阿蘇山麓に位置する菊池市で、移住・定住促進とともに、地域活性化を目指した取組です。民泊宿のネットワークや、地域の魅力を活かした体験を提供する市民団体と連携。都会から参加者を募り、おばあちゃんが一人で守っている栗山で収穫を手伝うことで、菊池市の魅力を体感できるイベントを実施しました。
どんな活動?
官民が連携して地域の魅力を楽しく発信!
菊池暮らし体験ツアー「おばあちゃんの栗山を守るプロジェクト」は、平成29(2017)年9月に、熊本県菊池市で開催されたイベントです。都市部から参加者を募り、地域の里山で暮らす人たちとの交流を深める試みでした。
主なメニューは、栗を栽培している栗山での里山保全と収穫体験。ご主人が先立ち、一人で畑を守っている高山(こうやま)さんという80代のおばあちゃんの栗山を守る作業です。参加者が宿泊したのは、菊池市内で増えている民泊の宿の一軒である『つばき庵』。みんなで収穫した栗は、宿に持ち帰って手作業でスイーツに加工しました。ツアーの実施に先駆けて、東京都内で「マロン de スイーツコンテスト」も実施。特産である栗の六次産業化も見据えています。
栗山での収穫と保全作業を実施。
手作業で加工してスイーツ作りも!
活動のきっかけは?
民泊宿の体験提供ネットワークを活用
菊池市には、日本名水百選のひとつである菊池渓谷をはじめ、豊かな自然に恵まれた観光スポットがたくさんあります。温泉もあり、中世には約450年間にわたり菊池氏の本拠が置かれた歴史があり、文化的な見どころも数多くあります。2013年に就任した江頭実市長のもと、「『癒しの里』きくち」を目指す目標を掲げ、地域の魅力をさらに高めるための施策が行われています。
イベントの運営などを担当する菊池市役所の「集落・定住支援室」は、菊池市への移住などを促進する部署です。今回の菊池暮らし体験ツアーは、都市部からの参加者と里山で暮らす人たちが一緒に作業することで交流を深め、菊池市のファンを増やすことを目的として実施されました。
また、地域の魅力を高めるためには、そこで暮らす人たちが心の充足を感じ、いきいきと輝いていることが大切です。今回の取組は、栗山を守るおばあちゃんや民泊の宿、栗山での作業に地元の方々も多く参加。里山で暮らす人たちの「活躍の場」とすることも重視されました。
成功のポイントは?
地域で活躍する民間の人たちのパワーがあってこそ!
『つばき庵』の高木さんと上田さん。
多くの地方自治体にとって、移住・定住の促進や地域活性化は重要な課題となっており、こうした体験を提供するイベントなども、各地で実施されています。そんな中で、この取組が環境大臣賞として評価されたポイントは、単発のイベントの意義だけでなく、地域資源を活用し、里山で暮らす人たちの活躍の場を広げるためのさまざまな取組が継続的、かつ同時多発的に実施されている点です。
参加者が宿泊した『つばき庵』は、里山に囲まれた市内の「重味(しげみ)」という地区にあります。開業は2017年8月。オーナーの高木恵美さんは、長く勤務した福祉関係の仕事を退職、築およそ60年の古民家を手に入れて改装、野菜作りの農業と、民泊の宿を始めました。
高木さんはお姉さんの上田恭(きょう)さんとともに民泊の宿を営みつつ、近くの幹線道路沿いの『青空楽市』という施設で、近隣の住民が作った野菜を土日などの休日に販売する活動に参加したり、郷土料理の栗で作った「だご汁」を振る舞う『栗だごフェスタ』の中心的役割を果たしています。
また、市内8軒の民泊宿をネットワークした『菊池ふるさと体験協議会』を設立。民泊宿に泊まって、収穫などの農作業、「原井出(はるいで)」と呼ばれる農業用水路をカヌーで巡る「イデベンチャー」、和菓子作り、秘境の古刹での座禅など、菊池ならでの環境や魅力を活用したさまざまな体験メニューを用意しているのです。
民泊の宿、体験メニューの提供、そして地元で年に一度の『栗だごフェスタ』や、野菜の産地直送販売など、里山で暮らす人々が意欲的な取組を始めていたからこそ、菊池暮らし体験ツアー「おばあちゃんの栗山を守るプロジェクト」を実現することができました。地域の魅力を活用した民間の取組と、自治体で移住促進を図る部署が連携。地域の魅力を都市部の参加者に伝えるとともに、地域で暮らす人たちの活躍の場を広げることを応援しているところに、この取組の真価があるといえるでしょう。
菊池ふるさと体験協議会のみなさん。
レポート!
自然豊かな歴史の里の魅力を実感!
菊池渓谷の美しさを体感!
今回の取材には、グッドライフアワード実行委員会から南谷えり子委員、藤野純一委員が参加。また、グッドライフアワード総合プロデューサーの谷中修吾氏も参加して、菊池ふるさと体験協議会で提供されているさまざまな体験や、菊池市の豊かな自然環境の魅力を体感することができました。
清冽な水が流れる菊池渓谷は、周囲の森の美しさが印象的でした。2016年の熊本地震で一部に落石や崖崩れがあり、入山が規制されていましたが、懸命な復旧作業が進み、現在は入山できるようになっています。
さらに、イベントの舞台ともなった高山さんの栗山を見学し、近くの竹林でたけのこ採りを体験。重味地区の青空楽市で、竹細工(しゃもじ作り)にチャレンジして、菊池ふるさと体験協議会のメンバーである民泊宿のお母さんたちが作ってくれた昼食とともに、採りたてのたけのこを焼いていただきました。
また、翌日には、1338(延元元)年に菊池氏13代の菊池武重公が拓いたとされる聖護寺(しょうごじ)での座禅を体験。好天にも恵まれて、菊池市の魅力をさまざまに実感できる、有意義な取材となりました。
フランス在住経験も長い南谷委員は、阿蘇外輪山の山麓に広がる菊池の里山の風景を「プロヴァンスのよう」だと感嘆。歴史と自然、菊池市がユニークな地方都市として魅力を高めていくことのポテンシャルを感じることができました。
そしてなにより、菊池ふるさと体験協議会のみなさんや、そうした民間の取組をサポートしながら地域活性化を目指す市役所のみなさんの笑顔と熱意が、この取組の原動力であることを確かめることができたのです。
採りたて、焼きたてのたけのこが美味!
江頭市長とも懇談。
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