OECD環境保全成果レビュー
- 「結論及び勧告」の概要 -

平成14年1月
環  境  省
 
 
1. 日本の環境政策の成果(「結論」部分前段)
 
  (1) 環境管理(より効率的な環境政策の実施、大気、水、廃棄物、自然及び生物多様性)
     1990年代において、日本の環境法制は大いに進展した。また、環境政策の実施に当たり効果的に政策手法が組み合わされている。
 規制は厳格で適切に施行され、強力なモニタリング体制がとられている。大気質は引き続き改善し、硫黄酸化物、窒素酸化物等で経済成長との切り離し(デカップリング)が達成され、低公害車の利用台数も増加している。公共用水域の水質についても、環境基準の健康項目はほぼ達成され、生活環境項目も徐々に改善している。循環型社会の構築を図るための努力が進められており、90年代には廃棄物排出量が安定し、一般廃棄物のリサイクル率も飛躍的に向上した。
 自然環境と生物多様性に関する包括的かつ定期的な目録(緑の国勢調査)が確立されている。
 
  (2) 持続可能な発展に向けて(環境配慮の経済的な意思決定への統合、環境配慮と社会配慮の統合、化学物質)
     環境基本計画は、各分野の計画に環境配慮を統合するために必要な基盤を確立した。また、政府のグリーン化プログラム(率先実行計画)により公共部門の環境負荷が削減され、自動車関連税制のグリーン化により、環境配慮と財政政策の統合も開始された。
 環境白書が30年以上にわたり国会に提出され出版される等、質の高い環境情報があり、住民の情報へのアクセスも改善している。環境影響評価法により事業への利害関係者の参加が強化された。
 PRTR、ダイオキシン類及びPCBに係る法律が制定され、有害化学物質の排出を削減するための対策が強化され、産業界の自主的取組も、一部の有害化学物質については相当量の削減をもたらした。
 
  (3) 国際的な環境協力(気候変動、その他の国際約束及び国際協力)
     1990年代初めに野心的な地球温暖化防止施策の目標を設定し、GDP当たりの二酸化炭素排出量は90年代に2.2%減少した。1970年代以来、省エネ基準を広範かつ効果的に活用し、98年にはトップランナー方式の導入によりさらに強化された。産業界の自主的取組は、産業部門からの温室効果ガスの排出削減に貢献した。
 国際協力については、中国、韓国との協力関係が強化された他、東アジア酸性雨モニタリングネットワークの構築に日本は重要な役割を果たした。また、ODAの30%以上が環境案件に充当されている。日本は1995年にクロロフルオロカーボンの製造を停止した。さらに、FAO(国連食糧農業機関)の勧告に沿い、漁船団の数量を削減するための重要な対策が実施されている。
 
 
2. 日本の環境政策が抱える課題(「結論」部分後段)
 
  (1) 環境管理(より効率的な環境政策の実施、大気、水、廃棄物、自然及び生物多様性)
 
     課徴金及び環境税は十分に活用されておらず、財政上の支援措置に係る費用対効果が体系的に評価されていない。また、土壌汚染管理に法的枠組みがなく、責任の所在が不明確なままである。産業界の自主的協定はより透明化され、監視の仕組みと数値目標を持つべきである。
 経済成長と道路交通の利用のデカップリングという課題に依然として直面しており、道路需要管理対策が脆弱なままである。非メタン揮発性有機化合物の固定排出源に対する実質的な対策がとられていない。大気・交通政策における費用対効果分析に重点が置かれるべきである。
下水道建設計画の目標が達成されていない。富栄養化は今なお深刻な水質問題であり、農業等の非特定汚染源からの負荷削減への対応に遅れをとっている。水管理における生態系への影響の側面が不十分である。水量・水質管理の更なる統合と、河川流域全体を対象とした取組が必要である。
廃棄物処理に関しては、ごみ処理手数料の拡充・増大がなされるべきである。家電製品の廃棄時に費用を負担する仕組みは効果的でない可能性がある。1990年代には産業廃棄物の不法投棄件数が増加している。処理施設及び最終処分場の拡充が必要である。
 多くの動植物の種が絶滅の危機にある状態は1990年代を通じて改善していない。また、自然公園では利用者と開発による圧力が強まるばかりである。さらに、他の政策分野における自然環境及び生物多様性への配慮の統合の進行はゆっくりとしている。
 
  (2) 持続可能な発展に向けて(環境配慮の経済的な意思決定への統合、環境配慮と社会配慮の統合、化学物質) 
     二酸化炭素の排出、交通、エネルギー等経済成長とのデカップリングが不十分な分野がある。戦略的環境アセスメントが体系的に適用されていない。ほぼ全ての環境関連税が道路建設等のための目的税となっている。各分野の補助金は、環境影響について体系的な再検討がなされるべきである。
 環境教育・研修が強化されるべきであり、市民の行政への参加も改善されるべきである。環境NGOは依然脆弱で、公共財のために法廷に立つ法的地位を得ていない。ライフスタイル等の変化による環境影響がさらに調査されるべきである。
 化学物質管理政策に一般的には生態系の保全の観点が含まれておらず、有害化学物質の排出量に係る数値目標もダイオキシン等を除き設定されていない。リスク評価は現在までにごくわずかの物質に対して実施されたのみで、製品中の有害化学物質に係る消費者への情報も不十分である。
 
  (3) 国際的な環境協力(気候変動、その他の国際的約束及び国際協力)
     温室効果ガスを6%削減するという目標に照らし、日本の実態は依然としてかなり厳しい。GDP当たりのエネルギー使用量は90年代に5%増加しいる。各分野及び様々なエネルギー対策における地球温暖化防止の取組との調和に向けた努力が必要である。既存の環境関連税を温室効果ガス排出削減等の観点から適切な場合には検討し、一層発展させるべきである。大気及び海洋の越境汚染については、政策的対応に向けた共通理解と基盤整備にはまだ遠い状況にある。また、製品からのフロンの回収率は改善されるべきである。
 
 
3. 日本の環境政策に対する勧告
 
  (1) 環境管理(より効率的な環境政策の実施、大気、水、廃棄物、自然及び生物多様性)
  経済的手法(税、課徴金)の活用を強化・拡充するとともに、環境政策手法の経済分析を増進させること。また、財政支援措置について汚染者負担原則との整合性を評価し再検討すること。
  あらゆる種類の汚染された土地に対応する環境法制を整備すること。
  窒素酸化物及び非メタン揮発性有機化合物の排出削減努力を継続するとともに、微小粒子状物質に係る総合的な政策をさらに発展させ、実施すること。
  交通需要対策等を含む総合的な政策パッケージを通じた自動車交通管理の強化を図ること。
  湖沼、内湾及び内海における栄養塩削減対策、特に農業を始めとする面源対策を強化すること。
  水域類型システムを効果的なものとし、また、生態系保全に関する水質目標を導入すること。
  循環型社会形成推進基本法に基づき数値目標を開発すること。拡大生産者責任の適用を拡充すること。
  廃棄物対策における経済的手法の活用、特にごみ処理費用回収のための手数料を拡充すること。
  自然環境のための補償基金等の資金メカニズムを検討するとともに、保護地域における人的資源等の強化を図ること。
  損なわれた生態系を再生するための事業を一層推進すること。
 
  (2) 持続可能な発展に向けて(環境配慮の経済的な意思決定への統合、環境配慮と社会配慮の統合、化学物質)
  戦略的環境アセスメントを体系的に実施するために必要な措置を講じること。
  引き続き、環境関連税制を環境にやさしい形に再構築するとともに、環境に悪影響を与える分野別補助金を削減すること。また、既存の道路燃料及び自動車税制の見直し及び一層の発展を進めること。
  環境情報への市民のアクセスを改善し、また、教師の研修を含めた環境教育を強化すること。
  化学物質管理に生態系保全を含むよう規制の範囲をさらに拡大すること。また、化学品製造者に対し、安全性点検等へのより積極的な役割を与えるとともに、有害化学物質に関するデータベースの整備及びリスクコミュニケーションの強化を図ること。
  農薬の使用に関する規制等について、農業者の指導を継続し、遵守状況を監視すること。
 
  (3) 国際的な環境協力(気候変動、その他の国際的約束及び国際協力)
  2002年の京都議定書の発効を目指し、税・課徴金等の経済的手法を含むバランスのとれたポリシーミックスによる国内制度を構築し、適切な場合には、環境関連税を温室効果ガス排出削減の観点から検討し、一層発展させること。
  運輸、民生部門におけるエネルギー需要管理手法を開発、実施するとともに、再生可能エネルギーの開発、利用を促進すること。また、産業界の自主的取組を再評価し、見直すこと。
  国境を越える大気及び海洋の汚染並びに渡り鳥の問題に関し、二国間及び地域における取組を強化すること。
  輸入木材を持続可能に管理された森林から採取されたものとする手段を開発すること。
  環境目的のODAをさらに増額すること。
    (了)