報道発表資料

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2001年02月19日
  • 地球環境

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第2作業部会第6回会合の結果について

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第2作業部会第6回会合が、2月13日(火)から2月16日(金)までスイス・ジュネーブにおいて開催された。
 会合においては、IPCC第3次評価報告書第2作業部会報告書の政策決定者向け要約(Summary for Policymakers)の審議・採択及び第2作業部会報告書本体の受諾が行われた。
 
 今回採択された報告書は、気候変化の影響に対する自然・人間システムの感受性、適応力、脆弱性についての評価をとりまとめたものである。報告書では、数々の証拠により、近年の地域的な気温の変化が多くの物理・生物システムに対して影響を及ぼしている高い確信があることを指摘するとともに、世界各地域ごとの影響についてより詳細な評価を行っている。
 
 今後、第3作業部会報告書についても審議・採択が行われ、最終的には本年4月にケニア・ナイロビ市で開催予定のIPCC第17回総会で、第3次評価報告書の最終的な承認がなされる予定である。環境省としては、今後とも地球温暖化問題に関わる国際的な検討に積極的に参画・貢献することとしている。

I.IPCC第2作業部会第6回会合の概要

開催月日平成13年2月13日(火)から2月16日(金)まで4日間
開催場所ジュネーブ(スイス)
出席者ワトソンIPCC議長、マッカーシー本会合共同議長、カンチアニ本会合共同議長、各国代表など、総計約200人が出席。我が国からは、木村環境省地球環境局研究調査室長などが出席した。

II.会議の内容

1.IPCC第3次評価報告書第2作業部会報告書について

 IPCC第3次評価報告書第2作業部会報告書について
 IPCC第3次評価報告書は、地球温暖化問題全般に関する世界の最新の科学的知見をとりまとめたものであり、気候変動予測を扱う第1作業部会報告書、温暖化の影響・適応を扱う第2作業部会報告書、温暖化への対策・政治経済的側面を扱う第3作業部会報告書及び統合報告書の4部構成となる。
 本報告書の執筆作業は各国政府や専門家の協力の下で進められ、このうちの第2作業部会報告書については、これまでに報告書本体と政策決定者向け要約(SPM:Summary for Policymakers)の2部構成よりなる最終報告書案が作成された。今回の会合では、SPMの審議・採択が行われ、併せて報告書本体が受諾された。
 その主な内容は以下のとおりである。

(1)新たな見解
[1]近年の気候変化による様々な物理・生物システムへの影響
氷河の後退、永久凍土の融解、河川・湖沼の氷結期間の減少等の観測結果は、地域的な気候変化が、世界の多くの地域における種々の物理・生物システムに影響を既に与えていることを示している。
数々の証拠により、近年の地域的な気温の変化が多くの物理・生物システムに対して影響を及ぼしていることについて高い確信がある。
[2]自然システムの脆弱性
氷河、珊瑚礁、マングローブ、湿地などの自然システムは、適応力が制限されているために気候変化に対して特に脆弱であり、その一部は深刻かつ不可逆的な損害を受ける可能性がある。気候変化は、一部のより脆弱な種の絶滅や生物多様性の損失のリスクを増大させる。
[3]人間システムの感受性・脆弱性
気候変化に対し影響を受けやすい人間システムには、主として水資源、農業、林業、漁業、居住、エネルギーシステム、工業、保険・財政サービス、健康等があり、その脆弱性は、気候変化に対する曝露、感受性、適応能力によって決まり、地理的場所、時間、社会・経済・環境条件に従って変化する。
[4]異常気象現象の変化の影響
干ばつ、洪水、熱波、なだれ、台風等の異常気象のうちいくつかは、21世紀にはその頻度、程度が増大することが予測されており、温暖化に伴いその影響も激化することが予想される。
予測される異常気象現象の変化による影響の例
 
最高気温の上昇、暑い日や熱波の増加
高齢層や都市の貧困層における死亡や重病のリスクの増加、家畜や野生生物への熱ストレスの増加。旅行目的地の変更、多くの農作物への損害の増加、冷房需要の増加とエネルギー供給の信頼性低下
最低気温の上昇、寒波や寒い日の減少
寒さに関連した人間の死亡率・罹病率の減少、一部の農作物への損害のリスクの減少または増加、一部の害虫や疾病媒介生物の生息範囲・活動の拡大、暖房エネルギー需要の減少
豪雨の頻度の増加
洪水、地滑り、なだれ、泥流による損害の増加、土壌浸食の増加
夏季の干ばつ頻度の増加(中緯度大陸内陸部)
農作物生産の減少、地盤沈下による建築物への損害の増加、水供給量の減少・水質の悪化、森林火災のリスクの増大。
熱帯低気圧の最大風力、平均・最大降水強度の増加
生活へのリスク、伝染病や他の多くのリスクの増加、沿岸浸食及び沿岸建築物やインフラストラクチャーへの損害の増加、珊瑚礁やマングローブのような沿岸生態系への損害の増加
エルニーニョに関連した干ばつや洪水の増加
干ばつ・洪水地域における農業及び放牧地の生産性の減少、干ばつ地域における水力発電の低下
アジアの夏季モンスーンによる降水量変動の増加
温帯・熱帯アジアにおける洪水・干ばつの大きさと損害の増加
中緯度における嵐の強度の増大
財産の損失の増加、沿岸生態系への損害の増加、人間の生活や健康へのリスクの増加
[5]大規模かつ急激な変化の可能性
人為起源の気候変化は、北大西洋の海洋循環の遅延化、グリーンランドや西南極氷床の大規模な崩壊、永久凍土からの陸域炭素の放出、沿岸堆積物からのメタンハイドレートの放出など、地球システムに急激な変化を引き起こす可能性がある。
[6]気候変化を緩和する戦略としての適応
適応は、気候変化の悪影響を緩和し、好影響を増大させる可能性を持つが、コストがかかり、全ての損害を防ぐわけではない。
人間・自然システムは気候変化にはある程度は自動的に適応する。計画的な適応は自動的な適応を補うことができる。
[7]先進国と途上国の格差
適応力は、富裕度・技術・教育・情報・インフラストラクチャー等により決まる。この点で、貧しい国は適応力がより小さく、脆弱性が大きい。
全球平均気温の上昇により、多くの開発途上国で正味の経済的損失が生じ、温暖化の程度が大きいほど損失も大きいことが示唆されている。
先進国においては、数℃の平均気温上昇では経済的利益・損失両方が予測され、より大きな温暖化では経済的損失が予測される。このため、温暖化は、先進国と途上国の福利の格差を拡大させる。
全地球的規模においては、全球平均気温が数℃上昇する場合の全世界のGDPは±数%変化し、それ以上の温暖化ではより大きな正味の損失をもたらす。それ以下の温暖化であっても、利益を受けるより損害を被る人の方が多いことが予測される。
(2)自然・人間システムへの影響とその脆弱性
[1]水文・水資源
気候変化によって、高緯度地域と東南アジアでは表流水量及び地下水が増加し、中央アジア、地中海沿岸域、アフリカ南部及びオーストラリアでは減少すると予測される。
水利用が圧迫されている人口は、現在の約17億人から、2025年には約50億人になると予測される。
集中豪雨の増加により、大部分の地域で洪水の規模・頻度が増大する。また、蒸発量の増加により低水位期における表流水量は減少する可能性が強い。
気候変化に伴う水温の上昇、汚水処理施設のオーバーフロー等による汚濁負荷の増大、及び流量の減少により、水質の悪化が起きる可能性がある。
[2]農業・食糧安全保障
農作物収量の気候変化への反応は、作物の種、土壌の質、害虫や病原菌、CO2の直接影響、適応反応等に応じて大きく異なる。
中緯度の農作物生産は、数度以下の温暖化では一般に好影響となり、それ以上の温暖化では悪影響となる。
熱帯では、一部の作物は気温が許容範囲の上限近くにあり、乾燥地農業が支配的であることから、一般に気温のわずかな上昇でさえも生産量が減少する。この減少幅は、自動的な農学的適応により少なくなる可能性がある。
多くの研究によると、全球平均気温が数℃上昇した場合、世界の食糧需要の増加に食糧供給能力の拡大が追いつかず、食料価格が上昇すると予測されている。
[3]陸上・淡水生態系
植生モデル研究により、気候変化による生態系の深刻な崩壊が予測されている。生物種の構成や支配率の変化は、気候が変化した後、数年、数十年、数百年と遅れて起こる。
野生生物の分布、数、密度、様相は、直接的には全球及び地域的気候変化により、間接的には植生の変化により影響されてきており、今後も影響され続ける。
第2次評価報告書では、CO2の増加や気温の上昇等により、植物の生産性が高まることが示唆されていたが、近年の研究結果によれば、生産性の上昇は起こっているものの、現場条件下においては、実験結果よりも上昇が少ないことが示唆されている。
[4]沿岸域・海洋生態系
多くの沿岸域で、気候変化により、海水の氾濫水位の増加、浸食の加速化、湿地やマングローブ林の損失、淡水資源への海水の侵入が起こることが予測される。
高緯度沿岸域では、より高い波浪エネルギーや、永久凍土の浸食に関連した追加的な影響があると予測される。
海面水温の上昇により、珊瑚礁へのストレスが増大し、病気の頻度が増加する。
沿岸域における適応戦略の評価の重点は、ハード面としての海岸構造物による防御(例:護岸堤、防波堤)から、ソフト面での防御対策(例:砂浜の育成)、管理された後退、生物・物理学的及び社会経済システムの回復力の強化へとシフトしてきている。
[5]健康
多くの生物媒介性・食物媒介性及び水系伝染病は、気候変化に敏感に反応する。予測モデルによれば、気候変化によりマラリア及びデング熱に感染するおそれのある地域が増加することが予測される。
気候変化に伴って増加する熱波は、都市居住者、特に老人や病人、空調設備のない人々の死亡率や罹病率の増加をもたらす。
洪水の増加により、途上国における溺死、下痢や呼吸器疾患のリスクの増大、飢えと栄養失調の悪化が引き起こされる。
総括して、健康への悪影響は、低収入で脆弱な人々、主として熱帯/亜熱帯の国で最も大きい。
[6]居住・エネルギー・産業
気候変化による居住への最も広範なリスクは、降雨強度の増大と海面水位の上昇による洪水と地すべりである。河川・沿岸域の居住地は、特にリスクが高いが、雨水排水・上水・廃棄物処理システムの容量が不十分な地域では都市洪水も問題となり得る。
低地沿岸域の急速な都市化により、熱帯低気圧等による気象災害に曝される人口及び財産価値が増大している。予測モデルによると、2080年代までに海面水位が40cm上昇する場合、海面上昇がない場合に比べ、高潮により浸水を受ける年平均人口が、7千5百万~2億人増大すると推計される。海面上昇によるインフラへの損害は、例えばエジプト、ポーランド、ベトナムといった国では、一国あたり数百億ドルにも及ぶ可能性があると予測されている。
経済的多様性がほとんどなく気候に敏感な農林水産業に従事する人々は、より経済的多様性が大きい人々に比べより脆弱である。
[7]金融・保険サービス
壊滅的な異常気象現象による世界規模での経済損失は、1950年代の年間39億ドルから、1990年代の年間400億ドルへと10.3倍増大した(1999年USドル換算)。このうち約4分の1は途上国のものであった。これらの損失に対する保険配当金は、同期間で無視できるレベルから年間92億ドルへと増加した。より小規模な気象現象による損失も加えると、総損失はこの2倍にのぼる。
過去50年間にみられる気象災害損失の急速な上昇傾向は、一部、人口増加、富の増大、都市化等の社会経済的な要因に関係し、一部、降水量及び洪水の変化など気候要因に関係している。
気候変化及びこれに伴う異常気象現象の変化は、保険のリスクアセスメントの不確実性を増大させる。このため、保険料の高騰、途上国への財政サービス拡大の遅れ、リスク分散のために利用できる保険の減少、政府による補償需要の増大を招く。
(3)地域の脆弱性・問題点
[1]アフリカ
経済的資源及び技術が不足しているため人間システムの適応力は低く、農業が天水に依存しているため脆弱性は高い。
穀物生産の減少が予測され、特に小さな食糧輸入国では食糧安全性は減少する。
主な河川は気候変化に非常に敏感である。地中海沿岸地域とアフリカ南部の国々では平均流出量と水利用可能性が減少する。
伝染病媒介動物の生息範囲の拡大により、人間健康に悪影響をもたらす。
特に南、北及び西アフリカでは、年平均降雨、流出量及び土壌水分の減少により砂漠化が悪化する。
干ばつ、洪水、他の異常気象現象の増加により、水資源、食糧安全保障、人間健康、インフラストラクチャーへのストレスが増大し、開発が制限される。
動植物種の重大な局所的・全球的絶滅が予測され、農村の生計、観光、遺伝子資源に影響を与える。
例えば、ギニア湾諸国、セネガル、ガンビア、エジプト、東南アフリカ沿岸諸国の沿岸域居住地は海面水位の上昇により悪影響を受ける。
[2]アジア
開発途上国では人間システムの適応力は弱く、脆弱性は高い。先進国はより適応が可能で、脆弱性は低い。
温帯・熱帯アジアにおける異常気象現象(洪水、干ばつ、森林火災、熱帯低気圧)の増加。
高温・水ストレス、海面水位の上昇、洪水、干ばつ、熱帯低気圧による農業生産性・水産養殖の減少は、乾燥、熱帯、温帯アジアの多くの国における食糧安全性を減少させる。北部地域では、農業は拡大し生産性が高まる。
乾燥、半乾燥アジアでは流出量や水利用可能性が減少する可能性があるが、北アジアでは増加する可能性がある。
一部地域では、生物媒介性疾病や熱ストレスへの曝露可能性の増大により、人間健康が危機に曝される。
海面水位の上昇と熱帯低気圧の強度の増大により、温帯及び熱帯アジアの沿岸低地に住む数千万の人々が移住することになる。降雨強度の増大は温帯及び熱帯アジアの洪水のリスクを増大させる。
アジアの一部地域では、気候変化によりエネルギー需要の増大、観光地の減少、輸送への影響がある。
気候変化による土地利用及び土地被覆の変化、及び人口増大により生物多様性への脅威が増大する。海面水位の上昇により、マングローブ、珊瑚礁、漁業資源、沿岸湿地、ラグーンといった沿岸生態系の安全性に対するリスクが生じる。
永久凍土地帯の南限が北へ移動することにより、熱による浸食等によってインフラストラクチャーや産業に悪影響がでる。
[3]オーストラリア・ニュージーランド
人間システムの適応力は一般に強いが、適応力が弱いため脆弱性の高い原住民の集団が一部地域に存在する。
気候及びCO2の変化による穀物への正味の影響は、温暖化の初期においては正である。
大半の地域での乾燥化傾向と、よりエルニーニョ的な状態に変化すると予測されるため、水が主要な問題となると思われる。
豪雨と熱帯低気圧の強度が増大し、熱帯低気圧の頻度が地域ごとに変化するため、生命、財産、生態系に対する洪水・高潮・風害のリスクが変化する。
気候変化に特に脆弱な生態系として、珊瑚礁、オーストラリア南西部及び内陸の乾燥・半乾燥生息地、オーストラリア山岳システムがあげられる。オーストラリア及びニュージーランドの沿岸淡水湿地は脆弱である。
[4]ヨーロッパ
人間システムに対する適応力は一般に強い。南ヨーロッパ及びヨーロッパの極地はヨーロッパの他の地域に比べて脆弱性が高い。
南ヨーロッパでは、夏季の流出量、水利用可能性及び土壌水分が減少する可能性が高く、北部と、干ばつの頻度が高い南部との間の差異が広がると思われる。
アルプスの氷河の半分と広範囲の永久凍土地帯が21世紀末までに消失する可能性がある。
多くの地域で、河川洪水の危険が増大する。
北ヨーロッパでは農業は拡大し生産性は増大する。逆に南及び東ヨーロッパでは生産性は減少する。
生物生息域の上方・北方への遷移が起こる。重要な生息地の損失(湿地、ツンドラ、孤立生息地)により、一部の種が危機に曝される。
気温上昇及び熱波により伝統的な夏季の旅行先に変化が生じ、積雪条件の信頼性の低下により冬季の観光に悪影響が生じる。
[5]ラテンアメリカ
特に異常気候現象に関しては人間システムの適応力は弱く、脆弱性は高い。
氷河の損失や後退は、氷河の融解が重要な水資源となっている地域において流出量や水供給に悪影響を及ぼす。
洪水や干ばつの頻度が高まり、一部の地域では洪水による堆積物の増加や水質の悪化が起こる。
生物媒介性疾病の地理的分布は、極方向・高地に拡大し、マラリア、デング熱、コレラ等の病気に対する曝露が増大する。
CO2増加の効果を考慮しても、多くの場所で重要な農作物の収量が減少すると予測される。ラテンアメリカ北東部の自給自足農業は危機に曝される可能性がある。
沿岸地域の居住地、生産活動及びマングローブ生態系は海面水位の上昇によりマイナスの影響を受ける。
生物多様性の損失の割合は増加する。
[6]北アメリカ
人間システムの適応力は一般に強く、脆弱性は低い。しかし、原住民等の一部の集団はより脆弱である。
いくつかの穀物は緩い温暖化及びCO2濃度の上昇により利益を得るが、影響は穀物種及び地域によって異なる。例えばカナダの大草原やアメリカのグレートプレーンズの減少、現在のカナダの生産地域より北の地域での食糧生産の増加、暖帯・温帯混合林の生産性の増加が生じる。しかしながら、さらに温暖化が進むと正味の損失に転ずる。
北アメリカ西方の積雪の融解に支配されている流域では、春季の流量ピークがより早くなり、夏季の流量が減少する可能性がある。また、五大湖の水位及び流出量は減少する。適応反応により水利用者と水生態系への影響の一部を相殺できる可能性があるが、すべては相殺できない。
草原湿地、山岳ツンドラ、寒水生態系等の特殊な自然生態系は危機に瀕し、効果的に適応できる可能性はほとんどない。
海面水位の上昇により、特にフロリダや大部分の米国大西洋沿岸で、沿岸浸食の拡大、沿岸の洪水、沿岸湿地の損失、高潮のリスクの増大が起こる。
北アメリカにおいて、天候に関連した保険の損失と公共セクターにおける災害除去のための支出は増大している。保険セクターの計画は気候変化の情報を系統的には未だ考慮しておらず、大きな見込み違いが生じる可能性が現実にある。
マラリア、デング熱等の生物媒介性疾病の地理的分布が、北アメリカに拡大する可能性がある。
[7]極域
自然システムは気候変化に対する脆弱性が高く、現在の生態系の適応力は弱い。技術的に発達した集団は気候変化に速やかに適応できる可能性が高いが、伝統的な生活スタイルを守っている原住民の集団は、適応力及び適応策がほとんどない。
極域の気候変化は、全球的に最も大きく、最も急速なものであることが予測され、大きな物理的、生態学的、社会学的、経済的影響がでる。
既に起こっている気候変化により、北極の海氷面積や厚さの減少、永久凍土の融解、沿岸浸食、氷床や氷棚の変化、極域の種の分布や数の変化が明らかになっている。
一部の極域生態系は、種の移動や種の構成の変化による生態系の置換を通じて、そして場合によっては全体としての生産性の向上によって適応できる可能性がある。
極地域は気候変化の重要な駆動源を含む。ひとたび引き金が引かれると、温室効果ガスの濃度が安定化したはるか後も数世紀にわたって続き、氷床、全球海洋循環、海面水位の上昇に不可逆的な影響を与える。
[8]小島嶼国
人間システムの適応力は弱く、脆弱性は高い。小島嶼国は気候変化により最も深刻な影響を受ける可能性が高い。
今後100年間に年間5mmと予測されている海面水位の上昇により、沿岸浸食の拡大、土地や財産の損失、人々の移住、高潮のリスクの増大、沿岸自然生態系の回復力の減衰、淡水資源への塩水の侵入が起こり、これらの変化に反応・適応するため高い資源コストが生じる。
水供給が非常に制限されている島は、水バランスに対する気候変化の影響に非常に脆弱である。
珊瑚礁は、CO2レベルの増加による石灰化率の減少や白化により、悪影響を受ける。マングローブ、海草棚その他の沿岸自然生態系や関連する生物多様性は、気温の上昇や加速化する海面水位の上昇により悪影響を受ける。
沿岸自然生態系の衰退は、岩礁に生息する魚に悪影響を与え、その漁業、漁業により生計を立てている人々、重要な食糧源として漁業に依存している人々が危機に曝される。
小島嶼国では農耕地が限られており、また塩害を受けやすいため、島内の食糧供給や換金作物の輸出のための農業は、気候変化に対し非常に脆弱である。
観光は多くの島にとって収入及び外貨獲得の重要な源であるが、気候変化と海面水位の上昇からの深刻な崩壊に直面する。
(4)影響・脆弱性・適応の評価の改良
以前の評価時に比べ、生物・物理システムの変化の検出について進歩がみられ、適応力・異常気象現象に対する脆弱性等を理解するためのステップがとられている。その結果、適応戦略を立案し、適応力を構築するための取り組みの必要性が示唆されている。しかしながら、将来予測を充実させ、不確実性を減少させるため、さらに研究を進める必要がある。
現時点の理解と、政策決定に必要な情報のギャップを狭めるために必要な分野は次のとおりである。
気候変化に対する自然及び人間システムの感受性、適応力、脆弱性の定量的評価
気候変化等により著しく不連続な反応が引き起こされる閾値の評価
全球的、地域的及びより小さなスケールでの気候変化を含む多重ストレスに対する自然生態系の動的反応への理解
適応反応へのアプローチ方法の開発、適応オプションの効果とコストの見積もり、異なる地域、国家、集団における適応の機会と障害の違いの特定
影響を受ける人口・土地面積、危機に瀕する種の数、影響の金銭的価値等の多様な基準を用い、また、統一的な不確実性の評価方法をもとにした、予測される範囲の気候変化による潜在的影響の評価
自然・人間システムの異なる要素の間の相互関係や、異なる政策決定の帰結を調査するための、リスク評価を含む統合評価手法の向上
政策決定過程、リスク管理、持続可能な発展への取り組みに、影響・脆弱性・適応に関する科学的情報を含める機会の評価
人間・自然システムに対する気候変化の影響についての長期間のモニタリング、及び気候変化その他の人間・自然システムへの影響を理解するためのシステムと方法の改良

2.今後の予定

 今後、第3作業部会第6回会合(2月28日~3月3日、ガーナ・アクラ)において第3作業部会報告書SPMの審議・採択及び報告書本体の受諾が行われた後、IPCC第17回総会(4月4日~6日、ケニア・ナイロビ)において、3つの評価報告書が最終的に承認される予定となっている。
 さらに、統合報告書については、今後、執筆作業が進められ、IPCC第18回総会(9月24日~29日、英国・ロンドン)において審議・採択される予定となっている。

連絡先
環境省地球環境局総務課研究調査室
室 長: 木村祐二(内線6730)
 補 佐: 小野  洋(内線6731)
 担 当: 永田眞一(内線6733)