平成23年10月24日
地球環境

「低炭素社会国際研究ネットワーク(LCS-RNet)」第3回年次会合の開催結果について(お知らせ)

 「低炭素社会国際研究ネットワーク(LCS-RNet:The International Research Network for Low-Carbon Societies)」の第3回年次会合が10月13−14日にフランスのパリにおいて開催されました。
 本会合には、13カ国34研究機関6国際機関から合計68名が出席しました。我が国からは、LCS-RNet政府窓口である環境省、日本国代表研究機関である(独)国立環境研究所、(財)地球環境戦略研究機関(LCS-RNet事務局)が出席しました。本会合では、低炭素社会の実現に向けたパラダイムシフトへの挑戦として、これまでの低炭素社会関連研究成果を踏まえ、社会制度、行動様式および技術システムの革新的な転換を行なうための政策設計と、社会的、資金的支援を促進するために必要なものは何かについて議論が行われました。
 今回の成果は、気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)のサイドイベント及び11月にフランスで開催されるG20会合、来年度のG8環境大臣会合にて報告される予定です。

1.LCS-RNetの概要

(1)経緯

 LCS-RNetは、2008年5月のG8環境大臣会合(神戸:5月24-26日)において我が国の提案により設立が合意されたものである。それぞれ自国の低炭素社会を実現するための研究を行っている、各国を代表する研究機関(注1)により2009年4月に正式に立ち上げられ、同月に開催されたG8環境大臣会合において、今後LCS-RNetの活動成果をG8環境大臣会合に定期的に報告していくよう求められた。2009年10月には第1回年次会合がイタリアのボローニャにて、2010年9月には第2回年次会合がドイツのベルリンにて開催された。

注1:
現時点での参加国・機関は、我が国のほか、フランス(環境・開発国際研究所(CIRED))、イタリア(新技術・エネルギー環境庁(ENEA))、韓国(国立環境研究院(NIER))、イギリス(英国エネルギー研究センター(UKERC))、ドイツ(ヴッパタール気候・環境・エネルギー研究所(WI))、インド(インド経営研究大学アーメダバード校(IIMA))の7カ国からの16研究機関である。

(2)目的

[1]
G8や気候変動枠組条約締約国会議などの気候政策の意思決定プロセスへの科学的知見の提供
[2]
低炭素社会研究の推進及び様々な研究に関する情報交換
[3]
政策決定者やNGO、市民らと研究者の対話の推進

2.第3回年次会合概要

共催:
エコロジー・エネルギー・持続可能開発・海洋省および環境・開発国際研究所(CIRED)
協力:
環境エネルギー管理庁(ADEME)
日程:
平成23年10月13日(木)−14日(金)
開催場所:
パリ(フランス)

(1)プログラム概要

 今回の会合では、
[1]
パラダイムシフト:気候変動への挑戦とグリーン成長(セッション1)
[2]
炭素排出と経済成長のデカップリング実現のための制度および技術システムの革新的な転換(セッション2)
[3]
都市におけるエネルギー効率、低炭素開発パターンと生活様式の変化(セッション3)
等に関するパネルセッションが設けられた。

(2)主な成果

 本会合にはヨーロッパ、米国、カナダ、ロシア、中国、インド、ブラジル、日本等13カ国の研究機関や政策決定者、6国際機関等68名が参加した。主な成果の概要は以下の通りである。

[1]現代社会が包含する課題

 今回の会合に参加した科学者は、カンクーン合意によって示唆された「パラダイムシフト」のさまざまな面について議論を行った。科学者たちは、債務危機による先進国の経済不況のリスク、新興国の台頭、また、途上国における貧困問題への対応を踏まえ、気候政策に関する国際交渉のスピードがこうした実情に比して遅すぎること、また、結論を先延ばしにすることは問題をさらに長引かせてしまうことを認識している。

[2]短期的な対応と長期的な政策決定

 この課題に対応するため、科学者たちは、グリーン成長によって牽引される経済回復に裏打ちされた貧困の撲滅、雇用の創出、福祉の保障、また、持続可能な発展の実現といった短期的な要求に応えつつ、将来において低炭素社会への移行を実現するために必要な気候政策を如何にデザインするかについて議論を行った。

[3]炭素集約的な開発経路がもたらすエネルギー資源問題

 既存のシナリオは、何らかの気候政策を取らなければ、人類は炭素集約的な開発路線にロックインしてしまい、工業国は資本ストックのターンオーバーを減速化し、一方で新興経済国は後に代替困難なインフラを作ってしまうことを示している。これは、気候変動に関する問題以上に、国を跨いで存在するエネルギー資源についての緊張を悪化させる可能性を孕んでいる。

[4]炭素フリーエネルギーによるマルチベネフィット

 長期予測モデルによる研究は、エネルギー供給における炭素フリーへの代替案(炭素隔離を含む)が、技術的性能、経済的継続性、および環境健全さといった観点から気候変動とその他の環境問題、社会的要請に対する転換への道筋を定義することに役立っていることを示している。

[5]炭素フリーエネルギーの普及とエネルギー強度の低減の関係

 炭素フリーのエネルギーの普及速度の不確実性を考慮すると、エネルギー効率の改善と効率的利用、技術的及び社会的革新によるエネルギー強度を低減する産業構造の転換、ライフスタイルの変化が必要である。

[6]都市・運輸政策等とエネルギー政策の統合的検討

 エネルギー及び都市、生産と消費という観点からだけでなく、食糧生産とバイオマスエネルギーの供給といった土地利用の変化にも焦点が当てられてきているという事実を踏まえ、都市政策、運輸政策と農業政策といった広い視野を持ったエネルギー政策が必要である。

[7]ドライバーとしての多角的な政策パッケージ

 社会的、技術的革新の推進力に関する研究として、多角的な政策手段(炭素税、炭素市場、基準、R&D、電力市場の改革、都市および土地利用政策、化石燃料に対する補助金の削減)、長期的視野での転換、国内の失業、負債および資源分配といった直面する問題に対応するための短期的変遷を実現するための政策パッケージの設計が必要である。

[8]「グリーン成長」経路

 「グリーン成長」の基本的な考えは、低炭素を技術革新の最前線、よりよい持続可能な開発パターンと生活様式を実現するための原動力として捉え、目指していくことである。先進国における課題は、既存のインフラストラクチャーの改変を促すことであり、一方で途上国においては、新エネルギー、交通、建設インフラを充実させていくことが挙げられる。

[9]炭素価値の認識と気候変動投資

 気候変動の資金メカニズムに関するこれまでの多くの経験と提案は、カンクーン合意で示唆されたパラダイムシフトを実現するには、国民が炭素価値を認識し、気候変動資金の効果を向上させる必要があることを示している。それにより、気候変動資金は世界中に気候にやさしい投資の波を起こし、また、国際的資金システムを展開させる議論に積極的に貢献できる。

[10]国の内外における革新的な資金措置

 資金フローやインセンティブは、国及びセクター別の政策パッケージにより強化される。国内政策パッケージと国際的協定の一つの重要な題目の一つは、産業界や地方公共団体(町や地域)が気候にやさしい技術やインフラストラクチャーに投資するために特定リスクを低減することである。炭素価格と共に、セクター別に合わせた財政手段も必要となる(例えば、再生可能エネルギー資金、エネルギー効率の資金など)。

[11]低炭素発展経路の実現と投資パターンの変革

 新興国および途上国の経済が、エネルギー集約的なロックインに陥ることを避けるため、インフラストラクチャー(住居、交通、エネルギー、廃棄物処理)への現在の投資パターンを再調整できるような何らかの構造的な枠組みが必要である。

[12]国際的協定

 技術を普及させ、効率性向上を達成するためには、国内の気候変動及び開発政策の促進に加え、国際的競争における歪みを緩和する国際的協定が必要である。このような国際的協定は地域的なスケールで達成可能ではあるが、世界規模でのポスト京都の気候枠組みを締め出すようなものとして考えるべきではない。

(3)日本の貢献

[1]
西岡秀三IGES研究顧問は、日本の低炭素社会研究による政策支援状況を説明するととともに、LCS-RNet事務局長として本会合を組織化し実りある会合に導いた。
[2]
国立環境研究所甲斐沼美紀子温暖化対策評価研究室長は、カナダ、米国、中国、ロシアの低炭素モデルの研究者が参加した「国内気候政策を促進する要因となる国際協定について」という題目の議長を務め、議論をリードした。
[3]
須藤智徳アフリカ開発銀行民間セクタースペシャリスト、国際協力機構専門家は、途上国の発展過程において高炭素強度による固定化を防ぐために必要なインフラ対策の課題について発表を行なった。
[4]
地球環境戦略研究機関明日香壽川気候変動グループ・ディレクターは、フクシマ後の日本のエネルギー・気候政策の変遷についてのプレゼンテーションを行った。
[5]
東京都環境局都市地球環境部国際環境協力課鈴木研二課長は、都市におけるインフラ及び建築セクターにおけるCO2削減の先進的な取組として、東京都の排出量取引及び東京都建築物環境計画書制度に関する活動を紹介した。
[6]
環境省大臣官房梶原成元審議官は、LCS-RNet年次会合一日目の総まとめとなるラウンドテーブルのパネリストとして、日本の温暖化対策(基本法とロードマップ、二国間クレジット)を紹介するとともに、ダーバンに向けた展望に関するディスカッションを行なった。
[7]
環境省地球環境局研究調査室佐々木緑室長補佐は、低炭素社会に向けた政策手法と行動変化について討議する最終セッションに登壇し、日本がアジアの途上国で実施してきた低炭素発展研究の基盤形成に向けた取組みを紹介した。また、その後の討議にて、そろそろG20を視野に入れて積極的に低炭素発展研究の基盤を途上国において形成するための協力を考えて行く時期に来ていることを指摘した。

3.今後の予定

来年度も年次会合を開催する予定。開催国は現在検討中。
平成21年度以来重ねてきた研究者会合や政策決定者との対話などを通じて集積した知見をIPCC第五次評価報告書へインプットすること等を目指し、低炭素社会研究に関するジャーナルの特集版を平成24年度に出版の予定。

添付資料

連絡先
環境省地球環境局総務課研究調査室
代表:03-3581-3351
室長:松澤 裕(内線 6730)
補佐:佐々木 緑(内線 6731)
担当:小早川 鮎子(内線 6733)