研究課題別 中間評価結果


研究課題名:A-071 成層圏プロセスの長期変化の検出とオゾン層変動予測の不確実性評価に関する研究(H19-21)

研究代表者氏名:今村 隆史 (国立環境研究所)

1.研究概要

 成層圏大気中の塩素・臭素濃度(ハロゲン濃度)が緩やかな減少ステージに入ったオゾン層が今後ハロゲン濃度の減少に伴って着実に回復していくかなど、オゾン層の将来の変化予測をより高い確実性を持って予測するためには、現在の将来予測数値モデルによるこれまでのオゾン層変動の再現性や温室効果気体の増加や海面水温の変化などへの応答とそのメカニズムの評価が必要である。また、フロン・ハロンなどの大気寿命の変化、フロン・ハロン以外のオゾン層破壊関連物質の変化、太陽活動などの変化や気候変動との相互作用といった、ハロゲン濃度の変化以外の要因について、明らかにしておく必要がある。そこで本研究では、成層圏で増加傾向が指摘されている水蒸気(HOxオゾン分解サイクルのソースガス)の対流圏から成層圏への流入領域(熱帯対流圏)での変化の検出、フロン・ハロンの大気寿命に影響する中層大気の循環の変化を成層圏大気の滞留年代の変化として捉えることを試みる。更に、成層圏数値モデルを用いて、これまでの成層圏オゾンの分布やオゾン量の長期的な変化・変動の再現性や今後のオゾン層変動に対する温室効果気体の増加の有無の影響の評価、更には太陽活動の変化や極振動の変化とオゾン層の変化との相互関係を明らかにする。更に、個々のアプローチで得られた結果をもとに、成層圏化学気候モデルの改良や将来予測精度の評価を行うことを目的とする。サブテーマは次の4つである。
 (1) 熱帯対流圏界面領域における水蒸気変動に関する研究
 (2) 成層圏大気の滞留年代の決定に関する研究
 (3) オゾン層変動の再現性と将来予測精度の評価に関する研究
 (4) 太陽放射と極振動によるオゾン分布の変動解析に関する研究

2.研究の進捗状況

 (1) 対流圏から成層圏への水蒸気の輸送量を制御している熱帯対流圏界面領域で、同一空気塊を複数回観測するMATCHペア観測に成功し、水蒸気の輸送量を制御する脱水過程のメカニズム解明に向けた新たな解析手法が開発されつつある。
 (2) 成層圏大気の平均滞留時間を高精度に推定する手法を確立でき、過去の成層圏大気の分析と滞留年代における長期的な変化の検出に向けた準備が揃ってきた。
 (3) 化学気候モデルによる成層圏オゾン量やオゾン分布ならびにトレーサー物質分布の再現性評価を終えた。また、温室効果気体の増加が等価実効成層圏塩素量ならびにオゾン層の回復時期に及ぼす影響評価がなされ、特にオゾン層の回復時期に明確な影響があることを見出した。
 (4) 太陽放射が北極振動の変動を通して間接的にオゾン層に影響を及ぼすことを、気象データ、成層圏化学気候モデルならびに大気大循環モデルを用いた比較解析を通して明らかにした。
 個々のサブテーマ研究は着実に進んでいるものと思われるので、今後はサブテーマ間の共同研究的な成果を目指して、連携強化を図っていく必要がある。

3.委員の指摘及び提言概要

 観測、解析上で新知見が出ている一方で、なお不確実性が存在する要素もあり、サブテーマ(3)を中心にサブテーマ間の連携をより密にしつつ研究を継続することが適切である。また今回提示された仮説については、研究終了時に結論が出せることを期待する。
 サブテーマ(1)の熱帯対流圏界面付近の水蒸気変動に関する観測結果は、今後のデータ蓄積と解析に期待する。サブテーマ(2)では、空気の滞留年代の増加や成層圏における重力分離の可能性など新知見を出しており意義深いと思われるが、滞留年代についてはデータの蓄積のみならず手法の適切さについて検討を期待する。サブテーマ(3)では、物理化学モデルによりCO2増加が成層圏へ及ぼす影響評価を行った点やオゾン回復過程を気候モデルに取り入れる必要性を指摘した点が意義深く、今後のプロセス解明に期待する。サブテーマ(4)は課題全体との関連を一層明確にされたい。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b


研究課題名 : B-071 廃棄物分野における温室効果ガスインベントリの高度化と削減対策の評価に関する研究(H19-21)

研究代表者氏名:山田 正人 (国立環境研究所)

1.研究概要

 我が国が京都議定書で定められた温室効果ガス排出削減目標を達成するためには、効果的な温室効果ガス削減技術の導入とCDMの実施に早急に取り組まなければならない。廃棄物分野には、排出源として、埋立、排水の処理、廃棄物の焼却等が含まれ、大量に排出されるCH4およびN2Oは温暖化係数が大きいため、単位削減量に対する効果が高く、削減対象として有利である。一方で、これらの排出係数が最新の技術に対応しておらず、排出量の確実性や導入削減技術の性能が正しく評価されていない。これは途上国への我が国の技術導入によるクレジットの獲得にも影響する。本研究では、廃棄物分野における非化石燃料由来のCH4・N2O・NH3を対象とし、活動量である炭素・窒素フローと廃棄物・排水処理技術毎の排出係数マトリックスやモデルを提示することにより、温室効果ガスインベントリ算定法を高度化し、国内とアジア途上国における削減対策の立案・評価スキームを提示する。サブテーマは次の3つである。
(1) 我が国の廃棄物ストリームにおける窒素フローの評価とN2OおよびNH3の削減対策の評価
(2) 我が国の排水ストリームにおける炭素・窒素フローの評価とCH4およびN2Oの削減対策の評価
(3) アジア途上国の廃棄物ストリームにおける炭素フローの評価とCH4の削減対策の評価

2.研究の進捗状況

 サブテーマ(1):一般廃棄物焼却施設について排出係数を改訂すべき技術を抽出した。産業廃棄物焼却炉の観測では立ち下げ時にN2O濃度の増加が認められた。七輪を利用した野焼き実験系を用い、もみがらと化成肥料との混焼でN2O濃度が増加することを示した。コンポスト化における窒素成分の挙動を実施設で調べるとともに、実験系でNH3の排出係数を求めた。埋立地においてN2Oフラックスが観測された埋立地は稀であり、亜熱帯・熱帯地域で小さいフラックスが観測された。また、木くず混入覆土材において幅広い含水率で最大17%のメタン酸化能が得られた。
 サブテーマ(2):し尿処理施設において主反応槽の数で分類した新たな排出係数を提案した。コミュニティプラントからのN2O排出はほとんどみられなかった。排水処理におけるN2O排出量は下水終末処理場、生活排水処理施設の順で大きいと見積もられ、放流後水域からのCH4・N2Oの排出挙動について検討が必要であることが分かった。
 サブテーマ(3):アジア地域の都市における廃棄物処理の現状を専門家ワークショップの開催等により把握し、廃棄物ストリームを4つに分類し、経済成長に伴う遷移パターンを示した。また、国内外の埋立地を調査し、ボーリングバー穿孔を行い地表面フラックスを計測することで、準好気性埋立の性能を示す好気性分解補正係数と覆土のメタン酸化能を現場計測する手法を提案した。さらにハノイ市の廃棄物処理システムを改善した場合の温室効果ガスと環境負荷の削減量をLCAにて評価し、コンポスト化+バイオガス発電のシナリオが多くの項目で環境負荷が小さいことを示した。

3.委員の指摘及び提言概要

 本課題は、我が国とアジアの廃棄物分野における非CO2温室効果ガスインベントリの精度向上と削減対策の評価を目的とするもので環境政策面での必要性と意義は大きく、成果を期待する。
 研究の進め方の上では、温室効果ガス削減への貢献を意識すべきであり、理論的分析を進めて全放出量の算出法まで検討して欲しい。できれば各温暖化ガスの発生メカニズム(特にN2O)から明らかにして頂くのが望ましい。更に、この問題は廃棄物処理の全体像の中で考えることが重要であり、例えば、アジア途上国では堆肥化が現実的に重要な処理であることを考慮して検討するのが合理的だろう。また、先行する農業分野での研究蓄積を十分考察されたい。
 サブテーマ(1)では、現実状況を反映した整合性のある排出係数を求めて頂きたい。炭素フローの寄与量評価も必要ではなかろうか。サブテーマ(2)では、個々のインベントリーの実証的研究が少ないように見受けるが、可能ならばサブテーマ(1)との緊密な協力によりこの面の研究を加速することが望ましい。サブテーマ(3)は、適用する「アジア途上国」がどの範囲か明確でない。発生源の多様さから炭素フロー評価は難しい仕事であろう。また、炭素フローだけでなく窒素フローもある程度評価する必要がある。更に、東南アジアではラグーンへの廃棄物投入の影響が大きいので検討して欲しい。最後に、全サブテーマを通じて、査読付専門誌へ成果を投稿されることを期待する。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b


研究課題名:B-072 森林減少の回避による排出削減量推定の実行可能性に関する研究(H19-21)

研究代表者氏名:松本光朗(森林総合研究所)

1.研究概要

 2005年のCOP11において、地球温暖化緩和策として「森林減少の回避」制度が提案された。これは、途上国において森林減少による排出を削減できれば、その削減量をクレジット化できるという仕組みである。その後、この提案は類似のものを含めREDD(途上国における森林減少からの排出の削減)と総称され、2007年のCOP13において次期約束期間に向けての取組みが合意された。しかし、現在議論されているREDD制度には技術面および制度面からの問題点が数多く残り、その実行可能性に疑問が寄せられているとともに、その解決策が求められている。
 本研究においては、REDD制度について、森林減少の異なったステージにあるタイ、カンボジア、ラオスの3国を対象に、技術面及び制度面の両面からその実効性と問題点を整理し、実行可能な制度案を示すことを目的としており、次の4つのサブテーマを設定している。
   (1) リモートセンシングを用いた森林減少と排出量の推定手法の検討
   (2) 森林減少のベースラインの設定手法の検討
   (3) 森林減少および森林劣化の発生プロセスの社会経済的分析
   (4) 既存枠組とガバナンスをふまえた「森林減少の回避」制度の実行可能性の検討

2.研究の進捗状況

 (1) 中解像度と高解像度の衛星画像データを組み合わせて解析し、地上調査と関連づける森林減少・劣化把握のスキームを設計した。それをふまえ、森林レベルにおいて取得可能なデータセットのタイプごとに炭素量推定手法を提示した。高解像度センサーを用いた樹冠直径測定とアロメトリモデルによる林分レベルでの炭素量推定手法の開発により、全体の手法開発の見通しがついた。
 (2) 排出削減量を推定するためのベースラインの設定手法を検討するため、すでに森林減少が進み過去のデータが得られるタイを対象として、土地利用変化と社会経済的情報の取得を進めるともに、その予備的な分析を行い、計量経済モデルによりベースラインの推定を行える見通しがついた。
 (3) 世界レベルでの森林減少・劣化に関する研究のレビューやカンボジアの森林行政・社会経済に関する基礎情報を整理し、現在急激に森林減少・劣化が進行しているカンボジアにおける直接要因を分類したところ、農業開発の影響が最も強いと考えられた。REDD制度に関する現状の議論と森林減少・劣化の傾向及びその要因から、今後REDD制度が取り組むべき課題を提示した。
 (4) トリプルベネフィット、レジティマシー(正当性/正統性)という視点からREDD制度を分析し、インセンティブの設定における基金と市場メカニズムの併用、LULUCFセクタに限定したクレジット取引、インセンティブの分配、資金の先行付与といったREDD制度の要件を提示した。この分析結果をふまえ、得られたインセンティブを政府から国内関係者に分配する仕組みとして「ハイブリッド・インセンティブ・メカニズム」を提案し、その構造を3つのタイプごとに示した。
 これらの成果をふまえて、国際的議論のための中間的提言をまとめ、交渉担当者へ提供した。
 以上のように、初年度として各課題の枠組みとなるべき成果が得られた。次年度以降はこの枠組みの中で個別技術の開発や排出量推定の試行、政策適用の実行可能性に関わる検討を進める。

3.委員の指摘及び提言概要

 REDDの導入には、森林減少・劣化とそれに伴う炭素放出量の信憑性の高い定量評価手法の確立が前提となるので、特にサブテーマ(1)では、衛星データの解析による炭素量推定手法を確立してほしい。他のサブテーマについても所期の目標を確実に達成する必要がある。また、地球環境政策や途上国への貢献は、サブテーマ(3)と(4)にも依存するところが大きいので、今後は、現地の研究者や行政機関とも十分に連携して研究を進め、十分な研究成果をあげることを期待したい。なお、サブテーマ(1)を除いて研究発表が十分に行われていないので、今後、国際的な学術雑誌に発表し、その成果が客観的に評価されるよう努力してほしい。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b


研究課題名:B-073 土壌呼吸に及ぼす温暖化影響の実験的評価(H19-21)

研究代表者氏名:梁 乃申 (国立環境研究所)

1. 研究概要

 気温の上昇に伴い土壌有機炭素分解が促進されるという“正のフィードバック効果”により、大気中のCO2濃度が従来の予測値より更に増加する可能性がある。本研究では、日本の典型的な森林土壌数箇所を対象に、自然に近い状態で野外での温暖化操作を行い、土壌呼吸の長期温暖化応答を調べる。さらに、全国レベルの土壌の温暖化応答特性の違いを調べるために、日本各地の森林生態系から土壌サンプルを採集し、インキュベーション実験により、それぞれの特性や応答のメカニズムなどを調べる。また、大型のオープントップチャンバーを用いて、高温条件だけではなく高CO2環境下での植物生産と土壌呼吸の同時反応を確かめる。これらの結果から、土壌炭素放出の温度応答メカニズムを生態系ごとに解明し、温暖化した際に我が国のような湿潤な森林土壌が、どれほど放出源に転換するかについて定量的な評価を行う。研究成果は京都議定書の第2約束期間以降の立案に貢献し、IPCC第五次レポートに反映されると期待される。本研究は、次の3つのサブテーマからなる。
 (1) 温暖化に伴う土壌呼吸速度の地域的特性の解明
  (1−1) 野外温暖化操作実験
  (1−2) データベースの構築及び土壌呼吸の自動連続測定
 (2) 異なる生態系における土壌微生物活性の変動メカニズムの解明
 (3) 大型オープントップチャンバーを用いた高温・高CO2が土壌呼吸に及ぼす影響評価

2.研究の進捗状況

 (1) 温暖化に伴う土壌呼吸速度の地域的特性の解明(サブテーマ(1))は、最北域(北緯45度)の針広混交林(北海道大学天塩研究林)、関東地方(北緯36度)のアカマツ林(つくば市)、西日本(北緯34度)の常緑優占カシ林(東広島市)において、比較的地球温暖化の原理に近い赤外線ヒーターで土壌を加温し、多点大型自動開閉チャンバー式土壌呼吸測定システムを用いて連続測定を開始した。対照区に比べて、温暖化区における土壌呼吸速度は、針広混交林では昇温1度あたり平均19%(9月〜11月)、アカマツ林では平均3.5%[夏期(8〜9月)に2%、冬期(1〜2月)に17%]、常緑カシ林では平均4%(11月〜2月)高かった。また、既存の研究手法・資料を収集し、データベースの構築を開始した。
 (2) 異なる生態系における土壌微生物活性の変動メカニズムの解明(サブテーマ(2))は、北海道から九州・沖縄まで、日本の主要な森林生態系のうち、亜寒帯性常緑針葉樹林、落葉性針葉樹林、温帯性落葉広葉樹林、暖帯性常緑広葉樹林、亜熱帯広葉樹林を対象に、温暖化環境下で土壌微生物呼吸がどのような影響を受けるかについて、52カ所を超える土壌サンプルを採取しインキュベーション実験にむけ準備を整えた。本実験に先駆け多試料測定システムを試作し、サブテーマ(1)のサイトの土壌試料を用いた予備実験を行い、インキュベーション本実験のための実験方法を決定した。
 (3) 大型オープントップチャンバーを用いた高温・高CO2が土壌呼吸に及ぼす影響評価(サブテーマ(3))は、広島大学実験圃場内に設置された大型精密オープントップチャンバー6基を用いて、異なる温度とCO2濃度下で育成したアラカシ群落の個体成長量、落葉枝量、土壌呼吸量などの測定を行った。対照区に比べて、3度温暖化した区の土壌では、年間ヘクタールあたり約3tCほどの放出源となっている。

3.委員の指摘及び提言概要

 陸域生態系の炭素動態において、土壌呼吸は一つの重要なプロセスであり、これまでに開発された密閉式チャンバーの機能性を詳細にチェックし測定手法を確立したこと、また、日本の実際の林地における呼吸速度の応答が外国の既存の報告例とは異なっており、土壌水分に大きな影響を受ける実態を指摘したことは、高く評価できる。しかし、温暖化実験を実施している地点のデータと多くの地点で採取した土壌の培養実験結果から、日本全体の森林の土壌呼吸量を推定する方法論の構築がまだ不十分であるため、この点を早急に再検討してほしい。また、サブテーマ(3)については、テーマ全体における位置づけを明確にするとともに、サブテーマ(1)および(2)と連携を十分に持って、研究成果をまとめる努力をしてほしい。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):c
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:c


研究課題名:B-074 アジア地域における緩和技術の統一的な評価手法の開発に関する研究 (H19-21)

研究代表者氏名:遠藤 栄一 (産業技術総合研究所)

1.研究概要

 「低炭素社会・日本」で示された中長期的目標の達成のためには、大幅なエネルギー需要の低減と、革新的な技術開発とが必要である。しかし、これらの実現は不確実性も大きく、大きな社会負担も必要なことから、より確実で経済合理的な方策であるCDMなど京都メカニズムの積極的活用が望まれる。本研究課題では、マクロ的エネルギー需給モデルである日本MARKALモデルとアジアGOALモデル、ミクロ的ライフサイクル評価モデルであるエネルギーチェーンLCAモデルとLIME(日本版被害算定型ライフサイクル影響評価手法)を統合的に運用することによって、一連のCDM評価手法として開発することを目的とする。開発手法を2020年ころのアジア地域におけるエネルギー供給技術によるCDMクレジット供給可能量の評価と、副次的便益を含む影響緩和の費用便益分析に適用するとともに、適用を通して開発手法の有効性を実証する。これによって、推進費で実施された先行研究の補完的・支援的役割を果たす。サブテーマは次の3つである。
 (1) トップダウン型のエネルギー需給モデルを用いた緩和技術の評価に関する研究
 (2) ボトムアップ型のエネルギーチェーンLCAモデルを用いた緩和技術評価に関する研究
 (3) ライフサイクル影響評価モデルを用いた緩和技術導入による影響低減評価に関する研究

2.研究の進捗状況

 対象地域として、まず中国を取り上げた。研究課題全体を通じて、概ね計画にそった進捗を実現している。サブテーマ(1)の日本MARKALモデルでは、長期エネルギー需給見通しに準拠し、技術進展ケースでのCO2排出削減可能量をモデルで確認した。現在、CDMクレジット必要量のシナリオ分析に向けて、長期エネルギー需給見通しの改訂に合わせたエネルギー需要の見直し、高効率機器・技術のモデルへの組み込みを進めている。アジアGOALモデルでは、追加性や投資制約などCDMプロジェクトの条件をモデル化したCDMクレジット供給可能量評価手法を開発した。また、エネルギー需要を見直し、ベースラインでのCO2排出量を算出した。現在、地域別、技術別CDMクレジット供給可能量のより詳細な評価を目的として、中国の電力網を6地域に細分化するサブモデルの開発に取り組んでいる。サブテーマ(2)では、エネルギーチェーンLCAモデルをアジアへ適用可能なようにし、さらに動学化による将来の多期間での評価をめざしている。既に、将来時点における、中国新彊ウイグル・山西・上海地域での風力・天然ガス・石炭火力発電のCO2排出量等のライフサイクル評価を実施した。現在、対象地域、技術を拡大し、SOx, NOx等の排出削減による環境負荷軽減、建設費・運転費等の費用を評価するためのデータ調査を継続している。また、アジアGOALモデルのデータや分析結果を用いる動学化を進めている。サブテーマ(3)では、日本の現在に対応しているLIMEをアジアの将来に拡張するための係数修正作業を実施した。健康被害の被害係数、経済評価係数のうち便益移転について、文献調査によって係数を把握した。経済評価係数推定のために、支払い意思額の社会調査を設計し、上海で予備調査を実施した。引き続き、社会資産の被害係数を文献調査しており、上海における社会調査本調査の準備を完了した。

3.委員の指摘及び提言概要

 本課題は、国内およびアジアの国々と連携した緩和技術の推進のために極めて重要な研究と考えられ、政策決定に役立つ成果を上げることを期待する。
 今後の実施に当たっては、3つのサブテーマ間の関連をより明確にするとともに、対象地域の特性を十分把握し、可能な限り実データによるモデルの妥当性・信頼性の検証を行った上で客観性の高い分析をして頂きたい。できれば評価精度の定量化を期待する。分析対象がかなり広いので、変化の著しい地域に限ることや、モデル・技術の範囲を絞ることも検討されてはいかがか。更に、原子力発電も比較のために考慮してはどうか。最後に、成果を論文、シンポジウム等を通じて社会に伝えて頂きたい。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):c
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b


研究課題名:D-071 市民と研究者が協働する東シナ海沿岸における海岸漂着ゴミ予報実験(H19-21)

研究代表者氏名:磯辺 篤彦 (愛媛大学)

1.研究概要

 東シナ海に面した島嶼部や九州沿岸における大量の海岸漂着ゴミは、これまで処理に要する多大な人的・経済的負担を地域社会に強いてきた。しかし、漂着ゴミの削減に向けた国際ルール作りに欠かせない、ゴミの海上における経路推算や発生源の特定は困難であった。また、効率的なゴミ回収計画の策定には欠かせない漂着予報も、十分な精度で行うには至っていない。
 本研究課題では、NGOや地域住民と連携しつつ、海岸でのゴミ漂着量を計測することで、漂着量の時空間分布を明らかにするデータセット作りに取り組んでいる。そして、そのような漂着状況を再現する数値モデルを構築して、ゴミ発生源の特定や漂着予報に挑戦する。また、短波海洋レーダーを設置して、洋上でのゴミの集積場所となる潮目の検出技術の開発にも取り組む。数値モデルが予報した漂着時期に、海洋レーダーが特定した潮目にゴミが集積する様子は、空撮によって検証される。空撮による漂流物の検出技術の開発も、本研究テーマの重要な目的の一つである。
 サブテーマは次の4つである。
 (1) 海洋数値モデルによるゴミ発生源の特定と漂着予報
 (2) NGO/CBO/地域住民と連携した海岸踏査による漂着ゴミの実態調査
 (3) 短波海洋レーダーによる漂流ゴミ収束域の特定と海洋数値モデルの精度検証
 (4) 空撮による漂流ゴミ収束域の調査

2.研究の進捗状況

 サブテーマ(1)では、数値モデルを用いた海岸漂着ゴミの起源推定に関して「双方向粒子追跡法」を新たに提案し、精度よい起源推定の可能性を確認した。また、東シナ海に投入した人工衛星追尾型ブイの軌跡を数値モデルで再現し、ブイ輸送に対する風圧流(漂流物が風に直接押される効果)の影響の大きさを確認した。さらに風圧流の精度良い定式化を目指して風洞水槽実験を行った。現在、サブテーマ2が取得したデータを用いて、ゴミ起源地の特定に着手している。サブテーマ(2)では、五島列島の福江島八朔鼻海岸を定点に選び、ゴミ漂着量の時間変化を明らかにすべく、2ヶ月に1度(現在までに6回)の観測を実施した。これまでに、韓国起源と思われるゴミや風圧流の影響を受けやすい大型漁業ブイの漂着が、冬季に増加することを明らかにした。今後も定点観測を継続しつつ、これまでに実施した定点・広域調査結果の解析を進めている。サブテーマ(3)では、五島西岸に4基の短波海洋レーダーを設置し、昨年11月より同島沖における表層海流の空間分布を毎時計測中である。すでに夏季に発達する潮目(潮汐フロント)の位置を、サブテーマ1と連携しつつ数値モデルで特定している。現在、その他の潮目(流れの収束域)位置を特定すべく、データ解析を進めている。サブテーマ4では、セスナ機(2回)とバルーン搭載デジタルカメラ(4回)による空撮によって、洋上や海岸の漂流・漂着ゴミを検出する画像解析技術を開発した(特許出願中)。現在、潮目に集積する漂流ゴミの画像解析に応用すべく、観測を準備中である。さらには、サブテーマ2や3と連携して、海岸のレーダーサイトなどにwebカメラを設置し、90分毎の漂着ゴミ画像データを収集している。

3.委員の指摘及び提言概要

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:a
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b


研究課題名:D-072 大型船舶のバラスト水・船体付着で越境移動する海洋生物の動態把握と定着の早期検出 (H19-H21)

研究代表者氏名:川井 浩史 (神戸大学)

1.研究概要

 海運により越境移動し、沿岸生態系の撹乱を引き起こす海洋生物はその移入媒介者や起源国の特定が困難で、また定着・拡散過程に関する情報も乏しい。これに対しバラスト水管理条約による法的な対策が進行中だが、船体付着生物はほとんど検討されてこなかった。本研究は主に日豪を航路とする大型輸送船を対象に、バラスト水中の有害植物プランクトン・カイアシ類、海藻類・フジツボ類などの主要船体付着底生生物の動態と寄港港湾での定着実態を調査し、船を介した生物移入の実態を解明し、移入軽減のための方策検討に有効な資料を得ることを目的とする。
 サブテーマは次の7つである。
 (1) 海藻類の移入・定着の現況把握と起源・拡散経路の推定、船体付着防止策の検討と環境に及ぼす影響の評価;(2) 有害植物プランクトン移入種の定着・拡散とバラストタンク内堆積物の動態に関する研究;(3) バラスト水による海産動物の導入・定着に関する研究;(4) バラスト水および船体付着がフジツボ類の越境移動に及ぼす影響;(5) 分子マーカーを利用したフジツボ類の起源・移動経路解明に関する研究;(6) バラスト水管理条約批准後のバラスト水による生物移動量の推定;(7) 海運による国際物流に伴う生物フロー解析とバラスト水および船体付着管理手法に関する研究

2.研究の進捗状況

 船底やバラスト水から頻繁に検出される日本原産の緑藻アナアオサは、世界各地で移入報告があるがニュージーランドではほぼ全島から採集され、在来種であるとの見解が出されたが、遺伝子解析により北東アジア以外の集団はいずれも日本からの移入であることを示した。一方、日本における代表的な外来海藻とされる地中海原産の褐藻ヒラムチモは、近縁の在来種ムチモと同等の遺伝的多様性を持つことや、その生活史の特徴から、定説に反して日本の在来種であることが示唆された。
 日豪航路の大型輸送船の船底調査で21種のフジツボ類が採集されたが、その半数以上は日本に分布しないとされる種であった。しかし遺伝子解析により、このうち中米原産のMegabalanus coccopomaがすでに移入・定着し、自然海岸にも拡散していることを発見した。一方、残る未報告種の移入可能性を評価するため、輸送船の航行情報、分布・成育環境情報などに基づきリスクアセスメントを行った結果、サクラフジツボとEliminius modestusの移入リスクが高いことが示された。
 バラスト水と船体付着の微細藻調査で、1) 両者は一部の付着性種を除くと、基本的に異なる組成を持つこと;2) バラストタンク内の微細藻の一部が堆積物とともに排出される可能性が高いこと;3) リアルタイムPCR法により世界で初めてタンク内から有害植物プランクトンChattonellaHeterosigmaの存在を検出できたこと;4)タンク内に設置した堆積物補修装置により得た沈殿物中の植物プランクトンは大半が珪藻類で、多くはバラスト水管理条約の規制サイズよりも小さいことなどを示した。一方、バラスト水には頻繁にカイアシ類が検出されるが、今回の主要国際貿易港での調査では、外来種は検出されなかった。本研究ではこのほか、船尾の高頻度生物付着部位に、非生物殺滅船底塗料の塗布、界面活性剤散布の実験を行い、その効果と付着生物相の違いを解析した。

3.委員の指摘及び提言概要

4.評点

   総合評点:C
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):c
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:c
   サブテーマ4:b
   サブテーマ5:b
   サブテーマ6:c
   サブテーマ7:b


研究課題名:F-071 炭素貯留と生物多様性保護の経済効果を取り込んだ熱帯生産林の持続的管理に関する研究(H19-21)

研究代表者氏名:北山 兼弘(京都大学生態学研究センター)

1.研究概要

 ボルネオ島を中心とした赤道熱帯降雨林地帯には、商業的に木材生産を行うための生産林が1千万f以上も広がっており、その大部分は複数回の伐採を経験した二次林である。赤道熱帯域では厳正な保護区の面積割合が小さく、かつ面積増加がこれ以上は見込めないことから、生物多様性の保護は将来的にもこれらの生産林(二次林)に負うところが大きい。しかし、土地利用転換と伐採圧増加によって、これら生産林の劣化と生物多様性の喪失が懸念されており、持続的な生態系管理の導入が強く求められている。持続的管理のメカニズムとして、林地での「低インパクト伐採」とそれを浸透させるための経済的動機付けとして「森林認証」が考えられている。これらメカニズムが有効に生産林管理に導入されれば、生態系へのインパクトを低減して生物多様性の保護を達成しながら、経済効果によって木材価格の高止まりも維持できる。しかし、制度的・技術的な障害があって、導入は遅れている。本研究課題では、これらのメカニズムによる生物多様性保護や森林生態系維持の効果を科学的に検証し、さらに制度上の改善手法を提言して、導入の障害を除くことが達成目的である。サブテーマは次の4つである。
 (1) 熱帯生産林の健全性と持続性に関する生物多様性指標の開発
 (2) 熱帯林の森林認証における生態系評価手続きと監査手法の制度的検討
 (3) 熱帯生産林における森林認証導入の社会的インパクトに関する研究
 (4) 森林認証導入による熱帯生産林における炭素貯留と生物多様性保護の追加性に関する研究

2.研究の進捗状況

 (1)森林認証を受けたマレーシア・サバ州の森林管理区と認証を受けていない周辺地域において、調査地を設定し、分解者、ほ乳類の生態調査を行った。幾つかの分類群において、群集組成を用いた影響評価が最も厳密に伐採影響を検知できることが明らかとなった。
 (2)オランウータンをモデルとした絶滅危惧大型動物種の生息適地推定の手法開発を行った。上空からのネストのセンサスに基づく、在不在の決定要因をDecision treeモデルによって解析し、オランウータンの生息適地を地図化する手法を確立した。
 (3)マレーシア、サバ州にフィールドを設定し、参与観察による村人の今日の森林利用状況の把握、インタビューによる世帯調査、村人のライフヒストリー、村の歴史および森林利用変遷について調査した。従来型伐採や森林認証後の周辺社会にもたらされる負の影響や受け取る便益について、問題の所在を明確化した。
 (4)炭素貯留量の長期動態をモデル化するために、地上植生と土壌について調査を行い、モデルのパラメータを収集し、CenturyモデルとRoth Cモデルの炭素動態の再現性を検討した。広域における地上性哺乳動物群集の分布把握の手法確立を検討した。熱帯林の炭素と哺乳動物群集の動態への施業効果を予測する方法を検討した。地上バイオマスの広域把握に関して、Landsat データを用いた回帰モデルの誤差補正アルゴリズムを開発した。

3.委員の指摘及び提言概要

 全体として、着眼点やサブテーマのバランスも良く、データの蓄積も進み、成果が期待できる。森林を林業経営の場としてとらえ、生物多様性や住民との関係を考慮しつつ森林の持続的管理を行うことには賛成。森林・住民・生物多様性と制度・組織を理解し、それを改善するための成果をあげているが、さらに、森林と住民、住民と生物多様性、森林と生物多様性の相互作用系の解明が求められる。「低インパクト伐採」と「森林認証制度」では森林・住民・生物多様性系、特に住民の挙動についての研究を望む。また、「低インパクト伐採」については数量的な表示や生産生態学的考察、皆伐か択伐など林学的な考察も期待する。また、土壌動物の種構成が生物多様性の指標となり得ることを発見したことは評価でき、大型土壌動物を多様性指標とすることにも合理性がある。
 しかし、持続的管理の手法がわずか2つのシナリオしかないのは不十分であるし、この研究成果が他地域の熱帯生産林の持続的管理にどの程度役に立つか気になる。また、現地、サバ州森林局の研究者が研究参画すべきであり、JICAプロジェクトとの研究協力も必要である。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b


研究課題名:F-072 トキの野生復帰のための持続可能な自然再生計画の立案と社会的手続き(H19-21)

研究代表者氏名:島谷 幸宏 (九州大学工学研究院)

1.研究概要

 佐渡では平成20年にトキの試験放鳥が予定され、平成27年までに60羽の定着を目指すトキ野生復帰計画が進められている。本研究の目的は、トキの野生復帰に向けて「自然的および社会的に持続的で実現可能な試験放鳥計画」を立案し定着させることにある。そのために,自然科学系から人文・社会科学系にいたる分野横断的な組織体制を構築し、自然再生計画の立案から実施を網羅した、社会に確実に定着させるための手順を具体的に明示する研究プロジェクトである。餌場あるいは営巣場所の現状と再生手法を明らかにするためのフィールド研究とともに、中国産野生トキの情報の収集および平成20年に試験放鳥される国内トキの情報を加味し、適切な自然再生計画を立案していく。また、地域住民とのワークショップを重ねることで、自然系の研究者によって提案される自然再生計画が社会に受け入れられるように改良を図り、合意が図られるための手続きについても研究する。本研究の成果は、世界の生物多様性保全戦略に貢献しうる有効なモデルになると考えられる。さらに、中国産トキの調査研究を通じて中国との連携を強化し、国際的なトキの個体群管理法の確立を目指す。日中友好関係の構築にも貢献できると考えている。
 サブテーマは次の8つである。
 (1) 採餌環境としての河川生態系の評価、(2) 採餌環境としての水田生態系の評価 
 (3) エサ場創出維持技術の確立、(4) 営巣環境としての森林生態系の評価 
 (5) GISによる水田・河川・森林環境情報の一元的管理システムの確立
 (6) 中国におけるトキの生態情報の収集、(7) 国内放鳥トキの生態情報の収集
 (8) トキの生息環境を支える地域社会での社会的合意形成の設計

2.研究の進捗状況

 サブテーマ(1)〜(3)は平成19年度の魚類、昆虫類、両生類、爬虫類の生物調査に基づき、景観要因、局所要因を変数とした餌資源量予測モデルを構築し、GISを用いて繁殖期、非繁殖期の小佐渡東部の餌現存量マップを作成した。今後、餌場再生などの自然再生効果をモデルに組み込んでいく。サブテーマ(4)では、小佐渡東部の営巣可能な孤立林の分布調査を実施しマップに示すとともに、営巣可能木に対する枝打ちを実施し、トキの行動観察を行い効果の検証を行う。サブテーマ(5)のGISによる水田・河川・森林環境情報の一元的管理システムは完成し、サブテーマを完了した。サブテーマ(6)は中国側とトキの好適生息地モデルの構築、採餌生態および餌生物量、社会環境調査について共同研究を実施すべく平成19年度、協定書を結んだが、四川地震の影響があり実施が遅れている。今冬より調査を実施する。サブテーマ(7)については、9月25日の試験放鳥開始後に、環境省と協力し、衛星および地上追尾調査を実施し日本におけるトキの生態を明らかにする。現在その準備中である。サブテーマ(8)では、トキに関わる環境省、農水省、新潟県、佐渡市と協働して、各ステークホルダー(議員、農民、漁民、各地域の住民、婦人会、中小学生)とのワークショップを29回開催し、各ステークホルダーの意識と課題を抽出した。その課程を通して地域と研究チームとの関係が構築された。今後これらの研究を統合し、自然再生計画の提案と定着を進めていく。  

3.委員の指摘及び提言概要

 トキの野生復帰に向けての本研究は、順調に進み、成果が得られているように見える。しかし、推進費の研究として先端を目指すというところが見えない。また、この研究によって、新しい自然再生プランを提案できているとは思えない。この研究を、人とトキの共同体制を世界に先駆けて作るモデルケースを示してほしい。生物調査のグループは概ね期待通りに進んでいると評価できるが、社会科学のグループは社会的合意形成に意欲的に取り組んでいるとはいえ、具体的な数値データに基づく説明や考察が望まれる。全体的に科学としての信頼性ある新規な成果が出ていない。もっと具体的なアイデア、理論経済学、実践社会科学などの成果も含めて新しいコンセプトで進めていくことが求められる。科学としての新しい考えを出し、国際的に最先端の議論に貢献してほしい。また、中国と日本のトキの生態や生息環境の違いを明らかにすることも重要である。
 行政サイドとしては、トキの野生復帰を進める上で、本研究を大変重要なものと位置づけており、計画通り進められることを期待する。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b
   サブテーマ5:b
   サブテーマ6:c
   サブテーマ7:b
   サブテーマ8:b


研究課題名:F-073 土壌生物の多様性と生態系機能に関する研究 (H19-21)

研究代表者氏名:金子 信博(横浜国立大学)

1. 研究概要

 土地利用の急速な変化と地球規模の気候変動が生じつつある現在、生物多様性が生態系機能に果たす役割は重要であるが、具体的に、どのような多様性をいかに保全すれば生態系機能が維持されるかは不明である。そこで、本研究では、陸上生態系における生物多様性と機能の関係を明らかにすることを目的とする。土壌微生物、土壌動物、植生の多様性に対象を絞り、多様性の維持機構と生物間相互作用を調べ、一次生産や物質循環のような生態系機能との関係を明らかにする。そして、土壌保全の重要性を生物多様性の面から再定義する。サブテーマは次の5つである。
 (1) 森林における植生と土壌生物多様性の相互依存性に関する研究
 (2) 農法が土壌生物多様性と生態系サービスに与える影響の解析
 (3) 同位体を用いた土壌食物網による炭素利用の解析
 (4) 土壌細菌の多様性と機能解析
 (5) 生態系の生物多様性と生態系機能に関する研究

2.研究の進捗状況

 土壌微生物の多様性と機能を解析するために、消光性蛍光色素を用いて遺伝子解析手法(T-RFLP法)の新たな改良を行い、野外におけるアーキア、バクテリア、糸状菌の種と相対頻度の推定を敏速に行う方法を確立した。この方法を各調査地に応用することで、土壌における微生物を介した物質循環機能の解釈が可能になった。
 北海道大学苫小牧研究林では植生、シカ、ミミズが土壌微生物に与える影響とその機構の解明を可能とする基礎データが得られた。また、土壌動物が1から18年のレンジで、光合成されてからの時間の異なる有機物を利用していることがわかった。今後、地表撹乱処理、埋没A層の物質循環において果たす意義の解明と合わせて、森林遷移の進行にともなう生物群集の多様性と発揮される機能の変化を明らかにする。
 茨城大学阿見農場では土壌への炭素集積速度を測定し、農法の選択によって温室効果ガスの発生の低減化が可能であることがわかった。また、農法が土壌微生物群集に与える影響をT-RFLP法によって整理した。今後、農地へのミミズの導入を継続し、周辺の農家の土壌との比較を行う。
 今秋にキシャヤスデ成虫が出現する八ヶ岳カラマツ林では、ヤスデによる広域の土壌改変を発見した。動物が土壌を食べ、作る糞団粒が、二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素のフラックスに大きく影響していることを実験室で確認した。今秋、野外での物質循環の変化を観測する。
 滋賀県桐生試験地の土壌細菌のクローニングを集中的に行い、分類学的な多様性を把握するとともに、土壌動物の摂食による土壌中のバクテリア組成の変化を確認できた。今後、機能遺伝子量と物質循環の変化の関係を明らかにする。
 これらの研究から、土壌微生物は植生だけでなく、土壌食土壌動物の影響を受けて、多様性の要素のうち種数の増減よりも、優占種の交替が生じ、そのことが、微生物を介した生態系機能の変化を引き起こしているという見通しが得られた。

3.委員の指摘及び提言概要

 土壌生態系の研究は重要なテーマである。サブテーマ間の連携がとれ、役割分担もきちんとなされており、研究の成果は着実に上がっている。苫小牧研究林での研究は、共通の研究対象をうまく生かして研究計画が作られている。土壌動物が生態系に与える影響について、明確な研究成果が期待できる。学術的には高い成果が得られつつあるが、実用化にどのようなプロセスが提示されるか検討を望む。基礎研究としては大変ユニークな研究であり、今後は、生態系機能に対するインパクトの明確化や定量化などの研究も進めてほしい。
 しかし、本研究は、地球環境問題としての位置づけが必要であるとともに、この結果を地球環境政策にどう提言するのか方向が見えない。地球環境問題解明にはもっとグローバルスケールでの定量化が必要であり、この研究が行政ニーズにどう合うか疑問である。さらに、生物多様性と生態系サービスという目標が見えてこない。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):c
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b
   サブテーマ5:b


研究課題名:G-071 北東アジアの草原地域における砂漠化防止と生態系サービスの回復に関する研究(H19-21)

研究代表者氏名:大黒 俊哉(東京大学大学院農学生命科学研究科)

1. 研究概要

 乾燥地での人間活動は、草原を主体とする生態系が提供する各種サービスに大きく依存している。したがって、砂漠化防止と持続的な生産活動を両立させるためには、生態系サービスの安定的な提供が可能となるような、生態系機能の再生と、それらの持続的管理が不可欠である。本研究は、北東アジアの放牧草地を対象に、砂漠化した土地の生態系再生と持続的な生物資源利用の両立が可能となるような環境修復の指針を提示することをめざす。そのためにまず、[1]植生の回復力が高い(低い)場所はどのような規則性で分布しているのか?[2]環境修復の鍵となる植物はどのような環境適応力を持っているのか?[3]さまざまな植生回復技術は、どのようなメカニズムで環境修復を促進するのか?ということを、リモートセンシング、環境制御実験、野外実験などによって明らかにする。そして、これらの成果を組み合わせて生態系モデルを開発し、さまざまな植生回復や環境修復技術の適用効果を予測する。これにより、「どの場所に、どのような技術の組み合わせをどの程度重点的に適用すれば最大の効果と持続性が得られるか」についての科学的な根拠を示すことをめざす。サブテーマは次の3つである。
 (1) 植生回復ポテンシャル評価および生態系再生予測モデルの構築
 (2) 荒廃した草原の回復にかかわるkey speciesの環境適応性の解明
 (3) 植生回復過程における環境修復効果と種間相互作用の解明

2.研究の進捗状況

 本研究では、生態系サービス回復の鍵となるkey processおよびkey speciesを全サブテーマ共通の重点研究対象として選定したうえで、サブテーマ間の連携を図りながら進めている。進捗状況は以下の通りである。
 (1) 植生タイプをリモートセンシングにより抽出する手法として、多時期の衛星画像や高解像度衛星画像を用いることで、植物機能タイプの差異を明瞭に判別する手法を開発した。現在、機能タイプの種類、空間スケール、解析コスト等を考慮した手法の改良を進めている。フィールドスケールでの回復ポテンシャル把握については、key species分布域の変動パターンを把握することにより、回復key speciesの供給源となるコアエリアの抽出が可能であることを示した。この結果に基づき、コアエリアを中心とした埋土種子調査を実施中である。
 (2) key speciesの環境適応性の解明については、環境制御実験により、key species数種の、とくに水ストレスに対する生理生態特性・環境適応性を明らかにすることができた。現在、温度・養分等他の環境要因を制御した実験を行っている。また、L-systemを利用して、植物体地上部および地下部の複雑な立体構造を効率良く再現することが可能な植物体立体構造シミュレーションプログラムのフレームを開発した。
 (3) 長期観測プロット等における信頼性の高い野外観測データから、いくつかの重要なkey processを抽出することができた。潅木の看護効果や緑化技術の環境修復効果についても、その一部を明らかにすることができた。また、回復を促進・抑制する要因として、シードソースとの位置関係、塩濃度、降雨変動性等が推定された。しかし、一部のサイトでは明瞭な回復傾向がみられず、さらなるモニタリングの継続が必要とされた。現在、以上の要因や種間相互作用を詳細に明らかにするための野外観測を実施している。
 (4) 生態系モデルについては、モデル構造の予備的検討を行い、設計されたモデルがkey processを再現しうる構造であることを確認した。

3.委員の指摘及び提言概要

 北東アジアの砂漠化防止と植生回復に向けた意欲的な研究。空間情報解析、環境制御実験などの手法を統合しており、科学的意義は高い。植生退行や回復の評価モデルの構築という戦略も興味深い。全体的にはほぼ計画通りに研究が進行している。対象国との連携もあり、研究終了時までに環境修復のための技術パッケージの提案を期待する。本研究は砂漠化防止には不可欠な研究なので、所期の研究目標を達成してほしい。また、研究成果の公表を早めてほしい。
 しかし、本研究に新規性といえるものは多くなく、対象とするテーマが多すぎる。もっと、人間や過放牧の影響を組み入れた研究方向が必要である。また、砂漠化防止の具体的な方策が見えない。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b


研究課題名:H−071 水・物質・エネルギーの「環境フラックス」評価による持続可能な都市・産業システムの設計に関する研究(H19-21)

研究代表者氏名:藤田 壮 (国立環境研究所)

1.研究概要

 本研究課題は、低炭素・循環型社会の形成にむけて、都市・地域を対象とする環境技術・政策の計画・評価システムを構築することを目的とする。実際の都市を設定して、低炭素都市の将来目標を達成するための環境技術オプションの適合性の算定、それに基づく代替的な地域環境計画シナリオの構築とともに、その将来シナリオの実施にむけての合意形成を支援するツールの構築をめざす。
 具体的には、都市・産業活動に由来する水、エネルギー、物質資源に関する空間分布と時間変化を含む都市環境GISデータベースを構築するとともに、都市及び圏域の環境資源のフローとストックの空間分布とその移動特性を定量的に解析する統合的都市水・熱フラックス解析モデルと都市廃棄物輸送モデルを開発する。これにより環境負荷の発生の帰属を、地域・活動主体について明らかにする「環境フラックス評価システム」の構築が可能となり、水、物質、エネルギーの把握とそれを踏まえた問題点の抽出が可能となる。
 都市熱環境緩和や資源循環の技術・政策インベントリを構築し、低炭素・循環型社会の形成にむけた環境技術・政策システムの将来計画を構築して、環境フラックス評価システムを用いて、その低炭素効果を算定する。さらに、対象都市について都市環境GISデータベースによる環境特性情報と、環境フラックス評価システムを用いての地域に適合する環境改善技術・政策、および将来の低炭素計画の比較評価の結果を示して、低炭素都市形成にかかわる多様な主体、ステイクホルダー間での知識と意識の共有を支援して、合意形成を促すプロセスを試行的に設計して運用する。
 本研究は以下の3つのサブテーマから構成される。
(1) 圏域の地球環境影響を統合的に評価する環境フラックスの評価モデルの構築に関する研究
(2) 都市活動に伴う有機物質・エネルギーの地域の分布型フラックス解析システム構築に関する研究
(3) 都市活動に伴う水・エネルギーの地域のフラックス解析システムの構築に関する研究

2.研究の進捗状況

 課題の達成目標に向けて各サブテーマ間の連携をとりつつ、統合的な評価システムの構築を進めている。これまでの主な成果は以下の通りである。
 対象とした川崎市との連携で、都市の上下水道、河川、沿岸域、および地下水分布、降水量、都市排熱、気温等の都市環境の情報を統合的な都市環境GISデータベースとして整備している。
 都市において水・熱・資源循環のフローを空間解析する統合モデルの基本フレームを構想し、水・熱循環についての発生と移動を解析する物理モデル(NICE-URBAN)のプロトタイプを開発した。資源循環については都市内の廃棄物の移動と広域の経済影響を算定するプロセスを構築した。
 低炭素に資する技術インベントリを調査して、都市環境政策としての空間的な適合性から将来導入シナリオを描きその効果を算定する試算を行った。
 自治体の環境施策担当者、企業専門家との低炭素社会実現の政策シナリオ検討会を開催して多主体間の合意形成に資するプロセスの検討を行った。

3.委員の指摘及び提言概要

 全般的に研究が順調に進んでおり、それぞれのサブテーマの研究も的確に実施されていて、大きな成果が期待できそうである。得られた知見・データの現実的具体性、また政策の実践的適用性という観点からも、都市を対象とした本研究の有用性は高いと評価する。限りない精度向上の余地が残るだろうが、日本中の都市が導入し政策活用できることを目指し、継続的な進展を望みたい。
 しかし、それぞれのサブテーマが扱う対象のスケールを統合し、手法の時間スケールの違いに整合性および連続性を持たせて、サブテーマ(1)の基本フレームに(2),(3)のサブテーマがどのように連動するのかを明示する必要がある。また、改善技術・政策のオプション(可能性)の選択は、様々な利害関係者(stakeholders)によって異なるので、その選択の動機付け(incentives)の検討が必要である。さらに、既存技術の評価に留まらず、将来必要とされる技術を見通すことも求められる。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b


研究課題名:H-072 持続可能な国土・都市構造への転換戦略に関する研究(H19-21)

研究代表者氏名:林 良嗣 (名古屋大学)

1.研究概要

 国土・都市構造に対する政策の方向性は、長期にわたって人間活動の態様に影響を与え、それに伴う地球環境へのインパクトを左右する。一方、気候変動が起きることをあらかじめ想定した国土・都市計画の検討も現実的には必要である。更に、日本は人口減少・超高齢化・経済成熟時代を迎えており、その対処の観点からも国土・都市構造の見直しは喫緊の課題となっている。
 本研究は、地球温暖化防止・気候変動への適応を大前提とした上で、国民が享受するQuality Of Life (QOL)を高め、日本において持続可能な国土・都市を実現するための新たな計画理念として、各地域が自立しつつコンパクトな空間を形成する「スマート・シュリンキング(美しい縮退)」の概念を提案する。そして、その実現のために必要な条件と政策パッケージを設計し、実施に伴う効果影響を示すことを目的とする。サブテーマは次の4つである。
 (1) バックキャスティング・アプローチによる国土・都市構造戦略の検討
 (2) 都市圏土地利用戦略の詳細検討
 (3) 戦略が目指す国土・都市像のビジュアル化とその情報基盤を活用した計画手法の検討
 (4) 国土・都市戦略を支援する交通システムの詳細検討

2.研究の進捗状況

 全メンバーが合同してa)「スマート・シュリンキング」が目指すべき都市・地域の形について、日本や他国での諸事例や関連研究動向を参考に検討し、マクロ的には分散しつつミクロ的には集中した「多極集約型」立地モデルを提案するとともに、b)その実現施策として、LRT・BRT整備とその沿線への立地誘導とをパッケージ化したTOD(Transit Oriented Development: 公共交通指向型開発)が欧米で近年多く実施されていることを示した。その上で、各サブテーマにおいて、地方都市を対象に、上記a),b)を検討するためのツール開発を進め、主に以下のような成果を得た。
 (1) 都市空間構造と旅客交通CO2発生量との関係を、詳細な空間単位で分析可能なシステムをGIS上に開発し、都市域縮退策実施に伴う削減効果を推計した。本システムは同時にQOLや市街地維持費用の分布も算定でき、都市空間構造がその持続可能性に及ぼす影響を総合的に評価できる。
 (2) 日本において都市域縮退を促す土地利用施策を実施しなければ、将来的にモーダルシフト施策が旅客交通CO2削減効果を全く発揮できなくなるという予測がモデル分析によって得られた。一方、環境税の導入は、郊外部の自動車依存地域において負担増に伴う立地変化を促すものの、全体としてQOLを低下させることも明らかにした。
 (3) 都市域縮退策実施において大きな障害となる市民合意の推進を図るために、GISをベースとして、ビジュアルな都市景観表現とCO2排出量・QOLレベルの提示を合わせて行い、持続可能な都市・地域の形をステークホルダー間で検討できるコミュニケーション・ツールを設計した。
 (4) アメリカで現在進められているTOD施策を調査した結果、モータリゼーション以前の日本で民間電鉄会社が進めた沿線開発と大きく異なり、都市計画制度や財源調達に関する公的支援システムの整備なくして推進が困難であることが分かった。

3.委員の指摘及び提言概要

 中長期的な国土・都市構造の見直しの方向としてコンパクトシティへの転換を現実化する必要に迫られており、TODと公共交通整備による都市構造の変化は政策課題に適合した研究として期待される。これまでの研究成果はいずれも納得できる方向を示しており、また、国際比較研究への展開も期待される。QOLを指標にする新たな試みも政策評価へのインパクトが大きい。
 しかし、仮想(抽象)性が高い政策的仮定と細かい現実的数量分析が混交した研究となっており、政策的提言の現実的妥当性とともに、そこに介在する人間行動および(地域)社会の変化等について、より深い検討が必要である。また、バックキャスティング・アプローチを特徴とする本研究において、具体的な将来目標があまり明確ではない。ビジュアル化の効果、特に、地球温暖化問題解決に向けた計画手法としての意義を検証し、有効な活用方法とともに示すことが求められる。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:c
   サブテーマ4:c


研究課題別 中間評価結果(延長の可否)


研究課題名:B-062 アジアの水資源への温暖化影響評価のための日降水量グリッドデータの作成(H18-20)

研究代表者氏名:谷田貝 亜紀代 (総合地球環境学研究所)

1.研究概要

地球温暖化により水循環が変化し、水資源の問題を通して人間生活や生態系に影響が現れることが懸念されている。近年高解像度化した気候モデルや統計的なダウンスケーリング手法により、水資源への気候変動の影響が評価されているが、降水量は水資源にとって最も重要な気象要素であり、影響評価の前提として観測降水データによるモデルの検証は不可欠である。また統計的な方法を適用する際に長期観測データが必要である。しかし、既存の衛星等による降水データは、豪雨など極端現象の解析、高解像度モデルの検証、山岳地域の水資源評価、長期データによる過去の変動の評価や統計的手法の開発という観点からは、その定量性や対象期間の長さは必ずしも満足出来るものではない。
そこで本研究課題は、課題代表者らが行った先行研究(Xie et al. 2007)による、東アジア地域の地形を考慮し雨量計に基づく日降水量グリッドデータの作成手法を踏まえ、更なる現地観測データの収集を行い、成果物利用者と意見交換しつつプロダクトを改良し、アジア全域でデータセットを作成することを目的とする。作成されたグリッドデータはインターネット公開し、幅広い科学研究・環境政策に利用されることを目指す。サブテーマは次の3つである。
(1) 日降水量グリッドデータの作成
(2) 日降水量グリッドデータによる気候モデル降水量の評価
(3) 早期警戒システムと温暖化影響緩和のための日降水量グリッドデータの利用[20年度EFF]

2.研究の進捗状況

課題の達成目標に向けて、サブテーマ間の連携がより緊密になり、順調に成果が上がっている。これまでの主な成果は以下の通りである。

3.延長された場合の研究計画概要

4.委員の指摘及び提言概要

 当初計画を大幅に上回る研究成果をあげており、雨量計に基づく日降水量データベースの貴重さをよく示した、優れた研究プロジェクトである。また、これまでの研究成果を基に作成した延長研究計画の内容も適切であり、このような正確なデータベースが、広範な目的のために多くの研究者に利用されることを期待する。なお、雨量計観測そのものに関する評価(地域別、手法別)を明確にしてほしい。また、水循環変動を、このデータベースを用いて実際に評価できるのかどうか、今後の研究で明らかにしてほしい。

5.評点

   総合評点:A
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):a
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):a
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):a
   サブテーマ1:a
   サブテーマ2:a
   サブテーマ3(EFF):(20年度開始のため記載せず)


研究課題別 事後評価結果


研究課題名:S-2 陸域生態系の活用・保全による温室効果ガスシンク・ソース制御技術の開発 -大気中温室効果ガス濃度の安定化に向けた中長期的方策-

研究代表者氏名:山田 興一(成蹊大学 理工学部)

1.研究概要

 中長期的視点すなわち京都議定書第二約束期間以降を見据えた大気中の温室効果ガス濃度の安定化に向け、地球環境政策オプションを支える新たな技術開発が求められている。特に、陸域生態系の活用・保全を通じて温室効果ガスのシンクを増強し、ソースへの転換を防止あるいは排出抑制するための技術については、温暖化抑制技術としてのポテンシャルが非常に大きいと考えられており、また、人類が再生可能エネルギーへの完全転換を実現するまでの期間において、最も信頼でき、低コストで広範囲への適用が可能な貴重な技術として期待されているものの、科学的知見や基盤技術の整備は未だ非常に不十分な段階にとどまっている。今後、CDMあるいはJIへの適用を視野に入れた場合も含めて、このような技術の開発促進及びそれに伴う様々な環境影響の把握等、広範な科学的知見の蓄積が喫緊の課題となっている。
 本プロジェクトでは、陸域生態系の中でも、特に技術開発後の温暖化抑制ポテンシャルが大きいと期待される、1)森林生態系、2)熱帯低湿地生態系、3)農林業生態系のそれぞれについて、各々二つずつのサブテーマ(1a〜3b)を設置し、シンク・ソース技術を開発することを目的とした。
 さらに、それぞれのサブテーマについて技術開発を進めるだけでなく、それぞれの研究成果情報を共有化・統合化し、開発された技術及び得られた知見を広範な地域へ適用した場合の温室効果ガス削減量、 環境への影響、コスト等に関する技術的側面からの評価を、プロジェクト内で横断的に評価するプラットフォームを開発し、目標の明確化と情報の共有化を図ることにより、効率的なプロジェクト運営を試みた。

 サブテーマ1aでは荒漠地植林によるCO2吸収技術開発を目的とした。これは、化石燃料から再生可能エネルギーへ完全転換するまでの間、信頼性の高さ・低コスト・大規模展開可能・食糧生産との競合が皆無と、利点が多く期待の大きい方法である。しかし前例が非常にまれで、複合的環境影響評価に基づく最適対策技術開発例は皆無であった。そこで西豪州荒漠地にてCO2吸収を目的とした、水・塩条件等からの植林最適地および最適樹種選定・最適植林技術開発を行った。
 植林環境改善の観点から、効率的集水・最適植林地選定・塩回避・根域確保・土壌保水性向上の技術を開発し、CO2吸収に対する荒漠地最適植林の観点から、最適樹種選定・モデル用パラメータ評価・固定炭素量評価技術開発・水利用効率評価を行った。また上記の結果に基づく生態系シミュレーション開発・CO2吸収量予測・全球展開評価を行った。

 サブテーマ1bでは熱帯での人工林経営の収益性向上を通じた熱帯天然林の保全によるGHG削減を目標とし、早生樹の短伐期林業に焦点を当てて研究を行った。
 具体的には、インドネシア東ジャワ州において、早生樹である、Paraserianthes falcataria(ファルカタ、マメ科)、Gmelina arborea(メリナ、クマツヅラ科)を対象とし、1)熱帯産早生樹の成長量増加を予測し、CO2シンク機能強化を評価できるようになった。2)成長の改善が材質劣化を引き起こす可能性が少ないことを解明した。3)熱帯早生樹について、バイオテクノロジーを用いた増殖技術を開発し、挿し木の発根に有効な新規植物成長調節剤を開発した。4)DNAマーカーを用いた木材製品の原料樹木の個体識別技術を開発した。5)熱帯地域での林分成長モデルを構築するとともに、森林経営シミュレーションに基づいた最適計画による計画的施業の基盤を確立した。

 サブテーマ2aでは東南アジアに2,000万ha以上も存在している熱帯泥炭湿地を対象とした。近年、農園開発により熱帯泥炭湿地の大きな部分が乾地化し、大規模な二酸化炭素ソースに転換しているが、開発された熱帯泥炭湿地からの二酸化炭素発生抑制技術および森林再生による炭素シンク強化技術の開発を進めた。
 具体的には長年に亘って現地の研究者等の協力を得てデータを集積しているタイ国南部の熱帯泥炭湿地をフィールドとし、可溶性有機物の動態の解明に基づいた、土壌・水管理の最適化による二酸化炭素放出抑制技術と森林再生による炭素固定能強化技術の開発を行った。同時に、リグニンの変性・動態を実地で定量的に把握することにより、炭素循環のミッシング・シンクの解明を目指した。

 サブテーマ2bでは東南アジア低湿地(淡水湿地林・泥炭湿地林・マングローブ林)を対象として温暖化抑制のための土地資源管理オプションと地域社会エンパワーメントに関する研究を進めた。研究の目的は、非常に壊れやすい熱帯低湿地生態系の保全を考慮した農業、林業、水産業等の多目的な土地利用の適正配置と持続的な管理システムの構築であり、淡水湿地林・泥炭湿地林・マングローブ林の維持機構と炭素固定機能を解明し、森林から農地など土地利用転換に伴う炭素貯留量の変化を明らかにすることを目指した。また、温暖化抑制を促す土地利用(湿地林の再生)のための地域社会エンパワーメントを促し、その結果を低湿地の土地資源管理オプション、修復技術ならびに社会活性化の統合へとつなげることを試みた。

 サブテーマ3aでは農耕と畜産を対象とした。これらの活動は地球規模でのメタン(CH4)および亜酸化窒素(一酸化二窒素:N2O)放出量のそれぞれ約40%の起源となっている。これらのソースは、農耕地の栽培管理、反芻動物の飼育方法、畜産廃棄物の処理方法などの技術開発により、地球温暖化の緩和へ大きく貢献できる可能性がある。
 具体的には、わが国とアジア諸国の農耕地と畜産業における実効的なCH4, N2O発生制御技術の開発とその削減効果の広域予測評価を目的とした。そのために、わが国の農耕地と畜産業における、現場で実用可能なCH4, N2Oソース制御技術の開発試験を各地で行い、それらの定量的評価を行った。同時に、わが国で開発されたこれらの温室効果ガス(GHG)ソース制御技術について、アジア諸国での有効性を評価した。一方、わが国とアジア地域における農業生態系からのCH4, N2O発生に関するデータベースを構築し、そのGHGソース制御技術の定量結果から、農業生態系からのCH4, N2O発生制御技術の削減効果に対する広域評価を行った。

 サブテーマ3bではラオス・タイ・ベトナム・中国・バングラデシュ・インドなどアジアの山岳地帯で重要な食糧生産システムとなっている焼畑農業を対象とした。近年、焼畑面積の拡大と休閑期間の短縮化が急速に進み、食糧生産力の低下や森林の減少などが問題となり、さらに、温室効果ガスである二酸化炭素の放出、生物多様性の低下などの環境問題も懸念されている。
 本研究はラオス北部の焼畑地帯に着目し、焼畑生態系を地球科学的な観点で定量評価し、「土地利用変化および森林変化(LULUCF)」によるGHG発生・吸収量の定量評価に必要な土地利用およびバイオマスの動態などの科学的情報を提供するとともに、焼畑面積の増大・森林破壊・生産性低減化の悪循環の改善に資するべく、食糧生産性が高く休閑期間を長期化できる持続的な要素技術・作付システムの考案と生態系管理シナリオの提示を目的とした。

S-2の各サブ・サブサブテーマは以下の通りである。
1:森林生態系を対象とした温室効果ガス吸収固定化技術の開発と評価
(1a)荒漠地でのシステム的植林による炭素固定量増大技術の開発に関する研究
  (1)荒漠地でのシステム的植林のための水・塩制御技術の開発に関する研究
  (2)荒漠地でのシステム的植林のための環境適応型植林・土壌制御術の開発に関する研究
  (3)荒漠地植林技術のプラットフォーム構築に関する研究
(1b)森林造成技術の高度化による熱帯林のCO2シンク強化
  (1)産地選択および個体選抜による早生樹種苗の遺伝的強化
 (2)早生樹による森林育成技術の高度化

2:熱帯低湿地生態系を対象とした温室効果ガス吸収排出制御技術の開発と評価
(2a)熱帯泥炭湿地のGHGソース制御・シンク強化技術開発
(2b)東南アジア低湿地における温暖化抑制のための土地資源管理オプションと地域社会エンパワーメントに関する研究
  (1)淡水湿地林・泥炭湿地林・マングローブ林の維持機構と炭素固定機能の解明
  (2)森林から農地など土地利用転換に伴う炭素貯留量の変化の解明
  (3)温暖化抑制(地球環境保全)を促す土地利用(湿地林の再生)のための地域社会エンパワーメント
  (4)低湿地の土地資源管理オプション、修復技術と社会活性化の統合

3:農林業生態系を対象とした温室効果ガス吸収排出制御技術の開発と評価
(3a) 農業生態系におけるCH4, N2Oソース抑制技術の開発と評価
  (1)わが国とアジア諸国の農耕地におけるCH4, N2Oソース制御技術の開発と広域評価
  (2)わが国とアジア諸国の畜産業に由来するCH4, N2Oソース制御技術の開発と広域評価
(3b)東南アジア山岳地帯における移動耕作生態系管理法と炭素蓄積機能の改善に関する研究
  (1)リモートセンシング等による移動耕作生態系の変動と立地環境の解明
  (2)移動耕作生態系のシンク機能増強のための資源循環的輪作システムの開発・導入に関する検討
  (3)生態系管理法の変更に伴う土地被覆変化モデルの構築と炭素収支への影響評価

4:研究プロジェクトの統合的推進のためのプラットフォーム形成と情報共有化

2.研究の達成状況

 本プロジェクトのように多岐にわたる研究テーマをプロジェクト全体の目的達成に向けて、効率的に推進し、実用可能な開発技術を行うために、各研究テーマから提案される削減技術を実施した場合のGHG削減・固定ポテンシャル、削減のためのコスト、プロジェクトとして実施されるまでのロードマップなどを横断的に評価した。各チームの研究内容が整理され、また、その結果に触発されることで各チームの研究内容が、よりGHG削減の目的に沿ったものに発展していったと見られる。この点で、本プロジェクトの目的のひとつである効率的なプロジェクトの推進が実現されたと考える。
 横断的評価の結果、各研究テーマによって研究開発された技術に基づく削減プロジェクトが全て実施されたとすると、GHG削減ポテンシャルとして20年間で100億トンC(炭素換算で、という意味)以上になると推定された。このうち、最大のポテンシャルをもつのは開発によりCO2排出が増大している東南アジア泥炭地であり、その量は36億トンCにも達した。
 コスト、技術完成度、環境影響の観点から、短期間に実施可能で政策シナリオに結びつく方法を各研究テーマから抽出した。コストは目標とした100$/tC以下の方法が大部分であった。
 各チームから抽出されたテーマは、1aではオーストラリア乾燥地でのハードパン爆破による植林CO2固定方法、1bでは早生樹林育成と木材生産によるCO2固定、2aでは泥炭開発地の再湿地化と植林によるCO2排出量削減、2bでは泥炭開発地の水田化によるCO2排出量削減、3aではインドネシア水田の水管理によるCH4排出量削減であった。

3.委員の指摘及び提言概要

 本研究の対象は、京都議定書の第一約束期間以後にさらに重要課題となる、陸域生態系によるCO2吸収固定を目指したものであり、日本と関係の深いアジア太平洋地域の特性を考慮して、現地での調査をもとにできるだけ系統的に研究して成果をあげた点は、高く評価できる。また、研究内容がそれぞれ独立している6つのサブテーマの研究成果を統括して、1つのプラットフォームに乗せ、GHG削減の共通目標の下に個々の研究成果を統一的でわかりやすい評価でとりまとめ、アジアの途上国における効果的なCO2削減策・固定策を抽出し、これをコストとポテンシャルの両面から総合的に評価したことは、将来のCDMを実施する上で非常に役に立つので、高く評価できる。これらは、プロジェクト・リーダーの強力なリーダーシップがあったので、課題横断的な結論をまとめることができた。
 なお、分野的に成果が出ているサブテーマもあるが、全体としては、投入された研究費の総額を考慮すると、論文一つあたりのコストが高すぎる。また、この研究のように政策的に炭素削減の方法論を論じる場合、その基礎となる研究成果が国際学術誌などで評価された論文をもとにして、炭素削減の積み上げを明瞭に示す必要がある。そうでないと、削減の基礎となったデータや成果の客観性や信用性が問われるからである。早急に、成果を国際的な学術雑誌に発表し、正当な評価を受けるように、プロジェクト終了後も引き続き努力してほしい。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1a:b
   サブテーマ1b:c
   サブテーマ2a:b
   サブテーマ2b:c
   サブテーマ3a:b
   サブテーマ3b:b
   サブテーマ4 :b


研究課題名:S-2-(1a) 荒漠地でのシステム的植林による炭素固定量増大技術の開発に関する研究

研究代表者氏名:小島 紀徳(成蹊大学 理工学部)

1.研究概要

 荒漠地植林によるCO2吸収技術開発は、化石燃料から再生可能エネルギーへ完全転換するまでの間、信頼性の高さ・低コスト・大規模展開可能・食料生産との競合が皆無と、利点が多く期待の大きい方法である。しかし前例が非常にまれで、複合的環境影響評価に基づく最適対策技術開発例は皆無である。そこで西豪州荒漠地にてCO2吸収を目的とした、水・塩条件等からの植林最適地および最適樹種選定・最適植林技術開発を行った。
  (1)は植林環境改善の観点から、効率的集水・最適植林地選定・塩回避・根域確保・土壌保水性向上の技術を開発した。(2)はCO2吸収に対する荒漠地最適植林の観点から、最適樹種選定・モデル用パラメータ評価・固定炭素量評価技術開発・水利用効率評価を行った。(3)はCO2吸収プラットフォーム構築の観点から、(1)と(2)の結果に基づく生態系シミュレーション開発・シミュレーション最適化・CO2吸収量予測・全球展開評価を行った。
 サブサブテーマは次の3つである。
(1) 荒漠地でのシステム的植林のための水・塩制御技術の開発に関する研究
(2) 荒漠地でのシステム的植林のための環境適応型植林・土壌制御術の開発に関する研究
(3) 荒漠地植林技術のプラットフォーム構築に関する研究

2.研究の達成状況

 本サブテーマのターゲットは、乾燥地や農耕地中の塩類集積地など、農業での草本の育成には不十分であっても、耐乾燥性・耐塩性の高い選抜された樹木であれば耐えうる、といった境界的な場所における植林を行い、それによるCO2固定を目的とするものである。将来的な世界人口の増大にともなう農業生産ニーズの高まりによって、土地利用における農業の優位性が大きくなる傾向にあること。従って、GHG削減のために陸域生態系を利用する場合、つねに農業との競合を避けるべきであることは、近年ますます明らかになってきているが、本サブテーマの方針はその傾向に合致したものである。
 また、樹種の特性や土壌の水移動などの個別要素的研究と並行して、通常とは異なる厳しい条件下での植林実験を比較的大きなスケールで実施し、継続してデータ収集を行っていることも、大きな特徴であると言えよう。樹木の成長には長い年月が必要であり、気候条件など周囲の条件も変化するので、長期継続した実証的なデータをとることは重要ではあるが困難であり、本サブテーマの結果は貴重な実証実験であると言えよう。
 コスト・固定効率の計算は早くから進められており、GHG削減を目標とした評価が進んでいた。ただし、算出されたコストは、例えば乾燥地への植林のケースで1トンC当たり16,000円程度と比較的高価であった。本来、肥沃な、より植林に適した場所での植林がより低コストであることは自明である。両者のコストの差は、肥沃な土地と荒漠地との土地取得コストの差によって埋められるべきものである。このため、農業と植林との土地利用の競合、肥沃な土地の全地球的な不足が明らかになった後に本格的に普及が進むと期待され、技術利用の拡大のロードマップは比較的後年にシフトした形となった。2020年時点で年間600万トンC程度の固定量を見積もっている。

3.委員の指摘及び提言概要

 本研究は、乾燥地・半乾燥地での最適樹種選定・最適植林技術開発を目的として、西オーストラリアにある荒漠地を調査対象地域に選定し、カウンターパートとの良好な連携のもとに現地の実測を行い、樹木の生育に大きく関わる流域の水収支、塩類収支の面から解析を進め、地域の水・塩の移動やリターを含めた森林炭素動態のモデル等を構築し、炭素固定量の算定・予測まで行い、限られた期間内で一定の成果をあげた点は高く評価できる。しかし現時点では、水・塩・土壌の制御に必要となる現象の把握やモデル化は進んだとはいえ水収支がとれておらず、検証の不十分さも考慮すると「制御技術の開発」がなされたとは言い難く、システムとしての炭素固定量の総合評価技術までは到達していない。

4.評点

   総合評点:b


研究課題名:S-2-(1b) 森林造成技術の高度化による熱帯林のCO2シンク強化

研究代表者氏名:井出 雄二(東京大学大学院)

1.研究概要

 熱帯天然林は、CO2シンクとして大きなポテンシャルを有しているが、過度の伐採等により、減少・劣化の一途をたどっている。森林資源は、熱帯発展途上国の重要な経済基盤であるため、熱帯天然林の保全には、木材生産の場を天然林から持続的に経営される人工林に移してゆくことが不可欠である。本課題では、熱帯地域における持続的な人工林経営を確立し、人工林経営によるCO2シンク強化の可能性を検証することを目的に、早生樹の短伐期林業に焦点を当てて研究を行った。
 具体的には、インドネシア東ジャワ州において、人工林の木材生産性およびCO2吸収の向上、産出材の材質改良による木材産業の収益性の向上を通じた、人工林経営モデルの構築を目標とした。対象樹種として、熱帯地域に広く植林可能であり、高い生産性が期待できる早生樹である、Paraserianthes falcataria(ファルカタ、マメ科)、Gmelina arborea(メリナ、クマツヅラ科)を選定した。産地選択や個体選抜(育種)により成長量が大きく材質の優れた種苗の獲得と、木材生産とCO2吸収の両者のバランスが経済性の観点から最適になるような森林育成(育林)技術の開発を目指した。また、こうした育林体系がCO2吸収にどのように貢献するかについて検証した。
 その結果、1)熱帯産早生樹の成長量増加を予測し、CO2シンク機能強化を評価できるようになった。2)成長の改善が材質劣化を引き起こす可能性が少ないことを解明した。3)熱帯早生樹について、バイオテクノロジーを用いた増殖技術を開発し、挿し木の発根に有効な新規植物成長調節剤を開発した。4)DNAマーカーを用いた木材製品の原料樹木の個体識別技術を開発した。5)熱帯地域での林分成長モデルを構築するとともに、森林経営シミュレーションによる最適計画による計画的施業の基盤を確立した。
 サブサブテーマは次の2つである。
(1)産地選択および個体選抜による早生樹種苗の遺伝的強化
(2)早生樹による森林育成技術の高度化

2.研究の達成状況

 本サブテーマのターゲットは熱帯林である。生育の早い樹種を選択し、さらに品種の改良を進めることによって、管理された人工林として運営し、商業的な利益を得つつ、CO2固定の機能を発揮させ、同時に自然林での乱伐を防ぐ役割も期待している。
 人工林の運営による木材資源の生産自体はすでに実施されており、品種や運営方法の改良を進めることでGHG固定量を増加させる手法は早期に実施することができ、速効性の高いターゲットであると言えよう。
 ただし、GHGの固定として加算されるのは、厳格に考えるとベースラインとしての人工林経営に対して加算される部分、つまり、既存の人工林に対しての品種改良による成長改善の効果の部分のみとなってしまう。出荷された木材が利用されることによるGHG固定への寄与を含めるか否かの議論や、より進んで人工林経営の経済性が向上することによる効果(自然林が伐採から保護される・放棄地等から人工林への利用形態変化が進む)や、DNAマーカーを用いた木材の個体識別が一般することによる違法伐採の減少をGHG固定への寄与としてどうカウントするか、など単純には決められない部分もあった。確実性の高い、成長速度の改善による人工林の炭素固定量の増加のみを対象とし、継続的な品種改良が続けられると仮定して、2020年時点で年間1万トンC程度の固定量が期待できると見積もっている。なお、品種改良による成長の改善には何らかの限界が存在するはずであるが、2020年まで、その限界には達しないと考えている。

3.委員の指摘及び提言概要

 過度の伐採等により減少の一途をたどっている熱帯天然林を保全するためには、人工林の持続的経営システムを確立する必要があるとの視点に立って、早生樹種苗の改善・評価手法を開発し、DNAマーカー等を鍵とする早生樹森林育成技術を高度化する新しいシステムの例を提案し、その有効性を示している点は、評価できる。また、研究組織には民間企業の研究者も入っており、部分的には実用化に近い研究成果を出している。しかし、早生樹種が対象とはいえ、これまで長年にわたり国内で行われてきたいろいろな技術を持ち込み、プロジェクトの短期間内で解決を図ろうとしたことに無理がみられ、熱帯林の吸収能の強化という目標に対して、各サブテーマの成果を統合した研究成果がまとめられていない。

4.評点

   総合評点:c


研究課題名:S-2-(2a) 熱帯泥炭湿地のGHGソース制御・シンク強化技術開発

研究代表者氏名:飯山 賢治(国際農林水産業研究センター)

1.研究概要

 東南アジアには2,000万ha以上にもおよぶ熱帯泥炭湿地が分布しており、炭素シンクとして重要な地位を占めてきた。近年、農園開発により熱帯泥炭湿地の大きな部分が乾地化し、大規模なCO2ソースに転換している。開発された熱帯泥炭湿地からのCO2発生抑制技術および森林再生による炭素シンク強化技術の開発は、緊急かつ重要な課題となっている。熱帯泥炭からは、植物遺体細胞壁を構成するリグニンが微生物により著しく変性され水可溶になり、河川を経て海に流出し、海底に沈積していると考えられる。熱帯泥炭湿地生態系の可溶性有機物の動態を正確に把握し、それに基づいてCO2シンク強化ソース抑制の技術を開発することが、中長期的な視点での陸域生態系の機能活用による大気CO2濃度の安定のための重要なステップになる。また、可溶性有機物の動態の把握は、それ自身が炭素循環のミッシング・シンクの解明に直結する。
 本研究は、長年にわたって現地の研究者等の協力を得てデータを集積しているタイ国南部の熱帯泥炭湿地をフィールドとし、可溶性有機物の動態の解明に基づいた、土壌・水管理の最適化によるCO2放出抑制技術と森林再生による炭素固定能強化技術の開発を行う。同時に、リグニンの変性・動態を実地で定量的に把握することにより、炭素循環のミッシング・シンクの解明を目指す。これにより大気CO2濃度の安定のための熱帯泥炭湿地の最適な修復・管理手法を提示することを目標とする。本研究で提示する熱帯泥炭湿地の最適な修復・管理手法は、炭素シンクとして重要な地位を占める2,000万ha以上にもおよぶ熱帯アジア泥炭湿地の持続的利用・管理の指針となる。

2.研究の達成状況

 本サブテーマが対象としている熱帯泥炭湿地林は地上植生が大きな炭素固定能力を有していると同時に、地下部に泥炭として大量の炭素を保持しており、シンク・ソースの両面で面積当たりの活性が高い場所である。現状では、開発にともなって地面が乾燥、地下部に蓄積した泥炭が空気と接触して酸化され、また、野火によって急速に焼失するなどして、大きなGHGのソースとなっている。植林と水管理によって泥炭の分解を防ぎ、さらに地上の植生として炭素固定をおこなうことで大きな削減ポテンシャルが期待でき、2020年に年間600万トンCと見積もられた。
 本プロジェクトの開始以前からの豊富な知見・データがあり、プロジェクト開始後もその蓄積は続けられたが、それ以上に、熱帯泥炭湿地林での炭素循環に対する知見が統一的に整理され、それに基づくGHG削減の技術としての能力の見積もりが進んだ。
 植林の実施可能性、水管理による泥炭分解の抑制効果の見積もりの信頼性は高く、GHG削減技術としての達成度は高いと考えられる。ただし、泥炭分解の抑制がGHG削減量として国際的に認められるかどうかはベースラインの設定に関する判断を含むので、本プロジェクトの成果に基づいた情報発信が重要であろう。

3.委員の指摘及び提言概要

 不適切な開発によって地球環境への深刻な影響が指摘されている熱帯泥炭湿地の土壌炭素蓄積量、流入流出量などの炭素動態を、タイの熱帯泥炭湿地を対象として、極めて総合的、体系的に究明しその特性を明らかにするとともに、荒廃した泥炭湿地の造林技術の開発に重要な示唆を与える成果が得られたことは評価できる。また、項目別の調査結果として科学的に価値の高いデータを大量に集積できたことも評価できる。しかし、本研究課題のタイトルにある“GHGソース制御技術開発”や“シンク強化技術開発”、また研究目的となっている“熱帯泥炭湿地の最適な修復・管理手法の提示”については、植栽時の生残率が高い樹種の摘出、植栽前の湛水順化処理の提案を除き、総合的な検討・解析がなされたとは言い難く、熱帯アジア泥炭湿地の持続的利用・管理の指針を提示するまでには至っていない。

4.評点

   総合評点:b


研究課題名:S-2-(2b) 東南アジア低湿地における温暖化抑制のための土地資源管理オプションと地域社会エンパワーメントに関する研究

研究代表者氏名:小林 繁男(京都大学大学院)

1.研究概要

 1971年のラムサール条約により湿地の保全が国際条約として締結された。しかし、熱帯地域の低湿地林はそのアクセスや使い易さから土地利用の改変が急激に進でいる。中でも東南アジアの低湿地には22.2百万ヘクタールのマングローブ林、泥炭湿地林、淡水湿地林などが分布し、その面積は最も広い。しかし、農地やエビ養殖地に転換された土地はその後生産力の低下に伴い荒廃地として放棄された場所が拡大しつつある。大量の有機物が貯留されている低湿地は適正な土地利用がなされないため、有機物の分解に伴い二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの発生源にもなっている。
 2003年にはIPCCからLULUCF(土地利用転換と林業)が刊行され、東南アジア低湿地(マングローブ林、泥炭湿地林、淡水湿地林)における温暖化抑制のための土地資源管理オプションと地域社会エンパワーメントに関する研究は急務である。研究の目的は、非常に壊れやすい熱帯低湿地生態系の保全を考慮した農業、林業、水産業等の多目的な土地利用の適正配置と持続的な管理システムの構築を行うことである。淡水湿地林・泥炭湿地林・マングローブ林の維持機構と炭素固定機能を解明し、森林から農地など土地利用転換に伴う炭素貯留量の変化の明らかにする。また、温暖化抑制を促す土地利用(湿地林の再生)のための地域社会エンパワーメントを促し、その結果を低湿地の土地資源管理オプション、修復技術ならびに社会活性化の統合へとつなげる。
 サブサブテーマは次の4つである。
(1)淡水湿地林・泥炭湿地林・マングローブ林の維持機構と炭素固定機能の解明地球温暖化
(2)森林から農地など土地利用転換に伴う炭素貯留量の変化の解明
(3)温暖化抑制(地球環境保全)を促す土地利用(湿地林の再生)のための地域社会エンパワーメント
(4)低湿地の土地資源管理オプション、修復技術と社会活性化の統合

2.研究の達成状況

 本サブテーマでは、東南アジア地域のマングローブ林、淡水湿地林および泥炭湿地林という複数の生態系を対象とした。地上部・地下部の炭素蓄積量・蓄積速度等について、精度の高いデータが取得されている。これは、熱帯湿地林に関する貴重な一次情報を含むものであり、またサブテーマ2aの結果との比較も行われ相互に補強し合うデータとなっている。具体的には、森林から土地利用転換が行われると表層温度が高まり、乾燥化が促され、酸性度が中性になり、ファブリック泥炭からメッシック泥炭へ、さらにサプリック泥炭へ分解が進み、消滅すること等が明らかになった。
 地域社会のエンパワーメントと環境保全事業の両立の観点から、対象地のインドネシア側と連携しつつ、社会林業事業の政策面での展開とその具体的な実施例について情報・資料を収集している。
 また、放棄された水田での改良水稲栽培法は常時湛水、多量要素および微量要素の施肥を根幹として、水稲収量の著しい向上を実現し、泥炭地帯への移住農民の営農意欲を高めることに成功した。常時湛水することは農業改良のみならず、泥炭の分解による温室効果ガス発生の抑制に効果を発揮した。水稲栽培改良のためのコストは効果/費用比は十分現実的なものであり、2020年に年間1万トンCの削減効果が見込まれる。

3.委員の指摘及び提言概要

 サブサブテーマ(1)の熱帯の淡水湿地林・泥炭湿地林、マングローブ林の炭素固定機能と開発による機能低下に関する成果は、科学的に価値が高く評価できる。なお、これらの結果とサブテーマ2aの結果とを併せた、アジアの熱帯泥炭湿地および湿地林での炭素固定機能の広域評価が、総まとめとして必要である。また、土地利用転換に伴う炭素貯留量の変化の解明については、十分に具体的な成果が得られたとは言い難い。一方、土地資源管理オプションと地域社会エンパワーメントに関する研究では、地域社会の向上に関する人文・社会的な視点から行われた調査と解析により多様性が明らかにされたので、地域ごとに対応策の必要性が提示されていることは重要な成果である。しかし、サブテーマ(4)の修復技術と社会活性化の統合については、実施された研究内容との整合性が必ずしもみられず、そのために成果が不十分である。

4.評点

   総合評点:c


研究課題名:S-2-(3a) 農業生態系におけるCH4, N2Oソース抑制技術の開発と評価

研究代表者:八木 一行(農業環境技術研究所)

1.研究概要

 地球規模でのメタン(CH4)および亜酸化窒素(一酸化二窒素:N2O)放出量のそれぞれ約40%は、農耕地と畜産業等、農業生態系が起源となっている。これらのソースは、農耕地の栽培管理、反すう動物の飼育方法、畜産廃棄物の処理方法などの技術開発により、地球温暖化の緩和へ大きな貢献の出来る可能性がある。
 本テーマでは、わが国とアジア諸国の農耕地と畜産業における実効的なCH4, N2O発生制御技術の開発とその削減効果の広域予察評価を目的とした。そのために、わが国の農耕地と畜産業における、現場で実用可能なCH4, N2Oソース制御技術の開発試験を各地で行い、それらの定量的評価を行った。同時に、わが国で開発されたこれらの温室効果ガス(GHG)ソース制御技術について、アジア諸国での有効性を評価した。一方、わが国とアジア地域における農業生態系からのCH4, N2O発生に関するデータベースを構築し、そのGHGソース制御技術の定量結果から、農業生態系からのCH4, N2O発生制御技術の削減効果に対する広域評価を行った。
 サブサブテーマは次の2つである。
(1)わが国とアジア諸国の農耕地におけるCH4, N2Oソース制御技術の開発と広域評価
(2)わが国とアジア諸国の畜産業に由来するCH4, N2Oソース制御技術の開発と広域評価

2.研究の達成状況

 本プロジェクトでは、農耕・畜産に両分野にわたり複数の技術について開発・研究を行った。
 わが国と中国、インドネシア、タイ、ベトナムにおいて現地試験を行い、農耕地での水田水管理、有機物管理、施肥管理や畜産での飼養管理、ふん尿処理などCH4, N2O発生を大きく(10%〜>50%)削減する実効的技術の効果を定量した。現地試験より得られた削減データから、これらの技術をアジア域に拡大した場合、大きなGHG排出削減ポテンシャルを期待できることが示唆された。また、水田水管理、中国製資材による施肥管理、および家畜飼養管理はコスト増加がきわめて小さく、有利なGHG発生制御技術であることが明らかにされた。例えば水田の水管理をインドネシアで行う場合、1tC当たり4,000円程度のコストで2020年までに年間200万トンCの削減が可能と見積もられた。
 さらに、世界の水田や東南アジアの反すう家畜等についてソースデータベースを構築し、排出係数と制御要因の寄与を広域推定した。その結果、世界の水田からのCH4発生量は年間2,510万トンであり、水管理と有機物管理により、それぞれ年間410万トンが削減可能であると推定された。また、測定例のほとんどなかったアジア地域の反すう家畜からのCH4排出係数が算定された。加えて、流域複合生態系解析手法やプロセスモデルを用いた農耕地からのCH4, N2O発生量に関する新たな広域評価手法を開発した。
 本サブテーマで得られた成果の一部は、2006年改訂IPCCガイドラインにおける水田からのCH4およびN2O排出係数デフォルト値、日本国温室効果ガスインベントリ報告書における農業セクターの排出係数と算定手法に盛り込まれた。また、水田からのCH4削減策として「農林水産省地球温暖化対策総合戦略(平成19年7月)」 に盛り込まれ、平成20年度からの全国実証事業として予算化された。

3.委員の指摘及び提言概要

 農耕地および畜産業からのCH4とN2Oの排出量の把握と排出削減技術の開発について、わが国とアジア諸国を対象に包括的な研究を進め、経済性を含め実際に適用可能な技術----農耕地・水田における有機物管理と水管理、反芻家畜類における飼料管理と排泄物管理、また厩肥や堆肥の製造・使用過程における硝酸化成作用の抑制技術----を提案して、削減量の具体的な数値を示している点は、評価できる。また、地球環境政策への貢献という視点では,IPCCの活動への参加は高く評価できる。しかし、家畜糞堆肥を製造する過程で発生するCH4及びN2Oの発生量について推定していないこと、また、反芻家畜からのCH4発生にかかるサマリーで、ルーメン内温度が高い場合に発生量は減少することを明らかにしたと記述されているが、本文にそのような記述はないなど、いくつかの不十分さが目立った。なお、国際的な学術雑誌への発表が相対的に少ないので、早急に主要な成果を論文として発表してほしい。

4.評点

   総合評点:b


研究課題名: S-2-(3b) 東南アジア山岳地帯における移動耕作生態系管理法と炭素蓄積機能の改善に関する研究

研究代表者:井上 吉雄(農業環境技術研究所)

1.研究概要

 ラオス・タイ・ベトナム・中国・バングラデシュ・インドなどアジアの山岳地帯では焼畑農業が重要な食糧生産システムとして広く行われている。しかし、近年、焼畑面積の拡大と休閑期間の短縮化が急速に進み、食糧生産力の低下や森林の減少などが問題となり、さらに、温室効果ガスであるCO2の放出、生物多様性の低下などの環境問題も懸念されている。しかし、こうした実態に関する科学的データは世界的にも乏しいのが現状で、焼畑地帯の炭素蓄積量を正確に評価するとともに、食糧生産を増強しつつ大気中のCO2を固定できる生態系管理方策を提案することが求められていた。
 そこで本研究は、焼畑生態系を地球科学的な観点で定量評価し、温暖化防止策に関して不確実性が高い「土地利用変化および森林変化(LULUCF)」の問題に対して科学的情報を提供するとともに、焼畑面積の増大・森林破壊・生産性低減化の悪循環の改善に資するべく、地球環境問題が貧困問題と不可分な状況になっているラオス北部の焼畑地帯に着目し、[1]広域的かつ正確な実態観測に基づいた土地利用およびバイオマス等基礎諸量の動態解明、[2]食糧生産性が高く休閑期間を長期化できる持続的な要素技術・作付システムの考案と検証、ならびにこれらを統合した、[3]生態系炭素蓄積量の増強と食糧生産・資源保全を実現するための生態系管理シナリオの提示、を目的とした。
 サブサブテーマは次の3つである。
(1)リモートセンシング等による移動耕作生態系の変動と立地環境の解明
(2)移動耕作生態系のシンク機能増強のための資源循環的輪作システムの開発・導入に関する検討
(3)生態系管理法の変更に伴う土地被覆変化モデルの構築と炭素収支への影響評価

2.研究の達成状況

 本チームでは、ラオス北部の焼畑地帯を対象として衛星データと地上における測定を組み合わせ、実像を明らかにしている。さらに進んで、生産性を保ちつつ休閑中の森林を温存し、炭素固定量を増やす作付けサイクルを提案している。
 衛星データからはまさに俯瞰的に、全体の状況が見て取れる。焼畑・畑作・休耕と森林再生のサイクルが次第に変化していることを数値的にとらえるなど、印象的な成果が上がっている。地上での植生の測定に基づく、焼畑耕作サイクルにおける炭素の収支について、当初はプロジェクト全体での議論の対象となる部分もあったが、最終的には妥当な成果が得られた。
 上記の成果に基づいて、現地での導入を目的として提案された新たな作付けシステムは、より生産性の高い作物をサイクルに組み込むことで生産性を保ちつつ、サイクル中の休閑期間の割合を増やす。結果として焼畑耕作地の全面積に対する森林の割合を増やすことで、森林による炭素固定量の増加を期待するものである。これは、植物の育成のサイクルとしての実施可能性は高いが、農業システムとしての実現可能性についてはより検討が必要であろう。農業として自立できる条件は、より経済的な側面、とくに生産物の市場や価格、品質に依存する部分もあり、その点での検討が必要である。
 本手法の利用によって、2020年までに年間1万トンC程度のGHG削減が期待できる。

3.委員の指摘及び提言概要

 リモートセンシング法の活用によるラオスの焼畑地帯における炭素収支の評価手法は、休閑地を含む多様な土地利用と上手に結合させて、焼畑−休閑サイクルの違いと生態系炭素蓄積の相対関係を時系列レベルで数量化したことは、高く評価できる。焼畑の代替システムの分析では、高収量イネを導入し、紙資源となるカジノキを栽培し、その際にキマメとスタイロを混作することを、具体的に提唱しており、評価できる。しかし、キマメとスタイロについての経済的な情報が極めて少なく、多様な焼畑耕作の代替システムを分析する場合に、作物だけでなくそれに投入される労働、土地所有などの総合的な分析が必要であるがなされていないなど、現実問題への説得力のある具体的な提案に至らなかった点は不十分である。

4.評点

   総合評点:b


研究課題名:S-2-(4) 研究プロジェクトの統合的推進のプラットフォーム形成と情報共有化

研究代表者:山田 興一(成蹊大学 理工学部)

1.研究概要

 本研究では、1aから3bまで6つのサブテーマの統合的推進を目的とした。プラットフォーム形成と情報共有化として当初は基礎情報や研究成果をとりまとめたデータベース的なものをイメージしていたが、プロジェクトの進行とともにより焦点を絞った具体的な評価をプロジェクト全体に対して横断的に行う方向にシフトした。また、この様な横断的な評価は、各サブテーマのチームが作成したデータをもとにチーム4がとりまとめ、報告会などのイベントに合わせて横断的評価として全体にフィードバックした。
 横断的評価として、各テーマの研究成果から提案されるGHGの固定・削減の手法に基づいたポテンシャルの評価、研究成果がGHG削減という結果に結びつくまでの道筋をまとめたロードマップの作成を行った。さらに、幾つかの手法については、仮想的なプロジェクトを想定してGHGの固定・削減量とそのプロジェクトの実施に際してのコストと排出されるCO2や他のGHGの量を見積もり、固定・削減効率も求めた。
 横断的評価の結果、各研究テーマによって研究開発された技術に基づく削減プロジェクトが全て実施されたとするとGHG削減ポテンシャルとして20年間で100億トンC以上になると推定された。このうち、最大のポテンシャルをもつのは開発によりCO2排出が増大している東南アジア泥炭地であり、その量は36億トンCにも達した。
 対象や手法が異なる複数のプロジェクトを同じ基準で評価する横断的な評価では、不確実性のため時に大胆な仮定も必要となったが、その作業を通じて各研究テーマでの目標の明確化とテーマ間での研究内容の相互理解が進むことによって、本研究の目的のひとつである効率的なプロジェクトの推進が実現されたと考える。

2.研究の達成状況

 明確な企画意図をもって大きなプロジェクトをつくっても、各研究者間の連絡はあまり密には行われず、結局は各研究者の個人プレーの集まりにとどまるのではないか。これでは、多くの研究者の多大な努力と予算をつぎ込んだプロジェクトから、必ずしも企画意図に向けた最適の研究成果が得られないのではないか、という問題意識から本サブテーマのようなグループを構成した。
 当初は各サブテーマ間のチームプレーを援助するためには、アウトプットを整理しプロジェクト全体で共有化することができるようにすれば、自ずとプロジェクトの目標、ここではGHG削減、に寄与するかたちで研究結果がまとまる、と考えていた。つまり、各サブテーマはGHG削減という大目標を組み上げるピースのように研究結果を整理している、と暗黙の内に考えていた訳である。
 しかし、プロジェクト開始初期の段階でこの考え方には無理があることが明らかになった。同じくGHGの削減を意図していても、各チームの思い描く寄与のあり方は多様である。削減ポテンシャルの評価から削減技術の詳細までのいろいろな段階の成果を体系的に結びつけて、GHG削減のための政策提言につながるようなアウトプットをまとめるには、アウトプットの内容や形式を細かく指定して求められているものを明確にすることが必要である。
 今回、ポテンシャル評価、ロードマップ、コスト・効率計算など具体的なアウトプットの横断的な評価を行った。本プロジェクト全体の各チームの研究内容が整理され、また、その結果に触発されることで各チームの研究内容が、よりGHG削減の目的に沿ったものに発展していったと見られる。その点で、本チームの目的は達成されていると考える。

3.委員の指摘及び提言概要

 荒漠地植林、熱帯低湿地、および農林業の3生態系に対して、それぞれ独立に調査研究を進めた6つのサブテーマ研究成果を、同じ物差しを用いて1つのプラットフォームにのせ、統一的に評価して、固有技術毎のCO2削減コストやポテンシャルなどを比較分析し、情報の共有化・集積・公開をすることができたことは、高く評価される。また、それらの数値の不確実性はまだ大きいが、地球環境政策の視点からは、現実の政策決定に寄与できるツールの基礎を構築したことも、評価できる。なお、GHG削減に対する具体的目標を定めているが、ハイブリッド化された郷土樹種など生産性の高い植物を大量導入することでハイリターンが期待される一方、熱帯林の生態系ではモノカルチャー化等が進行し、生物多様性の低下による病虫獣害の発生、山火事の頻発化と気象被害の拡大などハイリスクも予想される。こうした観点を含めた総合影響評価も、検討してほしい。

4.評点

   総合評点:b


研究課題別 事後評価結果


研究課題名:B-15 環礁州島からなる島嶼国の持続可能な国土の維持に関する研究(H15-19)

研究代表者氏名:茅根 創 (東京大学)

1.研究概要

 島嶼国、とくに環礁上の州島は標高が1〜3mと低平で、利用可能な土地と資源が限られており、地球環境変動に対する脆弱性が著しく高い。地球温暖化に伴う海面上昇によって、国土自体が喪失してしまうことが危惧されている。しかしながら、環礁州島の多くは正確な地図さえなく、州島がどのように形成・維持されているのかも不明なままであった。基本的な維持機構すらわからないままに人工構造物などによる対策を建てると、州島の維持機構までも破壊してしまう可能性がある。環礁州島の形成と維持には、物理過程だけでなく、サンゴや有孔虫が砂を供給する生物過程や、州島に居住する人間の伝統的な土地・植生管理が重要な役割を果たしている。こうした点をふまえて、本課題では以下の3つのサブテーマを設定して、マーシャル諸島共和国のマジュロ環礁と、ツバル共和国のフナフチ環礁において現地調査を行った。
(1) 環礁州島の自然(地形-生態)プロセスに関する研究 
(2) 環礁州島の人間居住―自然環境の相互作用に関する研究
(3) 環礁州島形成維持プロセスの統合モデルと変動予測、モニタリングに関する研究

2.研究の達成状況

 本研究によってはじめて、環礁州島の基本的な地形構成とその形成・維持過程が明らかになった。さらに、地形を維持する堆積物として有孔虫砂の役割に着目して、その定量的な評価を行った。また、地形形成と人間居住の相互作用の歴史を復元して、人間による土地と植生管理の役割を評価し、こうした人間の役割が最近数10年の人口増加と経済活動の変容によって崩壊していることを指摘した。州島地形が海面上に現れたのが2000年前で、形成とほぼ同時に人間居住が始まり、それ以降現在まで継続していることは、島の資源が貧弱で人の居住には適さないとされていた従来のイメージを覆すものである。
 本研究ではまた、低平でリング状という環礁地形に適した、マッピング技術と流れの場、漂砂モデルの構築に成功した。また過去の画像情報に基づいて、海岸地形や植生、土地利用や土地改変の歴史を復元して、島の脆弱性を評価する手法を開発した。得られた結果に基づいて、近年の海岸浸食の状態を評価するとともに、人口増加に伴う低平な土地への居住地の拡大がグローバルな環境変動に対する環礁州島の脆弱性を高めていることを明らかにした。
 本研究は、人間の土地・植生管理システムが崩壊し、ローカルな環境ストレスが生態系の劣化を通じて州島地形の維持機構をも破壊していることを定量的に評価した。この結果に基づいて、グローバルな環境変動に対処するためには、ローカルな環境ストレスを軽減し、生態系を保全・再生するとともに、伝統的な土地・植生管理システムを再評価し、州島の収容力に見合った住み方をすることが必要であることが明らかになった。得られた成果は、ゾーニングマップやハザードマップとして現地に提供するとともに、現地の総合沿岸管理計画への適用を進めている。

3.委員の指摘及び提言概要

 地球環境変動の影響が深刻な環礁州島を研究対象地域として、ローカルな問題の解決に、グローバルな自然科学的視点とローカルな人文科学的視点に立って、現地調査結果を軸にして、両者をモデルと衛星観測で結び、現実的な解決策を提案することに成功した研究として、高く評価できる。また、考古学を含む学際領域の研究者の共同研究の利点が良く生かされた、説得力のある成果が得られている。さらに、研究グループの構成も適切であり、研究費に対するコストパフォーマンスは高いと評価される。なお、ローカルな危機とグローバルな危機の双方向の枠組みの提示は分かるが、そのメカニズムの解析はまだ不十分で、また、各サブテーマの成果を総括してより大きな課題解決への努力についても、深刻な影響を考えると、もっと力点をおいてほしかった。さらに、ツバルとマジョロを調査地域とし、全体の調査研究はマジョロに重点がおかれたが、両方の島嶼で同じレベルの調査と解析がなされたら、より客観的な成果が得られたと思われる。

4.評点

   総合評点:A
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):a
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):a
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:a
   サブテーマ2:a
   サブテーマ3:a


研究課題名:B-051 アジアにおけるオゾン・ブラックカーボンの空間的・時間的変動と気候影響に関する研究(H17-19)

研究代表者氏名:秋元 肇(海洋研究開発機構)

1.研究概要

地球温暖化の現象解明に関しては、最近オゾン・エアロゾルなどの短寿命温暖化関連物質が地域的気候変動に及ぼす影響の重要性がIPCCなどでも指摘されてきている。本研究では中央アジアから東アジア域を対象に、オゾン・ブラックカーボンの地上における通年観測・集中観測、及び衛星データ利用によるアジア全域の観測、排出量インベントリの作成を通じて、これらの空間的・時間的変動を明らかにする。また、これまでエアロゾルの気候影響は、多くの化学種からなるエアロゾルの直接効果・間接効果が総体的に議論されることが多かったが、本研究ではオゾンとともに正の放射強制力を持つブラックカーボンの直接効果を取りだし、それらの気候影響を比較するとともに、長寿命温室効果ガスの地域的気候影響との違いを明らかにする。
 サブテーマは次の5つである。
(1) 東アジア・中央アジアにおけるオゾン・ブラックカーボンの空間的・時間的変動に関する地上観測
(2) 対流圏化学衛星データによるオゾン及び前駆体物質の空間的・時間的変動の解析
(3) アジアにおける大気汚染物質放出量の推定と将来予測
(4) 化学輸送モデルによる半球規模オゾン・ブラックカーボン汚染の解明
(5) 化学気候結合モデルによるオゾン・ブラックカーボンの気候影響の評価

2.研究の達成状況

(1) 東・中央アジア地域でのオゾン・BCの通年観測を実施し、それぞれの季節変化、濃度レベルを初めて明らかにすることができた。オゾン汚染が極大となる季節を狙い、2006年6月, 2007年7月に、中国中東部における集中観測を実施し、BC,OC, O3, CO, NOx, NMVOCなどの濃度レベル、濃度比を明らかにすることができた。中国中東部において、BCによる大気上端での放射強制力は、二酸化炭素に匹敵しうることが分かった。
(2) 衛星データの検証に最適な紫外可視分光計(MAX-DOAS)を開発するとともに、必要な解析ソフトウェアも開発し、中国・華北平原での観測を実施した。対流圏NO2カラム濃度を衛星データと比較したところ、衛星データには系統的に約20%の正のバイアスがあることが分かった。
(3) アジア地域におけるオゾン・エアロゾル前駆体物質(NOx, NMVOC, SO2, CO)と炭素粒子(BC, OC)の排出量を1980-2020年について算定し、アジア地域排出インベントリREAS 1.1(Regional Emission inventory in Asia Version 1.1)を開発し、web上で世界に公開した。
(4) 対流圏オゾンのソース・リセプター関係を明らかにするための手法として、全球化学輸送モデルを用いた「タグ法」を開発し、全球の代表的リモート地点の対流圏オゾンに対するそれぞれの発生源地域からの寄与を年間を通じて計算した。
(5) 化学・気候モデルCHASERを用いて、産業革命以前から現在にかけてのオゾン・BCの分布変動を計算し、地域的気候応答を調べた。BCによる地表気温上昇は約0.5℃であり、夏季の北米、欧州、そして特にアジア大陸中央で1℃以上の大きな昇温パターンが見られた。対流圏オゾン変動による気候応答は+0.3℃であり、これはその他の温室効果気体の変動に対する応答の14%であった。

3.委員の指摘及び提言概要

地球温暖化現象の理解や大気化学に多くの新知見をもたらした研究であり、アジア域での越境汚染の実態と将来予測、およびオゾンとブラックカーボンの気候影響評価などに関する重要な知見を得たので、その成果は高く評価できる。また、衛星データの検証に最適な地上設置型の紫外可視分光計の開発および解析ソフトウェアの開発を行い、その実用化に世界で初めて成功している。さらに、オゾン・エアロゾル前駆体物質、及びブラックカーボンなどの炭素粒子に関し、アジア地域排出インベントリを開発して、気候変動モデルに必要な基礎データベースの構築に貢献した。なお、ブラックカーボンの気候影響については、ブラックカーボンを含むエアロゾル全体を考慮した時空間分布をもとにして、直接の放射強制力を、できれば間接効果も考慮して、信頼できる大気大循環モデル(GCM)を通して評価する必要がある。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:a
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b
   サブテーマ5:b


研究課題名:B-052 アジア太平洋統合評価モデルによる地球温暖化の緩和・適応政策の評価に関する研究(H17-19)

研究代表者氏名:甲斐沼 美紀子 (国立環境研究所)

1.研究概要

 本研究では、[1]地球温暖化問題に関連の深いエネルギーのみならず、水や土地など他の環境問題と経済発展の両面を分析できるモデルを開発すること、[2]ミレニアム開発目標に示されるような短・中期的な環境保全、開発目標と、経済発展を損なわない長期的な温暖化対策としての緩和策、適応策の整合的な政策の評価を、中国、インド、タイといったアジアの途上国および世界全体の両面から行うこと、[3]日本との関係を定量的に分析するために、日本からのCDM(クリーン開発メカニズム)をはじめとする技術支援等の政策が、受け入れ国の経済発展、環境保全に及ぼす影響について評価すること、を目的として、日本、中国、インド等の国及び世界全体を対象に、環境要素モデル(個別の環境負荷やその影響、対策の効果を定量的に評価するモデル)と、環境政策評価モデル(環境政策と経済活動、複数の環境問題の解決、影響などを整合的に評価するモデル)を開発し、地球温暖化対策としての緩和策(温室効果ガス排出量の削減など温暖化を防止するための対策)と適応策(温暖化問題が発生しても対応できるような対策)の評価、長期的な温暖化対策と短期的な国内環境問題や経済発展を両立させるための政策評価を行う。
 サブテーマは次の2つである。
 (1) 国別モデルの開発と政策評価及び比較分析
 (2) 緩和・適応政策評価のための世界モデルの開発

2.研究の達成状況

 環境要素モデルについては、安全な水の供給を評価するためのモデルや河川流量モデルの開発、大気汚染モデル、家計生産モデル、鉄のストック・フローモデルなどの開発とともに、これまでに開発してきたエネルギー技術選択モデルの改良を実施した。本研究で開発、改良したモデル用いて、2020年の世界各地域の費用別温室効果ガス排出量削減ポテンシャルや、2015 年までに安全な飲み水と基本的な衛生設備を持続可能な形で利用できない人々の割合を1990年と比較して半減させるというミレニアム開発目標の達成可能性、月単位の水不足頻度の評価といったことを分析してきた。また、アジアの主要国で取り組まれている様々なエネルギー対策に関する施策の、温室効果ガス排出量の削減への寄与について定量的に評価した。環境政策評価モデルについては、エネルギー技術選択モデルと組み合わせることで、日本における温暖化対策税導入による経済影響や、中国におけるエネルギー税導入の効果を評価した。また、農業影響モデルと組み合わせることで、温暖化による農業を通じたマクロ経済への影響や適応策の効果を明らかにした。さらに、日本モデル及び中国モデルを統合することで、日本から中国へのCDMの効果、影響を分析した。
 得られた成果は、中央環境審議会において報告するなどわが国の温暖化政策に貢献してきた。また、IPCC第4次評価報告書での引用、EMF(エネルギーモデリングフォーラム)などの国際的なモデル比較研究やUNEP/GEO4への情報提供、アジア各国での温暖化対策への貢献など、国際的な貢献も果たしており、当初計画していた目的は十分に達成した。

3.委員の指摘及び提言概要

 温暖化対策の評価手法に関連して、国別モデルの開発と政策評価と比較分析(サブテーマ(1))、緩和・適応政策評価のための世界モデルの開発(サブテーマ(2))の分野において、それぞれの当初目標とした成果が得られているといえる。特に、IPCCへの第4次報告書への貢献をはじめとして、政策研究としての貢献は大きく、引き続きこの分野での指導的な役割を期待したい。しかし、ここで用いたマクロ的モデルの実データによる検証が十分でないことや、サブテーマ間の関連の強化、等の課題もあった。また、今後、炭素税への具体的提言や低炭素社会における個人、企業レベルの対応・影響の分析との関連についても検討されたい。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b


研究課題名:B-053 ロシア北方林における炭素蓄積量と炭素固定速度推定に関する研究(H17-19)

研究代表者氏名:沢田治雄(森林総合研究所)

1.研究概要

 本課題では、現地調査による炭素蓄積に関するデータ収集と、既存研究資料の系統的な探索を進め、ロシア北方林全域の炭素蓄積量と炭素固定速度を高い精度で推定し、かつ衛星データとリンクさせた広域評価を目指した。ロシア北方林を凍土地帯と非凍土地帯に大別して、その生態学的・生物地理学的な特徴を考慮し、森林の炭素蓄積量と炭素固定速度の推定に適切なデータセットを構築した。永久凍土地帯に特有な森林成長の停滞現象と、それに伴う炭素蓄積量と炭素固定速度への影響を解明し、非凍土地帯では、森林構造発達に伴う炭素蓄積パターンの解明と、地上部と地下部の炭素蓄積量推定の精度を向上させた。最も大きな有機炭素貯留の場となっている森林土壌と林床堆積腐植のデータセットについても、地域特性と土壌特性を検討した。森林火災の延焼枯死面積の算出精度を高めるとともに、火災跡地の二酸化炭素放出推定を試みた。ロシア全域の森林解析を行うためのデータ蓄積構造にかかわるシステム設計を行い,リモートセンシングデータをはじめ,GISデータおよび地上調査データ等を総合的に処理し、森林の面積変動と炭素蓄積情報を明らかにする手法を開発した。本課題のサブテーマは次の4つである。
(1) 凍土地帯の森林生態系における炭素蓄積量と炭素固定速度
(2) 非凍土地帯の森林生態系における炭素蓄積量と炭素固定速度
(3) 森林火災による炭素蓄積量・炭素固定速度への影響
(4) 炭素蓄積量と炭素固定速度の広域評価

2.研究の達成状況

 凍土地帯に特有な林分発達パターンを解明し、現存量が一定の値で頭打ちとなるのは、火災後の林床回復で永久凍土面が再上昇し、根圏土壌の環境変化によることが明らかになった。永久凍土地帯のカラマツ林はわずかながらシンクとして機能し、年間0.14 Gton Cの炭素固定と見積もられた。
 非凍土地帯である極東地域の針広混交林では、頻発する森林火災の影響で、従来とは異なる森林タイプが増加しつつあり、長期的には炭素蓄積量、炭素固定速度の減退が予想された。ロシアの森林土壌全体の炭素蓄積量74 Gton Cの約7割が非凍土地帯に分布し、3割は凍土地帯の森林土壌に分布していた。同様に森林の堆積腐植層に蓄積した炭素量13.5 Gton Cの約7割は非凍土地帯に、3割が凍土地帯に分布していることが明らかになった。
 森林火災被害地面積を、森林火災直後の延焼枯死林分と地表火延焼林分面積とに分けて、それぞれ数%の誤差で算出するが可能となった。この手法ではさらに、葉面積指数、林床の被覆度を見積もることができるので、NPPの広域推定、森林火災跡地からの二酸化炭素放出推定などに応用が可能となった。長期衛星データや地上データの統合により、ロシア北方林の立地環境と炭素固定能の年々変動を明らかにし、広大なロシア北方林おける成長状況のモニタリングを可能にした。純一次生産量に関してはロシア全域で1980年代前期の変動は大きかったが、近年はそれほど大きな変動パターンを示さなかった。近年の純一次生産量は年間約0.8Gtonと推定された。

3.委員の指摘及び提言概要

 地球の森林生態系のなかで広大な面積を持つロシア北方林について、種々の制約のあるなかで、現地調査と衛星データをもとに、炭素蓄積量の動態を明らかにしたことは、高く評価できる。なお、中央シベリアにはカラマツ林が、凍土地帯だけでなく非凍土地帯にも分布するが、その炭素蓄積量に関するデータが示されなかったという点は、不十分であった。一方、近年頻発している森林火災が炭素蓄積量に及ぼす影響については、LANDSAT衛星を使った土地被覆カテゴリーの面積率をもとに、森林火災被害地面積を精度よく推定できたので、森林火災からのCO2放出量の推定手法の改良に大きく貢献できる。なお、LANDAST衛星データは現在使用できないので、この研究成果をもとに現在稼働している衛星データを用いた方法の開発が期待される。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b


研究課題名:RF-061 Super-GCMの開発およびそれを用いた温暖化時のメソ気象現象変調に関する研究 (H18-19)

研究代表者氏名:渡部 雅浩(北海道大学)

1.研究概要

 IPCC第4次報告書(AR4)においては、地球温暖化時の大規模な気候変化予測とともに、台風や集中豪雨などの極端なメソスケール(数km程度)の気象現象の変化に関する予測に進展が見られる。しかし、格子間隔が未だ100km程度の全球気候モデル(GCM)ではメソスケールの雲・降水システムは直接表現できず、新たなアプローチが求められる。近年、米国で提案されたマルチスケール・モデリングフレームワーク(MMF)はその一つである。これは、格子間隔数km程度の2次元雲解像モデル(CRM)をGCMの各格子に双方向的に埋め込むもので、従来のネスティングとは概念的に異なるモデルシステムである。MMFは気候研究および温暖化予測研究に応用したときに大きな成果をもたらし得るが、残念ながらMMFにもとづく気候モデリングへの取組みは国内では皆無である。
 こうした背景を踏まえ、本研究はMMFにもとづく気候モデルの開発および温暖化予測への応用を目的とした。但し、米国流のMMFと異なり、ネスティングとMMFを繋ぐよりフレキシブルなシステムの開発を目指す。すなわち、GCMの1格子を単位として3次元CRMを埋め込むことにより、任意の領域でのネスティングあるいはMMFを可能にするFlexNestと呼ぶ新しいモデルの枠組である。FlexNestを用いた本格的な温暖化シミュレーションは本研究計画には含めず、モデルの開発およびその周辺で重要となる基礎課題に焦点を当てる。特に、CRMを埋め込んでいない領域での降水現象は従来通りGCMにより表現されるため、FlexNestの開発とあわせてGCMにおける雲・降水パラメタリゼーションの改良が重要である。そこで、以下の4つのサブテーマを設けた。
(1) Super-GCMの開発
(2) 雲解像モデルを用いた雲物理量の確率分布に関する解析
(3) GCMにおける雲パラメタリゼーション改良
(4) 雲・降水を介した多重スケール相互作用の評価に関する数値的研究

2.研究の達成状況

 研究協力者との円滑な連携もあり、モデル開発に関しては順調に期間内で達成することができた。今後、より長期の数値実験やCRM の適用領域を変えた実験を行うことで、FlexNestは温暖化研究において全球気候モデルを補う様々な応用研究へ役立つと考えている。サブテーマ(3)で行われたGCMの雲パラメタリゼーション改良の成果は、AR5で用いられる予定の地球システムモデルに組み込む作業が進んでいる。本課題では、これとFlexNestの開発が同時進行であったために両者を組み合わせなかったが、融合は充分可能である。
 当初計画にあった、既存の温暖化シナリオをベースにしたFlexNestのシミュレーションは途中まで進めたものの、技術的な問題(モデルの計算機種依存性)とAR5への道程を考慮した際の重要性という観点から、代表者の判断で中止した。これは、この2年間で次の気候シナリオ作成が本格的に進みはじめ、古いAR4の結果に基づいて拙速で実行する意義が薄れてきたためである。それよりも、サブテーマ(3)の成果を活かしたAR5本実験を行い、それをもとにFlexNestで温暖化時のメソ気象現象変調についてより精細な情報を得るということが時期的・科学的によいと考えている。合わせて、FlexNestのさらなる修正・発展を進めながら、現在気候および前世紀の気候・気象変動に関するさまざまなシミュレーションを行い、そのメカニズムを探求することが必要であろう。

3.委員の指摘及び提言概要

 本研究は、全球気候モデル(GCM)の中で利用する高解像度雲モデル(Super-GCM)の開発であり、温暖化影響や対策の検討に際して必要な小規模領域気象現象の予測にとって重要な課題であるが、日本周辺の夏季の気象現象の再現に一定程度成功するなど、短期間にもかかわらずかなりの成果をあげており、今後の発展が期待される。しかし、取り入れている雲物理過程が実況を正確に反映しているか、双方向性モデルによる局所域と大規模循環場の相互影響が真に物理的意味のあるものなのか、などの検討すべき課題がある。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b


研究課題名:RF-062 陸域生態系CO2フラックスの分離評価を目的とした同位体・微量ガス観測手法の開発(H18-19)

研究代表者氏名:高橋 善幸 (国立環境研究所)

1.研究概要

 気候変動による温度や降水量といった環境因子の変動のもたらす陸域生態系の炭素吸収量の変化を予測するためには、陸域生態系の正味のCO2フラックスを構成成分毎に分離した上で、それぞれの環境因子に対する応答特性の違いを評価する必要がある。一般的に陸域生態系のCO2フラックス観測においては、呼吸・光合成分離は、観測した生態系の正味のフラックスの観測値をプールし、夜間の光合成作用の起こらない時間帯の正味のフラックスを基に生態系呼吸量を経験的な温度近似式で表し、この近似式からの差を光合成とみなすことにより行われる。この経験的温度近似式を用いた手法にはその適用条件に関して多くの制約があり、解析の高度化の障害となっている。本研究では、これと独立したアプローチとして、生態系の光合成・呼吸でのCO2交換に直接的な関連性のある吸収・放出プロセスを持つCO2の安定同位体や硫化カルボニル(COS)を化学的指標(トレーサー)とみなし、そのフラックスを観測することで呼吸・光合成の分離評価を行うことを計画した。これらのトレーサー成分に対しては、渦集積法と呼ばれる手法を応用して上下それぞれの風向成分を分離してガラスフラスコに個別捕集し、高精度なラボ分析により決定した濃度差からフラックスを評価するアプローチを採用することとした。そのために、(1)観測される微少な濃度差からフラックスを定量するために必要な高精度分析手法の開発、(2)サンプリング時や保存時の試料の変質の影響を最小限にする観測システムの開発、(3)実際の微気象学データを用いた数値実験による手法の有効性の評価と装置制御の最適化、の3つを実施した。

2.研究の達成状況

 (1)渦集積法により観測される硫化カルボニル(COS:大気中の濃度は約500pptでCO2のおよそ100万分の1)の微少な濃度の差を正確に検出するために、少量のサンプルからCOSを高精度に測定する分析システムを開発した。このシステムにより、1回に約30mlのサンプルを導入することで分析が可能となり、可搬性・保存性に優れたガラスフラスコを用いることが可能となった。現在、4回の分析によりおよそ10pptの誤差で測定が可能であり、データ処理の高度化により、更なる精度の向上が見込まれる。また、COSに特化した精度管理プロトコルを開発した。渦集積法によるCO2の安定同位体比の測定については、既に必要な精度を達成している。(2)渦集積法によるCO2の安定同位体比の測定においては中間貯留容器内での変質が致命的な影響を与えるが、今回の研究でEvalと呼ばれるガスバリアフィルムでアルミ薄膜をラミネートしたバッグが極めて高い保存性能を発揮することが分かり、渦集積法によるCO2の安定同位体比の測定の重要な技術的問題が解消された。(3)実際に観測された微気象データを用いた数値実験で、緩和渦集積法と呼ばれる方法がCO2の安定同位体比およびCOSの群落スケールでのフラックス定量に有効であることやその制御方法についての知見が得られた。全体として、硫化カルボニルの高精度分析技術の確立の困難さがボトルネックとなり、最終的な目的とした野外での実観測の実施には至らなかったが、本研究による検討の結果から、本研究で提唱したアプローチを実際に野外観測で実施するための技術的な目処は立ったと判断している。

3.委員の指摘及び提言概要

 本研究は、硫化カルボニルを利用して呼吸と光合成の炭素フラックスを分離計測するという困難かつ意義深い試みであるが、最終目標に到達せず不満足な結果に終わった。特に、装置を野外観測に適用する段階に至らなかったのは残念である。今後は、硫黄に対する高感度分析法の確立に向けて努力されるとともに、今回の研究実施によって得られた知見を今後の同位体観測手法の研究に役立てられるよう期待したい。

4.評点

   総合評点:C
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):c
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):c
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):c


研究課題名:RF-063 Post-GOSAT時代の衛星からの全球温室効果ガス観測に関する研究(H18-19)

研究代表者氏名:松永 恒雄 (国立環境研究所)

1.研究概要

 GOSAT(温室効果ガス観測技術衛星)は、二酸化炭素(CO2)とメタンの全球濃度分布観測と全球炭素収支推定精度の改善を目指して2008年度打上げ予定の地球観測衛星であり、環境省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立環境研究所が共同で推進している。また米国でも同様の衛星打上げを同時期に予定している。ただしこれらの衛星の運用終了後(2013年以降。以下,Post-GOSAT時代)用の同様の衛星開発を正式に開始した国はまだない。一方、総合科学技術会議「地球観測の推進戦略について」(2004年12月)では、「今後10年間を目処に取り組むべき課題・事項」として「全球的な温室効果ガス観測」を取り上げた。このように我が国は、Post-GOSAT時代でも、本分野において世界をリードすべき立場にある。しかしながら、衛星開発に要する期間(通常5年程度)を考えると、GOSAT後継機打上げまで時間的な余裕が十分にある訳ではない。そこで本研究ではPost-GOSAT時代の衛星からの全球温室効果ガス観測に求められる要件、問題点等の検討を実際のプロジェクト化に先立って実施することとした。なお本研究ではサブテーマは設定していない。

2.研究の達成状況

1)Post-GOSAT時代における衛星からの全球温室効果ガス観測に関する要望調査
 関係機関等に対しPost-GOSAT時代の衛星からの全球温室効果ガス観測に関する要望調査を行った。その結果、より狭いメッシュ、より短い期間でのCO2推定や、国別収支の既存統計の検証データ取得、ポイントソースからの排出量推定に利用できるデータの取得の要望等が出た。
2)インバースモデルを用いた全球CO2フラックス推定からの要望
 インバースモデル計算によるCO2フラックス推定精度と衛星データの関係に関する既往研究等をまとめ、Post-GOSAT時代の衛星観測に対する要求を分析した。その結果全球を66分割する場合には1.5ppm程度の7.5°メッシュ月平均CO2カラム濃度精度が必要であること等が分かった。
3)都市域周辺におけるCO2濃度分布について
 より狭い地域レベルでのCO2排出量推定の要望もあるため、都市域におけるCO2観測の事例を調べ、都心部と郊外部のCO2濃度差についてまとめた。その結果国内の都市域の都心部と郊外部では10〜40kmの距離で10〜40ppmの地表CO2濃度差が発生していることが分かった。
4)レーザセンサに関する検討
 CO2濃度計測用レーザセンサも近年提案されはじめているため、国内外における同センサの開発状況を調査し、そのうちの一方式に絞って詳細な机上検討を実施した。その結果、衛星搭載の実現性が比較的高いレーザセンサシステムの設計が可能であることが示された。
5)各種「要望」に対する衛星観測の検討
 上記「要望」に対し、どのような衛星観測が可能かを検討した。その結果バイアス誤差が1ppm以下ならば、衛星データのみで高精度な全球CO2フラックス推定が可能であること、都市域等ではGOSATは十分な性能を持たず、またレーザセンサでも難しい場合があること等が示された。
6)本研究の成果の利用(GOSAT後継機検討へのインプット)
 本研究による検討の一部、特に都市域等のポイントソース測定に関する考え方等を2008年2月にGOSAT後継機検討チームに提示した。また同チームが作成した報告書に、都市域等のポイントソース測定に関する記載が含まれた。

3.委員の指摘及び提言概要

 Post-GOSAT時代の全球温室効果ガスの観測衛星に求められる科学的・政策的両ニーズを調査し、その性能条件と対応策を明らかにした点で有益な研究であり、Post-GOSAT後の衛星観測計画を策定していく上で重要な示唆を与えた点は評価できる。とくに、CO2フラックスの推定のためのインバースモデル計算では、バイアス誤差を1ppm程度以下にする必要があるという検討結果が得られた点は意義がある。

4.評点

   総合評点:C
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):c
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):c
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):c


研究課題名:C-051 アジア大陸からのエアロゾルとその前駆物質の輸送・変質プロセスの解明に関する研究(H17-19)

研究代表者氏名:畠山 史郎 (東京農工大学)

1.研究概要

 東アジアの大規模な大気汚染物質発生源である中国と、風下の受容地域である沖縄、その間の福江島を主要研究対象地域とし、長距離輸送途上での化学変化を解明することを目的とした。北京、福江島、沖縄での地上観測と中国での航空機観測を同時に行い、エアロゾルの生成・除去過程を明らかにし、輸送経路に沿ったモデルの検証を行い、バックグラウンドとして加わる欧州や東南アジアの影響も加味して、ユーラシア東部全体での広域大気汚染現象の解明を行った。これにより広域大気汚染対策の立案の基礎となるデータを得ることができた。サブテーマは次の6つである。
(1)地上観測・航空機観測による大気汚染物質・エアロゾルの広域分布と輸送プロセスの解明に関する研究
(2)沖縄におけるバイオマスエアロゾルのトレーサー(CO、VOC)の観測と輸送プロセスの解明
(3)福江・沖縄・小笠原におけるエアロゾルの変動の観測と放射強制力の推定
(4)中国大規模発生源地域における大気汚染物質・エアロゾルの観測と解析
(5)南アジア〜東南アジア〜中国〜日本における輸送と化学変化に関するモデル研究
(6)バックグラウンド地域(北部ユーラシア)からの輸送と影響に関する研究

2.研究の達成状況

[1]大陸起源汚染大気の経由地福江島と、受容地沖縄辺戸岬でエアロゾル化学組成を連続的に分析した。辺戸ではSO42-が、福江では有機物が多く、東シナ海の南北で組成は大きく異なる。
[2]中国の首都北京の周辺で大気汚染物質の航空機観測を行い、黄砂の影響を強く受けた気塊を捕らえた。また、大連及び青島における地上観測では、両地に飛来する気塊の違いが明瞭に現れた。
[3]アジアの大都市でEC、OC、CO、CO2を長期連続観測するためのシステムを開発し、北京市内で集中観測を実施した。EC、OC濃度は風速とともに減少する。OC、COの平均濃度は冬季夜間に最大になる。これには、暖房によるOC, COの放出と、境界層高度の低さも関与している。一方、EC濃度の季節変化は小さいことがわかった。
[4]欧州からアジアへの越境大気汚染の評価に重要な東シベリア・沿海州地域の状況を把握するため、東シベリア3地点、沿海州1地点で湿性沈着、ガス・粒子濃度の通年観測を行った。東シベリア及び沿海州の降水中の主要酸性成分はSO42-、塩基性成分は非海塩性Ca2+とNH4+であること、これらの沈着量は東シベリアでは夏に多く冬に少ないこと、大気中の粒子成分のうち、SO42-とNO3-は降水とほぼ同様の濃度比を示したが、NH4+は粒子状物質中に、Ca2+は降水中により高い割合で検出されていることが確認された。
[5]酸性沈着量分布を精緻にシミュレートした結果、1月には北西季節風によるアジアから日本海側への越境汚染の寄与が大きく、6月には南西風による東京湾周辺域の発生源から内陸への輸送が示唆された。また、アジアからの影響を解析した結果、1月と6月における日本列島への沈着量を定量的に解析すると、越境汚染の寄与率は1月には硫黄酸化物、窒素酸化物、アンモニウムがそれぞれ70%、64%、58%で、6月にはそれぞれ57%、44%、44%と従来の推定よりかなり大きいことを明らかにすることができた。

3.委員の指摘及び提言概要

 サブテーマ(1)で、中国上空の航空機観測や福江・沖縄での地上観測などを集中的に行うことにより、中国大陸から日本にまたがる地域での大気汚染物の輸送と反応に関する新たな知見を得たことの意義は大きい。その他のサブテーマでは、辺戸周辺におけるVOC の起源(サブテーマ(2))、辺戸−父島海域における黒色炭素と硫酸塩濃度の相関(同(3))、北京(同(4))及びジャカルタ(同(5))における大気汚染の動態、東シベリアにおける降水化学組成(同(5))などについてそれぞれ学術的レベルの高い研究が行われ、国際的な論文発表も多い。総合的に見て、経費に見合う成果が得られたと判定できる。欲を言えば、全体をまとめるもう少し明確なストーリーと、環境政策への貢献に関する具体的道筋の提示があればさらによかったであろう。

4.評点

  総合評点:B
  必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):c
  サブテーマ1:b
  サブテーマ2:b
  サブテーマ3:c
  サブテーマ4:b
  サブテーマ5:b
  サブテーマ6:c


研究課題名:C-052 酸性物質の負荷が東アジア集水域の生態系に与える影響の総合的評価に関する研究(H17-19)

研究代表者氏名:新藤 純子 (農業環境技術研究所)

1.研究概要

 東アジアは急激な経済発展や人口増加にともなう食料増産などにより、エネルギーや肥料の消費量の増加が著しい。人為活動の活発化は、酸性・酸化性物質の排出の増大を招き、環境への影響も一部で顕在化している。酸性物質の中で窒素は制御が困難で、生態系内での挙動が複雑であるため、アンモニア、硝酸など生物が利用可能な形態の窒素の循環量増加は世界的にも大きな関心を集めている。本研究では、東アジア9カ国(日本、中国、韓国、大陸部分の東南アジア6カ国)を対象領域として、経済的、社会的な変化に関するシナリオの下で、酸性物質の負荷の実態と将来の動向、及びそれによる生態系影響(流域の物質循環の変化)を現地調査と物質循環モデルとに基づいて広域的に推定すること、および、EANETで集水域・流域調査を行うための問題点を抽出し、マニュアル作成のための基礎的な情報を得ることを目的とする。サブテーマは次の5つである。
 (1) 大気沈着量の簡易測定手法の開発と東アジアにおける沈着量の測定
 (2) 東アジアの異なる森林生態系における生態系構成要素の測定に基づく酸性物質循環の解析
 (3) タイ熱帯季節林集水域における物質収支解析に基づく酸性沈着の生態系影響評価
 (4) 東アジア諸国の人口移動、エネルギー消費等の変化に基づく排出源変化の予測
 (5) 東アジア集水域の酸性物質による生態系影響総合評価モデルの開発

2.研究の達成状況

(1)イオン交換樹脂を用いた積算負荷量測定方法を確立した。バルクサンプラー法より捕集効率が高く、特に気温の高い熱帯・亜熱帯で有効であること、広域観測に適しており、今後EANETなどにおいても通常の方法による測定を補完する測定としての利用が期待できる。
(2)中国の数地点、タイのサケラートに調査地域を設けて、サブテーマ(1)−(3)の協力により大気からの負荷量、土壌、渓流水の化学性等の測定を行った。広州郊外の鼎湖山で沈着量が著しく高く、土壌、渓流水もきわめて酸性であり、広州から距離によって酸性度などが減衰することから、酸性化には人為的な負荷の影響が関与していると考えられた。
(3)サケラートにおける継続的な物質循環調査により、酸性物質の沈着、生態系内での循環が雨期と乾期に依存して変化する熱帯季節林の特徴が明らかとなった。これらの特徴に基づいて集水域モニタリングのマニュアル作成のための基礎情報をまとめた。これをEANETへ提案する予定である。
(4)中国の食料需給に関する統計データの詳細な解析により、畜産品生産に関して、相互に矛盾する統計データに基づいて経済データをも含め多方面から突き合わせ修正する手法を示した。今後の人口動態(農村から都市への移動を含む)や収入増加による食生活の変化を考慮し、また飼料の輸入増加を仮定して、2030年の食料生産による窒素負荷は2005年の1.3倍となると推計された。
(5)広域的に入手可能なデータに基づいた窒素循環モデルを作成し、わが国の測定データにより検証した後、東アジアの森林流域を対象に推定を行った。大気からの窒素負荷の上昇は、最近の20年間に中国の東岸諸省などで流域窒素濃度の上昇を招き、今後も上昇が続く可能性が示された。

3.委員の指摘及び提言概要

 広域観測に適した積算負荷測定法の確立と中国各地の森林での実地観測(サブテーマ(1))、異なる気候帯に属する数地点を対象とした物質循環の総合的解析、それに基づく亜熱帯での塩基枯渇の指摘(同(2))、熱帯季節林集水域における大気沈着の乾季と雨季の比較(同(3))、中国における食糧需給に基づく窒素負荷の推計(同(4))、広域的窒素循環モデルの作成と東アジアの窒素負荷の予測(同(5))等、各サブテーマでそれぞれの当初目標に沿う成果が得られており、全体として「酸性物質の負荷が東アジア集水域生態系へ与える影響の総合評価」という目的はほぼ達成できたと言えるであろう。しかし、課題の構成がやや総花的で掘り下げができていない面もあり、また概して発表論文の数が少なくかつ国際的な発表が十分とはいえない。

4.評点

  総合評点:B
  必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
  サブテーマ1:b
  サブテーマ2:b
  サブテーマ3:b
  サブテーマ4:c
  サブテーマ5:b


研究課題名:RF-064 アジア−太平洋地域におけるPOPs候補物質の汚染実態解明と新規モニタリング法の開発(H18-19)

研究代表者指名:高橋 真(愛媛大学・沿岸環境科学研究センター)

1.研究概要

 PCBやダイオキシン類など残留性有機汚染物質(POPs)は、ストックホルム条約等により、その生産・使用の廃絶や排出削減等の対策が国際レベルで推進されている。一方、現在流通・利用されている化学物質の中にも既存のPOPsと類似の物理化学特性を示し、地球規模での汚染拡大や影響の懸念される物質群がある。とくに近年、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)等の臭素系難燃剤(BFRs)による環境や人体汚染の顕在化が大きな社会的・学術的関心を集めている。一方、アジアの途上国では、近年の著しい経済成長に伴って、廃棄物の不適正処理や公害発生、環境汚染の深刻化などが指摘されているが、これら「POPs候補物質」による汚染実態はほとんど明らかとなっていない。
 よって本研究では、アジア−太平洋地域におけるPOPs候補物質の汚染実態や動態に関する基礎情報を収集するとともに、将来的なモニタリングやリスク評価方法を確立することを目的とした。具体的には、アジア各国から採取した土壌・底質・母乳・魚介類・野生高等動物を対象に、臭素系難燃剤やその他有機ハロゲン化合物を測定し、その広域分布や動態、生物蓄積の特徴、汚染の経年変化などを考察・解析した。また、バイオアッセイを利用した簡易モニタリングや化学分析の結果と統合した毒性同定評価法を確立するとともに、光や熱による難燃樹脂中のBFRsの分解・排出挙動を解明した。サブテーマは次の2つである。
 (1)有機ハロゲン化合物による汚染実態の解明
  (2)毒性評価および新規モニタリング法の開発

2.研究の達成状況

 サブテーマ(1):POPs候補物質を対象とした分析法を確立し、イガイを指標生物に用いたアジア沿岸の広域モニタリング(Mussel Watch)を実施した。イガイ中のPBDEs濃度は香港や韓国で相対的に高く、経済成長の著しいこれらの地域では、相当量のPBDEsの環境負荷があることが推察された。また臭素系難燃剤によるヒト(母乳)や野生高等動物の汚染実態を調査し、猛禽類など一部陸上動物に高濃度の蓄積が見られることや、日本の野生高等動物ではPBDEs以外に臭素系難燃剤のヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)による汚染が顕在化していることを明らかにした。さらに海棲哺乳動物の保管試料および堆積物コア試料を用いて、有機ハロゲン化合物による汚染の経時的推移を検証したところ、中国南部におけるPBDEs汚染や日本沿岸におけるHBCDs汚染は今後も継続/進行することが示唆された。
 サブテーマ(2):バイオアッセイ手法としてDR-CALUXを適用し、POPs候補物質のダイオキシン様活性を評価した。臭素化ダイオキシン類やBFRsの一部が塩素化ダイオキシン類やPCBsと同等の活性を示すことが明らかとなり、DR-CALUXによりダイオキシン類様活性物質を包括的に測定できることが示された。また、アジア地域の土壌や底質試料を対象にバイオアッセイによるモニタリングを実施し、簡便・迅速な方法で、化学分析によるWHO-TEQを精度良く予測できることを示した。一方、一部の試料では、臭素化合物や未知物質の活性寄与があることも示唆された。さらに電子基板等の廃棄物を非制御下で不完全燃焼させた場合、BFRsの排出が増加することや、太陽光によりプラスチック中のDeca-BDEが分解し、微量のPBDFsが生成することなどが明らかとなった。

3.委員の指摘及び提言概要

 サブテーマ(1)では、国際的な取り決めにより行政的な要請の高い POPs 候補物質による、アジア・太平洋地域における汚染実態を解明する上で重要な知見が得られている。
サブテーマ(2)では、アジア地域の底質・土壌試料を対象としてバイオアッセイ・化学分析総合評価を行い、簡便・迅速かつ精度よくWHO-TEQ(毒性当量)を求める道を開いた。課題全体として優れた成果をあげたと判断されるが、(1)では汚染動態などに関する新たな理論の展開、(2)では途上国での適用性の実証が今後の課題であろう。

4.評点

  総合評点:A
  必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
  サブテーマ1:a
  サブテーマ2:b


研究課題名:RF-065 同位体組成を指標に用いた硝酸の高精度起源推定法開発(H18-19)

研究代表者氏名:角皆 潤 (北海道大学大学院)

1.研究概要

 近年東アジア諸国からの大気への窒素酸化物(NOx)放出量が飛躍的に増大しており、これが降水等を経由して日本国内および周辺海洋域における硝酸(NO3-)沈着量を増大させたり、多様な環境影響を与える可能性が危惧されている。しかし一般の水環境中では、大気NOxに由来するNO3-(NO3-atm)以外に、有機体窒素の再生に由来するNO3-(NO3-re)が溶存NO3-の相当部分を占めている。さらに沈着後の水環境中では分解や同化なども起きるため、その挙動を追跡するのは容易ではない。そこで本研究ではNO3-分子中の酸素原子(O)の三酸素同位体組成Δ17O (= Δ17O - 0.52×δ18O)をトレーサーとして活用して活用することに挑戦した。NO3-のΔ17O値は同化や分解といった水環境下で起こる反応過程おいて値が変化しない。しかもNO3-reがΔ17O = 0であるのに対して、NO3-atmはNO3-の自然発生源で唯一0以外の値を示すことが知られている。したがって、一般の水環境中に存在するNO3-に対してΔ17O組成を求めることで、その中に占めるNO3-atmの割合(NO3-atm混合比)を高確度かつ高感度に求めることが出来る可能性が高い。本研究では、[1]水環境試料中のNO3-のΔ17O組成定量法の開発、[2]陸水・海水試料中のNO3-のΔ17O組成の実測、[3]陸水・海水試料中のNO3-におけるNO3-atm混合比の定量、[4]Δ17O指標の有用性や信頼性の検証、を目的とした。研究は北海道大学大学院理学研究院所属の3名からなる単一グループで実施した。

2.研究の達成状況

 本研究によってNO3-の定量的なN2O化、およびこれを利用したNO3-の窒素(δ15N)、酸素(δ18O)、三酸素(Δ17O)の各安定同位体組成の高感度定量法などが開発され、これを用いて環境試料中のΔ17O組成等を定量することで、以下の各点が明らかになった。
[1] 札幌市内で採取された降水中のNO3-のΔ17O組成は平均値がΔ17O=+24.8 ± 2.8 ‰でほぼ一定であること、夏期に低く冬季に高い季節変動をしていること、この季節変動はNOxからNO3-が生成する際の光化学反応過程の季節変動を反映していることを確認した。
[2] 西部北太平洋や周辺の縁辺海域で溶存NO3-のΔ17O組成の分布を定量し、深層水ではΔ17O = 0 ‰である一方で、外洋表層水では+1 ‰前後の有意な三酸素同位体組成異常を示すことを発見した。これは深層海水中の溶存NO3-の大部分が海洋内部における有機体窒素の再生に由来する一方、表層混合層中のNO3-には、NOxに由来するNO3-が有意に寄与している(NO3-atm混合比が5 %程度)ことを示している。また石垣島の沿岸水や東京湾ではNO3-atm混合比は増大し、30%を超えることがあることも明らかになった。成果は4本の原著論文として受理・印刷されたほか、4本が投稿中となっている。
 東アジア全体からの排出量増大がもたらす低レベルで広範囲の汚染や、大気光化学過程の長期的変動傾向は、従来の定点での濃度モニタリングでは検出が難しかった。また海洋域において沈着フラックスを長期間にわたってモニタリングするのはほとんど不可能であった。しかし本研究で開発したNO3-のΔ17Oトレーサーを用いれば沈着量やその光化学過程の微小な変化が容易に検出可能である上に、表面海洋での数ヶ月毎のNO3-のΔ17O組成の時間変化から海洋域における沈着量の時間変化が定量出来ることが明らかになるなど、期待以上の成果を挙げることが出来た。今後はより広い対象についてNO3-のΔ17Oトレーサーをモニタリングすることで、地球環境政策決定に際して高い信頼度の判断材料を提供できるようになると考えられる。また汚染源の解明に際しても、直接的な証拠として利用可能である。

3.委員の指摘及び提言概要

 硝酸の酸素同位体異常について、少ない試料で迅速な分析を行うことができる方法を開発し、かつ実環境から採取したさまざまな試料への適用結果に基づいて、手法の信頼性や実地応用上の有効性を検証し、大気起源の窒素の寄与に関する知見を得ることに成功している。ここで開発された方法は、世界的にも最高水準のもので、今後環境酸性化や富栄養化問題と関連して窒素循環の解明のための中心的技術に発展することが期待されるばかりでなく、一層広い潜在的応用性を持つものと考えられる。

4.評点

  総合評点:A
  必要性の観点(科学的・技術的意義等):a
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b


研究課題名:E-051 森林−土壌相互作用系の回復と熱帯林生態系の再生に関する研究(H17-19)

研究代表者氏名:鈴木 英治(鹿児島大学理学部)

1.研究概要

 生物多様性保全・二酸化炭素吸収に重要な熱帯林は、火災や伐採などによって急速に劣化減少しており、再生手法を考えることが急務となっている。土壌中の微生物群は、土壌の肥沃化、樹木による水分・養分吸収時の補助、有機物分解・栄養塩類供給などの役割を果たす。したがって多様性の高い熱帯林生態系の再生には、森林−土壌―土壌微生物の相互作用系の回復が必要であり、その過程を明らかにすることを本研究の目的とする。サブテーマは次の6つである。
 (1 ) 熱帯林における樹木群集の構造と機能の再生過程に関する研究
 (2) 土壌環境と微生物群集の回復が熱帯林再生に果たす役割の研究
 (3) 根粒菌による窒素固定が熱帯林再生に果たす役割の研究
 (4) 熱帯林における腐生菌類の遷移とその森林再生に果たす役割の研究
 (5) 熱帯林の生物多様性評価と再生指標に関する研究
 (6) 熱帯林生態系の再生/回復モデルの構築と森林管理に関する研究

2.研究の達成状況

 (1) 東カリマンタンでは1997-98年に大規模森林火災の被害を受けたが、その被害度が異なる場所に1ha調査区6つを設置し、森林再生状況を調べた。樹木本数、現存量、種多様性の順に回復が遅く、多様性の回復には好条件でも200年以上かかると推測された。西スマトラでは厳しい異常乾燥気象と高まる伐採圧という人為撹乱が、熱帯雨林の構造・機能に及ぼす影響を調査した。1990年代の異常乾燥による森林衰退が現在でも続き、違法伐採による林分の分断化が再生力を低下させていることを明らかにした。
 (2)火災によって土壌は変化するが、表層10cmほどしか生物が死滅しないことを、実験から明らかにできた。火災跡地に生息する主要な細菌類は、植物よりもずっと早く回復することが分かった。しかし、フタバガキと共生する菌根菌は樹木と同程度の速度でしか回復せず、再生のネックになっている可能性が示唆された。
 (3)細菌の1グループである根粒菌は火災初期から活発に活動し、初期の森林再生に貢献していることが明らかになった。
 (4)分解者である腐生菌類(キノコ)の再生は、分解材料である落葉落枝量の変化と関係が深く、物質循環を盛んにして森林再生を促進しているが、その種組成回復には植物と同程度の時間がかかることが分かった。以上3サブテーマによって、土壌中の微生物が火災後の森林再生に果たす役割について、明らかにすることができた。
 (5) 多様性の再生を蘚苔類・地衣類に着目して研究したが、苔類の種数(特に樹上・生葉上に着生する種)が森林再生と関係が深いことが分かった。また苔類や地衣類の多様性は、森林微環境(特に林内湿度)の回復を反映し、森林再生の良い指標となることが示唆された。
 (6)植物は、埋土種子、萌芽、新規散布種子、残存個体など異なる方法で撹乱から再生するが、極相種の大部分が新規散布種子から再生するので、その供給源である残存林の重要性が示された。一方、少数の極相種は萌芽により再生初期から発生し、共生微生物の再生にも貢献している可能性が見出された。

3.委員の指摘及び提言概要

 これまで研究されていなかった森林と土壌微生物との相互作用について優れた成果をあげている。特に、根粒菌と菌根菌の成果は新規性が高く、森林生態系の再生にとって重要な知見である。研究対象地域であるインドネシア側にも貴重な技術移転に成功した。また、研究成果は具体的であり、他のタイプの森林生態系に応用することも可能である。
 今後は、この研究成果をさらに発展させ、土壌微生物群の働きを利用した生態系修復技術の研究や対策案の提起を期待する。
 しかし、サブテーマ(1)では東カリマンタンと西スマトラを対象とすることの学術的な位置づけが不明確であり、地球環境政策への貢献という観点が乏しく、論文発表数が少ないという指摘もあった。

4.評点

  総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
  サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b
   サブテーマ4:b
   サブテーマ5:b
   サブテーマ6:b


研究課題名:F-052 生物相互作用に着目した高山・亜高山生態系の脆弱性評価システムの構築に関する研究(H17-19)

研究代表者氏名:占部 城太郎(東北大学大学院生命科学研究科)

1.研究概要

 高山・亜高山生態系は、温暖化など地球環境変化に最も脆弱な生態系の1つであると懸念されているものの、その特有で多様な生物群集が維持されている生態学的な諸過程は殆どわかっていない。生態系は環境と様々な生物間での相互作用によって成立しており、温暖化は生物への直接的影響ばかりでなく、種間相互作用を介して間接的にも生態系へ影響を及ぼすことになる。したがって、山岳環境からの恩恵を将来に持続させるためには、生物多様性の維持機構や生物間相互作用など、保全の指針と施策に必要な研究調査を緊急に行う必要がある。
 本研究は、東北・北海道の高山・亜高山帯を対象に、高層湿原や高山湖沼を含めた山岳地帯の生物多様性の維持機構を、生物間相互作用の視点から明らかにするとともに、どのような特性をもつ山岳生態系が環境変化に対して脆弱性が高いかを把握することを目的に実施した。サブテーマはつぎの3つである。
 (1) 八甲田山系における高層湿原生態系の研究
 (2) 大雪山系・阿寒山系における高山生態系・亜高山針葉樹林生態系の研究
 (3) 陸系-水系間の物質フローが水系の食物網構造に及ぼす影響の解析。

2.研究の達成状況

 温暖化に対する高山・亜高山帯の植物の応答は、機能群や立地により応答速度も方向性も多様であることを示した。例えば、高層湿原植物群集を対象にした比較解析では、高標高ほど常緑種の種数やバイオマス占有率が高いが、温暖化により融雪期が早まると生育期間が長くなるため常緑種が資源獲得競争のうえで不利になること、また、高山帯で実施した温暖化実験では、風衝地では温度上昇による植生高の増加がみられるものの、雪田では生育期間が短いため温度上昇の影響は小さいことを示した。これら結果は、雪解け傾度にそって種多様性や遺伝構造が維持されている植物群集は温暖化に対して特に影響を受けやすいことを示している。さらに亜高山帯を構成する樹木集団でも、気候変動に対する応答は一様ではなく、温暖化に対する影響予測には、地域性や標高に特異的な個体の性質を十分に考慮する必要があることを示した。
 これまで我が国の山岳湖沼の体系的な調査は皆無であったが、本研究により多くは貧栄養状態にあり、水質環境はリン負荷量が低いことに加え、未記載種を含む山岳地域特有の大型動物プランクトンによって維持されていることが明らかとなった。ただし、窒素:リン比が高い湖沼も見られ、大気降下物の影響も伺われた。細菌類においても山岳湖沼の特異性がみられ、陸域起源有機物を利用する細菌からなる細菌群集が成立していることを示した。また、これら山岳湖沼では、動物プランクトンや水生昆虫からなる食物網は周囲植生に依存度して成立しており、特に水体サイズが小さい湖沼では生物群集の多くが陸上炭素の補給で維持されていることを示した。これらデータの総合解析から、高山湖沼特有の生物群集は、温度上昇よりもむしろその間接効果である魚類の分布拡大や周囲植生変化に大きな影響を受けることが示唆された。

3.委員の指摘及び提言概要

 全体的に貴重な成果が得られ、高く評価できる。個々のサブテーマでも優れた成果をあげている。特に、高層湿原生態系、針葉樹林生態系、山岳湖沼生態系については、従来にない知見を得ている。今後は、こうした研究成果が、温暖化影響を見積もる上でどのように有効か、また、比較研究の継続、さらには、脆弱な高山・亜高山生態系の保全のための政策や提言のための研究も必要である。
 しかし、湖沼生態系の研究が研究グループ毎に行われ、統合した知見が得られていない。また、サブテーマの中には成果も査読付き論文も十分でないものがあるというコメントもあった。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):c
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b
   サブテーマ3:b


研究課題名:RF-066 個体群分子タイピングによる有毒微細藻類の人為的グローバル化の実体解明手法の開発(H18-19)

研究代表者氏名:長井 敏(水産総合研究センタ−瀬戸内海区水産研究所)

1.研究概要

 本研究では、有害・有毒微細藻類の出現のグローバル化するメカニズムを解明する手法として、日本の沿岸各地に分布する各種個体群について、多型分子マーカーを用いて識別・タイピングする技術開発を行い、個体群の海域間移動の有無、その要因を解明するための研究手法を確立することを目的とする。一方で、水産種苗の移植や活魚輸送車等を介した有毒微細藻類の移送のモニタリングを迅速簡便かつ正確にできるよう、検出・定量技術を確立すると同時に、実際に検出・定量を行い、有毒微細藻類の人為的な要因による海域間移送の実情について解析を行う。サブテーマは次の2つである。
 (1) 有毒微細藻類の個体群分子タイピング技術の開発に関する研究
 (2) 人間活動による有毒微細藻類の海域間移動の直接的な検証

2.研究の達成状況

 2年間の研究により、6種のうち2種について、高度多型を示す10個以上の多型分子マーカーの開発に成功し、これにより各種個体の分子タイピングが可能となった。他の2種についてもマーカー数は少ないながらマーカー開発に成功し、これらを用いた解析により有意な集団分化を示すことが確認できた。従って、今後さらに多くの個体群の解析を進めることにより、分布拡大に及ぼす要因が明らかになると期待できる。
 これまで培養が不可能とされてきた下痢性貝毒原因種であるDinophysis属の複数の種について、継代培養が可能となったことは、本研究の中で非常に大きな研究成果であり、今後、世界中の研究者が注目する研究へと進展することが期待される。
 二枚貝種苗、特にマガキ種苗の輸送に伴う有毒微細藻の大規模な移送があることを、実際の輸送過程で定量的に証明した。Nagai et al. (2007)*により、多型分子マーカーを用いた集団遺伝学的解析より指摘された「A. tamarenseの海域Aおよび海域B間の個体群は人為的な要因により運ばれ、混合している」という説は、本研究の成果により、強く指示される結果となった。従来考えられていたシストなど耐久性のあるステージではなく、ほとんどが遊泳細胞などの形態で生きたまま海域間を輸送されていたこと、二枚貝種苗の体内に有毒微細藻が濃縮され、消化を免れて生きたまま糞とともに排出されているなど、これまでほとんど解明されていなかった現象を捉えることができた。また、これまで海域間の輸送ルートとして全く認知されていなかった活魚運搬車による移送を明らかにした。調査した活魚運搬車の75%が未ろ過の現場海水を運んでおり、その中の有毒微細藻の大半が生残していたことから、有毒微細藻の新たな輸送ルートとして注目される。
 * Nagai et al. (2007). Journal of Phycology 43: 43-54.

3.委員の指摘及び提言概要

 本研究で、サブテーマ(1)と(2)を配置したことは高く評価する。サブテーマ(1)で、2種の微細藻についてMSマーカーを開発できたことは評価できる。しかし、この技術が海域間輸送による生態系への影響評価にどう活用されるかという政策的観点に乏しい。また、集団間分化が無い場合、MSマーカーは最適なのか明らかでない。サブテーマ(2)では、有害プランクトンが水産種苗の輸送により伝播したことが実証できた。また、この研究は新規性が高く、防疫体制を確立する上での貢献が大きい。しかし、予想どおり、あたりまえの結果であるように思える。さらに、サブテーマ(1)と(2)で、対象とする有毒藻類の種が異なっている点に疑問を感じる。
 今後は、サブテーマ(1)と(2)を結びつけた移動の実態把握に関する研究や、より広い地域の海域での調査や新しい種のMSマーカーの開発を期待する。

4.評点

   総合評点:B
   必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
   有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):c
   効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b
   サブテーマ1:b
   サブテーマ2:b


研究課題名:H-051 環境負荷低減に向けた公共交通を主体としたパッケージ型交通施策に関する提言 (H17-19)

研究代表者氏名:青山 吉驕@(広島工業大学)

1.研究概要

 わが国をはじめ、世界各国の都市においては、実行可能かつ効果的なCO2削減施策として、自動車交通利用から環境負荷の少ない公共交通機関利用への転換を進めることが喫緊の課題である。
 本研究課題の目的は、公共交通の中でも特に、欧米で発展してきたLRT(低床型路面電車)に着目し、わが国初の導入に向けたパッケージ型交通施策を提案することにある。
 本研究課題におけるサブテーマは次の4つである。
 (1) 先進都市における交通施策と交通行動に関する研究
 (2) 環境負荷低減に向けたパッケージ型交通施策に関する研究
 (3) LRT導入による効果検証に関する研究
 (4) LRT導入のための法制度、行財政に関する研究

2.研究の達成状況

(1) 先進都市における交通施策と交通行動に関する研究:LRTの導入が進むフランス・ドイツ諸都市における現地調査を実施した。これらを通じて、LRTの技術・制度、LRT導入都市の交通サービス・交通施策及び交通行動、情報提供・プロモーション、市民合意形成についてとりまとめた。
(2) 環境負荷低減に向けたパッケージ型交通施策に関する研究:「パッケージ・アプローチ」について整理するとともに、欧州での調査からLRTがもたらす都市景観への役割・貢献等を明らかにした。次に、パッケージ型交通施策による中心市街地の活性化、公共交通機関へのモーダルシフト、パッケージ型交通施策の複合効果について明らかにする分析枠組をそれぞれ構築した。また、複数の交通機関におけるライフサイクルと波及効果を考慮したCO2削減モデルの開発の可能性を得た。さらに、富山市のLRTを事例に利用実態・選択理由・LRTに対する支払意思額等を明らかにした。
(3) LRT導入による効果検証に関する研究:LRT導入による市民の交通行動や社会経済、環境面への影響に関する事前・事後評価文献を整理し、公共交通施策を分析・評価する枠組みの構築を行った。次に、LRT導入の有無による住民の交通機関選択時の意識の違い、高齢者の交通行動を比較・分析した。さらに、LRT導入が中心市街地における商業活動に及ぼす影響を明らかにした。また、LRT導入前後における住民の交通機関選択時の意識の変化について分析した。この他、ドイツにおける路面電車に関わる整備制度の特徴をまとめた。路面電車を始めとする公共交通整備の結果が、都市交通情勢に及ぼす効果について考察した。
(4) LRT導入のための法制度、行財政に関する研究:都市の郊外化の要因分析から、郊外立地規制・中心市街地活性化施策を評価した。次に、地方交通に関する法律の制定、広域的な調整組織の編成、政策目的に依拠する財源の調達方法など、わが国におけるパッケージ型の交通施策の導入に必要な行財政の仕組みについて明らかにした。また、「持続可能な公共交通」を実現する地域住民参加の下での利用促進につながるソフト施策に関する分析を行った。さらに、わが国におけるLRT整備をも対象とした政策の方向性について示した。

3.委員の指摘及び提言概要

 LRTに関する関心が高まっており、研究課題として時宜を得たものである。4つのサブテーマもLRTを理解するために適当である。中間評価で指摘されたLRT導入の効果検証、欧州等の実態調査などでは優れた成果を挙げ、従来の研究より踏み込んだ研究や分析を行った有効な研究であり、パッケージ型交通施策の見通しを示した。
 しかし、研究素材のパーツは集められたが、サブテーマどうしの相互参照も少なく有機的関連性がうまく捉えられていないため、統一性に欠けた研究になった。また、国際専門誌への掲載が少ないように思える。LRTを日本で普及させるために何が必要か、そのための制度設計などについて、さらに具体的な研究成果が必要である。3つの事例の比較検証を行い、相互の成果を補強しあえば、i) 環境負荷低減、ii) 中心市街地活性化、iii)需要者の利便性と景観改善、等のための多元的で統合的な政策提言(行財政施策も含めた)となったと思われる。

4.評点

  総合評点:C
  必要性の観点(科学的・技術的意義等):b
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):c
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):c
  サブテーマ1:b
  サブテーマ2:b
  サブテーマ3:b
  サブテーマ4:c


研究課題名:H-052 ライフスタイル変革のための有効な情報伝達手段とその効果に関する研究(H17-19)

研究代表者氏名:青柳 みどり(国立環境研究所)

1.研究概要

 本課題は地球環境問題の中でも気候変動問題に主な焦点を当てる。これまで本課題代表者らは1990年代中頃から、継続して環境問題に関連して人々の関心や意識、行動などを、日本全国の成人男女を対象として「世論」という形で調査してきた。本課題では、中国との国際比較の視点、および国内では「顕著性」調査という時系列分析も交えての検討を行ったものである。
 サブテーマは次の2つである。
 (1)生活様式変革のための有効な情報伝達手段とその効果に関する国際比較研究
 (2)中国における生活様式変革のための有効な情報伝達手段とその効果に関する研究

2.研究の達成状況

 (1)生活様式変革のための有効な情報伝達手段とその効果に関する国際比較研究
 本課題で既に4時点の調査データの比較が可能となり、1997年以降の10年間で、ゴミ廃棄物問題への関心の継続的な高さと、ここ2、3年の地球温暖化問題の急速な関心の高まりを明らかにした。また、人々が実感として温暖化を感じ始めていることも明らかにし、その原因や結果としてどのような項目を把握しているかも検討した。その結果、95%の人々は「地球上の気候が変わってきている」と回答しながら、その高まる実感とはうらはらに、原因・結果について非常に曖昧な理解をしていることが分かった。環境問題に関する情報源としてはテレビ、新聞が8割程度と非常に高く、マスメディアの報道が大きな影響を与えていることが分かった。また、行動について統計的に解析した結果、行動促進のためにはマスメディアだけでなく、周囲の人々とのネットワーク(社会資本)が大きく影響していることが分かった。このほか、環境問題の社会問題の中での「顕著性」の検討として、毎月の「日本」および「世界」で「重要な問題」について調査を行ってきたが、2007年に入ってから、環境・公害に関する関心は大きく増加し、特に「世界で重要な問題」に関しては、それまで上位にあった「戦争・平和」などの項目を大きく引き離し、この傾向は2008年に入っても維持されていることが分かった。この変化は、マスメディアの報道量に大きく関連し、統計的にも有意であった。
 (2)中国における生活様式変革のための有効な情報伝達手段とその効果に関する研究
 中国においては、日本と同様の世論調査の実施自体が限定され、サンプリング方法の困難さとともに実施を難しくしている。本課題では現地の大学の協力を得て、上海、香港、新陽の3都市における日本との比較調査を実施した。その結果、中国本土の2都市においても人々の環境問題に関する意識は高まっており、その情報源は日本と同様に新聞やテレビが主なものであることが分かった。環境行動においても、いくつかの行動(寄付をする、など)においては日本を上回る行動率に達しており、中国都市部における環境意識、環境行動の広がりがうかがえる結果となった。

3.委員の指摘及び提言概要

 中国における市民意識調査を実施することは極めて困難であるが、よく進められている。また、時系列による国民意識の長期継続調査は、日本ではこれまで例がない。
 しかし、2007年11月に瀋陽市での調査を実施して、年度末までに内容面の比較分析を完了するのは無理かも知れないが、サブテーマ(2)の結果・考察が単純な表面的なものに終わっている。
 調査方法の妥当性については、詳細な記述があるが、それに比して、結果・分析の課題全体への貢献が不十分。また、所々に分析の飛躍がある。

4.評点

  総合評点:C
  必要性の観点(科学的・技術的意義等):c
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):c
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):c
  サブテーマ1:c
  サブテーマ2:d
 


研究課題名:RF-067 アジア大都市周縁における循環型社会を基調とした都市農村融合と戦略的土地利用計画(H18-19)

研究代表者氏名:原 祐二 (東京大学)

1.研究概要

 アジア大都市における人間活動は、他の大陸を凌駕した地球規模の環境負荷を生み出している。都市域は周辺の農村地帯に急速に拡大し、都市廃棄物の大量排出・不法投棄といった環境問題、さらには都市農村所得格差の拡大といった経済問題も生じている。こうした複層的な諸問題を解決していくためには、都市と農村を別個のものとしてとらえずに、循環型社会を基調として、両者をいかに調和的に融合させるかを考えていかなくてはならない。
 本研究では、それらアジア大都市の代表として、大河川のデルタに立地するバンコクと天津の都市農村混在地域を取り上げる。研究内容としては、これら2都市について「土地利用等の地理情報」「土建材、水、廃棄物等、ものの流れ」「人口移動」をフィールド調査により把握し、地理情報システム(GIS)を用いて整理する。GISの利用によって、それらの情報をコミュニティ・市区・都市圏等の様々なスケールで、相互に関連させながら見ることができる。これを基礎的なデータとして、それぞれのコミュニティ・市区・都市圏等の各範囲を管轄する行政主体に対し、ものの流れを循環させ、土地への環境負荷を抑える土地利用シナリオを具体的に提言する。

2.研究の達成状況

 バンコク首都圏ノンタブリ県バンメナン地区における高層高密型・低層分散型両土地利用シナリオの比較検討により、当該地区では分散・都市農村混在型の土地利用計画も、物質投入量面からは肯定的評価を与えうることがわかった。この結果を基に、現在の土地利用計画システムをバックキャスティングした。現行の土地利用計画では、道路網を骨格としたマクロな用途地域区分が指定されている。しかしながら、詳細な開発密度規定や、宅地−農地間の物質循環規模に関する計画要項は今のところない。農地利用管理については、むしろ王立灌漑局の管轄で実施されている。灌漑局ノンタブリ支所における聞き取り調査では、都市計画サイドとの連携は確認できなかった。適切な都市農村土地利用パターンを目指す上で、両サイドの連携が、喫緊で最も重要な課題であると思われる。
 天津市郊外4区における事例研究結果を基に、今後の土地利用計画制度のあり方について考察した。現状では、都市計画と農村計画が明瞭に分断してしまっている。この原因として、都市農村別戸籍制度という抜本的な問題があるが、それと同時に現場では、土地利用計画、施設計画、環境政策の全ての面において、政府機関内部の縦割状況がみられた。今後は施設整備による水資源・廃棄物の適正管理に加え、土地利用計画による都市農村融合施策の展開が必須であると考えられる。

3.委員の指摘及び提言概要

 都市農村混在地域を取り上げ、地理情報、土建材、水、廃棄物などのフロー、人口移動などを現地調査し、GISを活用して現状の地域の姿を全体的に把握するかなり骨の折れる研究であり、今後の都市農村融合型の土地利用の方法を示した意欲的な研究である。基礎的な事実集積がなされ、土地利用、廃棄物管理と水質管理をベースとする循環型社会へのシナリオ作成の成果を挙げている。
 しかし、バンコク郊外の研究は成功しているのに較べ、天津の場合はデータ収集の困難性の故であろうが少々問題である。2020年の目標設定をどのようにすべきか。低層分散型か、高密度開発型か、さまざまな利害関係者(土地所有、生産者、住民、その他)」による資源利用の可能性について、その歴史・地理的な検討と資源利用の効率性、公平性の観点をどのように取り入れるのかが課題として残されており、具体的な提案があまり示されていない。

4.評点

  総合評点:C
  必要性の観点(科学的・技術的意義等):c
  有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み):b
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性):b