報道発表資料概要


1.調査目的

 化学物質排出把握管理促進法(化管法)に基づくPRTR制度により、対象化学物質を取り扱っている事業者からの届出が始まって現在2年が経過したところであり、平成13年度、14年度の2カ年分のPRTRデータが蓄積されています。同法に基づく届出データは、それぞれの事業所における対象化学物質ごとの大気、公共用水域等への媒体別の排出量と、下水道等への移動量に関するものであり、各事業者における対象化学物質の排出実態を把握することができます。しかし、これらのPRTRデータからは、事業者における削減努力に関する実態は見えてきません。例えば、前年度と比較して排出量が大幅に減少していても単に事業規模を縮小した場合もあれば、前年度と比較して取扱量に変化がないが排出量が10%程度減少するなどの一定の削減努力を実施している場合もあると考えられます。

 そこで、環境省では、化学物質管理対策をより効果的に推進させるため、PRTR届出事業者による対象化学物質の削減対策の実態を把握することを目的に、平成16年6月に、PRTR届出対象化学物質の排出量を削減した製造業を営む事業所を対象として、PRTR届出対象化学物質の排出量削減に関するアンケート調査を行いました。

2.結果の概要

 平成13年度及び14年度の2カ年にPRTR制度に基づく排出量等の届出のあった事業所のうち、製造業を中心に全国1,752事業所にアンケート調査票を送付したところ、1,018事業所から回答(回答率58.1%)がありました。今回のアンケート調査結果の主なポイントは次のとおりです。
(1)対象化学物質の排出量の減少理由
 対象化学物質の排出量が削減された大きな理由は、「算定方法の精度向上や変更等により、見かけ上算出値が減少したため」(15%(156/1,018事業所))、「事業内容を変更・縮小し、対象化学物質の使用量が減少したため」(44%(447/1,018事業所))、「削減対策を講じたため」(39%(398/1,018事業所))でした。(その他・無回答が1.7%(17/1,018事業所))
グラフ
排出量の削減理由別回答事業所数構成比

(2)算定方法の精度向上等を実施した事業所について
 「算定方法の精度向上や変更等により、見かけ上算出値が減少したため」という回答は、対前年度比削減率が大きい事業所で比較的多くみられます。また、従業員数が1,000人以上の事業所でも回答が多く見られています。
 こういった事業所に対しては、具体的にどのような算定を行ったのかをさらに解析し、排出量を算定するにあたって注意すべき点を整理しておく必要があります。
グラフ
削減率ごとの削減理由別回答事業所数構成比

グラフ
従業員規模ごとの削減理由別回答事業所数構成比

(3)削減対策を講じた事業所について
 「削減対策を講じたため」と回答した事業所が採った削減対策の内訳は、「原材料を転換した」(36%)、「工程の管理・運用上の改善を実施した」(51%)、「貯留施設や排ガス(排水)処理装置等の導入を行うなどの排出防止対策を実施した」(33%)でした。(その他は9%。複数回答あり)

従業員規模別・削減対策別回答事業所数(複数回答あり)
表
(3-1)原材料を転換した事業所について
 「原材料を転換した」と回答した事業所では、PRTRの非対象化学物質に転換した場合が多く、例えば塩素系から非塩素系物質に転換したり、有機系の化学物質からアルコール類等の水溶性の化学物質に転換する場合が多く見られました。
 これらの事業所に対しては、代替物質を使用することによって、化学物質の有害性やリスクがどう低減されるのかといった情報を収集していく必要があります。

工業用洗浄剤に係る対象化学物質別代替物質
表
注1: 代替物質名等は可能な範囲でグループ別に分類しているが、表記が異なっても実質的に同じ場合があり得る。
注2: 代替物質の上に示した数字は化管法の対象化学物質であることを示し、数値は物質番号である。“△”は対象化学物質が含まれる可能性がある物質を示す。
注3: 商品名で回答された石油系の洗浄剤(イソパラフィン系やナフテン系など)はすべて炭化水素系溶剤に統合した。

溶剤以外に係る対象化学物質別代替物質
表
注1: 代替物質名等は可能な範囲でグループ別に分類しているが、表記が異なっても実質的に同じ場合があり得る。
注2: 代替物質の上に示した数字は化管法の対象化学物質であることを示し、数値は物質番号である。“△”は対象化学物質が含まれる可能性がある物質を示す。


 また、原材料転換に伴う機器の変更の有無等については、非ハロゲン系の炭化水素や界面活性剤などでは、機器の変更の必要がなかった場合が比較的多く見られましたが、ハロゲン化炭化水素では、原材料転換に伴う機器の変更が必要な場合が多く見られました。これは、物性が大きく異なる物質に転換する場合は機器も変更する必要が多いことを示唆しており、原材料転換を行うにあたって、原材料や機器の変更のコストをどのように考慮しているのか、さらに調査する必要があります。

対象化学物質別・原材料転換に伴う機器の変更の有無等別回答事業所数
表
(3-2)工程の管理・運用上の改善を実施した事業所について
 「工程の管理・運用上の改善を実施した」と回答した事業所が採った改善策の内訳は、「作業の適正化」(38%)や「製造装置・処理装置の使用の適正化」(36%)などでした。
 特に、環境保全対策に多くのコストをかける余裕がない中小等の事業者にとっては、このような追加的な投資を必要としない対策を実施することが現実的であると考えられます。こういった事例については、さらに具体的な内容について調査を行い、まだ対策が十分に進んでいない事業者への参考となる削減対策事例を収集し、広く事業者に利用してもらえるよう努めていく必要があります。
グラフ
工程の管理・運用上の改善方法別回答事業所数構成比


工程の管理・運用上の改善における「その他」の回答の主な内容
その他の内容 回答事業所数
工程の変更により使用量(排出量)を下げた
 → 対象化学物質を使用(副生成)しない方法へ変更(4)
 → 連続製造、資材の共通化により作業を合理化(2)
10
再利用の促進、リサイクル率の向上 5
薬液の交換頻度を下げた(長持ちさせる工夫をした) 3
注1: 「その他の内容」で→で示してある内容は具体的な内容であり、( )内の数字は回答事業所数を示す。
注2:「工程の変更」は処理装置等の導入に該当する場合もあると考えられるが、回答されたまま集計を行った。
(3-3)排ガス・排水処理装置を導入した事業所について
 「貯留施設や排ガス(排水)処理装置等の導入を行うなどの排出防止対策を実施した」と回答した事業所では、排ガスについては、燃焼処理装置や吸着処理(回収)装置を導入した事業所が多く見られ、排水については、活性汚泥処理装置や凝集沈殿装置を導入した事業所が多く見られました。これらの装置の導入コストは、概ね排ガス・排水量に比例して高くなる傾向が見られました。今回は導入コストのみの結果しか得られていませんが、実態をより把握するためには、維持管理コストに関する調査も必要です。
グラフ
排ガス処理装置等の種類別回答事業所数構成比

グラフ
排水処理装置等の種類別回答事業所数構成比

図
注:排ガス量、導入コストのいずれかが無回答だった処理方法及び回答は除外している。
処理方法ごとの排ガス量と導入コストの関係


図
注:排水量、導入コストのいずれかが無回答だった処理方法及び回答は除外している。
処理方法ごとの排水量と導入コストの関係


(4)削減対策を講じた理由・公表方法について
 「削減対策を講じたため」と回答した事業所について、68%の事業所が「自発的に対策を講じた」と回答しています。また、削減対策の公表方法については、従業員規模の大きい事業所ほど環境報告書上で掲載している場合が多く見られました。
グラフ
削減対策を講じた理由別回答事業所数構成比

グラフ
事業所の従業員規模ごとの削減についての環境報告書上での公表方法別 回答事業所数構成比

3.今後の展開

 今後、本調査結果を踏まえ、PRTR届出対象化学物質の削減対策の実態に関して、ヒアリング調査等のさらなる調査を実施し、事業者への参考となる削減対策事例を収集し、公表・普及して行く予定です。




 報道発表概要に戻る