環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成25年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第2節 経済社会の変革への動き

第2節 経済社会の変革への動き

 産業革命以降の資本主義経済の発展の中で、多くの国は経済成長を目標に掲げ、金銭的・物質的な「豊かさ」を求めてきました。その陰で、環境問題等をはじめとした人々の生活を脅かすさまざまな問題が起きてきました。そのような状況を受けて、40年ほど前からそれまでの経済社会のあり方に警鐘を鳴らす動きが見られるようになりました。

 近年、国際社会でも持続可能な社会の実現に取り組む「グリーン経済」を築こうとする動きが始まっています。また、自然環境や生活環境の状態を示す指標を検討する動きも広がっています。こうした潮流の根幹には、前節で概観したように経済的な豊かさの追求から、良好な環境や幸福感などを含むより広い意味での豊かさを求める意識の変化があると考えられます。

1 従来の経済社会に対する警鐘

(1)意識されはじめた現代経済社会の限界

 経済成長を一つの豊かさの目標として、戦後の世界経済は発展してきました。一方で、1970年代から、金銭的・物質的豊かさを求める経済社会に対して、あり方を変えるべきではないかと警鐘を鳴らす人々が現れ始めました。背景としては、飛躍的な経済成長を遂げた先進諸国においては、1960年代から1970年代にかけて公害が大きな社会問題となってきたこと、また、それまでは当たり前のように利用してきた地球の資源の有限性がさまざまな研究で明確になり、それらが世界的に意識されるようになったことなどが考えられます。

ア 経済社会の限界に関する問題提起

 1970年(昭和45年)に世界中の有識者が集まって設立されたローマクラブは、1972年(昭和47年)に「成長の限界」と題した研究報告書を発表し、人類の未来について、「このまま人口増加や環境汚染などの傾向が続けば、資源の枯渇や環境の悪化により、100年以内に地球上の成長が限界に達する。」と警告しました。この「成長の限界」では、「地球と資源の有限性」や「その社会経済的影響」を明らかにすると同時に、将来の世界の状況について起こり得る複数のシナリオをまとめています。再生する速度以上のペースで地球上の資源を人間が消費し続けると仮定したシナリオでは、世界経済の崩壊と急激な人口減少が2030年(平成42年)までに発生する可能性があると推定し、当時の世界各国に衝撃を与えました。


成長の限界で予測されたシナリオ

 ローマクラブのメンバーだったメドウズらは、2005年(平成17年)に出版した著書の中で「成長の限界」を振り返り、「豊かな土壌、淡水等の再生可能な資源を酷使しつつ、化石燃料や鉱物等の再生不可能な資源が減少する中で、地球が受容できる以上の排出を続ける限り、現在の経済を維持するために必要なエネルギー等のコストが高くなって、経済を拡大させることが困難になるだろう。」と再び警鐘を鳴らし、社会の持続可能性を高めるよう提言しています。

イ 経済社会と環境問題の未来予測

 ここでは、経済協力開発機構(OECD)の報告書「OECD環境アウトルック2050」を中心に今後の経済社会と環境問題の未来予測について概観します。

 同報告書では、2010年(平成22年)から2050年(平成62年)までに世界人口が約70億人から約90億人以上へと増加し、世界経済の規模が4倍近く拡大することが予測されています。


世界の実質GDP予測

(ア)人口及びエネルギー利用の増加による地球温暖化の進行

 人口増加と経済成長に伴う生活水準の向上により、エネルギー、食糧、天然資源への需要も増加し、それがさらなる環境汚染につながる可能性があります。

 世界がこのまま意欲的な環境対策を行わない場合、世界の一次エネルギー使用量は、新興諸国の化石燃料使用を中心に2010年(平成22年)から2050年(平成62年)までに80%増加する可能性があります。エネルギー関連のCO2排出量が70%増加することが主な原因となり、世界全体の温室効果ガス排出量は50%増加する可能性があると予測されています。


世界のエネルギー需要予測

世界の二酸化炭素排出量予測

 また、地球温暖化に関しては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、各国の政府から推薦された科学者の参加の下、地球温暖化に関する科学的・技術的・社会経済的な評価を行い、現状の分析と今後の予測について、数年おきに評価報告書を公表しています。第4次報告書は2007年(平成19年)に公表され、2014年(平成26年)には第5次報告書が発表される予定です。第4次報告書では、温室効果ガスの排出が、現在以上の速度で続いた場合、21世紀には1.8~4.0度の温度上昇が起き、海面が0.18~0.59m上昇すること、世界の自然・気候システムに多くの変化が引き起こされること、また温室効果ガスの排出量を減らし地球温暖化を緩和するためのマクロ経済的コストは、一般的に気候を安定化させるための目標達成が厳しくなればなるほど増加すること、などが予測されています。

 また国連難民高等弁務官事務所によれば海面上昇に伴い、海抜高度の低い太平洋上の島嶼国など気候変動によって現在の居住地を離れなければならなくなる環境難民が全世界で2億人にのぼる、と予測されています。

 一方、地球温暖化に関する経済学的な分析としては、2006年(平成18年)に英国の経済学者ニコラス・スターンが公表した「気候変動と経済」に関する報告書(スターン・レビュー)があります。この報告書では、気候変動に伴う農業・インフラ・工業生産などに対する経済影響を、世界全体の総GDPベースで算定しています。具体的には、気候変動の被害損失が将来的にはGDPの5~20%になると見積もっています。一方、現時点で気候変動に関する対策を行った場合のコストはGDPの1%程度であり、温暖化対策においては早期に行動することで経済影響が小さくなると結論づけられています。

(イ)森林の減少と生物多様性の損失

 森林は、世界の陸地面積の約3割を占め、陸上の生物種の約8割が生息・生育していると考えられているなど生物多様性の保全を図る上で重要な役割を果たしています。また、水源かん養、洪水緩和、二酸化炭素の吸収による地球温暖化の防止に加え、食料や木材のほか、レクリエーションの場や観光資源を提供するなど我々の生活をより豊かにする機能を持っています。

 しかし、世界全体の森林面積は、農地や宅地の開発に伴う伐採、気候変動、環境汚染などにより減少していく傾向にあります。持続的でない森林管理や気候変動、森林火災等による森林の減少・劣化は、地球温暖化や砂漠化の進行だけでなく、生物多様性の損失も含めた地球規模での環境問題をさらに深刻化させるおそれがあります。TEEB(生態系と生物多様性の経済学)によれば、世界の森林喪失から生じる生物多様性と生態系サービスの便益喪失は、総額で年間2~5兆ドルに上ると推計されています。

 また、OECDによれば、生物多様性の喪失を拡大させる主な原因として、土地利用の変化、気候変動等が挙げられており、世界全体では、2050年(平成62年)の陸上の生物多様性が、2010年(平成22年)比でさらに10%減少すると予測されています。


世界の陸生生物種の数の予測

(ウ)地球規模の天然資源消費

 人口の増加と経済の拡大に伴い、地球規模の資源消費が今後も増え続けると予測されています。国別では、経済発展のレベルや天然資源の埋蔵量等によって違いがありますが、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国を中心に消費が増えていく見込みです。

 国際エネルギー機関(IEA)によれば、2035年(平成47年)の化石燃料の需要は、各国が現在の政策をそのまま続けた場合、2010年(平成22年)比で石炭が59%、石油が23%、天然ガスが60%増加すると予測されています。


世界の化石燃料の需要予測

(エ)都市化に伴う環境負荷の増大

 国連によれば経済成長と社会の発展は都市化を引き起こし、2050年(平成62年)には、世界人口の約70%が都市部に居住すると予測されています。特に、上下水道や廃棄物処理施設など人間の健康や環境を支えるための基盤が整備されていない発展途上国で都市化が拡大すると見込まれています。都市化の結果、大気汚染、交通渋滞、廃棄物管理などの都市部が抱える課題がさらに深刻になると考えられます。


世界の都市化率予測

 大気汚染は、急速な都市化や自動車の普及に伴って拡大し、住民の重大な健康被害や生活環境の悪化の原因となることがあります。

 大気汚染物質の1つである微小粒子状物質(PM2.5)は、肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系への影響に加え、循環器系への影響も懸念されています。このため、環境省では、平成21年9月に環境基準を設定しました。その後、平成22年3月には常時監視の実施方法等を示す事務処理基準などを改正し、平成23年7月にはPM2.5の成分分析のガイドラインを示すとともに、常時監視体制の整備を図ってきたところです。その結果、平成25年3月末現在で、全国600か所以上においてPM2.5のモニタリングが実施されており、環境省では常時監視体制のさらなる整備を地方公共団体に要請しているところです。


PM2.5の測定局

 平成25年1月には、中国の北京市を中心にPM2.5等による大規模な大気汚染が断続的に発生し、我が国においても、西日本で広域的に環境基準を超えるPM2.5濃度が一時的に観測されました。粒子状物質の濃度上昇が離島でも確認されたことやシミュレーションの結果から、大陸からの越境汚染の影響があったものと考えられました。このため、環境省では、平成25年2月に当面の対応を取りまとめるとともに、注意喚起のための暫定的な指針を示しました。また、PM2.5に関する情報サイトを環境省ホームページに開設するなど、情報提供に努めているところです。今後、PM2.5の常時監視体制を強化するとともに、成分分析による発生源寄与割合の把握や科学的知見の集積、排出削減等、国内対策の一層の推進を図ることとしています。また、中国等と連携した取組を通じ、東アジア地域における大気汚染防止対策を積極的に推進していくこととしています。平成25年5月に開催された日中韓3カ国環境大臣会合でも、新たに三カ国による政策対話を設置することに合意しました。

日本の大気汚染物質除去技術

 我が国では、1960年代の高度経済成長期に各地で大気汚染問題が深刻化しました。その結果、重大な健康被害が発生し、生活環境が悪化しました。我が国は国土が狭いため、都市の近くで工業生産活動を行わなければならないという立地上の制約があります。こうした制約がある中で、日本の産業は大気汚染の克服に力を注ぎ、現在では大気汚染物質の除去の分野において世界でも有数の高い技術力を持つほどに成長しました。特に自動車からの排気ガスの低減や各種燃料の硫黄分濃度の低減に関する技術発展や、工場・事業所からの排出における脱硫、脱硝、集じんに関する技術発展は目覚ましいものがあります。トラック等の大型車の燃料として使われる軽油に含まれる硫黄分の規制は、平成4年から始まりました。その後、規制に対応するため、世界に先駆けて硫黄分10ppm(0.001%)以下のサルファ・フリー軽油が流通するようになりました。また、自動車用エンジンにおいても、燃料のエンジンの燃焼室への電子制御による高圧噴射によって燃料の完全燃焼を促し、排出される粒子状物質を大きく減らすシステム(コモンレールシステム)の量産化に世界で初めて成功しました。一方で排気マフラーにおいても、従来のマフラーから粒子状物質を捕集して大気中への排出量を低減するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)の設置がトラック・バス等を中心に進められています。これらの技術開発によって我が国における粒子状物質の濃度は大幅に低減しました。


エンジン構造や燃焼の改善

DPFの構造例

 今後、こうした我が国の最新技術が世界の都市における深刻な大気汚染問題の解決に貢献することが期待されます。

ウ 限りある地球のために

 ここまで概観してきたように、現在の経済社会は地球環境に負荷をかけながら成長してきました。このままでは、いずれ大きなコストとして跳ね返ってくるおそれがあります。

 かつて、経済学者ハーマン・デイリーは、物質とエネルギーを利用する上での、3つの原則を示しました。

 [1]土壌や水、森林、魚などの「再生可能な資源」を利用する速度が、再生する速度を超えてはならない(漁業の場合では、魚を獲る速度が、残りの魚が繁殖して元に戻る速度を超えない状態)。

 [2]化石燃料、レアメタルなど一度採掘すると元には戻らない「再生不可能な資源」については、別の「再生可能な資源」に転用される速度以上に利用してはならない。

 [3]環境汚染物質を排出する速度が、地球が浄化し、無害化する速度を超えてはならない(下水を流す際には、分解するバクテリアが増えすぎて生態系を破壊するなどの不安定な状態にならないようにしなければならない)。

 こうした考え方に従えば、GDPを尺度として経済成長を目標にした社会から、環境問題も解決する持続可能な社会へシステム転換することによって、地球環境を維持しながら、同時に経済成長も実現できる可能性があります。そうした持続可能な経済社会システムの構築を目指す取組が、現在、国際的に進められています。

 環境と開発のあり方として、1987年(昭和62年)に国連が開催した「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)の報告書「Our Common Future」では、「持続可能な開発」という概念が提唱されました。経済や自然環境、生活環境を含んだ社会の持続可能性を考えていくことは、これまで築いてきた豊かな社会を私たちの子供達以降の世代へ残していくことにつながります。

 次の第2項第3項では、持続可能な経済社会システムへの転換に向けた取組とGDPに代わる「真の豊かさ」を測る指標づくりに向けた取組をそれぞれ取りあげます。

足尾鉱毒事件と田中正造の思想~真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし~

 東日本大震災から100年以上前の明治時代初期、栃木県の足尾銅山からの鉱毒に起因する環境汚染がもたらした足尾鉱毒事件(以下「鉱毒事件」という。)という公害問題が発生しました。渡良瀬川を流れて栃木、群馬、埼玉、茨城、千葉、東京にまで広がった鉱毒により、川の魚は死に絶え、農作物も汚染されました。流域住民は、栄養状態が悪化した上、汚染された田畑の土の除去を強いられることとなりました。

 栃木県出身の国会議員であった田中正造は、鉱毒事件の解決と被害者の救済に奔走し、明治天皇への直訴を断行したことや、時の明治政府が強行した谷中村の廃村と遊水池化計画への反対を続けたことなど、その積極果敢な行動で知られています。

 一方で田中正造は、鉱毒事件や谷中村の問題に奮闘していく中で、自然と人間との関係や、社会国家や文明のあり方などについての深い考察を数多く残した社会思想家としての一面も持ちあわせていました。

 下記の言葉は、田中正造が自らの日記にしたためた「文明」に対する晩年の思想です。すなわち、「真の文明というものは、山や川などの自然を破壊することもなく、村を崩壊させることもなく、人の命を奪うこともないものである」ということを意味しています。


田中正造

 田中正造が没してから100年を迎えた今日、私たちの文明は、果たして田中正造が唱えた「真の文明」になり得たと言えるでしょうか。東日本大震災による多大な被害を受け、我々日本人は、これからの自然とのつきあい方や文明のあり方を大きく問われています。日本の公害問題の原点とも言われる鉱毒事件の歴史を紐解き、田中正造の生き方や思想に触れることで、この難問の克服に繋がる示唆を得られるかもしれません。

2 グリーン経済の拡大に向けて

 1987年(昭和62年)に提唱された「持続可能な開発」は、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」を意味しているとされています。こうした持続可能性を実現するための新たな経済のあり方として、グリーン経済という概念が登場しています。2012年(平成24年)にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」では、「持続可能な発展及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済」が主要議題の1つとなりました。本項では、グリーン経済の考え方を整理するとともに、持続可能な経済社会システムへの転換に向けた国内外の取組を紹介します。

(1)新たな経済のあり方を求めて

ア グリーン経済とは何か

 2011年(平成23年)の国連環境計画(UNEP)の「グリーン経済報告書」では、グリーン経済を「環境問題に伴うリスクと生態系の損失を軽減しながら人間の生活の質を改善し社会の不平等を解消するための経済のあり方」であると定義しています。グリーン経済は、環境の質を向上して人々が健康で文化的な生活を送れるようにするとともに、経済成長を達成し、環境や社会問題に対処するための投資を促進することを目指しています。また、気候変動、資源の枯渇、生物多様性の損失等の問題に直面している世界情勢の中で、国家間・世代間での貧富の格差をも是正し、持続可能な開発を実現することにも焦点が当てられています。

 グリーン経済では、社会全体の富を考える際に、物質的な富と人的資本に加えて、生態系などの自然資本が考慮されます。また、グリーン経済を実現するには、環境分野への投資促進や、自然資本の評価、消費者の選択をより環境に配慮したものにするための仕組みづくり等が必要です。世界全体で、年GDPの2%(2010年(平成22年)時点で現在1.3兆ドル)を2050年(平成62年)までの間、農業、漁業、林業、製造業、運輸業、建設業、エネルギー業、観光業等の分野に投資することによって、低炭素で資源効率の高いグリーン経済へと移行することができると提言しています。下のグラフは、グリーン分野へ投資を行った場合と、行わなかった場合のGDPの変化を予測したものです。


環境対策に年GDPの2%を投資した場合の世界全体のGDP成長率の予測

 自然資本を評価する取組としては、UNEPやドイツ銀行等による「生態系と生物多様性の経済学(TEEB)」の報告書が2010年(平成22年)に発表されています。TEEBは、食料や水の供給、気候調整や水質浄化などの自然の恩恵(生態系サービス)を経済的に評価し、自然の価値が認識されて人々の意思決定に反映されていくことを目指しています。個別の生態系サービスについて、その経済的な価値を評価することにより、生物多様性を保全した場合に享受する利益と生物多様性が損失した場合の経済的な損失を算出する試みを行っています。

イ リオ+20を中心とするグリーン経済を巡る最近の動向

 グリーン経済は、2012年(平成24年)6月に開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」でも、2つのテーマのうちの1つとして取りあげられました。


リオ+20

 同会議は、2012年(平成24年)6月20日から22日までブラジルのリオデジャネイロで開催され、国連加盟188か国及び3オブザーバー(EU、パレスチナ、バチカン)から97名の首脳及び多数の閣僚級(政府代表としての閣僚は78名)が参加したほか、各国政府関係者、国会議員、地方自治体、国際機関、企業等から約3万人が参加しました。同会議の成果文書「我々の求める未来」は、首脳及び閣僚級による3日間の議論を経て6月22日の夜に採択されました。同文書の主な内容は、[1]グリーン経済は持続可能な開発を達成する上で重要なツールであり、それを追求する国による共通の取組として認識すること、[2]持続可能な開発に関するハイレベル・フォーラムを創設すること、[3]都市や防災をはじめとする26の分野における取組についての合意、[4]持続可能な開発目標(SDGs)について政府間交渉のプロセスを立ち上げること、[5]持続可能な開発に関する資金調達戦略に関する報告書を2014年(平成26年)までに作成すること、などです。

 同会議で我が国は、[1]「環境未来都市」の世界への普及、[2]世界のグリーン経済移行への貢献、[3]災害に強い強靱な社会づくりの3つを柱とした「緑の未来イニシアティブ」を表明しました。同イニシアティブの下、7月には「世界防災会議 in 東北」を東北3県(岩手県・宮城県・福島県)で開催したほか、12月にはグリーン経済移行に向けた人材育成を後押しするための「緑の未来協力隊」を立ち上げました。また、リオ+20において我が国の優れた環境技術や省エネ技術、自然資本の持続的利用による農林漁業などの恵みを発信すること等を目的に、政府・民間企業等が協力して展示やセミナーを開催しました(6月13日から24日までに、延べ18,127名が来場)。

(2)グリーン経済の構築に向けた我が国の取組

ア 環境に配慮した金融

 事業者の経済活動は現預金等の資金を媒介して行われており、資金の流れが事業活動を通じて社会の仕組みに与える影響は大きいといえます。そのため、社会の仕組みを持続可能なものに変えていくには、資金の流れを持続可能な社会に適合したものへと変えていくことが重要であり、環境金融により、国内外の資金を企業の環境対策や環境ビジネスの促進に活用していくことが有効です。

(ア)持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則

 我が国では、平成22年に中央環境審議会「環境と金融に関する専門委員会」において報告書「環境と金融のあり方について~低炭素社会に向けた金融の新たな役割~」を取りまとめており、環境金融を拡大していく仕組みとして、日本版の環境金融行動原則の策定等を提言しました。これを受け、平成23年に銀行、証券、保険等の金融機関によって、持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則が取りまとめられました。この原則は、持続可能な社会の形成のために必要な責任と役割を果たしたいと考える金融機関の行動指針として7つの行動原則を示したものであり、署名した金融機関に対し、自らの業務内容を踏まえ、可能な限り本原則に基づく取組を実践するよう求めています。平成25年4月現在、国内187の金融機関が署名を行っています。


持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)

(イ)低炭素社会創出ファイナンス・イニシアティブ

 環境省では、金融メカニズムを活用して低炭素社会を実現するための新たな取組として、「低炭素社会創出ファイナンス・イニシアティブ」を進めていくこととしています。このイニシアティブは、金融メカニズムを活用して民間資金を呼び込みつつ、[1]建築物の低炭素リニューアル、[2]低炭素まちづくり、[3]二国間オフセット・クレジット制度、[4]低炭素技術の対策強化・市場化・研究開発の4つを重点分野として、投資の促進、市場の創出を図ることで低炭素社会を創出しようという取組です。また、この取組により、低炭素社会の創出だけでなく、経済の再生と地域活性化も同時に達成することを目指しています。


低炭素社会創出ファイナンス・イニシアティブ

堺市における環境配慮型金融の取組~SAKAIエコ・ファイナンスサポーターズ倶楽部~

 国の環境モデル都市に選定されている大阪府堺市では、平成22年2月に市内22の金融機関(店舗数79)が、任意団体である「SAKAIエコ・ファイナンスサポーターズ倶楽部」を設立しました。同倶楽部は、堺市が目指す低炭素都市「クールシティ・堺」に賛同し、市民や事業者に対して、太陽光発電システムや省エネ住宅の設置、低公害車の購入、環境配慮型設備投資などを補助する環境配慮型金融商品の提供を市と一体で行っています。


SAKAIエコ・ファイナンスサポーターズ倶楽部の仕組み

 その他にも、参画店舗での省エネの取組や、「SAKAI環境ビジネスフェア」の開催による環境関連のビジネスマッチング等を通じた環境ビジネスの創出にも取り組んでいます。

イ 環境に配慮した事業活動

 経済のグリーン化を実現する上では、環境に配慮した事業活動が不可欠です。環境に配慮した事業活動を拡大するため、以下のような取組が進められています。

(ア)環境報告書

 企業や公的法人等の事業者が、自らの事業活動による環境負荷や環境配慮の取組状況を報告する手段として、環境報告書があります。環境報告書は、顧客、取引先、投資家、地域住民、従業員に対して、自分たちの環境負荷低減の努力を知ってもらえる有効なツールであるだけでなく、自社の事業活動による環境負荷の程度を把握し、環境とのつきあい方を見直すきっかけにもなることから、さまざまな場面で活用されています。


環境報告書に期待される機能と効果

 我が国では、平成17年に環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律(平成16年法律第77号)を施行し、環境報告書の作成公表を独立行政法人や国立大学法人等の一定の公的法人に対して義務付けることにより、事業者による環境配慮の取組を促しています。環境省では、事業者が環境報告書を作成するに当たっての実務的な手引きとなる環境報告ガイドラインを策定しているほか、事業者等による優れた環境コミュニケーションを表彰する環境コミュニケーション大賞を設け、優れた環境報告書の表彰を行っています。

 環境報告書は、売上高1,000億円以上の大企業では7割以上の企業で作成・公表されていますが、一方で売上高1,000億円未満の企業では作成・公表割合が低くなっていることから、今後のさらなる普及が課題となっています。

(イ)環境マネジメント

 事業者が自主的に環境保全に関する取組を進めるに当たり、環境に関する方針や目標等を自ら設定し、それらの達成に向けて取り組んでいくことを環境マネジメントと言います。環境マネジメントを行うための工場や事業所内の体制・手続等の仕組みを環境マネジメントシステムと言い、国際規格のISO14001などが代表的です。環境マネジメントを適正に行うことにより、環境に配慮した事業活動が可能となるだけでなく、省エネによる経費削減や、環境配慮型の商品・サービスの新たな提供、環境にやさしい企業イメージの打ち出しなどの効果も期待されます。

 我が国では、中小事業者にも取り組みやすい環境マネジメントシステムとして、「エコアクション21」を策定し、また、ガイドラインを作成するなどその普及促進を図っています。エコアクション21は、CO2排出量、廃棄物排出量、総排水量などの環境負荷を低減する取組を促すものであり、環境活動レポートの作成・公表により簡易版の環境報告を行うことになることや、認証審査人が一定の範囲で企業の環境対策へのアドバイスを行うという特徴を有しています。認証を取得した事業者は、PDCAサイクルを基本として、ガイドライン中の要求事項に適合した環境経営システムを構築、運用、維持することが必要となります。エコアクション21の認証・登録総数は年々増加しており、平成23年度時点で7000団体以上に上っています。


エコ・アクション21の認証・登録の推移と現状

 事業者による自発的な環境マネジメントは大企業を中心に普及が進んでいますが、今後は、事業者の多数を占める中小事業者による取組を広げていくことが重要となります。

エコアクション21を活用している中小企業の優良事例

 埼玉県八潮市に本社を構え、金属材料を使用した容器等の製造を行っている来ハトメ工業株式会社では、事業を通じて環境保全に配慮して行動することを経営の重要課題の一つとして捉えており、平成22年にエコアクション21の認証を取得しました。同社では、エコアクション21を活用して、温室効果ガス排出量や廃棄物量の削減、有害化学物質の取扱禁止、グリーン調達の推進、社員への環境教育などさまざまな環境保全の取組を行ってきました。平成24年度からは、新たに生物多様性の保全やボランティア活動等による地域貢献にも着手しています。


来ハトメ工業株式会社の社員

 これらの取組が評価され、同社の環境活動レポートは、平成25年2月に表彰式が行われた第16回環境コミュニケーション大賞において、エコアクション21に基づく環境活動レポートを対象とする「環境活動レポート部門」の大賞を受賞しました。

(ウ)エコ・ファースト制度

 「エコ・ファースト制度」は、企業の環境保全に関する業界のトップランナーとしての取組を促進していくため、日本国内において事業活動を行っている企業が環境大臣に対し、地球温暖化対策、生物多様性の保全など、自らの環境保全に関する取組を約束する制度です。平成20年の最初の認定から、現在までに41社がエコ・ファースト企業として認定されています。

 エコ・ファースト企業として認められるには、環境省対して申請したエコ・ファーストの約束が、「先進性、独自性、波及効果があるか」「3つ以上の環境分野において環境保全上適切な目標を定めているか」などの観点から審査され、評価される必要があります。認定を受けた企業は、環境省制定のエコ・ファースト・マークを使用することができます。


エコ・ファースト・マーク

 エコ・ファースト企業は、エコ・ファーストの約束を確実に実践し、環境行政との連携及びエコ・ファースト企業間の連携を強化することを目的として、「エコ・ファースト推進協議会」を設立しています。同協議会では、協議会メンバー企業による情報交換や、環境イベントでの広報活動、環境省幹部との勉強会などの活動を行っています。

エコ・ファースト企業の事例~ライオン株式会社~

 平成24年度から25年度にかけてのエコ・ファースト推進協議会の議長会社を務めているライオン株式会社は、環境保全に向けた先進的な取組を推進していくとした約束が評価され、2008年に製造業として初めて環境大臣より「エコ・ファースト企業」として認定されました。

 同社は、エコ・ファーストの約束として、地球温暖化防止、循環型社会の形成、化学物質の安全性点検・リスクコミュニケーションの3分野において、積極的な取組を推進していくこととしています。地球温暖化防止の分野においては、植物原料に由来する商品開発や物流の効率化などにより、「CO2排出量を1990年比で55%削減する」とした2012年の目標を2011年時点で達成しました。また、商品の環境への配慮を評価する独自の指標である「ライオン エコ基準」を設定し、環境に配慮した商品づくりに努めています。


ライオン エコ基準

 同社は、平成24年3月にエコ・ファーストの約束を更新し、環境保全に向けたさらなる取組を推進していくこととしています。

ウ 環境に配慮した購入(グリーン購入)

 近年、環境に配慮された商品やサービスを優先的に購入するグリーン購入に取り組む消費者が増えています。グリーン購入は、消費活動を通じた環境保全活動であり、事業者が環境負荷低減に取り組むインセンティブとなるだけでなく、環境対策に積極的な事業者に対する支援ともなっています。

(ア)グリーン購入法

 市場におけるグリーン購入を促進するため、我が国では国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号)を制定しています。同法はグリーン購入法とも称し、国や独立行政法人等の機関に対して環境に配慮された物品等の調達を義務付けているほか、地方公共団体に対しても同様の努力義務を課しており、公的機関による調達の推進を通じて、市場に環境配慮物品等への需要を喚起し、グリーン購入の拡大を図ることを目的としています。グリーン購入の対象となる環境物品等は、紙類、文具類、オフィス家具、OA機器など大きく19の項目に分類され、それぞれについて詳細な調達品目と判断基準が定められています。平成22年度における国や独立行政法人等の特定調達物品等の調達実績は、公共工事分野の品目を除く190品目中186品目(97.9%)において、判断基準を満たす物品等が95%以上の高い割合で調達されています。


グリーン購入法の特定調達物品等の調達実績(調達率が95%以上の品目数の推移(公共工事分野の品目を除く))

(イ)環境ラベル

 グリーン購入を進めていく上では、環境に配慮された製品やサービスに環境ラベルを付与し、環境負荷の少ない物品等の選択的な購入を促すことが有効です。一方で、環境ラベルは「多すぎて分からない」との声もあり、次々と生まれる環境ラベルに消費者が追いついていけないという実態も垣間見えています。我が国では、各種環境ラベルを紹介した環境ラベル等データベースを運用しているほか、環境ラベルの表示方法の考え方の統一や信頼性の確保のため、環境表示ガイドラインを取りまとめています。


環境ラベルの一例

3 新たな豊かさ指標の開発

 近年、豊かさを測る指標として従来使用されてきた国内総生産(以下「GDP」という。)から、GDPに代わる真の豊かさを測る指標の検討に世界的な関心が集まってきています。

 例えば、フランス政府においては、2009年(平成21年)にスティグリッツ委員会で、GDPの限界と持続可能性指標の重要性を提言した報告書が公表されました。また、2007年(平成19年)には「Beyond GDP会議」が開催され、GDPを補完する新たな指標の開発にむけて合意が得られ、2009年(平成21年)には、欧州委員会が「GDP and beyond」を公表しました。また、直近では、2011年(平成23年)にOECDより「グリーン成長指標」が公表されたほか、2012年(平成24年)にはリオ+20において、国連大学地球環境変化の人間・社会的側面に関する国際研究計画(UNU-IHDP)が国連環境計画(UNEP)等と共同で「包括的富指標(Inclusive Wealth Index)(以下「IWI」という。)」を公表しています。

 この項では、このような世界的な環境経済指標の潮流から、近年における国内外の持続可能性指標等の検討状況を概観します。

(1)世界の検討状況

ア 「スティグリッツ委員会報告書」における持続可能性指標、幸福度指標の考え方

 スティグリッツ委員会がまとめた報告書では、豊かさや持続可能性を一つの指標で測定することの難しさ、複雑な指標群によって豊かさや持続可能性の本質を見失うおそれがあることなど、既存の指標についてのさまざまな課題を認識した上で、環境・経済・社会の側面から、豊かさ(Quality of Life:QoL)と持続可能性を測定するための指標体系を提案しています。同報告書では、今の水準の幸福度が将来の世代においても維持可能かどうかについて考察されています。

 同報告書では、持続可能性を測定する場合は特に自然資本や人的資本、社会的資本、物的資本など資本に注目した測定を進めることが重要であるとの提案がなされています。

 また、豊かさ(QoL)を測定する場合は、主観的な要素(個人の置かれている状況や実際に感じている感情)の測定と客観的な要素の測定(環境の状況、健康、教育、余暇などの個人的な活動等)の両方に焦点をあてることが重要であるとの提案がなされています。

イ 「グリーン成長指標」について

 OECDでは、グリーン成長に向けた取組の進捗状況を評価するために、25のグリーン成長指標を整備しています。これらの指標は、経済成長と環境との関係について、[1]生産性・効率性がどの程度高いか、[2]自然資源がどの程度残されているか、[3]社会経済活動が人の健康や環境に悪影響を及ぼしていないか、[4]グリーン成長を支える政策が効果的に実施されているか、という4つの視点から分類され、評価に用いられています。


グリーン成長指標の概念

ウ 「包括的富指標(IWI)」について

 先に記述したように、2012年(平成24年)に開催されたリオ+20において、UNU-IHDPがUNEP等と共同で「包括的富に関する報告書(Inclusive Wealth Report 2012)」を発表しました。同報告書では、新たな経済指標であるIWIが採用されています。この指標は、従来のGDPや人間開発指数(HDI)などのように短期的な経済発展を基準とせず、持続可能性に焦点を当て、長期的な人工資本(機械、インフラ等)、人的資本(教育やスキル)、自然資本(土地、森、石油、鉱物等)を含めた国の資本全体を評価し、数値化しています。報告書では、「経済成長の偏重は、将来の世代に深刻な被害をもたらし、資源を枯渇させる。IWIは、豊かさと成長の持続可能性を提示できる」と有用性を指摘しています。

ブータン王国とGNH(国民総幸福量)

 ヒマラヤ山脈南麓に位置するブータン王国は、「国民の幸福度」を国家の豊かさの指標とする独自の考え方を打ち出し、世界的な注目を集めています。

 ブータン王国は、九州とほぼ同じ面積に標高差の激しい地形を有し、約70万の人口と多様な動植物を抱えています。国民の多くはチベット仏教を信仰し、その宗教観は生活習慣など日常のいたる所に浸透しています。ブータン王国では、環境や伝統、民意に配慮することで、国民の幸福を実現しようとする考え方が広がっており、国家が国民の幸福を追求するために努力することが憲法にも明記されています。2005年(平成17年)に実施された国勢調査では、ブータン国民の約97%が「幸せである」と回答しています。

 ブータン王国では、国家の豊かさを測る指標として、世界で多用されているGDP(国内総生産)に代わり、GNH(国民総幸福量)という概念を用いています。GNHでは、経済成長を重視する姿勢を見直し、「環境の保護」「伝統文化の保全と推進」などの4本柱の下、「環境の多様性」「心理的な幸福」「健康」など9分野の指標により豊かさを測っています。


ブータン王国とGNH

 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「幸福とは、人生における最高の善であり、それ自体が追求されるものである。」と述べています。世界的に進められつつある幸福を含んだ指標の開発により、豊かさに対する考え方が見直され、ひいては私たちをとりまく環境がより良いものへと変わっていく流れが生まれるかもしれません。

(2)我が国の検討状況

ア 「環境経済の政策研究」における指標開発の推進

 これまで見てきたとおり、OECDや国連等をはじめ、世界においては、持続可能な社会の実現を目指し、さまざまな持続可能性指標、幸福度指標の検討がなされています。日本においても、このような国際的な潮流や東日本大震災を契機とする意識の変化等を踏まえ、グリーン経済や生活の質に関する政策上の評価を行うことが喫緊の課題となっており、国際的な比較も視野に入れた環境・経済・社会を総合的に評価する指標について取りまとめることが求められます。

 環境省では、環境政策の戦略的な実施につなげていく研究事業「環境経済の政策研究」を推進しており、当該政策研究の課題分野の一つである「環境・経済・社会を総合的に評価するための指標及び統計情報のあり方に関する政策研究」において、3つの研究課題を採択しています。当該研究課題においては、国際・国内地域間比較も視野に入れた指標の体系化や、環境・経済・社会の統合指標の開発、開発した新指標による評価等が求められ、日本における持続可能性指標等の検討に貢献することが期待されます。