報道発表資料

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1997年02月25日

象牙の国内管理体制の強化について

ワシントン条約のアフリカゾウ専門家パネルの報告書が発表され、このうち、我が国の国内管理体制に関して改善の余地がある旨の指摘があった。
 このため、所用措置を講ずることとし、象牙の国内管理の一層の強化を図ることとした。                           

1. 背景
 
 ワシントン条約事務局は、アフリカゾウの生息状況、象牙の管理状況等について「アフリカゾウ専門家パネル」に委嘱して審査していたところ、2月10日、同専門家パネルによる報告書を発表した。
同報告書のうち、我が国の象牙の管理体制に関する指摘は次の通り。

《アフリカゾウ専門家パネルの指摘事項(結論部分)》
 国際取引の管理は商用貨物、旅客の手荷物の双方について良好である。税関では容易に象牙を問題貨物としての絞り込みの対象とできる。
 日本の象牙の在庫管理についてはホールタスク(全形を保った牙)に関しては良好だが、カットピースの管理には改良の余地がある。特に小さな端材、廃棄材に関する規制が定められなければならない。JWRC(自然環境研究センター)のデータベースのソフトウェアは在庫のモニタリングを可能にするための改良が必要である。
 小売段階の規制は、合法的な起源の製品と非合法な物の区別をする点において十分ではない。現行のシステムでは、象牙半製品(例:印材)の(違法な)輸入を的確に発見し得ない可能性が高い。立入検査、特に在庫の実地検査は増やす必要がある。端材や廃棄材を正しく記録する何らかの手法の導入が必要である。

2. 上記のパネル指摘事項に対応して我が国が今後実施する措置

上記パネル指摘事項に対応して、我が国として以下の措置を実施する。

(1) 届出を行った象牙事業者が作成する取引台帳及び管理票の記載事項の追加(関係府・省令の改正)
   取引台帳及び管理票には、従来取引の対象となる象牙の重さのみを記載することとしていたが、この記載事項に取引の対象となる象牙の「特徴」を追加することとする。具体的には、「特徴」欄に端材等の種別(記載例:『中切り』)を記載する。
これにより、端材在庫を同じ重さの優良在庫に差し替えるというような違法行為の発見が可能になり、効果的な事業者への立入検査を行い得ることとなる。
 
(2) 自然環境研究センターの象牙管理のコンピューターデータベースの拡充
   現在、種の保存法上の指定登録機関である自然環境研究センターにおいて、コンピューターデータベースに登録された象牙のデータが蓄積されているが、各事業者ごとに保有する本数等を確認するためには手計算が必要であった。このデータベースを各事業者ごとの保有本数等を即時に把握できるシステムに改良する。
また、できる限り早い時期に各事業者が届出時に申告したカットピースの情報も入力し、各事業者が保有する象牙とカットピースを統一的に把握できるシステムを構築する。
 
(3) 届出事業者への立ち入り検査の実施
   「種の保存法」に基づく象牙業者への立入検査を既に約30業者に対して行ったところであるが、今後月ごとに10業者を目途に立入検査を行う。立入検査の方法についても在庫の抜き取り検査を数多く実施する等の強化を行う。
 これにより、象牙製品製造業者に対する「種の保存法」の施行のより一層の強化が図られることとなる。
 
(4) 象牙の廃棄材についての管理強化
   象牙の廃棄材を処理した場合その旨台帳に記載するよう届出事業者を指導するとともに、その記載事項について立入検査時に実地確認する。また、原料の象牙又はカットピースから生産される印材等の重量比を標章発行時に考慮するよう自然環境研究センターを指導する。
 これらにより、象牙の廃棄材についての管理強化が図られ、廃棄材を同じ重さの優良在庫に差し替えるというような違法行為の発見が可能となる。
 
(5) 象牙製品小売業者に対する指導強化
   象牙標章制度の適正な運用を図るため、制度について解説したパンフレットを小売業者に配布し、注意喚起を行う。また、小売業者に対する象牙標章制度についての説明会を開催する。

アフリカゾウ専門家パネルについて
(背景説明資料)
(1)  1989年10 月にスイスで開催されたワシントン条約第7回締約国会議において、アフリカゾウ全個体群の国際取引禁止(附属書[1]掲載)が採択された。ただし、この決定の際にも既に一部のアフリカゾウ個体群は、その生息数や保護管理の実態から必ずしも附属書I掲載要件を満たさないと認識されていたため、こうした一部個体群を将来的に附属書IIに戻す手続(決議7.9)に関する事項がセットで採択されることとなった。
 
(2)  ワシントン条約締約国会議決議7.9によれば、アフリカゾウの個体群を附属書IからIIへ移行する申請が出された場合、その提案について評価するためにゾウの生態学者や取引管理に関する専門家等からなる専門家パネルを設置し、このパネルが各国の状況を審査することとされている。パネルの審査事項は決議7.9では原産国におけるゾウの生息状況、密猟防止体制等であったが、輸入国の象牙流通管理体制が象牙取引再開の大きな鍵になる、として1996年の常設委員会において、第10回締約国会議にむけての提案では「輸入国の象牙管理体制」等を追加することが決定された。
 
(3)  1997年6月にジンバブエで開催される第10回締約国会議に向けて、ボツワナ、ナミビア、ジンバブエが、それぞれの国の象牙の合法ストックのみを輸出するため、各個体群の附属書IIへの移行提案を事務局に提出している。
これらの提案において我が国は、提案が採択された場合の唯一の取引相手として指名されている。
(注1) 南部アフリカ諸国の提案の内容及び各国のゾウの生息状況については、(参考)参照。
 
(4) 我が国は、平成7(1995)年6月末から「種の保存法」の改正法を施行し、象牙の登録、象牙製品製造業者の届出、届出業者の取引記録義務等を内容とした国内象牙管理体制を機能させているところ。
 
(5) アフリカゾウ専門家パネルメンバー(仏税関職員、J.-P. ルケ氏)が追加された審査事項に基づき1996年12月前半に訪日し、唯一の輸入国となりうる日本の象牙国内管理体制を審査した。今回の専門家パネルのレポートは、我が国の国内管理体制、原産国のゾウの生息状況等を含むもの。
 
(6) 関連するスケジュール
  (1996年     7月29日: ジンバブエ、ボツワナ、ナミビア3ヶ国がダウンリスト提案提出の意向を事務局に表明)
  1996年10月 2日~ 5日: ボツワナでの専門家パネル会合
  10月 7日~10日: ナミビアでの専門家パネル会合
  10月12日~16日: ジンバブエでの専門家パネル会合
  12月 2日~15日: パネルメンバーの訪日
  1997年 6月 9日~20日: ワシントン条約第10回締約国会議(ジンバブエ)


 (参考)
 
■ 南部アフリカ3ヶ国の象のダウンリスト提案に盛り込まれている事項      
 

前提: (1) 正当に入手された在庫象牙(=ストック分)のみ国際取引を行う
(=象牙貿易再開に当たって間引き等を再開することはしない)
  (2) 輸出は国内管理体制を持つ国(=日本)にのみ行う
  (3) 加工されていない象牙(=生牙)のみ国際取引を行う
(=製品等の輸出は行わない)
  (4) 各輸出国ごとに、毎年輸出割当が設けられる。輸出割当は当面1999年までとする。
(=1999年下半期に開催されると予想される第11回締約国会議で輸出割当の正当性について見直しする)
  (5) 輸入国は再輸出を行わない
  (6) 貿易による利益は全て象の保護に充てる
 


 更に、具体的な象牙貿易管理の方法としては以下の案による

  • {1} 各輸出国は、正当な方法で入手されマーキングされた象牙について入札を行う。
    入札は輸出国地域の指定された場所で年間1回のみ行われる。
  • {2} 輸出国は、入札の結果により輸出される象牙に限り輸出コンテナへ積載する。
    積載後コンテナは封印される。
  • {3} 輸出国から輸入国への象牙の移動は、指定された場所から、年間1回予め指定された航空便によって、直接指定された場所へ、上記の封印されたコンテナによってみ行われることとする。したがって、これ以外の航空便・船便による象牙の移動は違法なものとみなされる。
  • {4} 上記の入札・封印・積載の各段階に、CITES事務局及び希望する締約国代表が常時立ち会うことを可能とする。

 
南部アフリカ各国に分布するゾウの頭数

■各国附属書改正提案添付資料中データ

{1} ボツワナ
  99%を超えるゾウが北部の地域に生息しており、北部生息地は約80,000平方キロ、ゾウの間引きは行われていない。
雨期と乾期によってゾウの分散状況に差があるが、ゾウが水場に集中する乾期の推定生息頭数合計は以下のとおりで、増加傾向を示している。
1989年:59,896頭 1990年:55,834頭 1991年:68,771頭
1993年:79,033頭 1994年:79,305頭 1995年:73,815頭
 
{2} ナミビア
 国内北部にゾウが分布しており、生息地は合計で約100,000平方キロ、ゾウは5つの個体群に分かれて生息しており最大の個体群には約2,500頭のゾウが含まれている
 ゾウの推定生息頭数合計は安定的に推移している。
1987年:5,395頭 1990年:5,323頭 1993年:7,428頭
1995年:7,684頭
 
{3} ジンバブエ
 95%を超えるゾウが主として国内の4つのレンジに生息しており、生息地の総計は74750平方キロ、80年から87年にかけて間引きが行われていた。
 4つのレンジの推定生息頭数合計は調査を行った土地の植生によって変動しているが、おおむね増加傾向を示している。
1980年:46,426頭 1984年:49,082頭 1989年:60,065頭
1993年:60,413頭 1995年:64,479頭
 
連絡先
環境庁自然保護局野生生物課
課長:小林   光 (6460)
 担当:小山、猪岡 (6464, 6465)