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研究課題別評価詳細表

II. 中間評価

中間評価   1.  全領域共通・領域横断部会(第1部会)

研究課題名:【1E-1202】街区型環境未来都市モデルの構築とそれに基づく都市政策提案 (H24〜H26)
研究代表者氏名:北詰 恵一(関西大学)

1.研究計画

研究のイメージ 都市を多様なストックの集積と捉え、そのストックの価値を十分に高めるため、市民の環境認識を明示的に扱いつつ、社会資本、都市機能およびそこにアクセスする交通、エネルギー・都市代謝インフラを通じて一貫した行動モデルを構築し、それを用いた環境政策提案を行う。
(1)社会資本ストック・マネジメントによるコンパクトな都市形成論
 社会資本を、各ディストリクトの地域性から説明される元来の性質に基づく超長期的視点から捉え、市民生活と密着した管理指標を開発しながら、逐次的・空間的にマネジメント可能な社会資本ストック・マネジメントモデルを構築し、市民の行動・評価データをもとにシミュレーションを行うことで、政策評価を行う。
(2)都市機能ストック・マネジメントとスマートモビリティの形成によるQOL向上
 市民の環境交通行動と、それにふさわしい都市機能配置のあり方を検討し、QOL(生活の質)の向上を具体的に評価できる都市機能ストック・マネジメントモデルの構築を行う。エネルギー消費を中心とした環境と個々の交通運輸主体の政策感度との密接な関係を知ることができ、それに基づいて環境交通政策提案を行う。
(3)都市環境ストック・マネジメントによる都市代謝インフラとエネルギーインフラのリ・デザイン
 エネルギーと都市代謝施設の両側面からの時空間軸上での長期的高効率化を目標とし、機能空間分布とエネルギー供給・需要の量的分布を総合的に最適化するための環境選択行動に基づく都市環境ストック・マネジメントモデルを構築し、シミュレーションによる政策提案を行う。


図 研究のイメージ        
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■1E-1202 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/E-1202.pdfPDF [PDF1,141KB]

2.研究の進捗状況

(1)社会資本ストック・マネジメントによるコンパクトな都市形成論
 環境都市(柏、横浜、北九州のほか、神戸、富山、岐阜、豊田等)の環境政策実施状況などを把握し、統計指標を用いた街区特性分析による世帯構成別街区分類を行うことで実態把握を行った。ディストリクト(性質が似通った複数街区群)とほぼ同一の国勢調査小ゾーン単位での時間帯別電力使用分布集計値を推計し、住宅を対象としたものではあるものの、電力需要の平準化ポテンシャルを表現する指標を開発して、評価した。その上で、業務地区・住宅地区を含む空間的なマネジメントと世帯構成の変化に伴う時間的推移を考慮したマネジメントを可能にする社会資本ストック・マネジメントモデルの基本的な枠組みを作成した。都市機能ストック・マネジメントモデルとは外出行動モデルを通じて連携し、都市環境ストック・マネジメントモデルとはエネルギー選択を通じて連携するという関係性を明確にし、モデルの全体的な枠組みを構築した。ここで構築したモデルは、現段階では、集計的な値を用いたものにとどまっているが、エージェントベースに展開していくため、今年度予定している市民の行動選択に対する意向調査の仕様を定め、エージェント間の協調行動や判断、それらのばらつきなどを反映したパラメータ推計が可能となるモデルに向けた調査の枠組みを決め、実施に向けて研究を進めている。
(2)都市機能ストック・マネジメントとスマートモビリティの形成によるQOL向上
 パーソントリップデータの集計単位である小ゾーンから、より詳細である街区およびディストリクト単位でも分析できる時刻別都市活動者アクティビティ・モビリティモデルを構築し、状況をGIS上に表示して現状分析を行った。これにより、都市機能配置によるトリップ変化、歩いて暮らせるまちにおける移動や交通シェアリングサービスなどを想定した生活仕様の変化によって向上するQOL(生活の質)を具体的に評価できる都市機能ストック・マネジメントモデルの基本的枠組みを作成することができた。このシステムをベースとし、今年度予定している都市機能配置・連携から見た環境交通行動のための意識調査結果によって、マルチエージェントベースで表現できるモデル構築およびパラメータ設定を行うために研究を進めている。
(3)都市環境ストック・マネジメントによる都市代謝インフラとエネルギーインフラのリ・デザイン
 夏期の事務所・商業・住居(3用途)別の電力負荷推定モデルと太陽光発電(PV)と蓄電池(BT)の運転制御モデル、PV、BT導入の費用効果算定モデルを構築した。構築したモデルを用いて神戸市旧居留地区を対象に、PVとBTの導入効果を街区単位(3用途別、街区一括)および街区群単位と、そのマネジメント単位の違いによる負荷平準化効果(ピーク電力削減量(kW))とPV、BT導入の費用効果分析を行った。これによりエネルギー供給・需要の量的分布をGIS上で管理できる都市環境ストック・マネジメントモデルの基本的枠組みを作成することができた。現在、旧居留地区内のオフィスビルでの電力消費量データを計測中であり、モデルの検証ならび既設ビルの電力消費特性とその削減対策を考察する。さらに総電力消費量の推定モデルを構築し、街区単位で需給バランスの調整を行い、マネジメント性を向上することが低炭素化に寄与することを明らかにするために研究を進めている。

3.環境政策への貢献

環境政策に対するエージェントベースの都市活動の応答を分析できることから、環境政策効果を、市民の意識により近いベースで、より細かく検討できる可能性を持っている。また、シナリオに基づく多様な変化や戦略的な政策に対する動向を知ることができる可能性を持っている。それらの応答は、単に直接的な環境行動に留まらず、居住、交通、エネルギー選択などの都市活動を直接取り扱っているので、環境政策が都市計画の対象とする分野に対する影響を評価でき、そのことによって、実際には、さまざまな要因を検討すべきであるものの、都市政策全体に向けてメッセージを提供できる成果を期待できることとなる。

4.委員の指摘及び提言概要

サブテーマそれぞれの研究成果は評価でき、わかりよい進捗状況に見え、都市改革の評価には使えるモデルが完成しうる可能性が期待される。このモデルがどこでも使えるのか、使えるとすれば、どのような要因を入れるか考えてほしい。さらに時間のファクターを入れると、一般的になる。具体的ないくつかの地域に適用した事例を示してほしい。都市機能/都市環境ストック・マネジメントにおいて意識改革が求められているが、もととなる解析方法として、物理的動線だけでなく心理的動線も取り上げられないのか。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【1F-1201】再生可能エネルギー需給区連携による『もたせ型』分散エネルギー・システムの開発 (H24〜H26)
研究代表者氏名:小林 久(茨城大学)

1.研究計画

研究のイメージ ケーススタディに基づいて再生可能エネルギーを自給する自立的なエネルギー需給単位(「セル」)のモデル化を行うとともに、制御機構のプロトタイプ等を開発して、自律分散的制御により「セル」群がエネルギーを相互融通・自給する分散エネルギーシステムを技術工学的・社会経済的観点からデザインし、基本設計や実証事業へ展開できる水準のシステム・技術の指針・仕様を明らかにすることを目的とする。そのために、(1)再エネ需給区「セル」のモデル化と分類、(2)需給システムとエネルギー相互融通システムの開発、(3)分散型電力系統・融通システムの開発、(4)開発・運営主体の形成と評価の4サブテーマを設定し、つぎのような計画で研究を推進する。
(1)エネルギー種別需要を把握し、エネルギー資源別開発量を推計するとともに、小規模再生可能電源と未利用熱資源、熱生産に着目して、再生可能エネルギー自給の需給区(セル)モデルを作成し、効率的な再生可能エネルギー利用のための需給マッチングシナリオを設定する。さらに、需給収支、環境社会条件などに基づいてセルの類型区分および成立領域を明らかにする。


図 研究のイメージ        
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(2)再生可能エネルギーを活用するセル内のエネルギーシステムを数理モデル化するとともに、セル間のエネルギー相互融通を組み込んだ最適化型モデルを作成する。地域に賦存する再生可能エネルギー供給、エネルギー需要に対し、望ましいセル間のエネルギー融通形態や技術構成を明らかにする。
(3)セルとセル群の配電系統、電力融通、基幹系統との連系に関する技術工学的課題を洗い出し、「もたせ型」分散エネルギー需給の成立に必要な電力・制御システムを設計・評価する。
(4)地域主導でエネルギー資源開発するための体系や体制、開発するエネルギー資源の所有や分配に関する調整・合意、資金調達・費用負担のあり方を明らかにし、分散型エネルギーシステムの開発・運営の形態を提案して、システムを社会・経済的側面から分析・評価する。さらに、再生可能エネルギー普及のための制度上の制約を明らかにして改善策を提案する。

■1F-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/F-1201.pdfPDF [PDF290KB]

2.研究の進捗状況

2012年度はサブテーマごとにシステムやモデルの検討、関連するデータ整備等を行い、それぞれが計画を順調に消化したので、2013年度は予定通りに「セル」群からなる「もたせ型」分散エネルギーシステムの具体化と導入・運用シナリオの体系的検討が行える状況にある。さらに、電力システムから要求として「セル」スケールは電源容量100kW程度が下限であることが示され、資源開発、需給システム、事業主体形成の検討における「セル」について、サブテーマ間での認識共有が図れた。各サブテーマの進捗と成果の概要は以下の通りである。
(1)再生可能エネルギー需給区(「セル」)のモデル化と分類
 開発資源を特定して、必要な調査を開始するとともに、開発計画概要を決定した。また、電力計測とデータ収集・聞き取り調査に基づき、冬期、中間期の家庭の標準エネルギー日需要をモデル化し、需要モデル作成の要素(世帯数、年齢構成、行動パターン)を抽出した。今後、調査により夏期需要のモデルが作成できれば、エネルギーシステムの具体的な検討が行える。
 さらに、アンケート調査を実施し、停電受け入れという需要対応が、サブ3の「セル」、[セル群]の電力システムデザインにおいて重要なオプションになることを示した。この他、セル成立領域の検討のために、資源の開発可能量と電力・熱需要量を推計して需給バランスを分布図として作成する手法を検討し、調査地区が含まれる市域を対象に分布図作成を試みた。
(2)需給システムとエネルギー相互融通システムの開発
 「湧出セル」、「融通セル」、「調整池」で構成するシステムを数理計画モデルで表し、建物構造、世帯構成や地域性を取り入れたモデル計算用のエネルギー負荷作成手法を整備した。つぎに、最適な技術構成、機器運用、エネルギー融通の形態をシミュレーションする手法として、①全体最適(システム全体の総コストの最小化)、②個別最適(調整池が買取り価格を提示して各セルは個別に最適化、調整池は収益最大化)を採用した。さらに、シミュレーションにより、全体最適が「湧出セル」に負担を強いること、個別最適は全セルの収益を保証するが、セル間に偏りが生じ全体メリットが縮小することを示し、今後は個別最適解を改良することとした。
(3)分散型電力系統・融通システムの開発
 ディーゼル発電機、太陽光発電、蓄電池で構成される自律分散制御型の独立マイクログリッドを構築し電力需給バランス維持が可能であること、また2セルをHVDC(高圧直流送電機器)で接続するサンプル系統を構築しセル間の自律的な電力融通が可能であることを、シミュレーション解析により明らかにした。これらの成果から、独立系統と電力融通のモデル具体化のために、小型同期発電機システム、三相系統連系インバータ、HVDC実証装置の製作に着手した。
 この他、分散型電源大量導入による電圧変動に対し、オンロードタップ切換器付き変圧器(OLTC)と調相コンデンサを用いた階層型電圧制御を電力品質維持のために検討するとともに、特定供給としての独立電力系統の法制度上の技術課題を抽出した。
(4)開発・運営主体の形成と評価
 国内外の事例調査から、事業主体はエネルギーに特化せず、生み出す「富」の地域への再投下につながる活動に関与する形態で組織化されることが好ましいこと、事業主体を支援するコーディネート機関が重要であることを明らかにした。また、エネルギー関連の域内経済に関する聞き取り調査を行い、再生可能エネルギー普及にともなう地域経済への影響予測・分析に不可欠な地域内エネルギー経済の現状を把握した。

3.環境政策への貢献

・自立分散型エネルギーシステムのコンセプトおよび地域エネルギー開発の意義を社会に提示することで、中長期的な再生可能エネルギー開発の指針が示せる。
・再生可能エネルギー導入の拡大に寄与できる独立型電力システム運用を可能とする自律分散制御環境を具体的に提案することができる。
・外部資本による投機色の強い再エネ事業に対し、「共同運営的な再エネ事業」の差別化を図ることができ、地域主導のエネルギー開発が有用であることを周知することができる。

4.委員の指摘及び提言概要

提案している『もたせ型』分散エネルギーシステムの適用は都市型ではない地域に限定的ではあるが、データ収集など研究計画は着実に実施されている。しかしながら、政策として具体化するためには、地域ごとの資源の特徴を類型化すること、バイオマス及び水力の利用を取り込むこと、その上で具体的に適用地域を選定して実証試験を行うことなど、合意形成を含めて現実味のある成果を示してほしい。

5.評点

   総合評点:B  ★★★☆☆


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