報道発表資料
環境省では、国際的な水銀対策の立案に資するため、平成19年度より、国内の発生源による影響を直接受けない地点(バックグラウンド地点)において、水銀の大気中濃度等のモニタリングを試行してきました。今般、これまでの測定により一定の測定データが蓄積され、データの信頼性が確保されたと判断されたことから、平成22年度に実施した調査結果を過年度の調査結果と併せてとりまとめ、公表いたします。
なお、測定結果を大気中水銀濃度の指針値と比較したところ、過年度の測定結果も含め、常に指針値以下でした。また、平成22年度の測定結果は、平成19~21年度の測定結果と比較して、概ね横ばいの推移を示しました。
1.背景
国連環境計画(UNEP)においては、平成13年より地球規模での水銀汚染に関連する活動を開始し、水銀による環境汚染への国際的な対応を進めています。平成21年2月に開催されたUNEP第25回管理理事会では、国際的な水銀の管理に関して法的拘束力のある文書(条約)を制定すること、及びそのための政府間交渉委員会(INC)を設置して平成22年に交渉を開始し、平成25年までのとりまとめを目指すことが合意されました。
こうした国際動向を踏まえ、環境省では、国際的な水銀対策の立案に資することを目的として、平成19年度より、水銀について、国内の発生源による影響を直接受けない地点(バックグラウンド地点)における大気中濃度(バックグラウンド濃度)等について、モニタリング調査を試行してきました。
今般、これまでの測定により一定の測定データが蓄積され、データの信頼性が確保されたと判断されたことから、平成22年度に実施した調査結果を過年度の調査結果と併せてとりまとめ、公表いたします(詳細は別添参照)。
2.調査概要
- (1)水銀の形態別測定について
-
大気中の水銀には多くの種類(形態)が存在し、その大部分を占める元素状水銀(金属水銀)のほか、酸化態水銀、浮遊粒子状物質中の水銀(粒子状水銀)等の形態があります。こうした様々な形態の水銀は、大気中において異なる挙動を示すことが知られています。
本調査では、国内のバックグラウンド地点において形態別水銀濃度のモニタリングを行うことにより、国際的な水銀の排出状況及び濃度レベルの推移、それらが我が国の環境に及ぼす影響の把握等に資することを目的に、大気にガス状で存在する金属水銀及び酸化態水銀、並びに粒子状水銀の濃度をそれぞれ測定し、それらを合計しました。また、降水中の水銀濃度の測定(全ての形態の合計について測定)を行いました(表1参照)。 - (2)測定地点
- 独立行政法人 国立環境研究所 辺戸岬 大気・エアロゾル観測ステーション(沖縄県国頭郡国頭村字宜名真)
- (3)測定方法、調査項目及び測定頻度
- 大気成分については、形態別水銀連続測定装置を用いて測定を行いました。また、降水成分については、降水捕集装置により試料を採取し、米国環境保護庁(EPA)が定めるMethod 1631に準じた方法で濃度分析を行いました。(いずれも詳細は別添参照)
区分 | 調査項目 | 測定頻度 | |
大気成分 | ガス状 | 金属水銀 | 連続測定(16回/日) |
酸化態水銀 | 連続測定(8回/日) | ||
粒子状水銀 | |||
降水成分 | 降水中の水銀濃度 | 週1回測定(7日間連続サンプリング) |
- ※
- 本調査における「金属水銀」とは、大気中にガス状で存在する水銀元素(Hg0)のことを指します。また、「酸化態水銀」は、大気中にガス状で存在する酸化された水銀(Hg2+)を、「粒子状水銀」は、大気中の浮遊粒子状物質に含まれる又は吸着している水銀を、それぞれ表しています。
- ※
- 酸化態水銀及び粒子状水銀については、大気中濃度は小さいものの、地上への水銀の沈着においては大きな割合を占めることが知られているため、測定対象としています。
- ※
- 大気汚染防止法に基づいて行われている有害大気汚染物質モニタリング調査における水銀濃度のモニタリングと本調査では測定方法が異なります(別添参照)。
3.調査結果の概要
- (1)平成22年度の調査結果の概要
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大気中の形態別水銀の合計の年平均値は1.9ngHg/m3、月平均値の範囲は1.6~2.4ngHg/m3、1時間毎の測定値の範囲は1.2~6.0ngHg/m3でした(表2)。また、大気汚染防止法に基づく大気中水銀濃度の指針値(年平均値40ngHg/m3)を常に下回っていました。
なお、大気中の水銀は、そのほとんどが金属水銀で占められており、酸化態水銀及び粒子状水銀が占める割合は、平均で1%未満でした(詳細は表2及び別添参照)。 - (2)平成22年度と過年度の傾向の比較
- 形態別水銀の合計の濃度及び形態別の水銀濃度の年平均値は、平成19~21年度の調査結果と比較して、概ね横ばいで推移していました(詳細は別添参照)。
なお、平成21年度までは試行期間であり、測定日数が限られる等の点に留意する必要があります。
測定項目 | 項目 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 年間 |
金属水銀 (ngHg/m3) |
平均値 | 2.4 | 2.2 | 2.2 | 1.9 | 1.8 | 1.7 | 1.8 | 1.8 | 1.8 | 1.6 | 1.8 | 1.7 | 1.9 |
最小値 | 1.6 | 1.7 | 1.4 | 1.6 | 1.4 | 1.4 | 1.4 | 1.2 | 1.2 | 1.3 | 1.3 | 1.2 | 1.2 | |
最大値 | 4.3 | 4.0 | 6.0 | 2.4 | 2.7 | 2.3 | 3.3 | 3.7 | 3.7 | 3.1 | 5.1 | 3.1 | 6.0 | |
酸化態水銀 (pgHg/m3) |
平均値 | 0.7 | 1.3 | 0.8 | 0.4 | 0.7 | 1.2 | 1.7 | 2.4 | 1.8 | 0.9 | 1.4 | 2.8 | 1.3 |
最小値 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
最大値 | 6.0 | 14.4 | 23.7 | 6.0 | 12.2 | 41.1 | 58.2 | 14.9 | 14.8 | 9.2 | 16.0 | 39.5 | 58.2 | |
粒子状水銀 (pgHg/m3) |
平均値 | 2.7 | 1.8 | 1.2 | 0.4 | 0.3 | 0.3 | 1.1 | 3.3 | 5.0 | 1.8 | 2.6 | 5.0 | 2.2 |
最小値 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
最大値 | 19.9 | 13.3 | 26.6 | 3.5 | 4.6 | 4.1 | 9.4 | 37.4 | 47.6 | 48.0 | 26.6 | 32.1 | 48.0 | |
合計 (ngHg/m3) |
平均値 | 2.4 | 2.2 | 2.2 | 1.9 | 1.8 | 1.7 | 1.8 | 1.8 | 1.8 | 1.6 | 1.8 | 1.7 | 1.9 |
最小値 | 1.6 | 1.7 | 1.4 | 1.6 | 1.4 | 1.4 | 1.4 | 1.2 | 1.2 | 1.3 | 1.3 | 1.2 | 1.2 | |
最大値 | 4.3 | 4.0 | 6.0 | 2.4 | 2.7 | 2.3 | 3.3 | 3.7 | 3.7 | 3.1 | 5.1 | 3.1 | 6.0 |
- ※
- 形態別水銀の合計及び金属水銀の濃度(単位ngHg/m3)は大気1立方メートルあたりの水銀重量をng(10億分の1g(グラム))で、酸化態水銀及び粒子状水銀の濃度(単位pgHg/m3)は1立方メートルあたりpg(1兆分の1g)の単位でそれぞれ表している。1pgは1ngの1000分の1の大きさ。
- (3)その他
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- 降水中の水銀濃度の年平均値は3.2ng/L、測定値の範囲は0.9~11.9ng/Lであり、年平均値は、降水中水銀濃度の測定を開始した平成20年度以降の調査結果と比較して、概ね横ばいで推移していました。降水中の水銀については指針値等が設定されていませんが、参考として、水銀に関する水道水の水質基準値である0.0005mg/L(500ng/L)と比較すると、測定値は非常に低い値でした(詳細は別添参照)。なお、平成21年度までは試行期間であり、測定日数が限られる等の点に留意する必要があります。
- 大気中の水銀濃度と気象要因との関係、水銀濃度とその他金属類(大気中の粒子状物質におけるニッケル、ヒ素、鉛、カドミウム等の金属元素)の濃度との関係、水銀濃度と発生源との関係等について、解析手法を検討しました。これらの検討は、来年度以降も引き続き実施する予定です。
4.今後の対応
国際的な水銀の排出状況及び濃度レベルの推移、それらが我が国の環境に及ぼす影響の把握等を通じ、国際的な水銀対策の立案に資するため、今後も継続的にモニタリング調査を実施し、定期的に調査結果を公表する予定です。また、UNEPが実施している世界水銀パートナーシップ・プログラム等の国際的な取組に調査結果を報告する等により、大気経由での水銀の広域輸送等に関する国際的な知見の収集や、それらに基づく国際的な取組に、積極的に貢献していきます。
添付資料
- 連絡先
- 環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課
代表:03-3581-3351
直通:03-5521-8260
課長:早水 輝好(内線 6350)
補佐:福島 健彦(内線 6353)
担当:甲斐 文祥(内線 6356)