摂取量は前年度よりわずかに減少していたが、総暴露量に占める割合は9割以上であった。
 本調査の平成11年度からの推計暴露量の推移は以下の通り。
表 個人総暴露量の推計結果の推移
図1 個人総暴露量の推計結果の推移
図2 個人総暴露量の内訳(平成14年度)
(3) 統計的解析による個人総暴露量の推計
 環境媒体中の濃度及び食事からの暴露量について幾何平均値及びモンテカルロシミュレーションによりダイオキシン類の個人総暴露量を推計した。その結果、幾何平均値による推計では1.38pg-TEQ/kg/day、モンテカルロシミュレーションによる推計では1.62pg-TEQ/kg/dayであった。
 

IV.臭素系ダイオキシン類に関する調査

1.調査方法

 臭素系ダイオキシン類についての調査研究の推進を求めるダイオキシン類対策特別措置法附則第2条に基づき、平成15年度に臭素系ダイオキシン類の全国的な存在状況に関する一般環境調査等を行った。
 この調査は、
(1) 調査地域として、平成14年度までの調査と異なる全国4地域(E地域〜H地域)、地域毎各3地点合計12地点を設定し、
(2) 環境媒体として、大気、降下ばいじん、土壌、地下水、水質、底質、水生生物(魚介類)、野生生物(鳥類、ほ乳類)及び食事試料の9媒体を採取し、
(3) 臭素系ダイオキシン類(ポリ臭素化ダイオキシン類、モノ臭素ポリ塩素化ダイオキシン類に区分)の測定を行ったものである。
(4) また、各地域毎にハウスダストの臭素系ダイオキシン類の測定を行った。


2.調査結果

(1) 地域別の検出状況
 臭素系ダイオキシン類(2,3,7,8-異性体)は、E地域では水質、底質及びハウスダストから、F地域では大気、地下水、水質、底質及びハウスダストから検出された。G地域では地下水及び水生生物を除く試料から、H地域では地下水、水生生物及び食事試料を除く試料から検出された。
(2) 媒体別の検出状況
 臭素系ダイオキシン類(2,3,7,8-異性体)は、水生生物以外の媒体(大気、降下ばいじん、土壌、地下水、水質、底質、野生生物、食事試料、ハウスダスト)から検出された。

 今後とも、環境中での臭素系ダイオキシン類の蓄積状況の把握のため、継続して調査を行う。

表 臭素系ダイオキシン類(2,3,7,8-異性体)の検出状況
  大気 降下
ばいじん
土壌 地下水 水質 底質 水生
生物
野生
生物
食事
試料
ハウス
ダスト
E地域 × × × × × × ×
F地域 ○△ × × × ○△ ×
G地域 × ×
H地域 × ○△ × ×
その他 ×
凡例 ○ モノ臭素ポリ塩素化ダイオキシン類が検出された。
△ ポリ臭素化ダイオキシン類が検出された。
× どちらも検出されなかった。



(参考)
1. 「臭素系ダイオキシン類」とは、PCDDs(ポリ塩素化ジベンゾ−パラ−ジオキシン)又はPCDFs(ポリ塩素化ジベンゾフラン)の塩素が1つ以上臭素に置換したものを指す。
2. 塩素が1つだけ臭素に置換したものを「モノ臭素ポリ塩素化ダイオキシン類」、全ての塩素が臭素に置換したものを「ポリ臭素化ダイオキシン類」という。


構造図
PCDDsの例 モノ臭素ポリ塩素化ダイオキシン類の例 ポリ臭素化ダイオキシン類の例
PCDDsの例 モノ臭素ポリ塩素化
ダイオキシン類の例
ポリ臭素化ダイオキシン類の例


  なお、平成15年度ダイオキシン類の蓄積・暴露状況及び臭素系ダイオキシン類の調査結果について(詳細版)は環境省ホームページにて公開する。




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