別紙1

 

生物多様性条約締約国会議におけるハーグ閣僚宣言(仮訳)

 

 我々生物多様性条約の実施に責任を有する閣僚は、第6回生物多様性条約締約国会議の開催にあわせて、2002年4月17日から18日、オランダのハーグにおいて集い、

  1. 生物多様性(あらゆる生物及び生態的な複合体(生態的な複合体においては生物はその一部であり、種内変異、種間変移及び生態系間変異を含む)の間にある変異性)の重要性を認識する。このことが、地球を人間にとって無二の生息域とし、さらにこのことが地球及び我々の幸福にとって本質的なことである。

  2. さらに生物多様性が人類の活動により、かつてないほどの早さで破壊されており、また、生物多様性条約が、生物多様性の保全、利用及び遺伝資源の公正で衡平な利益配分を実現するための第一の手段であるため、この傾向を抑止するための明確な目的と目標が設定されなければならないことを認識する。

  3. 生物多様性条約の3つの主たる目的については、締約国会議における政策の決定過程や実施に際して、いずれも同様の重要性を持っている。

  4. 戦略計画の採択をフォローアップする明確な目的及び年次計画が必要であることを認識し、これらの目的を達成し、条約の作業計画の実行における進歩をレビューする。

  5. 我々は生物多様性が持続可能な開発をあらゆる形で担保していることを認める。すなわち、貧困の撲滅、食料安全保障、きれいな水の提供、土壌の保全及び人類の健康という問題は、すべて世界の生物多様性の維持・利用に直接的に依存しており、従って、持続可能な開発は生物多様性の保全及び持続的な利用ということなしには達成できないのである。

  6. 生物多様性条約の3つの目的に対する我々の約束を再確認し、我々は経済、社会、環境の諸問題の統合に基づいて持続可能な開発という大きな目的に向かって条約を実施するという倫理原則に従って行動する必要があるということを強調する。我々は対話から行動へ重点を移すことを約束する。

  7. またわれわれは過去10年の間において、生物多様性条約の目的を国家政策及び国際的政策や具体的な行動に移すことに、次の各点を含めて、進歩があったことを強調する。

  8. 我々は生物多様性条約がアジェンダ21の実施に貢献することを強調し、同時にアジェンダ21が生物多様性条約の実施に必要不可欠であることを強調する。

  9. 我々は生物多様性の保全及び持続可能な利用並びに遺伝資源の利用に関する公正で衡平な利益配分を、持続可能な発展や貧困の撲滅の達成のために必要不可欠であることを考慮すべく我々が約束していることを再確認する。また我々は生物多様性条約やその他の関連条約間のシナジーを高め、さらに各国、各地域及びあらゆる利害関係者が有する経験の交換を促す。

  10. しかし、残念ながら、各国政府や関係者の努力にも関わらず、「生物多様性アウトルック」の指摘するところによれば、生物多様性は人間活動により、破壊され続けている。われわれは、国連事務総長の言葉をここで強調する。「従ってわれわれは逃げられない一つの事実に向かい合わなければならない。すなわち持続可能性に関する課題は山積みされており、我々の適切な対応は不十分なものである。いくつかのすぐれた事例を例外とすれば、我々の対応はあまりに少なく、あまりに小さく、あまりに遅すぎる。」

  11. 我々は、地球上の生物が危険な状態にあることを認識し、したがって、生物多様性の保全とその持続的な利用に関する努力を強化し、世界的にも、地域的にも、また国のレベルにおいても、生物多様性が現在驚くべきスピードで失われている傾向を2010年までに止めるための措置を強化することを、ここに決意する。

  12. 我々は、適当な場合には、生物多様性国家戦略及び行動計画を第7回締約国会議の開催までに発展させ、改訂することを約束する。

  13. 我々は、森林減少及び森林の生物多様性の損失をくい止め、また木材及び非木材資源の持続可能な利用を確実にすることについての約束を再確認するとともに、UNFF(国連森林フォーラム)、UNCCD(砂漠化対処条約)、UNFCCC(気候変動枠組条約)及び他の森林関係のプロセスや条約と密接に協力し、さらに全ての関連のある利害関係者を含めることにより、全てのタイプの森林の生物多様性を対象として、行動を基盤とする生物多様性条約の拡大作業計画の完全実施を約束する。

  14. 我々は、生物多様性の破壊の速度が、これら自然の恵みの管理者である国々やそこに住む人々が恩恵を受けなくとも、かなり速い速度で進行することを認識しつつ、遺伝資源の持続可能な利用による衡平な利益配分を保証する、グローバルな環境サービスの評価及び経済的な報償を含む効果的で革新的なメカニズムを発展させ、実行することを決意する。

  15. 我々は、ヨハネスブルクサミットへ以下の点を要請する。

    a. 生物多様性条約は、様々な国家や地域及び国際的な生物多様性関連の合意文書やプログラムを通じて実施される調整・結束および強化を促す主要な国際法上の条約であることを確認する。
    b. 締約国は、国連憲章及び国際法の原理に従い、自国の環境政策に従って自国内の資源を開発する主権を有するとともに、自国の管轄下ないし支配下における活動が他国の管轄の及ばない地域の環境に影響を及ぼさないようにすることを再確認する。
    c.

    政策の策定及び実施の観点から、生物多様性と他の政策分野間の強いつながりを理解し、特に、以下の点を促進する。
     ・ 持続可能な開発、貧困の撲滅および自然災害の管理とともに、生物多様性の保全と持続可能な利用の強いつながり。
     ・ 特に貿易や財政に関する合意と、持続可能な開発との接点における取り組みにあたっては、生物多様性の目的を、社会や経済の政策、プログラム、活動に組み込むこと。
     ・ CBDの目的のより具体的な達成に向けて、関連するWTO機関内におけるCBDの認知向上を前提に、WTO(ドーハ合意を含む)を中心に、CBDと国際貿易関連の合意や政策間の連携および相互補完をはかること。
     ・ 相互利益の領域における生物多様性関連条約間ならびに他機関との間の(特にUNFF、UNCCD、UNFCCC、RCW(ラムサール条約))、地域、国家、地球規模レベルにおける、効果的な協力及び協調。
     ・ 地域・国家・世界レベルにおける、より一層の調整・連携・パートナーシップ。
     ・ 土地、水、生物資源の統合管理のための基本概念の一つとしてのエコシステムアプローチ

    d. 世界的にも、地域的にも、また国レベルにおいても、驚くべきスピードで失われている生物多様性の現状を2010年までに抑止して逆転させるための措置を講じる約束を再確認する。
    e. 生物多様性ならびに生態系に関する科学的な知識を高めるために、生物多様性に関する基礎的調査研究を強化することの必要性を認識する。
    f. 山地や極地の生態系のみならず、沿岸浅海域ならびにサンゴ礁を含む湿地等の重要な生態系を保全・再生するための適切な施策を講じるよう政府を奨励する。
    g. CBD、カルタへナ議定書、食糧農業遺伝資源に関する条約、生物多様性関連の合意、UNFCCC、UNCCDの批准及び完全な実施を全ての国に対して促し、これらの国、地域、国際レベルでの実施にあたっては、一体的なアプローチをとることを促進し、国際環境ガバナンスによるプロセスの決定を歓迎し、支持する。
    h. 2002年3月にメキシコのモンテレーにおいて開催された国連開発資金国際会議の積極的な結果を歓迎する。国連開発資金国際会議はモントレー合意に反映されているように、貧困の撲滅、経済成長、持続可能な開発の促進の達成に向けて重大な一歩を提供している。
    i. 途上国に対するODA支出をGNPの0.7%、そして後発途上国に対するODA支出は0.15から0.20%を達成するという数値目標に具体的な努力をしていない先進国に対し、その努力を促す。
    j. 先進国に対し、GEFに対する相当規模の増資を達成するよう促す。
    k. 能力開発、環境にやさしい技術移転、適切かつ確実な資金の供給、伝統的なものを含む知識と発展途上国(特に、後発途上国、小島嶼国及び経済移行国)における生物多様性の保全と持続的利用に関する健全な科学の促進及び保護が、持続可能な利用の達成のための本質的な要素としての生物多様性条約を完全に実施するために必要であることを再認識する。
    l. 能力開発、環境にやさしい技術移転、相当な資金供給、伝統的な知識の保存・維持に資する条項を含む知識の提供、生物多様性の保全および持続可能な利用のための健全な科学、生物多様性に関する活動への投資を発展途上国(とりわけ後発途上国、島嶼諸国及び経済移行国)において促進するため、官民を問わず全ての関係するセクター(銀行や経済界ならびに国際組織を含む)とのパートナーシップを様々な地域、様々なレベルにおいて創設し強化する。また、WSSDへのタイプ2型の成果となるようなパートナーシップを提案するよう、各締約国及び利害関係者を奨励する。
    m. 持続可能な開発の達成のため、発展途上国、特に後発途上国、小島嶼国の社会のあらゆる階層で必要とされる問題意識及び技術的競争力の向上と、条約の目的を各種のプログラムにおいて促進するための基本的手段として、教育プログラム及び能力向上プログラムを開発・実施する努力も強化するよう各国政府を促す。各国が、国家の生物多様性に関する戦略と、他の分野の政策や戦略との整合性を確実に強化することを促す。特に、(a)持続可能な開発と貧困撲滅、(b)気候変動と砂漠化、(c)農業、森林、漁業並びに観光などの経済活動の分野について。
    n. 森林減少及び森林の生物多様性の損失をくい止め、また木材及び非木材資源の持続可能な利用を確実にすることについての約束とともに、UNFF、UNCCD、UNFCCC及び他の森林関係のプロセスや条約と密接に協力し、さらに全ての関連のある利害関係者を含めることにより、全てのタイプの森林の生物多様性を対象として、行動を基盤とする生物多様性条約の拡大作業計画の完全実施についての約束を認識する。
    o. 全ての関係者が生物多様性条約の目的の履行に貢献することを奨励し、また、それを可能ならしめる。特に生物多様性の保護並びに持続可能な利用における、若人、女性、地域住民、地域社会の持つ特別の役割を認識する。特に、持続可能な発展における地域住民と地域社会の権利を認め、生物多様性を保全して持続可能な発展を保障しながら、事前の是認のもとに彼らの固有の知識・制度・習慣を取り入れ、さらに保全手続きへの彼らの参加を促すことが重要である。
    p. 各国政府が、実施状況の評価及びレビューのためのメカニズムの発展及び関連制度の策定を通じることを含めて、国際的な義務に関する適切な対策を講じるよう促す。
     
  16. 我々は、2002年5月27日から6月7日までインドネシアのバリで開催される持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)の閣僚級準備会合及び2002年8月26日から9月4日まで南アフリカで開催されるヨハネスブルグサミットの成功のため約束を、ここで改めて確認する。

  17. 我々は、閣僚宣言に加えて、青年会議と関係者との対話がもたらした成果を、生物多様性条約の作業への価値ある貢献として歓迎する。そして我々は青年会議及び関係者との対話を将来の締約国会議の枠組みに組織することを決意する。