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中環審第138号

平成10年8月26日

 

                  

 

内閣総理大臣

   小 渕 恵 三 殿

 

中央環境審議会会長  

近 藤 次 郎  

 

 

環境基本計画の進捗状況の第3回点検結果について(報告)

 

 

 環境基本計画の第4部「計画の効果的実施」の第5節「計画の進捗状況の点検及び見直し」の規定に基づき、当審議会は、環境基本計画策定後の施策の進捗状況等を点検し、今後の政策の方向について、別添のとおり結論を得たので報告する。

 点検に当たっては、国の施策の進捗状況のみならず、環境基本計画に沿って、地方公共団体、事業者、国民等の社会を構成する各主体が行っている取組について調査するとともに、国民各界各層に対する公開のヒアリング、郵便・FAX等による意見の受付を行った。

 

 

環境基本計画の進捗状況の第3回点検結果について

 

 

 基本認識

○第2回点検以来の環境行政の動きを見ると、昨年12月に開催された地球温暖化防止京都会議は、温室効果ガスの排出削減を進めるという困難な課題実現に向けた第一歩を記した点で評価しうるものであり、その他の分野についても、評価すべきいくつかの重要な進展が見られた。

 

○しかし、環境問題の現状を見ると、温室効果ガスの排出量は依然増加していること、ダイオキシン類による環境汚染の状況が明らかになりつつあり、また、いわゆる環境ホルモン物質と疑われている化学物質による環境への影響が懸念されていること、種の減少などによる生物多様性の減少が改めて明らかになったことなどに見られるように、環境問題の現況は、環境行政の進展を上回る速度と広がりで困難さを増していると思われる。

 

○こうした状況に対処していくためには、今般の地球温暖化対策の議論でも改めて認識されたように、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会を見直し、持続可能な経済社会を実現していくことが必要であることは言うまでもない。
  問題は、それに替わる持続可能な経済社会のあり方とその実現方法が必ずしも明らかでないことである。
  このため、今日、環境行政に求められることは、環境負荷の少ない持続可能な経済社会に関する経済社会や国民のライフスタイルの具体像とそれに至る大きな道筋を、具体的な説得力のある形で国民に提示し、それに対するコンセンサスを広げることであり、環境基本計画がその中心的役割を担うべきである。

 

 

 全般的評価

 

(国の取組状況)

○これまでの点検においては、各省庁の個別の環境保全の取組はかなり行われてはいるものの、施策間の連携が十分であるとは言えないことを指摘してきた。特に、前回の点検では、各省庁の施策間の連携が十分図られるよう論点を整理・分析するとともに、各種施策を統一的な方針に基づき体系化し、政府が一体となって強力に推進すべく、環境行政推進のための仕組みの検討を行う必要性を指摘した。

 

○今回の点検では、この指摘を踏まえるとともに、本年度を目途に政府において作業を開始されると思われる環境基本計画の見直しに点検結果を反映させることを念頭に置きつつ、国の各省庁の施策間の連携や施策の体系的推進を具体的に事例に即して検討することとした。
 その検討を効果的、重点的に行うために、環境保全の観点から見て十分な施策効果をあげるには施策間の連携や施策の体系的な推進が行われることが必要であると考えられる分野の中から選んで、この点を中心に点検を行うこととし、重点審議項目を大気環境の保全、水環境の保全、各主体の自主的積極的取組の3点とした上、それぞれについて、さらに都市内交通、健全な水循環、国民のライフスタイルの3分野に絞り込んで点検を行った。

 

○今回の点検作業の結果、これらの項目の中には、環境という観点から見ると、状況の深刻化が見られるにもかかわらず、
 ・関係主体間において、環境保全のために施策間の連携を図る必要性についての認識が欠けていたり、不十分であること

 ・関係主体間において、環境保全のために施策間の連携を図る必要性については、一応のコンセンサスが成立しているにもかかわらず、そのようなコンセンサスを具体化し、施策相互間の矛盾や重複を避け、整合性のとれた施策展開を図っていくための仕組みが欠けていたり、不十分であること
 により、環境面から見て、各省庁の施策間の連携や体系的な施策の推進が必ずしも十分に図られているとは言い難い場合が見受けられた。

 

○環境問題解決のためには、環境基本計画に基づく施策のうち、相互に影響し合う個別施策の実施に当たって、関係主体が、環境の保全が達成すべき目的又は課題の一つであることを共通に認識することが必要である。
 さらに進んで、環境に影響を与える可能性のある施策について、環境保全を最大限に配慮するという考え方の下に体系的に推進する仕組みについても検討が行われるべきであろう。
 例えば、一般的に言って、個別の目的を持つが相互に関係する複数の諸施策がそれぞれ環境の保全に支障となる可能性を有する場合、環境の保全に配慮することなく個別施策の目的とするところを最大限に追求するとすれば、環境保全上重大な影響を及ぼすおそれがある。このような場合、環境の保全を当該施策間の調整概念の一つとして、複数の施策間相互の連携のもと、体系的な推進を図る必要がある。

 

○このような観点から見て、前2回及び今回の点検作業の中から、相互に関係する複数の施策が実施される場合に生ずる課題のうち、環境行政推進の在り方全般に通ずると考えられるものとして一般的に摘示すれば、次のようなものが挙げられよう。また、これらの課題が存在することは、我が国の環境保全に関する施策を総合的、体系的に実施するための基本的な仕組みとしての現行の環境基本計画が期待されるような機能を十分に果たしていないことを意味するものであり、今後の環境基本計画の見直しに際しては、この点の強化に留意する必要がある。

 

1) 関係者が共通の理解の下に環境の保全を自らの施策の目標又は課題の一つとして採用する必要があること

2) 相互に関係の深い施策が適切にパッケージされ、総合的な枠組みの中に体系的に位置づけられ、明確な責務と役割の分担の下に、整合性の取れた形で実施される必要があること

3) このようなことを確保するための関係主体間の調整の場の設定など、関係者が自己の施策の実施に関して共通の観点から環境配慮を行うことを確保するための仕組みが設けられる必要があること

4) 関係省庁間における共通の理解と認識を形成するため、環境に関する指標の開発や情報の共有化、共同による調査研究が行われる必要があること

5) 施策の調整に当たっては、特定の環境課題の解決に適した地域的範囲を念頭に置いて実施する必要があること

6) 国の環境施策の展開に当たっては、地方公共団体との連携を重視すべきであり、地方公共団体の位置づけや役割の明確化を図るとともに、地方分権推進法の基本理念に即した適切な分権化が図られる必要があること

7) 環境基本計画に基づく施策について、環境保全上の施策の効果が数量的に把握されていないことが多いため、施策の進捗状況の評価が十分にできない状況にあり、施策の目標と達成状況を明らかにするために施策効果の数量的把握、費用と効果の分析等政策評価の手法の検討をする必要があること

 

○なお、重点審議項目以外について、第2回点検以降進捗が見られた主な点を示すと 以下のとおりであり、地球温暖化防止京都会議における温室効果ガスの排出削減という重要な課題について国際的合意の形成や、重要な環境保全上の課題に関する法制度の整備が進捗した点については、国の取組として一定の評価をすることができる。

 ○地球温暖化防止京都会議の開催及び京都議定書の採択、署名

 ○地球温暖化対策の推進に関する法律案の閣議決定、国会提出

 ○エネルギーの使用の合理化に関する法律の一部改正

 

○一方、国は、行政の主体としての立場のほか、通常の経済活動を行う事業者・消費者としての側面も有しており、こうした事業者・消費者としての政府の経済活動に伴う環境への負荷を低減するため、平成7年6月、「国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組の率先実行のための行動計画」(率先実行計画)を閣議決定し、これに基づき、各省庁では自主的に取組を進めている。平成8年度の各省庁の実施状況を取りまとめた結果によれば、全般的には進捗が見られるものの、計画の目標年次である平成12年度の数値目標を達成するためには、地球温暖化防止対策との連携を図りつつ、更に財政的な裏付けを確保しつつ、計画の積極的推進を図る必要がある。

 

○また、地球温暖化を始めとした重大で深刻な環境問題に直面している中で、国には、徹底的に自らの活動を律し、環境への負荷を大きく低減することが期待されているといえる。こうした要請に応えるためには、率先実行計画を着実に実施していくにどどまらず、あらゆる政府活動について、環境配慮を徹底するための仕組みについて検討する必要がある。

 

○なお、環境基本計画に基づく施策の実施に当たっては、複数の選択肢を施策効果や費用対効果をもとに、相互に比較した上で、適切な施策を選択することが重要であるとともに、施策の決定の過程を可能な限り、国民に明らかにすることにより施策のアカウンタビリティーを高めることが重要である。

 

(各主体の取組状況)

○環境問題の解決に向け、地方公共団体、事業者、国民等の各主体の果たすべき役割は大きく、積極的な行動が期待されるところであるが、第3回点検により把握した各主体の取組状況は概ね次のとおりである。

 

○一部の地方公共団体については、重点審議項目の環境保全上健全な水循環や都市内交通に関する検討で明らかになったように、総合的、分野横断的な施策の推進について先進的な取組が見らた点で評価することができる。今後、このような、総合的な取組の拡がりが期待される。

 

○事業者の取組については、地球温暖化対策等への関心の高まりがみられ、ISO14001への取組、排出物の削減、リサイクルへの取組、低公害車の開発など進展が見られるものの、全般的に今後のさらなる取組が期待される。

 

○国民の環境問題への関心は、前回点検に引き続き高く、環境保全への積極的な意見もやや増加しているが、環境問題に対する取組は、前回とほぼ同じであり、大きな進捗は見られなかった。

 

○ブロック別ヒアリングや郵便等により寄せられた国民の意見は、地球温暖化対策、廃棄物・リサイクル対策に関するものが多かった。また、前回に比べて、廃棄物・リサイクル対策及びダイオキシンやいわゆる環境ホルモン等への意見が増加しており、これらの問題への関心の高まりがうかがえ、これらの意見を今後の政府の取組に反映していくことが望まれる。

 

○各主体の取組の把握については、現在、総合的な把握と評価が必ずしも十分に実施できておらず、また、国民各界各層の意見の聴取の方法については、必ずしも効果的、機能的に行われているとは言えない状況であり、今後、これらの点を踏まえて方法の改善に向けて検討を行う必要がある。

 

 

大気環境の保全

○大気環境の保全については、都市交通関連施策を対象とし、国際的な都市交通施策の動向と我が国の施策の比較などを通じて点検を行った。

 

(環境保全の観点から見た都市交通の現況)

○現在の我が国の交通の状況を見ると、平成8年度には旅客輸送、貨物輸送ともに自動車分担率が50%を越えるなど交通における自動車への依存率が高くなっており、そのため自動車総走行距離は、平成7年度には、昭和46年度の2.45倍となる約6000億台kmに達するなど、大幅に増加してきている。

 

○また、都市の現状を見れば、都市への人口集中や産業の集積化の進展等により交通量の増加、集中が起こり、恒常的な交通渋滞が発生している状況にある。

 

○このような状況の中、都市交通公害の状況を見ると、自動車単体当たりの環境負荷は以前に比べ低減しているとはいえ、平成8年度の大都市道路沿線における二酸化窒素環境基準の達成率は33%(自動車排ガス測定局)にとどまっているなど、依然として深刻な状況にある。
 さらに、地球温暖化対策の観点で見ると我が国における運輸部門からの排出が大幅な増加傾向にあり、旅客部門の増加要因の86%は、自家用自動車によるもの、貨物部門の増加要因の96%は、貨物自動車によるものととなっており、自動車交通の中でも重要な位置を占める都市交通による二酸化炭素の排出の抑制は、地球温暖化対策を進める上で重要な課題となっている。

 

(環境保全の観点から見た都市交通施策の取組状況)

○我が国においては、近年までは、発生する自動車交通の需要の増大に対して道路整備等により対応することで交通流の円滑化、安全性の確保などを主眼に実施されており、結果として、需要に追随する形で対策が取られてきた。また、環境保全を主目的とする施策としては、自動車単体からの環境負荷発生を低減する施策が中心行われていた。

 

○しかし、現在、我が国の都市交通施策において、結果として環境保全に資する施策も各地で実施されるようになった。OECD等で国際的に、持続可能な発展のための交通施策項目として検討されている施策メニューについても、全国的にみれば多くの項目の施策が講じられている。特に、交通システム整備、交通システムの運用・管理中の情報整備については、情報通信技術の進展もあって、複数の施策が実施されている。

 

○しかしながら、環境保全に配慮した都市交通施策体系は十分に形成されておらず、施策の中には環境保全を目的に位置づけていないものや運用が十分でないものもある。すなわち、土地利用施策等の中には、交通に起因する環境への影響が十分配慮されておらず十分な効果の得られていないもの、経済的措置のようにほとんど実施されていないものもあった。さらに、これらを含む各種施策を組み合わせた総合的な施策はほとんど実施されていなかった。

 

○なお、点検では札幌市、金沢市を重点的に調査したが、これらの都市では、各種の先進的な取組が行われており、これらは、いくつかの検討課題はあるものの、総合的な都市交通施策として評価しうるものであった。

 

(今後の課題)

○都市交通施策については、前項で述べたような環境保全に配慮した各種の施策が実施されているが、今後、一層力を入れて取り組むべき課題として、以下のような取組があげられる。

 

○都市交通の施策の主要目的の一つに環境保全を位置づけることが必要。
 また、環境保全、都市づくりと交通改善を一体的に実現することを含め、交通利用者だけでなく、居住者側の視点を重視した環境保全に配慮した都市交通施策体系を構築することが必要。

 

○自動車走行量を抑制することが重要であり、そのため、自動車依存性をどのような場合に、どのような内容で低めるかについて社会的合意を形成することが必要。

 

○環境保全に係る目標の達成のために、国民生活・社会経済へ与える影響に十分配慮しつつ、どのような分野について、どの程度、いつまでに削減を行うかを明確にすることが必要。

 

○規制的な手法と誘導的な手法の両面から、土地利用施策、交通システムの整備・運用・管理、交通需要管理、自動車単体対策、経済的措置等への取組状況を踏まえて各種施策の組合せを見直し、効果的な施策の組合せのもと総合的な取組を推進することが必要。

 

○単体対策の一層の強化を図るとともに、近年実施されるようになった、交通システムの運用・管理、交通需要管理及び低公害車普及施策(制度的普及方策の検討等) を一層進めていくことが必要。

 

○経済的措置については、環境定期券などの施策の導入を図っていくとともに、ロードプライシング、交通システムの整備や運営等に関する関係主体の経済的負担のあり方、環境に係る税について検討を進めることが必要。

 

○都市域の拡散、郊外の商業立地の進展等の自動車依存性を高めるような近年の都市構造の変化及びこれまで実施されてきた各種の土地利用施策の経緯を踏まえつつ、土地利用施策と一体となった環境への負荷の少ない都市交通体系のあり方について検討し、推進していくことが必要。その際に、騒音規制対策と大気保全行政の関係について十分留意することが必要。

 

○自動車への過度の依存を防ぎ、環境負荷を少なくするという観点から、公共交通機関の利用の促進、自転車利用の推進、物流の効率化等に資する施策の推進を図ることが必要。(バス走行環境の改善-バス優先の信号制御、専用レーンその他バス優先を確保するための交通管理-、トランジットモールの導入検討、自転車走行空間のネットワーク整備、鉄道・バス等の公共交通機関の整備・利用促進及び共同輸配送の推進のための公的支援など)

 

○ライフスタイル、ビジネススタイルの転換のため、交通家計簿や通勤計画の普及等交通利用に係る自己点検を促す仕組みを整備することが必要。

 

○環境保全に配慮した都市交通施策を、関係省庁の密接な連携のもと進めていくこと。さらに、関係主体の参加や連携体制を構築した上で、各主体の責務を明確化した各種の取組を推進することが必要。

 

○都市交通施策を行政区域にとらわれず交通の実態に即し都市圏全体を捉えて推進することが必要。

 

○交通に係る環境面への影響などを、必要に応じて事前に評価し適切な計画の調整を行う仕組みを検討するとともに、施策の実施による環境保全上の効果の評価手法を確立することが必要。

 

○都市交通施策において二酸化炭素排出削減効果などの施策効果の定量的な把握が、必ずしも十分行われていないため、施策の進捗状況の把握、施策の有効性の評価を十分に行うことのできない状況にあり、科学的知見に基づく施策実施効果の把握や施策効果と費用の関係の分析などをより一層進めることが必要。

 

水環境の保全 

○水環境の保全については、環境保全上健全な水循環を対象テーマとして、全国及び 特定地域のケーススタディにより点検を行った。

 

(環境保全上健全な水循環の現況と取組状況)

○我が国においては、急峻な地形や狭小な国土という地理的特徴があるため、河川の流量の変動が大きい等水環境に係る厳しい条件下において水利用が行われてきた。

 

○しかしながら、我が国においては、今世紀後半以降の都市への人口集中に伴う急速な都市域の拡大により、雨水の不浸透域の拡大、水田の減少等が進み、自然の水循環系が部分的に損なわれ、河川流量の不安定化や湧水の枯渇、生態系の劣化等さまざまな障害が発生している。

 

○これまで我が国の水に関する行政は、水循環の視点から総合的に施策を推進するというよりは、それぞれの所管における課題の解決のために個別に施策の推進が図られてきていた。

 

○現在、いくつかの省庁で、水循環の視点をベースにした検討が進められているほか、一部の地方公共団体で具体的な施策も始められているが、全体的にみて必ずしも水循環の確保に係る共通的な考え方やそれに対応した施策の体系化等は確立されているとは言えない状況にある。

 

(今後の課題)

○環境保全上健全な水循環の確保に係る基本的・共通的考え方の確立

 環境保全上健全な水循環の確保に向けた施策を推進するには流域を単位とし、流域の自然的社会的条件を踏まえ、総合的に水循環の現状を診断・評価し、関係者が連携して進めることが必要。また、地下水も含め流域全体として環境保全上健全な水循環が保全されていることが重要。このため、行政を始め関係者間における共通認識となる考え方や今後の対策の方向を明らかにしつつ、環境保全上健全な水循環の維持回復に係る仕組みを整備していくことが必要。

 その際、水循環の回復施策が、エネルギー使用の増加等他の環境要因の負荷をできるだけ増大させないような配慮が必要。

 

○流域における上下流・行政と住民等との連携について

 環境保全上健全な水循環の確保に係る諸対策の計画策定及び実施に関しては、各省庁・各自治体間での連携のみならず、流域住民や企業、学識経験者等との連携が十分図られるような参加システムの確立が必要。また、それぞれの立場に応じた公平な役割分担を含め、上流域と下流域における関係者間の連携が必要。

 これら関係者間の連携・参加を一層進めるため、各主体が保有する流域の水循環関連の情報を共有化するためのシステムを確立することが必要。

 

○人と水とのふれあいの確保について

 人と水とのふれあいを回復させる上で、水量・水質の改善に合わせ、親水性を高めるため、地域住民の意向を踏まえつつ、ハード、ソフトの両面からのより一層の施策の推進が重要。

 

○環境保全上健全な水循環の指標・診断基準等の整備について

 環境保全上健全な水循環の評価手法については、全国の流域で共通な視点に立って水量・水質のみならず、生物多様性や自然浄化能力等を含めた水循環指標や評価基準等の整備が必要。また、地下水を含め、流域での水循環の経路や水収支の現状の把握、将来予測等を行った上で、必要な保全・利用を行うための総合的な情報システムの整備が必要。このため、流域ごとに地下水位や流水の連続性等の水循環に係る情報の収集及び機構の解明を行い、地下水かん養目標量や汚濁負荷削減目標量等を設定することが必要。

 

○関係行政計画への水循環の視点の統合について

 各省庁・各自治体において行われている環境保全上健全な水循環確保のための施策が効果的、効率的なものとなることが重要。このため、関係する施策については、各省庁・各自治体間での十分な連携を図ることが必要。

 土地利用に関する計画などの行政計画の策定及び環境アセスメントに際して、環境保全上健全な水循環の確保の視点を盛り込むことが必要。

 

○多様な水の文化について

 水環境の保全活動など水の文化を維持し、次代へ伝えていこうとする活動により、それぞれの地域における水の歴史的文化を再構築し、総合的な水環境に対する認識を深めることが重要。

 

○森林地域の保水能力の保全について

 全体として森林面積は若干の増加傾向にあるものの、天然林の減少や人工林の管理不十分による水源かん養能力の低下が懸念されることから森林の保全・整備が必要。このため、流域を単位とした環境保全上健全な水循環確保の視点による、森林保全の優先度について検討することが必要。

 また、洪水緩和、水源かん養、生物多様性の確保等の森林の持つ多様な機能の評価を行い、その保全に向けた費用負担のあり方について、流域内の関係者間の合意形成を図ることが必要。

 

○農業地域における環境保全上健全な水循環について

・水田の生産調整施策の導入、都市近郊での開発圧力の増大等による農地面積の減少から地下水かん養能力が低下すること等が懸念される。このため、水田等の農地が有する、多様な水利用を通じた環境保全機能を適正に評価し、地下水かん養機能を維持・回復することが必要。また、この評価には流域を単位とした農地の水収支等の定量的把握の検討が必要。

・農業用水の利用形態は、ほ場整備の推進や、農業用用排水の分離などにより変化してきており、農業用水の反復利用率の低下が懸念される。また、コンクリートライニング水路整備等により、従来農業用用水路がもっていた多様な機能が損なわれていることが考えられる。今後、これらを総合的に評価し、機能を維持・回復する工法、利用形態とすることが必要。

・農業地域からの汚濁負荷としては、化学肥料の過剰な施用、農薬の不適切な使用、家畜ふん尿の不適切な処理等により、硝酸性窒素をはじめとする地下水汚染や、湖沼の富栄養化等の環境負荷が発生。このため、畑地等の非特定汚染源からの汚濁負荷の流出量に係る数量的な知見について、今後さらに調査研究を進めるため、流域を単位として、水田等の水循環機能、田畑、畜産等からの汚濁負荷及び対策効果を把握し、それに基づいた効率的な施策の推進が必要。

 

○都市地域における環境保全上健全な水循環について

・湧水の枯渇や平常時の河川流量の減少及び生態系の劣化等を防ぐため、雨水の地下浸透の促進・雨水の有効利用を含め節水型社会システムの構築等の施策を推進することが必要。

・都市活動の増加、地表被覆率の上昇とともに、都市の道路等の非特定汚染源から流出する汚濁物質の量は増大していると考えられるため、汚濁負荷の削減に向けた早急な取組が必要。

・雨水の有効利用の他、各種貯留施設による水の雑用水、環境用水への転用を促進し、都市域における水の有効利用、再利用が必要。また、節水の一層の推進も必要。

・都市化によるヒートアイランド現象及び緑地や水辺が有する気候緩和機能の定量的把握並びに環境保全上健全な水循環の回復を通じた改善策の調査研究が必要。

 

○河川、湖沼、地下水等における良好な水環境について

・渇水年における水資源賦存量は近年次第に小さくなってきており、水量の保全を図るため、森林地域、農業地域及び都市地域における環境保全上健全な水循環の確保のための施策に加え、水の再利用を含め節水型社会システムの構築のための各種の施策等の一層の推進が必要。なお、森林地域、農業地域及び都市地域に関しては、概念上、お互いの地域が重複する場合があることに留意。

・水質改善対策としては、下水道、集落排水施設等の排水処理対策等が講じられているが、水質保全における水量の視点が不足。また、非特定汚染源からの負荷割合は増加傾向。このため水質保全施策を検討するに当たっては、流域を単位とし、更にかん養域、流出域について勘案することが必要。

・生物の多様な生息・生育環境の確保に向け、水辺や水生生物等の保全に係る基準や、良好な水環境の尺度となる生物指標の確立に向けた調査研究及び保全施策を進める ことが必要。

 

○沿岸における自浄能力の保全等について

 海岸については、改変が進んでいる要因を分析し、流域全体としての土砂管理と併せて、自然海岸の適切な保全策を検討することが必要。

 干潟・藻場の保全については、生物の生息状況や干潟が環境浄化に果たしている機能などについての調査研究が必要であるとともに、開発計画との調整を行っていくことが重要。

 かつて自然が持っていた自然浄化能力等を回復するための施策についても積極的な取組が必要。

各主体の自主的積極的取組

○各主体の自主的積極的役割については、国民が環境基本計画で示された国民の役割を効果的に果たしていくために行政が支援施策として行う国民のライフスタイル関連施策を点検の対象として、国民の生活関連様式は個人の生活の中において日常的に選択が繰り返されることにより形成されてきたものであるという観点から、環境負荷と生活様式の関係を分析、整理した。

 

(国民のライフスタイルの現況と取組状況)

○近年、国民生活に起因する環境負荷が、さまざまな環境問題の中で大きな位置を占めている。例えば、地球温暖化問題について見ると、1995年におけるわが国の二酸化炭素排出量のうち、民生家庭部門では全体の13.1%である約4350万tCを排出しており、自家用車の利用、製品や食品の製造・流通過程で排出される二酸化炭素等を含めると約半分が家庭の消費に直接、間接に関連している。これは、1992年の1人当たりのエネルギー消費原単位が、1970年の約1.6倍になっていることに見られるように、生活の内容が大量消費、大量廃棄型になってきていることなどが要因と考えられ、このような傾向は、特別の措置を講じない限り今後も変わらないことが予想される。

 したがって、環境の負荷に対する許容量や化石燃料等資源の有限性を考慮すると、このまま推移すれば持続可能な経済社会の実現が困難になる恐れが大きい。また、われわれは、自家用車の利用による大気環境への負荷増大や家庭排水による水環境への負荷の増大などに見られるように、日常の生活活動を通じて、無意識のうちに、他者に対する加害者となっている面があり、生活様式の問題は、単なる個人的な問題のレベルにとどまらず社会的問題としての側面が強まりつつある。

 こうしたことから、持続可能な社会の実現のためには、社会の仕組みの変更や科学技術の発展などを通じて自然の循環の中で持続可能な資源・エネルギーの利用を進めることと同時に、ライフスタイルを環境への負荷の少ないものに転換していくことが必要である。環境基本計画においてこのような課題を基本的な目標として取り上げ、各主体の共通認識の下に、社会の仕組みをそれにふさわしいものにするよう、総合的かつ体系的な施策展開を図っていくべきである。

 

○国民のライフスタイルは今後の環境問題に大きく関わるものであるが、現在、環境基本計画においては、基本的な認識としてライフスタイルの見直しに関する記述はあるものの、環境負荷の少ない環境保全上望ましいライフスタイルがどのようなものかを示すビジョンやそれを実現するための施策体系も存在しない。また、具体的な施策についても一応の記述は置かれているものの、各政策分野に対する対症療法的な施策に止まっている。さらに、環境教育などについても触れられているものの、ライフスタイルの見直しという観点からの政策的な方向付けは行われていない。

 

○ライフスタイルに関連する施策は、環境情報の提供や環境教育の分野などで個別には実施されているが、施策数は少なく、内容的にも十分なものとは言えない。また、環境負荷の少ないライフスタイルへの転換を国民が容易に実践できるように経済社会システムの転換を図るという観点からの施策は、ほとんど行われていない。

 

(今後の課題)

○国民のライフスタイルの転換の方向と道筋を示すとともに行政施策の目指すべき方向を明らかにするため、持続可能な経済社会における望ましいライフスタイルのビジョンを提示することが必要。また、このビジョンを実現するため、施策の基本方針を作成するとともに、各個別施策の導入や実施について具体的な実施計画を作成 することが必要。

 

○国民のライフスタイルの転換のためには、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会システムの見直しや直接・間接に環境への負荷を生じさせる者がその対策のための費用を負担するという、国際社会で広く受け入れられている経済社会的原則の確立が必要。

 

○国民の自主的で適切な消費行動の選択に資する、OA機器の待機時消費電力が削減された製品に付された国際エネルギースターマークの普及を図るとともに、製品等に関する環境情報の積極的な提供を図るため、エコマーク制度の改良を促すことなどを通じ、温室効果ガスの排出量等を含む製品等の環境負荷に関する情報を提供する環境ラベルの新たな方式の導入、日常生活レベルでのエコライフ活動の促進など国民参加型の効果的な普及啓発活動の実施、環境教育・環境学習のための多様なプログラムの開発やその実施のための拠点の整備とネットワーク化の推進、消費者情報の強化、人材の育成など環境教育・環境学習の充実、国民やNGOなどによる取組や情報発信、議論の支援などの情報提供型手法に係る施策の一層の推進が必要。

 

○持続可能な経済社会の実現に向けたライフスタイルの転換に国民が取り組むことを容易にするため、経済社会の仕組みを転換する施策(社会制度型手法)に取り組むこと。

 例えば、ロードプライシングや環境に係る税、助成措置を含め様々な経済的措置について検討すること。サマータイム制の導入について国民的議論を提起すること。テレワークなどによる勤務形態の見直し、製品等の原料採取から廃棄に至る全段階を視野に入れた環境負荷の少ない製品等の消費者への提供の仕組み、情報内容の充実、環境負荷の少ない製品やサービスの購入に関する行政や事業者の取組の推進、再生品や中古品などに関する需要の喚起と市場の育成、カジュアルデー等の生活習慣の見直し、緑化活動への積極的な参加、自転車利用の促進などの移動手段の見直し、環境負荷の少ない経済社会システムの実現のための情報通信等の科学技術の最大限の活用等について検討し、その推進を図ることが必要。

 また、サマータイム制やテレワークなど国民生活に多大な影響を与えるものについては、国民の意見を反映させながら施策の検討を行うことが必要。

 

○ライフスタイル関連施策の推進に当たっては、国、地方公共団体、事業者及びNGOが、相互連携の下にそれぞれ、以下のような責務と役割を果たすことが期待されるところであり、それを支援する施策が必要。

○ライフスタイルが環境にいかなる影響を与えているのか具体的な形で明らかにされていないことが、施策の推進の上での支障となっている。このため、ライフスタイルと環境の関係の分析、具体的な施策の目標の設定、実施に当たっての各主体の役割分担の明確化を図ることが必要。