別添
 
公害防止計画制度の運用の見直しについて
(答申案)
 
平成13年10月
中央環境審議会
 

 はじめに
 
   公害防止計画については、昭和45年の制度創設以来、現に公害が著しい地域等において、国、地方公共団体、事業者等が連携を図りながら公害防止施策を総合的、計画的に講ずるための制度的枠組みとして用いられてきたところである。
 元来、公害防止計画制度は、創設当時に見られた激甚な産業型公害の解消を念頭において創設された制度であり、汚染物質の排出規制の強化や徹底、公害対策事業の集中的実施等、いわゆるエンド・オブ・パイプ型の対策を中心とした施策の推進により、公害防止計画地域における大気、水質等の激甚な公害の改善に相当の成果を収めてきた。
 しかしながら、近年において、こうした公害の態様は、日常生活や通常の事業活動に起因する都市生活型公害へと大きく変化してきているため、ほぼ制度創設時と同様の運用がされてきた公害防止計画制度にはいくつかの問題点が生じてきており、平成12年12月1日付け中央環境審議会意見具申においては以下の点が指摘されている。
 第一に、都市生活型公害の対策においては、規制措置や経済的措置等の幅広い施策が公害防止対策事業と有機的に連携し総合的に講じられる必要があるが、現在の公害防止計画においては、その点が十分に盛り込まれているとは言えないことである。
 第二に、現在、公害防止計画地域に指定されている地域の多くは、激甚な産業型公害の解消または未然防止を念頭に、制度開始後間もなく指定されたものが継続して指定されており、地域の固定化が進んでいることである。
 第三に、現在の公害防止計画では、地域の課題と、具体的な施策及び達成目標との関連が不明確であるため、汚染等の発生源が不特定多数である都市生活型公害の解消につながりにくいことである。
 公害防止計画制度については、以上のような問題点を踏まえ、今後は、比較的減少しつつもいまだ各地に生じている産業型公害に加え、大都市地域を中心にみられる都市生活型公害も視野に入れた運用が図られるようより一層の改善に努め、我が国における公害の防止を推進していく必要がある。
 
 
 当面の見直しの焦点
 
   これらの問題点に対して、前述の意見具申の中で「公害防止計画制度の見直しの方向性」として指摘されるように、当面は以下の2点に焦点をあて、公害防止計画制度の運用を改善することが必要である。
 第一に、公害防止計画の策定指示を必要とする地域の指定要件(策定指示の要件)を明確化することである。その際、一般的な対策のみでは十分な対応が図れない著しい公害を対象とするという公害防止計画制度の主旨を踏まえ、大都市地域に典型的にみられるように多様な都市生活型の汚染等が集中する状態も念頭におき、真に対策を必要とする地域が対象となりうるよう、要件の考え方を示すことが重要である。
 第二に、都市生活型公害の解消に対しより実効性のある公害防止計画とするために、あらかじめ国から示される基本方針の内容について見直しを図り、公害防止計画に定めるべき点について計画策定を行う地方自治体に対し明確に指示を行うことである。その際、公害防止計画において、地域の課題及びその目標が明確化されるとともに、課題に対応した具体的な対策の検討、計画の適切な進行管理と分析評価が行われるようにすることが重要である。
 
 
 策定指示の要件
 
  (1) 策定指示に関する経緯
     公害防止計画は制度創設以来、激甚な産業型公害が発生している地域等を中心に地域指定が行われてきた。ところが近年、地域指定の対象となるような産業型公害の拡大はなく、新規市町村の地域指定が行われていないことから、地域の固定化が進んできている。
 一方、都市生活型公害が大都市地域を中心に全国に幅広く広がりつつあり、なかでも一部の地域では大気、水質等の多様な汚染が集中し深刻な事態となっており、さらに対象地域外の市町村においても、対象地域と同程度の環境質の悪化が見られるものもある。
 
  (2) 策定指示の要件の基本的考え方
     公害防止計画は、全国の中で著しい公害が生じている等の地域に限って総合的に施策を講じる制度であり、全国一律の施策レベルよりも一層重点的な施策を講じる必要がある地域を対象とすべきである。このため、策定指示の要件を明確にするにあたっては、産業型公害から都市生活型公害へと公害の態様の中心が変化したことに対応し、大都市地域に典型的にみられるように、自動車交通公害や生活雑排水による水質汚濁等多様な汚染等が集中している地域が対象となるよう適切に整理する必要がある。
 その際、全国的に幅広く生じている汚染等については、本制度でその問題解決を図るだけではなく、各汚染等に係る個別の法制度において問題を解決すべきことを念頭におく必要がある。
 
  (3) 具体的な策定指示の要件のあり方
     公害防止計画の地域指定の要件のひとつとして、環境基本法第17条第1項第1号において「現に公害が著しく、かつ、公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難であると認められる地域」と規定されているが、その際の公害の著しさの目安として、近年の公害の態様の変化に対応し、大都市地域に典型的にみられるように多様な都市生活型の汚染が集中している状況を念頭においた判断基準を持つことが妥当である。
 そこで多様な汚染等が集中している大都市地域の環境の状況を具体的にみると、大気、水質、騒音等多様な分野で環境基準等を超過しているか、又は、一つの分野における多数の項目で環境基準等を超過している状況にある。これらの地域では、環境基準に照らして未達成の項目が少なくとも健康項目(※1)で4項目を超えている。
 こうした著しい公害がみられる大都市地域、又はそれと同等以上の公害が発生している地域において、現時点での環境基準等の超過状況を公害対策の必要性の観点から評価した上で上記の目安(※2)と比較し、さらに汚染等の広がりや被害の程度等地域の実情を勘案し、著しい公害の有無を判断するとともに、総合的施策の必要性と併せて、地域指定の必要性を判断することが適当である。
 このとき、各環境項目の環境基準等の超過項目の評価に際しては、健康項目の超過が生活環境項目(※3)の超過に比しより緊急性があることから、例えば健康項目と生活環境項目の重みづけを2:1にする等健康項目をより重視することとし、基本的に各環境項目ごとに評価を行うことが適当である。ただし、地下水の水質汚濁及び土壌汚染については、汚染の広がりや有害物質の曝露経路等を踏まえ評価することが適当である。なお、全国的に幅広く生じている汚染等又は環境項目相互の関連性が特に高い汚染等が過大に評価されないよう考慮することが重要である。また、最新年度の測定データに基づき基準超過の有無の判断をすることが基本であるが、各年の気象条件や測定値のトレンド等を勘案し、地域の環境の状況を的確に把握することが重要である。さらに、環境基準が定められていない公害の種類及び項目については、その汚染等の状況が地域住民に及ぼす影響及びリスク評価等を踏まえ、上記に準じて勘案することが必要である。
 また、既指定地域において計画期間が終了した際、環境の状況が十分かつ安定的に改善されたことをもって著しい公害が改善されたとみるべきであるため、当該地域において環境の状況に若干の改善はみられたものの、未だ環境基準が達成されない等の課題が残る場合にあっては、例えば環境基準未達成の項目が3項目を超える程度みられる場合、総合的施策の必要性等地域の実状を勘案し、必要があると判断されるときに継続して地域指定を行うことが妥当である。
 地域指定のもうひとつの要件として、環境基本法第17条第1項第2号に定める「人口及び産業の急速な集中その他の事情により公害が著しくなるおそれがあり、かつ、公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難になると認められる地域」については、地域の今後の開発計画及びそれに対する環境への影響の予測・評価等を勘案し、著しい公害が生じる可能性について客観的根拠から十分に検討し前述の著しい公害の目安と比較した上で、総合的施策の必要性等と併せて、地域指定の判断を行うことが妥当である。
 
 
 (※1) 健康項目とは人の健康を保護する上で維持することが望ましい基準として環境基準が定めれらた環境項目をいう。
(※2) 環境基準の設定又は改定等があった場合は、必要に応じ、超過項目数の目安を見直すことが必要。
(※3) 生活環境項目とは、生活環境を保全する等の上で維持することが望ましい基準として環境基準が定められた環境項目をいう。
 
 
 公害防止計画の基本方針について
 
   公害防止計画制度においては、環境基本法に基づき都道府県知事が環境大臣より策定の指示を受け、その際示された基本方針に基づき公害防止計画を策定し、環境大臣に協議し同意を求めることとなっている。このため、都道府県知事が、基本方針に示される課題に対応させた効果的な公害防止計画を策定するためには、環境大臣が策定指示に際して示す基本方針において次のような点に留意することが必要である。
 
  (1) 公害防止計画の目標の明確化
     従来の策定指示においては、全ての汚染物質等の項目に係る環境基準を公害防止計画の目標として定め、これら全ての目標が全体として計画最終年度末を目途に達成維持されるよう努めるものとしていた。このように既達成のものも含めすべての項目の環境基準等の達成維持という目標設定は、地域における環境政策を全体として押し進める意義があったが、逆に公害防止計画の焦点を不明確にする原因ともなっており、また地域における環境政策全般を網羅する地域環境基本計画との役割分担が明確でないという問題も生じていた。
 このため今後は、公害防止計画の目標として、環境基準を達成していない項目に限定して、それらが計画最終年度を目途に環境基準等を達成されるよう努めるものとすることが妥当である。すなわち、計画が記載すべき対象の範囲として、環境基準を超過している等明らかに問題となっている課題のみを対象とし、それ以外の課題に対しては地域環境基本計画等地域の環境政策全般の枠組みの施策にゆだねることにより、公害防止計画として対象とする範囲を明確にすることが適当である。
 このように公害防止計画の課題を明確に絞り込むことにより、より具体的かつ実効性のある公害防止計画とすることが可能となるものである。
 
  (2) 公害防止計画において講ずべき施策について
 従来は、公害防止計画上の課題と対策及びその効果が必ずしも直線的に結ばれておらず、結果的に公害防止計画に記載される公害防止施策等においては、地域の環境政策全般が網羅されているような傾向にあった。
 今後は、当該地域における特定の課題に対応して、地域における公害の状況について分析評価を行い、従来実施した施策の効果、問題点等に係る要因分析を可能な限り行い、課題に係る項目ごとの目標の達成に努める観点から、地域の課題に対応する具体的な施策及びそれらの施策に関する計画期間内における達成目標を記載することが適当である。このとき、施策の達成目標の設定にあたっては、地域における環境負荷と施策の内容について分析しその予測を踏まえ、関連諸計画との整合を図りながら、可能な限り具体的な数値目標を設定すべきである。特に、「公害の防止に関する事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」に基づき、公害防止計画地域における特定の公害防止対策事業については重点的な財政支援がなされており、各地域における公害防止計画上の課題とそれに対応した財政支援との関係を明確にすることが重要であると思われることから、同法第2条第3項に掲げる事業については、地域の課題と当該事業の関連を示しつつ、事業内容を個別具体的に計画に記載することが適当である。
 また、地域において特に重点的に解決を図るべき課題については、従来同様主要課題として位置づけ、改善の目標とその達成のために講ずべき公害防止施策を重点的に記述することにより、地域の著しい公害について重点的かつ効率的に対策を推進することが重要である。
 なお、施策の実施にあたっては、二次公害、自然環境の保全上の支障等環境に悪影響を及ぼすことがないよう、計画の段階から環境保全上の配慮に努めることが必要である。
 さらに、今日の公害問題の多くが日常生活や通常の事業活動などの社会経済活動に起因していることにかんがみ、とりわけ都市生活型公害の解決については、環境リスクその他の情報の共有を図りつつ、住民を含む全ての主体が意思決定の段階から幅広い参加に努め、これによってそれぞれの立場に応じた適切な役割分担を図ることが重要である。また、自主的積極的に環境保全に取り組むための基盤の整備を図り、規制等の制度的対応や自主的取組を含む幅広い施策が公害防止対策事業と有機的に連携する形で講じられるよう、各課題に対応する施策の最適な組み合わせを検討することが重要である。
 
 なお、環境基本法に定めるとおり、公害防止計画は国の環境基本計画(平成12年12月22日閣議決定)を基本として策定されるものである旨、明確にする必要がある。
 
(3) 進行管理、分析評価
 公害防止計画については、都道府県知事によって策定された後計画目標年度までの間、計画に定められた施策を逐次推進していくものであるが、それら施策の進行状況の管理や成果の分析評価等については、これまでは明確に定められていなかった。
 しかし今日では、日常生活や通常の事業活動に起因する多様な都市生活型公害への対策が不可欠となってきているため、こうした多岐にわたる課題をより効果的かつ効率的に解決するためには、都道府県知事が公害防止計画に定めた施策の適切な進行管理、分析評価を行いつつ、公害防止計画を推進していくことが必要である。
 具体的には、計画期間中において、各主体の連携の下に計画の推進体制を整備した上で、モニタリング体制の充実により地域の環境の状況の一層の把握に努めるとともに、公害防止対策事業をはじめとする各種施策について、その達成目標との関連における適切な進行管理を行い、計画の効果的かつ着実な実施を確保することが重要である。
 あわせて計画終了時点においても、施策全体の進捗状況とその効果を整理し、計画期間内の施策の達成状況の分析評価を実施することが必要である。このとき、単に環境基準等の達成状況のみではなく、施策の実施率やこれに伴う負荷削減量の推計等様々な尺度で分析評価を行うことが重要である。
 
 以上のような点を踏まえ、環境大臣は都道府県知事に対し基本方針を示すとともに、地域内において課題に対応した施策が優先的かつ重点的に推進されるよう、関係機関と連携を図っていくことが重要である。
 
 
 公害防止計画の今後の充実について
 
 公害防止計画制度については、上述のような当面の運用の見直しを行うほか、今後ともさらに様々な観点から引き続き検討を進めていく必要がある。
 特に、都市生活型公害に代表される今日の公害問題については、既存の対策のみではその迅速かつ完全な解消を達成することは困難な場合もみられることから、そうした地域に対する新たな支援制度の創設や、幅広い施策の連携とその効果的な実施を図る推進体制の強化に努めていく必要がある。また、汚染除去技術に係る研究開発の推進、環境モニタリング情報の公開システムの確立、公害対策に係る情報交換の推進等について、各主体が今後も引き続き検討を進め、公害防止計画のより一層の充実に努めていくことが重要である。