第4節 地域環境力を活用した取組の広がりと効果

1 環境保全活動の継続

 取組を継続していくためには、活動を効率的・効果的に実施できる仕組みを整えることにより、常に地域の把握が行われ、適切な目標が設定され、達成に向けた取組意識と能力、すなわち地域環境力を維持しておくことが重要です。

 また、リーダーや参加メンバーを確保することも重要となります。具体的には、リーダーとして、取組に参加する各主体を啓発しつつ、それぞれの役割を調整する能力を有する人材が不可欠であり、取組の中でこうした人材を育成していくことが重要です。また、リーダー以外にも、実際に活動に携わる人材、会費等で支える人材、助言・指導できる人材など取組を支える幅広い人材が必要であり、こうした人材が揃うことで、活動メンバーが自らの能力の発揮に集中できる環境が整い、責任と誇りをもった活動が可能となります。

 さらに、取組を継続していくためには、地域環境力と取組を結びつける仕組みとして、活動資金や活動拠点の確保が必要となります。例えば環境保全活動団体の年間の財政規模は、100万円以下の団体が46%と、その多くが資金の不足により活動の拡大や継続に苦労している実態があります。また、市民活動団体が求める行政支援の内容として49.7%の団体が活動や情報交換の拠点となる場所の確保・整備をあげています。今後、こうした地域の活動資金や活動拠点をいかに充実させていくかが課題となっています。

PDCAサイクルを活動した環境保全活動  環境保全活動におけるスタッフ数

地域環境力を発揮するために必要な機能の例 環境保全活動団体における財政規模

 

2 地域環境力による地域活性化とその効果

市民活動団体が必要とする行政支援の内容

 今日、環境保全型の地域開発の重要性が認識されるようになっています。平成14年12月に成立した自然再生推進法は、地域のさまざまな主体の参加により自然再生事業を行うための枠組みを定めるものです。釧路湿原や埼玉県くぬぎ山地区などで既に始まっている取組は、地域の発展と環境保全を両立・統合させていく取組と位置付けられます。

 また、地域環境力を備えた取組のためには地域の独自性の発見や地域一丸となった対応が求められます。このため、地域の環境保全とともに、結果的に経済的効果や地域活性化を呼び起こすこととなり、地域の発展と環境保全とがともに達成された社会の構築に役立ちます。

 例えば、リゾート開発型の観光に対して、サスティナブルツーリズムという考え方が注目されています。地域にある、自然、文化、歴史遺産を活用し、時には新たなアイディアの導入により、環境の保全、地域コミュニティの維持、長期的な経済的利益を同時に達成することに特徴があります。大分県湯布院町は、豊かな環境を維持しつつ年間300万人以上の観光客が訪れており、この考え方を具現化した町といえます。

 また、環境保全型コミュニティビジネスの振興により地域主導の社会経済づくりを進める動きも見られます。滋賀県の琵琶湖地域における菜の花プロジェクトは、菜の花の栽培、なたね油の採油と利用、廃油や油かすの利用を地域内で事業展開するもので、環境保全・資源循環型の活動とビジネス活動が両立した取組となっています。

 このように地域環境力を備えた取組は、地域の人々の生きがい、自己実現、心の豊かさなどにつながるとともに、地域内の人的交流が活発になることで地域に共同体意識をもたらし、地域づくり活動への参加へと相乗的な効果をもたらします。また、地域の良いところが内外に発信されれば、地域外の人々との交流も生まれ、定住人口や企業・事業所等が増えていくことにもつながっていきます。

 

3 外部と連携した地域環境力の充実

大分県湯布院町におけるサスティナブルツーリズムの取組

 地域環境力を備えた取組は、地域の枠を越えて連携して進められることもあります。  例えば、地域内だけの取組では地域資源の有効活用が難しい場合、他の地域との連携により取組が効果的なものとなります。東京都北区と群馬県甘楽町では、北区の小中学校の給食から出る生ゴミで作られるたい肥を甘楽町の有機農業に活用し、その収穫物を北区の学校給食に活用するなどの連携をとることで相互に役割を補完しあいながら、両者がそれまで抱えていた課題を解決していこうとしています。この取組により、北区の各小中学校では、給食の食べ残しの量が減少するといった効果も表れています。  また、課題が社会経済活動や自然の営みが行われている圏域全体をとらえなければ効果的に対応できないものである場合、圏域全体での連携による地域環境力の醸成が不可欠です。矢部川(熊本県)の上流の矢部町と下流の熊本市は、森林の水源かん養機能に着目し、地下水保全に役立てるため、森林整備協定を締結しています。双方の住民が育林作業に参加することで、相互交流の促進や海と山との関連を学ぶ場としても期待が寄せられています。  さらに、同じ課題を抱えている地域同士が情報交換や共同研究などの連携をとることで、取組を充実させている例も見られます。  さらに視野を広げ、自らの公害経験を生かして、公害対策を中心とした環境協力を途上国に対して進め、地域から世界全体の環境改善へ向けて取組を行っている事例もあります。北九州市では、地域資源として持っている公害克服の経験、国際協力の実績及び公害防止技術を体系的に整理することにより人材の活用体制や研修教材などを整備し、中国大連市等との間で、共同事業や人材育成を中心とした支援が進められています。

菜の花プロジェクト(滋賀県環境生活協同組合)

地域環境力の活用効果  コミュニティビジネスの位置づけ

食の交流事業(東京都北区―群馬県甘楽町)

4 地域外への取組の波及

 地域環境力を備え地域内で効果を上げた取組は、国内外の他の地域に伝えられることでさまざまな地域の活性化を誘発し、社会全体の大きな流れとなる可能性を有しています。

 例えば、琵琶湖における粉石けん使用運動などの市民運動の展開や行政による琵琶湖の環境保全の積極的な取組は、滋賀県の呼びかけによる「世界湖沼会議」の開催へとつながりました。この会議は、地方公共団体のイニシアティブによって湖沼環境保全を巡る世界的な交流・波及の場を生んだ先例といえます。

 

5 地域環境力からの持続可能な社会づくりを目指して

 これまで見たように、地域環境力は環境保全と地域活性化という二つの意味で持続可能な地域づくりに役立ちます。地域環境力を備えた取組の推進は容易ではありませんが、それぞれの取組が地域の発展と環境保全との統合を図る上での有効なモデルとして波及していく可能性を有しており、持続可能な社会の構築に向けた変革の大きな原動力となるのです。今、各地域で、地域環境力を醸成、充実させることが必要となっています。


むすび

 環境制約が日常生活に迫りつつあることを考えると、一人ひとりが取組の主人公である自覚を持ち、この困難な問題に早急に対処していくことが必要です。「ことを起こせ!」がヨハネスブルグサミットのテーマであったように、日常生活や地域など足元からの自発的な行動を起こすことが持続可能な社会への変革の確実な第一歩となり得るのです。

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