研究代表者氏名:茅根 創 (東京大学)
1.研究概要
島嶼国,とくに環礁上の州島は標高が最大数mと低平で,利用可能な土地と資源が限られており,環境変動に対する脆弱性がきわめて高い.したがって、サンゴ礁の生物過程は地球温暖化の進行と州島の開発によって,また、人間の植生管理は島嶼国の経済システムの変容によって,いずれも崩壊の危機にある.本研究では,ミクロネシア,ポリネシア,メラネシアから代表的な環礁をそれぞれ1つ選び,環礁州島の地形と資源が,物理過程に加えて生態プロセスと人間の地域的知恵によってどのように形成・維持されてきたか,こうした自然-人間の相互作用が経済システムの変化に伴ってどのように変容してきたかを,地形・生態学,考古・民俗学,リモートセンシング・海岸工学の学際的共同研究によって明らかにする。それらをもとに、島嶼国の持続可能な国土と経済基盤の維持と環境変動に対する具体的方策を,島嶼国ネットワーク・現地の政策策定者に直接提案することによって,島嶼国の温暖化適応戦略策定に役立てる。サブテーマは次の3つである。
(1) 環礁州島の自然(地形-生態)プロセスに関する研究(地形・生態学)
(2) 環礁州島の人間居住-自然環境相互作用に関する研究(考古・民俗学)
(3) 環礁州島形成維持プロセスの統合モデルと変動予測,モニタリングに関する研究(リモートセンシング・海岸工学)
2.研究の達成状況
課題の研究目標に向かって、各サブテーマ間でよく連携がとれており、成果が順調に得られている。開始後3年目前半までの、各サブテーマの研究成果は次のようである。
(1) 2地域(マーシャル諸島マジュロ環礁とツバル国のフナフチ環礁)での現地調査から、州島地形の基本的構成要素(海岸側からサンゴ礁礁原-ストームリッジ-中央凹地-ビーチリッジの順に配列)その形成過程(過去の高い海面期のサンゴ礁、暴浪時のサンゴ礁の打ち上げ、沿岸流による生物遺骸砂の堆積、という3つの過程)を明らかにし、生物による砂の生産とその移動、堆積過程を、一連の過程としてまとめた「環礁州島の地形モデル」を、初めて構築した。
(2) これらの環礁の調査から地形形成過程と人間居住との関係を明らかにして、地形安定化にこれまで果たしてきた、現地の人々の多層的な地形利用と伝統的植生・地形管理システムが、近代化にともない崩壊しており、それが地形維持システムの劣化、海面上昇に対する脆弱性を高めていることを明らかにした。
(3) 全球GISデータベースに基づく海域区分を行なうとともに、環礁州島の地形と土地利用を、GPS・空中写真測量とリモートセンシング(ランドサットETM+衛星データ)によってマッピングする技術を構築した。
さらに当初の研究計画と照合すると、各サブテーマの年度の研究計画はほぼ達成されており、今後、平成17年度末には、概ね当初計画で想定した研究成果が得られるものと見込まれる。
3.延長された場合の研究計画概要
(1) これまでの3年間で構築した「西太平洋型・インド洋型の地形形成モデル」を他の型(赤道型、南東太平洋型)にも適用できるかを検証し、一般化した環礁州島地形モデルを作成する。
(2) 人為ストレスが、海面上昇に対する州島の脆弱性をどの程度高めているかを、生態系劣化による有孔虫生産量の減少、人工構築物やドレッジによる漂砂の阻害、そして海浜植生破壊による砂浜安定機能の喪失を、定量的に明らかにして、それらを地形モデルにとり込んで、海面上昇に対する州島地形の変化をより現実的に予測する。
(3) 地形と人間とのかかわりが島嶼ごとに違い(バリエーション)が認められたので、そのようなバリエーションがどのような条件によって規定されるかを明らかにし、地形-人間居住関係および伝統的管理システムとその崩壊についての仮説を一般化する。
これらの開発されたモデルなどを、マーシャル諸島共和国で検討されている海岸管理計画策定案に組み込む作業を、現地の担当者とともに行い、その地域の環境保全計画を具体的に支援する。
4.委員の指摘および提言概要
(1) これまでの研究成果
環礁州島形成の生態的・物理的なモデルを開発し、またその地形形成過程と人間居住との関係を明らかにし、人間居住の急激な近代化が地形維持システムの劣化や海面上昇に対する脆弱性を高めていることを明らかにしたことは、非常に高く評価できる。また、審査付き発表論文も、6編報告されている。
(2) 延長申請研究計画
3年間の成果の延長線上でぜひとも明らかにすべき課題として、人間活動が有孔虫生産の低下にかかわってきたメカニズムを解明して有孔虫生産を回復させる具体的手法、また、海面上昇が実際に起きた場合の具体的な対応策などがあるので、これらを検討して海岸管理計画策定案のなかに組み込みことを期待する。
なお、これまでに得られた大きな研究成果と比較すると、提案された今後2年間の研究計画は、やや定性的で、研究内容の質的な発展が不十分・不明確である。そこで、これらの指摘事項をふまえて、次年度の研究計画申請時までに、さらに質的に改善された研究計画を提出していただきたい。
5.評点
総合評点:A
必要性の観点(科学的意義等) :b
有効性の観点(地球環境政策への貢献の見込み) :b
効率性の観点(マネジメント、研究体制の妥当性):b
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