平成19年9月19日
地球環境

「2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話:中国」の結果について

 平成19年度環境省請負事業として、(財)地球環境戦略研究機関(IGES)は、中国・能源研究所(ERI)、韓国・啓明大学校とともに、9月13−14日に中国・北京において、「2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話:中国」を開催しました。この対話は、インドや中国を含むアジアの主要排出途上国との対話を通じて、京都議定書第一約束期間後の気候変動に関する国際枠組みについての議論を促進することを目的としており、前回は、8月29−30日にインド・ニューデリーで開催しました。

 中国での本対話には、日本、中国、韓国及び他のアジア途上国の政策担当者、産業界、有識者をはじめ、主要先進国や国際機関の開発援助関係者等約70名の参加があり、2013年以降の気候変動枠組みのあり方に関して、活発かつ率直な意見交換が行われました。

1.開催概要

開催日時:
2007年9月13−14日
開催場所:
北京・国宏ホテル(Guohong Hotel)
実施主体:
(財)地球環境戦略研究機関(IGES)
中国・能源研究所(ERI)
韓国・啓明大学校(Keimyung University)

2.対話の概要

 2013年以降の気候変動枠組みのあり方に関して、セクター別アプローチ、低炭素技術、適応、コベネフィット(相乗便益)の4つのテーマについて、政策担当者や専門家間で活発な意見交換が行われた。本非公式対話の議題は以下のとおり。

セッション1:
全体セッション
セッション2:
セクター別アプローチ
セッション3:
低炭素技術
セッション4:
気候変動への適応
セッション5:
コベネフィット・開発便益
セッション6:
ディスカッション

本対話の主要なポイントは以下のとおり。

[1] 全体セッション
  • 浜中裕徳IGES理事長、中国・能源研究所(ERI)のジャン・ケジュン教授、韓国・啓明大学校のインファン・キム教授による開会挨拶の後、IGESより、2005年及び2006年の非公式対話の概要とともに、過去の対話で議論された(a) エネルギー安全保障と開発ニーズ、(b) クリーン開発メカニズム(CDM)、(c) 技術開発及び移転、(d) 気候変動への適応の4つの課題について紹介を行った。また、2007年の対話の対象と目的、及びインド非公式対話の結果についても紹介した。
  • 韓国からの参加者の一人は、2013年以降に何らかの形で排出削減策にコミットすることを韓国に求める国際的な圧力が高まっていることに言及し、エネルギー集約型産業の占める割合が安定した時点で、拘束力のあるコミットメントを行う可能性について指摘した。また、韓国CDM(K-CDM)をはじめとする気候変動に関する国内対策を強調し、K-CDMを各国の自主的炭素市場とリンクさせる可能性についても言及した。
  • 中国からの参加者の一人は、昨今の気候変動問題の原因の大部分が、持続可能でないレベルの贅沢な消費にあるとの見解を示した。また、将来枠組みとして、人間開発の最低限のニーズに基づく新たな炭素基準をいくつか設定し、個人が贅沢な消費に応じて炭素税を支払う、というアプローチを紹介した。
  • 中国からの参加者の一人は、気候変動緩和策づくりにおいては比較的進捗が見られる一方、適応、技術移転、資金に関する取り組みについてはその進捗状況が芳しくないことを指摘した。また、中国は長期削減目標についての議論よりも、これらすべての要素に対処するような措置のパッケージについての検討をより望ましいと考える可能性があることを指摘した。 2013年以降の将来枠組みは、過去及び将来の責任に基づき、実施可能で公正かつ衡平なものであるべきであり、研究機関は将来枠組みに関する各種提案について中国への影響評価を行うべきであると主張した。
[2] セクター別アプローチ
  • 2013年以降の将来枠組みにおけるセクター別アプローチに関して、各種のオプションが議論され、セクター別アプローチが、現行の枠組みにおいて拘束力のある目標を持たない国をより効果的に巻きこんでいくための第一歩となる可能性があることが指摘された。また、セクター別取り組みについては、全体としての削減に効果的かという観点を踏まえるべきとの指摘があった。セメントなどいくつかの産業におけるセクター別集約度目標の採用状況、及び途上国の森林伐採防止においてセクター別取り組みを行う上での政策的、技術的課題についても議論が行われた。セクター別アプローチは解決策の一つにすぎず、京都議定書の排出削減目標を代替するものではないことも指摘された。
  • セクター別取り組みは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のもとでプレッジ・アンド・レビュー(誓約・審査)によって制度化されることも可能であるが、UNFCCC関係機関がセクター別取り組みに関する専門性を有しないことが、UNFCCCの下での制度化の障害の一つとなることが指摘された。今後の課題として、セクターレベルでのデータの欠如、資金の問題、セクター別目標が反トラスト・反競争的問題となる可能性、国内及び国家間における企業や業種間で目標値等を調整・一致させていくこと、などが特定された。
  • セクター別アプローチ及び政策ベースのアプローチにおいてクレジット化を行う場合に関して、クレジットの受益者を明確化する必要性、京都クレジットとの互換性、CDMプロジェクトによる認証排出削減量(CER)とのダブルカウント防止策等多様な意見が表明された。
[3] 低炭素技術
  • 低炭素技術の移転促進について検討する際には、まず政治的な実行可能性について考慮することが重要であるとの指摘があった。
  • 低炭素技術を広範囲に普及させることにより、通常は考慮されないコベネフィットが実現される可能性があることについて参加者の間で見解が一致した。しかし、低炭素技術に関する世界的な研究開発が不足しており、また現行の枠組みにおいて低炭素技術の移転を促進させるためのメカニズムが不十分である、との意見も出された。特に、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)等のUNFCCC以外のイニシアティブやCDMが低炭素技術の開発及び移転に与える影響力については、アジア地域では最小限にとどまっているとの指摘があった。
  • 将来枠組みにおいて、低炭素技術に係わる知的所有権の柔軟性を高める必要性について、活発な議論があった。知的所有権の強制許諾(特許権者の許諾を得なくても特許発明を使用する権利を国家的緊急事態といった一定の条件下で政府が第三者に認めること)については、世界貿易機構(WTO)におけるAIDS/HIV治療薬のケース(AIDSを国家的緊急事態とみなし、治療薬生産に係る特許使用の権利を貧しい発展途上国において認めること)より、米国の大気浄化法におけるケース(排出基準達成が困難な汚染者に対し、クリーン技術特許の保有者は相応の金銭補償と引き換えに特許技術使用を許可しなければならない取り決め)の方が、政治的受容性を考える上で好ましい実例となるとの指摘があった。また、知的所有権の柔軟性を高める別の例として、情報・電子産業における相互許諾(クロス・ライセンシング:特許権者が、それぞれの所有する権利について相互に特許技術の実施権を許諾すること)があげられた。
  • 途上国における、「高炭素」技術へのロックイン効果を避けるためには、低炭素技術が経済的にも政治的にも実現可能になるよう政策で後押しするなど、政府が積極的な役割を果たす必要があるとの意見が出された。中国における太陽熱温水器の普及に見られるように、適切な政策により技術の飛躍的な普及が可能になるとの指摘もあった。また、将来枠組みでは、適応技術の開発・移転について適切に配慮する必要があるとの意見も出された。
[4] 気候変動への適応
  • 途上国における適応対策の必要性を十分に満たすために必要な資金額と比べ、現在の国際枠組みにおける適応関係の資金はあまりにも不十分であることについて参加者の間で見解が一致し、新たな適応支援基金創設に関する様々な提案が紹介された。しかし、これらの提案が、近い将来において適応に必要な資金を十分に満たすために実現する可能性は低く、既存の資金の効果的な活用が重要と指摘する参加者もいた。
  • 適応のための資金不足を背景として、適応対策における民間セクターの役割が活発に議論された。特に、汚染者負担原則の適用や、気候変動により利益を得る可能性のある企業の活用が議論され、後者の例として、将来的に保険業界の役割が重要になるとの意見も出された。また、自然災害債券など、資本市場を利用する方法も紹介された。
  • 適応対策は主に公共セクターの事業であることを理由に、民間セクターが果たす役割について疑問を呈する声もあった。適応プロジェクトの資金は公的部門の関与が中心となるべきであり、そのために、具体的なプロジェクトで適応対策と重なる部分が多いODAを活用していくことが重要であるとの指摘があった。
  • 将来枠組みでは、開発政策への適応の主流化を更に促進しなければならないとの意見が多くの参加者から出され、具体例として能力開発の促進や実践的な優良プロジェクトの蒐集などが挙げられた。また、国際持続可能な開発研究所(IISD)が開発したCRYSTAL等の実用的な適応評価ツールの必要性も指摘された。
[5] コベネフィット・開発便益
  • コベネフィットの定量化手法を巡り多くの議論があった。また既存の政策・措置によるコベネフィットをCDMと二重に計測しないように注意する必要があるとの指摘もあった。
  • CDMのコベネフィットについては、認証排出削減量(CER)の多くが持続可能な開発の便益の低いプロジェクトから発生しているとの分析が指摘された。また、地理的な不均衡についても指摘されたが、GDPや人口の違いを考慮すると必ずしも不均衡ではないとの反論も出された。認証排出削減量の多い大型プロジェクトに対しては批判もあるが、一方でそのようなプロジェクトでも、CER売却収入を持続可能な開発の便益が高い活動に投資すれば持続可能な開発に資するものとなり得る点や、投資家をCDM市場に呼び込むために重要である点など、すべての大型プロジェクトが非難されるべきではないとの指摘があった。
  • 韓国の集合住宅における太陽光発電導入を事例として、コベネフィット実現のための政策が議論された。
  • 日本の環境省より、最近行われたコベネフィットに関する研究が紹介され、コベネフィット実現の重要性が強調された。
[6] ディスカッション
将来枠組みにおける中国等の途上国の役割について、政府政策担当者及び学界や産業界からの有識者がパネルディスカッションを行った。
  • 中国の交渉担当者より、2013年以降の将来枠組みに関する議論の進展が遅いこと、第一約束期間とその後の枠組み(第二約束期間など)への移行はその間にギャップがないようにスムーズに行われるべきであること、共通だが差異のある責任という現行枠組みにおける基本原則は将来の枠組みにも引き継がれるべきであること、などの主張があった。また、先進国の中には技術や資金があるにもかかわらず温室効果ガス排出削減が進んでいない国があり、また、先進国と途上国との間で1人当たりの排出量に依然大きな格差があることから、適応、技術移転、資金の3つの主要な分野で途上国の懸念に対処する必要なメカニズムが構築されるまでは、削減策に関する途上国の貢献は限定的になるであろうとの考えも示された。
  • 中国国内の排出削減策(エネルギー効率の改善など)やCDMプロジェクトへの投資などの貢献は、国際的に認知されるべきであるとの主張があった。
  • 中国において気候変動への適応は重要であり、生活水準向上と環境保護を共に達成するための新たな成長モデルが必要であるとの意見が出された。また、中国においては近年省エネルギーや再生可能エネルギーへの投資が増大するという前向きの傾向がみられる、との指摘もあった。
  • 中国参加者より、中国はCDMプロジェクトの社会・環境へのコベネフィットに注意を払っており、CDMへの資金援助をより一層強化することが重要であるとの意見が出された。また、将来の排出権取引市場創設へ有用となるような国内機関を設立中であるとの報告もあった。
  • 中国における炭素市場の進展のためには、企業のために透明な情報システムを構築することが不可欠であり、また、排出権取引を巡る法制度の整備も必要であるとの指摘があった。
  • 中国におけるエネルギー安全保障と気候変動の関係については包括的に考える必要があると、中国参加者より指摘があった。
  • 2013年以降の将来枠組参加に向けて中国は第一歩を踏み出す意向があるのかという点に関して、特に国内の省エネ目標をNo-lose(罰則なし)の国際的なコミットメントへ転換する可能性や、セクター別の集約度目標を採択する可能性について、質問が出された。中国参加者からは、資金・技術の両方を有する先進国がはじめに排出削減に関する明確な進捗を示す必要があり、その上で、はじめて中国がそのような第一歩を検討することが可能になるとの回答があった。また、中国には先進的な技術もあるが、技術を広範に普及させるような資金が不足しており、国際的な支援が重要であるとの指摘もあった。
  • 米国の将来枠組みへの参加を促すための方策については、中国参加者より、中国は米国に義務を課す立場にはなく、米国が自発的に取り組むことを期待するとの意見が出された。また、日本に対して、京都議定書遵守のために最大限の努力をしてほしいとの要望が出された。
[7] 総括
今回の政策対話は、将来枠組みにおけるアジアの大規模排出途上国の役割を考える上で重要と思われる4つのテーマ(セクター別アプローチ、低炭素技術、適応、コベネフィット)について、中国及び韓国をはじめとするアジア諸国並びに先進国からも有識者を招いて有意義な議論を行うことができた。将来枠組みの構築に向けては、途上国と先進国の双方の視点を考慮して、今後もよりバランスのとれた議論を進めていく必要がある。
連絡先
環境省地球環境局地球温暖化対策課
tel:03-5521-8330(直)
 国際対策室長:和田 篤也(6772)
 補佐:川又孝太郎(6789)
 担当:小林 豪(6775)