第3節 一人ひとりの取組が持つ大きな可能性

1 環境問題に対する意識と行動の隔たり

 環境問題を自分自身の問題とする人や環境保全に重要な役割を担う主体として「国民」を挙げる人が増えており、環境問題に対する一人ひとりの意識は高くなっています。

 それに対し行動の実施状況をみると、「ごみの分別」「新聞、雑誌の古紙回収」等、ルール化された環境保全行動や「節電」「冷暖房の省エネ」等、実施することにより直接の経済的メリットのある環境保全行動は良く行われている一方で、「環境保護団体への寄付」や「地域の緑化活動」、「地域の美化活動」、「環境保護団体の活動」等への参加といった直接、個人が効果を実感できない行動に関しては、相対的に低くなっています。環境問題に対する意識の高まりが能動的な環境保全行動につながらない状況であることがわかります。  また、環境問題に関する国際共同調査の結果によると、意識の高まりが能動的な環境保全行動につながらない要因として、個人レベルの取組では解決に向けて大した力にならないという意識が挙げられています。

2 行動に至る個人の変化

 一人ひとりが環境保全に向けた具体的な行動に至るまでには、まず、環境問題に気づき、関心を持つ段階、次に、環境問題と自分たちの生活行動との密接な因果関係を理解する段階、そして、自ら実践できるさまざまな対策があることを認識し、問題解決能力を育成する段階があり、各段階のステップアップには、環境教育・環境学習や環境情報が重要な役割を果たします。

 環境教育・環境学習の具体的施策の推進方策について、8つの項目が中央環境審議会の答申で示されています。その中でも特に、1)推進の原動力として知識・技能を備えた多彩な人材が育つ仕組みを整備する「人材育成」、2)具体的行動に結びつく活動の場、テーマに応じた「プログラム整備」、3)環境教育の基盤となる情報の整備と各主体が有する情報を体系的に整備する「情報提供」、4)実践的体験活動を行うことのできる「場や機会の拡大」の4つの視点からの施策の展開が、実践や体験を重視した環境教育・環境学習の推進につながるとされています。環境教育・環境学習は持続可能な社会の実現に向けた行動を促すための重要な手段であり、その実効性を確保していくことがますます重要となっています。

 環境情報については、情報源の数、充足している環境情報の数が多いほど、環境保全活動につながりやすく、環境ラベリングやグリーン購入に関する情報等、環境情報が必要なときに必要な形で入手できるような体制を整えていくことが重要となっています。

 

環境問題についての考え方

環境保全行動の実施状況

環境意識に関する国際比較

環境教育・環境学習の具体的な推進方策

具体的な行動へのステップと施策展開

 

3 一人ひとりの取組の波及が大きな力になる

 アメリカの社会学者であるエベレット・ロジャースは、新たな技術や製品、行動等(イノベーション)が市場に普及したり社会に取り入れられたりする過程の一般化された理論モデルを提唱しました。このロジャースの普及モデルはハイブリッド自動車や洗剤等の詰替・付替用製品等の環境配慮型製品の購入といった環境保全の取組にも当てはめることが可能であり、その製品が「環境保全効果が明らか」「従来品に比べ同等の経済性・機能性」「容易な使用法」「試行使用が可能」「効果が視認可能」といった普及のための要素を満たしている場合には、時間の経過とともに取り組む人数が増加していきます。こうして一人の取組が他の人にも広がり普及過程が終了することにより多人数の効果が生み出され、その取組がその人の標準的な行動様式になることによる継続の効果が組み合わされ、大きな効果が生み出されることになります。

 環境配慮型製品の普及率を見るとその多くは、まだ、最終的な普及への途上にあります。これらをさらに普及させ、一人ひとりが継続的に選択するようになるためには、企業の新たな技術開発、環境に配慮した製品設計の実施、行政による一人ひとりの取組を促進する枠組みの構築や制度面の整備等が必要となります。一人ひとりの自主的積極的な行動は、こうした企業や行政等の取組を呼び起こす原点であり、各主体がお互いを刺激し、環境保全の取組が一層行いやすい社会環境を整えていくことにより、結果として環境保全の取組がわが国全体に波及し、大きな力を持つことになります。

 

環境情報が行動に与える影響

一人ひとりの取組の普及

ハイブリッド自動車の保有台数の推移

洗剤等の詰替用製品等の出荷量の推移

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