報道発表資料

平成20年5月26日
自然環境
この記事を印刷

タンチョウ死亡個体の水銀濃度に関する分析結果について

 環境省では、タンチョウの死亡個体が含有する水銀について知見を得るため、2006年度〜2007年度の間に収容したタンチョウの死亡個体46体 の各器官について、総水銀及びメチル水銀濃度の分析と病理学的検査を実施 しました。
 分析したタンチョウの死亡個体(全46個体)が含有する水銀の濃度は、総じて低い値を示しました 。このうち5個体に限って総水銀濃度が比較的高い 個体がありましたが、メチル水銀濃度は低く 、これらの個体に含まれる水銀は、摂取してから長時間が経過したものが多い と考えられます。しかし、摂取した経緯やその供給源までは、今回の分析によって明らかにすることはできません。
 また大部分の個体で、脳及び胸筋の総水銀とメチル水銀の濃度が極めて高い相関を示しました。このことは、タンチョウの死亡個体が含有する水銀の多くが、食物に由来するメチル水銀であることを示しています。
 なお、病理学的検査の結果、総水銀濃度が比較的高い個体を含め、どの個体のどの器官においても水銀による病変は認められませんでした。よって、少なくともタンチョウの直接的な死因が、水銀の影響である可能性はありません
 国立水俣病総合研究センターのホームページ上で、この分析結果について解説しています(http://www.nimd.go.jp/index.html)。

※総水銀=金属水銀+無機水銀+有機水銀 (メチル水銀を含む。)

1.分析実施者

野生生物課の依頼により、国立水俣病総合研究センターが実施。

2.分析対象サンプル

【対象個体】
2006〜2007年度中に収容された46個体 (野生:42個体 飼育下:4個体)
【サンプル】
  • 冷凍サンプル、ホルマリン液浸サンプル(脳、胸筋、肝臓及び腎臓)
  • 羽毛(胸部)、 羽軸(初列風切羽根)
※それぞれの個体の残存部位により、採取サンプルが異なる。

3.分析項目対象

○総水銀量(乾重量、湿重量)
:冷凍サンプル、羽毛、羽軸
○メチル水銀
:冷凍サンプル、羽毛
○病理検査     
:ホルマリン液浸サンプル

4.結果

(1)水銀の体内分布

<表:各器官の総水銀及びメチル水銀濃度>

標本数総水銀:THg
(ppm・wet)
メチル水銀:MHg
(ppm・wet)
MHg/THg
器官名最高最低平均*最高最低平均*
34 0.80 0.03 0.11 0.35 0.03 0.09 0.82
胸筋 37 0.42 0.02 0.14 0.32 0.02 0.11 0.79
羽毛 35 10.8 0.30 2.13 10.3 0.27 2.00 0.94
肝臓 42 7.01 0.08 0.70 2.37 0.08 0.40 0.58
腎臓 43 5.75 0.07 0.52 0.70 0.06 0.24 0.47

(*平均は幾何平均)

(2)病理学的検査

 検索症例数は、肝臓 20例、腎臓 16例、脾臓 3例、脳 14例で合計20個体分。
 何れの臓器においても、メチル水銀によると推察される病変は認められなかった。
 この結果から、この程度の濃度のメチル水銀では、タンチョウに病理組織学的な変化を引き起こさないことを示している。

5.考察

過去の実験データを参考にすると、脳内水銀濃度が5ppm(wet)を超えたあたりから、何らかの神経症状が出はじめると考えられる。今回の脳試料の測定値の最大総水銀濃度は0.8ppm(wet)であり、今回分析に供した個体について、水銀による神経症状は起きていないものと考えられる。
脳内水銀濃度の分析結果と病理学的検査の結果から、今回分析に供したタンチョウの直接的な死因が、水銀の影響である可能性はない ものと推察される。
例外的に、脳、肝臓及び腎臓の総水銀値が高かった1例と、腎臓で総水銀値が高かった4例については、いずれもメチル水銀濃度の値が低かった。過去に何らかの原因で比較的多量の水銀を摂取する機会があったと思われるが、原因の特定はできない。
今回入手したタンチョウの個体は大部分が事故死したものであるが、事故の起因と水銀濃度の関連については考察できない

用語解説

総水銀:
金属水銀や無機水銀と有機水銀の総和になるが、自然界の有機水銀は大部分がメチル水銀であるといわれている。
金属水銀:
常温で液状の性質を持つ唯一の金属。化学的には反応性が乏しいが、蒸発しやすく、その蒸気を吸うと肺から吸収される。吸収されるとすぐにイオンになり(通常2価、Hg2+ )、腎臓から尿へ排出される。しかし一部は金属水銀のまま脳へ入る。
無機水銀:
自然界に普通に存在する形態は2価の正電荷をもつHg2+ で、これに塩素や酸素が結合したものをそれぞれ塩化第二水銀(昇汞、HgCl2 )あるいは酸化第二水銀(HgO)という。1価の水銀化合物(塩化第一水銀や酸化第一水銀)もあるが、水に溶けにくく、容易に分解されて金属水銀と第二水銀に変わる。腸管からは吸収されにくい(吸収率は5%程度といわれる)が、吸収されたものは腎臓から排出される。
有機水銀:
有機分子の中の炭素と水銀が結合した化合物。有機分子がメチル基(CH3 )の場合これをメチル水銀とよぶ。自然界に見いだされる有機水銀は主にメチル水銀の形といわれている。
メチル水銀:
水俣病の原因物質。強い神経毒性を有する。
自然界では、無機水銀イオンから、ある種のバクテリアの働きや、紫外線その他の物理化学的反応で生成する。塩素イオンが結合したものを塩化メチル水銀といい、水には溶けにくいが、有機溶媒にはよく溶ける。ただし、自然界におけるその濃度は通常大変低く、正確な濃度を知るのにかなりの熟練を必要とするほどである。
生体への取り込みは、普通食物連鎖を通じて行われる。したがって肉食の動物では高い濃度になる傾向がある。排出は糞を通じて行われるか、体内で無機化されて腎臓から尿へ排出される。

連絡先
環境省自然環境局野生生物課
課長:星野 一昭 (6460)
係長:中島 治美 (6469)
直通(03) 5521 - 8283

国立水俣病総合研究センター
所長:上家 和子
室長:保田 叔昭
研究員:澤田 倍美
直通(0966)63-3111

関連情報

過去の報道発表資料

平成19年6月8日
タンチョウの生息環境に関する情報について
ページ先頭へ