第5回グッドライフアワード
環境大臣賞最優秀賞
株式会社パン・アキモト
救缶鳥プロジェクト

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト

栃木県那須塩原市のパン屋さんが、災害用備蓄食となる「パンの缶詰」を開発。被災地支援の取組を続ける中から生まれたのが『救缶鳥プロジェクト』です。賞味期限約3年の「パンの缶詰」を、賞味期限を残して回収。国内外の災害被災地や、食糧難問題を抱える国や地域に届けています。

どんな活動? 柔らかくておいしい「パンの缶詰」を、
日本から世界に届けています!

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト『救缶鳥』の賞味期限は37か月!

株式会社パン・アキモトは、栃木県那須塩原市にあるパンの製造販売会社です。昭和22(1947)年に『秋元パン店』として創業。現在は2代目となる秋元義彦さんが社長として活躍しています。

『救缶鳥プロジェクト』は、賞味期限3年の「パンの缶詰」を、半年から1年間の賞味期限を残して回収し、国内外の災害被災地、飢餓や食糧難問題を抱える国と地域に届ける取組です。地震などの災害が多い日本では、企業や自治体、学校、そして個人の家庭でも、非常用の備蓄食を備える動きが広がっています。備蓄食には保存が容易なインスタント食品や乾パンなどが多かったのですが、この「パンの缶詰=救缶鳥」は、リングプルタイプの缶を開けるだけで、柔らかい食感のおいしいパンを食べることができます。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト缶の中にはふわふわのパンが入っています。

バリエーションは、2食分(200g)のパンが入った『救缶鳥』と、1食分(100g)で少し小さい缶を使った『救缶鳥Jr.』の2種類。ともに賞味期限は37か月です。いかに被災地や食糧難地域とはいえ、賞味期限の切れた食品を送ることはできません。そこで、『救缶鳥』は購入から2年後、『救缶鳥Jr.』は2年半後にパン・アキモトが回収して国内の拠点で保管。日本国内での災害時に支援物資として届けるのとともに、食糧難地域の支援に取り組むNGOなどと連携し、世界各地の支援先に届けています。

賞味期限が迫った備蓄食は、期限の直前に配ったり、結局は廃棄するしかありませんでした。でも、この『救缶鳥プロジェクト』では、せっかく作ったおいしいパンを無駄にすることなく、誰かを救う糧として活かすことができるのです。支援先の国々では、中身のパンを食べ終わった空き缶が、食器などとして活用されているそうです。

気持ちも資源も無駄にせず、日本で非常食を備える人たちは賞味期限切れの心配を軽減できて、支援先の被災地や食糧難地域の人たちに喜ばれる。さらに、この活動に取り組むパン・アキモトは、商品として『救缶鳥』の販売が多くなるほどに、世界を救うプロジェクトを継続し、さらに広げていくことができるようになる。まさに、関わる人のすべてにメリットが生まれる取組といえるでしょう。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト世界の国へ、秋元社長自身が届けることもあります。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクトラベルにはメッセージを書き込むこともできます。

活動のきっかけは? 被災地に届けたパンが捨てられて……

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト秋元義彦社長。

パン・アキモトの社長である秋元義彦さんが、「パンの缶詰」を思い付いたのは、平成7(1995)年に起きた阪神・淡路大震災がきっかけでした。大きな被害の発生を知り、パン・アキモトでは自社のトラックで、2000食分以上の普通のパンを被災地へ届けました。ところが、被災地は混乱のさなかです。届けたパンを配りきることができないまま消費期限が過ぎてしまい、その多くを捨てるしかありませんでした。

「私はパン職人です。心をこめて作ったパンは、おいしく食べてもらいたい。でも、捨てるしかなかったという報告を聞き、非常時に役立つ、おいしいパンが作れないかと考えたのです」(秋元義彦さん)

当時、非常食のパンといえば乾パンでした。でも、それだけでは食べる楽しみが物足りません。柔らかくおいしいままのパンを、長期間保存するにはどうすればいいか。被災者の声をヒントとして、秋元さんが思い付いたのが「パンの缶詰」だったのです。秋元さんはそれからおよそ1年間の試行錯誤を重ね、缶のまま焼き上げ、脱酸素剤とともに封入して缶のふたを閉め、防腐剤などは使用せずとも、長期間保存しても柔らかくておいしいパンを楽しめる「パンの缶詰」の開発に成功しました。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト2011年、宮城県南三陸町にて。

「パンの缶詰」は、おいしい非常食として日本中に広がっていきました。でも、非常食であるがゆえ、せっかく心をこめて作った「パンの缶詰」も、賞味期限が切れるとやはり捨てることになります。

なんとか、良い方法はないものか。思案を巡らせる秋元さんの元に、大きな被害を出したスマトラ地震の被災地から「中古でもいいから、なんとか『パンの缶詰』を送ってもらえないか」という連絡があったのです。ところが、2か月前に起きた新潟県中越地震の被災地に、ありったけのパンの缶詰を集めて送ったばかり。注文も増えていて、余った商品もありません。それでもなんとか数千缶の中古のパンの缶詰を集めて、毛布と一緒にスマトラ地震の被災地へ送り届けることができました。

非常食として「パンの缶詰」を備えていても、気が付かないまま賞味期限を切らしてしまうと、どんなに大量に残っていたとしても捨てるしかなくなります。では、賞味期限をある程度残した時点で購入してくれた方に連絡をして回収し、被災地などの支援先に届ければ、支援先には喜ばれ、「パンの缶詰」を購入してくれた人たちも賞味期限を把握しながら備蓄を回転させられるではないか。秋元さんはこの仕組みの意義を確信し、平成21(2009)年9月9日に『救缶鳥プロジェクト』が始まりました。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト缶の中に敷く紙など、独自の工夫で開発に成功しました。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト普通のパンと、同じ窯で焼き上げます。

成功のポイントは? 世界へ届け、全国から回収するために、
さまざまな人たちと連携。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト西アフリカのコートジボワールにて。

備蓄食の「パンの缶詰」を、集めて、届ける。シンプルで素晴らしい仕組みだと感心するのは簡単ですが、実際にその仕組みを構築するのは、簡単なことではありませんでした。日本各地からの回収に大きなコストを掛けるのでは、商品価格が高くなるのと同じになり、『救缶鳥』の普及はおぼつきません。また、回収した『救缶鳥』を海外に送るのも、普通に輸送するのでは莫大な運賃が必要となります。

たとえば、平成22(2010)年に発生したハイチ地震被災地への支援の際は、たまたまテレビのドキュメンタリー番組の取材が入っている時期と重なったため、この番組の中で社名などをしっかりと出すことを条件として、世界にネットワークをもつ運送会社が格安の費用で現地へパンの缶詰を届けてくれました。

とはいえ、そう都合よくテレビ番組に取り上げられるはずはありません。まず、日本国内での回収について、秋元さんは大手物流業者へ「往復割引」のサービスを活用した仕組みを提案。さらにこの取組の意義を説明して協力を要請し、全国からの回収システムを構築しました。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト中央アメリカのハイチ共和国にて。

また、食糧難地域を支援する民間のNGO団体「日本国際飢餓対策機構」(本部:大阪府八尾市)と連携し、世界の各地へ適切な支援を行うことができる体制をつくり上げました。また、北越紀州製紙株式会社の協力を得て、チップ運搬船の帰り便で余裕が生まれた積載スペースを活用して、アフリカ南部のスワジランド王国へ定期的にたくさんの『救缶鳥』を届ける活動が続いています。

活動のスタートからもうすぐ10年。『救缶鳥プロジェクト』では、新潟県中越地震、東日本大震災や熊本地震、広島県や福岡県などの豪雨といった、国内の災害被災地に約15万食。フィリピンの豪雨被害やハイチ地震、ネパール大地震の被災地や、ジンバブエ、タンザニア、コートジボワールなど食糧難や飢餓の問題を抱える、世界の国や地域へ約70万食以上の『救缶鳥』を届けた実績を積み上げてきています。

レポート! お店に並ぶフレッシュなパンと同じように、
心をこめて作られています!

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト直営ショップ『きらむぎ』。

2018年3月、今回の取材では、那須塩原市にある株式会社パン・アキモトの本社を訪ねました。パン・アキモトは、地元の人たちに長年愛されているパンの店です。本社に隣接して直営ショップ『石窯パン工房 きらむぎ』があり、その広い敷地には、廃タイヤを活用した広場(子どもの遊び場)や、出力160kW以上の太陽光発電設備がありました。那須の自然を愛し、地域の人たちの繋がりを大切にする秋元さんの思いと志を感じます。

『救缶鳥』をはじめとする「パンの缶詰」は、この本社にある工場と、沖縄県うるま市にある沖縄工場で作られます。缶を密封するためなどの最低限の機械は導入されているものの、缶に詰めるパン生地を丸める過程などは職人さんたちの手仕事。『きらむぎ』などの直営ショップで販売される普通のパンと同じように、心をこめて作られていくのが印象的でした。

本社工場では、できあがった缶詰にラベルを貼り付けていくのも、よくあるスティックのりを使った手作業で行っていました。パン・アキモトでは、『救缶鳥』以外にもさまざまな「パンの缶詰」を商品化しており、どの商品もオリジナルラベルに対応しています。「パンの缶詰」は平成21(2009)年、宇宙飛行士の若田光一さんとともに、スペースシャトル「ディスカバリー」で宇宙へも旅立ちました。

今回の本社取材には、グッドライフアワードの益田文和実行委員長が同行視察を行いました。

「世界に広がる『救缶鳥プロジェクト』を表彰できたことは、5回目を迎えたアワードをさらに意味あるものにしてくれたと感じています。ビジネスモデルとして成立している、持続可能な取組である点も高く評価できます。こうして現地に伺って、秋元社長やパン・アキモト社員のみなさんの熱意を、直接感じることができました」(益田実行委員長)

益田実行委員長は、缶にラベルを貼る作業を体験するなど、「パンの缶詰」づくりの工程を、じっくりと視察することができました。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト缶を持つ益田委員長

「世界に広がった『救缶鳥』を、次世代に繋げていくことが次の目標です」と語る秋元社長。現在では、以前は東京で別の仕事をしていた長男の秋元信彦さんが後継者として那須塩原へ戻り、パン・アキモトの営業部長として活躍しています。「より多くの人に『救缶鳥』を知ってもらえるように、さらに工夫していきたいですね」と、信彦さんも『救缶鳥プロジェクト』への熱意を抱いています。

『救缶鳥』のテーマソングとダンスも完成。2018年3月のイベントで披露されました。

「できれば、孫にも思いを受け継いで、三世代で『救缶鳥』を育てていきたいんですけどね」と義彦社長。この日は、小学校から帰宅した信彦さんの2人の息子さんとともに、三世代の写真も撮らせていただきました。

長男の結翔(ゆいと)君(10歳)と、次男の大樹(たいき)君(8歳)の将来の夢は、今のところ2人とも「サッカー選手になること!」だそうですが、この意義深い取組が、世代を超えて、さらに発展しながら広がっていくとすれば、とても有意義なことだと感じます。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクトショップの敷地には公園や太陽光発電施設を整備。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクトショップでは『救缶鳥』をはじめとする「パンの缶詰」も販売。

第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞 株式会社パン・アキモト 救缶鳥プロジェクト本社工場には「NASUからNASAへ」の缶詰型看板も!

フォトギャラリー

カラフルに手書きされた缶

岩手県への支援物資(東日本大震災)

ネパールにて

東日本大震災での活動

関連記事

環境大臣賞 受賞取組レポートへ