地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11重点
(11~13)
*事後評価*
A-1 オゾン層の回復を妨げる要因の解明に関する研究 環境省国立環境研究所
(今村 隆史)
B
(1)
(3)
(2)
 
(5)
 
 
(研究概要)
 大気中の有機ハロゲン濃度はほぼピークに達し、今後は緩やかに減少に向かう事が予想される。一方で、ハロゲン濃度の減少に追随してオゾン層が素直に回復に向かうというはっきりとした証拠は未だ無い。むしろ最近では温室効果気体の増加による気候変動、航空機排ガスをはじめとした人間活動や火山噴火等による大気組成変動などがオゾン層の回復を妨げる可能性も示唆されはじめている。本研究では北極域での1990年代に入ってからの急激なオゾン減少や中緯度域での長期オゾン減少トレンドの機構解明と今後の地球温暖化の進行や大気組成変動などに対するオゾン層の応答を明らかにし、オゾン層の回復を妨げる要因を解明する事を目的とする。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆研究目的が明確で、各サブテーマも研究目的に収録しており、優れた研究といえる。新規に開発された質量分析装置はマイナスイオン検出に高感度で対応できるとされているが、今後のハロゲン酸化物の動態解析に有用と期待される。
◆国際共同研究を更に進めるべき分野と思われる。
◆本研究は、極めて良い成果をあげたと評価できる。ただし、大きな研究費を必要としたことに関し、報告書に説明があると良かったのではないか。
◆今後のオゾン層対策をどう進めるべきか、その政策判断をする上で、このプロジェクトは極めて重要である。その意味で研究目的は明確だが、今計画で十分な説得力を持った科学的政策判断の材料が得られたかというと、まだ十分とは言えない。ただ科学的には一定の成果が得られており、今後も着実に発展させていくことが必要なテーマである。科学的に残された課題を追求すると同時に、その成果をどのように政策判断に生かせるようにするかの道筋を、科学の立場から分かりやすく提示していくことが必要。
◆成果は上がっているが、各サブテーマの関連が分かりにくい。
◆「オゾン層の回復を妨げる要因の解明に関する研究」という課題に対し、よりストレートに取り組んで欲しい。
◆各サブテーマの成果を統合した上での結論が見えにくい。例えば、オゾン層減少がやや鈍化する傾向が観測結果から報告されているが、本研究の結果からはこれをどのように評価できるのであろうか。
◆全体としてインパクトが足りないのではないか。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
A-2 オゾン層破壊物質及び代替物質の排出抑制システムに関する研究 国立環境研究所非常勤研究員、横浜国立大学
(浦野 紘平)
B
(1)

(3)
(4)
 
 
 
 
(研究概要)
 フロン類、代替フロン類、ハロン類および臭化メチルなどのオゾン層破壊物質や地球温暖化に影響する代替物質について、大気への排出を削減するための使用・回収・分解・代替の現実的な新しい技術システムを開発、確立すると同時に、それらの技術を実用するための社会システムの現状を解析し、改善方法を提示することを目的とする。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆サブテーマ(1)①はフロン類の統計データを基にして、各種インベントリー分析等を実施し、回収・破壊体制の構築、インパクトカテゴリーの比較等、今後の行政的対応に資する成果を上げている。サブテーマ(3)は半導体工場への適用可能性は残されているものの、先行技術・競合技術との関係を考慮すると、本技術の適用範囲は制約を受けざるを得ないのではないか。全般的には、研究成果の社会・経済的価値は高いと評価できる。
◆一部の研究成果が環境省オゾン層保護対策のモデル事業の実施や実務のガイドラインに反映されつつあるようである。排出制御システムとしてのまとまりとブレークスルー技術が今後期待できると思われる。
◆今後の環境政策に直接役立ついくつかの重要な成果が分かりやすい形で得られている。これらの成果については、具体的な政策に生かせるような形で結論を明確に整理し、科学的な立場からの提言としてまとめることが望まれる。
◆各サブテーマともに行政的価値の高い結果を出していると評価できる。ただし、事象をデータで裏付けた点は評価できるが、やや自明な事柄を後付けした感もあるのではないか。今後は、産業界からの研究参加を促進した方がよいと思われる。
◆科学的価値よりも実用的にみて重要な研究と考えられる。
◆研究内容が異なるサブテーマを無理に取りまとめた感がある。個別物質の処理技術にかかわるものと回収・分解の全体の社会システムづくりとは、区別してテーマを別に設定すべきと考える。このため、一部サブテーマの内容間で重複している部分があったり、全体像が見えにくいなどの問題が生じているのではないか。

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実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
A-4 紫外線の健康影響のリスク評価と効果的な予防法の確立に関する研究 厚労省国立がんセンター研究所
(山口 直人)
C
(2)
(3)
 
(4)
 
 
(研究概要)
 オゾン層の破壊の進行によって、人に対する紫外線暴露量が増大し、わが国においても皮膚がん、白内障、免疫機能低下など、健康被害の増加が懸念されている。したがって、将来の紫外線増加が日本国民の健康に及ぼし得る影響を科学的に解明し、必要な予防措置を講じることが緊急の課題である。本研究の目的は、皮膚がん及びその前がん病変、白内障、免疫機能低下について、紫外線暴露量との量反応関係を確立すること、紫外線暴露量を、オゾン層破壊の影響も考慮して将来にわたって予測すること、量反応関係と暴露評価に基づいて、紫外線増加によって日本国民に起こり得る健康被害の現状と将来を科学的にリスク評価することである。リスク評価に当たっては、ライフスタイルによって暴露レベルに大きな違いがあること、小児期の暴露の影響を考慮すること、高感受性群の存在を明らかにすること、他の因子との複合暴露の影響を明らかにすることにより、個人毎のきめ細かい予防対策の実現の基礎となる情報の蓄積を目指す。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆研究目標がしぼられており、各サブテーマがこれに集中している点が評価される。諸外国が先行している研究課題であると思われるが、日本を対象にした研究成果はこの方面の研究データの国際比較の点で有益である。
◆疫学的な研究の結果にはそれほど意外性はないが、国内での初の本格的な調査で海外と同様の傾向が定量的に確認されたことは一定の評価をすべきと考えられる。今後、この疫学調査の規模を拡大し、地域差を定量的に確認・評価することは、ある程度必要と思われる。同時に、研究の効率性から考えて、紫外線傷害の人種間の差異などについて、さらに生理学的メカニズムに踏み込んだ研究を強化することで海外の既存の研究成果を国内のケースにあてはめられないかということも今後の課題になると考えられる。
◆課題内容は「リスク評価」と「予防法の確立」に分けられるが、前者では一定の成果が得られたとはいえ、後者については具体的成果が見られない。課題設定当初から「予防法の確立」といった大きな表現を避け、「予防法対策情報の蓄積」と掲げるべきであったのかもしれない。サブテーマ(1)で結果として用いた対象地域は、1992年以降のデータがある加西市、伊江村だけのように見えるが、これだけで良かったのか。今後も札幌市、福島市など当初対象地域として選んだ市町村について、継続的な調査と評価に努めて頂きたい。サブテーマ(2)、サブテーマ(3)については公表実績を高く評価したい。
◆この分野の専門家をリーダーにして計画を行うべきである。
◆対象テーマの要因が大きいかもしれないが、全体として出版された成果が少なすぎると考えられる。
◆3年間の研究成果報告にしては含まれる内容が少ないのではないか。また、各サブテーマの成果を寄せ集めた印象があり、、サブテーマ間の連携があまり読み取れない。
◆紫外線暴露による発がんのリスク評価は、本研究で用いられている方法が最も適切なものであるのか、やや疑問を感じる。


地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
A―5 紫外線増加が生物に与える影響の評価 農水省水産総研センター
(田口 哲)
B
(2)
(3)
(2)
 
 
 
(研究概要)
 オゾン層の破壊は、今後少なくとも20年間は継続すると予想される。オゾンホールが拡大すると、地球上に到達する紫外線、特に280-320nmのUVBの増加が促進される。このように増加しているUVBの影響は、人類を含む地球上の生物全てに対して危惧されている。当研究では、紫外線増加に対する抵抗性と遺伝子損傷蓄積量を用いて、陸上及び海洋生物に対するUVBの影響により普遍的な評価方法の確立を図る。このことは、今後の紫外線増加による生物に対する影響の予測には必要不可欠である。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆紫外線の影響を森林生物、農業生物、海洋生物など多方面から解析し、それぞれが受ける影響の評価には一定程度まで成功したと思われる。しかし、研究対象として用いた生物種が、代表種として適当なのかという点は疑問を感じる。いずれにせよ、本研究成果を基に、生物全般に通ずる紫外線応答様式の解明等、研究を一層深化させるため、新たな研究プロジェクトを展開することが望まれる。サブテーマ(3)での多くの発表がインパクトファクターの高い学術誌上で行われていることに高い評価を与えたい。特に、マーカー遺伝子のcodAに変異が入った個体を選抜するに当たり、葉ではなく根の生育を指標とする間便法を提案したこと、DNA損傷物質である8-OHdGがUV-b照射により植物体内に生成されることを見出したことは意義深い。
◆基本的な目的を、UV-Bの影響の普遍的な評価方法の確立のための基礎研究においており、個別的に興味深い成果が得られていると評価できる。
◆サブテーマ(2)の部分の充実を今後図るべきと考えられる。
◆全体的にみた場合、成果の発表が少ないのではないか。
◆対象とした生物が多様で全体的に何が分かったのか不明確である。また、対象とした生物過程のレベルも多様で不統一である。その結果、研究成果が断片的で、全体として研究目標が達せられたとは言えない。研究成果の公表が必ずしも十分とはいえないサブテーマ((1)①、(1)②等)がある。研究課題としては重要なテーマであり、研究課題全体としての研究成果の収斂はなかったものの、個々のサブテーマ((2)①、(2)②等)には、貴重な成果が認められる。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
B-5 熱帯アジアの土地利用変化が陸域生態系からの温室効果ガスの発生・吸収量に及ぼす影響の評価に関する研究 農水省農業環境技術研究所
(鶴田 治雄)
B
(1)

(1)
(2)
(5)
 
 
 
 
(研究概要)
 熱帯アジアの陸域生態系は、近年の人間活動の影響を大きく受けており、とくに熱帯林や泥炭湿地の減少と農耕地・プランテーション化等の土地利用変化が急速に進行している。また、森林伐採後や収穫後の農作物残渣の焼却(バイオマス燃焼)なども日常的に行われている。これらの陸域生態系からの温室効果ガスの発生・吸収量、および土地利用変化過程における発生・吸収量の変化は、地球温暖化に影響を及ぼすと推測されているが、熱帯アジアにおける組織的な調査研究はなされていない。本研究の目的は、これらを解明するために共同研究体制をアジアの国々と組織し、直接の温室効果ガスである二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素の発生・吸収量の空間・時間変動の測定、およびその要因の解明等を行い、総合的に評価することである。そこで、次のサブ課題を実施する。
(1)土地利用変化に伴う温室効果ガスの発生・吸収の現地調査とその総合評価(農環研)
(一部を千葉大学に委託:泥炭湿地からの温室効果ガスの発生)
(2)熱帯林による二酸化炭素吸収の現地調査とその広域評価(産業技術総合研究所)
(一部を日本大学に委託:同位体分析による土壌有機物の変質過程)
(一部を東京情報大学に委託:大気中CO2濃度の連続測定)
(3)熱帯土壌からの温室効果ガスの発生・吸収要因の解明(森林総研北海道支所)
(4)生態系変化のデータベース化とスケールアップに関する研究(農環研)
(5)アジアの農耕地から発生する窒素酸化物の抑制技術(農環研:EFF)
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆新たな知見も得られ、水準の高い成果が得られたと考える。具体的な土地利用の変化と関連づけた点が高く評価できる。ただし、逆に言えば、土地利用変化のカテゴリーが限られており、今後、一般化に向けた努力が必要と思われる。
◆点の測定から面的データベースを作成する方法について、今後の発展を期待したい。
◆データの蓄積は必要なことであり、これについてはよく努力していると評価できる。ローカル→リージョナル→グローバルへのスケールアップは今後の最大の課題であり、更に研鑽が必要であり、それ自体を独立の研究テーマとすべきとも考えられる。
◆一口に「熱帯」といっても、南アジア、中南米、アフリカなどそれぞれを取り巻く大気、陸域、海洋など地球科学的条件は様々である。このため、それらを一括して熱帯地域とした上でその特性を普遍化しようとしても、そこには自ずと無理が生ずる。したがって、先ずは熱帯地域を大気・水循環、海洋大循環の観点から解析し、それぞれの地球上で位置と個別特性の関係を分析・一般化することが今後は必要であろう。この際、太陽黒点活動、エルニーニョ・ラニーニャ、水循環変動、等々のイベントも考慮に入れると更に興味深いものとなると思われる。全体として、今回の研究成果はそれなりに十分評価できるものである。
◆メカニズム解明にかかわる個別の成果には評価できる面が認められるが、IPCCがまとめるようなマクロなレベルの具体的な数値は必ずしも得られておらず、研究計画上もこの点が弱かったように思われる。今後も調査が必要だとしても、終わりのない研究計画とならないよう検討が必要である。
◆この種の研究におけるデータ蓄積は、あまり新規性のない手法により行われている。観測は極めて多様性のある環境で行われており、これが熱帯域での研究の特性であるとしても、この種の研究は枚挙的で新規性に乏しい感がある。そろそろ研究を取りまとめ(総括し)、モデリングなど、次の展開を図る時期にきているのではないか。今後は、方法評価に関するパラダイムシフトが不可欠と考えられる。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
B-8 大気の酸化能と温室効果ガスの消滅過程をコントロールする反応性大気微量気体の大気質へのインパクトに関する研究 環境省国立環境研究所
(畠山 史郎)
B
(1)
(1)
 
 
 
 
(研究概要)
(1)大気の酸化能など大気化学過程を支配する最も重要なNOy化学種の生成過程、大気中での変質過程、及び除去過程を明らかにする。特に、今後深刻化すると懸念される熱帯地域での光化学大気汚染現象を予測する。
(2)大気の酸化能を支配するNOy化学種と、その大気化学反応によって生成し、重要な酸化性物質でありかつ温室効果ガスである対流圏オゾンの分布を明らかにするため全NOy、オゾンおよびエアロゾルを隠岐島、沖縄、小笠原の3つの典型的な低汚染地域で測定する。これらの3地点でのデータを比較することにより、東アジア-北西太平洋地域の大気の酸化能の変動をとらえることができる。本サブテーマではIGAC(国際地球大気化学)プログラムのもとACE-Asia(エアロゾル性状研究実験-アジア)に参加して国際共同研究を行う。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆大陸性気団と海洋性気団の影響を交互に受ける日本周辺の島嶼で、大気化学的観点からモニタリングを行う意義は大きい。大陸由来の各種物質(広域風成塵、花粉、酸性下降物、内分泌攪乱化学物質など発ガン性物質、その他)の飛来が日本国土の生物相に各種悪影響を及ぼすことが懸念されており、大陸由来物質に対する国内生物の応答様式をも取り込んだ、新たな研究へと今後発展させてほしい。
◆研究目標がおおむね焦点が絞られており、研究成果も価値ある結果が多く、優れた研究と言える。地上観測研究では、PAN自動捕集装置などを使用しながら、マニュアルで分析されているように思われるが、物理計測技術を利用した方法へのシフトを検討してほしい。
◆東アジアの大気特性への着目が興味深い。
◆研究目的が明確であり、基礎的なプロセスに関する研究と観測研究がコーディネートされている。学術的に重要な成果も得られているが、現段階ですぐに社会・経済・行政的な応用が期待できるとは思えない。統合的な予測モデルに組みこむことを前提にした研究として、今後とも研究を継続していくことが期待される。
◆実験による知見を現実現象の説明に定量的に結びつけていく努力が大切だと思われる。
◆サブテーマ(1)(室内実験)と(2)(観測実験)のつながりが明確でない。サブサブテーマ間についても同様である。
◆サブテーマ(1)以外のactivityが低いように思われる。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
B―10 温暖化による健康影響と環境変化による社会の脆弱性の予測と適応によるリスク低減化に関する研究 富山国際大学
(安藤 満)
B
(1)
 
 
 
 
 
(研究概要)
 地球温暖化によって受ける健康影響を軽減化していくためには、IPCC及びWHOの報告にあるように、社会集団の健康が温暖化によりどのように影響されるか予測し、最適な適応策を確立する必要がある。これまでの研究により夏季気温の上昇による疾病や死亡への影響、水資源の変化による影響、マラリヤの流行域の拡大による影響が予想されている。今後気温上昇や降水量変化と健康被害の拡大との因果関係についての正確な予測が必要とされている。このため温暖化による疾病や死亡への影響に関する疫学調査を実施し、アジアの社会集団の脆弱性を評価するとともに、社会的適応対策や人の適応能の向上により、健康への悪影響の低減化に結びつけるため以下の研究を行う。
(1) 温暖化による健康影響と社会適応に向けた総合的リスク評価に関する研究
 (2) 気候変化による水環境変化に由来する健康影響の評価とリスク予防に関する研究
 (3) 温暖化による動物媒介性感染症の増加の予測と効果的予防対策に関する研究
 (4) ライフスタイルからみた温暖化の影響への適応機構と健康リスクの予防に関する研究
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆サブテーマ(1)に、サブテーマ(3)のライフスタイル要因との関係を組み入れるなど、人工環境(空調)の関与について分析し、対策や政策に結びつけるという視点を望みたい。課題全体として、興味深く有用な研究成果であると評価できる。
◆今回の研究で得られた知見は、一般の人々にとってもすぐに役に立つ内容が幾つかある。このため、これらの情報を社会にどう還元していくか、という視点から研究成果を分かりやすく整理することも、研究課題の一つと思われる。
◆健康影響は温暖化影響の中で重要なテーマであり、課題設定としては適切であったと思われる。ただし、本研究の場合、充分完結した研究となっていないという印象を受ける。疫学的な影響発現の閾値を決めるのが目標なのか、将来の影響予測モデルの開発が目標なのか、いずれにしても中途段階までの成果にとどまっていると考えられる。
◆影響分析は重要テーマであるが、あまりにも統計分析に偏ったきらいがある。もう少し個別メカニズムの研究に基づいた分析が必要ではないかと思われる。black boxでモデル化するのでは、世界各地で通用するような普遍的評価となるのかどうか疑問が残る。
◆対象が非常に複雑な現象であることはよくわかるが、温暖化の影響を見るという観点からは、新しい情報が少ないように思われる。特定の「カ」を撲滅する方法はないのだろうか。熱中症についても運動中の事例が多いようにみえる。個々の研究手法に、より工夫が必要なのではないか。
◆全体としてみると、どこかimpactに欠けている感がある。レベルの高い学術誌への発表が少ないことにも、このことが現れているのではないか。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11重点
(11~13)
*事後評価*
B-11 地球温暖化による生物圏の脆弱性の評価に関する研究 環境省国立環境研究所
(原沢 英夫)
A
(1)
(3)

(3)

(4)
 
(5)
(2)
 
(研究概要)
 現在、我が国をはじめとするアジア地域において、地域レベルに適用しうる感受性や適応性の評価手法の開発と総合的な脆弱性評価の問題が緊急課題となっている。特に、陸域生態系の脆弱性評価の問題は、COP3の森林のシンクの問題とも関連する重要な課題である。また、水資源の問題は、生態系の脆弱性や農林業を含む人間の経済活動とも密接に関連しており、生物圏の存続に悪影響を及ぼす可能性が高い問題である。そこで、本研究においては、生物圏を対象として、地域レベルでの脆弱性評価に関しての研究を行うこと、および脆弱性を指標とした温暖化モニタリングの可能性の検討を行うことを目的とする。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆社会・経済・行政的価値の極めて高い研究テーマであり、目的も明確な研究課題である。温暖化に対する共通のシナリオを用いることにより、様々な生態系への影響を総合的に評価する基礎を作ったことは、今後の社会・経済・行政的な判断をする上で極めて有益であろう。
◆大変重要なテーマを扱っていると評価できる。
◆非常によい成果をあげた。残念なこととしては、課題全体とサブテーマの整合性に多少問題があったことである。
◆日本全体に対して統一した気候シナリオを構築し提供した点、影響(脆弱性)マップの形で将来の影響を提示した点で非常に優れている。この研究によって、日本の陸上生態系への影響の全体像が見えるようになってきたといえる。環境省としても、こうした研究成果をどう国際的認識に広げていくのか、あるいは、どう政策に結びつけていくかという点について検討することが望まれる。他の研究からも、こうした成果が出ているはずで、それらをまとめれば大きな影響像が浮かび上がるはずである。総合科学技術会議とも積極的に連携することも必要と思われる。
◆総合的なアプローチであると評価できる。また、成果が脆弱性マップという形で分かりやすく表現されており、この点についても評価できる。
◆いくつかのサブ・サブテーマでは、研究担当者の得意とする又は興味をもっている内容を並べただけという感が強い。したがって、そこでは生物圏の脆弱性把握を通じて自然生態系や生物種への被害緩和のための方策を立案し実施するといった人間社会への貢献を追求した姿が見えない。中には趣味的研究と言われても仕方がないようなものもあると思われる。しかし、研究代表者のマネジメントが優れていたため、全体としての共通シナリオの採用、マップ化にこぎ着けたことは評価に値する。なお、サブテーマ(3)①および④の成果報告書の誌上発表の記載については、一冊の単行本を構成しているパーツごとに、担当者各自が別々の成果発表であるかのように記載してあり、成果発表件数を多く見せているかのような誤解を招く。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11開始
(11~13)
*事後評価*
IR-2 温室効果ガスインベントリーシステム構築の方法論に関する研究 環境省国立環境研究所
(井上 元)
B
(4)
(1)
 
(3)
 
 
(研究概要)
 日本は今回IPCCのインベントリーTSUをIGESに誘致した。インベントリーはこれまでの国別報告書への利用といったやや暫定的な位置づけから、京都議定書に基づく約束の履行判定のベースにするといった国際条約に直接に関連する位置づけに代わり、これまでとは比べものにならないほど科学的精度に対する要求が高まっている。条約からの要請により、IPCCのテーマになる可能性もあり、国際的にも、日本の作業に対する厳しい評価がなされると思われるため、日本のTSUが行うインベントリー作成の方法論開発やデータベース構築作業を科学面から裏打ちするための研究者による支援体制の構築が不可欠である。また、このTSUを世界のインベントリーデータセンターとするための、情報ネットワーク・情報システムの構築が重要になってくる。そこで、本研究では、温室効果ガスインベントリーの精度の向上方法を検討すると同時に、世界のインベントリーデータセンターとしての情報ネットワーク・システムの構築支援研究を行う。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆東アジア、東南アジア現地での温室効果ガスのインベントリーの精度向上に研究成果が役立つものと評価できる。
◆本研究のテーマは、将に今後のテーマであると思われる。その意味で第一歩を踏み出すプロジェクトしては成功していると評価できる。
◆IPCCへの反映がなされたということで、政策効果は高いと判断される。この種の検討は、内容が世界的に認められ、またその妥当性が確認されて初めて意義があると考えることができる。研究内容的には、多様なレベルのものが混在し、虫食い的、randomに、可能なところから進めたという傾向が見られるので、一度全体を統合的にreviewしたうえで必要な部分を特定し、更に研究を進める必要がある。個別研究の集合で全体が見えにくいという面がある。一般産業分野は欠けており、農業分野に重点が置かれているため、今後、最終的に全体を考慮したガイドラインとなるよう研究の展開が望まれる。
◆タイムリーな研究。産業部内(工業部門)への言及がより望まれる研究であった。
◆インベントリーの更新、推進方法の改善の提言等、国際的・社会的価値は高い。ただし、国際協力研究の実施については評価できるものの、ケーススタディの範囲の選び方について、マネジメントが適切であったかどうかは疑問が残る。
◆テーマ自身は非常に重要であり、ぜひ今後もこの種の研究は続けてほしい。ただし、本研究の場合、研究者が農業・畜産関係のみであったため、サブテーマ(2)については一般産業(工業、鉱業、サービス)の統計の問題に全く手がつけられていない。その意味でサブテーマ(2)は畜産のstudyとしては評価できるが、産業全体への展開を見据えるという目標に関して、全く達成されなかったと言わざるを得ない。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11開始
(11~13)
*事後評価*
K-1 陸域生態系の吸収源機能評価に関する研究 環境省国立環境研究所
(山形 与志樹)
B
(1)
(3)
(4)
 
 
(2)
 
 
(研究概要)
 京都議定書において、削減割当達成に吸収源を利用する仕組みが取り入れられた。しかしながら吸収源に関する科学・技術的知見は未熟な段階にあり、今後の国際制度を検討する上で、陸域生態系の吸収源機能評価の確立が喫緊の課題となっている。そこで本研究課題では、人為的活動による森林生態系における炭素収支変動の評価を、広域的な炭素収支動態予測に基づいて行うと同時に、吸収源活動が環境や経済に与える影響を分析して、国際的に合意可能な吸収源アカウンティング方式の開発・評価を行うことを目的としている。このため、以下の内容について研究を行う。
①人為的活動による森林・木材・土地利用における炭素収支変動の評価
  森林資源管理、森林土壌変動、木造住宅・紙パルプ部門、森林バイオマス利用
②人為的活動による都市緑地における炭素収支変動の評価
  都市内の公園緑地、沿道緑地、河川沿い緑地等
③人為的活動による農耕地における炭素収支変動の評価
  農耕地土壌の炭素収支評価モデル、マルチスケールモデル
④京都議定書に関わる吸収源アカウンティング方式の評価
  潜在的活動量の評価、環境・経済影響分析、アカウンティング方式
⑤森林吸収量算定モデルの評価(EFF)
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆エコ・フロンティア・フェローや国内交流研究員など、外部研究員の得意分野を生かした課題を設定し、目的達成を図った研究実施体制を評価したい。京都議定書で認められた陸域生態系とりわけ森林の炭素吸収量を排出削減目標へ算入させるためには、森林生態系の炭素吸収源機能を解明した上で、炭素吸収量の推定手法を確立する必要がある。当プロジェクトでは植生(木材を含む)中、土壌中の炭素貯留量を森林、農耕地、都市緑地を対象に推定し、吸収源アカウンティング方式を検討する中で、植林・再植林による森林再生活動が重要であることを指摘し、京都議定書の実施に対する科学的貢献を果たしただけでなく、国際的にも吸収源に関する特別報告を行うなどIPCCに果たした役割も極めて大きいと評価できる。
◆視点が興味深い。
◆相対的に見て、よく研究を進めていると判定できる。京都議定書等への答えもそれなりに出しており、有効な成果を挙げている。ただし、科学的な面からの評価は、今後の展開によると思われる。
◆京都議定書対応として、やや行政ニーズから始められた研究ではあるが、一応の成果は得られたと評価できる。サブテーマ(サブサブテーマ)間の関連がバラバラの感があるが、やむを得ない面もあるであろう。森林、土壌に関して、実証方式の標準化への道筋を明確にしてほしかった。
◆サブテーマ(4)では、新しい分野におけるモデルの構築とその実地検証、サブテーマ(3)では科学的評価の方法論へのアプローチとIPCCへの問題提起等に対し、科学的価値を評価する。しかしサブテーマ(1)の(A)~(I)、あるいはサブテーマ(6)、(7)等はサブテーマの設定に関して、もう少しマネジメントの観点からの整理が望まれた。
◆大変重要で多面的な研究が進められ成果を挙げている。しかし、未だ道中ばの感がある。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11重点
(11~13)
*事後評価*
C-1 東アジア地域の大気汚染物質発生・沈着マトリックス作成と国際共同観測に関する研究 環境省国立環境研究所
(村野 健太郎)
B
(1)
(3)
(1)
(1)
 
 
(研究概要)
 アジア大陸から日本への越境大気汚染の定量化が研究目的である。そのためには大気汚染物質の発生量マップの作成が必須である。降水、雲物理過程を含む大気汚染物質の発生、輸送、変質、沈着モデルの精緻化と同時に、このモデルを1度×1度グリッド別の発生・沈着マトリックスにすることが、定量的に越境大気汚染を記述することになる。また中国、日本国内における大気汚染、酸性雨の実体把握と同時に、モデル検証のための大気汚染物質(硫黄酸化物、窒素酸化物、アンモニア、エアロゾル)の観測データを複数地点で取得する。EANET支援のために、ロシアと共同観測を行うと同時に、EANETによる降水観測の精度総合評価、データの解析手法を研究する。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆大陸からの越境大気汚染について、その一端を明らかにした点は、確実なワンステップである。データのCD-ROM化を行っており、そのこと自体は珍しいことではないものの、このように積極的に実施することでデータの利用が促進されるはずと考えられる。
◆サブテーマ(1)で得られた、従来まで観測や知見が十分に得られていなかった中国における上空大気中の酸性雨原因物質についての測定結果は有用である。
◆サブテーマ(3)については、ほぼ当初の目標を達成しており高く評価できるが、成果の発表数がやや乏しい。サブテーマ(2)については、精緻化に関する成果の記述がなく、研究の発展性があまり期待できないことから、今後、研究を進める場合の見なおしが必要である。サブテーマ(1)については、中程度の達成度であるが、成果発表数が多いことを評価したい。いずれのサブテーマも、ハイランク(インパクトファクター1以上)の国際学術誌への投稿がないため、成果の地域的波及効果は期待できたとしても、国際的な評価は低いものに留まるのではないか。
◆EANET観測システム及び解析手法の確立、汚染物質発生源データベースの作成、並びにモデルの構築等、包括的な研究を推進した点で評価できる。個々の研究テーマは重要な課題であり、また成果も出ているが、サブテーマ(3)の研究にサブテーマ(2)や(1)の結果が利用されていないなど、本研究課題の中でのサブテーマ相互の関連性に疑問を持った。サブテーマ(1)③については、本研究課題でオゾン観測の位置づけが不明な点、及び気象総観場からのみの解析という点で、検討を要すると考えられる。
◆東アジア地域における大気汚染物質の発生、移動、輸送という重要で広範な問題を取り扱っているが、今後は、もう少し焦点をしぼった研究に取り組む必要があるのではないだろうか。
◆テーマを貫通する研究目的意識が弱いと思われる。そのため、サブテーマがそれぞれ独自の研究展開をしてしまっている感が強い。
◆「東アジアにおける大気汚染物質発生・沈着マトリックスの作成」を全体テーマの看板に掲げた本研究を全体的に評価した場合、この部分の成果が内容的にPreliminaryであるのが残念である。特定年の冬季・夏季各1ヶ月について発生・沈着マトリックスの作成がまがりなりにもなされたことは評価できるが、モデル計算結果の観測データによる検証が不十分なことが、計算結果の信頼性を低くしている。もう一つの看板である「国際共同観測」については、中国で初めて航空機観測による国際共同観測を行ったこと自体は、将来への道を開いたという点で非常に高く評価できるが、中国における地上観測については、科学的に高い評価を与え得る成果を上げているとは思えない。サブテーマ(2)において、我が国における降水中の硫酸イオン、硝酸イオン濃度の10年間の長期トレンドが解析されたことは高く評価できる。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
C-4 酸性・酸化性物質に係る陸域生態系の衰退現象の定量的解析に関する研究 農水省農業環境技術研
(齋藤 元也)
B
(3)
(1)
(5)
(4)
(8)
 
 
(研究概要)
 現在までに世界各地で森林,湖沼等陸域生態系の衰退が認められ,わが国でも近年森林の衰退が報告されている。国内の酸性沈着は大きく改善される状況になく,国外から飛来する酸性物質は近年増加の傾向にあり,東アジアにおけるモニタリングネットワークの構築が始まっている。このような中で,わが国における陸域生態系の衰退現象はその原因を明確にするところまで達していない。そこで,陸域生態系の衰退現象に関し,関連する専門家による総合的かつ定量的な調査研究を行う。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆我が国の森林衰退の原因について、単に降水影響だけでなくオゾン影響も含めて本格的に取り組んだ初めての研究として高く評価される。それぞれのサブテーマにおいて重要な成果が得られているものと思われる。本研究の成果を踏まえて、森林植生影響に関わる我が国の研究者の現時点での意見を集約し、米国におけるNAPAPの議会報告書(1992)のように、原因物質として何が最も疑わしいかの重要度ランク付けや、今後何を中心的に研究すべきかについての提言を含む報告書を、推進費による活動の一環としてまとめることを提案する。
◆陸域生態系への影響の定量的評価はキャッチメント手法が有効であり、サブテーマ(5)において、その手法が検討されている。
◆幅広い研究内容であるが、全体がよく調整されていると考えられる。
◆奥日光での陸域生態系の衰退に焦点を絞った点、様々な研究分析(これまでの森林衰退の研究に含まれていなかった大気化学、生態学など)からのアプローチを行った点は、高く評価できる。「衰退」の原因が科学的に解明されるには、なお時間を要するであろうが、本研究成果を通して対策の可能性が示唆され、また、生態系影響解明のための研究手法、研究方向が示されたといえる。
◆奥日光の陸域生態系の衰退について、想定され得る地域特性と環境要因を各研究者が分担の上、研究を総合的に実施し成果を得た点が評価される。今回の成果から、さらに衰退原因の解明と対策の策定に焦点を絞った今後の研究が待たれる。サブテーマ(8)の内容については、奥日光の陸域生態系を取り扱った本研究課題との関連性を明確にする必要があったのではないか。
◆野外の実観察と室内実験の結果、およびサブテーマ間の成果に一貫性・整合性があり、よくまとまっている。とくにサブテーマ(5)の成果は高く評価できる。また、ハイランクの国際学術誌に成果論文が投稿・掲載されており、地域研究であるが成果の汎用化や波及効果は期待できる。ただし、サブテーマ(4)と(8)については見直しが必要であったと考えられる。
◆樹木の衰退が0~3の尺度で示されることは、一応は便利であるとしても、研究対象樹木の衰退を化学成分その他の内部的な変化によって測定(推定)することはできないものであろうか。
◆大事な研究課題であったが、もう一つ各サブテーマ間の結びつきに乏しく、研究段階に差があると思われる。共同研究としての相互の交流が少なかったのではないか。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11重点
(11~13)
*事後評価*
D-1 東シナ海における長江経由の汚染・汚濁物質の動態と生態系影響に関する研究 環境省国立環境研究所
(渡辺 正孝)
B
(1)
(3)
 
(4)
 
 
(研究概要)
 経済発展の著しい長江流域からは、大量の汚濁・汚染物質が長江河口域及び東シナ海に流入している。特に農業生産増大の結果として農薬、肥料使用量の増大、あるいは工業生産の増大にともなう重金属類、有害化学物質の排出が増大し、それらの海洋生態系への影響が危惧されている。豊富な水産資源に恵まれた東シナ海は、我が国の漁業資源確保にとって重要であり、生物多様性も豊富である。このため日本がイニシアチブをとって総合的な海洋環境管理を行う必要がある海域と言える。しかしながら、当該海域の汚染物質の動態及び海洋生態系に与える影響に関する我が国の知見は極めて少なく、日本が東シナ海の環境保全においてリーダーシップを取るうえで支障となりかねない。また今後、長江流域の経済発展にともなう流域の土地利用変化あるいは三峡ダムの完成は、当該海域に流入する淡水量、流砂量、栄養塩類、農薬等有害化学物質などの汚染・汚濁負荷の質・量に大きな変化を与えると考えられる。それらが海洋環境・生態系に及ぼす影響を予測していくことは急務である。
本研究を地球環境研究総合推進費で行うことにより、東シナ海の環境保全に関する科学的知見を蓄積するとともに、我が国の東アジア海域における環境政策へその研究成果を反映させることが可能となる。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆長江経由の汚染、損害負荷が北東アジアの海洋環境保全の重要な課題の一つであり、この研究を発展させることは社会・行政的価値が高いばかりでなく、他の河川の海洋環境影響の研究指針にもなりうる。他国の環境負荷量の把握、予測には大きな困難を伴うが、国際協力体制を強化して困難を克服し、研究グループの得意とする「汚染物質の循環と環境影響予測」を実現されることを期待する。
◆大陸に踏み込んだ測定を行っていることを評価する。
◆δ13C測定手法を懸濁粒子だけでなく、動物・植物プランクトンなどにも適用し、有機物動態や食物連鎖系の解析につなげることを期待したい。
◆長江及び河口域の汚染物質の動態と生物多様性、環境負荷量の歴史的変化、東シナ海の海水・懸濁物のモデル解析にまでわたる包括的な研究プロジェクトであり、また個々の研究においても成果が得られている。さらに、中国との共同研究によりこれまで得られなかった貴重なデータが蓄積されている。河口域は物理、化学、生物的に複雑な系であり、季節変動・粒子と物質の相互作用等未解明な課題も多い。特に長江河口等、規模の大きな海域では物質の動態と生態系への影響評価は困難な問題である。このため、本プロジェクトは幅広い分野が研究対象となったと思われるが、焦点を絞った研究の推進が必要であったとも考えられる。
◆研究対象の広がりが大きすぎて、テーマ全体としての研究目的の集中的解析に弱さが感じられる。
◆長江河口海域の研究は、中国との国際共同研究としてメカニズム解明を目指した、より進んだ研究に進展することが望まれる。
◆全体的に、汚濁に関する研究が主体で、汚染(特に有害物質)に関する研究成果は乏しい。また、実際の記述や方法の確立が成果の中心になっており、動態の解析や影響評価の考察は浅く、結論も研究の達成目標を必ずしも満たしていないのではないか。サブテーマ(2)①とサブテーマ(3)①は、国際的に通用する成果であるが、サブテーマ(2)②、(3)②、(4)①②は、必ずしも高いレベルとはいえない学術誌への発表にとどまっており、成果の波及効果は低いのではないか。これら4つのサブテーマについては見直しが必要であった。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
D-3 アジア緑辺海域帯における海洋健康度の持続的監視・評価手法と国際協力体制の樹立に関する研究 環境省国立環境研究所
(原島 省)
B
(1)
(2)
 
 
 
 
(研究概要)
 人為起源のN, P負荷の増大と自然起源のSi補給減少の複合で、海洋生態系の基盤がケイ藻類から非ケイ藻類に変化してゆくという仮説が存在する。この傾向は経済発展の顕著なアジアの沿岸海域で懸念されるため、(N,P)/Si比とプランクトン構成比を海洋健康度の指標とした常時監視手法および評価手法の確立と、関連沿岸国との協力体制の確立が重要な案件となっている。このための対策として、定期航路船舶によるN,P,Si,植物プランクトンの計測手法およびオンラインデータ転送手法、船体利用技術の効率化・定式化を計る。さらに、これらの手法にもとづき、CoMEMAMS(Cooperative Marine Environmental Monitoring in the Asian Marginal Seas)という名称のパネルを形成して、関連沿岸国の研究者と協議しつつアジア海域の海洋健康度を持続的に評価する体制を形成する。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆海洋の観測は、今後篤志観測船を抜きにしては考えられなくなる。その意味から、本プロジェクト成果は評価できる。特に、サブテーマ(3)の成果は基礎的な事柄でありながら、これまで海洋研究者に検討されていない課題であり高く評価できる。サブテーマ(2)の課題は顕微鏡観測装置のみでなく、篤志観測船運用に不可欠なリモート操作の基盤技術の開発として価値がある。誰でも利用可能な技術として、幅広く公開されることを希望する。
◆大事な課題であるが、やっと緒についたところ。Si問題とオンライン監視に絞った、さらなる研究を期待したい。
◆研究成果の専門誌などへの公表を積極的に進める必要がある。
◆「海洋健康度」にはシリカ欠損に関連する指標だけでなく、有害化学物質などに関する指標もあり、総合的に評価することが重要である。
◆サブテーマ間の連携がもっとはっきりしているべきであった。
◆サブテーマ(2)、(3)は海洋汚染研究に共通する「測定法」の問題であるが、研究とは言い難い面もあるのではないか。技術の確立には経費は必要であろうが、サブテーマとして加えることには疑問が残る。
◆本研究の重要な発見は大阪湾の調査や室内模型試験で得られており、広くアジア縁辺域で得られた成果は少ない。したがって、前者の成果でアジア海域をどこまで説明できるのかといった研究の着地点の記述が曖昧で分かりにくい。国際会議の開催は評価できるが、成果のハイランク学術誌への投稿発表がないため、本研究の国際的波及効果については疑問が残る。サブテーマ(3)は、本プロジェクトを開始する前に検討しておかねばならないテーマではなかったか。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
E-1 熱帯林の持続的管理の最適化に関する研究 環境省国立環境研究所
(奥田 敏統)
B
(2)
(3)
(1)
(4)
(6)
(5)
 
(研究概要)
 熱帯林を対象とした生物学的調査は80年代に入り多くの進展がみられたが蓄積されたデータが森林の持続的運用管理へ向けてどのように関連づけられるか、具体的かつインパクトのある提言として示されてこなかったために熱帯林の諸機能を考慮に入れた「持続的管理」が実際に行われている例はきわめて少ない。本課題では森林の持っている公益機能が管理形態によってどのように変わりうるのかを解析し、その上で熱帯林が本来持つ機能を最大限引きだすことのできる森林管理のありかたを提示することを目的とする。また天然林を含むランドスケープ全体の管理計画に取り組むための研究を行う。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆熱帯林の保護が世界的な課題となっている中で非常に興味深いテーマである。現地での調査など様々な苦労を伴ったことと思われる。全体として高く評価できるが、サブテーマ(6)の都市部での面接調査の結果はどの程度信頼できるのか、サブテーマ(5)での特定の集材路を対象とした土壌劣化の評価に一般性はあるのか、などの点について明確さが不足している。
◆DNAなどから新しい種間の関係の解明がなされており評価できる。今後は保護と利用・管理の両方の立場から検討が進むことを期待したい。
◆非常に優れたサブテーマ(公表論文数も含む)もある一方、重要でありながら十分でなかったサブテーマもあるように感じた。また、文章に意味の通じない部分があるのではないか。野生動物(種子散布者)の生態調査が今後重要と思われる。
◆各サブテーマともに所期の目標に近いレベルの成果を上げており、全体としても優れた研究であると評価される。ただし、サブテーマ間の有機的な連携を欠き、表題の「熱帯林の持続的管理の最適化」に応えるための総括がなされていないことに問題が残る。公益機能に関する意識調査による評価については、常識的な答えが得られたに過ぎない感があり、また管理戦略へのつながりも不透明であり、妥当な手法とは思われない。相手国において実施可能な最適管理のための手順と方法の提言へ向けた再調整と総括を望みたい。
◆熱帯林の炭素循環に関する基本的なデータを充実させたことが評価できる。ただし、サブテーマ間の連携があまりなく、研究成果もそれぞれが個別的で総合化の努力がなされていないのではないか。
◆個々の研究は優れているが、森林管理の改善へ提案できる成果が少ないのではないか。森林の貯水機能や土砂流出防止機能の研究にもう少し踏み込んでほしい。住民の意識や認識の重要性について示されているものの、次の段階ではその具体的成果と啓蒙手法を示してほしい。
◆サブテーマ(5)は持続的管理との関係が薄いと思われる。またサブテーマ(6)は必要な研究とは思われるが、森林管理手法との整合性は薄かったのではないか。
◆サブテーマ(1)ではSp. Nameの誤記、日本語変換のミス、SOMの定義なしでの使用など、記述が全体に粗雑ではないか。サブテーマ(2)では択伐林の経歴が分からない。Seral communityには色々な程度(climaxへの過程での)があるので、それが分かる記述をしてほしい。熱帯林は林冠がはっきりしないものが多い。卓越層の下の層と10m高の層など、それぞれ葉群で閉ざされているので、はっきり記述してほしい。「触媒効果」はむしろ「食媒効果」とした方が分かりやすいが、独自の発想である。回廊造成と樹種との関係について最も大事なのは陽樹と陰樹を自然植生から見極めることであり、植林後何年位で果実が結実するかという点が動物を誘引する事と関係する。選ばれた4種がどういう理由で選ばれたのか不明である。
◆課題とした「熱帯林の持続的管理の最適化」に対する結論が不明瞭である。サブテーマ(5)、(6)の研究成果公表が他のサブテーマに比べ不活発である。
◆サブテーマ(1)で使われたいくつかの計算式について、これらの式の妥当性を実験的に十分検討する必要があるのではないか。サブテーマ(5)の内容は「研究」というカテゴリーに入るのか疑問が残る。
◆サブテーマ(6)については、欧米や日本の手法をマレーシアに持ち込んでいるがアンケート内容など現地で適切な方法なのか疑問が残る。
◆学際分野なので、(林学以外の)門外漢にも理解し易いような報告書とすべく、用語の解説等に留意すべき。報告書概要の「序」が難解であり、問題点と目的の関係が不明確のため、研究課題としての問題点の設定が明確になっていない。課題全体とサブテーマの関係が分かりにくい。
◆サブテーマ(1):炭素蓄積機能について研究者らの注意はフラックスの算出に集中しているが、ストックの長期に亘る変動要因に着目する必要がある。サブテーマ(2):色々な研究手法による成果の集合(集積)体であるが、熱帯林研究としては成果の総合化、相対としてのアプローチが必要と考えられる。サブテーマ(3):林分構造を持続的に維持するとされてきた択伐ですら生物的な影響が長期に亘って残ることを検出した。サブテーマ(4):緑の回廊造成は絵に描いた餅で終わった。サブテーマ(5):研究目的の大課題と整合的とは思えない。サブテーマ(6):森林の公益的機能の社会経済的調査に終わっているが、森林の経営に参画する人々(地域住民)のモティベーションにせまる人類学的なアプローチが必要ではないか。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
F-1 地理的スケールにおける生物多様性の動態と保全に関する研究 環境省国立環境研究所
(椿 宣高)
B
(4)
(1)
(3)
(1)
(2)
 
(研究概要)
 野生生物生息地の破壊は生息地の「縮小」と「分断化」をもたらす。これらが生物多様性の減少にどのような影響をもたらすかを解明することをこの課題の目標とする。現存の植生地図、衛星データ、航空写真などを用いて、野生生物の生態学的プロセスの解析に利用できる詳細な植生地図を作成する。また、過去の植生図、航空写真などから植生図を作成してGISを構築し、植生の歴史的変化を分析し、生物多様性の変遷過程を再構築する。集水域を対象としてバイオトープ間の相互作用の解明を行う。特に、集水域の土地利用形態が流域の生物多様性に及ぼす影響を明らかにする。生息域スケールの異なる野生生物種を植物、昆虫から大型哺乳類まで選定し、地理的スケールにおける分布様式、個体群動態、遺伝的多様性の研究を行う。とくに、土地利用形態や植生の変化が個体群動態に及ぼす影響に着目し、メタ個体群構造が種の存続に果たす役割を評価する。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆ビオトープと生物分布のGISデジタル化は、生物多様性保全に対して有効な手段となりうる。個々の研究成果を連携させて特定の流域で検証してほしい。遺伝子マーカーを活用した遺伝子多様性研究の今後の発展を期待したい。
◆GISデータベース化と遺伝マーカーを用いることによって生態的研究調査が飛躍的に定量的になりつつあり、今後とも推進すべき研究と考えられる。
◆実施されたフィールド調査はどれも興味深い。ただし、サブテーマ(2)で糞虫と吸血性のアブを3年間調査しているが、なぜ糞虫とアブを選んだのか理由を明確にすべきではないか。また全体を通してこの研究成果が具体的にはどんなケースに活かされるのかが例示されていればよりよかったと考えられる。また、考察の部分にある「行政調査及び環境アセスメントによって蓄積されてきた情報の公開の統合が一層望まれる」という部分は重要な指摘と考えられる。
◆評価はサブテーマ間でばらつきがあるが、全体として重要な基礎的データを多く出していて、まとまりがよい。
◆ビオトープとバイオトープがサブサブテーマで異なっている。統一すべきであった。サブテーマ(1)②では古い時代の統計等を参考にして生態系の変遷を明らかにし、魚類のhabitatの変化から魚類相の変化をまとめ、生態系の分断による影響をまとめており、総合的な研究の一端を出してくれた。サブテーマ(2)の要旨にあるPositiveな面とNegativeな面について、外来雑草の侵入による影響が成果の中でははっきり述べられていない。外来雑種の侵入が、そこに生息する動物の多様性を高めることになるのか、低めることになるのかは時間が経過しなければ一概には言えないであろう。サブテーマ(3)①イトヨ、マルハナバチ、ウスバシロチョウがどういう理由で選択されたのか分からない。また、②についても何故鳥なのか説明がない。これまでの研究の積み重ねがあって行われたと思うが、研究の対象として何故このような動物を選んだかは重要な視点であり、明確に示すべき。
◆本課題で用いている「地理的スケール」の意味が理解できない。空間の階層的システムの概念を踏まえ、概念規定を明確にした上で適切な用語を使って頂きたい。バイオトープについても同様。サブテーマは寄せ集め的な感があり、扱う対象とスケール、内容がバラバラと思われる。全体を総括するためのポリシーと統一的な尺度体系の導入を図り、全体計画を大幅に見直してもらいたい。
◆今後の研究の継続が期待される。成果の発表が相対的に少ないのではないか。
◆終了報告であるが、その成果は公表論文として発表されたときから価値が定まるが、この研究では玉石が混合しているような感がある。玉の部分は今後に活かすべきものと考えられる。逆に、サブテーマ(1)で扱われた地理的スケールにおける生物多様性の課題とサブテーマ(3)の一部、サブテーマ(4)で扱われたメタ個体群の構造解析とは整合性の点で無理が大きい。課題そのものはいずれも現代的であり、生物多様性国家戦略に則ったものであるので、研究班を再編して、今後とも研究を継続されることを希望する。
◆環境汚染の指標として生物多様性に着目することは理解できるが、生物多様性の減少が人間社会にどのような害を及ぼすかを検討する必要がある。生物多様性の評価は形態分類学的指標だけでは不十分であり、遺伝学的多様性をも用いるべきではないか。
◆サブテーマ(1)②については、魚類についての更にintensiveな調査が必要と思われる。サブテーマ(2)については、外来雑草調査の方法(自動車利用)で精度が保証されるのか疑問が残る。
◆課題とした「地理的スケールにおける生物的多様性の動態と保全」に対する結論が不明瞭である。サブテーマ(4)及びサブテーマ(1)①以外の研究成果公表が不活発。
◆それぞれのサブテーマで異なる分類群が研究対象として取り上げられているが、それらの生物多様性にとっての指標性についてまず論じる必要があるのではないかと思われる。既存の生物分布データを用いてデータベースを構築したり分析を行う場合には、その一次データの信頼性を吟味し、有効な利用の範囲や制約を明らかにする必要があるのではないか。
◆地域的スケールにおける生物多様性の動態と保全という課題名が難解で何を指向するのか分からない。地理的スケールを変えて大尺度、小尺度とそれぞれの尺度にみあった生物集団をとりあげて、その動態と保全を目指すというのであれば生物集団の地理的スケールに着目しなければならないのに、単に地域の大小をとりあげ、その中の生物群集を研究者の好みによってとりあげただけに見えてしまう。大きな国費を費やしたことに比べると、これというべき成果に乏しいのではないか。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
H-4 アジア地域における環境安全保障の評価手法の開発と適用に関する研究 環境省国立環境研究所
(原沢 英夫)
C
(3)
(4)
 
 
(1)
(5)
 
(研究概要)
 アジア地域においては,急速な人口増加や経済成長のために環境が破壊されたり劣化しつつあり,生活の基盤が脅かされるばかりでなく,農業を圧迫しており,人口増加と相まって食糧危機が懸念されている。一方,農村からの人口流入による都市のスラム化などは経済発展の障害となるとともに,都市のエネルギー使用が増大するにつれ大気汚染などの被害も深刻なものとなっている。温暖化やエルニーニョなどの異常気象はさらに状況を悪化させることが懸念されている。
 本研究は,アジア地域において,持続可能な発展の基盤となる人口,食糧,水,環境の現状や相互関連性を把握した上で指標やモデルによる定量化を行う。これらを用いて2050年までの将来予測を行い,人口の爆発的増加,急速な経済成長がもたらす食糧不足・水不足・環境悪化の可能性及びそれらを回避するための方策について環境安全保障の視点から評価する手法を開発し,具体的な対応策について検討することを目標とする。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆よく調査されていて、学問としての価値は大変高いと評価できる。ただし、内容については、あまり新しさが感じられない。
◆サブテーマは比較的良くまとまっていると思う。しかしサブテーマ(1)、(5)などは学識的な問題提起と結論になってしまっているのではないか。発展途上にあるアジア地域が先進国と同じ発展パターンを目指せば環境安全保障は大きく損なわれるが、それを回避するための考察や提案がもっとあってよかったのではないかと思われる。これからどうする、という視点が全体に弱いように思われる。
◆温暖化の進行にともなう降雨の変化、流出の変化や経済成長にともなう大気汚染物質の排出の変化などの予測プロセスには他の研究で培われた手法や評価モデルが用いられ、それなりの成果をあげているが、肝要と思われる環境安全保障のタイプ2の論点の深まりを伴っておらず、単に地球環境変化の社会経済的インパクトの研究にとどまっている。しかし、サブテーマ(3)、(4)の分担研究が部分的にせよ成果をあげている点は評価できる。
◆アジア地域の環境安全保障上、サブテーマ(2)と(3)が極めて重要である。ところが、サブテーマ(2)で、食料安全保障へ向けての明確な結論が得られていない。しかも、サブテーマ(2)にとってサブテーマ(3)との関連性が、特に稲作社会として重要であるにもかかわらず、サブテーマ(3)の優れた成果が、サブテーマ(2)に十分活かされていない。サブテーマ(1)については、都市化に伴うシステムの発生が、農村からの人口移動によるところが多いが、これに対する対策について触れられていない。
◆環境安全保障の程度を見積もる手法について、統一的かつまとまった提言が見受けられないのが残念である。サブテーマ(1)では特に報告書で収集したミクロデータ(これが重要な研究成果だと思われるが)をどのように加工し、かつ利用可能なデータベースとしているのか。他の研究への利用可能性についても言及すべきではないか。
◆追試性のある評価手法が開発されてない。サブテーマ(2)の成果として「データが得られた」とあるが、定性的、記述的分析にとどまっているのではないか。環境安全保障といった場合、日本にとってどのような意味があるかという視点が欠けていると思われる。

地球環境研究総合推進費 事後評価 評価結果
実施期間
課  題
課題代表者
(H13時点)
総合評価
(A~E)
研究成果の 科学的価値
研究成果の社会・経済・行政的価値
研究成果の波及効果及び発展性
研究代表者のマネジメント
課題全体とサブテーマの整合性
高く評価できる
サブテーマ番号
低い評価となる
サブテーマ番号
※ア~ウの区分については総括表を参照のこと
1
2
3
1
2
3
H11一般
(11~13)
*事後評価*
H-5 地球環境リスク管理にかかるコミュニケーションと対策決定過程に関する研究 環境省国立環境研究所
(松本 幸雄)
C
(2)
(2)
 
(1)
 
 
(研究概要)
 国家安全保障の一環としての環境安全保障を達成する必要性の認識が広まりつつあるが、気候変動問題に見るように、その戦略の確立が急務であり、また、気候変動現象の不確実性と国家利害の対立のもとで、国際交渉の帰趨への展望が求められる。一方、アジアにおける経済発展による酸性雨問題の深刻化が憂慮されるが、国際的な協力により対策を講じるために、問題の推移の政治的、社会的、経済的な要因の構造を分析することが重要である。そうして、このような課題が科学的不確実性のもとでの決定となることが、本質的に問題の取り扱いを困難にしている。
 そこで、気候変動問題に関しては、環境安全保障概念に基づきわが国の取るべき立場を検討し交渉方針への提言へ道を開こうとする。さらに、気候変動現象の科学的知見の不確実性のもとでの合意形成、自治体あるいは地域社会での対応の論理と行動様式におけるコミュニケーションのあり方を、リスク管理パターン概念にもとづく分類や行動論理の社会史的方法により示そうとする。
 一方、アジアの酸性雨問題の推移について、中央政府などの各セクターの行動の経緯を調査し、また、国際的なコミュニケーションの推移を明らかにし、それらが酸性雨の影響と対策の進展に影響する形態の理論を構成し、問題の社会経済的な構造を明らかにする。これによって、東アジアにおける酸性雨対策のための有効な枠組みを与える。
 さらに、この二つの地球環境問題の比較対照から地球環境問題を構造づけ、国際交渉と対策形成とのあり方を示唆する。
(評価コメント)
※①多様な評価コメントの中に、被評価者による今後の研究にとって有益な情報が含まれているであろうこと、②今後研究成果を科学や社会へ積極的に還元していく上で、研究に対する外からの見方や受け止め方の多様性を、被評価者に理解していただくことが有用であろうことを勘案し、右の評価ランクの結果と整合的でないコメントが含まれる場合もあることを承知の上で、各評価者からの多様なコメントを可能な範囲で列挙した。研究課題代表者は、評価ランクを評価者全体の評価結果として捉えた上で、全ての評価コメントの反映を目指すのではなく、各コメントの中で、今後活かすべき重要な指摘や示唆が何かを吟味・判断の上、今後の研究計画の見直し等に活用して欲しい。
◆大きな問題だが、身近なところに視点を当てているため論に一貫性があり、具体的で分かりやすい。また、テーマも気候変動と酸性雨の2点に絞ってあり一般にも分かりやすいものとなっている。
◆全体のテーマと研究内容が統一されていないように思われる。環境安全保障概念の説明と基礎自治体の環境問題への取り組み事例、さらに再生可能エネルギーの研究がどのように結び付くのかあいまいである。中国の酸性雨の調査・研究はそれなりにまとまっていると思われるが、全体のテーマ中の位置付けは弱いのではないか。環境安全保障概念の部分に的を絞った研究を期待したい。
◆リスク・コミュニケーションという概念を、研究者全体がよく理解しているのか疑問が残る。ほとんどリスク・コミュニケーションに触れていないか、又はそれとの関連性が論じられていない研究成果が多い。しかも、研究が課題全体として総括されていないと思われる。
◆リスク分析が重要なのは、事実としてのその客観的、科学的表現や分析というものが難しい反面、それを認識し評価することは主観的であるためだが、本研究では、このどちらを明かにしようとしているのかはっきりしない。いずれも定性的な分析に終始しており内容に乏しい感がある。
◆研究テーマの性格上、抽象的な議論になるのはやむを得ないと思われるが、それだけに材料となる事実の把握をしっかりと網羅的に行う必要があり、そうした努力を丹念に行うべきであったと思われる。
◆社会学的アプローチが、地球環境をとらえることができずに、従来のコンセプトとアンケート調査の結果の個別解釈に陥ってしまったという、典型的な例となっている。地方自治体のローカル・アジェンダや新エネ導入の調査は専門外の人間が現象を表面的に見ているだけにとどまり、地球のリスク管理やコミュニケーションの切り口がほとんど示されておらず、単なる国内調査に終わっている。ただし、中国の酸性雨をリスク・コミュニケーションの面からとらえている研究については、実証的であったと評価できる。