環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第2節 環境を活用した被災地の地域づくり

第2節 環境を活用した被災地の地域づくり

 東日本大震災によって被災した地域では、復興に取り組む中で、環境対策を基礎として、超高齢化や経済・社会の活性化など様々な課題を統合的に克服し、住民の方々が夢を持てる新たなまちづくりが進められています。また、地域発で、環境対策を基礎としつつ、地域ならではの特色や特徴を生かして、復興に向けた取組を進める事例も見られます。本節ではそのような取組を紹介していきます。

1 持続可能な地域づくりの実践

(1)被災地における「環境未来都市」構想の推進

 政府では、21世紀の人類共通の課題である環境や超高齢化対応を始めとした持続可能な社会を構築するため、技術、社会経済システム、サービス、ビジネスモデル、まちづくり等の分野において、世界に類のない成功事例を創出することを目標として、「環境未来都市」を全国で11都市選定しています。この構想は、平成25年6月に閣議決定された日本再興戦略における国家戦略プロジェクトの一つとしても位置付けられ、人類共通の課題に挑戦し、世界に先駆けて解決モデルを提示することを目指しています。

 環境未来都市構想は「東日本大震災からの復興の基本方針」に基づき、復興にも貢献するものであるとの考え方から、被災地である岩手県、宮城県、福島県から6都市・地域が選定されました(図2-2-1)。これらの被災地は復旧・復興とともに、環境未来都市というまちづくりにも並行して取り組んでいます。丁寧な合意形成を図りつつ、計画を推し進めるこれら6都市の復興プロセスは、「自立的な地域構造の構築」という我が国の他の地方都市の課題にも共通する面もあり、被災地に限らず広くノウハウを共有することが期待されます。

 各都市では、環境未来都市に向けた取組におけるノウハウや経験を一つのパッケージとして国内外に普及・展開することも視野に入れつつ、様々な取組がなされています。これらの取組によってノウハウや経験が国内外の地域づくりに生かされていく一方、各都市にも需要拡大や雇用創出等の副次的効果をもたらし、ひいては我が国全体の持続可能な経済社会の発展の足掛かりとなることも期待されています。

図2-2-1 環境未来都市

(2)被災地における再生可能エネルギーの導入の推進

 東北地方を中心とした東日本大震災による被災地の復興に向けた一つの取組として、再生可能エネルギーの活用に大きな注目が集まっています。国では、再生可能エネルギー等導入推進基金事業(通称:グリーンニューディール基金)等の施策を通じて、再生可能エネルギーや未利用エネルギーを活用した自立・分散型エネルギーの導入による地域づくり等を支援しており、平成26年度までに東北地方において463件の再生可能エネルギー設備が導入されてきました。

 被災地の中でも、福島県は地震及び津波による被害のみならず、それらに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故による災害により大量の放射性物質が環境中に放出された結果、深刻かつ多大な被害を受けました。福島県の再生可能エネルギーの導入の推進については、福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)に基づいて平成24年7月に閣議決定された「福島復興再生基本方針」において「福島の復興及び再生の基本理念・基本姿勢」の一部として位置付けられています。また福島県としても、「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン(平成24年3月改訂)」において、2040年(平成52年)頃を目途に福島県のエネルギー需要の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーで生み出すことを目標に掲げており、国としてもこうした取組を後押ししています。

 国による福島県内を対象にした再生可能エネルギーの導入を促進する取組として、「福島県市民交流型再生可能エネルギー導入促進事業」が挙げられます。この事業では、再生可能エネルギー発電設備と併せて、市民が再生可能エネルギー発電を体験できる設備や見学スペース、学習用展示パネル等を導入する事業を補助することにより、福島県の復興促進、再生可能エネルギー先駆けの地の実現を図ることを目的としており、平成26年度には県内14か所が選定されました。

 これに加えて、福島県の中でも原子力災害の被災地である「避難解除区域」等に対象を絞った「再生可能エネルギー発電設備等導入促進復興支援補助金(半農半エネモデル等推進事業)」事業も行っています。この事業では、事業の実施によってもたらされる発電事業の収益の一部を活用して住民の帰還やふるさとの再建に資する事業を実施することを目的としており、20か所において事業が実施されています(表2-2-1)。

表2-2-1 再生可能エネルギー発電設備等導入促進復興支援補助金の交付決定先(一部抜粋)

 同補助金の活用事例として、平成26年6月に「いいたてまでいな復興計画(第4版)」を取りまとめた飯舘村は、村内の深谷地区に1,990kWの太陽光発電設備を設置し、その売電収入の一部を活用して、道の駅「までい館」の運営等に用いる構想としています。この施設は全村避難中の村の復興拠点エリアの核として、一時帰村などで村に立ち寄る村民の休憩施設として活用されることが期待されています。

 さらに国は、平成27年1月9日に、[1]福島県内にある東京電力の送変電設備の活用、[2]再生可能エネルギー発電設備の導入支援、[3]避難解除区域等における優先的な接続枠の確保を内容とする福島に対する特別な対応を発表し、今後も福島における再生可能エネルギー発電事業の推進を図っていくこととしています。

(3)工業団地が中心となった地域エネルギー融通がもたらす省エネ効果と安心への備え

 工場由来の廃熱を再利用した温水暖房や徹底的に無駄を削減する自動車製造のノウハウを生かして作られるパプリカ――。パプリカは、その約90%(平成24年度)を輸入に依存しています。そうした中、宮城県黒川郡大衡(おおひら)村の第二仙台北部中核工業団地に位置する株式会社ベジ・ドリーム栗原の第3工場では、夏季に比較的冷涼な地域の気候を生かし、国産のパプリカを生産しています(写真2-2-1)。パプリカ生産を一例とするこのエネルギー融通の取組が「F(ファクトリー)-グリッド」と呼ばれ、新たな地域づくりの事例として注目を集めています(図2-2-2)。

写真2-2-1 F-グリッドから供給される温水により生産されるパプリカ

図2-2-2 F-グリッド概観

 一連の取組は、トヨタ自動車株式会社の「東北復興プロジェクト」を契機に始まりました。大衡村と同工業団地は、連携して安全で安心なまちづくりを目指し、地域が一体となって防災や環境等の計画を推進して、コミュニティのスマート化を図る構想を掲げています。同工業団地には、団地内の需要家に電力と熱などのエネルギーを融通するガスコジェネレーションシステム(熱電併給自家発電)が設置されており、進出企業11社で組織されたF-グリッド宮城・大衡有限責任事業組合が運営を担っています。同組合は、地域エネルギー管理システム(Community Energy Management System、以下「CEMS」という。)を介し、団地内の各社工場や事業所などを情報ネットワークで接続し、エネルギー需要量と供給量を即時に把握することができるため、コジェネレーションシステムの最適運転を行うことが可能となり、エネルギー利用効率を最大74%にまで高めることができます。

 ベジ・ドリーム第3工場では、コジェネレーションシステム由来の高温水を受け入れ、主に冬季や夜間の暖房として活用しており、同社の他の工場と比べて、栽培面積当たりの燃料用LPガス使用量を約4割削減できました。他にも、養液の殺菌・再循環システムのほか、自動車製造で培ったノウハウ(選果や箱詰めの工数削減、安全管理など)で作業効率化を図っており、同工場は年産315トン(国内生産量の約8%)の生産規模を誇ります。トヨタグループでは、これを農商工連携のモデルとし、被災地の第一次産業を支援する試みとして位置付けているほか、工業団地が中心となったCEMSの取組における知見を蓄積し、今後は同社が国内外で展開する他の工業団地を対象として、これらのノウハウを展開していくことを視野に入れています。

 一方、大衡村はこの連携によって工場の誘致による雇用・定住人口の増加、経済波及効果のみならず、自立・分散型電源であるF-グリッドの特徴を生かし、非常用の電源として災害発生時に村役場庁舎に電気の供給を受け、業務継続を行うことが可能となっており、これはBCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)の一環となっています。平成25年10月に大衡村が行った村民アンケートでも、F-グリッドによる非常時の地域エネルギーのバックアップに関して、約6割が「非常時でも役場の業務が継続できるので、村民として安心である」と回答しています。今後は、定住人口の増加に伴う新規宅地分譲に当たり、村独自のCEMSを展開する構想を掲げており、電力使用量やCO2排出量、再生可能エネルギーによる発電量などの情報を見える化し、村民の環境意識の向上と省エネ行動の促進にもつなげていくことにしています。

(4)東北と歩む、みちのく潮風トレイル

 国では、東日本大震災で大きな被害を受けた東北地方太平洋沿岸地域の復興に資するため、三陸復興国立公園を核として東北の豊かな自然を活用したグリーン復興のプロジェクトに取り組んでいます。平成27年3月31日には、南三陸金華山国定公園を三陸復興国立公園に編入しエリアを拡大しました。

 プロジェクトの一つであるみちのく潮風トレイルは、国立公園を中心とする地域の魅力的な自然を活用し、青森県八戸市から福島県相馬市までの約700kmをつなぐ自然歩道を設定する取組です。平成25年11月に青森県八戸市から岩手県久慈市までの区間が、平成26年10月には、新たに福島県新地町から相馬市の区間が開通し、全線のうち約150kmが開通しました(図2-2-3)。歩くスピードによる新しい東北の自然の楽しみ方を提案することで、滞在型の観光や地域の人と訪れる人の交流を生み、地域の復興や活性化につながるものと考えています。

図2-2-3 トレイル開通状況

 国では、路線の検討から地域の方々と一緒に取り組んでいます。例えば、八戸市から久慈市までの約100kmの路線では、地域のお店や施設への立ち寄りやすさも考えてルートを設定するほか、地域のお店に「立ち寄り地点」を設け、歩いた区間に応じて証明書と記念品を贈呈する取組も実施しています(写真2-2-2)。平成26年7月から27年3月までに延べ約1,022人の利用があり、地域では、利用者への挨拶や地域の魅力の解説、トイレの貸し出し、利用者向けの割引サービスなど、自主的な取組が広がっています。また八戸市の宿泊者数の推移を見ると、三陸復興国立公園の指定などとの相乗効果もあり、平成24年度の約49万人から平成25年度は約51万人に増加しています。また、利用者アンケートにおいても、東北沿岸の豊かな自然や地域の温かいおもてなしが評価されており、プロジェクトの目指す地域の人と利用者の交流が生まれてきています。

写真2-2-2 踏破認定の記念品

 引き続き、各地域で地元関係者との路線の検討を進め、早期の全線開通を目指すとともに、地域の自立的な取組へ進展させることで、復興後も地域の活性化が継続するよう、取り組んでいきます。

東北地方太平洋沿岸地域自然環境調査「重要自然マップ」の作成

 平成23年に起きた東日本大震災とこれに伴う津波は、沿岸地域の自然環境にも大きな影響を与えました。国では、その影響を把握するために太平洋側の津波浸水域において調査を実施し、平成26年には、岩手県から福島県北部までの津波浸水域における自然環境保全上重要な自然を見える化した「重要自然マップ」とこれを解説する冊子を作成しました。

 この冊子は、被災地域の復興事業において配慮すべき自然環境の情報として、事業者等の事業の参考となるものです。また冊子の情報により、地域の方々が地域の魅力である「重要な自然」への理解をより一層深め、自然を守り育てていく意識の醸成を通して、自然資源を活用した地域振興の一助となることが期待されます。今回作成した重要自然マップについては、三陸北部、三陸南部、仙台湾沿岸の3枚のマップとそれぞれの解説も含めて、下記のウェブサイトからダウンロードできます。

 「しおかぜ自然環境ログ」http://www.shiokaze.biodic.go.jp/25sokuhou.html(別ウィンドウ)

重要自然マップの重点エリアの例

海の人が山を、山の人が海を考える町

 宮城県南三陸町は町の東側が太平洋の志津川湾に面した人口約1万5千人(平成25年3月時点)の町で、残る三方を標高300~500mの山に囲まれ、海山が一体となって豊かな自然環境を形成しています。沿岸部はリアス海岸特有の優美な景観を有し、平成27年3月にはその一部が三陸復興国立公園に編入されました。町境と分水嶺がほぼ一致しており、山から流れる八つの河川は里を経由して志津川湾に注ぎ、湾内は古くからノリ、カキ、ワカメ、ホヤ等の養殖の漁場となってきました。町の人々は、この森(山)・里・川・海のつながりが生みだす恵みの重要性を認識しながら、日々の暮らしや林業、漁業等の第一次産業を営んできました。こうしたことから、南三陸町は「海の人が山を、山の人が海を考える町」とも呼ばれています。南三陸町は、東日本大震災からの復興計画において「自然と共生するまちづくり」を基本理念の一つとして掲げ、「自然環境の保全」や「エコタウンへの挑戦」を目指しています。森(山)・里・川・海のつながりが生みだす恵みを地域資源として持続的に活用していくため、林業と漁業の国際認証取得に向けた取組が民間主導で始められています。

 南三陸町の特産品の一つに「南三陸杉」が挙げられます。南三陸杉は強度が高く、美しい薄ピンク色が特徴です。南三陸杉の利用拡大を積極的に図る活動は、平成23年の全国林業グループコンクールで農林水産大臣賞を受賞しています。生産者の顔が見えるものづくり、町内での製品生産・流通の基盤整備、山林の魅力を伝える物語の発信と観光教育産業づくり等を通じて南三陸杉のブランド力を強化することで、震災からの復興や地域振興への貢献を目指しています。そのブランド化の取組の一つとして、森林管理の国際認証であるFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)認証の取得を目指しています。また、南三陸町では、森林管理の認証と併せて、認証材を製品にするまでの流通・加工・製造に関する認証の取得も目指しています。これにより、南三陸杉の製品としての付加価値を高めるとともに、町内の関連産業の活性化にもつながることが期待されます。この取組を、民間2者及び町と共に中心的に進めている株式会社佐久(さきゅう)は、「まずは民間主導によりFSC認証の管理をシステム化し、その後、町内の他の森林所有者にこの動きを広めたい」「将来的には、国際的な基準による林業経営の普及と、FSC認証の継続に必要となる第三者機関の審査を定期的に受けることを通じて、南三陸町の林業を持続可能な形で継続していきたい」としています。

南三陸町の林業地

 一方、南三陸町では、持続可能な漁業の実現に向けた取組にも着手しています。震災以前のカキ養殖では、密度が高過ぎることによる栄養不足が生じ、稚貝の成長が遅くなることが課題となっていました。震災を受け、研究者によるカキの養殖密度についての調査結果を参考にして、カキ筏(いかだ)の面積を震災前の1/3に減らしました。その結果、震災前は養殖の開始から出荷までに2~3年かかっていましたが、1年で出荷できるようになり、カキの身が大きくなるなど品質も向上しました。南三陸町の漁業組合は、「自然の持つ力を賢く使うことで、持続的で良質な恵みを受けられることを実感した。持続可能な養殖環境を子孫に残すためには、環境に配慮した漁業を行っていくことが重要」として、環境に配慮した養殖漁業の国際認証であるASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)認証の取得も目指しています。

南三陸町の漁港

 世界を見渡しても、一つの町でFSC認証とASC認証の二つを取得している例はまだありません。上記の構想が実現すれば、山から海までが連環する南三陸町ならではの特色ある取組として、世界に向けた「南三陸」ブランドの発信力の向上に資することが期待されます。

南三陸杉のブランド力向上に向けた取組の3本柱

2 復興に向けた地域発の取組

(1)福島県川内村――植物工場が挑む安心・安全な野菜作りと地場産業の確立

 川内高原農産物栽培工場は、株式会社KiMiDoRiが施設の管理・運営を行う日本最大級の規模の人工光型植物工場です。完全に密閉された空間で、川内村が誇る豊富な地下水を活用した水耕栽培を行うことで、粉じんの付着や土壌からの移行による放射能汚染リスクを回避し、病害虫や菌の侵入も防ぎながら、リーフレタスやバジル、イタリアンパセリなどの様々な野菜の生産に取り組んでいます(写真2-2-3)。平成26年度上半期で、操業を開始した前年1年間と同等の売上高を記録するなど運営が着実に根付き始めたところです。同社の設立に当たって、川内村はこの取組を原発事故によって甚大な影響を受けた村の農業再生の核と位置付け、産地形成や地域雇用の拡大を目指して、株式会社まつのと共同出資を行い、事業全体のコーディネートなど支援を行ってきました。

写真2-2-3 赤と青のLED照明の下で栽培されるリーフレタス

 同社の取組は、環境への配慮という点でも特徴があります。日本全国には現在、383か所(平成26年3月末)の植物工場があり、平成25年11月の調査報告によると人工光型植物工場の光源別割合では蛍光灯が半数強を占めるという結果があります。一方、同工場は光源としてLEDを採用し、蛍光灯の場合と比べて、室温調整のための空調を含めた電気代を6割程度に抑えられたとの結果を得ています。また、閉鎖環境下における水耕栽培に伴う副次的効果として、無農薬で栽培ができるほか、一般的な露地栽培に比べると肥料投入量の制御が可能である点、収穫物についても、通常行われる外側の葉を剥がして捨てるなどの作業を要しないため、廃棄物がほぼ発生しない点も挙げられます。

 同社は今後の課題として約5割にとどまっている工場の稼働率アップを挙げています。そのためには工場における働き手の確保と並行して、天候要因の影響を受けない安定した生産・流通体制の確保や風評被害克服のため安心・安全で無農薬の栽培方法についても付加価値としてアピールするほか、数種類の野菜をミックスした新商品の開発に当たるなどして、更なる販売先の獲得を目指しています。また、同社は本業の傍らイチゴの周年生産に向けた研究も行っています。イチゴの生産は高収入が期待できるほか、加工品販売や観光農園経営への発展させられる可能性があることから、川内村は野菜工場と並んで、村の近未来の農産業として期待を寄せています。同社は村と協力し、同工場をパイロットファームとして、希望者向けの勉強会の開催も行っており、村への浸透を図りながら、若年人口の就農を喚起することで、住民の帰村及び村の復興に役立てたいと考えています。

(2)岩手県久慈市――被災地の「今」を列車で移動しながら「見る」「聞く」「感じる」

 平成26年4月6日に全線で再開通を果たした三陸鉄道株式会社によって運行されている「震災学習列車」が注目を浴びています。これは、「三陸復興国立公園の創設を核としたグリーン復興」に向けた企業による取組の一つで、三陸鉄道の北リアス線(久慈駅~田野畑(たのはた)駅間、平成24年6月から)及び南リアス線(釜石駅~盛(さかり)駅間、平成25年4月から)それぞれにおいてプログラムが用意され、所要約1時間で体験できるスタディツーリズムとなっています。

 震災学習列車は、修学旅行や企業・団体の研修等の様々な年齢層の教育旅行のニーズに対応し、三陸鉄道に実際に乗車して列車で移動しながら、震災・防災について学ぶことを目的としています。プログラムでは、三陸鉄道社員又は沿線住民が実際に同乗して車内で震災による被害の状況などを案内するほか、壊れた防潮堤が見える場所に列車を停車させて、乗客全員で黙とうを行うなどしています(写真2-2-4)。

写真2-2-4 震災学習列車で黙とうする学生達

 全国的に防災・減災意識の高まる中、同社の「皆さまの防災のお役にたてれば」、「遠慮せずに岩手三陸海岸へお越し下さい」というPRの効果もあって、旅行会社やメディアからの注目度も次第に高まってきています。同社の見通しによれば、平成26年度は前年度の約1.7倍となる274団体11,229人を受け入れる見込みとなっているほか、利用した団体のうち7割強を占める県外団体の割合(平成26年度)は、今後も首都圏などからの利用により、更にその割合が増加する見込みです。同社には過去に利用した乗客の方から多くの御礼と激励の手紙が届いており、「自分の命は自分で守り、自分たちの地域は自分たちで守るという教えを指す『津波てんでんこ』が印象的であった」、「災害が起こる前に家族で話し合い、防災意識を高めておくことの重要性を学んだ」といった感想が寄せられています。

 同社によると、復旧・復興の進展とともに「被災地の視察」という意味での利用者数は減っていくであろうと想定しており、今後は企業・団体向けにオーダーメイドで視察の内容を決定する「三陸被災地フロントライン研修」を更に深化させながら、三陸地域に備わるジオパークやみちのく潮風ロングトレイルといった観光資源の魅力と連携した企画を立案・実行していくとしています。

(3)宮城県東松島市――震災廃棄物処理が起点となった価値の創造

 東日本大震災における被災市町村の中で最大となる、市街地の約65%という規模の浸水被害を受けた東松島市は、同時に同市の一般廃棄物量の300年分以上に相当する約325.9万トンもの災害廃棄物を抱えることになりました。しかし、この甚大な浸水被害の中、大量の災害廃棄物処理に当たることになったにもかかわらず、同市は廃棄物対策の方針を速やかに打ち出すとともに、最終的に99.2%という驚異的なリサイクル率を達成して災害廃棄物の処理を終えました。

 この東松島市の迅速な判断と高いリサイクル率の背景には、平成15年7月に発生した宮城県北部連続地震があります。この震災の際、大量の災害廃棄物を分別収集せず仮置き場に搬入してしまったため、最終処分までに多くの時間と費用を要してしまいました。このことを踏まえ、災害・緊急時に備え可搬型建設機械を活用した分別処理を可能とする体制を敷き、更に市建設業協会との間で災害協定をあらかじめ締結していたことも奏功しました。

 東松島市はこの周到な体制と備えに基づき、東日本大震災発生後の撤去・収集段階では災害廃棄物を14品目に分別し、さらに仮置場では手作業により19品目への分別を実施しました(写真2-2-5)。分別されたもののうち、木材は助燃材や土木資材として、またアスファルトやコンクリートガラは破砕して再生採石として、津波堆積物は土質改良の上で再生土として活用した結果、一部を除いて災害廃棄物を他地域へ搬出することなく、ほぼ全て市内で処理・再利用することができました。その結果、最終処分すべき量が減り、環境負荷の低減につなげることができました。

写真2-2-5 手作業で進められた震災廃棄物の分別作業

 上述の取組により、専用の処理施設を設置せずに済んだことから、市の試算によれば災害廃棄物1トン当たりの処理単価を宮城県平均の約半分にまで削減できました。さらに、分別した鉄類・アルミ等の金属は売却することで3.6億円の収入を生み、事業費の一部に活用することもできました。また、災害廃棄物処理事業全体で、約1,500人を手選別作業員等として雇用しました。東松島市は、漁業、農業等の関連事業の従事者が多く、津波被害により生業を失った方々が災害廃棄物処理事業に当たることにより、就労支援、生活支援といった被災者を支える事業ともなりました。

 現在、東松島市は、この経験と成果を国内外問わず広く活用することを図っていきたいとしています。その一つとして、今後の大規模災害への備えとして国内の他の地域への展開を考えているほか、独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力して、資源循環の体制が十分とは言えない開発途上国へのノウハウの共有化を図っています。平成25年2月には、JICA主催による環境未来都市構想推進セミナーの一環として、アジア、中南米、中東の開発途上国20か国以上から、がれき分別処理の現場視察を受け入れたほか、平成26年1月には台風ヨランダの高潮被害を受けたフィリピンのレイテ島、サマール島を訪ね、自治体関係者を対象に東松島方式のリサイクルについて講演も行いました。さらには、平成16年に同じく津波の被害を受けたインドネシアのバンダ・アチェ市との間に相互復興に関する覚書を交わし、同市の職員をOJT研修生として受け入れるなどの取組を行っており、今後も草の根交流を深め、廃棄物の利活用を双方の地域活性化にもつなげていきたいとしています。東松島市の災害廃棄物利活用における知識と経験は、こうしていま国内外で広く活用されようとしています。