環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第4章>第2節 低炭素社会の実現に向けた我が国の取組

第2節 低炭素社会の実現に向けた我が国の取組

1 世界における低炭素社会の実現に向けた動き~COP17~

 2011年(平成23年)11月28日から12月11日まで、南アフリカ共和国のダーバンにおいて、国連気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)が行われました。

 日本国政府は、すべての主要排出国が参加する公平かつ実効性のある国際枠組みの構築を目指し、交渉に臨みました。また、東日本大震災という国難を乗り越えるべく最大限努力していること、気候変動問題に積極的に取り組むという我が国の姿勢は今後も変わらないことや、新しいエネルギーミックス戦略・計画に向けた検討と今後の温暖化対策の検討とを表裏一体で進めていることを、細野環境大臣による演説等を通じて説明しました。


COP17で演説する細野環境大臣

 交渉の結果、すべての国に適用される将来の法的枠組みのプロセスとして、「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会」の設置について合意が得られました。一方、京都議定書については、第二約束期間の設定に向けた合意が採択されましたが、我が国を含むいくつかの国は、将来の包括的な枠組みの構築に資さないことから、第二約束期間には参加しないことを明らかにし、そのような立場を反映した成果文書が採択されました。


将来枠組みに向けた道筋

 2013年以降、我が国は自らを律し、地球温暖化対策の国内対策を引き続き積極的に推進していくこととなります。また、対外的にも、先進国としての責任ある立場を踏まえ、世界の気候変動政策に対する支援を継続していくことが重要です。我が国は、先進国・途上国と連携しつつ、技術、市場、資金を総動員して世界を低炭素成長に導くための具体的な取組として「世界低炭素成長ビジョン」をCOP17において発表し、我が国の今後の国際貢献のあり方に関する決意を示しました。また、COP15において日本が拠出を表明した、官民合わせて150億ドルの気候変動分野における2012年までの途上国支援(短期支援)についても、着実に実施していきます。


地球温暖化対策のための課税の特例の二酸化炭素排出量1トン当たりの税率


地球温暖化対策のための課税の特例による税率

2 我が国における低炭素社会の実現に向けたこれまでの取組

(1)主要な制度的取組

ア)地球温暖化対策のための税の導入

 温暖化対策税の早期導入は、後の世代の負担を軽減するために必要であるだけでなく、世界に先駆けた低炭素社会づくりや、グリーン・イノベーションを促進することで環境関連企業の成長を促し、「環境・エネルギー大国」としての我が国の長い目で見た成長・発展に資する契機としても有効と考えられます。

 こうした状況にかんがみ、我が国においても税制による地球温暖化対策を強化するとともに、エネルギー起源二酸化炭素排出抑制のための諸施策を実施していく観点から、平成23年度税制改正では、「地球温暖化対策のための税」を盛り込んだところですが、国会における審議の結果、この改正事項については見送られることとなりました。この改正事項については、平成24年度税制改正大綱において地球規模の重要かつ喫緊の課題である地球温暖化対策を進める観点から、平成24年度税制改正において、引き続き、実現を図ることとされ、第180回国会において本税を盛り込んだ税制改正法案(租税特別措置法等の一部を改正する法律案)が可決・成立、「地球温暖化対策のための税」が導入されることとなりました。

 具体的な手法としては、広範な分野にわたりエネルギー起源二酸化炭素排出抑制を図るため、全化石燃料を課税ベースとする現行の石油石炭税に二酸化炭素排出量に応じた税率を上乗せする「地球温暖化対策のための課税の特例」を設けるものです。この特例は、2012年(平成24年)10月1日から施行することとされており、その導入に当たっては、急激な負担増とならないよう、3年半かけて税率を段階的に引き上げるとともに、一定の分野については、所要の免税や還付措置を設けることとしています。あわせて、燃料の生産・流通コストの削減や供給の安定化、物流・交通の省エネ化のための方策や、過疎・寒冷地に配慮した支援策についても実施することとしています。

イ)固定価格買取制度

 2011年(平成23年)に成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(平成23年法律第108号)に基づき、2012年(平成24年)7月1日から、固定価格買取制度が開始されます。同制度は、再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、国が定める一定の期間、価格で電気事業者が買い取ることを義務付けるものであり、再生可能エネルギー源の利用を促進し、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています。

 新たに開始する制度の下では、従来の余剰買取制度は継続され、大規模太陽光発電・風力発電・中小水力発電(3万kW未満)・地熱発電・バイオマス発電(紙パルプ等の既存の用途に影響のないもの)について、発電した電気の全量が買取の対象となる、全量固定価格買取制度が開始されます。


固定価格買取制度の概要

3 革新的エネルギー・環境戦略

 平成23年5月に閣議決定された政策推進指針に基づき、同年6月、新成長戦略実現会議の分科会として「エネルギー・環境会議」が設置されました(なお現在、同会議は、同年10月に発足した国家戦略会議の分科会として位置づけられています。)。同会議では、原子力発電を始めとしたコストを検証し、原子力発電への依存度低減のシナリオを描くべく、エネルギー政策のあり方を白紙から見直すとともに、これらと表裏一体のものとして今後の地球温暖化対策の検討を行い、国際的議論を経た上で、「革新的エネルギー・環境戦略」を策定することとしています。

 また、原子力をはじめとする各電源のコストについては、省庁横断的な組織である「コスト等検討委員会」において検証作業が行われました。コストの試算に当たっては、事故リスク対応費用や二酸化炭素対策費用、政策経費等、いわゆる社会的費用を加味するとともに、2030年時点でのコスト予測も行っており、再生可能エネルギーの量産効果や技術革新の可能性、火力発電に関する燃料費上昇や二酸化炭素対策費用の上昇の影響等も反映しています。同委員会が2011年12月にまとめた報告書によると、どの電源にも長所と短所があり、エネルギーミックスのあり方について、複数のシナリオがあり得るとしています。


原子力発電以外の電源のコストの検証

 2011年12月には、革新的エネルギー・環境戦略の選択肢提示に向けて「基本方針~エネルギー・環境戦略に関する選択肢の提示に向けて~」が決定されました。エネルギー・環境会議は、同方針に基づき、平成24年春頃に戦略の選択肢を提示し、国民的議論を経た後、夏頃までにエネルギー・環境戦略を策定する予定です。同会議に提示される原子力政策・エネルギーミックス・地球温暖化対策の選択肢の原案については、原子力委員会、総合資源エネルギー調査会、中央環境審議会地球環境部会等の関係会議体にて策定される予定です。また、日本再生の核となるグリーン成長戦略についても、エネルギー・環境会議において2012年夏に策定することとしています。


選択肢の提示に向けた基本的な姿勢

4 我が国が誇る最先端の低炭素化技術

(1)炭素繊維技術と航空機「ボーイング787」~革新的素材を使用して二酸化炭素を「へらす」技術~

 炭素繊維は、鉄やアルミニウム等の金属に代わり得る次世代構造素材で、軽くて強いという特性から省エネルギーや環境保全などの効果が大きく、高付加価値素材として注目を集めています。この炭素繊維について、我が国は世界シェアの約7割を占めており、高い国際競争力を有しています。そして、我が国の炭素繊維複合材に関する技術を集結させて実現したのが、ボーイング社の新型旅客機「ボーイング787ドリームライナー」です。

 この旅客機に関しては開発当初より、全日本空輸株式会社をローンチカスタマー(筆頭発注主)として我が国の企業数十社が機体の開発、分担生産に参加しており、機体製造の35%を日本の企業が担当しています。これだけの分担比率となった要因の一つに、日本の強みである炭素繊維の技術が燃費改善に直結していることが挙げられます。ボーイング787では、胴体や主翼部分など機体部分の約50%に日本企業の開発した炭素繊維複合材が使用されたことで大幅な軽量化が図られ、同クラスの前世代機と比較し約20%の燃費向上に貢献しています。さらに、翼に炭素繊維複合材を使用したことで従来機の翼よりもアスペクト比(主翼の縦と横の比率)を高めることができ、同サイズの機体に比べ低燃費を実現するとともに、巡航速度もマッハ0.85の高位を実現しています。これにより、中型機でありながら、大型機並みの航続飛行が可能となりました。


ボーイング787と炭素繊維複合材の使用率

(2)再生可能エネルギーに関する先進的な技術~クリーンな電気を「つくる」技術~

 再生可能エネルギーの導入に当たっては、各地域にある再生可能エネルギーのポテンシャルをどのように引き出すかが重要となります。

 我が国の地政学的条件を見てみると、国土の面積のうち平地の占める割合が低く、急峻な地形が多いことが特徴として挙げられます。一方で、我が国は四方を海に囲まれており、排他的経済水域が世界第6位の海洋国です。これらの条件を考慮した上で、我が国における再生可能エネルギーのさらなる導入を考えた場合、大きなポテンシャルを有する洋上風力発電について検討や実証を進めていくことが効果的であると考えられます。

 洋上風力発電については、水深が浅い海域に対応可能な着床式と深い海域に対応可能な浮体式の2つに分類できます。我が国は、遠浅の海が少なく、また、外洋では風を遮るものが無いことから、陸上や陸地に近い洋上よりも強く安定した風力が利用できるため、浮体式は着床式よりも大きなポテンシャルを有しています。

 こうした背景を踏まえ、環境省では平成22年度より、我が国初となるフルスケール(2MW)の浮体式洋上風力発電機1基を設置・運転する実証事業を開始しています。平成22年12月に長崎県五島市椛島沖を実証海域として選定しており、平成24年度には100kWの風車を搭載した小規模試験機の設置・運転を行い、平成25年度からは実証機の運転を開始します。最終的には、平成28年度の民間ベースでの事業化につなげることを目指しており、それに向けて必要な知見を得ることとしています。


長崎県五島市椛島沖に設置・運転予定の浮体式洋上風力発電の試験機と実証機

5 途上国への支援による低炭素社会の実現に向けた我が国の貢献

(1)クリーン開発メカニズム(CDM)による我が国の国際貢献

 京都議定書においては、国別の約束達成に係る柔軟措置として、他国における温室効果ガスの排出削減量及び吸収量並びに他国の割当量の一部を利用できる京都メカニズム(共同実施:JI、クリーン開発メカニズム:CDM、国際排出量取引)の活用が認められています。

 CDMは、民間企業等が途上国で排出削減又は吸収事業を実施し、その結果生じた排出削減量又は吸収量を京都議定書に規定する「認証された排出削減量:CER」として獲得できる仕組みです。事業実施を通じて、途上国に対する技術・ノウハウの移転が期待されるため、国際貢献としての側面もあります。


CDMのステップ

 我が国は、日本企業等が参加するCDM事業について、平成23年12月末までに計725件を承認しており、そのうち475件が国連に正式登録されています。我が国のCDMプロジェクトの実績としては、例えば、稲作の盛んなカンボジアでは大量に排出される籾殻を燃料として活用したバイオマス発電所を建設し、地域の電力をクリーンな電気でまかなっています。


CDMプロジェクトの導入事例(カンボジアの籾殻バイオマス発電施設)

 しかし、CDMにも課題があり、以下のような指摘があります。例えば、プロジェクトの企画、DOEによる審査、CDM理事会による審査及び登録、実際のクレジットの発行にいたるまでには、長い期間を要してしまいます。また、相応の審査期間と費用を必要とするため、事業者のリスク軽減の観点から、削減量が多く見込まれる経済規模の大きな国(中国やインド等)でのプロジェクトに集中している実情があります。

(2)二国間オフセット・クレジット制度

 我が国は、CDMを含む現行の京都メカニズムを補完する新たなメカニズムとして、日本の優れた低炭素技術・インフラ及び製品の提供等を通じた海外における温室効果ガスの排出の抑制等への貢献を適切に評価する二国間オフセット・クレジット制度の導入を提案しています。


二国間オフセット・クレジット制度の概要

 平成22年以降、アジアを中心とした途上国と協議を進めており、インドやベトナム、メコン諸国との間では、同制度の構築に向けた具体的な協議を進めてく旨、首脳級の共同声明でも言及されています。また、インドネシアとの間でも同制度の構築に向けた協議を拡大していく旨、政治文書を発出しています。

 平成23年末、南アフリカ・ダーバンで開催されたCOP17において、市場メカニズムを含む各国の国情に応じたさまざまな手法の検討を行うことが決定されており、二国間オフセット・クレジット制度は、こうした手法の一つとして位置づけられることが期待されています。


CDMの枠組みを活かした途上国支援の事例


 近年、途上国では人口の増加や経済の発展などに伴い、環境問題が顕在化しています。特にアジアでは中国、インド、東南アジア諸国を中心に経済発展による都市化・工業化などが進み、公害問題や温室効果ガスの大量排出などが深刻な問題となっています。かつて、日本も高度経済成長に伴う公害問題に直面し、それを乗り越えてきた歴史があるため、途上国での環境問題の解決に向け、日本の国際支援に対する期待が一層高まっています。

 こうした現状を踏まえ、我が国では、途上国の大気汚染、水質汚濁、廃棄物処理などの問題への対処と、同時に温室効果ガスの排出削減対策とを同時に推進する手法であるコベネフィット(共通便益)型の取組を支援しています。

 例えば、CDMの枠組みを活用したタイのエタノール工場排水からのバイオガス回収・発電事業が挙げられます。従来、工場の排水は嫌気性オープンラグーン(処理池)で処理されていたため、高い温室効果を持つメタンガスが大量に大気中に放出されていました。そのため、日本からの支援により、嫌気性発酵槽を設置し、あわせてメタンガスを回収・燃焼するバイオガス発電装置を導入し、排水を処理することで、水質や悪臭の改善、メタンガスの大気放出の抑制を図りました。この事業によって発生する排出削減クレジットの1/2が日本に移転されることになっています。

 以上は一例ですが、我が国の環境技術の海外展開を図り、地球温暖化対策分野などにおいて国際的なイニシアティブを発揮するためにも、引き続き、途上国における積極的な取組の推進を図る必要があります。


タイのエタノール工場から出る排液を用いた発電用バイオガス事業の概要図