○平成14年度環境の状況に関する年次報告

第1部 地域社会から始まる持続可能な社会への変革 <総説>

序 章

地球環境の現状と足元からの取組の展開

<序章の要約>

 今日、国際社会において環境問題への取組が進展する一方で、地球環境の劣化はますます深刻化し、それが地球規模の社会問題の深刻化をも招いています。本論に入る前に、本章では、1992年(平成4年)の環境と開発に関する国連会議(地球サミット)以降の世界の状況を概観するとともに、この状況に対処するためには、人々がそれぞれの立場において足元からの取組を進めていくことが重要となっていることを見ていきます。

第1節 地球環境の現状と社会

1 社会経済の変化

 1990年代、企業の国境を越えた事業活動の活発化、国際的な交通の発達、情報通信技術の著しい発達など、経済、社会のグローバル化は急速に進展し、世界は以前にも増してずっと小さなものになり、世界の相互依存性は以前にも増して高まっています。他方、世界人口は1990年(平成2年)から2000年(平成12年)の間に約8億人増加し、UNEP(United Nations Environment Programme 国連環境計画)の報告によれば、世界の富裕層5分の1が世界全体のGDPの86%を占めているのに対して、貧困層5分の1はわずか1%程度しか占めていないなど、貧富の差も拡大しています。

2 地球環境の状況

 こうした社会経済の変化の中、地球環境は深刻な状況になっています。  地球温暖化についてみると、2002年(平成14年)の世界平均気温は、観測史上2番目に高い値となっており、1980年代中頃から高い状態が続いています。現在の生活を続けていけば、私たちの将来の生活にも影響を及ぼすおそれがあり、わが国への影響に関する研究をまとめた報告書「地球温暖化の日本への影響2001」によると、1mの海面上昇が起こった場合、わが国においては、平均満潮位以下の土地は現在の約2.7倍となり、そこに居住する人口は200万人から410万人へ、資産は54兆円から109兆円に増大すると予測されています。

 森林については、大規模な森林火災、薪炭材の過剰収穫、過放牧、商業伐採等により、1990年(平成2年)から2000年(平成12年)までの間に、世界の各地域で約940万ha(中国・四国・九州地方の総面積に匹敵)が失われています。

土壌の劣化が、気候的要因だけでなく、農業、放牧、森林減少につながる不適切な伐採活動等の人間活動によって進んでおり、UNEPの報告によれば、地球の陸地面積の約15%がその影響を受けています。

 また、近年、中国をはじめとする北東アジア地域では、黄砂の発生・移動頻度が増加しています。新聞報道によれば、平成14年に発生した大規模な黄砂は、中国では隣のビルが見えないほどの猛威をふるい、韓国では空港・学校等が閉鎖され、わが国でも、九州で交通機関に影響が出たということです。 また、今日、世界の多くの国々では、水に関するさまざまな問題に直面しており、1998年(平成10年)の中国長江流域洪水では、3,000人以上が死亡し、2002年(平成14年)の南部アフリカにおける10年に一度といわれる干ばつでは、約1,300万人が深刻な食料危機に見舞われました。

所得層別人口の推移及びGDPの推移

1970年以降の世界の年平均地上気温の平年差の経年変化

世界の年間平均森林減少面積(1990―2000年)

地域別土壌劣化面積 土壌劣化の主要原因別

3 地球規模での社会、経済との関わりからみた環境の状況

 地球規模での環境に対する負荷の増大は、社会、経済と複雑に関わり合っています。

 例えば、経済のグローバル化は、環境に配慮した製品や技術の普及などを世界各国にもたらす一方、国際間の物流移動に伴うエネルギーの増大や有害廃棄物の越境問題を発生させるおそれなどももたらします。また、開発途上国における過耕作、過放牧、森林の再生能力を超えた伐採等による環境劣化は、十分な資源や食料の確保を困難にし、貧困に拍車をかけるばかりでなく、紛争の原因になったり、環境難民の発生をもたらしたりすることにもなります。

 人口増加と水問題の関係を見てみると、国連「世界水発展報告書」によると、人口増加に伴い、水需要が増加し一人当たり水供給量が明らかに減少しているとされていますが、途上国における人口増加と貧困を背景とした都市への人口集中が問題をより深刻なものとしており、都市では約1億7千万人、地方では約9億2千万人もの人々が安全な水供給を受けることができない状況にあります。安全な水が供給されず健康が損なわれると、生産性の低下、所得の減少をまねき貧困につながります。2015年(平成27年)までに世界人口は、約11億人増加し、その88%が都市に居住するようになると予測されており、特に都市における水供給体制の整備が必要になるとされています。

 環境、社会、経済が複雑に関わっている中で人類が生存していくには、地球の有限性を考えて社会経済システムに環境配慮を織り込む必要がありますが、人々の資源消費と自然の生産能力とを比較したWWF(World Wide Fund for Nature 世界自然保護基金)の試算によれば、世界全体の人々の資源消費は既に1970年代に自然の生産能力を上回っているとされています。これを踏まえると、日本人が地球の環境容量の中で生活するには、現在の資源消費量を半分以下にする必要があります。私たちは、持続可能な社会の構築に向けて実効ある取組を着実に進めていくことが必要です。

 

世界の人口増加と取水量の推移

世界の水・衛生へのアクセス状況

 

各国のエコロジカルフットプリント 世界のエコロジカルフットプリント

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