1.レッドデータブック見直しの目的・経緯
- 環境庁では、平成3年に動物版レッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物の個々の種の生息状況等をまとめたもの)を取りまとめた。レッドデータブックは、野生生物の生息状況や生息環境の変化に対応するため定期的な見直しが必要であり、また、IUCN(国際自然保護連合)による新しい評価カテゴリーの採択などの状況変化を踏まえ、平成7年度より、哺乳類、鳥類、爬虫類といった分類群ごとに改訂作業に着手した。
- そして、昨年8月には両生類及び爬虫類の新しいレッドリスト(レッドデータブックの基礎となる日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)を公表したところであるが、今般、哺乳類及び鳥類についても新しいレッドリストの取りまとめ作業が終了した。
なお、その他の動物についても次のスケジュールで見直し作業を進めているところである。
(動物版レッドデータブック見直しスケジュール)
○両生類、爬虫類 H7〜H10
○哺乳類、鳥類 H7〜H10
○魚類 H8〜H10
○無脊椎動物 H9〜H11
一方、植物については、昨年8月に環境庁としてレッドリストを公表したところであり、今年度中にレッドデータブックを作成する予定である。
2.見直し作業の体制及び情報源
- レッドデータブックの見直しに当たっては、環境庁自然保護局長の委嘱により、専門家による「絶滅のおそれのある野生生物の選定・評価検討会」を設置、さらにその下に「レッドデータブック改訂分科会」及び「哺乳類」「鳥類」等の分類群ごとの分科会を設置し作業を進めた。(関連する分科会の委員は別紙1参照)
- また、今回の評価の際に利用した哺乳類及び鳥類の生息状況等に関する情報については、既存の文献・資料や専門家の知見を基本とし、それを補うために必要に応じ若干の現地調査を行った。
3.レッドデータブックのカテゴリー
- レッドリストの見直しに当たっては、1994年(平成6年)にIUCNが採択した、減少率等の数値による評価基準に基づく新しいカテゴリーに準拠することを基本としつつも、現状では数値的な評価のためのデータが得られない種も多いこと等の理由から、環境庁としてレッドリストの見直しを進めるためのカテゴリーを策定した。新カテゴリーは定性的要件と定量的要件を組み合わせたもので、その概要は次のとおり。(カテゴリーの詳細は別紙2参照)
4.レッドリストの選定方針及び結果
(1)哺乳類及び鳥類の新しいレッドリストの選定は、以下に掲げる基本方針に基づき行った。 また、個々の種のカテゴリーへのあてはめに当たっては、可能な限り定量的データに基づき 評価を行うべく努めたが、データが不足している種については定性的評価を行った。
- <哺乳類レッドリスト選定の基本方針>
- 1) 選定対象種
- ○ 種又は亜種のレベルとする。(亜種が存在する場合は原則として亜種レベルで評価。 ただし、地域個体群については種(亜種を含む)内の特定の個体群も対象とする。)
- ○ 海外又は他地域からの移入種は対象外とする。
- ○ 海棲哺乳類については、生涯を海域で生活する種(クジラ目、海牛目)は対象外とす る。
- 2) 評価方法
- ○ 国内(北方領土を除く)の生息状況に基づき評価する。(国際的希少性は考慮しない。)
- <鳥類レッドリスト選定の基本方針>
- 1) 選定対象種
- ○ 種又は亜種のレベルとする。(亜種が存在する場合は原則として亜種レベルで評価。 ただし、地域個体群については種(亜種を含む)内の特定の個体群も対象とする。)
- ○ 海外又は他地域からの移入種は対象外とする。
- ○ 迷鳥は対象外とする。
なお、迷鳥的にまれに飛来する種であって迷鳥か否かの判断が困難な場合、DD(情 報不足)とする。
- 2) 評価方法
- ○ 国内(北方領土を除く)の生息状況に基づき評価する。(国際的希少性は考慮しない。)
- ○ 陸上で繁殖又は越冬する個体を評価対象とする。(洋上のみで観察される個体は評価 対象外とする。)
(2)評価の結果、新しいレッドリストを別紙3のとおり取りまとめた。なお、レッドリストに 掲げられた種数(亜種を含む)は下表のとおり、各レッドリストの特徴は以下のとおりである。
- <新しい哺乳類レッドリストの特徴>
- 1) 日本産哺乳類のうち今回の評価対象種は約200種であり、その約23%の47種が絶 滅のおそれのある種(亜種を含む)とされた。
- 2) 絶滅のおそれのある種が、旧版の14種から47種へ増加。
- 47種の約3分の2にあたる31種がコウモリ類である。コウモリ類が多く追加選定された理由としては、分類学上の取扱いの変更(亜種への細分化)、分布範囲が限られておりその環境が悪化していることなどが挙げられる。
- 3) 平成10年に新種登録されたヤンバルホオヒゲコウモリ、リュウキュウテングコウモリ が絶滅危惧I類に新たに選定された。
- <新しい鳥類レッドリストの特徴>
- 1) 評価対象種は約700種であり、その約13%の90種が絶滅のおそれのある種(亜種 を含む)とされた。
- 2) 絶滅のおそれのある種が、旧版の54種から90種へ増加。
その内、旧希少種から絶滅危惧II類へのランクアップが23種、旧ランク外からの新た な選定種は9種。
- 3) 保護増殖事業により個体数の増加傾向が定着しているアホウドリ及びタンチョウ(旧版
では絶滅危惧種)が絶滅危惧II類とされた。ただし、両種とも現状では全ての個体群が保護増殖事業に依存しており、事業を停止した場合は生息数の急激な減少が予想される。
- 4) 平成9年12月に国内希少野生動植物種に指定されたワシミミズクが、絶滅危惧I類に新たに選定された。
5.今後の保護対策
- 環境庁としては、レッドリスト掲載種の中でも特に保護の優先度の高い種については、さらに生息状況等に関する詳細な調査を実施し、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づく国内希少野生動植物種の指定等の保護措置を検討していく。
- また、レッドリストについては、広く普及を図ることにより、国民の絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存への理解を深めるとともに、関係省庁や地方公共団体等にも配布し、各種計画等における保全配慮の促進を図る。なお、レッドリストの一般入手方法は別記のとおり。
6.レッドデータブックの作成
- 今後、レッドリスト掲載種について個々の種の特徴や生息状況等の概要について記載したレッドデータブック「日本の絶滅のおそれのある野生生物−哺乳類編−」「同ー鳥類編ー」の作成作業を行い、今年度末を目途に公表する予定。
(別記)哺乳類・鳥類レッドリスト入手方法
1)環境庁野生生物課に直接取りに行く
2)インターネットの環境庁ホームページ(http://www.eic.or.jp/eanet/)から入手
3)返送用封筒(A4版;切手130円分を貼り、返送先をあらかじめ記入)を同封の上、
次の宛先に送付 宛先:郵便番号100ー8975東京都千代田区霞が関1-2-2
環境庁自然保護局野生生物課 哺乳類・鳥類レッドリスト係 |
(別紙1)
- ●レッドデータブック改訂分科会(環境庁自然保護局長委嘱)
- 座 長:上 野 俊 一 国立科学博物館名誉研究員
- 委 員:阿 部 永 元北海道大学農学部教授
- 藤 巻 裕 蔵 帯広畜産大学畜産学部教授
- 多 紀 保 彦 東京水産大学名誉教授
- 森 本 桂 九州大学名誉教授
- 奥 谷 喬 司 日本大学生物資源科学部教授
- 青 木 淳 一 横浜国立大学環境科学研究センター教授
- 大 野 正 男 東洋大学文学部教授
- 岩 槻 邦 男 立教大学理学部教授
- 千 原 光 雄 千葉県立中央博物館館長
- ●哺乳類分科会
- 座 長:阿 部 永 元北海道大学農学部教授
- 委 員:阿 部 學 新潟大学農学部教授
- 金 子 之 史 香川大学教育学部教授
- 前 田 喜四雄 奈良教育大学教育学部教授
- 吉 行 瑞 子 東京農業大学農学部教授
- ●鳥類分科会
- 座 長:藤 巻 裕 蔵 帯広畜産大学畜産学部教授
- 委 員:尾 崎 清 明 (財)山階鳥類研究所標識研究室長
- 金 井 裕 (財)日本野鳥の会研究センター副所長
- 長谷川 博 東邦大学理学部助教授
- 森 岡 弘 之 国立科学博物館名誉研究員
- 柳 澤 紀 夫 (財)日本鳥類保護連盟理事