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グッドライフアワード2015 環境大臣賞 優秀賞

カワバタモロコ増殖・放流連絡会議

絶滅危惧種をすくう社会の仕組み
絶滅魚カワバタモロコ再生プロジェクト

徳島県内ですでに絶滅したと思われていた『カワバタモロコ』という小さな淡水魚が、田んぼ脇の水路で発見されたのは2004年のこと。産官学民が連携した、再び絶滅させないための取組が『グッドライフアワード2015』で環境大臣賞(グッドライフ特別賞)を受賞しました。


大塚製薬徳島板野工場のビオトープで見つけたカワバタモロコ。
小さな魚を育てて放流する取組が地域の「輪」を生み出した!
活動のきっかけは?
発見されたカワバタモロコを再び絶滅させないために!

『カワバタモロコ』という淡水魚をご存じでしょうか。メダカに似たコイ科の小さな(体長は5cmほど)淡水魚です。西日本の瀬戸内海沿岸を中心に生息している日本の固有種で、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されています。

小さな魚だけに、農地の用水路改修や外来魚の増加など環境の影響を受けやすく、徳島県ではすでに絶滅したと考えられていました。ところが、2004年のこと。地元の淡水魚愛好家が、鳴門市内の用水路でカワバタモロコを発見したのです。

小さな命ですが、絶滅したと思われていたカワバタモロコの再発見はうれしいニュース。まずは、田んぼの生き物調査の一環としてカワバタモロコの実態を調査するための活動が始まりました。

そして、2008年には「再び絶滅させていはいけない」と、緊急避難的に親魚を採取、保護して、漁業に関する研究をしている徳島県水産研究課(鳴門市内の施設がある研究施設)に依頼して、カワバタモロコ繁殖へのチャレンジがスタートしました。


ビオトープ取材に集まってくださった
取組関係者のみなさん。

地元の子どもたちが集まって
「水路の生き物調査」などの活動も
行っています。

水路には、カワバタモロコのほかにも
小さな生き物が暮らしています。
どんな取り組みを?
増殖させたカワバタモロコを県民の財産としてみんなで守る!

水産研究課で始まったカワバタモロコの繁殖ですが、空調や調光などを管理できる万全の環境で行ったにも関わらず、最初の2年間は産卵さえしてくれずに失敗してしまいます。そこで、繁殖に成功している近畿大学や淡水魚研究に取り組む滋賀県立琵琶湖博物館などを視察。人工的な環境の中ではカワバタモロコは産卵しにくいことがわかり、屋外の水槽で「ほったらかし」(飼育担当者の言葉)にしてみたところ、無事に産卵してくれるようになったそうです。

今回の取材で見学した屋外の飼育設備は、本当にエアーポンプがセットされて、口の半分くらいにすだれの蓋が掛けられた大きな桶が並べられているだけという印象でした。ちなみに、すだれの蓋は野鳥などに対するカワバタモロコの隠れ場所。水槽内の水草や水草に見立てたビニールテープにトンボが産卵して生まれるヤゴが天敵になってしまうので、定期的にチェックや掃除をするのがポイント、ということでした。ともあれ、30尾程度まで減っていたところから、まずは約260尾、翌年には3000尾以上の繁殖に成功します。

繁殖に成功したことで「増えたカワバタモロコをどうするか」という課題が出てきます。この取組の中⼼的な役割を果たしていた徳島県農林⽔産部農村振興課(現農⼭漁村振興課)と、農地など地域環境の研究者である⼯学博⼠の⽥代優秋さん(元徳島⼤学⼯学部助教、現あおぞら財団研究員兼(社)地域資源研究センター理事)らが話し合ったのが「復活したカワバタモロコは県⺠みんなの財産。できるだけたくさんの⼈が関わって、みんなで守っていこう」ということでした。

そこで、県や鳴門市の環境担当部署などとも相談、取組の趣旨を理解して共感を得ながら、カワバタモロコの飼育に協力してくれるところを探し、2012年6月、大塚製薬の徳島板野工場、日亜化学工業、さらに鳴門市立大津西小学校で飼育することが決まりました。

大塚製薬では、工場で冷却に使った水を利用して工場敷地内に整備されているビオトープにカワバタモロコを放流。日亜化学工業には以前からホタルを増やすことをきっかけに始まった淡水魚飼育施設や公園があり、そこでカワバタモロコを飼育することになり、大津西小学校では正面玄関前と校長室に水槽を置いて、カワバタモロコを飼育しています。

その後、徳島県⽴徳島科学技術校でのカワバタモロコの飼育開始や、鳴⾨市内のため池に約 2000 尾のカワバタモロコを放流する市⺠参加イベントを開催するなど、取組の輪が着々と広がっているのです。


徳島県水産研究課のカワバタモロコ飼育水槽。

飼育や繁殖担当の西岡智哉さん。

成功のポイントは?
カワバタモロコをシンボルに、地域環境のさらなる改善を!

この取組が素晴らしいのは、カワバタモロコという、一般的にはあまり知られていない、自然環境の影響を受けやすい小さな生き物を、行政、企業、学校、住民が連携して守っていこうとしていることといえるです。『カワバタモロコ増殖・放流連絡会議』では、定期的な会合やメーリングリストで情報を共有しつつ、この取組を進めています。

行政も企業も、予算削減が重視される時代にあって、それぞれが「できること」を持ち寄り、緩やかな、でも目的をしっかりと共有した連携によって成り立っていることが、この取組が着実に成果を出しつつある成功のポイントといえるでしょう。

地域環境の研究者として取組のキーパーソンでもある田代さんは「関わっている⼈たちがみんな楽しそうにやっているのが印象的。みんな本業の仕事がある中でしんどいことはなかなかできませんよね。だから、⾃分のやれる範囲のことだけを持ち寄って協⼒しあおうとポジティブな関係ができたことがよかったと思います」と話してくださいました。

カワバタモロコを守るための取組には、水産研究課から始まった飼育と増殖の輪を広げていくことと、農地の用水路などの地域環境を改善していくという側面があるということです。

飼育や繁殖はともあれ、コンクリートで固めてしまった用水路を自然に近い環境に戻すなどの環境整備は、一朝一夕に実現できることではありません。

「農地の用水路は農業のためのインフラですが、地域の風景でもあります。たとえば、子どもたちが泳いで遊べる水路にすれば、農業には関係のない地域の方々も掃除などに協力してくれるようになるでしょう。行政としてのインフラ整備は5年、10年という長い時間をかけて進めていくべきことですが、カワバタモロコをきっかけにして、よりよい環境整備への理解が広がるといいですね」(田代さん)

2015年2月には、鳴門市内で最初にカワバタモロコが発見された場所の近くに、兵庫県豊岡市(昨年の環境大臣賞グッドライフ特別賞)からコウノトリが飛来して巣を作り、大きな話題になりました。カワバタモロコをシンボルとして地域環境の改善に取り組んでいることの、ひとつの成果ともいえるでしょう。


大塚製薬工場ビオトープでの
カワバタモロコ放流風景。

取材時にも、ビオトープの池を
元気に泳ぐカワバタモロコの姿を見ることが
できました。
レポート
カワバタモロコが生きる環境は、人間にとっても気持ちいい!

今回の取材では、カワバタモロコが放流された大塚製薬徳島板野工場をお訪ねしました。工場の敷地は約8万坪(東京ドーム6個分)、そもそも自然との共生をコンセプトにした工場は、豊かな緑があふれる空間です。工場で冷却に使った水は、公園のように整備された中にある約500mのビオトープの小川に流されます。

このビオトープは1999年に工場が完成した時からあるものの、以前は池には鯉を入れるなど、本格的なビオトープとは言いがたい状況だったそうです。カワバタモロコの放流が決まり、ビオトープ管理士会の専門家などのアドバイスを聞きながら、環境を一度完全にリセットして、改めてカワバタモロコが生きていける環境に整備されました。

取材中、ビオトープで自然繁殖したカワバタモロコを撮影するために、網を使って採取しようとしたのですが、隠れることが上手なカワバタモロコを捕まえるのは簡単ではありません。結局、裸足になって池(水深は深いところでも30〜40cm程度)に入り、子どものように網を振り回すことになり……。思いがけず楽しい体験をして、カワバタモロコが生きられる環境は、人間にとっても気持ちいいということを、体当たりで実感させていただきました。

ビオトープには協力企業である日亜化学工業のご担当者やビオトープ管理士会の方など、多くの関係者も集まってくださいました。日亜化学工業では、扱っている製品が世界の最先端技術に関わるだけに、よくある工場見学を実施することは難しく、CSR的な取組としてホタルを飼い始めたことをきっかけに、約3000坪の公園や約40種類の淡水魚を飼育する水族館を来客が見学できる施設を整備しているそうです。

大津西小学校では校長室を訪問。玄関前と校長室の水槽で飼育されているカワバタモロコの世話を担当している5、6年生の児童たちが迎えてくれました。それぞれ、自分が話すことをまとめたメモを手に、カワバタモロコを通じて地域の自然への関心を深めていることなどを教えてくれました。目標は「小学校ではまだ成功していないカワバタモロコの産卵を実現する」ことと話してくれた、キラキラした目が印象的でした。
ちなみに、この取材の後、大津西小学校では飼育しているカワバタモロコの産卵とふ化に成功したそうです。

カワバタモロコをきっかけにして、地域の環境を見直し、自然を大切にする心を育む大きな輪が広がっています。「カワバタモロコを守る取組で得られたノウハウを、ほかの希少種を守る取組にも広げていけるといいですね」と田代さん。水槽や池の水面にカワバタモロコが起こす波紋は小さいものですが、『グッドライフ』を目指す取組の波紋が、全国に大きく広がっていくといいですね。


大塚製薬工場のビオトープ。自然との
共生をコンセプトに造られた工場です。

大津西小学校の校長室では、校長先生、先生と
生徒たちが迎えてくれました。

小学生たちはカワバタモロコについて
学習しつつ、水槽の世話を担当します。

小学生たちはカワバタモロコだけでなく、
『オニバス(鬼蓮)』の栽培にも
取り組んでいます。
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