平成9年1月28日

平成7年度未規制大気汚染物質モニタリング調査結果

環境庁では、未規制の大気汚染物質対策の一環として、昭和60年度から未規制大気汚染物質モニタリング調査を実施している。
 平成7年度は、平成5年度に引き続きアスベスト(石綿)、水銀及び揮発性有機化合物について当該調査を実施した。なお、アスベストについては、一般的な環境に加えて、これを製造又は使用する工場・事業場等の周辺(敷地境界を含む。以下同じ。)においても調査を行った。また、ベンゼン等の揮発性有機化合物13物質については、国設大気環境測定所において測定を行った。
 調査結果を、アスベストについては大気汚染防止法上の規制値(敷地境界基準)と、水銀についてはWHO欧州地域事務局ガイドラインと比較すると、ただちに問題となるレベルではなかった。なお、揮発性有機化合物については、昨年5月に改正された大気汚染防止法の規定に基づき、さらに詳細なモニタリングを実施し、全国的な大気汚染の状況の把握に努めることとしている。また、揮発性有機化合物のうちベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについては、近いうちに環境基準の設定が予定されており、地方公共団体でモニタリングの実施が予定されている。

1.調査目的
 近年、大気汚染防止法により排出規制がなされていない多種多様な物質が大気中から検出されており、これらに長期的に曝露されることによる健康影響が懸念されている。このため、健康影響等に関する新たな科学的知見を用いて、有害大気汚染物質による被害を未然に防止するための対策を検討し、平成8年5月に有害大気汚染物質対策を柱とする大気汚染防止法の改正が行われ、本年4月から施行されることとされている。
 本調査は、長期的に環境中の濃度推移を把握することにより、今後有害大気汚染物質対策を検討する上での基礎資料とするものである。

2.調査方法
 (1) アスベスト
 14地方公共団体の66地点において調査を実施した。調査時期は、夏期及び冬期とし、それぞれの平日昼間において、原則として連続する3日間、1日1回検体を採取し、光学顕微鏡法による計数を行った。
 (2) 水銀
 5地方公共団体の29地点において調査を実施した。調査時期は、夏期及び冬期とし、それぞれの平日昼間において、原則として連続する3日間、1日1回検体を採取し、原子吸光法により分析した。
 (3) 揮発性有機化合物
 全国9ヶ所の国設局において、13の揮発性有機化合物について調査を実施した。調査は、キャニスター捕集を行ったものについては6月から2ヶ月ごとに5回、吸着管捕集を行ったものについては7月から2ヶ月ごとに5回行い、それぞれガスクロマトグラフ質量分析法により分析した。

3.調査結果
 (1) アスベスト
 発生源周辺においては、アスベスト製品製造事業所散在地域及び廃棄物処分場周辺地域で0.29f/l、アスベスト製品製造事業所周辺地域及び蛇紋岩地域で0.88f/l、高速道路及び幹線道路沿道で0.42f/lであった。一方、バックグラウンド地域においては、内陸山間地域及び離島地域で0.19f/l、住宅、商工業及び農業地域では0.23f/lであった。(数値はいずれも幾何平均値。)
  (参考)大気汚染防止法による敷地境界基準10f/l
 (2) 水銀
 工場地帯周辺の居住地域では3.2ng/m3、大都市の居住地域では1.0ng/m3、中小都市の居住地域では2.3ng/m3、バックグラウンド地域では2.2ng/m3であった。(数値はいずれも幾何平均値。)
  (参考)WHO欧州地域事務局のガイドライン1μg/m3
  注)ngは10−9g、μgは10−6g
 (3) 揮発性有機化合物
 今回測定を行った揮発性有機化合物のうち、近く環境基準の設定が行われるベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンについては、それぞれ以下のとおりであった。

{1} ベンゼンについては、一般環境において3.1μg/m3、バックグラウンドにおいて1.5μg/m3であった。
 (参考)中央環境審議会指針値3μg/m3
{2} テトラクロロエチレンについては、一般環境において0.81μg/m3、バックグラウンドにおいて0.096μg/m3であった。
 (参考)中央環境審議会指針値200μg/m3
{3} トリクロロエチレンについては、一般環境において1.2μg/m3、バックグラウンドにおいて0.21μg/m3であった。
 (参考)中央環境審議会指針値200μg/m3
 (数値はいずれも算術平均値。)


4.今後の対応
 今後も有害大気汚染物質に関する総合的対策の検討に資するため、モニタリング調査を継続して実施、長期的に環境大気中の有害大気汚染物質濃度の推移を把握してまいりたい。また、有害大気汚染物質による健康影響に対する知見の収集に努め、事業者の排出抑制に対する取組の促進を図ってまいりたい。


表1 平成7年度未規制大気汚染物質(アスベスト)モニタリング結果の概要
  

  地域分類     地点数 検体数 最小値 〜 最大値 幾何平均

  発生源周辺I     11   66  0.04   2.58  0.29
  発生源周辺II     14   84  0.09   13.47  0.88
  発生源周辺III    12   72  0.13   1.96  0.42
  バックグラウンドI   6   36  0.04   0.99  0.19
  バックグラウンドII  23   150   ND    1.76  0.23

  計          66   408   ND   13.47  0.34

・地域分類

 発生源周辺[1] アスベスト製品製造事業所散在地域(アスベスト製品を製造する複数の事業所が散在している地域)、廃棄物処分場等周辺
 発生源周辺[2] アスベスト製品製造事業所周辺地域(アスベスト製品を製造する事業所が単一に存在し、その周辺を対象とする地域)、蛇紋岩地域(アスベストの一種であるクリソタイルは、蛇紋岩を構成する主要鉱物の一つであるといわれ、採石によりその飛散が考えられる。)
 発生源周辺[3] 高速道路沿線、幹線道路沿線(一部のブレーキにアスベストが使用されており、その摩擦等により飛散が考えられる。)
 バックグラウンド[1] 内陸山間地域、離島地域
 バックグラウンド[2] 住宅地域、商工業地域、農業地域

 
・幾何平均
 大気中で測定される濃度の分布が、対数正規分布に従うと仮定した場合の中央値をいう。

・ND(不検出)の取扱い
 幾何平均においては、顕微鏡により50視野覗いたときに計数繊維数が1本存在したと仮定して算出。


表2−1 測定結果(アスベスト)

            地点     測定結果     (f/l)
 地域分類       番号 検体数 最小  最大  算術  幾何

 アスベスト製品製造事業  1   6 0.09  0.41  0.27  0.25
 散在地域         2   6 0.09  0.42  0.23  0.21
              3   6 0.04  0.13  0.09  0.08
              4   6 0.04  0.18  0.09  0.07
 廃棄物処分場周辺地域   5   6 0.69  2.58  1.39  1.25
              6   6 0.44  1.69  1.02  0.94
              7   6 0.26  1.31  0.68  0.59
              8   6 0.26  0.49  0.35  0.34
              9   6 0.25  0.52  0.34  0.33
             10   6 0.094 0.37  0.23  0.21
             11   6 0.19  0.42  0.27  0.26
 アスベスト製品製造事業 12   6 0.76 10.45  3.29  2.06
 周辺地域        13   6 0.72  6.48  2.08  1.49
             14   6 0.61  3.48  1.57  1.27
             15   6 0.92  6.06  3.60  3.03
             16   6 1.04 13.47  5.03  2.65
             17   6 0.17  2.20  1.19  0.90
             18   6 0.46  2.99  1.52  1.20
             19   6 0.17  0.80  0.49  0.41
             20   6 0.09  1.31  0.47  0.33
             21   6 0.09  0.95  0.40  0.27
 蛇紋岩地域       22   6 ND   3.10  1.25  0.86
             23   6 ND   0.99  0.61  0.51
             24   6 0.19  1.10  0.64  0.53
             25   6 0.25  1.39  0.67  0.55
 高速道路周辺地域    26   6 0.20  0.45  0.34  0.32
             27   6 0.25  0.91  0.61  0.55
 幹線道路周辺地域    28   6 ND   1.08  0.72  0.61
             29   6 ND   0.75  0.33  0.27
             30   6 0.21  0.50  0.34  0.32
             31   6 0.17  0.42  0.27  0.25
             32   6 0.26  0.65  0.46  0.44
             33   6 0.28  0.77  0.53  0.50
             34   6 0.18  0.37  0.29  0.28
             35   6 0.13  0.27  0.19  0.18
             36   6 0.82  1.55  1.10  1.06
             37   6 0.65  1.96  1.03  0.96

注)大気汚染防止法に基づく規制基準敷地境界基準(10f/l)の適用は、各地点ごとに3回捕集して得られた個々の測定値を幾何平均することにより、評価することとされている。

表2−2 測定結果(アスベスト)

            地点     測定結果      (f/l)
 地域分類       番号 検体数 最小  最大  算術  幾何

 内陸山間地域      38   6 0.10  0.40  0.25  0.22
             39   6 0.15  0.51  0.33  0.29
             40   6 0.05  0.34  0.17  0.14
             41   6 0.04  0.99  0.26  0.14
 離島地域        42   6 0.12  0.45  0.26  0.23
             43   6 0.07  0.53  0.25  0.18
 住宅地域        44   6 0.35  1.76  0.84  0.74
             45   6 ND   0.47  0.20  0.18
             46   6 ND   ND   ND   ND
             47   6 ND   ND   ND   ND
             48   6 ND   ND   ND   ND
             49   6 0.08  0.21  0.16  0.15
             50   6 0.08  0.33  0.17  0.15
             51   6 0.12  0.21  0.18  0.17
             52   6 0.12  0.25  0.17  0.16
             53   6 0.13  0.28  0.20  0.19
             54   6 0.17  0.37  0.28  0.27
             55   6 0.25  0.57  0.44  0.43
             56   6 0.04  0.74  0.36  0.24
 商工業地域       57   6 0.04  0.26  0.16  0.14
             58   6 0.12  0.33  0.23  0.21
             59   6 0.09  0.33  0.16  0.14
             60   6 0.09  0.14  0.12  0.11
             61   6 0.04  0.26  0.12  0.10
             62   6 0.04  0.22  0.15  0.13
             63  12 0.14  1.15  0.55  0.45
             64  12 0.20  1.28  0.67  0.61
 農業地域        65   6 0.25  1.27  0.63  0.55
             66   6 0.25  0.94  0.46  0.41

注)大気汚染防止法に基づく規制基準敷地境界基準(10f/l)の適用は、各地点ごとに3回捕集して得られた個々の測定値を幾何平均することにより、評価することとされている。

表3 平成7年度未規制大気汚染物質(水銀)モニタリング結果の概要

                             単位(ng/m3)
  地域分類        点数 検体数 最小値〜最大値 算術平均 幾何平均
   
  工場地帯周辺の居住地   8  48   ND 〜 14    3.9   3.2 
  大都市の居住地域     5  30   ND 〜 5.7   1.6   1.0
  中小都市の居住地域    8  48  0.62〜 7.2   2.6   2.3
  バックグラウンド地域   8  48   ND 〜 14    3.0   2.2

・幾何平均
 大気中で測定される濃度の分布が、対数正規分布に従うと仮定した場合の中央値をいう。
・ND(検出限界値以下)の取扱い
 算術平均及び幾何平均においては、検出限界値の1/2として算出。


表4 測定結果(水銀)

                            単位(ng/m3)
            地点          測定結果
   地域分類      番号 検体数 最小値 最大値 算術平均 幾何平均

工場地域周辺の居住地域   1  6    1.2  6.2   3.1   2.7
              2  6    ND 14    5.7   3.2
              3  6    2.9  4.7   3.9   3.9
              4  6    2.0  4.5   2.8   2.7
              5  6    1.4  2.6   2.3   2.2
              6  6    1.8  3.2   2.3   2.3
              7  6    1.9  8.0   4.8   4.1
              8  6    2.2 11    6.4   5.4
大都市の居住地域      9  6    2.3  5.7   4.5   4.4
             10  6    ND  1.3   0.6   0.5
             11  6    0.8  1.5   1.1   1.1
             12  6    0.5  2.7   1.3   1.0
             13  6    ND  0.8   0.5   0.4
中小都市の居住地域    14  6    1.7  5.5   3.2   2.9
             15  6    0.80 6.0   2.8   2.3
             16  6    1.5  4.5   2.8   2.6
             17  6    1.9  3.4   2.4   2.4
             18  6    2.1  4.7   2.7   2.6
             19  6    1.7  2.6   2.1   2.1
             20  6    0.68 3.6   2.1   1.6
             21  6    0.62 7.2   2.8   2.0
バックグラウンド地域   22  6    0.90 7.0   3.0   2.4
             23  6    ND  3.2   2.1   1.5
             24  6    1.8  2.9   2.3   2.3
             25  6    1.5  2.2   1.9   1.8
             26  6    4.2  7.7   6.1   6.0
             27  6    2.5 14    6.7   5.4
             28  6    0.7  1.5   1.2   1.2
             29  6    0.7  1.0   0.9   0.9    

    表5 平成7年度未規制大気汚染物質(揮発性有機化合物)モニタリング結果の概要

                             単位:μg/m3
物質名         地域分類    測定局数 検体数 平均  最小  最大

アクリロニトリル    一般環境     8    39   0.032 <0.01  0.17
            バックグラウンド 1    5  <0.01  <0.01  <0.02
塩化ビニルモノマー   一般環境     8    40   0.15  <0.1   2.7
            バックグラウンド 1    5  <0.1  <0.1  <0.1
塩化メチル       一般環境     8    40   1.6   0.68  6.7
            バックグラウンド 1    5   1.3   0.82  1.6
クロロエタン      一般環境     8    40  <0.1  <0.1   0.19
            バックグラウンド 1    5  <0.1  <0.1  <0.1
クロロホルム      一般環境     8    40   0.41  0.11  2.5
            バックグラウンド 1    5   0.31  0.13  0.64
四塩化炭素       一般環境     8    37   0.68  0.37  2.2
            バックグラウンド 1    5   0.79  0.57  1.6
1,2−ジクロロエタン 一般環境     8    39   0.11  0.008  0.83
            バックグラウンド 1    5   0.015 <0.01  0.028
ジクロロメタン     一般環境     8    40   2.5  <0.1   54
            バックグラウンド 1    5   0.40  0.13  0.86
テトラクロロエチレン  一般環境     8    40   0.81  0.039  3.4
            バックグラウンド 1    5   0.096  0.041  0.17
1,1,1−      一般環境     8    40   1.7   0.38  11
 トリクロロエタン   バックグラウンド 1    5   1.0   0.61  1.9
トリクロロエチレン   一般環境     8    40   1.2   0.058  5.0
            バックグラウンド 1    5   0.21  0.060  0.40
1,3−ブタジエン   一般環境     8    40   0.30  <0.1   1.6
            バックグラウンド 1    5  <0.1  <0.1  <0.1
ベンゼン        一般環境     8    40   3.1   0.91  8.2
            バックグラウンド 1    5   1.5   0.71  2.1

・地域分類
 一般環境:札幌、川崎、新潟、名古屋、大阪、松江、倉敷、大牟田
 バックグラウンド:篦岳(宮城県)

・捕集管により捕集した物質:
  アクリロニトリル、1,2−ジクロロエタン

・キャニスターにより捕集した物質:
 塩化ビニルモノマー、塩化メチル、クロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,3−ブタジエン、ベンゼン

・検出限界値以下の取扱い
  平均値の算出においては検出限界値の1/2として算出。


表6 測定結果(揮発性有機化合物)

                             単位:μg/m3
地域分類 測定局名 アクリロ 塩化ビニル 塩化メチル クロロ クロロホルム
          ニトリル モノマー       エタン
一般環境 札幌    <0.01  <0.1   1.5    <0.1     0.70
     川崎    0.066  <0.2   1.6    <0.1     0.31
     新潟    0.044  <0.1   1.2    <0.1     0.70
     名古屋   0.032  <0.1   1.3    <0.1     0.29
     大阪    0.059  0.59   2.6    <0.1     0.46
     松江    <0.01  <0.1   1.3    <0.1     0.29
     倉敷    0.019  <0.1   1.3    <0.1     0.30
     大牟田   0.029  0.22   1.6    <0.1     0.20
バック  篦岳    <0.01  <0.1   1.3    <0.1     0.31
グラウント

                             単位:μg/m3
地域分類 測定局名 四塩化 1,2− ジクロロ  テトラ   1,1,1−
          炭素  ジクロロ メタン   クロロ   トリクロロ
              エタン        エチレン  エタン
一般環境 札幌    0.62   0.032  11      1.5     0.92
     川崎    0.71   0.19   1.3     1.5     3.9
     新潟    0.59   0.14   0.3     0.3     0.9
     名古屋   0.69   0.10   1.4     0.66    2.2
     大阪    0.65   0.19   4.3     1.8     3.2
     松江    0.61   0.11   0.26    0.079    0.64
     倉敷    0.90   0.051  0.66    0.50    1.2
     大牟田   0.67   0.031  0.63    0.15    0.65
バック  篦岳    0.79   0.015  0.40    0.096    1.0
グラウント

                       単位:μg/m3
地域分類 測定局名 トリクロロ 1,3− ベンゼン
          エチレン  ブタジエン
一般環境 札幌    0.20   0.24   2.9
     川崎    2.2   0.97   3.2
     新潟    1.1   <0.1    2.1
     名古屋   1.3   0.16   2.5
     大阪    2.5   0.28   3.9
     松江    0.22  <0.1    1.7
     倉敷    0.88   0.29   3.6
     大牟田   1.2   0.34   4.8
バック  篦岳    0.21  <0.1    1.5
グラウント

・検出限界値以下の取扱い
  平均値の算出においては検出限界値の1/2として算出。

・札幌のジクロロメタンについて
 異常値と思われる突出した値が検出されており、これを除外した平均は0.76μg/m3となる。

添付資料

連絡先
環境庁大気保全局大気規制課
課長 飯島  孝 (内6530)
 担当 石飛 博之(内6537)