レッドデータブックカテゴリー(環境庁,1997)

 1994年12月、IUCNは、新たな Red List Categories を採択した。カテゴリー改訂作業は、1989年からIUCNの種の保存委員会(SSC)を中心に進められた。新カテゴリーの特徴は、

 

(1)  今までの定性的な要件とは異なり、絶滅確率等の数値基準による客観的な評価基準を採用していること
(2)  絶滅のおそれのある種を Threatened でくくり、その中に Critically Endangered、Endangered、Vulnerableを設定していること、等である(1996年10月に採択された IUCN Red List of Threatened Animals は、この新カテゴリーに基づく最初のレッドリストである)。
 今般、植物版レッドデータブックの策定及び動物版レッドデータブックの改訂に当たり、この新カテゴリーの扱いに関して検討を行った。数値基準による客観的評価は今までの定性的な評価よりも好ましいこと、この新カテゴリーが今後世界的に用いられていくと考えられることから、基本的にこのカテゴリーに従うべきとされたが、数値的に評価が可能となるようなデータが得られない種も多いことから、今までの「定性的要件」と、新たに示された「定量的要件」(数値基準)を併用し、数値基準に基づいて評価することが可能な種については、「定量的要件」を適用することとした。
 なお、定性的要件と定量的要件は、必ずしも厳密な対応関係にあるわけではないが、現時点では併用が最善との結論に至ったものである。IUCN新カテゴリーに準拠して策定したカテゴリーは以下の通りである。

●絶滅(EX)

●野生絶滅(EW)

●絶滅危惧――― ┬―絶滅危惧[1]類 (CR+EN)― ┬――[1]A類(CR)
 (Threatened)  └――[1]B類(EN)
└―絶滅危惧[2]類 (VU)

●準絶滅危惧(NT)

●情報不足(DD)

●付属資料 [絶滅のおそれのある地域個体群(LP)]

(注) 絶滅危惧[1]類のうち、数値基準によりさらに評価が可能な種については絶滅危惧[1]A類及び絶滅危惧[1]B類として区分した。

 

■カテゴリー定義 

区分及び基本概念 定性的要件
絶滅
Extinct (EX)
我が国ではすでに絶滅したと考えられる種(注1)
過去に我が国に生息したことが確認されており、飼育・栽培下を含め、我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
野生絶滅
Extinct in the Wild (EW)
飼育・栽培下でのみ存続している種
過去に我が国に生息したことが確認されており飼育・栽培下では存続しているが、我が国において野生ではすでに絶滅したと考えられる種

【確実な情報があるもの】
(1) 信頼できる調査や記録により、すでに野生で絶滅したことが確認されている。
(2) 信頼できる複数の調査によっても、生息が確認できなかった。
(3) 過去50年間前後の間に、信頼できる生息の情報が得られていない。

 

区分及び基本概念 定性的要件  
絶滅危惧


TREATENED
絶滅危惧[1]類(CR+EN)
絶滅の危機に瀕している種

現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、野生での存続が困難なもの。
次のいずれかに該当する種

【確実な情報があるもの】
(1) 既知のすべての個体群で、危機的水準にまで減少している。
(2) 既知のすべての生息地で、生息条件が著しく悪化している。
(3) 既知のすべての個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採取圧にさらされている。
(4) ほとんどの分布域に交雑のおそれのある別種が侵入している。
【情報量が少ないもの】
(5) それほど遠くない過去(30年〜50年)の生息記録以後確認情報がなく、その後信頼すべき調査が行われていないため、絶滅したかどうかの判断が困難なもの。
絶滅危惧[1]A類
Critically Endangered(CR)
ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの。
絶滅危惧


TREATENED
     
 
 
 
絶滅危惧[1]B類
Endangered(EN)
[1]A類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの


 

  区分及び基本概念 定性的要件
絶滅危惧


TREATENED
絶滅危惧[2]類
Vulnerable (VU)
絶滅の危険が増大している種

現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来「絶滅危惧[1]類」のランクに移行することが確実と考えられるもの。
次のいずれかに該当する種

【確実な情報があるもの】
(1) 大部分の個体群で個体数が大幅に減少している。
(2) 大部分の生息地で生息条件が明らかに悪化しつつある。
(3) 大部分の個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採取圧にさらされている。
(4) 分布域の相当部分に交雑可能な別種が侵入している。
準絶滅危惧
Near Threatened (NT)
存続基盤が脆弱な種

現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの。
次に該当する種

生息状況の推移から見て、種の存続への圧迫が強まっていると判断されるもの。具体的には、分布域の一部において、次のいずれかの傾向が顕著であり、今後さらに進行するおそれがあるもの。
個体数が減少している。
生息条件が悪化している。
過度の捕獲・採取圧による圧迫を受けている。
交雑可能な別種が侵入している。

 

■カテゴリー定義 

区分及び基本概念 定性的要件
情報不足
Data Deficient (DD)
評価するだけの情報が不足している種
環境条件の変化によって、容易に絶滅危惧のカテゴリーに移行し得る属性(具体的には、次のいずれかの要素)を有しているが、生息状況をはじめとして、ランクを判定するに足る情報が得られていない種
a) どの生息地においても生息密度が低く希少である。
b) 生息地が局限されている。
c) 生物地理上、孤立した分布特性を有する(分布域がごく限られれた固有種等)。
d) 生活史の一部または全部で特殊な環境条件を必要としている
(注1) 種:動物では種及び亜種、植物では種、亜種及び変種を示す。
(注2) 最近10年間もしくは3世代:1世代が短く3世代に要する期間が10年未満のものは年数を、1世代が長く3世代に要する期間が10年を越えるものは世代数を採用する。

 

■カテゴリー定義 

  区分及び基本概念 定量的要件
  絶滅
Extinct (EX)
我が国ではすでに絶滅したと考えられる種(注1)
 
  野生絶滅
Extinct in the Wild (EW)
飼育・栽培下でのみ存続している種
 
絶滅危惧


TREATENED
絶滅危惧[1]類(CR+EN)
絶滅の危機に瀕している種

現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、野生での存続が困難なもの。
絶滅危惧[1]A類(CR)
A. 次のいずれかの形で個体群の減少がみられる場合。
1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間(注2)を通じて、80%以上の減少があったと推定される。
2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、80%以上の減少があると予測される。
B. 出現範囲が100k平方メートル未満もしくは生息地面積が10k平方メートル未満であると推定されるほか、次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。 
1. 生息地が過度に分断されているか、ただ1カ所の地点に限定されている。
2. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に継続的な減少が予測される。
3. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。
C. 個体群の成熟個体数が250未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わる場合。
1. 3年間もしくは1世代のどちらか長い期間に25%以上の継続的な減少が推定される。
2. 成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ個体群が構造的に過度の分断を受けるか全ての個体が1つの亜個体群に含まれる状況にある。
絶滅危惧


TREATENED
 
D. 成熟個体数が50未満であると推定される個体群である場合。
E. 数量解析により、10年間、もしくは3世代のどちらか長い期間における絶滅の可能性が50%以上と予測される場合。
絶滅危惧[1]B類(EN)
A. 次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合。
1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、50%以上の減少があったと推定される。
2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、50%以上の減少があると予測される。
B. 出現範囲が5,000k平方メートル未満もしくは生息地面積が500k平方メートル未満であると推定されるほか、次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。
1. 生息地が過度に分断されているか、5以下の地点に限定されている。
2. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に継続的な減少が予測される。
3. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。
C. 個体群の成熟個体数が2,500未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わ場合。
1. 5年間もしくは2世代のどちらか長い期間に20%以上の継続的な減少が推定される。
2. 成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ個体群が構造的に過度の分断を受けるか全ての個体が1つの亜個体群に含まれる状況にある。
D. 成熟個体数が250未満であると推定される個体群である場合。
E. 数量解析により、20年間、もしくは5世代のどちらか長い期間における絶滅の可能性が20%以上と予測される場合。

 

■カテゴリー定義 

区分及び基本概念 定量的要件
絶滅危惧


TREATENED
絶滅危惧[2]類
Vulnerable(VU)
絶滅の危険が増大している種

現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来「絶滅危惧[1]類」のランクに移行することが確実と考えられるもの。
A. 次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合。
1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、20%以上の減少があったと推定される。
2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、20%以上の減少があると予測される。
B. 出現範囲が20,000k平方メートル未満もしくは生息地面積が2,000k未満であると推定され、また次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。
1. 生息地が過度に分断されているか、10以下の地点に限定されている。
2. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等について、継続的な減少が予測される。
3. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。
C. 個体群の成熟個体数が10,000未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わる場合。
1. 10年間もしくは3世代のどちらか長い期間内に10%以上の継続的な減少が推定される。
2. 成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ個体群が構造的に過度の分断を受けるか全ての個体が1つの亜個体群に含まれる状況にある。
D. 個体群が極めて小さく、成熟個体数が1,000未満と推定されるか、生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されている場合。
E. 数量解析により、100年間における絶滅の可能性が10%以上と予測される場合。
(注1) 種:動物では種及び亜種、植物では種、亜種及び変種を示す。
(注2) 最近10年間もしくは3世代:1世代が短く3世代に要する期間が10年未満のものは年数を、1世代が長く3世代に要する期間が10年を越えるものは世代数を採用する。

 

●付属資料

区分及び基本概念 定性的要件
絶滅のおそれのある地域個体群
Threatened LocalPopulation (LP)
地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの。
次のいずれかに該当する地域個体群
(1) 生息状況、学術的価値等の観点から、レッドデータブック掲載種に準じて扱うべきと判断されれる種の地域個体群で、生息域が孤立しており、地域レベルで見た場合絶滅に瀕しているかその危険が増大していると判断されるもの。
(2) 地方型としての特徴を有し、生物物地理学的観点から見て重要と判断される地域個体群で、絶滅に瀕しているか、その危険が増大していると判断されるもの。