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研究課題別評価詳細表

I. 事後評価

事後評価  1. 第1研究分科会<全球システム変動>
i. 環境問題対応型研究領域

研究課題名: 【A-0901】航空レーザー測距法による森林地上部・地下部全炭素収支の解明(H21〜H23)
研究代表者氏名: 末田 達彦(愛媛大学)

1.研究計画

研究のイメージ

インドネシア中央カリマンタン州の荒廃熱帯泥炭湿地林およびカナダ西部亜寒帯林を対象に、異なる二時点における地形と樹冠の縦断形状を航空レーザーで測定する。各時点の森林縦断形状(樹冠面−地形面)から当該時点の地上部炭素蓄積を、この森林縦断形状と地形面それぞれの二時点間の差から地上部、地下部それぞれの炭素収支を明らかにする。さらに以上の知見に基づき、現状の高炭素森林管理を続けた場合の炭素収支の将来予測を行うとともに、その社会経済的な問題点を明らかにし、これを低炭素管理に導くための制度設計を行う。
(1) 航空レーザー測距法による森林全炭素収支の解明
 本研究の根幹部分をなす航空レーザー測距法による森林の立木蓄積と炭素収支の推定を行う。熱帯泥炭湿地林では計画初年度と第三年度に同一対象の反復測定を行い、各時点の炭素蓄積の差として炭素収支を明らかにする。亜寒帯林では変化量の少なさと予算的制約から、期首測定には2003年の測定値を用い、期末測定を計画第二年度に行い、炭素収支を明らかにする。
(2) 低炭素社会における森林管理・森林政策への反映
 上記サブテーマ(1)による熱帯林と亜寒帯林の炭素収支推定の結果を踏まえたうえで、現状の高炭素森林管理を続けた場合の炭素収支の将来予測を行うと共に、その社会経済的な問題点を明らかにし、これを低炭素管理に導くための制度設計を行う。

■ A-0901  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/b-091.pdfPDF [PDF 197 KB]
※「 B-091 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


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2.研究の実施結果

(1) 航空レーザー測距法による森林全炭素収支の解明
 インドネシアでは2009年のエルニーニョに伴う森林火災により、カナダ亜寒帯林では2010年夏の長期降水により、年次計画通りの航空レーザー測定ができなかったが、前者は既存データの購入、後者は測定の一年延期により反覆測定の間隔は多少変わったが基本的に当初の予定通りの成果を得ることができた。中央カリマンタンの荒廃泥炭湿地林では、森林地上部の回復と成長による炭素吸収量1.62 tC/ha/yrに対し泥炭の焼失と好気分解による炭素放出量が37.5〜46.92 tC/ha/yrと、排出が吸収を圧倒的に上回ることが明らかになった。地上部の炭素吸収は、先に強度の択伐を受けた二次林や頓挫した農地開発の跡地で植生が回復・成長しているためである。他方、地下部からの炭素排出は、農地開発のための大規模な排水にともなう泥炭の好気化による分解の加速と乾燥化による森林火災の頻発によるものであり、事実、排水路に近いほど、またその排水路が大きいほど好気分解量も焼失量も多かった。他方、カナダ亜寒帯林では森林地下部の炭素収支は少なすぎて検出不可能であったのに対し、地上部では0.32 tC/ha/yrの吸収と、全体としては依然炭素の固定先となっていた。亜寒帯では温暖化に伴い永久凍土の融解による泥炭の好気分解と焼失の促進で膨大な量の炭素放出が懸念されているが、それがまだ本格化していないことが本研究で明らかになった。
(2) 低炭素社会における森林管理・森林政策への反映
インドネシアの泥炭湿地は、木材生産、オイルパーム農園や農耕地への転換などにより急速に減少している。また、排水による好気分解の促進や泥炭火災の頻発化で炭素の排出量も極めて多い。中央カリマンタン州にはオイルパーム農園に頼る以外に経済発展の途がない集落が多いが、放棄農地をオイルパーム農園に転換するだけでは炭素の放出に歯止めがかからないので、
現状より炭素排出を削減できる方策として泥炭湿地帯で唯一自然に再生しかつ経済的なポテンシャルも有するメラルーカ林業を導入し、これに持続的な農業とREDDプラスを組み合わせた低炭素社会の構築を提案した。他方、京都議定書第二約束期間に加わらなかったカナダでは森林火災の抑制とオイルサンド開発に伴う森林や湿地帯の開発が温暖化対策上大きな問題であることが分かった。ただ、政府のガバナンスがしっかりしていることと、森林や湿地が公有地で規制を掛けやすいことから、温暖化政策さえ確立すれば低炭素世界への貢献が可能なことが分かった。この点はガバナンスの確立が不十分なインドネシアと大きく異なる。 成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0901
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/A-0901.html

3.環境政策への貢献

気候変動緩和に向けた途上国側での対応としてREDDプラスへの期待が高まっており、わが国としても一つに途上国支援、もう一つに炭素クレジットの獲得手段として積極的な対応が望まれるところであるが、その最大の難関として温室効果ガスの測定・報告・検証(MRV)問題がある。すなわち森林減少・劣化および泥炭地から排出される温室効果ガスの削減を経済的に評価するという概念は明確ながら、特に泥炭起源の温室効果ガスの削減量を定量する客観的な手法に欠けることが問題で、これが国連気候変動枠組条約(UNFCCC) でのREDD対応やわが国の二国間オフセット・クレジット制度推進の妨げになっている。サブテーマ(1)で確立した反復航空レーザー測距法は正確で検証可能なMRVの方法を提供するものであり、早急に“Good Practice Guidance for Land Use, Land-use Change and Forestry”などに類する手順の標準化が望まれる。目下これを主導するにはわが国がもっとも有利かつ詳しい立場にあるので、こうした国際基準の作成にイニシャティブを発揮することは、国際的な環境行政を主導することにも直結する。またサブテーマ(2)ではREDDプラスの方法論を開発するための基礎的情報を整備することができた。REDDプラスでは市場メカニズムだけでなく関係者のキャパシティ・ビルディングの重要性が指摘されているが、本研究においても森林減少の最前線にいる住民に対するその重要性を示すことができた。

4.委員の指摘及び提言概要

サブテ−マ(1)で森林における炭素収支の不確実性の削減とREDDプラスへの適用を意図した航空レーザー測距法の開発を試み、インドネシアの荒廃泥炭湿地林では泥炭の焼失と好気分解による炭素放出が著しいことを明らかにした。ただ方法論的には、レーザー測定、地上部測定などの誤差の程度が検証されていない。一方、サブテ−マ(2)ではサブテーマ(1)の調査地における社会経済的な面からの調査を主体に研究を行い、インドネシアの住民にとってオイルパーム農園に頼る経済が唯一の政策であることを提言している。このように本研究で用いられた方法が、広域を対象とする森林の炭素収支の測定に適用可能なことを示し有益な成果は得ているといえるが、サブテ−マ間の連携はよくとれておらず、研究成果の発表も少なかった。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):b


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研究課題名: 【A-0902】植生改変・エアロゾル複合効果がアジアの気候に及ぼす影響(H21〜H23)
研究代表者氏名: 安成 哲三(名古屋大学)

1.研究計画

研究のイメージ

 アジアの過去50〜100年程度の気候変化が、人間活動によるこの地域の植生改変とエアロゾル変化およびその複合効果により、どの程度影響を受けたかを、エアロゾルモデル、化学気候モデルと組み合わせた大気大循環モデルによる数値実験と観測データ解析の比較により、定量的に評価する。サブ課題テーマは下記の通りである。
(1)エアロゾル変動のモデリングと気候影響評価
化学気候モデルにより、各種エアロゾルの全球および地域別の変動を定量的に推定する。また、サブテーマ(2)と連携し、これらの気候影響を定量化する。
(2)植生改変によるエアロゾル変動の気候影響評価
植生改変によるエアロゾル発生量変化を考慮して、全球気候モデルによる再現実験を行い、アジア域の気候に対する植生改変・エアロゾル複合効果を定量的に評価する。
(3)アジアモンスーン地域における20世紀の気候変動・変化に関するデータ解析
20世紀における東南アジア・南アジア諸国における気候要素の変化を詳細に解明する。
(4)植生改変・エアロゾル変動によるアジア地域の気候変動・変化のフィンガープリント解析
サブテーマ(1)、(2)のモデルで出力された結果と、サブテーマ(3)の結果も含む観測データによる気候変化の解析結果を用いて、さまざまな統計手法によるフィンガープリント解析を行い、過去のアジアの気候変化が、人間活動起源の影響でどの程度説明できるかを調べる。


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■ A-0902  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/b-092.pdfPDF [PDF 379 KB]
※「 B-092 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)エアロゾル変動のモデリングと気候影響評価
過去150年の土地利用変化シナリオに基づくデータを使用し、2次有機炭素エアロゾル(SOA)の前駆気体である植物起源揮発性有機炭素(BVOCs)の 放出量変動の推定を行い、土地利用変化に伴う SOA の変動量の再現計算を行った結果、特にアジア域では、テルペン類・イソプレンなどの BVOCs の顕著な減少傾向に伴い、SOA が減少し、直接効果と雲の間接効果を通じて1850年から1950年の地上気温トレンドに顕著に影響していた可能性が指摘された。このSOA 減少によるアジア地域での直接効果の放射強制力は、最大で3 Wm-2に達する強い加熱を示すことが確認された。さらに、1950年以降2000年までの各種エアロゾル変動による放射強制力が全球およびアジア域気候変動に与えた影響を評価した結果、特にアジア地域を中心とする硫酸塩の増加は全球平均地上気温の上昇を大きく抑制していたことが示された。
(2)植生改変によるエアロゾル変動の気候影響評価
 まず、用いた気候モデルのモンスーン変動のパフォーマンスを調べた結果、エルニ−ニョと南方振動(ENSO)・モンスーン結合変動も含め、非常に良いことが分かった。次に、地表面状態、気温、日射の変動も考慮して、植生からのVOC放出量変動を算定した結果、耕地化のみならず、気温の上昇による効果も無視できないことが明らかになった。 VOC放出量の変化によるアジア域の気候への影響としては、硫酸エアロゾルの増大(減少)地域で降水が減少(増大)するという負の相関が確認された。また、エアロゾル変化に伴う日降水量の頻度・強度の変化は、特に5〜6月にSOAの増大に伴い、強い(弱い)降水イベントが増大(減少)することが明らかになった。さらに、18世紀以降のインドや中国における土地利用変化が、夏季アジアのモンスーン期間の長期的な変化を引き起こす可能性も明らかになった。
(3)アジアモンスーン地域における20世紀の気候変動・変化に関するデータ解析
1901年〜2009年の日本の冬型天候分布出現日数の長期解析から有意な減少傾向が見出され、東アジア冬季モンスーンが長期的に弱化しつつあることが示唆された。
1961年から2000年までのアジア各国の月降水量と月平均気温のトレンドを解析した結果、冬季には東南アジアのミャンマーやタイなど広域に有意な降水量の減少傾向が見られた。また、4月と9月において中国の内陸域を中心として広域的に降水量減少傾向がみられた。フィリピンでは、夏季(6〜9月)降水量に数十年スケールの周期がみられたが、冬季(10月〜1月)降水量には、特に1990年代後半以降、顕著な正偏差がみられた。また、1970年代後半から2000年にかけて雨季入りの時期が遅くなる傾向にあることが明らかになった。
(4)植生改変・エアロゾル変動によるアジア地域の気候変動・変化のフィンガープリント解析
降水量の長期変動傾向を季節性・地域性に着目して解析した結果、アジアモンスーン開始日が、ベンガル湾から南シナ海にかけてと北部西太平洋で10日以上早くなっていることが確認された。このアジアモンスーンの季節進行の早期化は5月の降水量増加、6月の降水量減少としても現れている。一方、インド洋における海面水温は季節に依らず全体的な上昇傾向を示している。自然変動と人間活動の影響を含む気候モデル数値実験では、観測値と同様なモンスーン開始の早期化や、盛夏期における全般的な降水量の減少が弱いながらも再現された。特に、5月における南アジアモンスーンの強化や中国南部での降水量の減少は、エアロゾル増加のみを与えた実験でも確認され、エアロゾルの変化が、モンスーンの季節進行の長期変化をもたらしている可能性が強く示唆された。 成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0902
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/A-0902.html

3.環境政策への貢献

エアロゾル変動の気候変動に対する重要性は、IPCC報告などでも強調されているが。そのプロセスは複雑であり、その気候影響の見積もりには未だ大きな不確定性が存在する。本研究では、植生変化に伴う有機炭素エアロゾルの変動や、窒素酸化物の変動による硝酸塩エアロゾル変動を含め、各種エアロゾル変動のアジアモンスーン気候への複合的な影響を明らかにすることができた。今後は成果を、学術論文としてまとめIPCC第5次評価報告書などへ貢献することなどを通して環境政策への貢献に努める。特に本研究は、人間活動のアジアモンスーン気候への影響には、温室効果ガス増加のみならず、植生改変の影響も含めたエアロゾル変化の影響が非常に大きいとして、今後の対策を立てる必要が出てくると考えられる。特に、エアロゾルの影響は、季節的な平均場への影響ではなく、季節遷移期に大きなシグナルを発見した点は、これまでの気候変動影響評価研究においては実質的に無視されてきた人間活動影響の季節依存性への考慮の必要性を強く指摘することになった。今後のアジアにおけるエアロゾル放出量規制や土地利用計画などにも、直接・間接的に大きく関係してくる可能性もある。

4.委員の指摘及び提言概要

 アジア地域の植生改変によるエアロゾルの変質が気候に対して大きな影響を及ぼす可能性を、まとまった研究の成果として提示した。課題のサブテーマ間での関連性は高く、研究が組織的に実行され、また期間中における成果の公表も多く行われており、期待通りの成果が上がった。しかしこの課題で重要な植生改変に関しては、どのような植生からそのような植生に変わったのかの記述、また、そのような土地利用変化とエアロゾルの関係についての検証データの提示などが不十分であり、これらの点に関する更なる検討が必要である。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a


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研究課題名: 【A-0903】大気環境に関する次世代実況監視及び排出量推定システムの開発(H21〜H23)
研究代表者氏名: 岩崎 俊樹(東北大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究課題では、アンサンブルカルマンフィルタ−(EnKF)を利用して大気微量成分の4次元データ同化システムを構築し、全球および東アジアの大気環境の実験的再解析および二酸化炭素とエアロゾルの地表面フラックス推定を行う。
(1)総括および4次元データ同化結果の検証
大気(気象)の輸送循環場の解析精度、大気微量成分の解析精度、観測システムシミュレーション実験(OSSE)の結果を比較検討し、EnKFの大気微量成分の4次元データ同化における有効性と問題点を明らかにする。4次元データ同化結果を観測データと比較し、データ同化システムの改良と最適化を図る。
(2)二酸化炭素およびエアロゾル地表面フラックス推定に関する研究
エアロゾルおよび二酸化炭素の地表面フラックス推定技術の開発と、衛星観測データを用いた地表面フラックスおよび大気中濃度の推定を行う。これらの実施のために、海洋研究開発機構および気象研究所で独自に開発された大気輸送モデルおよび全球エアロゾルモデルを利用する。
(3)大気環境再解析システムの開発
長期的に安定して精度良く動作するオゾンを中心とした大気微量成分の4次元データ同化システムを構築し、衛星観測データを利用した大気環境の実験的な再解析を実施する。海洋研究開発機構および気象研究所で独自に開発された全球化学輸送モデルを利用し、データ同化解析結果を相互に比較することで、大気環境再解析におけるモデル依存性を調査する。


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(4)データ同化情報を活用したモデルの改良
データ同化により得られた統計情報を利用してモデルの欠点を調査する。明らかになった欠点からモデル改良の可能性を考慮し、モデルの改良が実施できた場合にはデータ同化システムに反映する。

■ A-0903  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/b-093.pdfPDF [PDF 509 KB]
※「 B-093 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)輸送場に使用される再解析(JRA-25、ERA-40、ERA-Interim、NCEP/NCAR)について、ブリューワー・ドブソン循環を比較した。季節変化は概ね同様な結果を示したが、経年変化については再解析間で少なからず相違が見られた。最新の再解析JRA-55については、ヨーロッパ中期予報センターの最新の再解析ERA-Interimに近かった。
EnKFによる二酸化炭素のデータ同化結果を検証した。鉛直拡散が過剰であることを見出し、モデルを改良した。温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)観測データを現在のスキームで同化した場合、中高緯度の森林地帯で地表面フラックスを改善するのに有効だった。しかし、人為起源の排出量を解析するには、衛星観測の高度化と同化スキームの改良の必要性が示唆された。
(2) EnKFを利用した二酸化炭素のデータ同化システムを開発した。まず、OSSEにより、動作を確認した。次に、観測データの前処理プログラムを作成し、実際の観測データによる同化試験を行ない、性能を確認した。
EnKFによりCALIPSO衛星搭載のライダー観測データの同化に世界で初めて成功した。独立データで検証した結果、CALIPSOの同化により、黄砂分布の解析精度が大幅に向上した。また、地表面フラックス量(黄砂発生量)のデータ同化による逆推定が可能であることが確認できた。
(3)オゾンを始めとする大気微量成分分布について、時空間に均質なデータセットを作成するため、データ同化システムを構築した。OSSEの結果から、東アジア域での大気環境の実況監視の向上のために静止衛星観測が大変有効であることが明らかとなった。更に、実際の衛星観測データを利用した同化実験を実施した。対流圏微量成分のデータ同化により最適化された地表面フラックスは主に人為起源および生物燃焼と関連していることが示された。
(4)日本の3研究機関で現在開発されている4つの異なる化学輸送モデルに同じEnKFによるデータ同化スキームを適用し、Aura衛星に搭載されたMicrowave Limb Sounder (MLS)で観測された3次元オゾン濃度およびOzone Monitoring Instrument(OMI)-Total Ozone Mapping Spectrometer(TOMS)から得られたオゾン全量のデータ同化実験(観測システム実験、OSE)を行った。それぞれのOSEのバイアスとランダム誤差を評価した。その結果、バイアスのある化学気候モデルを使っても、全球成層圏オゾン濃度分布と全球オゾン全量分布の両方を同化することで、オゾン全量の解析誤差をモデル間でほぼ同程度の誤差以下に小さくできることを確認した。 成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0903
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/A-0903.html

3.環境政策への貢献

本研究で開発されたそれぞれの大気微量成分のデータ同化システムは、将来は、総合的な地球環境の実況監視・予測システムに統合される。現在、データ同化システムについて応用が期待される分野は以下の通りである。
二酸化炭素では、陸上植物による地表面フラックスの推定の精密化が可能である。将来、GOSAT-IIなどの高精度の衛星観測データが取得されれば、データ同化も一層の精度向上が期待され、衛星観測データから人為起源のフラックス推定も可能になる。
エアロゾルのデータ同化システムは、現業化が進められている。将来、Earth-Careなどのライダー観測が実用化されれば、黄砂の予測精度が一層向上することが期待される。
大気汚染を引き起こす化学物質の排出量と大気中濃度の変動に関する情報は、大気汚染状況の監視/警報の発令/予報、汚染物質排出の取り締まりなどに役立つ。本研究で開発された成層圏オゾンのデータ同化技術によりオゾン短期予測精度が向上したので、気象庁の紫外線情報業務の高度化のため現業化される予定となっている(平成26年度)

4.委員の指摘及び提言概要

アンサンブルカルマンフィルター(EnKF)法を導入することにより、大気化学輸送モデルによる大気微量成分の4次元同化システムを開発するという課題に取り組み、その成果の実効性も多面的に確認した。EnKF法を用いた4次元同化システムを開発したことは高く評価でき、今後この成果を拡張して、大気輸送モデルの改良、大気質排出源分布の最適化などの不断の改良が期待でき、本課題の成果は、「次世代実況監視及び排出量推定システム」の実現可能性を強く示唆するものである。また、代表的な大気再解析間の比較を進めたことも成果として認められる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a


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研究課題名: 【A-0904】温暖化関連ガス循環解析のアイソトポマーによる高精度化の研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 吉田 尚弘(東京工業大学)

1.研究計画

研究のイメージ

温暖化ガスおよび関連物質のソース・シンク強度見積もりの不確実性を低減することを目的とし、温暖化ガス関連物質の大気観測、アイソトポマー(同位体置換分子種)計測、分別の理論計算を行い、これらを取り込んだ3次元化学輸送モデルの構築と適用を行う。それぞれの研究内容は下記に示す4つのサブテーマとして4研究機関で取り組む。
(1)アイソトポマー計測と解析およびデータベース作成
温暖化ガスおよび関連物質の生成・消滅過程の解明を目的として、さらにサブテーマ(2)および(4)で行う3次元化学輸送モデルに組み込むためのアイソトポマー情報を得ることを目的として、N2O、CH4、COS、SO2および関連物質に着目し、それらのアイソトポマー計測・解析およびデータベースの作成を行う。
(2)大気観測・試料採取およびCH4アイソトポマー化学輸送モデルの構築と適用
温暖化ガスの時空間分布を明らかにすることを目的とし、地上モニタリングステーション、航空機にて試料採取および高精度濃度計測を行う。ここで得られた試料はサブテーマ(1)にてアイソトポマー計測・解析を行う。また、サブテーマ(1)で得られるCH4アイソトポマー情報を組み入れた化学輸送モデルを構築し、観測値と比較することで、大気中CH4の濃度・アイソトポマー変化の要因を明らかにする。


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(3)理論計算によるアイソトポマー分別係数の決定
硫黄分子種に関する大気循環モデルの構築を目指し、硫酸エアロゾル生成とその非質量依存同位体分別に関わるSO、SO2、H2S、COSに着目し、それらの光解離反応による同位体分別係数の理論計算による予測と実験による同位体効果の検証を行う。
(4)N2Oアイソトポマー化学輸送モデルの構築と適用
大気中N2Oアイソトポマー時空間変動の再現と全球収支および循環の定量的解明を目的として、全球3次元化学気候モデルを用いた高精度かつ現実的な大気輸送場および化学反応定数の計算をおこなう。

■ A-0904  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/b-094.pdfPDF [PDF 318 KB]
※「 B-094 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)アイソトポマー計測と解析およびデータベース作成
N2Oアイソトポマー計測の自動化を進めるとともに、サブテーマ(2)で得られた試料を分析した。家畜起源CH4、海洋起源CH4、バイオマスバーニング起源N2Oや下水起源N2Oなどの計測を行い、アイソトポマー情報のデータベース化を行った。また、サブテーマ(4)との協力でN2Oアイソトポマーデータベースを用いた同位体的観点からのN2O全球収支推定を行った。CH4アイソトポマーのデータベースをサブテーマ(2)へ提供し、CH4全球収支を同位体的観点から見積もることに貢献した。硫黄モデルにサブテーマ(3)との協力で得られたアイソトポマー情報を導入し、成層圏硫酸エアロゾルの生成過程を同位体的観点から定量的に考察した。
(2)大気観測・試料採取およびCH4アイソトポマー化学輸送モデルの構築と適用
高精度濃度観測を継続して行い、モデル計算と併せて温暖化ガスと気候変動との関連を明らかにした。数値モデルと、サブテーマ(1)、(2)で得られるCH4アイソトポマー値や濃度観測値を併せ用いることにより、CH4変動要因の解析やCH4収支の検討を行った。
(3)理論計算によるアイソトポマー分別係数の決定
 大型計算機を用いた量子波束動力学計算を行い、SO、SO2、H2S、COSの光解離過程による同位体分別係数の理論予測を行った。これらの結果をサブテーマ(1)へ提供し、大気硫黄分子種の同位体分布を説明する新しい大気モデルの構築に貢献した。 
(4)N2Oアイソトポマー化学輸送モデルの構築と適用
全球3次元気候モデルにサブテーマ(1)で作成されたN2Oアイソトポマーデータベースに基づいた放出源ごとに固有のアイソトポマー値を与えて計算し、大気中N2Oアイソトポマー値の時空間変動を検証した 成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0904
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/A-0904.html

3.環境政策への貢献

2010年4月に国立環境研究所で行われた「一般公開」ならびに2010年7月に行われた「夏の大公開」においてシベリア観測活動についての紹介を行い、温室効果ガスが人口密集地以外でも着実に増加していることを周知することに貢献した。得られたデータは国内外の研究者と共有し、CH4放出源やN2O放出源の推定に利用されている。これらの観測結果やフラックスの推定結果は、IPCC報告書などに引用され濃度増加のメカニズム解明に貢献する予定である。
また、全球3次元モデルを用いた収支推定はこれまでCO2等に関して行われており、IPCC等の国際的・政策的報告でその価値は高く評価されている。本研究において構築された高精度N2Oアイソトポマーモデルとその適用は同じく非常に有益な情報源として機能することは明白である

4.委員の指摘及び提言概要

本課題は科学的にも政策的にも大きな貢献が期待できる温室効果ガスの動態を理解するため、これらガスのアイソトポマーの、より効率的な分析法を開発し観測データを増やすとともに、アイソトポマーを組み入れた温室効果ガスの化学輸送モデルを構築することを試みた。一酸化二窒素(N2O)に関して、様々な発生源からのアイソトポマーを測定して、それを組み込んだ大気輸送モデルを構築することにより、この温室効果ガスの動態を全球的に把握できる基盤を作成し、またメタン(CH4)に関しても関連するパラメ−ターの取得に成功した。このような成果は上げたが、最終的なソース・シンクの定量化の高精度化という点は今後の課題として残った。(2)〜(4)の課題は、査読論文の成果が少なく、この3年間の到達点を形にする努力がもっと必要だった

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):b
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):b


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事後評価  1. 第1研究分科会<全球システム変動>
ii. 革新型研究開発領域

研究課題名: 【RF-1006】航空レーザー測量及びPALSARを用いた森林整備に伴うバイオマス量変化の把握(H22〜H23)
研究代表者氏名: 加藤 顕(千葉大学)

1.研究計画

研究のイメージ

これまで航空機レーザーを用いた研究では、人工林などの一斉林を対象に樹種別回帰式モデルを構築して、バイオマス量の評価を行ってきた。しかし、回帰分析法では樹種別に回帰式を作成する必要があり、事前に樹種判別を行わなければならない。本研究ではレーザーの三次元点分布に対して、樹種判別が必要ない解析手法を用いて木質バイオマス量を把握する。林内状況が把握できる高密度なレーザーデータを取得し、森林整備前後で異なる2時期の航空機レーザーから得られた木質バイオマス変化量を定量化し、衛星レーダー(PALSAR)の解析で得られた後方散乱係数の変化量と比較した。これらの結果をPALSARレーダーのみからバイオマス変化量を評価する際の検証用データとして役立てたい。
(1)航空レーザー測量及びPALSARを用いた森林整備に伴うバイオマス量変化の把握
航空機レーザーとPALSARレーダーを用いて、森林整備に伴うバイオマス変化量を把握する。その研究の段階として、まず航空機レーザーにより森林整備前後の森林域でのバイオマス変化量を詳細に把握する。その後、航空機レーザーデータからの結果を基に算出されたバイオマス変化量を、PALSARレーダーから算出されたバイオマス変化量と比較する。


図 研究のイメージ        
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■ RF-1006  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1006.pdfPDF [PDF 529 KB]
※「 RF-1006 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)航空レーザー測量及びPALSARを用いた森林整備に伴うバイオマス量変化の把握
 本研究では、平成22年度では針葉樹林を対象として森林整備を行い、森林整備に伴うPALSAR レーダーの後方散乱係数の変化を把握し、平成23年度では広葉樹林を対象として、落葉に伴うレーダーの後方散乱係数の変化を把握した。レーダーからバイオマス変化量を把握するには、正確なグランドトゥルースデータが必要であり、広域でデータを取得する航空機レーザーを用いて正確なデータ取得を行うには限界があった。そのため地上レーザーによるバイオマス計測を行い、地上レーザーがPALSARレーダーのグランドトゥルースとして、航空機レーザーより適していることがわかった。地上レーザーから取得される最も詳細な3次元データからバイオマス量算出根拠である幹体積を算出する手法を確立し、森林域におけるレーダーの反射・散乱状況を把握できるデータとして提供できるようにした。また、森林整備によるレーダー後方散乱係数の変化を落葉による変化と比較し、レーダーからの解析の問題点を明らかにした。
平成22年度には、森林整備の変化を航空機レーザーで把握するために異なる2時期のデータを取得した。バイオマス量の算出根拠である幹体積を把握するモデル式を作成し、航空機レーザーデータを用いて対象地全域で地図化した。
平成23年度には、広葉樹林を対象に航空機レーザーデータを取得し、落葉によるPALSARレーダーの後方散乱係数への影響を把握した。航空機レーザーデータから得られた結果をグランドトゥルースとして、PALSARからの結果と比較したが、航空機レーザーから幹体積を算出するのには限界があることがわかった。そのため、バイオマス量を把握するグランドトゥルースデータとして地上レーザーを用いた計測が最も正確にできることがわかった。 成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-1006
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RF-1006.html

3.環境政策への貢献

 本研究の解析技術は国内外における環境政策に貢献できる。国内では、環境省地球温暖化対策法において京都議定書目標達成、国内排出量取引、または森林等における吸収作用の保全が重要視されている。レーザーによる詳細な森林構造は、森林の現存量・成長量・伐採量の把握に有効で、開発した技術及びデータの提供を行うことで、政策推進に大きく貢献できる。海外では、国連が主導しているREDD(Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation in Developing Countries, 森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減)で、炭素蓄積が多い熱帯林での正確な炭素動態モニタリングが重要な課題となってきている。REDDのモニタリングには、森林伐採による炭素変化量抽出が必要で、国家間で競って新しいリモートセンシングセンサー技術導入やモニタリング手法の確立を行っている。我が国でもこの世界の動きに乗り遅れないために、モニタリング手法開発が急務の課題となっている。本研究では、日本が開発した衛星ALOS(陸域観測技術衛星)を利用する上で、バイオマス量変化量を検証するために何が必要かを明らかにした。今後ALOS 2が打ち上げられれば、1〜3mの分解能となり、高解像度レーダー画像の現地検証用データとして3次元レーザーがより有効利用できる。全地球レベルでバイオマス変化量をモニタリングする際、正確で客観的な現地調査データをレーザーにより提供でき、衛星データの解析精度を向上させることができる。よって、本研究を進めることで世界での環境政策に大きく貢献できる。

4.委員の指摘及び提言概要

本課題は、森林整備に関連したバイオマス量変化の見積もりを、航空レーザーによる観測、現地での実測および地上レーザーと衛星レーダー観測の手段を用いて、国内の針葉樹林と落葉広葉樹林を対象に検討したものである。緻密な観測を行ってそのデータをまとめ比較検討しており、今後の課題に関しても技術的な問題点を把握している。方法論の検討として十分の成果を短期間で上げている。バイオマスの変化量まで見積もるには、技術改良も含めてかなりのステップが必要であるが、本研究の成果をさらに発展させ、実用化することを期待する。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【RF-1007】GOSAT衛星データを用いた陸域生物圏モデルの改善とダウンスケーリング(H22〜H23)
研究代表者氏名: 市井 和仁(福島大学

1.研究計画

研究のイメージ

温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)からのプロダクト(レベル4 地表面二酸化炭素フラックス)データを利用して、グローバル(大陸)スケールでの複数の陸域生物圏モデルのファインチューニングを行う。さらに、改善されたモデルを用いて、より詳細な空間スケールでのモデルランを行い、地域スケールの高解像度の炭素収支を推定することを目的とする。さらに、複数のモデルを利用して、モデル間の違いなどを把握したり、さらなるモデル改善手法の検討を行う。
(1) GOSATデータを用いた陸域生物圏モデルの改善
GOSAT衛星データを利用して改善された陸域生物圏モデルを構築する。まず、GOSATデータと経験的光合成推定モデルなどの結果を利用して、生態系呼吸や火災による二酸化炭素放出量を推定する。さらに、それらの結果を利用して陸域モデルの改善を行う。
(2) 陸域生物圏モデルのダウンスケーリング
 GOSAT衛星データを用いて改善された陸域生物圏モデルを用いて、より高空間分解能の陸面二酸化炭素収支をマッピングする。特に、アジア域・日本域などを対象とした数km分解能の炭素収支把握、予測を行う。
(3) 陸域生物圏モデルの相互比較を通したGOSATデータ有効性の検討
上記のモデルを利用して複数モデルの相互比較を行う。様々な地域での陸域炭素収支量の算出、経年変動やそのメカニズムを解析する。


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■ RF-1007  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/rf-1007.pdfPDF [PDF 342 KB]
※「 RF-1007 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1) GOSATデータを用いた陸域生物圏モデルの改善
まず、GOSAT衛星観測を通して推定される大気-地表二酸化炭素収支プロダクトと既存の衛星観測から得られる光合成量などのデータを組み合わせることで、ダウンスケールを行い、純生態系炭素交換量と生態系呼吸量をグローバルスケールでより細かい空間スケール(1°)にて推定した。次に、上記の純生態系炭素交換量、生態系呼吸量や、その他光合成量やバイオマス量などのグローバルデータなどを制約に用いた陸域炭素循環モデルBiome-BGCのパラメータ最適化・モデル改善のフレームワークを構築した。まずは、AsiaFluxサイトでフレームワークのテストを行い、次に、グローバルにおいて、構築されたフレームワークのテストを行い、陸域炭素循環モデルの改善への貢献を調べた。その結果、GOSAT衛星に代表される炭素フラックスの広域データを用いると多くの森林地域でモデルの改善が望めることが分かった。一方で、バイオマス量などの炭素蓄積量に関しては、炭素フラックスデータだけでは十分なモデル改善を望むことができず、今後はバイオマスや林齢等の他のデータの構築も必要であることが分かった。
(2) 陸域生物圏モデルのダウンスケーリング
陸域生物圏モデル(BEAMS)を用いて、グローバルスケールにおけるCarbon Trackerによる炭素収支計算値(GOSAT衛星からの推定のプロトタイプとして利用)との比較、さらに、アジア域における高空間分解能の炭素収支推定を行った。さらに、アジア域において、約10kmの空間分解能にて、過去9年間の陸域炭素収支を推定した。特にシベリア域では、炭素が吸収する方向にあり、今後、同地域ではより大きな炭素吸収源へと成長する可能性があることが分かった。
(3) 陸域生物圏モデルの相互比較を通したGOSATデータ有効性の検討
アジア域とアラスカ域を対象として、陸域炭素循環モデルを用いて陸域炭素収支を推定し、モデル結果と、Carbon Trackerによる見積もりを比較した。特にアジアにおいては、複数の陸域炭素循環モデルを用いて、サイトレベル・広域スケールにおける陸域炭素循環モデルの評価を行った。アジアにおけるモデル比較・アラスカにおけるモデル評価の結果から、炭素収支の絶対値にはモデル計算とCarbon Trackerプロダクトでは違いがあるものの、経年変動に関してはほぼ一貫した結果を得た。 成果イメージ図

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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-1007
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RF-1007.html

3.環境政策への貢献

・GOSAT衛星の応用研究として、ダウンスケールなどを通して、陸域炭素収支に関する、より詳細なマッピングの可能性を示すことができた。さらに、GOSAT衛星プロダクトの精度が向上することにより、より陸域炭素循環の推定値を制約することができると予想される。これは、将来の温暖化防止のための政策立案の材料につながる。
・陸域生物圏モデルが向上することから、今後、これらの改善されたモデルを利用した陸域炭素収支の見積もり、将来予測などの再評価を行うことになる。再評価した結果は、現状の結果とは異なることが予測されるため、本課題によって、より正確な炭素収支の見積もりや、より正確な地球温暖化予測へとつながる。
・陸域炭素収支の把握をより正確にするには、今後,バイオマス量などの炭素プール量の把握が必要であることが分かった。さらに、攪乱(森林伐採、森林火災)の履歴が炭素循環シミュレーションに必要であることが明らかになり、今後のモニタリング計画への提言を与えることとなる

4.委員の指摘及び提言概要

GOSATによる詳細な二酸化炭素分布のデータを用いて、二酸化炭素収支の時系列、空間的な詳細な分布の解析が、モデルの解析との比較から実行された。詳細な二酸化炭素分布のデータを、陸上での詳細な炭素収支の推定に利用するための方法論を検討した研究として評価できる。例えば、モデル向上のための炭素プール量の情報の必要性や、森林火災を考慮することの重要性をモデル実験で確認した。研究者は大変アクティブであるが、期間中の成果の公開が少なく、また、発表された論文も少ない点は留意されるべきである。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):b
  サブテーマ(3):a


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研究課題名: 【RF-1008】エアロゾルの放射影響の定量化のための二次有機エアロゾルの光吸収特性に関する研究(H22〜H23)
研究代表者氏名: 中山 智喜(名古屋大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究では、二次有機エアロゾル(SOA)による光吸収が大気放射に与える影響について、定量的に評価することを目的とする。この目的を達成するため、観測対象を単純化することでそれぞれのSOAが有する光吸収性を別々に計測できる室内実験研究と、現実の大気における影響を評価するための観測研究からなる2つのアプローチにより研究を進める。室内実験では、大気中で重要なSOAを実験室内で発生させ、その光吸収特性を測定する。本研究では、特に、代表的な人為起源の有機化合物であるトルエンの光酸化反応および、代表的な植物起源の有機化合物であるオレフィン類のオゾン酸化反応により生成するSOAについて調べる予定である。一方、実大気観測では、エアロゾルの光吸収の波長依存性と化学組成、粒径分布、および気相成分の同時観測を行う。エアロゾルの取り込み口を定期的に加熱して揮発性成分を除去し、ブラックカ−ボン(BC)粒子のみの光吸収特性を同時に計測するなどの工夫により、BC粒子とSOAの寄与を分離し、SOAの放射収支への寄与を得る。さらに、化学組成や気相成分濃度との比較により、大気放射モデルに適用可能なパラメータを導出する。これらの研究により、SOAの光吸収に関する定量的な情報を得ることで、大気環境変動の、より正確な理解とエアロゾルが放射収支に与える影響評価における不確定性の低減を目指す。

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■ RF-1008  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/rf-1008.pdfPDF [PDF 192 KB]
※「 RF-1008 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

エアロゾルの消散および吸収係数を、エアロゾルが浮遊した状態で直接計測できる新しい計測装置(キャビティリングダウン分光装置および光音響分光装置)の開発や性能評価手法の確立に成功した。国立環境研究所の光化学チャンバーを用いた室内実験により、様々な条件下で生成したSOAの紫外-可視領域(波長355-781 nm)における光吸収特性(複素屈折率)を決定した。その結果、ピネンのオゾン酸化や光酸化反応で生成する代表的な植物起源SOAは光吸収性を有さない一方、トルエンの光酸化反応で生成する代表的な人為起源SOAは短波長可視から紫外域において光吸収性を有することが初めて判明した。また、トルエンSOAの光吸収は波長400 nm以下で急激に増加すること、反応に用いる窒素酸化物の濃度が高いほどSOAの光吸収が大きくなることが分かった。また、名古屋市内での実大気観測により、光吸収の波長依存性を観測し、有機エアロゾルによる光吸収のエアロゾルの全光吸収に対する寄与を推定した。その結果、夏季には、有機エアロゾルによる光吸収の寄与はほとんどないが、植物起源SOAに対する人為起源SOAの割合や暖房などによる木材燃焼起源の有機エアロゾルの寄与が大きくなると考えられる冬季には、波長405 nmで平均20程度の寄与を有することが判明した。 成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-1008
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RF-1008.html

3.環境政策への貢献

 SOAは主要な大気エアロゾルの1つであり、その光学特性に関するデータの蓄積は、エアロゾルが大気放射や気候変動に及ぼす効果を見積もる上で大変重要である。本研究により、SOAの光吸収特性に関する詳細なデータが得られたことで、エアロゾルが大気の放射収支に及ぼす影響の理解が進むと考えられる。また、本研究の成果が地球大気の放射伝達モデルや気候モデルに取り込まれることにより、将来の気候変動予測の精度向上につながると考えられ、IPCC報告書への直接的な貢献が期待される。人為起源の有機エアロゾルは、特に都市域において存在量が多いことから、本研究の成果は、特に大都市近郊や東アジアの領域スケールにおける人為起源エアロゾルの環境影響の評価に貢献すると考えられる。さらに、本研究による大気放射の側面からの有機エアロゾルの大気環境影響の評価は、人間の健康や植物の生育に影響を及ぼす対流圏オゾン生成(光化学スモッグ)の抑制の観点から進められている揮発性有機化合物や窒素酸化物などの大気汚染物質の将来の排出規制や、ディーゼル排ガスの環境影響の評価や排出規制などの環境政策の策定においても、有用な基礎データを提供すると期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

本課題は、室内実験および大気観測により、二次有機エアロゾルの波長依存性を含む直接効果について研究した。緻密な実験により、これまで未解明であった二次有機エアロゾルの光吸収特性についての知見を得た。また人為起源の有機エアロゾルの場合には、太陽光の短波長可視領域から近紫外領域で有意な正の放射強制力を生じうるなどの新知見を明らかにした。現実大気の物理諸条件を考慮した多様なパラメータ条件下で光吸収・散乱特性を調べる点はまだ果たせていないが、都市域での環境問題の観点からも今後の発展が期待され、研究成果が論文として公表されていることも評価できる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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