青梅の自然に囲まれて育ち、「東京最後の野生児」と呼ばれ、テレビ番組などでも活躍する土屋さん。一般社団法人 森の演出家協会を立ち上げ、古民家を拠点として、思いを共有する仲間と連携して、自然と触れ合う体験を提供する取組を続けています。
どんな活動?
自然とのふれあいを演出して環境への気付きを提供
身近な森の中にもたくさんの発見があります。
土屋さんの肩書きは「森の演出家」。テレビ番組で知り合ったアナウンサーに命名されたのが、この肩書きを名乗るようになったきっかけです。テレビ番組や雑誌などでも活躍し、川に入りヤマメを素手で捕らえ、鳥の鳴き声を真似ながら「鳥と会話ができる」様子などが注目されて、「東京最後の野生児」というニックネームも生まれました。
土屋さんが立ち上げた(一社) 森の演出家協会では、身近な自然の魅力を案内して、現代人が失いつつある「心の豊かさ」や「生きる力」への気付きを提供することを目指しています。森の中で、植物や小さな虫たちの生きる力を体感する「森育」、ストレスから解放されることでいきいきした笑顔を取り戻す「人育」、自然の恵みに感謝しておいしくいただく「食育」という3つの理念を掲げて、小中学校での課外授業、企業研修、地域活性化のプロデュースなど、多彩な活動を展開しているのです。
たとえば、幼児から小学生を対象にした「未来の地球を自然の恵みで作ろう」という講座では、公園などの身近な自然の中で手に入る広葉樹の葉や木の実、コケなどを活用して、子どもたち自らが考えた「未来の地球」を、一枚の木の板の上に表現します。
身近な自然の中を歩きながら、知らずに歩くと見逃してしまう、普通の人は名前も知らない小さな野草や虫を題材にして、いろんな話をしてくれるのが土屋さんの講座の魅力です。平成24(2012)年に始めた「未来の地球を自然の恵みで作ろう」講座は、のべ400名以上の子どもたちが参加。自然と暮らしの関わりに気付き、自然との繋がりを考えるきっかけとなっています。
東京最後の野生児と呼ばれた土屋さんが、「次世代の野生児」を育てることを目指し、さまざまな活動に取り組んでいるのです。
土屋さんの説明に子どもたちは夢中!
集めた素材で想像する「未来の地球」を表現します。
活動のきっかけは?
森に元気をもらった体験を多くの人に伝えたい!
子どもの頃の土屋さん。
土屋さんは東京都青梅市生まれ。東京とはいえ、豊かな森に囲まれた環境の中で育ちました。特技でも鳥の鳴き真似は、父親譲り。おじいさんやお父さんも鳥と会話ができたそうです。
高校2年生の頃には、フライフィッシングの第一人者であった先生の紹介でテレビ番組にも出演。その時、ヤマメを素手で捕まえたことが「東京最後の野生児」と呼ばれるようになるきっかけとなりました。
森の力を土屋さん自身が体感したのは、高校時代、体調を崩したことがきっかけでした。難病の疑いがあると診断されて学校を休み、森で過ごす時間が増えたら体調が回復。ホルモンバランスが崩れたことが体調不良の原因で、森に癒やされることで回復したのです。
調理師免許を取得して働き始めてからも、釣りのガイドなどを副業として自然の中での活動を続けつつ、「森林セラピーガイド」「自然観察指導員」などの資格を取得。「火おこしマイスター」や「蕎麦打ち講師」など、森で楽しみを提供するための知識と技術を高めます。
本格的に、森を仕事場にする決意をしたのは、平成23(2011)年の東日本大震災がきっかけでした。人生のあり方が問われる風潮の中、知人の仲介を得て、JR御嶽(みたけ)駅の近くの築150年の古民家を借りることができました。土屋さんは自らこの古民家に住み、(一社)森の演出家協会を設立したのです。
成功のポイントは?
共感を集めながら枠にはまらないチャレンジを継続
土屋さんの取組は多彩です。幼稚園や小学校、中学校での課外講座。企業研修、蕎麦打ち教室や料理教室。現在では青梅に加えて奥多摩にも古民家の拠点を確保して、古民家合宿を催したり、地域活性化のプロデューサーとして、自らの経験と人脈をいかしたイベントを企画しています。また、JR御嶽駅の近くに『つちのこカフェ』をオープン。森を訪れる人の憩いの場所も提供しています。
土屋さんの活動を知った人が森を訪れたり、身近な自然のガイドを依頼して、その体験から生まれる共感から、さらに新たな出会いが生まれます。場所や内容をパッケージとして限定してしまうのではなく、その人に合わせ、その季節に合わせた体験を提供することが、枠にとらわれない活動の広がりに繋がっているといえるでしょう。
里山の古民家に住み、森を仕事場として癒やしや感動を演出する。幼い頃から森を遊び場として、森や川、身近な自然との付き合い方を考え、自然の中で過ごすための知識と技術を積み上げてきた土屋さんならではの取組です。環境大臣賞として評価されたのは、こうした土屋さんご自身の生き様がひとつのポイントであるといえます。
拠点のひとつである奥多摩の古民家。
レポート!
舗装された道の周辺でさえ、豊かな自然の力を実感!
ゆっくり歩きながら山菜を探します。
平成30(2018)年4月29日。奥多摩の古民家に集まった子どもと家族で、近くの森を歩き山菜を採り、料理して食べようというイベントを取材してきました。
山道を歩いて山菜を採ると伺っていたので、それなりに険しい行程を覚悟していたのですが、実際に歩いたのは古民家からも近い舗装された道。周囲には緑の森が広がってはいるものの、里山での散策といった趣です。
「こんな場所で山菜が採れるのだろうか」と疑問に思っていましたが、子どもたちに「ヘビやイノシシが出ることもあるから、僕より前を歩かないでね」と、先頭を歩いていた土屋さんが、道路脇の石垣を指さしながら「ほら、ここにミツバがあるよ」などと、山菜や食べられる野草の存在を教えてくれるのです。歩いたのは片道1kmほどでしたが、ミツバやヨモギ、コゴミやアケビ、ユキノシタなど、たくさんの山菜を収穫することができました。これなら、小さな子ども連れでも安心です。
ユキノシタの天ぷらは美味でした。
蜜がおいしいハマダイコン。
休日で多くの車が通る国道のすぐ近くでは、土屋さんが「あ、オトシブミがいたぞ」と、丸まった木の葉を拾い上げます。オトシブミという小さな昆虫は、器用に丸めた葉の中に産卵し、その中で幼虫が育つのです。葉を広げて見せてくれる土屋さんの手元を、子どもたちが目を輝かせてのぞき込み、「あ、ここにもいたよ!」と、子どもたち自身が小さな発見をできるようになっていきます。
また、初対面であるにも関わらず、小さな子どもたちがすぐに土屋さんと打ち解けることにも驚かされました。野生児と呼ばれる土屋さんの自然を愛する心が、子どもたちの素直な心に響くのでしょうか。
みんなで採った山菜は、天ぷらにして、土屋さんが腕を振るった料理やうどんとともにいただきました。その後、古民家から歩いてすぐの川原に下りて川遊び。子どもと一緒に訪れたお父さんやお母さんも一緒になって、石を投げたり積んだりして、楽しい時間を過ごしたのです。
今回の取材には、グッドライフアワード実行委員会から大葉ナナコ委員が参加。知識豊富な土屋さんの「野生児力」を実感し、初めて食べたユキノシタの天ぷらのおいしさに感嘆されていました。
川原に下りる道すがら、ある子どもが「あ、ユキノシタだ!」と、今日まで知らなかった野草を摘み取っていました。東京最後の野生児から次世代の野生児へ。自然の魅力がこんな風に伝えられていくのです。今回は奥多摩での取材でしたが、野草や小さな虫たちは、都会の中にも生きています。自然への理解を深め、環境を守っていくためには、何よりまず、身近なところにある自然に気付くことが大切なのだということを、子どもたちの笑顔から教えられる取材となりました。
みんなで収穫した山菜。
天ぷらにしてうどんと一緒にいただきました。
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