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第1回グッドライフアワード グッドライフ特別賞

兵庫県豊岡市

自然に抱かれて生きる
豊岡の新しい暮らし方

第1回でグッドライフ特別賞を受賞した、兵庫県豊岡市の取り組みです。コウノトリの野生復帰に成功した実績がある豊岡市。恵まれた自然環境を活かしたサスティナブルなライフスタイル実現への取り組みは、たんなる「活動」というより、市独自の「政策」ともいえます。取り組みの一貫として実施された『中筋(なかすじ)の秋の旬を楽しむ会』を取材してきました!


集まったみなさんで、地元産野菜の料理を楽しみました!
恵まれた自然を活かして持続可能な暮らし方を実現する!
活動のきっかけは?
環境と経済が共鳴するまちづくりのために!

兵庫県立コウノトリの郷公園がある豊岡市は、コウノトリの野生復帰事業への取り組みなどがよく知られています。戦後、農薬の普及などによって激減した野生のコウノトリ。豊岡市では1955年(昭和30年)から保護や人工飼育による野生復帰に取り組んできました。今では、野外で繁殖した個体を含めて、80羽を越える(2014年10月31日現在)コウノトリが市内の空を舞うようになっています。

コウノトリ保護の成功体験を得た豊岡市では、中貝宗治市長のもと「環境と経済の共鳴するまちづくり」を目指しています。そんな中で、「自然のすごさを賢く活かす」ライフスタイルを提唱する東北大学名誉教授の石田秀輝さんの考え方に市長が共鳴。市長自ら石田さんを訪ね、意気投合したことが、この活動が始まったきっかけでした。

2014年4月には、環境と経済をトータルで考えながら理念を実現していくための「エコバレー推進課」を市役所に設立。サスティナブルなライフスタイルを実現するためのさまざまな取り組みが始まっています。


コウノトリは豊岡の恵まれた
自然の象徴でもあります。
どんな取り組みを?
幅広く多岐にわたる「暮らし方」を提言!

サスティナブルなライフスタイル(持続可能な暮らし方)といっても、具体的に何をどうすればよいのでしょう。豊岡市でも、その具体的な方法を探ることが活動のスタートでした。市の若手職員を中心に、市内の企業からの有志を交えたプロジェクトチームを結成し、まずは市内在住の90歳前後の方に戦前の暮らしや知恵などを聞く「90歳ヒアリング」を実施しました。

さらに、担当となった市の職員の方々が情報収集や調査を重ねた上で、「豊岡の食材でつどう暮らし」、「生命の循環を感じる暮らし」、「とよおかマイストーリーバッグ」(豊岡は伝統的に柳行李 *や鞄の産地)など、70を超える具体的な新しいライフスタイルを提言したのです。

今回取材に訪れた『中筋の秋の旬を楽しむ会』も「豊岡の食材でつどう暮らし」という提言に基づく具体的なアクションのひとつです。会場となった中筋地区の公民館には、地区の小学生と、地域のみなさんが集まりました。地元で採れた農産物で、おばあちゃんやお母さんが(実際の調理では男性も大活躍でした!)作った料理をみんなで楽しむ催しです。

「豊岡の食材でつどう暮らし」のプランでは、今後、共働きの家庭でも地元産の野菜を気軽に買える「とよおか夜市」や、お年寄りが自分で育てた野菜を使った料理を作りみんなで楽しむ「とよおかキッチン」などの試みに繋がっていく予定です。

ほかにも、バイオマス発電を活用してエネルギー自立型の里山集落の実現を目指す「生命の循環を感じるくらし」。散策しながら集めた葉っぱの朝露で書道を楽しむ「朝露の会」など、さまざまな活動が具体的にスタートしたり、始まろうとしているのです。

* 柳行李(やなぎこうり) 柳で編んだ箱形の入れ物のこと


『朝露の会』に自ら参加して
書道を楽しんだ 中貝宗治市長。

90歳ヒアリングで、戦前の暮らし方について
学びました。

会場の中筋公民館。柳行李*ラッピングの公用車も
駆け付けました。

この日のメニュー。取材班も
おいしくいただきました!
成功のポイントは?
行政だけじゃなく市民も一緒に楽しんで!

『豊岡の新しい暮らし方』への取り組みは、2030年のあるべき暮らし方を想定した上で、そのためにやっていくべきことを探る「バックキャスト手法」という方法で進められています。まだ活動は始まったばかりであり、成功のポイントを評価するには時期尚早ともいえるでしょう。

でも、取材で伺った中筋地区の公民館で感じたことがあります。ひとつは、市役所の職員のみなさんの熱意です。この日、市長は残念ながら所用で不参加でしたが、真野毅副市長が参加して、子どもたちと楽しい時間を過ごしました。また、夜間におよぶイベントでしたが、市役所から10人以上の職員のみなさんが参加していたのは、この取り組みを幅広く広げていこうとする熱意の証に違いありません。

中筋地区代表の今井悟さんの挨拶でも、豊岡市が目指す将来像を理解し、期待している思いが感じられました。また、集まった小学生や地域の方々の楽しそうな笑顔も印象的でした。ただ行政の「政策」というばかりでなく、市民のみなさん一人一人が豊岡の自然を愛し、この取り組みの意義に共感していることが実感できて、そうした市民の力こそが、きっとこの取り組みを成功へと導いてくれるはずだと感じることができました。


石田秀樹さんと真野毅副市長。

地区のみなさんが協力して食事を作りました。

挨拶をする地区代表の今井悟さん。

この日の催しにも、たくさんの市職員の
みなさんが参加していました。
レポート
野菜の名前当てクイズや「すり焼き」体験も!

取材に伺ったのは2014年10月16日。豊岡市内中筋地区の公民館に、その日の授業を終えた中筋に住む小学校5、6年生が集まりました。メインイベントは地元産の野菜で地域の方々が作ってくれた料理をみんなで食べることですが、ほかにもいろんな趣向が凝らされていました。

まず、公民館に到着した子どもたちがチャレンジしたのは「野菜の名前当てクイズ」。テーブルの上には中筋地区で収穫された61種類の作物が並べられていました。たとえば、同じ米でも「うるち米」と「もち米」が出題されていたりして、大人にとってもなかなかの難問でした。

また、料理ができるまでの時間を利用して、地域に伝わる「すり焼き」という伝統的なおやつを作って味わう体験教室も実施されました。砂糖や卵を使った現代風と、地場産のハチミツだけで食べる昔風の食べ比べ。子どもたちには、意外と「昔風」が好評でした。

ほかにも、「地球のすごい探検隊 地球とウンチを考える」と題した石田さんのプチ授業や、石田さんが現在住んでいる沖永良部島からのゲストによる三線演奏などが行われて、イベントは和やかに盛り上がりました。

取り組みが「目標」として掲げている2030年には、今日集まった小学生たちが社会を支える大人になっています。子どもたちの中にこうした取り組みの思い出が積み重なってこそ、豊岡市が目指す「自然に抱かれて生きる 豊岡の新しい暮らし方」が実現されていくのでしょう。

今後、地球環境的な制約を「我慢する」のではなく、どう「楽しんで」生活していくのか。持続可能な環境文明社会の実現に向けて、明るい未来が感じられる、グッドライフなイベントでした。ほかの地域や自治体にも、こうした動きが広がっていくといいですね。


石田さんのお話しに、小学生たちは興味津々!

「すり焼き」というおやつを作る体験にも挑戦!

61種類の野菜の名前。みなさんは正解する自信がありますか?
子どもたちには、きっと素晴らしい思い出になりますね。
みんなで楽しくいただきました!
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