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研究課題別評価詳細表

II. 中間評価

中間評価  4.  自然共生型社会部会(第4部会)

研究課題名:【4D-1201】シマフクロウ・タンチョウを指標とした生物多様性保全−北海道とロシア極東との比較 (H24〜H26)
研究代表者氏名:中村 太士(北海道大学)

1.研究計画

研究のイメージ 河川水辺生態系の現状評価と劣化要因を、シマフクロウとタンチョウを指標として明らかにし地図化する。さらに、遺伝的多様性・アンブレラ種としての観点から、現状の保全策への提言を行う。そして、社会・自然環境の将来予測を実施し、その予測に基づいた自然再生適地の抽出とシナリオ分析を行う。
(1)タンチョウ・シマフクロウの生息環境解析
2種の道内の各生息地及びロシア極東地方での環境条件、餌環境、行動圏の抽出と、これらを規定するパラメーターの比較研究により、国内生息地ポテンシャルの解析を行う。これによって、北海道で繁殖地として可能性の高い場所を抽出し、土地利用将来予測に基づく生息地拡大の検討を行う。
(2)遺伝的多様性と近交弱勢解析
 2種の北海道集団におけるボトルネック影響評価を行い、過去から現在への各地域個体群における遺伝的多様性の変動と成立過程を解明する。さらに、ロシア極東との比較による北海道集団の遺伝的多様性評価を実施する。死亡個体の先天的な染色体異常の有無、再導入・野生復帰に向けて遺伝情報を蓄積する。
(3)指標種としての有効性解析
 森林性のシマフクロウと湿原性のタンチョウという生息地要求が異なる2つのアンブレラ種が、実際に他の生物群集の多様性をどの程度包括しているか、北海道生物多様性データベースを使って評価する。
(4)将来シナリオと生息地保全・復元計画
 北海道及びロシア極東地方の土地利用変化解析を行い、過去の変動履歴とその要因を明らかにする。さらに、人口減少等を踏まえた社会経済的な将来予測をもとに、河川水辺生態系の変化を現地調査ならびにモデル解析により明らかにする。そして、2種の保全・生息地復元シナリオを提案する。


図 研究のイメージ        
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■4D-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/D-1201.pdfPDF [PDF132KB]

2.研究の進捗状況

(1)タンチョウ・シマフクロウの生息環境解析
 2種の生息地を確認し、発信機やCCDカメラ等による生息・繁殖に関するデータの収集を開始した。その結果、北海道のタンチョウの分布は道東の湿地植生に集中しており、自然状態で個体群が維持されているロシアに比べ単位面積当たりの個体数が多い傾向にあること、北海道のシマフクロウは繁殖成功率が2割程度と低く、一部の生息密度増加地域では種内競争が起こり始めている可能性があることなどが明らかとなった。
今後も2種の調査を継続し、生息・繁殖に必要な環境条件の解明を目指す。
(2)遺伝的多様性と近交弱勢解析
 タンチョウとシマフクロウのマイクロサテライトおよびミトコンドリアDNAの遺伝情報解読、行動異常を示すシマフクロウの先天性染色体異常の解析、ロシア極東における2種の分布状況と標本の保管状況の調査を行った。その結果、北海道のタンチョウは、サンプルが得られた2006年から2012年の間に遺伝的多様性の変動は見られず、地域集団間の遺伝的分化や遺伝的多様性の違いも顕著ではないこと、シマフクロウは、サンプルが得られた1880年代から2012年において、1980年代に遺伝的多様性が低下して近交化が進行したこと、道内には5つのハプロタイプが存在しており各地域集団は遺伝的に分化していることなどが明らかとなった。
 今後は、2種の現生個体群の遺伝情報読解を継続すると共に、剥製や出土骨などを用いた過去の遺伝情報の読解も実施し、2種の遺伝的多様性の変遷の解明を目指す。
(3)指標種としての有効性解析
 北海道生物多様性データベースのデータを精査した結果、2種の指標種としての有効性解析には、鳥類の分布データが利用出来そうなことが判明した。しかし、生物の分布データは調査努力量が地理的に偏っていることが多く、これを考慮しないまま生息地解析を行うと、実際の生物の生息状況とは異なる傾向を示す可能性がある。本データもこれに当てはまり、調査努力量の地理的偏りを考慮した解析が必要なことが判明した。
 今後は、整備した鳥類データをもとに、調査努力量の地理的偏りを考慮した生息地解析の手法を開発し、2種の指標種としての有効性解析を実施する。
(4)将来シナリオと生息地保全・復元計画
 釧路管内対象地域における農林業の現状把握、全道における農地利用の変遷把握、放棄農地の植生変化を把握するための調査地選定を行った。その結果、不良農地の放棄や人工林の伐採圧が高まりつつある対象地域の中に、不良農地を森林に戻す取り組みを行う地域や、森林整備計画に河畔林への配慮を盛り込んだ地域が存在すること、全道的に放棄農地は農業地域の辺縁部を中心に発生し増加傾向にあること、放棄農地の中には乾性植生や湿性植生に遷移した可能性のある箇所が存在することなどが明らかとなった。農業活動の縮小は2種の生息地拡大に寄与する可能性がある。
 今後は、対象地域の生物多様性保全に係る社会的合意形成を可能にした条件と、土地利用と植生の変化を予測するための現地調査を実施し、保全・復元計画の作成を目指す。

3.環境政策への貢献

シマフクロウ・タンチョウの保護増殖事業の次の段階として、道東地域に集中・過密化する個体群の分散をはかる必要がある。このため、環境省と林野庁は、生息地の分散計画を樹立する方向で検討に入っている。本研究は、2種の生息・繁殖に適する環境条件を解明し、将来の環境変化の推定と合せることで、将来の生息適地の抽出を可能とする。これと遺伝的多様性情報を合わせることで、遺伝的多様性に配慮した分散計画のための再生適地の選定も可能となる。また、2種が他の生物種群の保全にどの程度貢献するかを示すことにより、本事業に科学的な信頼性を与えることができる。更に、生物多様性保全に係る社会的合意形成過程の解明により、保全・再生を実現するための施策の策定に必要な項目を提言することも可能となる。

4.委員の指摘及び提言概要

北海道における、自然再生の方向の共有化や、将来シナリオと生息地保全・復元計画を進めることによる具体的地域活動に結びつく情報となることが期待される。野生と餌づけの問題を含め、適正な保護に向けての提言や将来シナリオをより明確にすることが求められる。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【4D-1202】国際河川メコン川のダム開発と環境保全−ダム貯水池の生態系サービスの評価 (H24〜H26)
研究代表者氏名:福島 路生((独)国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ 本研究は、流域環境に対するダム開発の影響を最小限にとどめ、持続可能な発展へとメコン地域を導くことを最終的な目的とする。ダム建設によって失われる生態系機能や生態系サービスを評価すると共に、逆に生み出される機能やサービス(特に漁業)について定量的な評価を行う。4つあるサブテーマの概要を記す。
(1)ダム貯水池の物質循環−貯水池の微生物による有機物分解、栄養塩無機化速度、一次生産、植物プランクトン組成、有害藻類、窒素・炭素安定同位体比を指標とした物質循環をモニタリングする。
(2)メコン淡水魚の基礎生物学的研究−貯水池に放流される淡水魚について、食性・成長・繁殖等の基礎生物学的な特徴を把握するとともに、各貯水池の漁獲統計データから漁業生産量を求める。また養殖に適した魚種の選定や適正放流量を求める。
(3)メコン淡水魚の回遊生態解明−主要な淡水魚についてその回遊生態を調べる。ダム建設予定地と回遊経路あるいは産卵場所との空間的な関係から、生態系サービスに対するリスクの高いダム開発計画を指摘する。
(4)ダム建設の生態学的コスト-ベネフィット解析−数理モデルを用いて、ダム開発で失われる漁業生産(コスト)を貯水池から得られる漁業生産(ベネフィット)でどの程度補うことができるか科学的に評価する。


図 研究のイメージ        
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■4D-1202 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/D-1202.pdfPDF [PDF383KB]

2.研究の進捗状況

(1)ラオスとタイにある5つのダム貯水池、また比較対象地として自然湖沼であるカンボジアのトンレサップ湖において、水質、物質循環,一次生産量,ミクロキスティス密度等を3か月毎に観測するモニタリング体制を整備し、これまで6回ほどの観測を実施した。また食物網構成要素となる生物群に対し,炭素・窒素安定同位体比から栄養段階と有機物の起源を推定するために、植物プランクトン、貝類、魚類を採取した。
(2)貯水ダムの養殖魚を対象に、耳石の日輪・年輪解析、また漁獲データの体長頻度分布から、種ごとの成長速度と産卵場所を推定した。また成魚の年齢査定を行い、成長モデルを構築した。
(3)メコンで最も多く漁獲される回遊魚について、レーザーアブレーションICP質量分析計によって耳石の元素分析を行い、その回遊生態について興味深い知見を得た。
(4)モデル構築に必要なダム貯水池の魚類生産量などの統計資料を現地で収集した。ダム建設のコストベネフィットを比較するため、閉鎖系であるダム貯水池と開放系である河川生態系での物質循環を再現する数理モデルの開発に着手した。

3.環境政策への貢献

メコン地域への開発援助は歴史も古く、規模も大きい。しかしながら、援助に伴う環境影響については、これまでほとんど取り組みがされていない。本研究は、ダム建設により失われる生態系サービスや機能、また反対に生み出されるサービスや機能について定量的な評価を行い、現地の意思決定者がメコン地域を持続可能な発展に導くための科学的判断基準(ガイドライン)を提供する。具体的には、貯水池を建設することで生じるアオコ発生のリスクを事前に示す。また代表的な淡水魚についての生物・生態学的な知見(生息環境や基礎生物学的情報)を蓄積し、世界有数な生物多様性ホットスポットでもあるメコン流域の自然環境保全に役立てる。さらにダム貯水池から期待できる漁業生産について、一次生産速度や物質循環構造などから推定するための評価技術を開発する。これらの知見や技術に基づいて、リスクの小さいダムサイト候補地の選定を、科学的かつ戦略的に行えるようにする。

4.委員の指摘及び提言概要

日本としてメコンへのコミットは重要な課題であるが、最終成果の具体的な内容及び政策への具体的な貢献の明確化、漁獲生産量に偏りすぎている生態系サービスを淡水生態系全体として体系的に見るようにすること、サブテーマ間の関係の明確を行うことが求められる。

5.評点

   総合評点:B  ★★★☆☆


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研究課題名:【4RFd-1201】希少種の人為的導入による、在来種への交雑を介した遺伝子浸透−愛媛県タナゴ類の事例 (H24〜H26)
研究代表者氏名:畑 啓生(愛媛大学)

1.研究計画

研究のイメージ 本研究は、愛媛県松山平野において、在来の希少種ヤリタナゴと、人為的に福岡県から導入されたと考えられる希少種アブラボテとの交雑と、ヤリタナゴへの遺伝子浸透を明らかにして、地域住民と協働して、ヤリタナゴを交雑による絶滅から保護することと、同時にアブラボテについて管理下で生息域外保全を行うことを目的としている。この目的を達成するために、形態学的観察と分子遺伝学的手法、さらに野外と実験室における生態観察を同時に行って、これら在来種と移入種の二種の交雑の実態とそのメカニズムを明らかにする。これらより得られた科学的知見を用い、もともと地元河川や泉群の保護活動を行われている地元住民と協働し、さらに地元住民を巻き込んで、在来の希少種ヤリタナゴを絶滅から保護すると同時に、泉群を適切に用いて移入種であるが希少種でもあるアブラボテの生息域外保全を行っていく。そして、市民の手で、これら在来希少種の保護と、泉を用いた生息域外保全について、順応的な管理が行っていけるように、その基盤を構築する。


図 研究のイメージ        
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■4RFd-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/RFd-1201.pdfPDF [PDF280KB]

2.研究の進捗状況

愛媛県松山平野、および周辺他県から採集したタナゴ類について、ミトコンドリアのCytochrome b遺伝子領域を用いて分子系統樹を構築した。その結果、松山平野で採集されたアブラボテは全ての個体が地理的に離れた福岡県西部や佐賀県の個体群と同一のクレードに含まれ、松山のアブラボテはこれら地域からの人為的移入集団である可能性が強く示唆された。
 核遺伝子のマイクロサテライトマーカーを用いた解析の結果、調査した松山平野全体では22.5%(40/178個体)の交雑個体が見られた。交雑個体は、側線有孔鱗数と臀鰭分岐軟条数によりヤリタナゴとされた個体の27.2%、アブラボテ型とされた個体の26.9%を占めた。ヤリタナゴとアブラボテの外部形態に、ランドマークを設け、幾何学的形態計測により2種と交雑個体を比較した結果、核遺伝子が交雑型の個体は、ヤリタナゴ様からアブラボテ様まで、多様な輪郭を持つことが分かった。今後松山平野在来のヤリタナゴを保護するためには、遺伝子マーカーを用いた調査が必要であること、さらにこれ以上アブラボテとの交雑が進まないように早急に純系のヤリタナゴの生息域を確保し保護していかなければならないことが分かった。
 松山平野におけるタナゴ類の分布は、流速が早く河川幅のある水域にヤリタナゴが分布し、湧水池から近く流速が遅い地点にアブラボテが分布しており、2種は棲み分けていた。しかし、交雑個体は湧水池から河口付近まで幅広く分布し、松山平野で広く見られた。松山平野における産卵床となる淡水二枚貝はマツカサガイが最も優占していたが、その分布は局所的であった。松山平野では6月中旬から8月下旬にかけてヤリタナゴとアブラボテの繁殖期が重複しており、この時期に交雑由来の仔魚が多く孵出し、マツカサガイの密度が低い地点ほど交雑が生じる割合が高いことも分かった。
 母系遺伝するミトコンドリア遺伝子に着目すると、交雑個体のうち66%はヤリタナゴ型、34%はアブラボテ型の遺伝子を持っており、ヤリタナゴとアブラボテとの交雑が生じる際、両種の雌ともに交雑に寄与し、浸透交雑が双方向に進んでいることが明らかになった。マイクロサテライトマーカーを用いた帰属性解析の結果から、二種の遺伝子浸透が進んでいることも分かった。こうして松山平野における在来希少種ヤリタナゴと国内移入種アブラボテの分布と交雑の実態が明らかになってきた。さらに、なぜこの地では二種の生殖隔離機構が失われているのかを明らかにし、同時に泉を含む水域の環境調査を進め、ヤリタナゴ保護区、アブラボテ隔離区の設置に取り組んでいく。

3.環境政策への貢献

本研究では、松山平野における在来希少種ヤリタナゴが、過去の研究と比べ急速に生息域を減少させていることを示した。さらにミトコンドリア遺伝子を用いて系統地理解析を行うことで、愛媛県松山平野に分布するアブラボテは、全て福岡県からの移入集団である可能性が高いことを明らかにした。また核のマイクロサテライト遺伝子マーカーを用いることで、在来のヤリタナゴと交雑が生じており、また両種の浸透交雑が進んでいるという危機的実態が明らかになった。松山平野で現在ヤリタナゴが見られる生息地はどこもアブラボテも生息しており、かつヤリタナゴとアブラボテの交雑個体も生じていることが分かった。現在のところ、純系のヤリタナゴのみからなる個体群は松山平野では見つかっておらず、松山固有の遺伝子型を持つアブラボテ地域個体群の保全が急務であることが示された。本研究の成果は地元新聞の愛媛新聞に取り上げられ(2013年3月18日)、在来種のヤリタナゴ個体群の危機と、移入種アブラボテの野外水域への移植が問題であることを指摘し地元住民に広報することができた。まずはこれらの知見を地域住民と共有することができ、次年度以降の地元NPOや行政を巻き込んだ政策立案に進めるものと考えている。

4.委員の指摘及び提言概要

松山平野におけるタナゴ類の状況が明らかになりつつあるといえる。産卵床となる二枚貝の生育環境も含めて、これからの環境保全への指針につながるとともに、交雑を防止する具体的な方法が開発できることを期待する。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【4RFd-1202】在来マルハナバチによる環境調和型ポリネーション様式の確立に関する研究 (H24〜H26)
研究代表者氏名:高橋 純一(京都産業大学)

1.研究計画

研究のイメージ 本研究では、北海道に広く分布する在来3種のマルハナバチを新規ポリネーター候補とし、遺伝子情報に基づくDNA育種法による開発を行う。北海道在来のマルハナバチをポリネーター用の生物資材として開発することで、外来種の帰化問題の解決を試みる。DNA育種法を用いた選抜育種により在来種を生物資材として開発する予定である。北海道で広範に分布する3種の在来マルハナバチを実験室内で飼育し、基礎集団を作出する。その集団に対して選抜に必要な女王の産卵数に関する遺伝変異を推定し、マイクロサテライトDNAマーカー情報とBLUP法から得られる予測育種価への最適な重み付け値を算出し、両者を組み合わせた選抜指数に基づき、実験室内で5から10世代以上の選抜を実施し、高受粉能力を有する種の選択および系統を選抜し、在来種の実用化を試みる。本研究成果により実用化が期待される在来種は、市場および施設栽培の農業の現場において大きな貢献を果たすものと期待される。またセイヨウオオマルハナバチの利用の制限が可能になることから、将来的にはセイヨウオオマルハナバチの根絶も可能になり、生態系の保全にも貢献すると考えている。


図 研究のイメージ        
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■4RFd-1202 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/RFd-1202.pdfPDF [PDF220KB]

2.研究の進捗状況

サブテーマ(1)有用在来種の室内増殖方法の確立と遺伝子解析に関する研究
選抜のための基礎集団の作成を行うために北海道各地で3種の在来マルハナバチの女王蜂を採集し、大学内の研究施設で飼育を行う。飼育下で成熟した中からコロニーサイズの大きな群を選抜する。またこれらの遺伝子型と形質についてDNAマーカーアシスト選抜に必要なマイクロサテライトDNAマーカーの開発を行うことを計画している。
平成24年度:選抜により十分な遺伝的改良量を得るために北海道各地でエゾオオマルハナバチ、エゾトラマルハナバチ、エゾナガマルハナバチの女王蜂を採集し、研究施設での飼育実験から候補種をエゾオオマルハナバチとした。エゾオオマルハナバチの成熟した巣から上位20巣を2世代にわたって選抜し、系統造成のための基礎集団を作出した。さらに遺伝子型解析のためのDNAマーカーを開発した。
平成25年度:前年度から飼育していた巣から回収した次世代の女王蜂を交配・休眠処理をし、4月に休眠明けの女王蜂を営巣させ、選抜系統を継続するとともに、再度北海道各地でエゾオオマルハナバチ女王蜂を採集し、前年度と同様に飼育実験を行い、巣の大きさ(働き蜂数)の多い系統選抜を進めている。選抜方法は、前年度と同様に予備選抜し、そこから次世代の新女王蜂と雄蜂を取り出して遺伝子型の解析を行っている。また計画的に繁殖させるために人工授精法により交尾させた個体の営巣状況を調査しながら系統選抜を進めている。
サブテーマ(2)育種モデルの確立に関する研究
量的遺伝解析による遺伝変異の推定を行うために、飼育下での基礎集団に含まれる女王蜂の産卵数の遺伝率の推定方法を確立する。さらに選抜試験を計画し、選抜強度などを変数として遺伝的改良を試算し、家畜で利用されているプログラムをマルハナバチ用に修正して使用することを計画している。
平成24年度: 基礎集団に含まれる女王蜂の産卵数に関する遺伝率を推定し、分析により推定された遺伝率を仮定し、遺伝的改良量を試算し選抜試験を設計した。コンピュータシミュレーションにより選抜試験の規模を決定した。
平成25年度:マルハナバチにおいて、BLUP法による育種価の予測から副産物のデータとして毎世代の遺伝的改良量および集団内の近交係数や血縁係数を推定している。また集団規模や交配時のペアリングの組み合わせについて検討を加えている。

3.環境政策への貢献

日本では1990 年代からトマトハウスなどにおける受粉昆虫としてセイヨウオオマルハナバチが利用されてきた。しかし本種は、北海道で帰化が進み在来マルハナバチや生態系に影響を及ぼすことから特定外来生物に指定されている。そのため早急に代替となる受粉用昆虫の開発と減少した在来マルハナバチの保全対策が必要である。
本研究では、北海道在来のマルハナバチ類を新規候補とし、増殖技術の確立とDNA 育種法による高受粉能力を持つ在来マルハナバチの選抜育種法を開発することを目的としている。
本研究により農業での受粉昆虫不足や外来種の帰化といった環境問題の解決が可能となり、環境調和型農業の実現や在来種の保全に貢献することが期待される。これまでの研究により次の成果が得られている。①北海道産在来種3種(エゾオオマルハナバチ、エゾトラマルハナバチ、エゾナガマルハナバチ)の野生女王蜂を捕獲し、営巣、次世代の生殖虫の生産に成功し、在来種のエゾオオマルハナバチが、3種の中では営巣成功率、コロニーサイズ、繁殖個体の生産数で優れていたためセイヨウオオマルハナバチに代わる代替候補種とした。②女王蜂の育児能力とコロニーサイズ(働き蜂数)には、正の相関関係が、女王蜂の交尾回数と雄蜂生産数には、負の相関関係の可能性が示唆され、有用系統の早期選抜の指標になることが分かった。系統選抜を行うさいに必要なエゾオオマルハナバチに既知のマイクロサテライトDNAマーカーを利用できることがわかった(42個/150個)。③いくつかの修正を加えれば、動物(家畜)の育種で用いられてきたBLUP法による選抜は、在来マルハナバチの育種にも利用できる可能性が示された。④実験室内で比較的多数のコロニーが維持できる在来マルハナバチを用いて、コロニーサイズを選抜形質としてBLUP法による選抜実験を行うことが可能であることがわかった。⑤休眠処理条件は、既存のクロマルハナバチおよびセイヨウオオマルハナバチの方法を流用できることがわかった。現在2世代目以降の個体が、営巣している。⑥調査中に採取した個体の中でセイヨウオオマルハナバチとは別種の可能性がある外来種の個体が採取された。遺伝子解析からBombus lucorumの可能性が示された。今年度は帰化状況および遺伝子レベルでの解析による調査を進める予定である。本種は、セイヨウオオマルハナバチの隠微(同胞)種として混同されている可能性もあるため、結果によっては、新たな特定外来種となして外来生物法への追記等の措置が必要になるかもしれないと考える。

4.委員の指摘及び提言概要

セイヨウオオマルハナバチに代わるポリネーション用エゾオオマルハナバチの実用化が期待される。一方で、他の在来種に及ぼす影響の調査や地域的な遺伝変異など、リスクを減じる方法を考慮して研究を進めて欲しい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【4ZD-1201】沿岸生態系における放射性物質の拡散過程の解明 (H24〜H26)推進費復興枠
研究代表者氏名:荒川 久幸(東京海洋大学)

1.研究計画

研究のイメージ 福島県いわき市および相馬市に定線を設定し、岩礁生態系と砂浜生態系において、無機粒子、微細藻類、海藻類、無脊椎動物、魚類の放射性物質の分布やその拡散について明らかにする。さらにそれぞれの生物種の体内における放射性物質の変化について検討する。
(1)いわき市沿岸生態系における拡散
 いわき市沿岸(福島第一原発から南55km)生態系において、岩礁域生態系として、海中粒子、海藻類、無脊椎動物・魚類(植食、雑食)を、また砂浜域生態系として、植物プランクトン、動物プランクトン、多毛類、それらを捕食する魚類を対象として、季節的なサンプル採取を行い、セシウム134およびセシウム137について濃度分析を行う。同時に各海域における生物種ごとの15Nおよび13Cの安定同位体調査から各種生物の捕食・被食関係を検討する。汚染環境および非汚染環境下で魚類の飼育実験を行い、放射性物質がどのくらい変化するか調べる。
(2)相馬市沿岸生態系における拡散
 相馬沿岸(福島第一原発から北50km)を対象海域として砂浜生態系および岩礁生態系における放射性物質調査を行う。調査項目、調査対象種はいわき市沿岸と同様とする。同時に各海域における生物種ごとの15Nおよび13Cの安定同位体調査から各種生物の捕食・被食関係を検討する。
(3)海洋生物の移動による拡散
 沿岸域沖合域相互作用域における分布では、岩礁域および砂浜域に生息する動物種について標識放流やバイオテレメトリー手法を用いて、行動範囲の検討を行う。


図 研究のイメージ        
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■4ZD-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/ZD-1201.pdfPDF [PDF503KB]

2.研究の進捗状況

(1)福島県いわき市沿岸の岩礁域生態系および砂浜域生態系を構成する海洋生物(海藻、無脊椎動物、魚類)の多くの種類について、放射性セシウム(以下Cs)濃度の経時的変化データを取得できた。これらの結果から、海藻では、放射性Cs濃度が紅藻で高いこと、一年性と多年性で大きな違いが無いことが示された。無脊椎動物では、多くの種類で放射性Csが検出された。特に魚類の餌料として重要な小型の甲殻類で比較的高いことがわかった。魚類でも多くの種類で放射性セシウムが検出された。特に、シロメバル、アイナメ、コモンカスベ属、スズキなどの特定の種で高いCs濃度を示した。またシロメバルやコモンカスベでは大型の個体ほどCs濃度の高くなる傾向が確認できた。放射性Cs濃度は極浅海域(水深20m以浅)の海底粒子で全般的に高く、特に粒径が大きいもので高かった。
安定同位体比分析の結果からは、魚類(10種)が主に海産の微細藻類を餌料としていることが示された。しかしながら、これらの生物のCs濃度と食物との関連性は明らかではなかった。
汚染環境で飼育した複数種の魚類は6か月から1年後においてもほとんどの種で10Bq以下を示した。一方、非汚染環境下で飼育したシロメバル(筋肉)の放射性物質濃度は経時的にわずかに低下した。
(2)相馬市沿岸の砂浜生態系および岩礁生態系における生物種毎の放射性Cs濃度はいわき市沿岸と同じ種で高い傾向を示したが、その濃度はいわき市沿岸より低かった。また安定同位体比の分析から、当海域の無脊椎動物および魚類が、底性微細藻類を中心に植物プランクトンや陸起源の有機物等、複数起源の生物を食物としていることが示された。数種の魚類の耳石Srの蓄積に原発事故の影響は見られなかった。
(3)岩礁域および砂浜域に生息し放射性物質濃度の高いシロメバルおよびアイナメについてバイオテレメトリー手法を用いて、その移動を調べた。シロメバルは同一海域に定位していることが分かった。

3.環境政策への貢献

現在、試験研究機関が行なっているこの海域における放射性Cs濃度の分析結果は、有用な水産生物に偏っており、それ以外の生物のデータは非常に少ない。海底粒子についてもサンプル数が少なく、また多くの調査が沖合でのサンプリングを中心としているため、高い濃度を示すデータは少ない。しかしながら、本研究で明らかにしたように、実際には水深20m以浅の沿岸域の粒子のCs濃度は比較的高く、特に粒径の大きな粒子において著しく高かった。すなわち粒子の移動拡散による濃度低下は小さく、自然崩壊によってのみ低下すると予想される。沿岸域において、多くの種類の生物やその環境(水および粒子)で放射性Csが検出されることから、放射性物質濃度のモニタリングが重要であることを示している。また本調査結果の一部から放射性物質濃度の変化の著しい種や明瞭な傾向の見られない種が明らかとなった。このことは、いわき市沖および相馬市沖において長期モニタリングするべき生物種と海域を選定する際に、有益な材料を提供すると考えられる。

4.委員の指摘及び提言概要

観測は予定通り行われている。拡散については濃度変化のモニタリングだけでなく、濃縮を含めた機構解明まで進めるべきであり、他のモニタリング事業との連関もはかり、予測に役立つ方向に研究を進めて欲しい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【4ZD-1202】上流域水系ネットワークにおける森林-渓流生態系の放射性物質移動と生物濃縮の評価 (H24〜H26)推進費復興枠
研究代表者氏名:五味 高志(東京農工大学)

1.研究計画

研究のイメージ 福島第一原子力発電所事故による放射性物質の計測データでは、福島県を中心とした中山間地域に、除染対象となる高い空間線量分布を示す地域が存在することがわかっている。これらの地域は森林地域であるため、森林の落葉分解、土壌への吸着、河川や砂防ダム内での滞留などにより、水系ネットワークを通して、放射性物質が下流域の河川生態系に移動・蓄積されることが予想される。本研究では、森林流域生態系の水系ネットワークを通しての放射性物質分布、移動、滞留を解明するとともに、生物濃縮プロセスを評価することを目的とし、以下の5つのサブグループ研究で構成される。
①森林流域生態系内の河畔域から渓流における落葉供給、水、土壌、有機物流下に伴う、水系網ネットワークの放射性物質移動量を把握する。
②落葉分解、土壌吸着、木本や草本植物への吸収などの陸域生態系の物質循環における放射性物質移動量および蓄積量を把握する。
③森林流域における放射性核種および空間線量の分布状況をGISにより分布図を作成し把握し、森林、河川、砂防ダムなどにおける蓄積量を把握する。
④森林の陸域および渓流の水域生態系内の生物構成種の把握と放射性物質量を把握
⑤森林、渓流、河畔林域における生物濃縮の評価のために、生息環境と環境安定同位体による食物網(捕食-被食関係)構造の解明を行う。


図 研究のイメージ        
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■4ZD-1202 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/ZD-1202.pdfPDF [PDF1,449KB]

2.研究の進捗状況

①森林水域ネットワークにおける放射性物質の移動量の把握:平成24年8月に調査地を選定し、森林流域からの流出土砂や水流出の観測体制、およびサンプル採取と分析プロセスを確立した。流出土砂の採取を行うとともに、土壌などの放射性核種の分析を当初計画通りに実行することができた。
②森林生態系の物質循環と放射性核種の蓄積量の評価:平成24年8月に森林流域における観測体制およびサンプル採取と分析プロセスを確立した。観測プロットにおける落葉、土壌などのサンプルを採取した。さらに、東京農工大の演習林における伐採樹木から枝葉や樹皮のサンプルを採取し分析した。
③放射性核種の蓄積量と流域空間分布の把握:砂防ダムでの放射性核種の蓄積量を把握するとともに、ArcGISにより森林流域内の放射線空間分布図を作成した。また、これらの地域における浮遊土砂や細粒有機物の流出量の観測を開始することができた。
④生息環境および生物体内における放射性物質量の把握:陸域および水域生態系を構成する生物種の採取を、平成24年8月、11月、2月に行った。放射性物質の分析に必要となる量および小型生物の分析プロセスを確立することができた。
⑤生態系食物網構造の解明と生物濃縮の評価:採取された生物種について生物の採取保存方法、および体内における放射性セシウムと安定同位体分析プロセスを確立した。生物種における窒素および炭素の安定同位体分析を随時行うことができた。

3.環境政策への貢献

山地森林流域から有機物や粘土鉱物に吸着し流出している放射性物質は、水系ネットワーク内に存在する砂防ダムなどに堆積することが明らかとなった。森林域から下流の農地や水田などへ流出する放射性物質の評価では、これらの構造物の設置状況を把握する必要があることが解明された。また、森林から農地への移行帯に貯水池などを設置することにより森林域からの放射性物質を効果的に捕捉することが可能であることも示唆された。
森林流域における森林生態系および渓流生態系は、ともにスギリタ—を起点とした栄養段階によって成り立っていることが解り、スギリタ—の汚染度が生物の汚染度に影響していることが示唆できた。ただし、渓流内に堆積しているリタ—は陸上のリタ—と比較すると汚染度が低い傾向がみられたことから、落葉におけるセシウム動態では、流水中における放射性セシウムの剥離を評価することが重要であること考えられた。
渓流—渓畔林域生態系における生物濃縮を評価する上では、一次生産者の汚染度を考慮する必要があることが示された。イワナなどは特に夏期において森林の陸域生態系に餌資源を依存していることから、餌資源の汚染度がイワナの汚染度に影響したことが解ってきた。また、イワナの汚染度は、個体サイズや季節によって異なることが示され、イワナの代謝によって異なることが示唆された。今後、餌資源や代謝率などを考慮したモデル解析により、長期的なイワナの汚染度を評価し、内水面漁業などへの長期的影響評価を行うことができると考えられた。

4.委員の指摘及び提言概要

各点での放射性物質量の測定は進んでいる。全体としての物質移動の解明がさらに望まれる。さらに林野庁や環境省の森林に係る除染等のとりまとめ、公表されている知見を把握、意識しつつ研究を進めて欲しい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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