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第4回グッドライフアワード環境大臣賞グッドライフ特別賞

せせらぎの郷

魚のゆりかご水田プロジェクト

取組の舞台である滋賀県野洲市須原地区の水田は、豊かな水をたたえた水路を通じて琵琶湖と繋がり、固有種の産卵の場となっていました。区画整理で水路と田んぼに段差ができて魚が遡上できなくなっていたのを、階段状に工夫した魚道を整備。生態系の保全と環境に優しい方法による米づくりを両立することを目指している取組です。

ムービーもご覧ください

『魚のゆりかご水田米』のブランド化を目指しています!

活動のきっかけは?
地域の住民が結束して豊かな環境を守る!

かつて、琵琶湖周辺の水田はフナやコイ、ナマズなどの湖魚が産卵する「魚のゆりかご」になっていました。ところが、とくに高度経済成長期以降、生産性を重視した区画整理などが進むと、水路と田んぼが分断されて水田の生態系は一変。琵琶湖の固有種であるニゴロブナや、身近な生き物であったメダカなどは激減してしまったのです。

『魚のゆりかご水田プロジェクト』は、滋賀県が呼びかけて実施されているプロジェクトです。田んぼと水路の間を魚が行き来できるように階段状の魚道を整備。環境に配慮した米づくりを行うことで、生きものと人が共生できる農業・農村の創造を目指しています。

平成13年ごろから湖魚の生態調査などを実施。「排水路堰上げ式水田魚道」と呼ばれる階段状の魚道を整備することで在来種の繁殖に良い効果があることなどを確認して、平成19年ごろから本格的な取組がスタートしました。現在、『魚のゆりかご水田プロジェクト』では、滋賀県内の29地域、約125ヘクタール(平成28年度)の田んぼで実施されています。

琵琶湖東岸に位置する野洲市須原地区もプロジェクトに取り組む地域のひとつです。かつて、須原の一帯には網の目のように水路が通り、「田舟」と呼ばれる小さな舟が大切な交通手段になっていたそうです。区画整理によって失われた環境や暮らしを取り戻すため、地域の人たちが集結して『せせらぎの郷』(須原魚のゆりかご水田協議会)という地域団体を設立。県の呼びかけに呼応して、須原地区での『魚のゆりかご水田プロジェクト』が始まりました。


江戸時代の須原地区の様子を示す地図。

かつては水路が深く生活と結びついていました。


区画整理された広大な田んぼが広がっています。

鮒寿司をはじめとする湖魚料理は、地域の伝統的な名物!
どんな取組を?
魚に優しい環境で育てたおいしい米をブランド化!

水田の用水路は、いくつもの田んぼで共有しているので、地域全体の協力が大切です。4月頃、共同作業で階段状の魚道を設置。代かきや田植えも時期を揃えて行います。

在来種の魚たちは田んぼに入るとすぐに産卵。卵は数日でふ化して、プランクトンなどのエサが豊富な水田を、稚魚たちが元気に泳ぎ始めます。6月頃に、魚道の仕切り板を外すと、成長した稚魚たちが琵琶湖へと戻っていくのです。

魚のゆりかごとなる田んぼなので、環境に配慮した方法での米づくりが必要です。『せせらぎの郷』では無農薬・無化学肥料栽培を続けています。平成21年からは「田んぼオーナー」制度を導入。田植えや稲刈り、稚魚が琵琶湖に戻る6月頃の「生き物観察会」といったイベントを実施して、全国各地のたくさんの人たちとの交流を深め、生態系と環境に優しい米づくりへの理解を広げています。

また、須原で収穫された『魚のゆりかご水田米』を使った『月夜のゆりかご』という純米吟醸酒を開発し、独自の六次産業化にも取り組んでいます。意欲的なイベントの実施や独自商品の開発など、須原地区の『せせらぎの郷』での取組は、県内各地で実施されている『魚のゆりかご水田プロジェクト』の中でも、注目すべき成果を挙げているのです。


魚が遡上できる魚道を設置。

取組を紹介する看板もありました。


あぜ道の『田んヴォワイアン』も取組のシンボル。

田植えイベント恒例の水車も設置。
成功のポイントは?
イベント開催で地域の活性化にも貢献

『せせらぎの郷』の活動に協力しているのは、農家の方だけではありません。集落の自治会も積極的に活動に参加しています。全国各地からたくさんの人が訪れる田植えや生き物観察のイベント開催時には集落と田んぼに笑顔があふれ、地区の活性化にも貢献しています。

1口3万円で、30kgの新米(もちろん『魚のゆりかご水田米』です!)が送られてきて、イベント参加費が無料になる『田んぼオーナー』制度や、1口1万円で5kgの新米と2本の『月夜のゆりかご』が送られてきて、イベントに参加(有料)できる『プロジェクトサポーター』制度を導入したことも、取組の活性化に役立っています。環境に優しい地域の取組を応援しながら、おいしいお米が送られてきて、イベントにも参加できる制度は好評で、須原でのイベントにはたくさんの人が訪れます。

まだ区画整理が進む以前、かつての須原では夕方になると「おかずを獲ってきて」と母親に頼まれた子どもたちが網を片手に水路をのぞき込む風景が当たり前に見られたそうです。琵琶湖の生き物と共生していた暮らしの伝統が、地区の人たちの記憶に根付いていることも、須原での取組が成功しているポイントであるとも言えそうです。効率化優先で区画整理されていた田んぼに湖魚が戻ってくることで、地区の農家の人たちには改めて環境への意識が高まって、生き物と共生する米づくりの価値が再認識されるようになっているそうです。

「最初は魚道を設置しても本当に魚が上がってくるのか半信半疑でした。でも本当に、魚たちが田んぼにやってきてくれました。初めて田んぼで泳ぐ稚魚の姿を見た時は感動しました。生き物のことを考えると農薬などは使いたくなくなって、平成27年から無農薬・無化学肥料栽培にも挑戦しています」(『せせらぎの郷』代表/堀彰男さん)


取材に伺った田植えイベント!

とても楽しそうな田植えでした!


生き物観察会の様子。

『魚のゆりかご水田米』と、日本酒『月夜のゆりかご』
レポート
魚道を遡上する湖魚に出会うことができました!

2017年5月、須原の田んぼで田植えイベントが開催されました。滋賀県内はもとより、大阪や京都、さらには東京から駆け付けた人など約80名が参加。あいにく早朝は雨でしたが、午前中に田植えをする予定を変更して、まずは地域の集会所で地域の歴史や『魚のゆりかご水田プロジェクト』についての講演会を実施。雨があがったお昼頃から水田へ行き、みんなで田植えを行いました。

水路と田んぼの境界に水車を据え付けるのも例年の恒例です。足踏み式で水路から田んぼに水を送り込む水車で、参加した子どもたちが順番に体験していました。水路や田んぼではゲンゴロウやアメンボ、カエルやザリガニなど水辺の生き物たちの姿を見ることもできました。

メインイベントはもちろん田植えです。水を張った田んぼで泥だらけになりながら、一本一本、手で植えていきます。苗の列をまっすぐに植えていくのはなかなか難しいものですが、このイベントではあまり細かいことは言わず、子どもたちが楽しみながら田植えすることを大切にしているようでした。苗の列は少々曲がったり隙間が不揃いだったりはしましたが、それもまた楽しい思い出になることでしょう。

実は、今回の取材では魚道を遡上する魚の姿を撮影したいと思いつつ「そんなにタイミングよく遡上してくれないだろう」と、あまり期待はせずに現地に伺いました。ところが、朝のうち雨が降っていたのが幸いしたのでしょうか。田植えイベントの前後にも階段状の魚道を魚が跳ね上がっていく姿をたくさん見ることができたのです。ナマズのカップル(?)が遡上する様子は、活動紹介ムービーでご紹介しています。ぜひチェックしてみてください。

平成25年には、須原で収穫された『魚のゆりかご水田米』が、日本穀物検定協会の基準でとくに良好な米である「特A」ランクに評価されました。品種はコシヒカリです。魚をはじめとする生き物に優しい米づくりによって、人にも優しく、おいしい米が生まれるのです。『せせらぎの郷』では、この取組をさらに広げて『魚のゆりかご水田米』のブランド化を進めるために、『田んぼオーナー』や『プロジェクトサポーター』を毎年募集しています。


田植えイベント前日に水車を設置。

足踏み式の水車に集まった子どもたちが挑戦しました。


昼食は『魚のゆりかご水田米』のおにぎり!

プロジェクトについて説明する滋賀県農政水産部の青田朋恵さん。


須原魚のゆりかご水田協議会(せせらぎの郷)会長の堀彰男さん。

須原集落自治会長の辻秀幸さん。


須原農業組合長の東智史さん。
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