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研究課題別評価詳細表

I. 事後評価

事後評価  5.  安全が確保される社会部会(第5部会)

研究課題名:【B-0806】擬似分子鋳型を用いた環境汚染物質の選択的捕捉技術の開発(H20〜H24)
研究代表者氏名:細矢 憲(京都府立大学)

1.研究実施体制

(1)高感度分析システムの実用化に関する研究
(2)高選択性分離膜の開発と実用化に関する研究

2.研究開発目的

高感度分析システムの実用化のために、環境水試料の前処理に有効な前処理カラムを組み込んだカラムスイッチングHPLCの構築、同システムの基本性能および、河川水等実試料分析への適応性の確認、前処理カラムを含む同システムの実用に必要な技術開発と製品化を最終の目的とした。
 さらに本研究では、環境汚染物質の効率的な除去のための新規分離膜開発を目指し、分子インプリント法に基づく種々の応用技術を新たに創成することで、物理的・化学的性質の異なる種々の難捕捉有機分子と難捕捉親水性物質を選択的に吸着・分離する新規分子認識材料、高通水性分離材料およびそれらのハイブリッド膜の開発を目的とした。

研究のイメージ

図 研究のイメージ        
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3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

カラムスイッチングシステムの構築により、これまで長時間と煩雑な手間を要し、再現性の悪い環境水試料中の微化学物質の定量分析が、極めて簡便に、且つ短時間で精度よく実施できるようになった。また、その手法を一般化、市販化するまでに至り、本研究で得られた成果がすでに社会還元に寄与したと言える。さらに、この手法は、環境水以外にも、上水中の規制化学物質の定量分析等への応用も期待できる。
次に、これまで分子インプリント法の適用が困難であったガス状物質、親水性化合物、タンパク質の選択的吸着に成功した。これにより、物理的・化学的性質の異なる種々の環境汚染物質を選択的に吸着できる機能性材料開発の可能性を見出し、効率的な環境汚染物質除去技術開発に貢献した。特に、「疑似分子鋳型」を用いることで、目的物質の効率的な分離濃縮が達成できた。このことから、方法論としての科学的意義は高いと考えられる。また、官能基間距離固定化法は、2つ以上の親水性官能基を有する物質に対して有効であるため、その一般性も高いと判断できる。
また、スポンジモノリス(SPM)により、新しい分離選択性や選択的濃縮機能を付与し、同時に通液性を大幅に改善した分離剤を創成した。その特性を利用し、環境分野や生体分野への分析化学的な貢献が期待される。また、SPMと機能性のポリマー粒子とのハイブリッド膜は、高通水性を維持したまま粒子の機能を発現することが明らかとなった。この分子鋳型ハイブリッド膜は、高通水性かつ分子選択的な捕捉を可能とする新規分離膜として期待できる。
さらに、PCBやダイオキシン類のような多くの同族体を含む有機塩素化化合物について、分子インプリント型固相カラムを用いることで選択的分離精製が可能となった。これまで、同類の研究成果は報告されておらず、さらなる研究の推進によって、本研究で得られた成果がPCB等の分離剤として利用されることが期待できる。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会B-0806(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はないが、アプローチを進めている。
<行政が活用することが見込まれる成果>
アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)も医薬品及びパ−ソナルケア製品(PPCP)の生態系への影響を懸念しており、継続的なモニタリングが今後求められる。その際、分析前処理における定量分析の高効率化は非常に重要であり、本課題の成果が環境モニタリングの低コスト化、自動化に寄与すると期待できるため、今後の環境政策に貢献できると予想される。特に環境水試料の前処理/分析の方法としてポンプ濃縮によるカラムスイッチング分析の公定法、通知法などへの適用が期待できる。つまり、広範囲に応用可能なプラットフォームを提供したことになる。
また、本研究で開発した分子認識技術を利用することで、これまで選択的吸着・分離が困難であった種々の環境汚染物質の定量分析や効率的な除去が可能になると考えられる。さらに、その他の材料との複合化技術を用いることで、工場排水、病院等の排水源で新たな浄化材として環境政策に貢献すると期待できる。

4.委員の指摘及び提言概要

環境水中の微量化学物質の濃度を、精度よく迅速かつ簡便に測定するシステムを開発するため、フミン質を除去するポリマーの開発、試料濃縮のためのカラムスイッチング法の開発、分子鋳型(分子インプリント法)によるターゲット物質の選択性向上を目指した研究であるが、カラムスイッチング法の開発が主要な成果となった。分子インプリント法の技術を含め、今後の技術発展、応用展開は期待できる。しかし当初計画との乖離もあり、本研究成果が環境汚染物質に関する環境政策へ大きく貢献すると評価することはできない。

5.評点

   総合評点: B  ★★★☆☆  


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研究課題名:【B-0807】新規ナノマテリアルを用いた超フレキシブル有機太陽電池の研究(H20〜H24)
研究代表者氏名:表 研次((株)イデアルスター)

1.研究実施体制

(1)ナノ粒子分散技術開発
(2)繊維化技術開発
(3)太陽電池の製作
(4)光利用効率向上設計
(5)繊維形態デバイス設計
(6)繊維型太陽電池製作
(7)環境価値の評価

2.研究開発目的

有機薄膜太陽電池を繊維形状にすることにより、設置場所を選ばないで、現在回収できていないエリアの太陽エネルギーを回収可能にする太陽電池を世の中に普及させることを狙いとし、本研究は、従来の太陽電池では利用できなかったカーテンや農作業シートなどのより社会生活に身近な環境での太陽電池の普及につなげるための基礎的技術開発を行うことが本研究の目的である。最終目標を下記に設定した研究テーマである。
『同軸円筒状繊維型太陽電池を製作し、糸の状態のデバイスで発電原理を実証』
『平面型有機薄膜太陽電池で発電効率5%を実現すること』

研究のイメージ

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3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

・導電性AFMによるナノ粒子の分散状態を評価するマクロ的評価法を確立した。
・有機薄膜太陽電池の高効率化のための試みとして、製膜溶剤を変えことにより、有機発電層のモロフォロジーを制御することは大変有効であることを示した。
・化学浴析出法による酸化チタンの製膜法を新規に開発した。これにより、今まで困難であった大面積化技術に対して、より簡便かつ再現よく有機薄膜太陽電池を開発することが可能になった。
・100℃の加熱で製膜できるゾルゲル酸化亜鉛膜を開発したことによって、大気中低温プロセスによる長寿命フレキシブル有機薄膜太陽電池の開発に成功した。この太陽電池作製プロセスは大気中で低温で行えるため、繊維型太陽電池にも応用できるものと期待される。
・ HOMOが深いPV-D4610をドナー材料に用いることで、従来のP3HTより開放電圧が約200mV向上し、その結果、効率6%近くの逆型有機薄膜太陽電池を作製できた。
・20cm2 Glass基板及びPET基板上に素子をモジュール化したPV-D4610を用いた逆型有機薄膜太陽電池を作製し、効率がそれぞれ4%と3%となった。また、両太陽電池ともに効率5%が見込めることを確認した。
・多層構造に対して簡便に発電層の光吸収量を計算する方法を提供し、太陽電池設計の効率化が促進される。また、FDTD法を導入することにより、発電層の相分離の度合いや不均一性を取り込んだ計算が将来的に可能となる。
・カーボンナノチューブを紡績し繊維を形成する基礎技術が確立できた。これにより均一な品質のカーボンナノチューブファイバーが形成可能となる。またそのファイバーは優れた剛性を有している。
・本研究の5年間で開発した技術を用いてCNT fiberを芯線電極とした繊維型太陽電池を作製し、発電を成功させることができた。また、同軸型だけでなくシート型などの形状でも発電に成功した。このことは繊維型太陽電池の実現化へ向けた基盤技術として大きな進展であり、科学的意義が大きい。
・有機薄膜太陽電池のLCAはこれまでなされていなかったが、本研究において、インベントリ分析を行い、LCAを行った結果、これまでの既存の太陽電池に比べて、発電効率が低いにもかかわらず、環境負荷が小さいことが確認された意義は大きいものがある。また、繊維型有機太陽電池および布状CNT有機太陽電池のエネルギーPBTこれまでなされたものはないが、既存のSi単結晶太陽電池に比べて、発電効率が低い場合でMPTは2/3、効率が改善されると半分以下となることが判明した。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会B-0807(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
特に記載すべき事項はない。今後、環境政策との関わりを議論し、環境政策へ貢献できるように努める。

4.委員の指摘及び提言概要

カーボンナノチューブ繊維をベースとするフレキシブルな太陽電池を開発し、発電効率も目標である5%を達成する成果をあげたことは評価できる。しかし、この成果は基礎研究にとどまっており、本来求められている実用化に向けた取り組みは不十分であり残念である。今後、発電効率の大幅アップ、機械的、化学的な耐久性の評価と向上、コストの評価と低減など多くの課題を克服し、フレキシブル特性を生かした製品の開発し、ビジネスにしていく努力を期待したい。

5.評点

   総合評点: B  ★★★☆☆  


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研究課題名:【B-1001】有明海北東部流域における溶存態ケイ素流出機構のモデル化(H22〜H24)
研究代表者氏名:熊谷 博史(福岡県保健環境研究所)

1.研究実施体制

(1)DSi発生・変動要因調査
(2)DSi流入負荷量算定方法の開発及び確立
(3)DSi流入負荷量の変動要因別影響調査

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究では、流域内のDSiの発生・変動をもたらす各要因についての実態を把握することを目的として、次の3つの調査を実施した。すなわち、①DSiの各種排出源について調査し、②流域間及び流域内の水移動に伴うDSiの移動を調査し、③ダムや堰のような停滞域において珪藻増殖によりトラップされて減少するDSiを調査した。
さらにDSiの沿岸海域への影響を論ずるためには、これらの発生要因を勘案した上で、陸域から海域へ流入するDSi負荷量を把握する必要がある。そこで本研究では陸域から流入するDSi負荷量を算定することを目的としてその算定方法を提案した。
最後に、今回提案した陸域から沿岸海域に流入したDSi負荷量が沿岸海域に影響しうるか否かをみることを目的として、DSi流入負荷量とノリの養殖状況との関係をみた。


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■B-1001 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1001.pdfPDF [PDF456KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

広域水質総合調査において溶解性ケイ酸が調査項目に含まれているが、その時間的・空間的変動要因について論じる際にも、本調査で示したDSiの発生源の情報は有用である。
また本研究で提案したDSi負荷量算定手法を用いることで、観測地点がある場合においては、観測地点での負荷量算出式から求めた負荷量と、観測地点より下流域の負荷量を合算したものがその河川からの負荷量となる。一方で観測地点がない場合においては、同手法をそのまま用いて負荷量の算出ができる。なお本法は本研究対象である有明海流入河川において得られたものであり、国内の他の流域に適用する場合には、適用の可能性を判断する必要がある。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会B-1001(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
有明海北東部流域のDSiの発生源を明らかにすることができた。また有明海流入河川において、河川流域全体からDSi負荷量を見積もることが可能となった。このような情報は、赤潮(大型珪藻)の発生等を予測し、有効な政策決定の基礎的な情報となる。

4.委員の指摘及び提言概要

溶存態Si(DSi)は、規制対象成分ではないので調査・研究が遅れているが、沿岸域の生態系、特にプランクトンにとっては大変重要な成分であり、その動態解明は重要な課題である。本研究では、自然起源に加えて、事業所等の点源からの負荷についても把握を行い、有明海水域におけるDSiの発生から流出、変化過程についてきわめて丁寧な調査を行い、排出量や収支の動態を明らかにした。この成果は、現在問題となっている有明海・八代海の再生に対して大きな貢献をするものと期待されるものであり、予算額に比較して、期待以上の成果を上げたと評価できる。ただ、DSi流出量とノリ生産量との関係は解明されていないので、調査・研究の継続が望まれる。

5.評点

   総合評点: S  ★★★★★  


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研究課題名:【B-1003】貧酸素水塊が底棲生物に及ぼす影響評価手法と底層DO目標の達成度評価手法の開発(H22〜H24)
研究代表者氏名:堀口 敏宏((独)国立環境研究所)

1.研究実施体制

(1)DO目標値設定のための初期生活史標準試験法の確立に関する研究
(2)貧酸素水塊が初期生活史段階の内湾代表種に及ぼす影響の解析と評価に関する研究
(3)底層DO目標の達成度評価手法の開発に関する研究

2.研究開発目的

研究のイメージ底層DO濃度の低下や欠乏による魚介類等の海産生物への悪影響を軽減し、良好な海域環境の回復に資するべく、特に環境の影響を受けやすい生活史初期の魚介類に着目し、室内実験、現場調査(具体的には東京湾と三河湾を対象)並びに統計学的手法を駆使して、底層DO目標値の導出のための標準的試験法を確立するとともに、科学的根拠に裏付けられた底層DO目標値の導出を図り、その目標値を適用するための水域区分を提案し、併せてその達成度評価のための手法の確立を図ることを本研究の目標とする。
(1)DO目標値設定のための初期生活史標準試験法の確立に関する研究
浮遊期〜着底初期個体群への影響(初期生活史試験)に関する実験プロトコルを完成させ、内湾代表種(マコガレイ、アサリ)の実験データ等からシミュレーション用パラメータを推定すること。また、海産生物幼生の忌避行動あるいは鉛直運動への貧酸素の影響も調べること。
(2)貧酸素水塊が初期生活史段階の内湾代表種に及ぼす影響の解析と評価に関する研究
サブテーマ(1)の当該データ等を用いて、貧酸素水塊がマコガレイとアサリの初期生活史に及ぼす影響をシミュレーションし、その加入量の減少に対する貧酸素水塊による影響の寄与の定量評価を行うこと。さらに、底層DO目標値の適用のための水域区分を検討すること。
(3)底層DO目標の達成度評価手法の開発に関する研究
新たな底層DO目標達成の判定手法の開発や新たなモニタリング並びに計算手法を導入した環境基準達成の判定手法の開発を完成させ、サブテーマ(2)による水域区分に新たな底層DO目標達成度判定手法を適用・評価し、本手法の確立を図ること。


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■B-1003 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1003.pdfPDF [PDF483KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

今まで実際の海域におけるDOに対する生物の応答については不明な点が多く、特にDO耐性が低いと考えられてきた生活史初期段階あるいは発生初期段階の個体に関する知見はほとんど無かった。本研究のサブテーマ(1)によって、①貧酸素水塊の影響を調べるための流水式連続曝露試験装置を作製し、試験プロトコルを提示することができた。これにより、急性影響のほか、慢性影響や他の有害因子との複合影響を調べることが、試験装置・手法の確立という意味で可能となった。また、②貧酸素水塊の影響を調べるための水柱実験装置も作製した。これにより、海産生物幼生・幼体の忌避行動等を調べる実験も可能となった。以上により、東京湾のマコガレイ(着底稚魚)と三河湾のアサリ(浮遊幼生と着底初期稚貝)等を対象に実際に貧酸素耐性試験あるいは応答試験を行い、データを獲得することができた点が、第一の科学的意義である。
サブテーマ(2)では、初期生活史段階の個体を用いて貧酸素水塊に対する影響を直接実験で調べ、データを得ることにより、数値モデルに反映させるパラメータ推定のための方法論を確立することができたと同時に、室内実験結果及びフィールド調査・観測結果を盛り込んだ数値モデルを構築することにより、貧酸素水塊が及ぼす影響の定量評価を行うことが可能となった点が、科学的に意義深い。また、三河湾の干潟生態系における鍵種であり、重要漁獲対象種でもあるアサリについて、発育初期段階である浮遊幼生の出現及び分布と現場DOとの関連に関するフィールド調査データが得られたこと、また、シリンダー実験(水柱試験)によって、このフィールド調査データの特徴を裏付けるような、貧酸素水塊に遭遇した時のアサリ浮遊幼生の挙動を明らかにしたことが、貧酸素水塊が底棲生物に与える影響を考慮する上できわめて重要な科学的成果である。
さらに、とりわけ、アサリ浮遊幼生を例に室内実験と野外調査、及び数値モデルによるシミュレーションを組み合わせて、科学合理性のあるプロセスを経て底層DOの環境基準値(試案)を導出・提示できたことが、単に科学的根拠を有する具体的な基準値案を提示したことに留まらず、今後、さまざまな種に対する底層DOの環境基準値案を科学合理的に導出するためのプロセスを構築できたという意味で、きわめて大きな科学的成果であると同時に特筆すべき環境政策上の成果である。
サブテーマ(3)では、US EPAで開発された達成度評価法についての解釈を行い、また、この方法の実用上の課題であった曲線間の比較の方法として曲線の線形化による数量的な比較を可能とした点が、これらの方法を実用的に用いる場合の科学的な有効性である。
高々数地点からの連続的測定データとある程度のサンプリング地点の数が整備された離散測定データから、対象となる空間において時間情報も取り入れた空間的把握の統計的方法論の確立は、理論的な面から様々な課題がある。しかし、これらを本課題の研究期間に解決することによって、本課題に特化した解法に止まらず、様々な環境状態を把握する新たな手法の構築への一助となることが期待できる。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会B-1003(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
環境省の生活環境項目新規基準等検討会海域ワーキンググループ(WG)における下層DOの環境基準案の検討において、本研究成果であるアサリに対する環境基準値(試案)の試算結果を提示し、当該WGの報告書作成に貢献した。
<行政が活用することが見込まれる成果>
平成25年度中に透明度とともに新たな環境基準として導入される予定である底層DO(下層DO)に関して、2010年3月に示された「閉鎖性海域中長期ビジョン」に沿って、環境基準案が示されていないアサリに対するDO環境基準値導出に向けた考え方を整理し、生息域の確保のための底層DO目標値と再生産の場の確保のための底層DO目標値として、それぞれ、2 mg/L及び3 mg/Lを導出した。すなわち、アサリを対象に、科学的根拠を有する環境基準値・目標値の試案を提示することができた。
また、科学合理性のある底層DO環境基準値・目標値を導出するための方法論が構築された。換言すると、室内実験結果及びフィールド調査・観測結果を盛り込んだ数値モデルを用いるという、科学合理性のある底層DO環境基準値・目標値の導出手法を提示することができた。
また、海産生物幼生あるいは幼体の貧酸素水塊に対する忌避行動に着目して、底層DOの保全目標値に対する基礎的情報を提供することができた。
平成22年3月に策定された「閉鎖性海域中長期ビジョン」の4.2.3において「底層DOの目標値の達成評価法」の項目がある。この部分で議論されている課題を解決することが本研究の目的の一つである。本研究を推進することによって、「閉鎖性海域中長期ビジョン」の底層DO目標値の達成評価に関して行政上の運用が可能となる理論的根拠を与えることができた。また、年間何回の測定を行う必要があるのかといった課題に関する一つの数理的な回答を行った。換言すると、底層溶存酸素量の基準満足判定において、これまで年何回測定すれば合理的であるかといった課題に対して、測定回数と測定回数毎の誤判定率を実証的および理論的に提示することができた。

4.委員の指摘及び提言概要

内湾の生物生息環境指標として底層DO濃度の基準値が決められようとしているが、本研究はその拠り所となる魚介類(アサリとマコガレイ)幼生の貧酸素耐性に関する科学的根拠を提供する目的のもと、東京湾と三河湾におけるフィールド調査と新たに開発した流水式試験装置と水柱試験装置による室内実験や数値モデルによる漂流シミュレーション結果から、底層DO濃度の暫定基準値を導出した意義は大きい。底層DO目標の達成度評価手法の開発に関しても、ほぼ判定手法を確立した。成果の中には学術的価値の高いものも含まれるので、早急に発表されることを期待する。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【B-1004】浅い閉鎖性水域の底質環境形成機構の解析と底質制御技術の開発(H22〜H24)
研究代表者氏名:西村 修(東北大学)

1.研究実施体制

(1)底質制御技術の開発
(2)底質形成機構(水の流動と底質の有機物含有率の関係)のモデリング
(3)底質環境の長期連続モニタリングおよび底質環境形成機構の解析

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究の目的は、浅い閉鎖性水域の底質制御技術の確立にある。このため、水域の流動が底質を支配するという仮説を立てて、浅い閉鎖性水域の砂地、泥地、沈水植物生育場、浮葉植物生育場など底質環境特性の異なる場を選定し、流動と水質・底質・底生生物のモニタリングを行い、それらの関係を解析して統計モデルを構築する。また、流動場を三次元K-εモデルで計算し、乱流パラメータと底質の有機物含有率の関係を定式化し、底質の有機物含有率の予測可能なモデルを構築する。そして、導水、水位低下、垂直護岸の緩傾斜化、浮葉植物の刈り取りなどによる流動の変化がもたらす底質改善効果を予測し、実験的に検証する。


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■B-1004 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1004.pdfPDF [PDF294KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

本研究では、浅く富栄養化した湖沼に適用できる底質巻き上げモデルの開発をめざし、既存のモデルの水面における境界条件の改良を施した。すなわち、風速および吹送距離を考慮して、水面での摩擦速度や乱流パラメータの設定をした。その結果、風による底質の巻上げを高い精度で再現することができた。この結果、モデル中の経験的なパラメータに関しても霞ヶ浦と伊豆沼を比較しながら湖沼形状、底質性状の差異を考慮して説明することが可能となった。今後解析を深めて経験的パラメータを合理化し、様々な特徴を有する浅い閉鎖性水域の底質形成機構を説明できるモデルへと発展させたい。
水の流動と底質の有機炭素含有率の関係について、これまで経験的に流動の強い場では底質は砂質に流動の弱い場では泥質になることが知られていたが、閉鎖性水域においても水の流動のパラメータとして、流速の平均値ではなく流速超過確率を導入することにより、底質の有機炭素含有率との関係性を定量化できた。このモデルにより流速超過確率を0.01程度以上に保つことで泥化が防止できることが示唆できた。また、底質有機炭素の起源解析より、高等植物が有機炭素の蓄積に寄与していることが明らかとなった。
以上、本研究の総括として、
・有機炭素含有率上昇の原因は、主として流動の弱化(閉鎖性の強化)にあるため、流動を弱化させるインパクトについては適切にアセスメントを行い、影響を緩和する必要があること、一方で流動を強化するインパクトを適切に与えて積極的に環境再生を図る必要があることをまとめた。
・湖岸で発生する渦の空間スケールは垂直に比して緩傾斜の場合に、より沖まで影響範囲が拡大し、振動流が発達することが数値モデルによって再現できたことから、湖岸の底質制御技術として緩傾斜化が有用であることが明らかとなった。
・伊豆沼を対象として数値実験を行い、可能と考えられる規模の人工洪水によって排出できる底質中の難分解性粒子状有機物は高等植物の生産する難分解性粒子状有機物の1%程度であり、ハスが湖面の50%を被覆するほどに繁茂する現在の伊豆沼においては、ハスを含む高等植物を管理することが底質の泥化を防ぐために必須であることが示された。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会B-1004(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
流速超過確率を0.01程度以上に保つことで泥化が防止できることが明らかとなったことから、本モデルは環境アセスメントやミティゲーションへの適用が期待できる。
また、生産者構造にかかわらず高等植物由来の有機物が底質の有機炭素の蓄積に寄与していることから、底質の有機汚濁を防止するためには高等植物に対して何かしらの対策を施す必要が示唆された。
なお、本研究の成果は、現在実施中である伊豆沼・内沼自然再生事業(研究代表者が自然再生協議会会長をつとめる)に対して順応的管理を行うための科学的知見として提供し、環境政策の推進に貢献する予定である。

4.委員の指摘及び提言概要

湖沼環境に大きな影響を与える底泥に関して、伊豆沼を例として、その主な起源がハスなどの高等植物であり、遺骸のかなりの部分が難分解性有機物として底泥に蓄積されること、また、風による底泥の巻き上げがモデルで精度良く再現できること、有機物に富んだ底泥が流速超過確率の低い箇所に蓄積することなどを実験的・理論的に示した。そのうえで、浄化対策を提案した点は評価できる。ただ、その成果は対象湖沼である伊豆沼にかなり限定的であり、成果活用の観点からは新しい知見が十分得られているとは判断しにくい。

5.評点

   総合評点: B  ★★★☆☆  


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研究課題名:【B-1005】環境基準項目の無機物をターゲットとした現場判定用高感度ナノ薄膜試験紙の開発(H22〜H24)
研究代表者氏名:高橋 由紀子(長岡技術科学大学)

1.研究実施体制

(1)膜の作製条件の最適化
(2)ターゲットとの反応条件の最適化
(3)機器分析を用いた試験紙のクロスチェック1 
(4)妨害イオンの影響および実サンプルへの適用
(5)機器分析を用いた試験紙のクロスチェック2

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究では、14項目の無機イオン(カドミウム、鉛、六価クロム、水銀、ニッケル、モリブデン、マンガン、亜鉛、銅、鉄、フッ化物、ヒ素、セレン、ホウ素イオン)に対する基準値レベルが現場で判定可能なナノ薄膜試験紙の創出を目標に、最終的には7割程度の試験紙の提供を目指している。カドミウム、鉛、六価クロム、水銀、ニッケル、モリブデン、マンガン、亜鉛、銅、鉄イオンに対しては、既存の有機比色試薬群からのスクリーニング試験となる。一方、フッ化物、ヒ素、セレン、ホウ素イオン等の溶液中でアニオンもしくはオキソアニオンとなるターゲットについては、比色試薬のスクリーニングだけではなくナノ薄膜試験紙に適した反応系自体を新たに創出する基礎研究がメインとなる。スクリーニング試験の際の評価基準は、①ナノ薄膜作製の可能性、②ターゲットイオンとの反応性、③およその感度、④およその選択性、⑤感度、⑥選択性、⑦実試料への適用であり、ターゲットに対する、基準値レベルが現場で判定可能なナノ薄膜試験紙の創出を目的とする。特に④までクリアした試験紙に対し、⑤から⑦では選別するというより、個々の使用条件、性能等を試験紙の仕様としてまとめる。シリーズ化して成果を投稿することで、ナノ薄膜検出法という新しい分析の方法論を世界に認知させることを目的とする。
評価基準①〜⑦は以下の通りである。
①ナノ薄膜作製の可能性:膜にできるかできないかを試み、pH、試薬量、成長時間等の分散液の作製条件を最適化し、膜の評価を電子顕微鏡観察やJISの鉛筆法等で評価し、再度分散液の作製条件を最適化する。これにより定量的な製膜(捕集率97%以上)ができるか否かで判断する。
②ターゲットイオンとの反応性:Immersion test(試験紙1/6カットを、ターゲット1 ppmを最適pHに合わせたサンプル量20 mlに浸漬)およびFiltration enrichment(試験紙φ25 mmカットに、ターゲット100 ppbを最適pHに合わせたサンプル量100 mlを通液する)
③およその感度:⑦に適したレベルにあるか、排水基準が測定可能かどうか
④およその選択性:ターゲット毎に特有な実サンプルに近い模擬サンプル溶液を作成し、妨害の有無を調査する。例えば、河川水Mixや排水基準Mix、メッキ廃液Mix、米Mixなど
⑤感度:①〜④を受けて製膜条件および反応条件を最適化し、検量線を作成する。
⑥選択性:④から予想される妨害イオンを調査し、妨害除去方法を考案する。
⑦実試料への適用:ターゲット毎に最もニーズのありそうな実試料にて。


図 研究のイメージ        
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■B-1005 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1005.pdfPDF [PDF225KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

①ナノ薄膜試験紙とすることで、高感度化、選択性の向上を実証→世界初のppbレベルの試験紙、高感度試験紙のプラットフォーム
②ナノ薄膜試験紙の汎用性を実証→製膜可能(97%以上捕集)な試薬は約67%
③ナノコンポジット用ナノイオン交換体(担体)の探索→ZrO2、 TiO2、CeO2は良好な担体。
④F試験紙およびAs試験紙では新しい反応系を発見
⑤Immersion testにおける反応時間短縮への知見→ナノ薄膜の添加剤による浸透性の改善、dip & readの可能性成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会B-1005(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
 サブテーマ(1)〜(5)に共通する事項として、本試験紙を日常的な水管理に、規制値のモニタリングとして活用することを提案したい。法定の水質検査は年に1回程度であるが、これを補う日常的な方法として、その場で・迅速に・誰でも、環境基準値や排水基準値を超えているか否かの判定を可能とする本試験紙は日々変動する水の管理に大いに役立つと考える。現行では工業排水、河川水、海水、井戸水等の環境水サンプル中の無機物の測定は,サンプリングした試料を分析センターにてAASやICP、ICP-MSにて測定している。専門の分析者が試料を溶媒抽出等で分離し、濃縮してから専門のオペレーターが機器分析するため、1週間以上もの時間と、1サンプル数万円ものコストがかかる。本研究で開発されたナノ薄膜試験紙(現時点で、カドミウム、鉛、クロム、水銀、マンガン、亜鉛、鉄、フッ化物、砒素、ホウ素の10ターゲット)は、ppbレベルの感度と主な実サンプル中での高い選択性のため、分析センターで行われていた煩雑な分析操作を簡略化して、年に一度の水質測定を機器分析で値として認知し、日常的には本ナノ試験紙で規制値を超えているか否かを判定する、それにより、真の意味で環境管理が日常化すると考える。事業所の日常的な排水管理の他にも、食品等の大量サンプルの機器分析前のスクリーニング、また発展途上国での水質管理、研究分野での地球化学的な微量イオンの動態分析や学校での教育教材として用いることが期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

本研究はナノ粒子化した発色試薬や発色試薬とナノイオン交換体との複合体をフィルター表面にろ過沈着させ、重金属類(10種類)をppbオーダーの低濃度を検出できる試験紙の開発に成功し、期待通りの成果をあげた。発色試薬の選択、発色最適条件の検討、妨害物質のマスキングなどの検討もきめ細かく行われ、実試料への適用性もかなり検討されている。問題点をあげれば、発色までの反応時間であり、特に、本法の本命であるナノ薄膜試験紙浸潤法ではもう少し時間短縮が必要である。さらに、現場の工場廃液試料など実試料への一層の適用による課題抽出とそれらの克服により、実用化されることを期待したい。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【B-1006】先端的単一微粒子内部構造解析装置による越境汚染微粒子の起源・履歴解明の高精度化(H22〜H24)
研究代表者氏名:藤井 正明(東京工業大学)

1.研究実施体制

(1)レーザーイオン化SIMSによる有機物履歴解析に関する研究
(2)FIB-SIMSによる無機物履歴解析に関する研究
(3)エアロゾル質量分析計を用いたバルク連続観測に関する研究
(4)有機エアロゾル・エアロゾル金属成分の観測に関する研究
(5)エアロゾル前駆体の連続観測に関する研究

2.研究開発目的

研究のイメージ越境汚染の影響を強く受けており、かつ、域内では人口も少なく人為起源排出が少ないと考えられる九州沖縄地区の島嶼部をモデル地区とし、大気中の粒子状物質のバルク観測に加え、先端的単一微粒子内部構造解析装置による分析を行い、越境汚染微粒子の起源・履歴解明の高精度化を推進することを目的とする。
これまでエアロゾル質量分析計やフィルターサンプリング法を用いた観測(これらをバルク観測と呼ぶ)の解析では、後方流跡線解析を用いて粒子状物質の輸送経路を計算し、起源の推定を行ってきた。バルク観測の場合、観測地点での平均的化学組成はわかるが、内部構造はわからないため、粒子が経験してきた履歴推定は困難である。
本研究では、バルク観測により、後方流跡線解析、エアロゾルに含まれる金属元素の存在比、有機エアロゾルに含まれる化合物の化学変化から履歴推定と起源の推定を行うのに加えて、これと同期して粒子状物質を捕集し、単一微粒子内部構造解析装置を用いて、単一微粒子内部の質量イメージングを行う。構成物質毎の粒子内分布(質量イメージ)が当該粒子の生成した場所や浮遊履歴を反映することを利用し、粒子の起源を区別する。たとえば、単一微粒子内部構造解析装置で粒子を分析したときに、中心部に元素状炭素が存在し、その周囲に硫酸塩や有機物が存在するコアシェル型タイプの粒子であるか、硫酸塩が核となりその周囲が有機物となっているタイプの粒子か判別し、粒子の起源・履歴を明らかにする。バルク観測と後方流跡線解析から推定した起源や履歴を反映した粒子の内部構造や化学組成の特徴が、単一微粒子内部構造解析によって明らかになり「推定」から「確定」に向けて大きく前進することができる。統計的に信頼できるほど十分な粒子を解析することで、起源別の粒子の特徴が明らかになり、従来から行われているバルク観測と総合化して越境汚染微粒子の起源・履歴解明の新手法を開発し、高精度化を実現する。


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■B-1006 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1006.pdfPDF [PDF642KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

本研究では、従来のバルク分析に加えて単一微粒子解析を行うことで越境汚染微粒子の起源や履歴に関する新たな知見を得ることに成功した。
単一微粒子解析により越境輸送された微粒子はブラックカ−ボン(BC)や硫酸塩を核とし、その周りを有機物が覆う構造であることを明らかにした。バルク観測や後方流跡線解析などの情報を用いて、粒子の輸送中の変質、異なる粒子の個数割合、その光学的性質がもたらす影響などを半定量的に議論することが可能となった。また、BCを含有する粒子の割合を用いて越境輸送の寄与を推定できる可能性を示唆した。
バルク観測により化学組成の代表性を担保しつつ同時に個別粒子の分析を行うことで、大陸からの越境大気汚染が顕著な時には汚染大気との反応により海塩粒子の内部までNaNO3に置換されていることが分かった。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会B-1006(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
平成25年1、2月に起きた北部九州地区を中心とした高濃度の粒子状物質の汚染について、(独)国立環境研究所が発表した資料に長崎県福江島で観測した微小粒子の化学組成データなどが使われ国民に対し正確な実態を伝えることに大きく貢献した。
坂本教授、畠山教授を中心にテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などの媒体を通じて、平成25年1、2月に起きた北部九州地区を中心とした高濃度の粒子状物質の汚染について発言および資料提供を行った。
<行政が活用することが見込まれる成果>
 長距離越境大気汚染問題において、発生源である中国の影響を科学的に確認することができ、越境大気汚染の原因解明と、対策立案においての国際的協力が必要であることを明確にしたことは、国際環境についての外交交渉にとっても重要な裏付けデータとなるものと考えられる。
 経済的高度成長を続ける中国大陸からの環境汚染、とりわけ冬季から春季にかけての季節風条件下において風下側に当たる日本および西太平洋縁辺域が受ける環境影響を具体的で継続的なデータに基づき定量的に提示することを可能ならしめている。これらのデータは越境大気汚染の原因解明と対策立案における国際協調とわが国の外交交渉に重要な裏付けデータを与えるものと考えられる。
 環境省、アジア大気汚染研究センター主催の大気モニタリングデータ総合解析ワーキンググループにおいて現在越境大気汚染について報告書を取りまとめているところであるが、高見博士はその委員であり、その報告書に越境大気汚染によって運ばれる微小粒子状物質の実態(粒子の化学組成、構造、履歴)など今回の研究結果を記載し成果の広報・普及に努める。

4.委員の指摘及び提言概要

単一粒子をFIB(focused ion beam)により切り削り、粒子の内部の化学組成の分布状況や混合状態を調べる手法は、エアロゾル粒子の変質を解明する上で有用な技法であり、定量性や感度に問題は残るものの、本研究は技術の開発とデータの収集で成果をあげた。一方で、本研究では越境汚染微粒子の起源/発生源、輸送履歴の解明は従来の手法によって収集された観測データの後方流跡線数値モデルによって行われ、研究担当者が狙いとしている起源・履歴解明に対して、提案されている技術がどの程度貢献するのかはまだ不明である。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【B-1007】海ゴミによる化学汚染物質輸送の実態解明とリスク低減に向けた戦略的環境教育の展開(H22〜H24)
研究代表者氏名:磯辺 篤彦(愛媛大学)

1.研究実施体制

(1)数値モデルとWebカメラ網による海ゴミ輸送量解析
(2)海ゴミを介した化学汚染物質輸送の定量評価
(3)海ゴミリスクの低減に向けた環境教育スキームの構築

2.研究開発目的

研究のイメージ海ゴミを介した化学汚染物質の海岸蓄積量を定量評価するためには、まず海ゴミ自体の海岸蓄積量を精度よく計量しなければならない。我々は、日本の9海岸に設置したWebカメラ網や、海岸でのバルーン計測によって、海ゴミの漂着量をモニタリングするシステムを構築する。特に、海ゴミの中でも、個数比・重量比ともに他を圧倒するプラスチックゴミの漂着量を、選択的にモニタリングする手法を開発する(サブテーマ(1))。また、プラチックゴミの海岸蓄積量を推算した後に、これらに含有される化学汚染物質量を定量し、海岸全体に蓄積する汚染物質総量に換算する。さらに溶出試験を通して、海ゴミから海岸環境中への汚染物質の移行量を求めていく。その後に、推定される移行量に対する環境リスクを、しかるべき規制値と照らし合わせて評価する。そして、漂流ゴミの輸送シミュレーションを用いて、起源地から漂着地に至るゴミと、これを介した汚染物質の輸送過程を表現し、将来のリスクを考察していく(サブテーマ(2))。上記のような環境情報は、「海ゴミ・サイエンスカフェ」を通して市民と共有される。そこでは、ゴミに起因する海岸汚染情報に対する市民のアクセシビリティ(親和性)を担保しつつ、海ゴミによる化学汚染が誤った誇張のもとで風評とならないよう、情報のトレーサビリティを確保した双方向的な市民と科学の関係構築を目指す(サブテーマ(3))。


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■B-1007 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1007.pdfPDF [PDF305KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

①色別の海ゴミ漂着量の多地点連続計測を、世界に先駆けて開発したWebカメラシステムと画像処理技術で可能にした。また、実際に日本全国9か所の海岸での連続運用に成功し、海ゴミ漂着量と気象要因の時間変動を比較した(成果論文(7),(9))。
②Webカメラシステムが得たプラスチックゴミの漂着量データと、ゴミ輸送シミュレーションを用いて、ゴミの起因地と起因地における流出量を逆推定した(成果論文(1),(3),(7))
③海岸における海ゴミ被覆面積を、バルーン空撮を用いて計量する技術を開発した(成果論文(2),(4))。
④海岸における海ゴミ由来の有害金属(PVCフロートが含有する鉛など)を検出し、溶出を経て海岸環境へ移行することを証明すると共に、溶出速度を推算する手法を確立した。現況での溶出量は、有害金属による海岸汚染が環境リスクになるほどではないこと、ただし、今後の大量漂着によっては、リスクが発現することを示した(成果論文(5))。
⑤NPO、研究者、地域行政や地域住民と協働するサイエンスカフェの実施モデルを構築した(成果論文(6))。 
⑥ゴミ漂着の長期予報を行い、今後10年間のうちに、現況の200倍を超える大量漂着を経験する海岸が、日本海や東シナ海に発現することを示した。このことは、ゴミ由来の化学汚染物質のリスク増加を示唆するものである(投稿準備中)。
⑦定点海岸におけるプラスチックゴミの平均滞留時間(漂着から再漂流までの経過時間の平均)を、線形システム解析によって明らかにした(投稿準備中)。
⑧プラスチックゴミからの有害金属溶出過程が、海洋漂流中には、プラスチックの表面に形成される薄層によって阻害されること、漂着後に海砂などで表面が傷ついた後に再溶出すること、これが海ゴミ由来の有害金属が長距離輸送される要因となることがわかった(投稿準備中)。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会B-1007(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
①本研究課題は、特定漁業フロート(PVCフロート)に鉛が大量に含有される事実を指摘した。この報告を受けた環境省は、平成24年9月27日に報道発表を行い、「特定漁具」への注意を呼び掛けると共に、漂着状況の調査に着手している。また、山形県では特定漁業フロートの分別回収を始め、また八重山地区(沖縄県)においても分別回収が検討されている。
②沖縄県石垣市は平成25年度に本Webカメラシステムを導入し、陸域での海洋ゴミ発生過程のモニタリングに活用する方針である。山形県においてもWebカメラ一基の運用(鶴岡高専が管理)が継続される。
③平成23年3月に公表された環境省海洋生物多様性保全戦略では、サブテーマ(3)代表者の意見に基づき、海ゴミ問題に関する国内政策と国際展開に関しての記述がなされた。
<行政が活用することが見込まれる成果>
①Webカメラの運用による漂着量の時系列変動から、その海岸における清掃時期の選定基準を定め、効果的な海岸清掃を行うことが可能である(成果論文(6)や政策サマリーで事業化を提言)。
②採取したプラスチックゴミ2014個を、全て有害重金属の分析に供し、検出した有害金属のデータベースを、対応するゴミの写真とともに、以下のURLでウェブ公開(パスワード制限)した。これは、地域行政や市民団体などによる海ゴミ収集活動と適正な分別処理に、有益な情報を提供するだろう。http://mepl1.cmes.ehime-u.ac.jp/~kako/asakawa/gomi/Top.html
③今後の海ゴミの大量漂着が危惧される状況で、定期的なゴミ漂着状況や海岸土壌の汚染状況調査の重要性を指摘した。漂着プラスチックゴミ由来の有害金属輸送の実態について、全サブテーマの代表者と、環境省/水・大気環境局水環境下海洋環境室や、国土交通省/水管理・国土保全局・海岸室との懇談会にて報告し、今後の海ゴミ監視事業の展開を進言した(2012年2月13日/九州大学東京オフィス)。
④NPOを仲介者とし、地域行政や地域住民、そして研究者が情報交換を行う海ゴミ・サイエンスカフェによって、効率的で安全な漂着ゴミ処理の草の根的な展開が可能になる確証を得た。本研究課題が実施した海ゴミ・サイエンスカフェをモデルにして、今後は、海ゴミ処理に要する公的資金の一部を、サイエンスカフェの実施に向けることを提言する。

4.委員の指摘及び提言概要

ウェブカメラシステムを利用する海ゴミ輸送量の観測と解析手法を構築し、海ごみの漂着状況と漂着量の実態や、その輸送過程をシミュレートして漂着ごみの起因地を推定するとともに、漂着プラスチックに含有される鉛化合物の溶出量を評価し、その環境へのリスクを推定した研究によって新規性の高い成果を得ている。さらに、その成果を活用したサイエンスカフェも、地域住民や子供達に海ゴミ問題を啓発し、地方行政をも一定程度喚起した点で評価できる。今後、これらの成果を行政が積極的に活用していくことを期待したい。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【B-1008】山岳を観測タワーとした大気中水銀の長距離越境輸送に係わる計測・動態・制御に関する研究(H22〜H24)
研究代表者氏名:永淵 修(滋賀県立大学)

1.研究実施体制

(1)自由対流圏及び大気境界層における水銀及び有害金属(Pb、Cd等)の長距離越境輸送の解明に関する研究
(2)水銀用パッシブサンプラーの開発と立山連峰における水銀及び同期した物質の標高別沈着量評価及び排出インベントリーに関する情報収集
(3)大気から湖沼流域への水銀輸送と沈着に関する機構解明と沈着量算定
(4)水銀のマルチメディアモデルの開発及び国設局の水銀等有害金属データの解析

2.研究開発目的

研究のイメージ我が国の水銀モニタリングの遅れを回復し、UNEP等が特に重要視している大気中水銀の長距離輸送を効率的に解明するための山岳でのモニタリングを確立する。そのためには、商用電源を必要とするステイション(通年)と商用電源を必要としない簡易測定法の両方の確立が必要である。前者については、屋久島西部のカンカケ岳に水銀自動分析計、SO2計、サルフェート計、NO2計及びオゾン計を設置し、常時観測可能な体制を築く。後者については、申請者グループは、商用電源のない場所で使用可能なアクティブ、パッシブ両サンプラーの開発を行った。さらに遠隔制御可能なアクティブサンプラーシステムの開発を行った。本システムは、総合気象計とアクティブサンプラーを連結させて設置し(これらはFOMA通信網とインターネットを利用し、現地とリアルタイムで接続)、いつでもどこからでも大気サンプリングが可能となった。沈着量観測においては、小型軽量な自動湿性降下物採取装置を開発した。本装置は降雨の降り始めから自動的に一定量ずつ採取し、システインを添加しながら保存する装置である。これらの開発した装置を用いての詳細な観測データを基礎に開発したマルチメディアモデルを用いて水銀の移流・沈着の解析を行った。


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■B-1008 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1008.pdfPDF [PDF324KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

サブテーマ(1)我が国の山岳部(大気境界層、自由対流圏)で大気中水銀の越境輸送に関する観測を実施した。大気境界層である伊吹山山頂のHg(0)の長期変動は冬季〜春季に濃度が高くなり、北半球中緯度地域のバックグランド値を超える時は常に中国大陸からの気塊であった。中国大陸からの気塊の時だけを抽出し、Hg(0)とPM2.5、PM10 に含まれる金属元素の相関を見ると、ヒ素、テルル、インジウムと非常に相関が強かった。特にヒ素とテルルとの関係から中国大陸から飛来するHg(0)は石炭燃焼と強い関係が示唆された。また、鉛、カドミウム、亜鉛の濃度が高いことから、中国大陸から飛来する大気汚染物質の起源は二つ以上あることが示唆された。自由対流圏での観測では、この期間中(2010年〜2012年)には、明確な高濃度の越境大気汚染は見いだせなかったが、乗鞍岳での観測において、我が国で初めて自由大気中で気塊の変化に伴ってHg(0)が急上昇する現象を見出した。また、乗鞍岳とルーリン山の観測から自由大気の観測は夜間に行うことが重要であることを再認識した。
サブテーマ(2)立山地域における水銀と同期する物質に関して観測を実施した。水銀自動測定装置を用いることにより、オゾンや二酸化硫黄や硫酸エアロゾルと同程度の時間分解能で大気中水銀濃度を測定することが可能となった。立山における観測の結果、水銀がオゾンや硫酸エアロゾルと同期して輸送されている可能性が示唆された。また、降雨・降雪中の水銀濃度を測定する手法を確立した。水銀はカルシウムや硫酸と同期して輸送されている可能性が高いと考えられる。
サブテーマ(3)EANET調査地点である伊自良湖流域における水銀沈着量を算出した。また、降雨強度と沈着量には相関があり、降水量が多くなるほど沈着量が多くなることが明らかとなった。このことから、平地に比べて降水量が多い傾向にある森林域での水銀沈着量が多くなることが示唆された。
サブテーマ(4)日本を含めたアジアにおける水銀のモニタリング態勢の構築は欧米に比べて立ち遅れている状況にある。モニタリングデータ、特に1時間値の連続測定値は、時間変動、日変動、季節変動をとらえる上で非常に重要である。モニタリングデータが不足している現状においては、モデルシュミレーションがこれら現状を推定するツールとして重要な役割を果たすが、モデルの信頼性の検証が重要であり、また、水銀は人為的排出のみでなく陸地や海面からの揮散が考えられることから多媒体を対象とする必要がある。本研究においてはこれらの課題を解決すべく検討を行った結果、これまで研究の少なかった比較的推計精度の高い水銀多媒体解析モデルを完成させることができたことは大きな成果といえる。
さらに、このモデルを使用して水銀の循環挙動解析を行った結果、これまであまり明らかにされていなかった、全球及び日本における水銀収支を概ね明らかにすることができた。特に、人為起源のみでなく、土壌、地質、海面由来の放出量がかなりあることが明らかとなった。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会B-1008(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
サブテーマ(1)屋久島町の教育員会からの依頼で、一湊中学に設置しているオゾン計、SO2計、サルフェート計、水銀計のデータを利用したいとの申し出があった。今のところオゾンデータの利用がメインであるが、環境汚染物質のデータをリアルタイムに知ることで運動会、遠足等の野外行事に活用できる。現在、観測地点から教育委員会に直接データが転送できるシステムを考案中である。
サブテーマ(2)立山室堂は観光地であるため、富山県環境審議会大気騒音振動部会において、環境基準を超える二酸化硫黄やオゾンが観測されること、立山地獄谷から水銀が発生していることなどを報告した。
<行政が活用することが見込まれる成果>
本研究では東アジア地域における大気中水銀の動態に関する知見を収集できた。本年秋に水銀条約が締結されるが、今後、東アジアにおける大気中水銀に関する削減、制御に関する政策決定に資する知見としての活用が見込まれる。特に日本において、大気中水銀に関する研究は立ち遅れており、十分活用が期待できる。
サブテーマ(1)我が国で今まで得られてなかった山岳における水銀の動態が明らかになり、さらに最近の水銀沈着量増大も明らかになってきた。これらの結果をモデルに移行することで環境政策に活用できる。さらに、山岳のモニタリングデータは2013年秋の水銀条約締結へ向けての日本の成果につながる。
B-1008で開発した手法を用いて山岳での越境大気汚染物質の情報を発信することを模索している。
今年度、南アルプス市と共同で北岳の山頂小屋で大気汚染物質を観測し、越境大気汚染物質の情報を南アルプス市のホームページで公表するシステムを構築することがスタートすることになった。
サブテーマ(2)山岳地域や離島など、外部からの水銀の影響を受けやすい地域におけるサンプリング方法、分析方法を確立した。長距離輸送の可能性はあるものの大気中濃度はそれほど高くならないという観測結果は、水銀を取り巻く環境の理解を助ける。立山室堂における水銀の測定結果から、地獄谷からの水銀発生を明らかにした。今後、地獄谷近辺での濃度や発生量の予測にデータが活用できる。
サブテーマ(3)本研究は東アジアモニタリング(EANET) 調査地点の一つである。日本国内で大気中水銀の計測例はあまり例がないことから、本研究で得られた成果は今後のモニタリングのための基礎資料となることができる。
サブテーマ(4)本研究では、開発したモデルに、AMAP/UNEPの将来予測シナリオを一部適用して大気中の水銀濃度、水銀総沈着フラックスを予測(2050年)したが、人為排出量の増大シナリオ(SQ)及び減少シナリオ(EXEC)の各影響はいずれも排出源地域とその周辺で明確な変化が表れることが判明した。また、人為排出量が現在世界最大である中国等を中心とするアジア地域においては、人為排出量の増大及び減少の各影響が最も強く表れると推定された。これらの推計結果は、同地域において水銀汚染の進行を防止するため、水銀排出抑制対策を早急に実行することが重要であることを示唆しており、本研究の成果は、国や都道府県等の行政が排出防止対策推進施策に十分活用することが見込まれる。なお、本研究の成果については、今後も引き続き報告、啓発に努めていきたい。

4.委員の指摘及び提言概要

水銀の排出、移動・拡散、沈着などの全球的な挙動解明は、今後の環境行政展開に非常に重要である。水銀用パッシブサンプラーを開発し、多様な場所で大気中水銀の濃度を高度別分布も含めてモニタリングしたことは評価される。しかしサブテ−マ間の連携が不明であり、研究内容、研究成果が系統的に記述されておらず、データの解析と考察は十分とは言えない。今後、大気中水銀モニターなどの性能評価を行ってデータの精度を上げるとともに、中国などにおける排出インベントリを精査することを期待したい。

5.評点

   総合評点: B  ★★★☆☆  


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研究課題名:【S2-11】風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究(H22〜H24)
研究代表者氏名:橘 秀樹(千葉工業大学)

1.研究実施体制

(1) 研究総括および関係資料の収集
(2) 風車騒音の実測調査および地域住民に対する影響調査
(3) 風車騒音に係る聴感実験

2.研究開発目的

研究のイメージ新たな環境騒音問題の一つである風車騒音は、道路交通騒音、鉄道騒音、航空機騒音などのこれまでの公害型の騒音とは歴史的、社会的背景が大きく異なっている。また、風車騒音の問題では超低周波音領域を含む低周波数成分の聴覚心理的影響及び健康影響が懸念されており、マスコミ等でもしばしば取り上げられている。このような背景から、上述のとおり風車騒音に対しても環境影響評価などの行政的対応が必要となっている。そこで本研究では、そのための学術的基礎資料を得るために、風車騒音の実態把握を目的として、全国規模の実測調査と住民に対する社会反応調査を実施した。それと同時に、低周波数の音に対するヒトの聴感心理反応を調べることを目的として、超低周波音を含む低周波数の音を試験音とした一連の実験を実施した。


図 研究のイメージ        
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■S2-11 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/s2-11.pdfPDF [PDF348KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

日本全国に分布する多数の風力発電施設周辺における実測調査の結果、風車騒音の実態(音圧レベル、周波数スペクトル、時間変動特性など)が明らかとなった。また、それと並行して行った風力発電施設の影響を受けていない対照地域における実測調査の結果から、農山村部など静穏な地域における環境騒音の実態が把握できた。これらの結果から、風力発電施設が発生する騒音の影響の程度を定量的に把握することができた。
実測調査と並行して、風力発電施設周辺及び対照地域の住民に対する社会反応調査を実施した。その結果、風力発電施設の有無による一般生活環境及び音環境に対する意識の同異が明らかになった。また、風力発電施設周辺の住民が風車騒音によって受けている心理的及び自覚的健康状態の程度を把握することができた。これまで我が国ではこのような大規模な実測による物理的調査と社会反応調査を同時に行った例はなく、本研究の科学的意義はきわめて大きいと考えられる。
これらの調査研究と並行して、低周波音に対するヒトの聴覚生理・心理反応に関して、一連の聴感実験を実施した。まず、超低周波音領域を含む低周波数の純音に対するヒトの聴覚閾値を20歳代から60歳代までの広い年齢層にわたって調べており、これまでの類似の研究でも例のない成果を得ることができた。また、風車騒音に含まれる低周波数成分の可聴性について一連の実験を行い、一般的な風車騒音では、超低周波音領域及びそれに近い可聴周波数領域の低周波数の音は非可聴であることが確認された。
つぎに、風車騒音で大きな問題である振幅変調音について、振幅変調の程度と変動感の関係、さらに振幅変調音によるノイジネスの増加の程度を実験的に調べた。この問題については諸外国でも研究例は多いが、本研究の成果によってこれらの問題に関する定量的な資料が得られた。
さらに、風車騒音以外に種々の一般環境騒音も含めてラウドネス反応を調べた結果、多様な周波数特性を持つ種々の騒音(環境音)に対してもA特性の周波数重み付けをしたA特性音圧レベル(騒音レベル)がラウドネス反応と高い相関を有することを明らかにした。特にこの実験では、超低周波音領域を含む試験音を用いており、これは今までに例のない実験と言える。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会S2-11(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
環境省請負業務「平成24年度・風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務」に本研究の研究代表者が委員長として参画し、本研究の成果を反映させて環境アセスメントにおける風車騒音の目標値の設定に貢献した。
<行政が活用することが見込まれる成果>
本研究によって、風車騒音の物理的特性及び風力発電施設周辺の住民の反応の実態が明らかになった。また、低周波音に対するヒトの聴覚生理心理反応の基礎的データが得られた。平成24年10月に施行された「環境影響評価法施行令の一部を改正する政令」では、風力発電施設も環境影響評価法の対象事業として含まれることになり、平成25年4月以降に新たな手続の創設(計画段階配慮書手続及び事後調査報告書の公表・報告手続き)が行われることになっているが、本研究の成果はそのための基礎資料として有益な科学的知見を与えることが見込まれる。環境省では、風車騒音の環境影響評価のための具体的指針を検討するために、本年度から「風力発電施設から発生する騒音等の評価手法に関する検討会(仮称)」を発足させることになっているが、この検討会でも、風車騒音の物理的特性及び近隣住民に対する影響実態に関して、本研究の成果が基礎資料として有効に利用されることが期待できる。

4.委員の指摘及び提言概要

風車騒音の実測調査と周辺・対照地住民へのアンケートによる社会反応調査を全国規模で実施した本研究は、これまで我が国で例を見ないものである。その解析結果は風力発電施設設置の環境影響評価を行う際に大きな示唆を与えるものと評価できる。また、健康影響として、疫学調査と聴感実験を行っており、実験的な結果を疫学調査の結果の評価や考察に生かしている点も評価できる。風力発電施設の影響として、低周波騒音よりは風車騒音の方が、影響が大きい可能性があることを示した点は興味深い。なお、成果をシンポジウムや協力地域で講演会を行うなどの情報開示が望まれる。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名: 【C-0803】人工組織ナノデバイスセンサー複合体を活用した多角的健康影響評価システムの開発に関する研究(H20〜H24)
研究代表者氏名: 持立 克身((独)国立環境研究所)

1.研究実施体制

(1)人工組織ナノデバイスセンサー複合体を活用した多角的健康影響評価システムの開発に関する研究
(2)SAWバイオナノ協調体の開発に関する研究:細胞培養用 SH-SAW デバイスの開発
(3)SAWバイオナノ協調体の開発に関する研究:SH-SAW デバイス上における上皮組織の構築と組織傷害に伴う信号変調の解析
(4)細胞間接着因子E-カドヘリンの発現を強化したヒト細胞培養株の樹立
(5)SAWバイオナノ協調体用微小流体システムの設計製作に関する研究

2.研究開発目的

本研究では、表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)に着目した。SAWは表面にエネルギーが集中しているため表面性状により伝搬特性が変化する。特に水平せん断型表面弾性波 (SH-SAW:Shear Horizontal SAW)は水溶液中でもエネルギーの減衰が少ないため、細胞培養液中でのセンシングが可能である。このため、SH-SAW伝搬面に細胞を培養し、細胞の存在状態に起因するSH-SAW伝搬特性の変化を捉えることができれば、複合した環境有害因子が細胞・組織に与える影響をリアルタイムに検出できるバイオセンサとなり得る。現在、超音波を用いた生物診断・評価は広く検診などに利用され、細胞に対して無害と考えられているので、バイオセンサへの適用にはさしたる問題を抱えていない。本研究では、SH-SAWを用いたバイオナノ協調体開発の一環として、細胞培養目的のSH-SAWデバイスの設計・性能評価、及び、SH-SAW伝搬面に培養した細胞の存在状態に起因するSAW信号の変調について解析する。
環境汚染物質が生体に与える影響を「細胞や組織に対する機能的・構造的変化」として計測し、生体影響評価を行う新規バイオセンサとして、「SH-SAW バイオナノ協調体」を、第(2)及び(3) 章で検討する。影響評価を行う細胞としては、大気汚染物質の代表的標的組織の一つである肺胞上皮由来の不死化肺胞2型上皮細胞を用いる。また、大気汚染物質のモデル化合物として、過酸化水素を選択し、酸化的刺激下における肺胞上皮組織の傷害を、SH-SAWの変調信号として検出する。
SH-SAW 肺胞上皮協調体を培養し、信号計測を行うにはCO2インキュベータ等の周辺装置が大きすぎて、このままでは実用化に至らない。そこで第(5)章では、微小流体デバイスを用いて、SH-SAWデバイスを収納するオンチップ・インキュベーション・システム(OCIS)を開発する。OCISにパッケージされたSAWチップ上に、影響評価を行う肺胞2型上皮細胞を播種・長期培養し、生体影響評価が可能か検証する。尚、OCISによるバイオナノ協調体のコンパクトかつポータブル化によって、周辺装置は簡略化され、外部との電気的接続も簡素化されることが期待できる。また、工場等での一貫生産によって完成品がユーザの元に搬送され、速やかに分析に供することも可能になると考えられる。
SH-SAWバイオナノ協調体が機能するには、SH-SAW伝搬面における播種細胞の接着を安定確保することが必須である。第(1)章では、SAWチップに用いる LiTaO3チップ表面の改質を検討する。また、SH-SAWチップ上における上皮組織の長期培養に伴う形態変化等についても検討する。
SH-SAWの信号変調がとの様な細胞構造の変化に起因するのか明らかにしておくことは、種々の大気汚染物質によるSH-SAWの信号変調の生理学的意味を理解する上で重要である。第(4)章では、SH-SAW伝搬波に感応するであろう細胞−細胞間結合、もしくは、細胞-基質間結合に関与する接着受容体をヒト上皮細胞に遺伝子導入し、安定発現株を確立して、SH-SAWの信号変調の解析に役立てることを目指す。
以上のサブテーマを分担・遂行することで、SH-SAWバイオナノ協調体を用いた環境汚染物質に対する生体影響評価法の実用化に向けて、更に前進を図る。

研究のイメージ

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3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

a)表面弾性波素子上での細胞培養
従来、培養細胞による in vitro 毒性試験は、プラスチック培養皿内で培養された細胞に試験物質を投与し、生化学的、形態学的影響を解析して、試験物質の毒性を評価するのが常套手段である。今回、絶縁処理を施した表面弾性波(SH-SAW)素子上での細胞培養が可能になったことで、細胞が被る生体影響を直接 SH-SAW 素子の特性を活かして計測することが可能になった。
本研究で開発したのは、従来の抗体や酵素を用いた抗体型や酵素型バイオセンサの様に、単に特定物質の計測を行うのではなく、環境汚染物質等による生体影響を“細胞や組織に対する機能的・構造的変化”として計測する、新規概念に基づくバイオセンサである。
b)電子素子の表面改質
電子素子上で細胞培養を可能にする手段を開発した。細胞培養を電子素子表面に細胞接着させるためのインターフェースとなる化学合成(擬似)マトリックスである。SH-SAW伝搬面の表面構造に適合した側鎖Rを選択することで、安定した結合が実現できた。尚、表面改質による SH-SAWの伝搬特性に影響を認めていない。また、この技術は、他の電子素子にも準用可能である。
c)SH-SAWバイオナノ協調体
SH-SAWの信号変化と細胞の形態学的変化との関係性を明らかにした。即ち、SH-SAWデバイス上に上皮組織を形成することで、伝搬波の挿入損出や位相差(速度)は増大する。しかし、過酸化水素やサイトカラシンDによるアクチン線維の分解による細胞内部の物性変化と、それに続くタイトジャンクションの崩壊によって、伝搬波の位相差や挿入損出が減衰し、細胞播種以前に回帰することを、信号変調成分の詳細な解析によって明らかにした。この時、細胞がSH-SAW伝搬面から剥離すること無く、SH-SAW信号が変調した。従来の生化学的指標の変化に基づいて生体影響を評価する方法とは異なり、上皮組織としての生理的影響として評価するのに役立つと考えられる。
d)オンチップ・インキュベーション
SH-SAW肺胞上皮協調体(c)の周辺装置をコンパクトにパッケージ化する為に、協調体をオンチップ・インキュベーション・システム(OCIS)に統合した(SH-SAW肺胞上皮協調体OCIS)。この結果、簡易なパネルヒータ上での加温のみで、SH-SAWデバイス上に構築した肺胞上皮組織は、過酸化水素による酸化的刺激によって、通常の協調体(c)と同様に組織傷害を受け、信号変調を呈した。また、微小流路内のSH-SAWデバイス上に播種された上皮細胞は、長期間安定して生存し、低温時にも耐性を示した。
将来は、メーカーがバイオナノ協調体の完成品を製造し、特段の維持装置を必要とせずユーザーの元に配送され、再び37℃に戻した後は速やかに毒性試験等に供されることも可能である。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会C-0803(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
a)特定物資をモニターするのでは無く、細胞や組織に対する“機能的・構造的変化を計測できる”バイオナノ協調体を用いることで、膨大な数の環境化学物質について、相互に比較しながら毒性試験が可能になる。統一された仕様での試験であることから、毒性試験結果を広汎にランク付けし、監視対象の絞り込みと重点化に貢献できる。
b)環境の複合汚染による生体影響を軽微な段階で留めるためには、環境モニタリングによる汚染初期段階での把握と防止が肝要である。今回新たに開発したSH-SAW肺胞上皮協調体による汚染物質の計測原理によれば、刺激を受けた肺胞上皮細胞内部で引き起こされる軽微な(細胞死に至る遥か以前の)物性変化、及び、外界から異物侵入を防ぐことが困難になるタイトジャンクションの崩壊が、SH-SAWの変調信号の検出によって、未知或いは複合的存在であっても健康影響物質として検知することが可能であり、環境モニタリングの構築に貢献できる。
c)SH-SAWバイオナノ協調体を、オンチップ・インキュベーション・システムと統合する(SH-SAWバイオナノ協調体OCIS)ことで、基本的な訓練を受けるだけで簡便かつ確実に、環境中の健康影響物質の存在を検知することが可能である。この特性を活かして、特定物質をモニタリングするのではなく、生体影響としてモニタリングすることに貢献できる。
d)SH-SAWデバイスに限らず、バイオナノ協調体OCIS の製造・搬送・計測に関わる分野で、新規産業化が見込める。現在、東アジアや東南アジアで進行している経済発展に伴う環境汚染を極力低減し、日本への越境汚染も防止するには、環境管理技術の一環として、環境汚染物質のモニタリングだけでなく、健康影響を計測する技術も欠かせない。本研究で開発した“誰にでも簡単に扱えて、健康影響があるかどうか計測できるバイオナノ協調体OCISは、この様な要請にも応えられる。
バイオナノ協調体OCIS は、健康影響評価という高度な技能を、OCISにパッケージ化することで陳腐化したものであり、日本における環境産業の振興と東・東南アジアでの環境保護に国際貢献できる。

4.委員の指摘及び提言概要

人工組織ナノデバイスセンサー複合体を活用した、多角的健康影響評価システムの開発に関する研究とあるが、化学物質や医薬品の実際の生体内における効果・影響を、本研究で提案する多角的健康影響評価システムで評価するにはその間の精密な相関などを明らかにする必要があるが、それらの関係の報告がなく、測定されているものの毒性学的意義や、評価系としての有用性についての考察が不十分である。今後の技術発展、応用展開は期待できるが、本技術が健康影響評価に広く活用されるとは評価できない。

5.評点

   総合評点: C  ★★☆☆☆  


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研究課題名:【C-1001】わが国都市部のPM2.5に対する大気質モデルの妥当性と予測誤差の評価(H22〜H24)
研究代表者氏名:速水 洋((財)電力中央研究所)

1.研究実施体制

(1)二次生成成分の時間・空間分布の把握と二次粒子生成サブモデルの検証
(2)二次粒子生成に係わる未把握原因物質の排出インベントリ構築
(3)相互比較による大気質モデリングの妥当性検証と予測精度評価

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究は、二次粒子成分を中心に大気質モデルのPM2.5濃度再現性を向上し、大気質モデルをわが国のPM2.5対策検討に「使える」ツールとして確立することを最終的な目的とする。そのために、PM2.5濃度の時間・空間変動に対する大気質モデルの再現性を向上するための方策を抽出するとともに、予測精度(ばらつき)を明確に提示する。これを達成するには、大気質モデリングだけでなく、大気モニタリングや発生源モデリングの研究分野が相互に連携しつつ、それぞれが課題に取り組む必要がある。そこで本研究では、各研究分野単位でサブテーマを構成し、以下のような目標を設定した。
(1)二次生成成分の時間・空間分布の把握と二次粒子生成サブモデルの検証【大気モニタリング】
本サブテーマは、首都圏においてモデル検証を目的とした観測を行いサブテーマ(3)にデータを提供するとともに、このデータを用いて、大気質モデルを構成する二次粒子生成モデル単体の妥当性を評価する。また、成分測定用のサンプリング方法であるフィルタ法におけるOAに対するガス成分(VOC)の妨害を定量・評価する。
(2)二次粒子生成に係わる未把握原因物質の排出インベントリ構築【発生源モデリング】
わが国でも、大気質モデル入力用の発生源インベントリが整備されつつあるが、依然として未把握の発生源や成分が存在するとみられる。そこで、二次粒子生成への影響が大きいと予想される未把握の排出量の推計や既往排出量のみなおしを行い、より完全な排出量インベントリを構築する。これを空間・時間(季節・時刻)方向に分解して大気質モデル入力用の排出量データを作成し、サブテーマ(3)に提供する。
(3)相互比較による大気質モデリングの妥当性検証と予測精度評価【大気質モデリング】
大気質モデルを構成するサブモデルの組み合わせや条件設定は多数あり、全てを評価するのは現実的ではない。むしろ、各研究グループが採用する構成や設定を尊重し、多様性を維持しながらモデリングの妥当性を評価するほうが合理的である。また、複数の大気質モデルのアンサンブル平均が単一の大気質モデルより予測精度の高いことも知られている。そこで本サブテーマでは、サブテーマ(1)の観測データと同(2)の排出量データを用いた大気質モデルの相互比較研究を企画して国内の研究者に広く参加を募り、モデルの妥当性を評価する。また、入力条件やモデル構成に対する計算濃度の感度を解析して、大気質モデルの予測精度を評価する。
以上の研究を、成果が環境省のPM2.5等総合対策において活用されることを念頭に進める。


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■C-1001 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1001.pdfPDF [PDF407KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

長期および短期の検証計算により、現状の大気質モデルはSO42-濃度をほぼ再現するが、NO3-濃度を過大に、OA濃度を過小に予測することが確認された。また、この過小と過大予測が相殺されてPM2.5質量濃度の再現性が良好に見えることがあるため、PM2.5質量濃度のみによるモデルの検証は注意を要することがわかった。
NO3-濃度の過大予測は夏季に顕著であった。これに対しては、NH4NO3粒子の前駆ガスであるHNO3とNH3の濃度を制御することが効果的なことが示された。具体的には、両ガスの乾性沈着速度の増加と、施肥の時期を考慮した季節変化により夏季に大きく減少したNH3発生量の採用であった。ガスの乾性沈着速度は実測が困難であり、不確実性が大きい。また、NH3発生量の季節変化は堆肥の施肥時期に依存し、地域や農作物により異なる可能性がある。今後、これらの精度を高めていく必要がある。
OA濃度の過小予測に対しては、まず、観測値に対するVOCの妨害(アーティファクト)を評価した。その結果、フィルタ法によるOC濃度はVOCにより10〜30%過大となることが示された。妨害の程度は地域や季節により変動すると考えられることから、今後、妨害量と常監局データのあるNMHC濃度との関係などを解析し、普遍化する必要がある。
次に、これまで考慮されていなかったSVOCと凝縮性ダストの排出インベントリを作成して大気質モデルによる濃度計算を実施したところ、濃度は大きく上昇して過小予測は解消された。このような大幅な改善は、大気質モデルの入力条件や設定の変更では達成することはできなかった。
以上から、OA濃度の過小予測は、①観測値が過大であること、②SVOCと凝縮性ダストを考慮することで大幅に改善される可能性のあること、③大気質モデルの計算条件を調整してもほとんど改善されないこと、がわかった。今後は、SVOCと凝縮性ダストの排出インベントリを精緻化することが必要である。また、SVOCと凝縮性ダストによるOAは一次粒子に準ずると考えられるが、これを確認するにはOAを一次粒子と二次粒子(SOA)に分画可能なエアロゾル質量分析計などによるデータの蓄積が必要である。
わが国でもユーザの多い大気質モデルCMAQを用いて、気象データ、排出量データ、モデル設定など多数の項目に対する感度を解析した。その結果、CMAQの入力データや構成に起因するPM2.5濃度の予測精度(ばらつき)は濃度比にして10%程度であることがわかった。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会C-1001(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
本課題の成果が審議会等で直接参照されたことはない。しかしながら、本課題の研究代表者・分担者・協力者は、環境省(PM2.5対策、Ox対策、VOCインベントリ)や国土交通省(船舶排ガス規制)の審議会、委員会、委託事業などにおいて有識者や受託者として深く関与している。こうした活動において、本課題で得られた知見、経験に基づいた意見、技術等を通じて施策の検討に貢献している。
<行政が活用することが見込まれる成果>
本課題は施策に役立つ研究成果の創出を目指し、環境省のPM2.5等総合対策事業に先行する形で実施された。そして、その成果は同事業の推進に大きく貢献するものと考えられる。特に、
・現状の大気質モデルはOA濃度を過小に、NO3-濃度を過大に予測する傾向にあり、それらが相殺されることで、見かけ上、PM2.5濃度の再現性が良好なことがあること
・これ対象外であったSVOCや凝縮性ダストの排出量を考慮することで、OA濃度の過小予測が大幅に改善される可能性があること
・NH3の発生量の季節変化を修正することで、NO3-濃度の過大予測を大幅に改善できること
・施策検討などでよく使用されているCMAQに特化して、モデルの構成や入力データに起因する濃度の予測誤差を定量化したところ、ばらつき(標準偏差)は濃度比で10%程度であったこと
は、同事業に直接的に役立つとともに、取り組むべき課題と考えられる。

4.委員の指摘及び提言概要

本研究は、大気汚染関係者の間では長く問題とされてきた課題であり、どこかでやらねばならぬ大きな課題であった。研究成果としてSO42-、OA(有機粒子)、NO3-の推定精度傾向、濃度計測におけるフィルターサンプリングでのアーティファクトの影響、推定に大きな影響を及ぼす半揮発性VOC(SVOC)と凝縮性ダストの影響などを明らかにし、SO42-についてはほぼ再現、NO3-、OAでは10%内での一致となることなどを示した。これらの成果は、二次粒子が50%以上を占めると考えられるPM2.5の予測精度向上と今後のPM2.5対策に大きく寄与するものと評価できる。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【C-1002】ディーゼル起源ナノ粒子内部混合状態の新しい計測法(健康リスク研究への貢献)(H22〜H24)
研究代表者氏名:藤谷 雄二((独)国立環境研究所)

1.研究実施体制

(1)新しい計測法に最適なディーゼルナノ粒子の試料作成方法の確立
(2)ディーゼルナノ粒子の内部構造分析(無機)
(3)ディーゼルナノ粒子の内部構造分析(有機)

2.研究開発目的

研究のイメージディーゼルナノ粒子に対して、新しい計測法“集束イオンビーム質量顕微鏡”を適用し、従来の分析手法では明らかになっていない一粒子単位の化学成分や、その内部混合状態の情報を獲得する為の手法を確立し、ディーゼルナノ粒子の毒性評価、健康リスク研究に、その情報を提供することを目的とする。集束イオンビーム質量顕微鏡とは、集束イオンビーム二次イオン質量分析装置(FIB-SIMS)、走査型電子顕微鏡(SEM)とレーザーイオン化法を融合した手法である。目的を達成するため、大きく分けて次の4つの課題を行う。①集束イオンビーム質量顕微鏡の観察の為に最適な粒径別の試料作成法を確立する。②確立した方法を用いてディーゼルナノ粒子および沿道大気中ナノ粒子を対象として試料を作成し、集束イオンビーム質量顕微鏡および透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行う。③ディーゼルナノ粒子に含まれていると考えられる有機化合物をレーザーイオン化するのに最も適切なレーザー波長を成分別に選定し、有機物の一粒子単位で検出する。④TEMを用いてナノ粒子の形態観察、形態解析を行い、粒子表面積の肺表面積あたりの曝露量に着目し、ヒト健康リスク評価を行う。


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■C-1002 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1002.pdfPDF [PDF247KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

①エアロゾル工学で確立されたナノ粒子の捕集方法を材料工学で確立された分析法に適用するために技術的な問題点を確認・クリアしたことにあり、この方法論は他の粒子状物質でも普遍的に利用できるものである。また、エアロゾル研究分野に新たな計測手法である集束イオンビーム質量顕微鏡が利用できることを示した。
②電子顕微鏡観察により、ディーゼルナノ粒子の一粒子単位の化学組成、内部混合状態の情報を獲得する手法を確立し、ディーゼルナノ粒子の内部混合状態の把握は世界初である。ディーゼルナノ粒子はオイル粒子と炭素粒子が外部混合していることが初めて明らかになった。オイル成分は肺の炎症との関連が指摘されており、オイルナノ粒子の存在を明らかにしたことは重要である。
③凝集体の構造解析から健康リスク評価を行った初めての例である。成分による影響を無視した炎症をエンドポイントに置いた場合に、沿道環境中に存在する粒子表面積ではハザード比は低いことが分かった。
④比較的大きな粒径の凝集体がナノ粒子のキャリアになりうることが明らかになった。凝集体粒子が体内で分解された場合、分解されない場合に比べてハザード比が約2倍、球形粒子に比べて約4倍高まることが分かった。粒径60nm以下の凝集体の存在量がハザード比に大きく影響することが明らかになった。
⑤これまでの科学的知見を総合して粒子モデルの推定を行い、エアロゾルとしての相当径が42 nmの大きさの凝集体粒子が体内に沈着し分解した場合、実粒径8.6 nmのコアが残ることが推定された。したがって、体内動態研究においては、その大きさの粒子を考慮する必要があることが明らかになった。
⑥毒性の大きい微量化学成分は個別の粒子に局在することなく、多くの粒子に薄く存在することが集束イオンビーム質量顕微鏡で明らかになった。従って今後のディーゼルナノ粒子の健康リスク評価としては、化学成分まで明らかになる集束イオンビーム質量顕微鏡のスペックは必要ない。粒子の構造が明らかになる汎用的な透過型電子顕微鏡と多段インパクタ等で粒径別に捕集した試料を従来法で化学成分を定性、定量する手法を組み合わせた方法でも評価できることが明らかになった。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会C-1002(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
今後、環境省水・大気環境局ナノ粒子検討会を通じて、行政に対して本成果の広報・普及に務める予定である。
<行政が活用することが見込まれる成果>
本研究で得られた成果の一つとして、すす粒子は凝集体であり、同一の相当径の場合には、凝集体は球形に比べ一粒子あたりの粒子表面積は最大で2.5倍大きくなり、吸入により炎症が発症するハザード比は2倍になることが明らかになった。また、一次粒子径としては約20 nmの一次粒子が一つの凝集体に最大40個程度存在しており、体内で沈着後に分解された場合に凝集体はナノ粒子のキャリアになりうることが明らかになった。この粒子形態に着目した解析手法や研究成果は、自動車排ガスや工業ナノマテリアルの粒子状物質の吸入時の粒子表面積に着目した健康リスク評価時に参考になると考えられる。また、本研究で凝集体の毒性が高くなる可能性を見いだしたことは、自動車由来のナノ粒子を対象とした個数濃度の排ガス規制の導入の是非の議論に一石を投じるものと考えられる。国内では自動車排気の個数濃度の排ガス規制がないが、国連欧州経済委員会-自動車基準調和国際フォーラム-排ガス専門分科会-PMP(Particulate Measurement Programme)インフォーマル会議において、粒子質量規制に加えて粒子個数規制が開始されることが決定され、2011年9月より、EURO規制として、新型ディーゼル乗用車の型式認証に6×1011個/kmという規制が加わった。日本は粒子個数規制の導入に慎重であるが、個数だけでなく、本研究の表面積を指標とした議論も加えて排ガス基準の導入の是非を議論すべきである。また、現在市販されているガソリン車には、国内にはそもそも排ガス規制がないが、近年燃費の良さを売りにして市場投入が急速に進んでいる直噴ガソリン車は、すす粒子を多く排出するという報告がある。粒子個数の排出源としても無視できず、欧州の粒子個数規制では急遽ガソリン車への規制値が決定され、最新規制対応ディーゼル車よりも緩い規制値が設定される状況になっている。現状の未規制状態が続く場合には、自動車からの排出量は削減どころか増加に転ずる可能性もある。さらに、直噴ガソリン車から主に排出される粒子は、すす粒子であるため健康リスクという観点からも大きなインパクトを与える可能性がある。よって国内の環境行政としては直噴ガソリン車に対しても早急な対応が必要であると考えられる。本研究成果は今後の自動車排ガス対策を講ずるにあたり、どのような観点で対策を必要とするのか、どの程度の対策を必要とするのか、といった際の資料として活用されることが見込まれる。

4.委員の指摘及び提言概要

集束イオンビーム質量顕微鏡とレーザーイオン化法により、個々の粒子の化学成分や内部混合状態を調べる方法を開発し、ディーゼル起源ナノ粒子の内部構造分析(無機成分、有機成分)を行い、さらに(凝集粒子表面積/球形粒子表面積)比や、一日あたりの粒子表面積ばくろ量など、新たな観点からのディーゼル粒子影響データを得ている。ただし本研究の目的としている健康リスク研究への貢献につながる環境中ナノ粒子の動態把握や、規制などの環境政策への活用についての踏み込みが欲しかった。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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研究課題名:【C-1003】HBCD等の製品中残留性化学物質のライフサイクル評価と代替比較に基づくリスク低減手法(H22〜H24)
研究代表者氏名:益永 茂樹(横浜国立大学)

1.研究実施体制

(1)HBCD等の製品中残留性化学物質のライフサイクル評価と代替比較に基づくリスク低減手法

2.研究開発目的

研究のイメージ製品中に含まれる化学物質による環境リスクの最小化のためには、代替案(代替物質/製品/プロセス)を対象としたライフサイクル(製造〜輸送〜使用〜廃棄・リサイクル)を通じた総リスク比較が必要で、環境放出量と曝露量の把握に基づいてリスク削減すべきライフステージの抽出(全ライフサイクルリスク評価)と、代替案間の総リスク比較に基づいた最適案を選択する手法(代替リスク評価手法)の開発が必要である。本研究では、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約で廃絶候補物質として議論されている臭素系難燃剤 ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)を事例として、可能性のある代替物質/製品/プロセスを抽出し、それらについて全ライフサイクル・リスク評価と代替リスク比較を実施し、具体的な評価事例を提示する。さらに、これらを一般化して、全ライフサイクルを通じた代替リスク評価手法の構築を試みる。得られた情報や考え方は、申請機関がインターネットWEBサイトで運営している「事業者の化学物質リスク自主管理の情報基盤」等に搭載し、広く各方面に提供する。


図 研究のイメージ        
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■C-1003 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1003.pdfPDF [PDF394KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

本研究は、これまで検討事例の少なかった化学物質のライフサイクルわたるリスク評価を、HBCDを対象として遂行するのみならず、対象化学物質と代替化合物や代替プロセスとの間のリスク比較によって、より適切なリスク低減施策立案に資する新たな考え方の提案を目指したものである。
 具体的な科学的意義としては、化学物質が規制を受けた際の代替物質の探索と特定に至る手順を明らかにしたこと。そして、対象物質のマテリアルフロー解析に基づき、代替過程を考慮した汎用的な環境排出量の推定手法を構築・提示し、それらを用いたライフサイクルを通した曝露とリスク評価手法によって、リスク低減の方法を提案することができた点である。これにより、物性情報の少ない代替物質についても、対象物質のマテリアルフロー解析結果を下敷きにすることで、環境排出量と曝露量の予測が可能になり、将来予測と代替比較が可能となった。
 また、毒性情報の質が異なる代替物質の間で、平等なリスク評価を行うための手順についても提案した。
 事例研究したHBCDと代替候補物質については、それらのマテリアルフローの経時推移予測を行った。その結果、代替物質の導入によって2020年にはその排出量の80%以上が削減されるが、長期寿命をもつ製品中に残存すること、代替物質はHBCDに比べてその使用量が多くなるため、HBCDと代替物質の総排出量は増加すると予測された。曝露やリスクでは用途によって増減が予想され、より良い代替オプションの選択には事前代替評価が必須であることを明らかにした。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会C-1003(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
 環境省大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部 産業廃棄物課 適正処理・不法投棄対策室からの委託事業として、エックス都市研究所が開催する「平成23年度POPs廃棄物国際的動向等調査検討会」に益永が座長として参画した(2011年12月〜2012年3月30日)。本検討会では農薬のエンドスルファンと難燃剤HBCDの日本における利用と廃棄について調査しており、本研究のHBCDマテリアルフロー解析の成果が利用された。
 環境省 環境保健部 企画課 化学物質審査室からの請負調査として、みずほ情報総研株式会社が開催する「難分解性・高濃縮性化学物質に係る鳥類毒性検討会」に益永が委員として参画した(2011年12月〜2012年3月30日)。本検討会ではマテリアルフロー解析に基づくHBCDの環境放出量の推定が検討され、本研究で行ったHBCDのマテリアルフローや環境排出の結果が検討の基礎情報として利用された(みずほ情報総研株式会社 平成23年度環境省請負業務報告書 平成23年度高濃縮性化学物質による生態系への影響対策検討業務報告書[平成24年3月])。
 環境省 環境保健部 企画課 化学物質審査室からの請負調査として、みずほ情報総研株式会社が開催した「平成24年度ヘキサブロモシクロドデカンのリスク評価等検討会」に益永が委員とし参画した(2013年2月〜2013年3月29日)。本研究の成果の一部が参照データ等として利用された(みずほ情報総研株式会社 平成24年度環境省請負業務報告書 平成24年度ヘキサブロモシクロドデカンのリスク評価等検討業務報告書[平成25年3月])。
 HBCDも今後審議対象となると想定される環境省 中央環境審議会 環境保健部会における「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」に関連する審議や、経済産業省化学物質審議会審査部会における化審法で化学物質の安全性評価の審議など、本研究の担当者が関係している環境省、経済産業省、および地方自治体等の化学物質管理・リスク評価に関する諸委員会において、本研究の成果に基づいて審議の深化に貢献した。
<行政が活用することが見込まれる成果>
 平成25年5月の残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約第6回締約国会議(COP6)で、HBCDは同条約の附属書A(廃絶)(ただし、建築用のビーズ法発泡ポリスチレンおよび押出発泡ポリスチレン用途は除外)に追加されることが決定された。本研究におけるHBCDの代替候補物質の探索結果や、HBCDと代替候補物質との排出量やリスクの比較結果は、我が国におけるHBCD規制施策の立案に対して有用な基礎情報となると期待される。
 環境省 中央環境審議会 環境保健部会における「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」に関連した審議や、経済産業省化学物質審議会審査部会における「化学物質の審査および製造等の規制に関する法律」の運用に関する審議に資するよう、今後も上記HBCD事例検討結果、および本研究で開発した代替リスク評価手法は、研究成果の発信に務めたい。また、本研究参画者が関係している環境省、経済産業省、および地方自治体等の化学物質管理・リスク評価に関する諸委員会においても、本研究成果を利用して審議の深化に貢献したい。
 本研究で得られた、リスク評価に用いた情報源やリスク評価ツールの利用方法に関する知見やリスク評価研究の成果は、環境科学会のシンポジウムや本学で主催する公開講座、ホームページなどから、広く情報発信を開始している。行政においても、多様な化学物質のリスク評価の場面での情報活用が期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

難燃臭素剤HBCDを事例として、既存の情報や手法を駆使して代替あるいは難燃製品の代替に伴うリスクの変化について、マテリアルフロー解析に基づきライフサイクルを通じた検討がなされ、全体としてまとまりのある研究成果が得られており、目標は達成されたと評価できる。今後はさらに精度をあげるとともに、情報量の少ない物質でも同様のライフサイクル評価や代替比較に基づくリスク低減策が提案できるかの実証が必要であろう。

5.評点

   総合評点: A   ★★★★☆  


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研究課題名:【C-1004】産業環境システムの耐リスク性(H22〜H24)
研究代表者氏名:東海 明宏(大阪大学)

1.研究実施体制

(1)耐リスク性評価手法の構築
(2)製品のリスク評価に関するケーススタディの実施
(3)社会的合意形成の検討

2.研究開発目的

本研究では、サブテーマ(1)は、化学物質を取りあげて、排出量解析・環境多媒体濃度解析・暴露解析・リスク評価に必要となる要因の不確実性のタイプ(変動性、知見の不足等)を考慮した因果関係の構造モデルを産業環境システムの連鎖過程を反映した、プロトタイプモデルを構築し、特定の物質の評価を通じて、手法の適用性を検討することを目的とした。サブテーマ(2)では、自動車サプライチェインを念頭において、ライフサイクルを通じた複数エンドポイントのリスク評価を、健康リスク、温室効果ガス由来のリスク等を取り上げて行うことで、方法の適用性を検討することを目的とした。各ライフステージに内包されるリスク因として、内装材プラスチック難燃剤、燃料、製品のリスクをスクリーニングレポート、リスク評価シートとしてまとめるとともに、リスクトレードオフの態様を解析した。サブテーマ(3)では、消費者側のリスク管理方策としてリスクに気付き理解し、行動を選択することによる効果(すなわち、社会的合意形成に通じる)を類推するため、大阪府下の生活者を対象に環境家計簿による調査を実施し基礎データの整備を実施した。具体的には、自動車の利便性―環境リスクの関係への気付きの特徴の把握ならびに、類似事例のメタ解析結果による補完を通じた行動変容の可能性を検討した。

研究のイメージ

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■C-1004 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1004.pdfPDF [PDF243KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

サブテーマ(1)では、これまで、実適用事例の少なかったリスク評価における情報の価値の推定という方法を、臭素系難燃剤DecaBDEの使用実態を反映した解析のプロトタイプモデルを提示することを通じて、具体的に情報の価値を定量的な数値で議論することを可能とした。これは、従来のアプローチにはないものといえる。
 サブテーマ(2)では、自動車のサプライチェインから抽出した、5つのリスク管理対策の解析を行い、方法の適用性を確認するとともに、これまで、単独のエンドポイントを対象とした対策の評価から、トレードオフの視点から見た評価を可能とした。5つのリスク管理対策とは、物質の代替、燃料の改質、そして車種の転換であり、従来これらは、単独の指標で対策の効果や効率性に関して評価されてきた。今回の解析で、ヒト健康リスクと二酸化炭素排出量という2軸でトレードオフの態様を評価することで、新しい技術評価の枠組みを提示しえた。
 サブテーマ(3)では、交通工学分野で進められた既存の社会調査のメタ解析結果を援用するとともに、ソフト交通対策としての生活者のリスクへの気付きがもたらす行動変容に関する基礎的知見を整備する環境家計簿を構築し、実査を通じて、基礎データを収集整備しえた。この方法によって、今後、衣食住に関わる高度な技術の利便性の陰にあるリスクへの気付きを介した行動変容の知見の整備に道筋を示した。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会C-1004(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
現在のところ、行政に直接活用された成果はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
 多数の物質に曝され、多数のエンドポイントのリスクが懸念される状況ができつつある。例えば、PRTR該当物質からPRTR非該当物質への代替など、物質の代替に伴うリスクトレードオフの態様や情報の不十分さを前提としたリスク管理が求められていくなかで、本研究課題では、交通起源に限定したプロトタイプとなる解析事例を提示しえたと考えている。今後、すでになされた環境リスク対策に関し、網羅的な評価を進めることで、目標リスクと対抗リスクとの間のトレードオフに対し、どのレベルで折り合いをつけてきたのか、に関する知見の充足、それを踏まえた管理の指針の形成につながることが期待される。このことは、今後、府省を横断するリスク管理対策の効果的、効率的な推進にむけて重要な知見となると考える。 
サブテーマ(1)では、リスク評価を補完する耐リスク性評価法を提示し、臭素系難燃剤のDecaBDFを取りあげて、評価結果の分布に支配的なパラメータとして廃棄物処理(焼却)の過程から大気へ排出される際の排出係数の不確定性が、当該物質のリスク削減を進めようとした際、どれほど影響を与えるかということを感度解析と情報の価値解析を行うことでその寄与を定量的に推定しうる方法を開発した。推算結果より、リスク評価に必要な情報収集の優先性を具体的に比較しうる量で示すことができ、今後の関連データの整備の方向付けに示唆を与えることができた。
 サブテーマ(2)では、自動車に関する5つの既になされた、または計画中のリスク管理対策のリスクトレードオフ解析を実施した。得られた結果はヒト健康リスクの削減・増加の一方で二酸化炭素の増減が明確化され、物質の転換、燃料成分の改質、車種の転換それぞれについて、2つのエンドポイントに対する効果、効率性を1枚の図上に比較して示すことができた。このような視点での評価を行うことで、トレードオフを与件とした効果的、効率的な対策を確認することが可能となった。
 サブテーマ(3)では、提唱された時代における環境家計簿の技法に則り、利便性(自動車を利用する)の陰に隠れた環境への依存(リスク)に関する意識調査を行うことで、特に、サプライチェインを通じて内在しているリスクへの気付きがもたらす行動変容について知見を得た。環境家計簿を通じた生活者の意識・行動データが、利便性の陰でリスクへ気付きがどれほど行動変容につながるか、というデータは社会的合意形成に寄与しうるデータである。これは、環境省が行っている、環境にやさしいライフスタイル実態調査を利便性の陰にあるリスクへの気付きを媒介項として補完することに寄与する。

4.委員の指摘及び提言概要

産業環境システムのリスク管理が重要になっている中で、原材料の変更、製品の転換、リスク基準の変更などに対して産業環境システムがもつであろう対応・緩衝能力(耐リスク性)を評価する手法の開発と適用性を示そうとする研究であったが、その意図が十分に生きる形で研究が行われたとは言い難い。実例においては、調査のプロトコールや仮説が曖昧で、得られた結果の信頼性は乏しく、手法と結果の妥当性、有用性を明示できるに至らなかった。

5.評点

   総合評点: B   ★★★☆☆  


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研究課題名:【C-1005】大気中粒子状物質の成分組成及びオゾンが気管支喘息発作に及ぼす影響に関する疫学研究(H22〜H24)
研究代表者氏名:島 正之(兵庫医科大学)

1.研究実施体制

(1) 大気中粒子状物質及びオゾンの気管支喘息発作への影響に関する疫学研究
(2) 大気中粒子状物質のPIXE法による多元素分析及びイオン成分の分析
(3) 大気中粒子状物質の日平均成分濃度の解析に関する研究

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究では、わが国における大気中PM2.5をはじめとする大気汚染物質が気管支喘息発作に与える影響について、従来検討されてきた粒子状物質の質量濃度との関係だけでなく、粒子中のイオン成分及び主要元素成分、さらにそれらより推定される発生源因子との関連についても明らかにすることを目的とした。
喘息発作数は、兵庫県姫路市医師会で長期にわたって集積されている市内46医療機関における性、年齢、居住地域別の1週間毎のデータを活用した。大気環境データとして、(1)市内2カ所で実施しているPM2.5、PM10-2.5、OBCの質量濃度、大気エアロゾル化学成分連続自動分析結果、及び市内11測定局における常時監視結果、(2)1週間毎に粒径別に連続捕集した大気中粒子状物質のイオン及び主要元素組成と、それらより推定された発生源寄与因子の結果を用いた。さらに、(3)粒子状物質及びガス状物質を各季節に24時間単位で20日間連続捕集して、質量濃度、炭素成分、イオン成分の測定を行い、(1)、(2)で得られた結果の精度を評価するとともに、季節による相違点やPM2.5の主要な発生源とその寄与率を評価した。
これらより、わが国における大気汚染物質、特に粒子状物質の成分組成と健康影響の関連について新たな疫学知見を得ることを目的とした。


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■C-1005 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1005.pdfPDF [PDF284KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

欧米諸国では、PM2.5と気管支喘息発作やそれによる救急受診との関連が数多く報告されているが、わが国における知見は十分ではなかった。本研究では、兵庫県姫路市で長期にわたって蓄積された気管支喘息発作のデータを活用して、大気中のPM2.5及びOBC濃度の上昇に伴って1週間毎の喘息発作数が有意に増加することを疫学的に明らかにした。粒径2.5〜10μmの粗大粒子(PM10-2.5)との関連は認められなかった。PM2.5の濃度帯別には、全年齢での喘息発作数は週平均PM2.5濃度が26.2μg/m3以上、15歳未満の小児では16.7μg/m3以上で有意な増加が認められ、欧米諸国の知見と同様に、比較的低い濃度でも影響が生じ、特に小児は感受性が高いことが示された。PM2.5の成分及び発生源については、6〜8月は燃焼系由来粒子、3〜5月と9〜11月は大陸からの移流による硫酸アンモニウム系粒子と喘息発作との関連が示唆された。
近年大気中濃度が上昇傾向にあるオゾンについても、週平均濃度の上昇により喘息発作数が増加し、特にオゾンが高濃度となる3〜6月における影響が顕著であることが示された。大気汚染物質の短期的影響として諸外国で報告されている1日毎の喘息による救急受診については、PM2.5、オゾンともに当日及び前日の濃度との関連を明らかにすることはできなかった。
大気中粒子状物質を2年以上にわたって1週間毎に連続して粒径別に捕集し、イオン成分及び元素組成の特徴を明らかにし、燃焼由来粒子、土壌由来粒子、海塩と硝酸イオン粒子、カルシウムを主体とした粗大粒子、硫酸アンモニウムを主体とした二次生成粒子等が寄与していることを明らかにした。
各季節に24時間単位でフィルタ秤量法によりPM2.5及びPM10-2.5濃度を測定し、自動測定結果と比較したところ、両者の相関は非常に高いことが確認できた。また、粒子中の主要な成分について、1週間単位の測定結果と24時間単位の測定結果を比較し、PM2.5についてはほぼ同等であることを示した。
発生源解析では、PM2.5に寄与する因子として硫酸系二次粒子や自動車、廃棄物焼却等の発生源因子を抽出した。寄与率が大きい硫酸系二次粒子は、後方流跡線解析により、遠方からの移流の影響を受ける可能性を示した。風向を考慮しても、重油燃焼や石炭燃焼、自動車を表す因子と周辺の発生源位置の関係は整合的であり、これらは地域的な発生源の影響を受けていることを示した。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会C-1005(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
環境省の微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合におけるPM2.5による大気汚染への対応の検討において、本研究成果であるPM2.5濃度と喘息発作との関係についての解析結果を提示し、PM2.5上昇時の注意喚起のための暫定的な指針の設定に貢献した(専門家会合資料として本研究の結果を提示した)。
<行政が活用することが見込まれる成果>
わが国では平成21年にPM2.5に係る環境基準が設定され、近年は中国からの飛来も指摘されていることから、PM2.5の健康影響に対する関心は高まっているが、国内における疫学知見は十分ではなかった。
本研究では、大気中PM2.5及びオゾンをはじめとする大気汚染物質が喘息発作に与える影響を明らかにした。これはわが国においても諸外国と同様にPM2.5の短期的影響が生じることを示したものである。また、成分分析の結果より、燃焼由来や大陸からの移流による粒子が喘息に与える可能性を示唆した。
大気中粒子状物質の粒径別にイオン成分及び元素組成の長期連続測定を行い、PM2.5の寄与因子として大陸からの移流に由来する硫酸系二次粒子、廃棄物焼却、自動車や重油燃焼等を特定し、それらの寄与の程度を推定した。これらはわが国におけるPM2.5の低減対策を進める上で重要な知見であるとともに、地方自治体等によって実施されているPM2.5の成分分析結果を有効に活用するための手法を提示した。
また、大気中粒子状物質を1週間単位で捕集したPM2.5中の主要成分濃度が、24時間単位での測定結果と同等であったことは、多くの労力と経費を要するPM2.5成分濃度の測定が1週間単位で実施できる可能性を示し、長期にわたる連続観測を必要とする疫学研究等の進展への貢献が期待できる。
本研究で得られたこれらの成果は、PM2.5及びオゾン濃度上昇時の国民への注意喚起を行い、大気汚染の健康影響を明らかにするための長期的な疫学調査を進める上で重要な知見となり得るものである。今後は学術誌への投稿等を通じて、研究成果の広報、普及に努める。

4.委員の指摘及び提言概要

我が国の疫学調査により、PM2.5曝露と喘息発作との関係を示したことの意義は大きい。発作の報告が1週間に1回であるため、欧米の研究と同じような1日毎の解析が行えなかったことは残念であるが、1週間程度の範囲で短期曝露と喘息発作に関連を認めていることは、十分意義のあることである。特に、現在の環境基準より低いPM2.5の値でも喘息発作数が増加することを見出したという情報は重要であり、今後の環境行政にも参考になる。各サブテーマの研究の連携もとれており、よく行われた研究である。

5.評点

   総合評点: A   ★★★★☆  


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研究課題名:【C-1006】妊婦の環境由来化学物質への曝露が胎盤栄養素輸送機能に与える影響の研究(H22〜H24)
研究代表者氏名:柴田 英治(産業医科大学)

1.研究実施体制

(1) 環境由来化学物質が胎盤栄養素輸送機能に与える影響の研究
(2) 胎盤のアミノ酸・糖輸送活性および低酸素障害に関する研究

2.研究開発目的

研究のイメージ子宮内胎児発育遅延は、胎盤機能障害(栄養素輸送障害)が主病態と考えられており、環境化学物質が与える胎児・小児疾患の研究においては胎盤機能評価が極めて重要であり、本調査は、我が国の「エコチル調査」においても重要な役割を果たすと考えられる。古くより子宮内胎児発育遅延の主病態は母体から胎児への血液供給量低下であることが指摘されているが、そのような病態に加えて、環境化学物質(環境因子)が、母児生体内でどのようなレベルで存在しどのように胎児発育(胎盤栄養素輸送)を制限しているのか調べることを本研究の目的とした。また、環境化学物質により胎児発育制限を受けた胎児が、将来、様々の小児疾患(先天性奇形・周産期死亡率の上昇・胎児機能不全・学習障害・多動・注意欠陥障害・神経学的異常・生活習慣病など)を発症し易いのか否か調査することを最終目的とした。


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■C-1006 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1006.pdfPDF [PDF265KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

子宮内胎児発育遅延児では正常児に比べ周産期死亡率は8倍に上る。さらに子宮内での発育制限は将来の精神神経発達障害、小児期の肥満、耐糖能異常、脂質代謝異常、また成人後の心血管疾患や糖尿病発症のリスク因子である 。胎盤は母体胎児間の物質交換を担い、正常な胎児発育は胎盤の栄養素輸送に大きく依存している。本研究の成果により胎盤の栄養素輸送障害を引き起こすような環境由来化学物質を抽出し、生殖期・妊娠女性への曝露を軽減し、子宮内胎児発育遅延を減少させることが期待される。その結果、周産期死亡率のさらなる減少による社会貢献、また生活習慣病減少による医療経済への多大な貢献も期待されるところである。さらに、エコチル調査では、児の身体発達、先天異常、性分化の異常、精神神経発達障害、免疫アレルギー系の異常、代謝・内分泌系異常の有無を出生時から12歳まで追跡調査する。本研究により、胎児期の栄養素の獲得障害(胎盤における糖・アミノ酸輸送障害)と前述した胎児・小児期に起こる疾患との因果関係についても明らかになる可能性がある。本研究の成果は、これらの疾患の早期発見・早期治療に貢献することも期待される。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会C-1006(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

環境由来化学物質がどのように子宮内でヒト胎児発育を制限するのかについては未解決である。本研究により多種多様な金属、農薬、ダイオキシン類のような環境由来化学物質の中の一体どのような物質が胎盤栄養素輸送障害によって胎児発育制限を起こし得るのか知ることができた。また、どのようなレベル(濃度)でその悪影響が発現するのか知ることができた。さらにエコチル調査・本調査と本研究で得られたデータを解析することにより、母体が過剰に曝露されると胎盤栄養素輸送障害によって胎児発育を制限するより多くの環境由来化学物質を特定することができる可能性がある。得られたデータは生殖年齢の女性における環境由来化学物質の許容摂取基準の作成に貢献すると思われ、周産期医療においても適切なリスク管理体制を構築できると期待される。
<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
(1) 環境由来化学物質が胎盤栄養素輸送機能に与える影響の研究
① PCBsは低濃度曝露でも胎盤の栄養素輸送機能を担う合胞体栄養膜細胞数を減少させ胎盤機能を修飾し非常に高い生物活性を有し胎児毒性があり危険であること。
⇒ 行政は胎児健常性を守るため、妊婦のPCBs曝露を最小限にすることを産科婦人科学会などを通じて国民に知らせることが必要であるかもしれない。
② 喫煙時のようにPCBs曝露に対する胎盤産生蛋白(Placental growth factor, sFlt-1)の修飾には特有のプロファイルが存在すること。
⇒ 行政は特発性胎児発育制限が化学物質で惹起される場合、胎盤産生蛋白(Placental growth factor, sFlt-1)の特有のプロファイルが存在し、内因性の原因による胎児発育制限との区別に活用できる可能性がある。
③ 多種多様な環境化学物質のなかでアルデヒド類、重金属、プラスチック樹脂原料が胎盤アミノ酸輸送機能を低下させることが判明した。
⇒ 行政はアルデヒド類ではグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、金属元素ではヒ素、カドミウム、プラスチック樹脂の原料ではトリレンジイソシアネート、無水フタル酸、メチルアクリレートはアミノ酸輸送活性を低下させ、胎児発育を修飾する可能性が存在することに留意すべきであると思われた。
(2) 環境由来化学物質が胎盤栄養素輸送機能に与える影響の研究
本研究は、どのような環境由来化学物質が、どの程度の濃度により、胎盤機能(ヒト胎盤の糖・アミノ酸輸送活性など)を低下させるのかについて詳細に調べることが可能であり、エコチル調査の主旨においても欠くことができない情報である。得られたデータは生殖年齢の女性における環境由来化学物質の許容摂取基準の作成に貢献すると思われ、周産期医療における適切なリスク管理体制の構築に寄与すると期待される。また、エコチル調査に付随して胎盤栄養素輸送機能を評価し、環境リスクを適切に評価することは、安心して子育てができる国づくりにつながると考えられ、少子化対策にもなると考えられる。

4.委員の指摘及び提言概要

環境由来化学物質が胎盤栄養素輸送機能に与える影響の研究においては、母体血中のPCB濃度が高いと合胞体栄養膜細胞数が減少すること、幾つかの環境化学物質曝露がin vitroの系において、アミノ酸輸送障害を引き起こすこと等を示した。また胎盤のアミノ酸・糖輸送活性および低酸素障害に関する研究においては、エコチル調査のための基礎データの収集を行った。しかし、症例数が少ない、あるいは結果の緻密な解析に至っていないなど、成果は十分とは言えず、今後、研究の深化が必要である。

5.評点

   総合評点: B   ★★★☆☆  


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研究課題名:【C-1007】化学物質の複合暴露による健康リスク評価に関する分子毒性学的研究(H22〜H24)
研究代表者氏名:菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所)

1.研究実施体制

(1) 遺伝子発現情報解析、総括
(2) 複合暴露実験

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究の目的は、中央環境審議会からも指摘され国民や専門家からの常々の要望の対象となってきているものの、現行の毒性評価法では技術的に対応困難であるところの、環境化学物質の複合暴露により惹起される生体影響を正確かつ迅速に評価する技術の開発である。
そのためには、研究代表者の複合影響判定に関する数理統計学的基礎(Matsunaga et.al. Environmetrics (2009), 20:1-13、東京医科歯科大学 佐久間昭教授、東京理科大学 吉村功教授との交流を経る)と、トキシコゲノミクス、特に時間的・暴露量的に毒性発現の基礎となる定量的なmRNA変動を指標とした生体影響の評価を可能にするパーセローム(Percellome)トキシコゲノミクス手法(Kanno et.al. BMC Genomics (2006), 7:64、特許第4415079号)による分子毒性学的な有害性評価検討手法の応用が現実的かつ効率的であり、単体で暴露した際のPercellomeトキシコゲノミクス(高精度の網羅的遺伝子発現)情報が既に得られている環境化学物質から代表的な3対を選択し、複合暴露した際のPercellomeトキシコゲノミクス情報を得て、開発済みの分子毒性学的な有害性評価検討手法を基盤とした、分子メカニズムに基づく正確かつ迅速な複合暴露影響の安全性評価法の開発を目指す。
また複合影響の予測システム開発及び実用化に必須となる、複合暴露による遺伝子発現データベースを、網羅性と高い定量性を以て構築する。


図 研究のイメージ        
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■C-1007 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1007.pdfPDF [PDF425KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

複合暴露は、生活環境、自然環境における生物(人や動植物)に対する化学物質暴露の一般的形態であるが、従来の毒性評価手法では対応が困難なため、新たな有害性評価技術の開発が求められてきた。
本研究により、単一化学物質の分子毒性所見から、複数の化学物質暴露による複合影響の評価・解析、及び複合暴露影響を論理的に予測するインフォマティクス開発のための基盤を確立した。本研究で取得した複合暴露実験データは3対であるが、複合暴露解析に特化した高精度の網羅的トランスクリプトームデータは世界的にも稀であり、国際的なソフトウエアプラットホームGARUDAを介したデータ公開(平成25年度中に開始予定)により、同種の研究活動の推進のみならず、今後の生命科学研究の進歩に伴う基礎医学研究の推進、新規化学物質の設計開発等に対しての貢献が期待される。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会C-1007(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

複数の併存する環境化学物質による複合暴露が日常化している状況下、複合暴露影響の評価、予測システムの構築は政策貢献上においても急務であるが、複合暴露問題が現行の毒性学では対応できていない上、本研究で明らかになったように、複合暴露影響に関与する分子が固定していない以上、現実的時間内に技術的に実現可能なアプローチは、トキシコゲノミクスを利用した本研究しかないと考えられる(現行の毒性評価方法では無限の組合せを試験せざるを得ず、現実的な時間内に解を求めることが出来ない)。
本研究で実施した複合暴露実験は3対のみではあるが、複合効果評価基準となる専用標準データベースの構築を開始し、基本的な解析・評価技術を開発した本研究の意義は大きい。
評価システム稼働のための必須条件となる標準データの追加取得は最短3年で実施可能(期間は研究予算に依存する)であり、その結果を加えることにより、複合暴露評価体制が確立し、立案した対応策が適切な提案か否か吟味することが可能になると見込まれる。これにより、人及び環境の安全・保全の質の向上とともに、被害の未然防止の結果としての除染、補償等の経費負担の回避が期待できる。

4.委員の指摘及び提言概要

研究代表者らが開発した「パーセロームトキシコゲノミクス」という毒性発現の基礎となるmRNA変動を指標とした生体影響の評価手法を複合曝露に適用して、3対の化学物質の詳しいデータが集積でき、一定の成果は得られている。しかし、当初のねらいとされていた、「AとBの複合曝露の影響をAのパーセロームおよびBのバーセロームから予測する」ための道筋が示されていない。また、無限の組み合わせのある複合曝露が、30対程度のデータの蓄積で他の組み合わせの影響を推定できるとあるが、予測のためにどのような情報をどのように解析するのか、その道筋を示すことが必要である。また、予測の信頼性についても検討が必要である。3年間で3対の実績を考慮すると、実用化はかなり先の話である。

5.評点

   総合評点: B   ★★★☆☆  


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研究課題名:【C-1008】エピゲノム変異に着目した環境由来化学物質の男性精子への影響に関する症例対照研究(H22〜H24)
研究代表者氏名:有馬 隆博(東北大学)

1.研究実施体制

(1) 症例対照試験の実施・患者登録に関する研究
(2) エピゲノム解析(精子)に関する研究
(3) 環境化学物質の測定(末梢血および精漿)・網羅的TOF-MS解析に関する研究
(4) 症例対照試験の評価・解析とリスク要因の評価に関する研究

2.研究開発目的

研究のイメージ低用量の環境由来化学物質(以降、化学物質)の長期曝露は、ヒトの生態(生殖細胞)系および性腺に対して深刻な影響を及ぼす危険性をはらんでおり、ヒトへの影響を明らかにすることは環境保全上の重要課題であり、早急な対応が求められている。中でも環境残留性と人体への強い有害性が問題となっているPCBやDDTには内分泌かく乱作用があり、性比や精子数の減少に影響を与えることが議論を呼んでいる。また、臭素化物系の難燃剤も曝露レベルの増加が懸念されている。このような化学物質のヒト健康影響を評価するためには、動物やヒト細胞などを用いた実験の知見に加えて、ヒトそのものを対象とする疫学研究による証拠が不可欠である。しかしながら、現状では父親への曝露や、ヒト精子への影響に関する疫学的研究は世界的にも極めて少ない。ダイオキシン類やPCBではいくつかの報告も散見するが、多様な化学物質を対象とした網羅的な研究はなく、また低用量域における長期間曝露について一般集団を対象に検討した研究は報告されていない。
本研究では、成人男性末梢血内の化学物質濃度とヒト精子形成への影響について、形態と機能の両面から解析を行い、交絡要因を十分考慮しながら関連性を評価することを目的とした。具体的には、以下の4つのサブテーマに分けられる。
(1) 症例対照試験の実施・患者登録に関する研究
(2) エピゲノム解析(精子)に関する研究
(3) 環境化学物質の測定(末梢血および精漿)・網羅的TOF-MS解析に関する研究
(4) 症例対照試験の評価・解析とリスク要因の評価に関する研究


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■C-1008 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1008.pdfPDF [PDF235KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

本研究の結果から、血中PCB濃度が増加すると精子数×運動率などの指標が減少し、乏精子症の発生が増えることが示唆された。年齢、喫煙習慣などを調整しても関連性は一貫したものであり、男性不妊においてPCBばく露の重要性が示唆された。本資料は、曝露回避に必要な行政的な基礎資料として、国民に提示することができ、また、少子化対策、不妊症治療の技術向上と医療行政に貢献できると考えられる。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会C-1008(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

過去に環境中に放出された化学物質は、長期間に渡り環境中に残留し、生物濃縮を経てヒトに取り込まれる。従って、化学物質のヒト生殖細胞への影響は、少子化問題を抱える我が国においては、重要な課題である。PCBが、精子の数、質に影響を及ぼすことが明らかになり、回避する方法を考案し、リスクコミュニケーションとして、市民に伝えることが、求められている。特に強調したい点は、リスクの存在だけでなく、どのようにすればリスクを回避できるのか、そしてその効果はどのくらいあるのかを、実証的なデータを併せて提示することにあると考える。本研究結果は、そのリスクコミュニケーションに必須の実証的なデータを、食を含めた生活習慣の安全性と有効性を含め、準備した。
<行政が既に活用した成果>
現在のところ行政が活用した成果はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
我が国における化学物質暴露、特にPCB類のヒト男性精子への直接作用について、科学的根拠を基に世界で初めて明らかにした。今後本研究は、化学物質について暴露回避に重要な行政資料となると考えられる。また不妊症に関するリスクとして、そのリスク情報を公開することが有用である。

4.委員の指摘及び提言概要

エコチル調査の追加調査として、男性の血中のPCB濃度と精子数等の生殖機能との関連を検討した。しかし、曝露評価が不十分であることから、環境政策に必要なリスク評価に貢献するには至っていない。

5.評点

   総合評点: B   ★★★☆☆  


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研究課題名:【RF-1001】気中パーティクルカウンタを現場にて校正するためのインクジェット式エアロゾル発生器の開発(H22〜H24)
研究代表者氏名:飯田 健次郎((独)産業技術総合研究所)

1.研究実施体制

(1) 気中パーティクルカウンタを現場にて校正するためのインクジェット式エアロゾル発生器の開発

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究の目的は、大気エアロゾルの粒子数濃度の粒径分布測定に欠かせないエアロゾル計測器であるOPCとCPCの粒子計数能力の動作確認を、現場で行うための技術を開発することである。OPCの粒子計数能力の校正に関しては工業規格ISO 21501-4にこの手法が説明されている。


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■RF-1001 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1001.pdfPDF [PDF630KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

AIST-IAGと似た既存のエアロゾル発生器として、振動オリフィスエアロゾル発生器(Vibrating orifice aerosol generator, VOAG)がある。VOAGはPM10やPM2.5インレット、サイクロン、カスケードインパクタ、空気力学スペクトロメータなど、マイクロメートル粒径域におけるエアロゾル計測器の評価に過去40年以上にわたりエアロゾル計測分野に貢献してきた。しかし、VOAGの欠点は、①単分散エアロゾル粒子の他に、インクジェット液滴同士の衝突による2量体が一定の確率で必ず発生してしまう、②装置内部での粒子損失が大きいためVOAG出口での粒子数濃度が制御できない点である。AIST-IAGはこの問題を乗り越えた標準エアロゾル発生器である。また、発生エアロゾル流量を、CPCやOPCのサンプル流量である0.5-1.5 L/minの範囲で調節できるため、発生させた全エアロゾル粒子を計測器へ輸送できるため、濃度ではなく粒子数・粒子質量を基準とした高精度の評価を行うことができる。科学的意義のある応用用途を以下に挙げる。
現在国内では、粒子状物質による越境汚染の動態解明を目的とした研究が活発に行われている。この観測では、エアロゾル質量分析計による気中粒子状物質の化学成分の分析がリアルタイムで行われている。この装置の弱点は、サンプリングインレット入口から質量分析のために気化されるまでの効率が評価されていないため、定量性が低い点である。エアロゾル質量分析計の定量性を向上される目的に、AIST-IAGは大いに活用できる。空気力学粒径および分析対象となる化学成分の質量が既知であるエアロゾル粒子を既知の頻度で発生させ、定格流量1 L/minのエアロゾル質量分析計へと全粒子をサンプルさせることができる。そして、実証したような粒子輸送と検出効率を含めたエアロゾル質量分析計の定量的な評価を行うことができる。今後、国内のエアロゾル観測に従事しているグループと積極的に情報交換を行い、環境省推進の研究プロジェクトへとAIST-IAGが貢献できる機会を確立する。成果イメージ図


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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RF-1001(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

気候変動予測や健康影響の評価を目的として、大気エアロゾルの長期観測の重要視されつつある昨今、計測器を日常的に動作確認するための技術の開発が強く求められている。大気エアロゾル観測の基本となるナノメートルおよびマイクロメートル粒径域で粒径分布測定において、OPCやCPCはそれぞれ不可欠な計測器であるが、現状ではこれらの動作確認を現場で行う技術がない。AIST-IAGはこの技術ニーズに直接答え、品質保証体制の末端である観測現場にまで浸透させることのできるこれまでにない装置である。
<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
特にPM2.5関連の計測で今後活躍が期待できる。現状の環境政策におけるPM2.5自動測定装置への要求事項は、米国連邦標準測定法(Federal Reference Method,FRM)との比較による装置の型式承認のみである。PM2.5に対するリスク管理を長期的に維持するためには、PM2.5測定装置の校正を定期的に実施する必要がある。実証したように、AIST-IAGはPM2.5分粒部の粒子透過率の校正を行う能力を十分に有している。しかし現状のAIST-IAGでは、検出部を含めた自動測定装置全体を校正するために必要な質量濃度は発生できない。今後、この濃度領域を達成するための改良と開発を実施したい。

4.委員の指摘及び提言概要

インクジェットを利用して微小な粒子を定量的に発生するエアロゾル発生器を開発し、微小粒子の数濃度を測定する光散乱式気中パーティクルカウンタ(OPC)、凝縮成長式気中パーティクルカウンタ(CPC) を現場で校正する機器としての性能をもつことを示した成果は、研究費に照らして高く評価できる。サイエンスとしての価値以上に、関係者が野外調査等で大いに待ち望んでいた成果であり、実用化が期待される。

5.評点

   総合評点: A   ★★★★☆  


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研究課題名:【RFb-1101】ベンゼン汚染土壌・地下水の嫌気的生物浄化技術の開発(H23〜H24)
研究代表者氏名:栗栖 太(東京大学)

1.研究実施体制

(1)ベンゼン汚染土壌・地下水の嫌気的生物浄化技術の開発

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究では、ベンゼン汚染土壌・地下水の低コスト低負荷型浄化技術として、嫌気的バイオレメディエーション技術を開発することをめざし、硫酸塩や有機物を地中に導入することによりベンゼンを分解する技術を開発しようとするものである。これまでに研究代表者が開発した嫌気ベンゼン分解微生物集積培養系と、ベンゼン分解細菌の情報を用い、ベンゼン分解の制御因子を詳細に調べる。さらに嫌気ベンゼン分解微生物の集積高度化をめざし、その過程においても、ベンゼン分解微生物の制御方法についての情報を得る。より具体的な目的として、以下の3つを掲げる。
①メタン生成ベンゼン分解微生物として、モニタリングすべき微生物を特定する。
②嫌気ベンゼン分解の促進因子を探索し、バイオスティミュレーションによる浄化手法を検討する。
③ベンゼン分解微生物集積培養系を用いて、汚染地下水のバイオオーグメンテーションが可能かどうかを確かめる。
本研究によりベンゼン汚染土壌において、硝酸塩還元条件以外の嫌気的条件下でベンゼン分解を起こす方法を見出すことができれば、ベンゼン汚染土壌の嫌気的バイオレメディエーションによる浄化を、より安心、安全な実用化技術として位置づけることができる。


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■RFb-1101 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFb-1101.pdfPDF [PDF239KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

本研究では、以下の3つの結論が得られた。
①ベンゼン分解微生物群集の群集構造には共通点が多く、いずれもSyntrophus属類縁のDesulfobacteriales目細菌Hasda-Aが主なベンゼン分解微生物として推定された。
②ベンゼン分解微生物集積培養系を用いて、汚染地下水のバイオオーグメンテーションが可能であることが示された。
③嫌気ベンゼン分解の促進因子として、有機電子受容体が有効となる場合があり、なおかつメタン生成が抑制的である時に有効となる可能性が示唆された。
①については、メタン生成条件でベンゼンを分解できる微生物群集は多様であるものの、その構造には共通点がきわめて大きく、Anaerolineaceae, Peptococcaceae, Peptostreptococcaceae, Syntrophaceae, Clostridiaceaeなどを中心とした微生物群集構造となっていることが明らかとなった。また、ベンゼン分解微生物としては、これまでに我々が報告しているベンゼン分解微生物Hasda-Aが、全く異なる3地点由来の集積培養系においてもベンゼン分解微生物として推定された。このことより、Hasda-Aのベンゼン分解微生物としての普遍性が示された。加えて、Coriobacteriaceae近縁種も標識ベンゼン由来の炭素を同化していたことから、あらたなベンゼン分解微生物である可能性も示された。メタン生成条件におけるベンゼン分解微生物については、我々の知る限り現在までに明確な特定がなされていない。よって本研究により得られた成果は、世界的にみても新規性の高い成果である。
②については、汚染地下水に対して約10%の集積培養系を加えることで、ベンゼン分解を起こすことが可能であることがわかった。今後、この割合を下げることができれば、実際にバイオオーグメンテーション法として汚染地下水の浄化手法として開発できる可能性がある。
③については、塩素化エチレン類の脱塩素に用いられる有機物資材を汚染地下水に添加し嫌気的に培養したところ、ベンゼンの嫌気分解が観察された。このことより、易分解性有機物の添加によりベンゼン汚染地下水の分解が起こりうることが示された。さらに、さまざまな条件で行った有機物の添加試験の結果を総合することで、嫌気ベンゼン分解の促進因子として、有機電子受容体が有効となる場合があり、なおかつメタン生成が抑制的である時に有効となる可能性が示唆された。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RFb-1101(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
 特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
ベンゼン汚染土壌・地下水の浄化手法として、既往の好気的生物学的浄化(バイオレメディエーション)手法のみならず、嫌気的バイオレメディエーション手法も今後開発対象として考慮すべきであることが示された。汚染土壌・地下水の浄化が進まないのは、浄化にかかるコストが高いことが原因の1つである。より低コスト、低エネルギー型の汚染土壌・地下水浄化技術として、嫌気的バイオレメディエーションの開発を推進し、実用化していくことで、汚染土壌・地下水の浄化を促進し、安全な国土の保全と創出に寄与できると考えられる。

4.委員の指摘及び提言概要

 ベンゼン汚染土壌・地下水の浄化手法の開発をめざし嫌気的分解に関する検討が行われた。基礎研究としてはまとまっているが、現場への実装には、周囲の認知、オンサイトでの試験など多数の課題があるが、それらは解決されていない。

5.評点

   総合評点: B   ★★★☆☆  


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研究課題名:【RFb-1103】大気微小粒子におけるハロゲン化芳香族類の発生源と二次的形成能の解明(H23〜H24)
研究代表者氏名:大浦 健(名城大学)

1.研究実施体制

(1)ハロゲン化芳香族類の標準品合成ならびに環境影響評価に関する研究

2.研究開発目的

研究のイメージ最近、新たな未規制環境リスク因子としてハロゲン化PAHに関する研究がいくつか報告されてきたが、その生成機構を始め未解明な部分は未だ数多く残されている。とくに一般大気中のハロゲン化PAHs濃度に関する情報は、世界でも数例、日本では静岡市のみの観測結果しかない。また、前処理法や分析機器による測定精度といった測定技術の面においても精査されていない。とくに、簡便な分析手法の確立は、今後のハロゲン化PAHs調査、評価の発展に大きく貢献できると思われる。さらに、大気中のハロゲン化PAHsは、これまでの研究成果より焼却施設など特定の発生源から由来するものと、大気中の光化学反応によって二次的に生成するものがあることが推測されている。一般的に大気中の芳香族有機化合物は、光反応による分解が主反応だと考えられていた。しかしながら現在までハロゲン化PAHsの光反応を検討した事例はなく、このような光反応機構を検討することは、ハロゲン化PAHsの大気動態を明らかにする上で極めて重要であると考えられる。そこで本研究では、初めにハロゲン化PAHsの標準品を合成し、最適な分析条件を確立した後、年間を通じた大気汚染調査を実施する。このとき、重金属や炭素成分といった影響因子成分も併せて測定を行う。さらに、大気粒子表面を模したモデル反応系でのハロゲン化PAHの生成・変質機構を検討する。これらClPAHsの大気汚染調査と光化学反応の結果を基に、統計的解析であるPMF法を用いて発生源の推定を行うことを目的とした。


図 研究のイメージ        
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■RFb-1103 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFb-1103.pdfPDF [PDF242KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

本研究では、芳香族塩素化合物の新たな環境リスク因子として注目されているハロゲン化PAHsの合成法を確立し、24種の標準物質を作製するとともに、比較的低価格な分析機器である四重極型GC/MSを用いた高感度分析法を確立した。これらの成果によって、これまでほとんど明らかにされていなかったハロゲン化PAHsの環境動態について大きく進展することが期待される。また、本研究では都市大気におけるハロゲン化PAHsの長期観測を実施し、季節変動や地域特性を明らかにすることができた。とくに、高分子量のハロゲン化PAHs(BaP塩素置換体)が局所的なハロゲン化PAHs濃度の変動要因であることを突き止めた。そのため今後ハロゲン化PAHsの環境汚染低減化には、BaP塩素置換体の生成機構や発生源、大気安定性を解明することが重要であると思われる。また、大気中のハロゲン化PAHsは塩素置換数が増加するにつれて、微小粒子中の存在割合が増加することがわかった。微小粒子と高塩素化PAHs生成の関係は現在のところ明らかとなっていないが、曝露リスクの観点からも今後明らかにする必要があると思われる。さらにPAHの光塩素化反応について検討したところ、酸性(<pH3)ならびに塩素イオン存在下でPAHが逐次的に光塩素化することがわかった。よって、大気のハロゲン化PAHsは一次発生源だけではなく、大気中の二次的な反応によっても生成される可能性がある。また、リセプターモデルであるPMF法から初めて大気ハロゲン化PAHsの発生源解析を行った。ハロゲン化PAHsはPAHsとは異なる発生源寄与を示しており、冬季燃焼系が最大の発生源因子であることが推定された。この知見は、今後のハロゲン化PAHs低減対策において極めて重要であると思われる。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RFb-1103(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
本研究ではPOPs規制物質であるPCDD/DFや候補物質であるPCNと類縁構造を有するハロゲン化PAHsに関する大気環境動態ならびに発生源を推定した。現在のところハロゲン化PAHsに関する研究例は限られており、本研究で得られた成果は今後ハロゲン化PAHsがPOPs追加候補物質に加えられた際の情報提供や討議の場において貢献できると思われる。また、本研究では、PAHを酸性下の食塩水溶液に溶解させ、光照射を行ったところ、塩素化PAHが生成されることを見出した。このような光塩素化反応は、大気浮遊粒子だけではなく、東日本大震災の津波によって打ち上げられたヘドロ上でも進行することが懸念される。本知見は今後の津波被害による曝露リスク影響評価に貢献できると思われる。

4.委員の指摘及び提言概要

塩素化PAHs測定法について、標準品の合成から環境測定まで実施し測定精度を向上したこと、都市部と工業地域で実大気試料を採取し、塩素化PAHs濃度が変動する要因を明らかにしたこと、PMF法を用いた解析から塩素化PAHsの発生源がPAHsとは異なる発生源であることなどを明らかにした。これまで情報が少なかった塩素化PAHsの分析技術と動態に関して、比較的少ない予算で短期間に数多くの新しい知見を得たことは評価できる。今後、いくつかの有力と思われる発生源に的をしぼった研究やより詳細な光塩素化反応実験などを展開し、まとめていくことを期待したい。

5.評点

   総合評点: A   ★★★★☆  


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研究課題名:【RF-1003】環境ストレスが及ぼす生物影響の評価手法の開発(H22〜H24)
研究代表者氏名:北野 健(熊本大学)

1.研究実施体制

(1)環境ストレスが及ぼす生物影響の評価手法の開発

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究では、すでに作製されたTgメダカの特徴を生かして、化学物質、ストレス、雄化等の生物影響の相互関係を明らかにして、化学物質が及ぼす生物のストレス作用の全貌を解明することを目的とする。さらに、この研究成果を生かして、様々な化学物質が保持する生物に対するストレス作用を評価するための新たな手法を確立する。年度ごとの具体的な研究テーマは以下の3つであり、これらの達成をめざして研究を実施する。
①高温ストレスが及ぼすストレス及び雄化誘導機構の解明
②トリブチルスズ(TBT)が及ぼすストレス及び雄化誘導機構の解明
③化学物質が及ぼすストレス作用の評価手法の確立


図 研究のイメージ        
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■RF-1003 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1003.pdfPDF [PDF279KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

課題代表者らは、高温ストレスによる雄化にはコルチゾルというステロイドホルモンが深く関与していることを初めて証明し、この基礎的研究での発見を足がかりとして、DNAマイクロアレイ解析等を駆使してコルチゾル誘導因子(HSP70等)を見出した。また、これら因子を使ってストレス応答性のin vivo評価系であるhsp70-Venus Tgメダカ系統を確立した。このオリジナルなメダカ系統は、今まで調べられなかった環境水のストレス作用を総合的に評価するための大変優れた生物センサーであると考えられる。さらに課題代表者らは、基礎的研究として、すでに単離したコルチゾル誘導因子や雄化誘導因子の機能解析にも着手し、新規な生理的機能を解明することができた。これらの成果は、生物が普遍的に保持している新たな仕組みの発見にも繋がる可能性を十分秘めているため、さらなる研究の発展が期待されるところである。このように、課題代表者らは基礎から応用まで幅広く研究成果を挙げることができた。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RF-1003(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
 本研究の進展により、化学物質の新たなストレス作用を発見することができた。今後は、本研究により確立したストレス応答性Tgメダカ系統を用いて、より多くの化学物質を調査する必要があろう。さらに、この生物センサーは、実際の環境水に存在する複数の化学物質の複合ストレス作用を簡便に高感度で評価できる可能性を秘めており、今後の環境ストレス調査に利用できるのではないかと考えられる。

4.委員の指摘及び提言概要

丁寧、着実に実施された研究によって、著者らが開発したhsp70-Venus遺伝子導入メダカを用いて環境水のストレス作用を評価しうることを示すなど、環境ストレスが及ぼす生物影響を評価する可能性が示され、手法の開発という所期の目的を達した。今後、本技術の環境政策への貢献のための具体的な提案を期待する。

5.評点

   総合評点: A   ★★★★☆  


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研究課題名:【RF-1004】水生・底生生物を用いた総毒性試験と毒性同定による生活関連物質評価・管理手法の開発(H22〜H24)
研究代表者氏名:山本 裕史(徳島大学)

1.研究実施体制

(1)水生・底生生物を用いた生活排水および都市河川の総毒性評価と毒性原因物質の同定
(2)水・底質試料中の界面活性剤、医薬品類等の濃度測定と総毒性への寄与率の評価
(3)水・底質試料中のパーソナルケア製品等の濃度測定と総毒性への寄与率の評価

2.研究開発目的

研究のイメージ欧米や韓国などで既に導入済みで、環境省でも平成21年度から検討開始されたWET試験(Whole Effluent Toxicityの略で事業場排水の水生生物への直接影響を調べてリスク管理をする方法)のうち感度が高く低濃度長時間曝露を考慮して亜慢性毒性試験を、生活排水や下水放流水の寄与が大きいが流域の下水道普及率の異なる京都・埼玉・徳島の河川計約10箇所に適用し、水と底質を採取してそれぞれ水生生物と底生生物に対する直接影響を調べて総毒性を評価することとした。また、同時に採取した水・底質試料について医薬品や界面活性剤、化粧品等のパーソナルケア製品等の生活関連汚染物質濃度の一斉分析測定結果と各物質の毒性試験結果とを合わせて、寄与率の高い物質を同定・定量することとした。このことで生活関連汚染物質の重要性を現実的な視点で再評価することで一般市民の不安を解消するとともに、その効率的なリスク低減などの管理に活用することを目的とした。


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■RF-1004 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1004.pdfPDF [PDF325KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

徳島・京都・埼玉3府県における生活排水や下水放流水の多く流れ込む生活関連物質のホットスポットと考えられる地点において、3年間の異なる季節にわたる医薬品類・界面活性剤とパーソナルケア製品の河川水および底質中での存在実態が明らかになり、一部では100 µg/Lを超える陰イオン界面活性剤、数µg/Lの防腐剤や抗菌剤、10〜100 ng/g-dryレベルのtriclosanやtriclocarbanも検出されることがわかった。特に、これまで世界でも分析事例が報告されていない化粧品由来の防腐剤12種及び親水性紫外線吸収剤4種の底質中の多成分同時分析手法が確立できた点は意義深い。また、このように高濃度の物質に汚染された河川水中の水生生物3種に対する毒性影響について、濃縮などの前処理をほとんどしない米国環境保護庁(USEPA)のWETに準じた短期慢性試験系で調べたところ、6割以上の河川水から毒性影響が検出されることがわかった。このことから、このように生活排水の影響が大きい河川環境では、水が試験水生生物に対して悪影響を及ぼす物質等に汚染されていることが示された。また、同時に調査した底質のほぼ全てについて、人工底質を使って希釈を実施する方法でユスリカの羽化に有害影響を濃度-応答関係をもとに検出できることも明らかになった。
さらに、個別の医薬品類・界面活性剤やパーソナルケア製品の水生生物3種に対する毒性影響試験を実施し、その検出濃度との比から個別物質の影響が加算的であると仮定して毒性影響の寄与率を推算した。その結果、藻類については、抗菌剤のtriclosanや抗生物質のclarithromycinの寄与が比較的大きく、毒性影響の大部分を説明できる地点もあった一方で、その寄与は10〜40%程度と推定された。一方でミジンコや魚類については、比較的高濃度で検出された界面活性剤の寄与が医薬品や化粧品に比べて大きく、一部の河川水試料については寄与率がミジンコでは最大で100%を超過、魚類では最大で30%となることから、今回対象とした物質ではC11〜C13-LASの寄与がかなり大きいことが推測された。毒性同定評価の最初の段階である毒性原因物質の特徴化によって、本研究で選定した都市河川については、藻類は有機物よりも金属等の陽イオンの影響が大きいことが示唆された一方で、ミジンコや魚類については,生活関連物質を含む有機物の寄与がある程度大きいことが示唆され、金属等陽イオンや他の界面活性剤、農薬等を含む詳細で網羅的な化学分析と組み合わせたアプローチが求められる。一方で、ユスリカについては、国産種のセスジユスリカを用いて河川底質の総毒性に対する寄与率を算出する方法が確立され、底質に蓄積する物質の河川環境中での評価・管理にも重要な役割を果たすと考えられる。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RF-1004(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

<行政が既に活用した成果>
環境省では、平成21年度から排水・環境水の生物応答を用いた評価・管理に関する委員会を立ち上げて、USEPAのWET手法を参考に国内での導入に向けた議論を実施している。その中で、平成25年3月1日には環境省から「生物応答を用いた排水評価法(検討案)」が公表された。本研究のほとんどはこの試験法を元にして実施されているが、この試験法作成の取りまとめを担当した研究代表者にとって、重要なテストケースをもたらしたといえる。
また一方で環境省では、「PPCPsによる生態系影響把握研究班」を組織し、その検出情報や、生態系への有害影響の程度についての検討を実施している。本研究課題の成果の一部である検出データや毒性データが、この研究班会議における貴重な資料として活用されており、ホットスポットでの汚染状況についての重要性が指摘されている。
<行政が活用することが見込まれる成果>
これまで、WET手法等の亜慢性試験を排水に適用した例はいくつかあるものの、生活排水によって強い影響を受ける河川水に対する評価はなく、本研究成果は環境省の目指す「今後の水環境保全の在り方」でも「速やかに解決されるべき課題」として挙げられている「(8)生活排水対策」の課題解決に重要な役割を果たすことが期待される。また、上記の通り、「新たな思索の枠組みをつくる取組」の「(2)排水規制のあり方」における「生物応答を利用した排水管理手法の導入」における制度・運用ならびにバイオアッセイ技術検討の両方への寄与は既にある程度あるが、平成25年度以降も継続的な取組が予定されており、重要な知見として活用される可能性が高い。特に、本研究課題では、米国WETの毒性同定評価のPhase 1である毒性原因物質の特徴化の実施例も含めて、今後の排水だけでなく環境水への制度設計をしていく中で非常に重要な役割を果たしていくものと考えられる。また、この毒性原因物質の特徴化など毒性同定評価の手法は、生態リスクが高く優先的にリスク管理に取り組むべき物質の絞込みに貢献し、水生生物保全のための環境基準項目の選別や、「化学物質の環境リスク評価」の枠組みなどを効率化・加速することが期待される。さらに、生活関連物質を河川水に添加して生態毒性を評価する取組とその成果は、複合曝露の評価の困難さを改めて浮き彫りにしており、今後の更なる検討の必要性を示唆している。
医薬品類やパーソナルケア製品等のPPCPsによる水環境の汚染についての調査が国内外で行われているが、主な調査は一級河川など大河川や下水道整備の進む大都市圏で行われており、本研究課題のように下水道整備状況が異なる地域を比較した調査はごく一部であり、本研究課題は貴重な知見として上記研究班等でさらなる活用が期待されるほか、生態リスク初期評価の枠組みへの利用も見込まれる。界面活性剤LASについては、平成25年4月より、新たに水生生物保全のための水質環境基準として設定されている。本研究課題の結果により、下水道未整備地域では依然としてその濃度は高く、環境基準を超過しているだけでなく、総毒性への寄与が潜在的に高いことが示唆され、その設定の重要性が改めて裏付けられた。現在、非イオン界面活性剤の中間代謝物のノニルフェノールも合わせて水生生物保全のための水質環境基準が設定されているが、PRTR第一種指定化学物質として水域への排出量が最も多いと考えられる非イオン界面活性剤のアルコールエトキシレートの環境中動態や生態影響についても合わせて検討の必要がある。
また、triclosanについては、過去に環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」の生態リスク初期評価においても、「詳細な検討を行なう候補」とされている。今後の全国でのエコ調査等の実態調査への取組において、本研究課題で対象としたような下水道整備率の低いホットスポットなどでの調査・研究が求められる。化学物質のリスク管理の観点からは、triclosanは化審法の旧第三種監視化学物質であるが、優先化学物質やPRTRにおける第一種指定化学物質への指定といった入口側での何らかの施策も求められる。

4.委員の指摘及び提言概要

明確な問題意識の下に、手間のかかるバイオアッセイや多成分の微量分析をしっかり実施して、PPCPsの実態に関するよい成果を上げた。環境の生態毒性低減を図るには、工場排水の規制以外に、農薬や界面活性剤等の対策あるいは下水処理の適正化等をすすめることが重要であることを示した点は評価できる。なお、河川水の調査として生活排水の質や影響度の受け具合などをも含めたより一層のデータ解釈の配慮が求められる。しかし、また行政への大きな貢献が見込まれる。

5.評点

   総合評点: A   ★★★★☆  


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研究課題名:【RF-1005】遺伝毒物学を使った、ハイスループットな有害化学物質検出法の開発(H22〜H24)
研究代表者氏名:廣田 耕志(首都東京大学)

1.研究実施体制

(1) 遺伝毒物学を使った、有害化学物質検出法の開発

2.研究開発目的

研究のイメージこれまでの遺伝毒性物質の検査には、細菌細胞を用いたエームス試験や、マウスを用いた小核試験が用いられてきた。これらの試験の問題点は、偽陰性や偽陽性が大量に発生することであった。本研究では、DT40(ニワトリBリンパ球細胞株)を用いて、偽陰性、偽陽性を低減させた次世代の有害化学物質の検出法を開発することである。DT40細胞の特徴は、遺伝子の標的破壊の効率が高いことである。我々はこの細胞から100種を超える、DNA修復関連因子の遺伝子破壊を系統的に行い、世界最大のノックアウト細胞のライブラリーを持っている。DT40細胞の特色として、細胞の70%がS期(DNA複製期)にあり、G1からS期に移行する際のDNA損傷チェックポイントが全く機能しないことが挙げられる。この特徴は、DNA損傷を高感度に捉えるのに適している。それは、G1期にDNAが損傷を受けたとしても、DNA複製を行うので、DNA上の些細な損傷もDNA複製後にはDNA2重鎖切断に発展するからである。これまでに、このDNA2重鎖切断は染色体の断裂として、顕微鏡下で観察する技術があった。実際に染色体分析は、遺伝毒性物質の検出に用いられている。しかし、この方法はDNA断裂を可視化するので、他の損傷(例えば、UV光によるDNA鎖上の損傷)は、感度よく検出できなかった。DT40ではG1期のチェックポイントが機能せず、複製中の細胞が70%を占めるので、高確率にDNAのキズがDNA2重鎖切断に発展し、高感度にDNA損傷を捉えることができる。本研究では、(i)細胞死をエンドポイントする遺伝毒物学を応用したアッセイの開発と、(ii)染色体分析法を遺伝毒物学手法で改善することを目指した。


図 研究のイメージ        
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■RF-1005 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1005.pdfPDF [PDF1,125KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

本研究で作製した、遺伝毒物学手法に基づく①細胞死をエンドポイントとした方法、②染色体分析手法は、偽陰性と偽陽性の低い、信頼のおけるアッセイ方法であることが確認できた。
さらに、本試験を応用し、複製阻害薬品によって引き起こされる染色体断裂が、DNA切断を伴わないという、これまでの常識を覆す結論を得た。
<考察及び今後の展望>
本試験で作製した細胞死をエンドポイントとしたアッセイ手法は、誰でも短期間に簡便に実施可能のアッセイ法であり、ハイスループット化しやすいというメリットもある。今後、新しい毒物評価法として取り入れてほしい。
申請者は、本方法を抗がん剤のスクリーニングに応用したいと考えている。高齢化の進む今日にあって、がんの克服は急を要する課題である。ガン細胞の特徴として、特定のDNA修復経路が減弱していることが挙げられる。DNA修復研究が進み、各修復経路の関係が詳細にわかってきており、ガン細胞で減弱した経路と相補的関係にある経路を予想できる時代になっている。そこで、申請者は、各DNA修復経路の阻害薬品の同定をし、ガン細胞ごとに最適な抗がん剤を作製したいと思っている。つまり、ガン細胞で減弱した経路と相補的関係にある経路を特異的に阻害できる薬品を作製したいのである。
本研究で作製したバイオアッセイ法は、この目的に向けた薬品探索に最適であり、本方法を応用し、将来に薬品開発に資する技術に繋げて行きたい。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会RF-1005(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

本試験で作製した細胞死をエンドポイントとしたアッセイ手法は、誰でも短期間に簡便に実施可能のアッセイ法であり、ハイスループット化しやすいというメリットもある。
さらに、遺伝学手法を用いた本アッセイシステムのフィロソフィーは、遺伝毒性物質のみならず、他の毒性検査においてもすぐに使用可能の技術となる。今後、DNA修復経路の変異体以外の様々な代謝経路(例;小胞体ストレス経路、ミトコンドリアストレス経路、タンパク質合成経路、など)の変異体を作製すれば、様々な生物内での代謝経路に悪影響を及ぼす化学物質の検出に用いることが出来る。
以上の2点から、本研究の成功は今後の環境政策に大きく貢献する。
<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
① 遺伝毒物学手法による細胞死をエンドポイントにしたアッセイ手法を確立した。
② 遺伝毒物学手法を応用した染色体分析手法を確立した。

4.委員の指摘及び提言概要

エームス試験等とは異なった方法で有害化学物質の発がん性を評価する方法を検討し、偽陰性、偽陽性の少ない手法の確立を試みた。しかし選択した細胞の妥当性、濃度範囲の設定、結果の説明が雑駁であり、他の方法と比べての長所が明確でない。

5.評点

   総合評点: B   ★★★☆☆  


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研究課題名:【ZRFb-12T1】流域に沈着した放射性物質の移動と消長に関する文献調査および知見整理(H24〜H24)推進費復興枠
研究代表者氏名:古米 弘明((社)日本水環境学会)

1.研究実施体制

(1)流域に沈着した放射性物質の移動と消長に関する文献調査及び知見整理

2.研究開発目的

研究のイメージ本研究の目的は、環境中に放出され流域に沈着した放射性物質の環境中での挙動に関する文献調査を行い、放射性物質の環境中での移動及び消長についての科学的知見を集約・整理して提示することである。すわなち、森林、農地、市街地等における移動と消長に関する国内外のこれまでの調査研究の文献等情報を収集するとともに、収集した情報から、放射性物質の環境中での挙動に及ぼす影響因子を考慮しながら主要なプロセスを抽出し、長期および短期の両方の視点で時間経過に伴う挙動の変化等を整理することを目的とした。


図 研究のイメージ        
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■ZRFb-12T1 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/ZRFb-12t1.pdfPDF [PDF494KB]

3.本研究により得られた主な成果

(1)科学的意義

放射性物質(放射性セシウム)の環境中での挙動に関する学術的な報告を収集し、森林、農地、市街地、河川等の対象場ごとに知見を整理し、それぞれの場所における放射性物質の移動や消長の特徴を文献に記載されている重要な関連情報とともにまとめることができた。成果イメージ図


図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会ZRFb-12T1(近日掲載予定)

(2)環境政策への貢献

環境省水・大気環境局水環境課と密接に連絡をとり、広域に拡散し沈着した放射性物質の流域内における移動と消長について理解する上で留意すべき知見や、今後のモニタリング時の注意点について情報提供することに貢献できた。
<行政が既に活用した成果>
関東地方環境事務所、福島再生事務所内除染情報プラザ等で啓発用資料として、当研究課題の報告書及びリーフレットを用いている。
<行政が活用することが見込まれる成果>
当研究課題の報告書を送付した全国の自治体で、資料としての活用が見込まれる。また、市民への啓発用資料としてのリーフレットの活用が期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

放射性セシウムの環境中での挙動に関する国内外の文献等情報を収集し、森林、農地、市街地、河川などの場所における放射性物質の移動や消長の特徴をよく整理して、研究者や行政担当者が利用し易い形にまとめている。また、重要なポイントは「提言」として提示され、今後の研究や対策に対する指針として有用なものとなっている。これらの整理された情報は、除染等を含む今後の環境中でのセシウムの挙動把握のための調査研究や対策に非常に有用な知見であると判断される。適切な公開方法により、広く利用されることが強く期待される。

5.評点

   総合評点: A  ★★★★☆  


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