平成9年版
図で見る環境白書


 序説 環境危機の構図

 第1章 地球温暖化問題にどう取り組むか

  1 地球温暖化問題の状況

  2 温室効果ガス排出抑制対策のあり方

  3 地球温暖化防止のための政策の展開

 第2章 環境とのかかわりの中でどうのようにモノを利用していくか

  1 モノの利用の増大と環境への負荷

  2 廃棄物・リサイクル対策の推進

  3 環境汚染物質の適正な管理

  4 持続可能な未来に向けた生産・消費活動の変革

 第3章 足元からの取組の推進

  1 科学技術と環境

  2 取組の社会基盤の整備

  3 環境と経済の新しい関係に向けた取組

 第4章 環境の現状

 むすび



※表紙の絵は、イラストレーターのKUNTAさんが地球温暖化防止をテーマに環境月間にために描いた作品です。
 南極の氷が溶けて困っているペンギンや心配する動物たちを通じて、生命の星地球の環境を守る大切さを訴えています。



読者の皆様へ

 この小冊子は、去る6月3日に閣議決定のうえ公表された平成9年版環境白書の総説をもとに、その内容をやさしくかいつまみ、また、新しい写真なども加え、多くの方々に親しんでいただけるよう、編集し直したものです。
 本年は、ストックホルムで国連人間環境会議が開かれてからちょうど25年目に当たります。この間に、地球温暖化や生物多様性の喪失など、地球の生態系を損ない、将来世代にも大きな影響を及ぼし、人類の生存基盤を脅かすような問題が新たに浮上してきました。
 また本年は、6月に国連環境開発特別総会が、12月には地球温暖化防止京都会議がそれぞれ開かれるなど、地球環境にとって重要な年であると言えます。
 このような状況を踏まえ、本年の白書では、「地球温暖化防止のための新たな対応と責任」をテーマに、特に地球温暖化問題に焦点を当て、現状を分析するとともに具体的な対策を提言しています。また、近年非常に身近な問題になっている廃棄物問題や、化学物質による環境汚染の問題についても取り上げました。そしてこれらの問題を解決していくために、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会のあり方や、私たちの生活様式そのものを見直していくことを提案し、科学技術、教育、経済の各分野における様々な取組を紹介しています。
 この小冊子が、読者の皆様一人ひとりの環境保全に向けた具体的な活動への一助となることを願っております。



序説 環境危機の構図


この四半世紀の変化

 本年は、ストックホルムで国連人間環境会議が開かれてから25年目に当たります。この間、私たちを取り巻く環境問題は、大きく変化してきました。
 かつて私たちが経験した産業公害は、加害者が企業・事業者であり、被害者が特定の地域の住民であることが多かったのですが、近年の都市生活型公害や地球環境問題では、私たち自身が加害者にも被害者にもなり得る状況となっています。
 私たちが営んでいる日々の暮らしや、通常の経済活動が、地球温暖化や廃棄物問題の原因となっているのです。
 このような変化が生じているにもかかわらず、環境問題への対策や私たち国民の意識には、大きな進展があったとは言えません。様々な環境汚染はまだ改善されたわけではなく、従来の規制的な対策に代わる手段の導入も進んでいません。また一般国民が環境問題の解決のためにある程度の負担をする、という意識が薄いことも事実です。

環境に関する新聞記事量の推移
環境に関する新聞記事量の推移
(資料)環境庁作成
 (注)日経テレコンの新聞記事検索を用い、全国紙4紙の記事数を検索した結果。
    検索キーワード:環境保全・地球環境・大気汚染・水質汚濁・廃棄物・自然保護


 このような状況はなぜ起こったのでしょうか。まず、環境に関する情報や科学的知見が十分に国民に伝えられていないことがあげられます。また「日本の市民は、欧米と異なり、環境についての価値観や現状認識が、直接には環境保全活動に結びつかない」という、調査結果もあります。
 この意識と行動とのずれには、環境に悪い影響を与えると知っていても社会生活の必要上そのような行動をとらざるを得ないような、社会構造的な原因が存在することが考えられます。
 従って、環境保全対策が実際に効果をあげるためには、環境に対する私たちの意識を高めるだけでなく、環境保全行動を促すための動機付けが必要です。さらに、生活様式の変革とあわせて、環境保全のための経済社会システムの改革が必要となるのです。

こどもエコクラブの活動
こどもエコクラブの活動



第1章 地球温暖化問題にどう取り組むか


 地球温暖化は、最大の環境問題の一つといえます。本年12月には、地球温暖化問題についての人類の今後の取組が決定される気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3:地球温暖化防止京都会議)が、我が国の古都、京都で開催されます。我が国は、地球社会の一員として、そして、地球温暖化防止京都会議の開催国として、世界に先駆けて率先的な取組をしていく必要があるといえます。

1 地球温暖化問題の状況


 1860年アイルランドのティンダールが人の活動によって地球が温暖化する可能性を早くも指摘しています。19世紀末にはスウェーデンの物理化学者アレーニウスが大気中のCO2濃度が上がると気温が上昇することを指摘し、科学者の間でよく知られるようになりました。


地球温暖化のメカニズム

 地球の表面は、太陽光の放射エネルギーによって暖められ、宇宙にエネルギーを放出することによって冷えます。このエネルギーの出入りがバランスするよう、地表の温度は決まっています。地球の平均気温は理論上5℃となるはずですが、太陽光の放射エネルギーを反射する性質の物質(雲や火山から噴出した微粒子)による冷却効果(-23℃)と地表から宇宙への放射エネルギーを吸収する性質の物質(温室効果ガス)による温室効果(+33℃)のはたらきにより、実際には約15℃となっています。
 温室効果ガスは吸収した地表からの放射エネルギーをあらゆる方向に再放射するため、エネルギーの一部は宇宙に出て行きますが、残りは地表に戻り、地表の温度を上昇させます。
 人為的に排出される温室効果ガスには、CO2、メタン、亜酸化窒素、フロン等があります。

産業革命以降人為的に排出された温室効果ガスによる地球温暖化への直接的寄与度(1992年現在)
産業革命以降人為的に排出された温室効果ガスによる地球温暖化への直接的寄与度(1992年現在)
(出典)IPCC(1995)



CO2の循環

 約46億年前に地球ができた頃には、地球の温度は数千度あり、原始大気は水蒸気が約100気圧、CO2も約100気圧ありました。その後地球が冷え、海ができたため、大気中のCO2は海中に溶け、さらに海中で石灰岩となったり、また、誕生した植物の光合成により有機物となり、それが石炭や石油に姿を変えて蓄積されるなど、大気中のCO2は減少し続け、約2億年前にCO2濃度は現在に近いものとなりました。

温室効果ガスの濃度の推移(CO2
温室効果ガスの濃度の推移(CO<SUB>2</SUB>)
氷床コアの記録(D47、D57、サイプル(Siple)基地、南極点)による過去1000年間のCO2濃度と、ハワイのマウナロア(Mauna Loa)観測所における1958年以降のCO2濃度。氷床コアはすべて南極大陸で採取された。滑らかな曲線は100年移動平均。
(出典):IPCC(1995);気象庁訳


 現在、1年間に人為的に排出されている炭素量約71億トンのうち約半分の約33億トンは大気中に残留し、大気中のCO2濃度は毎年約1.5ppmvの割合で上昇を続けています。


既に生じている地球温暖化の影響

 産業革命以後、温室効果ガスの大気中濃度は著しく増加し、19世紀末からの100年間に、地表の平均温度は、0.3~0.6℃、海面水位は10~25cm上昇しています。

全球平均気温の推移(1861~1994)
全球平均気温の推移(1861~1994)
1861~1994年の陸上気温と海面水温を結合したもの(全球平均)の1961~90年の平均値からの偏差(℃)
(出典):IPCC(1995);気象庁訳


海面水位の変化(世界の主要地域の6つの長期検潮記録)
海面水位の変化(世界の主要地域の6つの長期検潮記録)
タラコディ(アフリカ)、ホノルル(太平洋)、シドニー(オーストラリア)、ボンベイ(アジア)、サンフランシスコ(北アメリカ)及びブレスト(ヨーロッパ)。各記録は、見易くするために、鉛直方向にずらしてある。各記録の20世紀におけるトレンド(mm/年)は、それぞれ、3.1、1.5、0.8、0.9、2.0及び1.3である。PeltierのICE-3Gモデルでシミュレートした後氷期の地殻の隆起(相対海面水位を下げる)は、上記の各地において、0.5mm/年程度もしくはそれ以下のオーダーである。
(出典)IPCC(1995);気象庁訳


過去100年間の海面水位の上昇に対する各要因の寄与(cm)の推計
過去100年間の海面水位の上昇に対する各要因の寄与(cm)の推計
(出典)IPCC(1995)気象庁訳


 また、今世紀になって、全球的な氷河の衰退や、いくつかの地域における極端な高温現象、洪水や干ばつの増加等が観測されています。
 我が国においても年平均気温はこの100年間で約0.9℃上昇しています。


地球温暖化に関する予測

※海面が1m上昇すると海抜0m以下となる地域(青い部分)
※海面が1m上昇すると海抜0m以下となる地域(青い部分)
(資料)国土地理院「地盤高図」により環境庁作成


 IPCCは、2100年にCO2の排出量が1990年の3倍弱(CO2濃度は1990年の約2倍)となる場合の予測(中位予測)では、2100年には1990年と比較して、全球平均気温は2℃、海面水位は約50cm上昇し、さらにその後も気温上昇は続くとしており、地球温暖化の進行を止めるには、CO2等の排出量を1990年を下回るレベルまで削減する必要があるとしています。
 温暖化による影響としては、気温上昇、海面上昇に伴う干ばつ、洪水等の異常気象や災害のほか、マラリア等の熱帯病発生地域の拡大、植生、食料生産への影響等が懸念されています。


地球温暖化対策に関する国際的な合意形成

 1992年の地球サミットにおいて「気候変動枠組条約」が締結され、先進国は、1)人為的な排出量を1990年代の終わりまでに従前の水準に戻すことの有用性を認識して政策・措置を講ずること、2)人為的な排出量を1990年の水準に戻すという目的を持って採用した政策・措置の詳細及び将来の排出量・吸収量の予測等について締約国会議に通報すること等が定められています。
 1995年ベルリンで開催された第1回締約国会合(COP1)では、1997年のCOP3で新たな国際的約束をとりまとめるべく、1)政策及び措置の詳細、2)例えば2005年、2010年、2020年といった特定の時間的な枠組みにおける数量目的について国際的検討を行うことが決定されています。

2 温室効果ガス排出抑制対策のあり方



世界の温室効果ガス排出状況

世界のCO2排出量(1994年)
世界のCO<SUB>2</SUB>排出量(1994年)
(出典)オークリッジ国立研究所(米国)


 人為的に排出される温室効果ガスの寄与度は、CO2が最も大きく、我が国のCO2排出量(約5%)はアフリカ大陸全体(約3.4%)、南米大陸全体(約3.1%)を大きく上回っています。
 世界の排出量の推移をみると、特に第2次大戦以降大きく増大しており、現在の排出量は1950年当時の4倍に達しています。
 1人当たりのCO2排出量は、我が国は、米国の約半分、EU平均より大きく、中国の約4倍、インドの約10倍となっています。先進国は開発途上国と比べ、1人当たり約5.5倍も排出しています。

世界のCO2排出量の推移
世界のCO<SUB>2</SUB>排出量の推移
(出典)オークリッジ国立研究所(米国)


各国の1人当たりCO2排出量(1994年)
各国の1人当たりCO<SUB>2</SUB>排出量(1994年)
(資料)オークリッジ国立研究所(米国)推計値及び総務庁統計局「世界の統計1997」より環境庁作成


 我が国の1人当たりのCO2排出量が先進国の中でも比較的小さいのは、1)工場・事業場における省エネルギーが進んでいること、2)気候が温暖であり、暖房用エネルギー消費が少なくてすむこと、3)周りを海で囲まれていることなどから貨物輸送における船舶等の大量輸送機関のシェアが高いこと、などによります。

鉄鋼業のエネルギー原単位の国際比較
鉄鋼業のエネルギー原単位の国際比較
(1994年:日本を100とした指数)
(出典)国際鉄鋼協会(Statistics on Energy in the Steel Industry)より日本鉄鋼連盟試算。
(注)1 フェロアロイ及びコークス製造用のエネルギーは含まない。
   2 鉄鋼比等により補正を行った比較である。
   3 米国は1991年の原単位で指数比較している。


用途別世帯当たりエネルギー消費の国際比較(構成比)
用途別世帯当たりエネルギー消費の国際比較(構成比)
(注)アメリカの厨房用はその他に含まれる。
(出典)(財)日本エネルギー経済研究所「家庭における省エネルギーの国際比較」



我が国の温室効果ガス排出状況について

 我が国の各温室効果ガスの寄与は、CO2が95%を占め、また、CO2排出量の91.7%がエネルギー消費に起因しています。エネルギー消費に伴うCO2排出量は、近年、増加傾向を示しており、特に、民生、運輸部門では大きく増加しています。

我が国のCO2排出量の部門別内訳(平成6年度)
我が国のCO<SUB>2</SUB>排出量の部門別内訳(平成6年度)
(注)1 四捨五入のため、シェアの合計は必ずしも一致しない。
   2 パーセント表示は、排出総量に対する割合を示したものである。
   3 発電による排出量(排出総量の29.4%)は、各部門の電力使用量は応じて配分され、その割合は、(部門ごとの割合―直接燃焼分)で示される。ただし、産業部門には潤滑油の消費に伴う分(0.4%)が含まれる。
(資料)「総合エネルギー統計」等により環境庁推計


我が国のCO2排出量とGDPの推移
我が国のCO<SUB>2</SUB>排出量とGDPの推移
(資料)資源エネルギー庁長官官房企画調査課「総合エネルギー統計 平成8年度版」、経済企画庁「国民経済計算報告(昭和30年~平成6年)」等から環境庁作成


 運輸部門のCO2排出量が著しく増大している背景には、我が国の輸送量が経済成長に伴い着実に増加してきていること、運輸部門からのCO2排出量の87%を占める自動車の燃費(ガソリン乗用車(新車))が、昭和57年度をピークとして少しずつ悪化していることがあります。

国産ガソリン乗用車(新車)の燃費平均値(加重調和平均)の推移
国産ガソリン乗用車(新車)の燃費平均値(加重調和平均)の推移
 (注)昭和51~平成3年度:10モード燃費値
    平成3年度~   :10.15モード燃費値
(資料)運輸省「運輸関係エネルギー要覧」より環境庁作成


各国・地域の人口千人当たりの自動車保有数(1995年)
各国・地域の人口千人当たりの自動車保有数(1995年)
(資料)(社)日本自動車工業会「主要国自動車統計」ほかより環境庁作成


 民生部門のCO2排出量が大幅な増加を続けている背景としては、エネルギー利用機器の普及が進んだこと、個別の機器のエネルギー効率の改善が近年あまり進んでいないこと等が挙げられます。

家庭用電力消費の伸び
家庭用電力消費の伸び
(出典)電気事業連合会



エネルギー利用に伴うCO2の排出量の抑制の考え方

 CO2の排出を抑制していくためには、1)一次エネルギー投入量をできるだけ小さくしていくことと、2)投入されるエネルギーの種類をできるだけCO2排出量の少ないエネルギー源に転換していくことが必要です。

我が国におけるエネルギー供給・消費のフローチャート
我が国におけるエネルギー供給・消費のフローチャート
(備考)平田 賢 東京大学名誉教授 作成
    (数字は各年度の一次エネルギー国内供給に占める割合)


 我が国の一次エネルギー投入量のうち有効に利用されているのは、平成6年度は33%に過ぎず、67%が排熱等の形で直接環境中に捨てられており、しかもその割合は増加しつつあります。
 一次エネルギー投入量をできるだけ小さくしていくためには、1)エネルギーを有効に活用し、この67%の損失の比率をできるだけ小さくしていくことと、2)有効に活用されているエネルギーの絶対量をできるだけ小さくしていくことが必要です。


産業部門とエネルギー転換部門からの排出の抑制

 化石燃料を燃焼させてエネルギーを得る場合、高温から低温まで様々な利用が可能です。高温の熱からは様々な動力や熱に変換できる上質のエネルギーである電力を取り出すことができ、低温の熱は暖房や給湯用にそのまま熱として利用できます。
 このように、エネルギーの段階的な利用を進めることによって、エネルギーの損失を少なくすることが可能となります。

温度差による段階的な熱利用
温度差による段階的な熱利用
(出典)平田 賢著「省エネルギー論」


コージェネレーションの幅広い導入

 コージェネレーションとは、燃焼により発生する熱の高温部から発電に用いる動力を、動力が作られる際に生ずる低温の熱を同時に取り出すもので、電力需要と熱需要を適切に組み合わせ、両方を使い尽くせば、総合エネルギー効率が80%以上にまで向上します。

コージェネレーションと従来のシステムのエネルギー効率比較例
コージェネレーションと従来のシステムのエネルギー効率比較例
 (注)コージェネレーションについて電力需要と熱需要が適切に組み合わされ、両方を使いつくした場合の例
(資料)環境庁


 我が国のコージェネレーションの設備容量は、1995年度末現在、総発電設備容量の約1.6%を占めています。ヨーロッパ諸国では、コージェネレーションの普及を今後の重要なCO2削減対策として位置付けており、2000年のCO2排出量を1990年に対しオランダは3.7%減、デンマークは7.9%減、イギリスは4~8%減とするとしていますが、3国ともその主要な対策の一つとしてコージェネレーションの普及を挙げています。
 これまで、コージェネレーションから得られる電力と熱は、ほとんどコージェネレーションを設置した工場・事業場の中だけで利用されてきました。しかし、得られた電力や熱をコージェネレーションを設置した工場・事業場の中だけではなく、社会全体で利用することができるようになれば、コージェネレーションの普及は一層進み、CO2の排出量を削減することが可能になります。
 このため、今後、コージェネレーションの普及のための一層の社会システムの整備や、制度改善、技術開発が必要です。
コンバインドサイクルによる発電
 現在の火力発電の方式では、熱効率は40%程度が限界ですが、高温のガスでタービンを回して発電した後、その排ガスの温度を利用して蒸気を作り、さらに通常の汽力方式の発電を併せて行なう「コンバインドサイクル」発電を行うと、熱効率は50%以上に上昇します。このため、その導入の促進が重要です。
工場の排エネルギーの社会的利用
 我が国のエネルギーを多く使う工場では、自工場内で可能な省エネルギー対策は相当進んでいます。経済性や、回収しても温度レベルが低いために工場内ではもはや利用先が少ないことから、有効に利用されずに捨てられるエネルギーも多く残っています。
 工場の排エネルギーを工場外で使う方法としては、熱として使うことと電気に変換して使うことが考えられ、例えば、鉄鋼業の排エネルギーのうち約27%分(鉄鋼業の投入エネルギーの約10%に当たる)は、地域熱供給のための熱源とすることが可能とされています(東京23区の民生部門の熱需要の約7%に相当)。

鉄鋼業のエネルギー消費の内訳
鉄鋼業のエネルギー消費の内訳
(資料)日本鉄鋼連盟「一貫製鉄所の未利用エネルギー」より環境庁作成



CO2の排出量の少ないエネルギー源の利用の促進

 エネルギーの利用に伴うCO2の排出を抑制していくためには、エネルギー源をできるだけCO2の排出量の少ないものへ転換していくことが重要であり、天然ガスの導入、安全性の確保を前提とした原子力の利用、太陽光発電等の新エネルギーの利用を推進することが重要です。




太陽光発電・風力発電
 太陽光発電は、現状では通常の発電方式に比べコストは高いが、大量に導入することになれば大幅にコストダウンすることが期待されています。このため、通商産業省では、住宅用太陽光発電システムの導入補助事業を平成6年度から実施しています。
 また、環境庁では、清涼飲料自動販売機への太陽電池の導入のため、関係業界を交えた検討を進め、清涼飲料製造者、太陽電池製造業者、自動販売機製造者等がお互いに協力し、清涼飲料自動販売機の全数の1割を目標として太陽電池の導入を図る方針について合意しています。
 また、風力発電の開発、導入も期待されています。

世界の風力発電設備容量(1996年末時点)
世界の風力発電設備容量(1996年末時点)
(出典)WIND POWER MONTHLY


廃棄物発電

 廃棄物発電は、廃棄物を焼却する際に発生する廃熱を利用して発電するシステムであり、CO2排出量削減が期待されています。
 廃棄物発電を促進する方法として、1)電力会社への売電、2)地方公共団体の他部門での利用という2つの方法があります。
 まず、電力会社への充電については、電力会社の提示する売電価格で売却することについて環境庁の試算によれば、現状のままでは必ずしも経済的メリットが十分ではありません。

廃棄物発電に関する試算
廃棄物発電に関する試算
(注)1 直線1)は、廃棄物発電の費用関数
     直線2)は、売電による収入関数(売電単価8.2円/kWh)
     A点は、現状の場合の損益分岐点
     B点は、現在の損益状況を表している。(費用が収入を上回っている。)
   2 損益分岐点(A点)とは、費用と収入が一致する点のことである。
     損益分岐点を超える出力であれば利益が生じるが、それ以下では損失が生じる。
(資料)埼玉県東部清掃組合の資料に基づき、環境庁作成


 また、平成7年の電気事業法の改正により導入された入札の方法については、入札の競争状態がかなり厳しく、また、通常の廃棄物発電は昼間と夜間で出力調整を行うことが困難であることから、廃棄物発電が入札に参加することは困難な状況にあります。
 また、地方公共団体の他部門での利用については、電力会社の送電網を利用すること(自己託送)ができれば、そのコスト如何によるが、同一地方公共団体での利用が促進される可能性があります。廃棄物発電を促進することは、CO2抑制の観点からも大きな効果が期待されており、そのための一層の社会システムの整備が必要です。


運輸部門からの排出の抑制

 運輸部門からのCO2の排出を抑制するためには、まず交通機関、特に自動車単体からのCO2の排出量を減らすことが必要です。

運輸部門の輸送機関別CO2排出量内訳(平成6年度)
運輸部門の輸送機関別CO<SUB>2</SUB>排出量内訳(平成6年度)
(資料)運輸省「運輸関係エネルギー要覧」、通商産業省「総合エネルギー統計」ほかにより環境庁推計


低公害車の導入

原油を一次エネルギーとする場合の改造(コンバート)電気自動車とガソリン自動車のエネルギー効率
原油を一次エネルギーとする場合の改造(コンバート)電気自動車とガソリン自動車のエネルギー効率

各段階のエネルギー効率をかけ合わせて総合効率を算出した。
(出典)清水 浩「近未来交通プラン」より改変

 電気自動車は、発電と送電の効率を含めた全体としてのエネルギー効率がガソリン車よりも1.5~1.8倍優れており、NOx、CO2が大幅に削減されます。この電気自動車をはじめ、天然ガス車、メタノール車、ハイブリッド車などの低公害車を大量に普及させていくことが必要となります。
 アメリカ合衆国カリフォルニア州では、州の法律と低公害車導入プログラムにより、2003年から販売される車両全体の10%以上を無公害車(「ZEV」、現在これに適合するのは電気自動車のみ)とすることなどを義務づけました。これは、電気自動車の技術開発と導入の推進に大きな効果を発揮しています。

高性能電気自動車「ルシオール」   国立環境研究所提供
高性能電気自動車「ルシオール」   国立環境研究所提供

国民一人ひとりの取組
 環境庁では平成8年度から、「アイドリング・ストップ運動」を推進しています。私たち国民一人ひとりが、不要不急の自家用自動車使用を控え、経済的な運転を心がけるなど、日常生活の中で環境への負荷を少なくさせることが重要です。

不経済運転によるむだな燃料消費の例
不経済運転によるむだな燃料消費の例

(資料)「夏季(冬季)の省エネルギー対策について」「省エネルギー・省資源対策推進会議決定」に基づく普及広報資料から作成


民生部門からの排出の抑制

業務部門
 業務部門では、建築物の断熱構造を強化するとともに、省エネルギー型の冷暖房設備、照明設備等を導入することにより、大きな効果が期待されています。
家庭部門
 家庭部門でも、複層ガラスや断熱サッシの導入、天井、壁、床といった外部との境界面への断熱建材の使用等により、住宅の断熱効果を高めることが有効です。

断熱基準値(天井の熱貫流抵抗)の推移の国際比較
断熱基準値(天井の熱貫流抵抗)の推移の国際比較
(出典)(財)日本エネルギー経済研究所「家庭における省エネルギーの国際比較」

 また、家電製品へのタイマーやマイコンの内蔵に伴い、待機時の消費電力が増加しているため、今後、製造者は個別のエネルギー利用機器のエネルギー効率の改善にさらに努めるとともに、利用者側も省エネルギー型機器を選択することが重要です。

身の回りでの省エネルギー行動についての提案とその効果についての試算
身の回りでの省エネルギー行動についての提案とその効果についての試算
(資料)通商産業省の試算したデータにより環境庁作成

ライフスタイルの転換
 日常生活のちょっとした心がけがCO2の排出削減につながり、その積み重ねが大きな効果をもたらします。地球温暖化防止のためには、大量消費、大量廃棄型のライフスタイルそのものの見直しが必要となっており、国民一人ひとりがどこまで取り組むことができるかが、地球温暖化問題への対策の成否を左右する大きなカギといえます。

3 地球温暖化防止のための政策の展開



規制的措置

 我が国には、現在のところ、温暖化を目的とした規制はありません。温暖化問題をすべて規制によって管理することは現実的ではありませんが、国民の間に温暖化防止の重要性の認識が高まり、規制的措置を受け入れる措置ができれば、今後有効な規制的措置を導入・強化することの可能性について積極的に検討を行うことが必要です。
 また、CO2の排出抑制に資する取組を阻害する規制については当該規制目的の合理性、必要性の有無を十分検討し、規制を緩和していくことも重要です。


経済的な手法

 炭素税等の経済的負担を課す措置については、有効性が期待され、既に北欧諸国等5カ国で炭素税が実施されており、スイス、ニュージーランドでもその導入が検討されています。
 我が国においても各方面で検討されているところであり、今後その具体的な案を国民の前に明らかにし、その導入について検討するとともに、国民的な議論の展開を図ることが必要です。


自主的な取組の促進

1)産業界は最大のCO2排出部門であり、今後さらに自主的なCO2排出削減が求められています。近年、企業や業界団体において多くの取組が行われており、自主的な行動計画や意欲的な目標を掲げているところが出てきています。
2)国民一人ひとりが大量消費、大量廃棄型のライフスタイルを改めていくことが重要ですが、この面での動きはまだ芳しいものではありません。国民一人ひとりが、手間の増加、ある程度の利便性の低下、経済的負担の増加となっても、将来世代のために行動することが必要です。
3)環境NGOとして活動している団体は、地球温暖化防止に向けた国民の取組の中で地域のリーダー的な役割が期待されています。

各国における現行の炭素税の内容
各国における現行の炭素税の内容
(注)1 1tC(炭素トン)=3.67tCO2(二酸化炭素トン)=ガソリン1,555リットル
   2 DKr=19円、FMK=25円、DGL=66円、NKr=19円、SKr=16円とする。(平成9年3月31日現在の換算レート)
(資料)環境庁


観測監視の推進

 温暖化対策にはその基礎となる観測の実施、温暖化の機構解明、将来予測に関する研究が不可欠です。我が国は、この面で世界に貢献していくとともに、我が国を含めたアジア地域に及ぼす影響についても研究を行うことが求められています。


技術の開発・普及

 既存のCO2削減技術を適切に評価し、これを積極的に普及していくことが重要です。
 また、長期的に相当量のCO2の発生量を削減するためには、革新的な技術を開発し、その普及を図っていくことが不可欠です。21世紀末に世界全体が現在の我が国のエネルギー効率に達したとしても温暖化は防止できないのです。このため、我が国をはじめとする先進国は世界に先駆けて温暖化防止技術の開発、導入を行うことが求められております。


国際協力の推進

 我が国は、世界の成長センターであるアジア地域に重点を置きながら環境協力を進めていくことが必要です。
 なかでも、省エネ技術の移転は、世界全体のCO2排出削減に寄与するとともに、硫黄酸化物等の地域的な大気汚染の防止や、工場のエネルギーコストを削減、製品自体の安定化等に寄与するなど二重、三重のメリットを有しており、強力に推進していく必要があります。


今後の取組の基本的な考え方

 我が国は2度の石油危機を契機として、脆弱なエネルギー需要構造に対処するためにエネルギー利用の効率化を進めてきましたが、今や環境保全という別の利益から取り組むことが必要となっており、社会経済活動を全面的に見直す必要が生じています。
 そのためには、痛みを伴います。しかし、痛みがあるからといって何もしなければ、人類、あるいは人類を含む地球上の様々な生物は、かえって大きな被害を被ることになります。
 したがって、京都会議は、人類の英知と行動を問うています。現在世代の人類の責任として、次の3つの基本的な考え方が必要です。





我が国の国内での対応

 我が国のこれまでの対策は十分とは言えません。我が国は京都会議でのホスト国として、国内対策の盛り上がりの中で会議を迎えることが不可欠です。このためには次の3つのことが必要です。






第2章 環境とのかかわりの中でどのようにモノを利用していくか


1 モノの利用の増大と環境への負荷



生産・消費の増大に伴い高まっている環境への負荷

 産業革命以来、先進国を中心として世界の経済活動は拡大の一途をたどってきました。特に、我が国は平成8年までの40年間で実質国内総生産(GDP)が9.4倍にも拡大するなど急激な経済発展を遂げ、私たちの暮らしは、「物質的な豊かさ」に恵まれるようになりました。
 実際、自動車、家電製品等の保有台数・普及率を見てみると年々増加しており、今やカラーテレビ、ルームエアコンが一家に2台以上ある家は少なくなくありません。

主な耐久消費財の保有数量の推移(100世帯当たり)
主な耐久消費財の保有数量の推移(100世帯当たり)
(資料)経済企画庁「家計消費の動向―消費動向調査年報」より環境庁作成

 このような今日の私たちの社会経済活動やライフスタイルは、経済効率や快適性・利便性を追求るあまりに大量生産・大量消費型となり、多大な資源を必要とするものとなっています。
 我が国における物質の利用の状況をマテリアル・バランス(物質収支)で見てみると、平成7年における我が国の物質利用総量は22.1億tにも上っています。

我が国のマテリアル・バランス(物質収支)
我が国のマテリアル・バランス(物質収支)

(注)水分の取り込み(含水)等があるため、産出側の総量は物質利用総量より大きくなる。
(資料)各種統計より環境庁試算


 このような経済活動の拡大と高度化に伴って、環境の復元能力を超えた資源採取による資源の減少と、不用物の環境中への排出による環境汚染の問題が生じています。特に今日では、廃棄物の排出量の増大と質の多様化による環境影響や、有害な化学物質による環境影響が大きな問題となっています。

ごみの処理フロー(平成5年度)
ごみの処理フロー(平成5年度)
(注)1 統計上のごみの排出量には、他に自家処理量(96万t/年)が含まれる。
   2 単位未満は四捨五入してあるため、合計の数字と内訳の計が一致しない場合がある。
(資料)厚生省資料より環境庁作成


 21世紀に向けて私たちの経済社会を持続的に発展させていくためには、現在のモノの利用のあり方を見直し、環境を損なう量や質の物質の環境中への排出を可能な限り抑制して、経済社会システムの中で物質が循環するようにしていくことが必要です。
 このためには、取組としては、廃棄物、リサイクル対策、環境汚染物質の適切な管理を進めていくことが特に重要です。

2 廃棄物・リサイクル対策の推進


 我々の社会経済活動が、大量生産・大量消費・大量廃棄型となり、高度化していくにつれて、廃棄物の排出量の増大、廃棄物の質の多様化、最終処分場への国民の信頼の低下等の問題が生じています。平成5年度に最終処分された廃棄物は約1億t(一般廃棄物約1500万t、産業廃棄物約8400万t)にも上り、この容積を推計すると東京都のJR山手線の内側(約65平方キロメートル)に約1.5m積み上げた量に相当します。
 このような廃棄物の大量発生に伴って、資源の採取から廃棄に至る各段階での環境への負荷が高まっていることを踏まえると、モノの利用に伴う環境への負荷を総体として低減していくためには、廃棄物・リサイクル対策を推進していくことが特に重要です。


廃棄物の発生抑制

 資源・エネルギーの浪費とも言える大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動やライフスタイルによって、資源の採取から廃棄に至る各段階での環境への負荷が高まっています。このことを考慮すると、第一に、現在の生産と消費の様式を問い直して、製品等のライフサイクルの全段階において、廃棄物の発生を抑制していかなければなりません。また、環境汚染を未然に防止するため、廃棄物中の有害な物質の含有量を削減する必要があります。
 廃棄物の発生を抑制するためには、事業者においては、過剰包装の自粛、製品の長寿命化を図るなど、製品の開発・製造段階、流通段階での配慮を行うことが必要です。消費者においては、浪費型のライフスタイルの見直し、使い捨て製品の使用の自粛等を進めていくことが求められます。
 廃棄物の発生抑制対策として、廃棄物の処理や環境への負荷が大きい製品に対する環境税・課徴金の制度が考えられます。このような環境税・課徴金は、欧米諸国を中心として多くの国において活用されています。

OECD加盟国における廃棄物処理・製品に係る環境税・課徴金の概要(1997年1月現在)
OECD加盟国における廃棄物処理・製品に係る環境税・課徴金の概要(1997年1月現在)
 (注)この表には、州又は地方レベルで課せられている税・課徴金は含まれない。
(出典)OECD “Evaluating Economic Instruments for Environmental Policy”より環境庁作成


 我が国の一部の市町村において導入されているごみの処理手数料制度も、廃棄物の発生抑制に有効です。平成元年7月から家庭系・事業系を問わずすべてのごみ処理の有料化を実施している北海道伊達市では、有料化の実施前と比較して、ごみの排出量が2~3割減少しています。

北海道伊達市のごみ排出量の推移
北海道伊達市のごみ排出量の推移
 (注)粗大ごみ及び生活排水汚泥は含んでいない。
(出典)伊達市清掃センター資料より環境庁作成



使用済製品の再使用(リユース)の推進

 使用済製品をその形状のまま再使用すれば、一般的に廃棄物の排出量の抑制に寄与するとともに、製品の原材料の採取、製造等に伴う環境への負荷を生じさせません。このため、発生した廃棄物については、総合的な環境への負荷を考慮した上で、使用済製品の再使用(リユース)を重点的に進めていくべきです。
 こうしたリユースは、中古品、中古車等として行われているほか、容器包装のうちリターナブル容器、リフィラブル容器等で実施されています。しかしながら、リターナブルびんの使用量を見てみると、流通システムや消費者の志向の変化等により近年では減少してきています。


リターナブル容器
 ボトラー等において再充填(てん)される容器。ビールびん、一升びん、清涼飲料用びん等で実施されている。
リフィラブル容器
 消費者や販売店において再充填される容器。洗剤、シャンプー・リンス等で実施されている。


ガラスびんの使用数量と回収数量
ガラスびんの使用数量と回収数量
(注)1 昭和55年の調味料びんの数値は、「その他びん」に含まれる。
   2 「その他びん」は食品びん等で、このうち牛乳びんはリターナブルされているが、回収品目外のため除外している。
(出典)全国壜商連合会資料


 諸外国においては、欧米諸国を中心として、主に廃棄物の排出量削減の目的でリターナブル容器の使用を促進することとしており、そのための法制度が整備されています。例えば、デンマークでは、ビールと清涼飲料の容器についてはリターナブル容器の使用を義務付けるとともに、金属容器の使用を禁止しています。フィンランド、ベルギー及びノールウェーでは、ワンウェイ容器に対し課税することによりリターナブル容器の使用を促進しています。
 環境庁では、プラスチック製のリターナブル容器の普及を図るため、モデル事業を実施しています。平成9年度には、商品化に向けて、具体的な製造・流通・回収等のシステムの設計を進めることとしています。


適正なリサイクルの推進

 リユースを図ることができないものは、回収されたものを原材料として利用するリサイクル(マテリアル・リサイクル)を可能な限り行うべきです。マテリアル・リサイクルは、天然資源から原材料を生産する場合と比べて、天然資源やエネルギーの消費を抑制するとともに、環境への負荷を少なくすることができます。また、廃棄物の処理における環境への負荷の低減にもつながります。
 マテリアル・リサイクルが技術的な困難性、環境への負荷の程度等の観点から適当ではない場合には、環境保全対策に万全を期した上で、廃棄物のエネルギーとしての利用を推進する必要があります。

容器包装廃棄物のリサイクルのフロー
容器包装廃棄物のリサイクルのフロー
(資料)厚生省


 リサイクルを推進する制度としては、再生資源利用促進法、容器包装リサイクル法等があります。平成9年4月からは、容器包装リサイクル法に基づいて、アルミ製容器包装、スチール製容器包装、ガラス製容器、飲料用紙製容器及びポリエチレンテレフタレート(PET)製容器の分別収集及び再商品化が開始されています。
 これらにより、リサイクルは年々進められてはいますが、逆有償でなければ引き取られない再生資源も多く存在しています。このため、更にリサイクルを促進する経済社会システムへ転換していくことが求められています。特に、有害な物質が含まれている家電製品や自動車の廃棄台数は増加傾向にあり、これらの製品のリサイクルシステムの構築・整備を進めるとともに、制度化について具体的な検討を行っていく必要があります。
 また、リサイクルされる廃棄物に含まれる重金属等の有害な物質に起因する土壌汚染・地下水汚染等の可能性も懸念されており、このような有害廃棄物等のリサイクルに伴う環境汚染防止対策についても検討する必要があります。

再生資源の集団回収標準仕切価格の推移
再生資源の集団回収標準仕切価格の推移
(注)仕切価格が設定されていない月は前月の価格としている。
(出典)東京都資源回収事業協同組合資料より環境庁作成


家電製品と自動車の廃棄台数の推移(推計)
家電製品と自動車の廃棄台数の推移(推計)
(出典)(財)家電製品協会資料、(財)自動車検査登録協会「わが国の自動車保有動向」より環境庁作成


廃棄物の適正な処理

 リサイクルが見込めなくて最終的にやむを得ず排出される廃棄物については、焼却、破砕、選別、脱水等の適切な中間処理を行い環境への影響を極力少なくした上で、埋立て等の最終処分を適正に行う必要があります。また、埋立て終了後の最終処分場は、適正に管理していくことが必要です。
 その一方で、最終処分される廃棄物の量は、減量対策の進展、景気の停滞等により近年減少しているものの、依然として高い水準で推移しています。こうした状況を招いている要因の一つには、廃棄物の最終処分費用に環境対策費用が十分に反映されていないことが多いことが考えられます。

ごみの排出量・最終処分量の推移
ごみの排出量・最終処分量の推移
(資料)厚生省資料より環境庁作成

 これらの最終的に排出される廃棄物の処理の問題については、処理施設の設置・運用に伴う環境影響への懸念から、住民の間に根強い不安が存在しています。一方、不法投棄をはじめとして不適正な処理がなされるケースも跡を絶ちません。
 このような産業廃棄物の最終処分場の逼迫(ひっぱく)、不法投棄等の問題を踏まえて、廃棄物の適正な処理を確保するために、政府は、平成9年3月、1)廃棄物の減量化・リサイクルの推進、2)廃棄物処理に関する信頼性と安全性の向上、3)不法投棄対策等を内容とする廃棄物処理法の一部改正法案を国会に提出しました。
 また、環境庁では、廃棄物の最終処分等に係る基準の見直し・強化等について検討していくこととしています。

3 環境汚染物質の適切な管理



化学物質による環境汚染問題の特徴

 今日、化学物質は、世界では約10万種、我が国でも約5万種が流通していると言われています。これらの物質は、人の生活や社会にとって必要とされる一方で、人の健康や生態系に不可逆的な影響を及ぼす可能性があり、また、回復可能であっても回復に相当の時間と労力を要する場合があると考えられます。
 今日の化学物質による環境汚染問題は、多数の化学物質の暴露による人の健康や生態系への影響の問題が中心となっています。その特徴としては、次のようなものが挙げられます。
1) 影響の出現に閾(いき)値がない毒性を有すると評価される化学物質の例が知られており、実質上安全とみなし得るレベルを設定し、対策を検討する必要があること。また、定性的な評価のみが示されている化学物質もあり、これらについては影響の程度を種々の方法で推定する必要があること。
2) 化学物質の種類は増え続けており、環境中への排出の形態、発現する影響も多種多様であること。
3) 複合的影響についてはほとんど未解明であること。
 一方、既に使用されている化学物質の多くについては、環境影響の評価が行われていない状況にあります。


環境リスク評価の充実と系統的な情報の収集

 今日の化学物質による問題に対しては、少数の個別物質による比較的高濃度の汚染に起因する健康問題を対象に進められてきた従来の個別物質の規制を中心とした手法だけでは十分ではありません。このため、化学物質が環境の保全上の支障を生じさせるおそれを「環境リスク」として広くとらえて、環境リスクを最小限に抑えるという考え方に立ち、化学物質の環境リスクを総体として低減させる対策を体系的・総合的に購じる必要があります。
 このためには、化学物質の性状、発生源、排出の状況等の情報を可能な限り定量的に把握することが必要であり、できる限り多くの化学物質について速やかに環境リスク評価を行わなければなりません。したがって、多種多様な化学物質について、環境リスク評価を行い得る情報を系統的に収集し蓄積するよう、一層の努力を行う必要があります。
 燃焼過程や化学物質の合成過程など多様な発生源で非意図的に生成し、極めて毒性が強いダイオキシン類については、環境庁及び厚生省において平成8年にリスク評価が行われました。


環境リスク

 「リスク」とは、人間の活動に伴う望ましくない結果とその起こる確率を示す概念です。人間にとって好ましくない出来事を「発生の不確かさ」と「影響の大きさ」で評価するのがリスクの基本的な考え方です。例えば、影響が相当大きなものであっても、その発生する確率がほとんどなければ、リスクは小さいと評価されます。
 「環境リスク」とは、人の活動によって加えられる環境への負荷が環境中の経路を通じ、環境の保全上の支障を生じさせるおそれ(可能性)を示す概念です。



環境リスクの包括的な管理

 化学物質による環境リスクを効果的に低減するためには、まず、物質ごとに環境リスクの大きさを適切に評価し、その結果に基づいて、規制、誘導等の政策を実施する必要があります。さらに、多種多様な潜在的に有害な物質全体を視野に入れて、環境リスクを総体として低減させることができる包括的な管理システムを構築することが重要です。
 また、社会の各主体間の情報交換を通じて、関係者の共通理解の形成を図る「リスク・コミュニケーション」の推進や、化学物質の生態系への悪影響を防止することも重要な課題となっています。


PRTR制度の構築に向けた取組

 多数の化学物質に係る環境リスクを適切に管理していく新たなアプローチが、今日求められています。このため、OECDが加盟各国に「環境汚染物質排出・移動登録」(PRTR=Pollutant Release and Transfer Register)制度の導入を勧告しており、OECD諸国のみならず、数多くの国でその導入が試みられています。
 PRTRとは、OECDによれば、「様々な排出源から排出又は移動される潜在的に有害な化学物質の目録又は登録簿」とされています。PRTRのシステムは、規制・未規制を含む潜在的に有害な幅広い物質について、事業者が環境媒体(大気、水、土壌)別の排出量と廃棄物としての移動量を自ら把握して、これを透明かつ客観的なシステムの下、何らかの形で集計し公表するものです。

OECDのガイダンス文書によるPRTRの仕組み
OECDのガイダンス文書によるPRTRの仕組み
(資料)環境庁


 PRTR制度は、既に欧米諸国を中心として導入されています。EU全体としては、主要な環境汚染物質についてデータ収集・公表のためのシステムの導入が検討され、更にOECD諸国に限らず多くの国で導入の検討が行われています。
 我が国でも、環境庁において包括的な化学物質対策の検討が進められています。平成8年6月には検討の取りまとめが行われ、1)系統的な情報の収集と環境リスク評価の充実、2)化学物質の包括的な管理、3)情報の提供と各主体の取組の促進の3つを化学物質リスク管理の課題とした上で、PRTRをこの解決のための中心的方策として位置付けています。

各国のPRTR制度
各国のPRTR制度
(資料)環境庁



製品に含まれる有害な物質の削減

 家電製品や自動車等に含まれる有害な物質に起因する環境汚染の防止を図るためには、有害な物質がリサイクルが可能な部品に用いられている場合には、部品の回収の促進による有害な物質のリサイクルの徹底を図る必要があります。
 新たに製造される製品については、製品中の有害な物質の含有量の段階的な削減を目指していくことが必要です。また、リサイクルのできない拡散型の利用に対する有害な物質の利用は、可能な限り抑制していくという姿勢が求められるでしょう。この場合、有害な物質の環境への排出量に関する目標の設定も有効であると考えられます。


オゾン層保護対策の推進

 CFC等の主要なオゾン層破壊物質については、オゾン層保護法に基づき、既に生産規制が実施されています。しかし、過去に生産され、冷蔵庫、カーエアコン等の中に充填された形で存在しているCFC等が相当量残されており、こうしたCFC等の回収・再利用・破壊の促進が課題となっています。
 このため、政府は、平成7年6月にCFC等の回収・再利用・破壊の促進方策を取りまとめました。これを受けて、多くの地方公共団体が、廃冷蔵庫からのフロン回収等に取り組んでいます。

4 持続可能な未来に向けた生産・消費活動の変革


 経済社会システムにおける物質循環を確保し、持続可能な社会を築いていくためには、製品等の原料採取から廃棄に至る各段階において、総合的に環境への負荷を低減していくことが必要です。そのためには、経済活動において占める割合が大きい生産・消費段階における環境保全への配慮が重要となります。
 製品等についての中心的な意思決定は事業者により行われています。このため、製品等の製造、消費、廃棄等における環境への負荷を低減する取組を生産段階において進めることが必要です。消費段階における取組としては、環境への負荷が少ない製品等を積極的に利用していくことなどが重要です。
 循環型の経済社会システムを構築するためには、廃棄物・リサイクル対策の目標の設定について検討を進めることも必要です。デンマークにおいては、リサイクル率を1993年(平成5年)の50%から2000年(平成12年)には54%に高め、埋立量を26%から21%に減らす目標が立てられています。
 また、ドイツでは、1996年(平成8年)10月に「循環経済・廃棄物法」が施行されました。この法律は、生産から廃棄まで廃棄物発生の少ない循環を基調とする経済活動を目指そうとするものであり、我が国における取組の今後の参考となるものと考えられます。

デンマークにおける廃棄物の処理方法別の目標
デンマークにおける廃棄物の処理方法別の目標
 (注)括弧内は、廃棄物全体に占める割合
(出典)デンマーク環境保護庁資料より環境庁作成



第3章 足下からの取組の推進


1 科学技術と環境


科学技術と環境の関係

 科学技術は、環境に対し大きな影響をもたらしています。例えば、フロンのように、開発後40年以上経過してから環境を破壊することが指摘されたものもあります。
 また一方で科学技術は、環境の現状の把握、環境汚染のしくみの解明、環境の改善、といった各段階で環境保全のために重要な役割も果たしています。
 今、私たちが直面している環境問題を解決するためには、科学技術の活用が不可欠であることはいうまでもありません。科学技術に携わる方に対しては、常に環境への影響を考慮していくことが望まれます。


環境政策における科学技術基盤の強化

 日本における科学技術関係経費の状況は下・右図のとおりです。
 今後、環境政策にかかわる科学技術を強化するため、次のような取組を推進する必要があります。
1)対処療法型から、予見・予防型への脱皮・転換
2)全部門を対象とした科学技術の開発・研究
3)政策科学の分野における研究開発
4)新しい科学技術を支援するための取組


科学技術関係経費の伸び(62年度を100とする指数)
科学技術関係経費の伸び(62年度を100とする指数)

 (注)平成8年度以降、対象となる経費の範囲が見直されている。
(資料)科学技術庁による集計から環境庁作成。


科学技術関係経費の推移
科学技術関係経費の推移

 (注)平成8年度以降、対象となる経費の範囲が見直されている。
(資料)科学技術庁による集計から環境庁作成。




2 取組の社会的基盤の整備



環境教育・環境学習の振興

 環境教育・環境学習の目指すものは、環境に係る知識を習得することのみではありません。その習得した知識を踏まえて、自らの行動と環境とのかかわりを常に意識して、可能な限り環境に負荷を与えない生活を実践していく能力(環境リテラシー)を養成することにあります。
 アメリカでは、1990年に新しい「環境教育法」が制定され、環境保護庁が中心となって環境教育プログラムの開発などが行われています。
 日本においては、平成5年に成立した環境基本法で、「環境の保全に関する教育及び学習の振興」が環境保全のための主要な施策の一つとされました。環境教育・環境学習は、一人ひとりが学習の主体であり、幼児から成人・高齢者まで、それぞれのライフ・ステージに合わせた生涯学習として、学校、家庭、地域、職場といったさまざまな場で展開する必要があります。
 また、環境問題を解決するためには、一人ひとりが自ら、環境学習や環境保全活動を持続的に実施していくことが極めて重要です。こうした市民の主体的な行動を支援するため、国や地方公共団体などを中心に、活動拠点の整備や指導者の養成、経済的な支援、といった積極的な取組が行われ始めています。


子ども達への環境学習の推進

 次世代を担う子ども達への環境教育は、人間と環境のかかわりについての理解を深め、環境保全意識を体得し、環境問題への感受性を養うもので極めて重要です。
 このため、学校教育における取組に加えて、環境庁ではこどもエコクラブの活動を支援しています。
 子ども達の環境教育を推進する目的は、今日の環境問題の解決を将来世代に託すことにあるのではありません。
 現在の世代は、環境問題という負の遺産を清算した上で、将来世代にバトンを渡す義務があり、その環境を将来にわたって維持することにこそ、子ども達の環境教育を推進する意義があります。

ヤクスギの歴史にふれる子どもたち
ヤクスギの歴史にふれる子どもたち
(財)屋久島環境文化財団提供


自然観察インストラクター研修会   長野県提供
自然観察インストラクター研修会   長野県提供

エコチャレンジ活動「2001年・地球ウォッチングクラブ・にしのみや」提供
エコチャレンジ活動「2001年・地球ウォッチングクラブ・にしのみや」提供



環境影響評価制度の見直し

 環境影響評価は、環境悪化を未然に防止し、持続可能な社会を築くために重要かつ有効な手段として、その重要性は今日一段と高まっています。
 政府は、平成9年第140回国会に、環境影響評価法案を提出し、6月9日に同法案が可決、成立しました。


開発途上地域との国際協力の推進

 開発途上国は、一般に急激な速度で人口が増加し、環境に対する負荷が高まってきています。
 私たちは、深刻な公害を克服してきた国として、その経験とこれまでに培ってきた技術を、成功例のみ伝えるのでなく、失敗事例やその解決の過程での困難、そしてそれを克服してきた努力などを含めて開発途上国に提供することが必要です。そして、開発途上国が、同じ過ちを繰り返すことのないようにすることが重要です。
 このような考え方に立ち、JICAなどによる技術的基盤を育成するための国際協力や、環境庁による環境モニタリング体制の整備のための国際協力等が推進されています。

日中友好環境保全センター
日中友好環境保全センター
国際協力事業団提供

3 環境と経済の新しい関係に向けた取組


 事業者と政府部門は、それぞれ経済活動の大きな割合を占めており、環境に及ぼす影響は非常に大きい。このため、これらの主体が環境規制を遵守するだけでなく、自主的、積極的に環境保全のための取組を進めていくことが重要です。


企業の自主的取組

 企業の本来的な目的は利益をあげることであり、従来、この目的と環境保全のための経済的負担は両立しないと考えられてきました。しかし、このような通念は根本的に問い直さなければなりません。今日の環境問題は人類の生存基盤をおびやかす問題であり、企業自身が自ら積極的に取り組まなければ、企業自身も存続できないのです。
 環境へ配慮した行動が企業の存続のための条件となっています。

ソマリアで住民と共同で行われた植林活動
ソマリアで住民と共同で行われた植林活動
アフリカ教育基金の会提供


環境管理と環境マネジメントシステム

 企業が組織として環境保全に関する目標に取り組むためには、管理者が構成員に誘因、説得、教育を行うことや、継続的な改善努力を行うことが重要です。このような手法を環境管理といい、そのための組織内におけるシステムを環境マネジメントシステムと言います。
 この環境管理や環境マネジメントシステムは統一的な規格作りが進められており、平成8年9月にISO14001が発行されました。ISO14001の認証を受けている事務所数は、平成9年3月末現在で200事業所を上回っています。

ISO14001の環境マネジメントシステムの概念図
ISO14001の環境マネジメントシステムの概念図
(資料)環境庁


自主的取組の意味

 我が国では、事業者団体等を通じて自主的取組を行っている企業も多く、重要な役割を果たしています。
 一方、自主的取組は、1)自主的取組だけでは必ずしも社会的に望ましい水準まで環境対策が行われるとは限らない、2)環境を保全するために自ら費用を負担したり環境保全活動を行うと、自身にとっても良好な環境を亨受できるメリットがあるが、全く負担しない第三者も同じ利益を得ることができる(フリーライドの問題)ため、対策を講じた企業が経済的には不利になるというような状況を生じさせてしまいます。
 これらの特徴があるとしても、自主的取組の重要性はいささかも減じられることはありません。今日の環境問題を解決するためには、自主的な取組を踏まえ、規制的手法や経済的手法等の多様な手法を適切に組み合わせていくことが必要です。


エコビジネス(環境関連産業)の推進

エコビジネスの参入状況について
エコビジネスの参入状況について
(資料)平成8年度環境にやさしい企業行動調査

上質紙と中質紙の価格推移
上質紙と中質紙の価格推移
(注)1 日本経済新聞社東京地区市況をもとに作成
   2 中質紙は古紙パルプから作られている。
(資料)環境庁


 エコビジネスは、環境への負荷の少ない商品・サービスや環境保全に資する技術やシステムを提供するビジネスのことをいい、環境基本計画においてその発展が期待されているほか、平成8年12月に閣議決定された「経済構造の変革と創造のためのプログラム」でも環境関連分野は今後の成長が期待されています。
 しかしながら、エコビジネスは常に通常の商品・サービスとの競争にさらされており、必ずしも常に採算が取れるとは限りません。例えば、古紙から作られた中質紙とバージンパルプから作られた上質紙の価格は逆転しています。このような状況において、エコビジネスが一定の市場規模を確保するためには、消費者の環境意識の向上を図るとともに、国、地方公共団体との連携も重要な役割を果たします。


国の率先実行計画

平成7年度における率先実行計画の数量的目標に係る実績数値(政府全体)
平成7年度における率先実行計画の数量的目標に係る実績数値(政府全体)
 (注)平成12年度の目標数値は、業務実行計画の策定等により、今後変更されることもある。
(資料)環境庁


 経済活動のうち公的部門の占める割合は大きく、国が環境へ配慮して行動すれば、環境への負荷を大きく低減させることが可能です。
 国では、環境基本計画に基づき、平成7年6月に「率先実行計画」を閣議決定しました。率先実行計画では、平成12年度までの数値目標が設定されているほか、実施状況については毎年集計し、一般に公表されることとなっています。
 また、環境庁のデータに基づき平成7年度と過年度の結果を用紙類の使用量で比較すると、約15%の減少となりました。これは両面コピー等の励行等の成果です。

環境庁本庁における主な用紙類の使用量
環境庁本庁における主な用紙類の使用量
(資料)環境庁



地方公共団体の率先的な取組

 地方公共団体でも様々な率先的な取取が行われており、平成9年1月には北九州市で「政令指定都市環境サミット」が、神奈川県で「20%クラブ国際環境ワークショップ」が開催されるなど、地方公共団体間で活発な動きが見られました。今後、一層の取組が期待されています。


諸外国での取組(政府のグリーン化)

 1996年2月に行われたOECD理事会は、政府のすべての活動に環境配慮を織り込むことを勧告しました。これを受けて、OECD環境政策委員会は1997年2月にスイスで「政府調達に関する国際会議」を開催し、各国での率先的な事例等の収集を行いました。
 また、諸外国でも政府のグリーン化への取組がなされています。
 オランダでは、国家環境政策計画(NEPP)に基づき、1)すべての省庁における環境マネジメントシステムの確立、2)政府調達における環境配慮の重視、に取り組んでいます。
 また、アメリカ、デンマークでも、環境に配慮した政府調達や廃棄物抑制等の積極的な取組が行われています。



第4章 環境の現状


 今日の環境問題は、特定の社会経済活動に起因する激甚な公害や自然破壊が中心であった状況から、通常の事業活動や日常生活が環境への負荷を増大させており、ひいては地球環境や将来世代に対しても影響を及ぼすような状況になっています。
 また、環境問題は、影響が広域に及ぶ問題であり、数十年後に健康影響が生ずるおそれがあるといった長期的視点から対応すべき問題や一旦被害が生ずるとその回復が困難な不可逆的影響をもたらす問題でもあります。
 なお、今年は地球温暖化問題については第1章で、廃棄物・リサイクル問題については第2章で詳しく述べています。


オゾン層の破壊

 オゾン層破壊の問題とは、クロロフルオロカーボン等が成層圏で分解されて生じる塩素原子等によりオゾン層が破壊され、オゾン層に吸収されていた有害な紫外線の地上への到達量が増加し、人の健康や生態系に悪影響を及ぼす問題です。

オゾン全量分布図
オゾン全量分布図
気象庁提供

 南極では、1970年代末から毎年春(北半球の秋)にオゾンが著しく少なくなる「オゾンホール」と呼ばれる現象が起きています。1996年も最大規模であった過去4年と同規模のオゾンホールが観測されています。
 近年のオゾン層破壊の深刻な状況を受けて、モントリオール議定書の策定やその改正により規制強化がなされ、オゾン層破壊物質の生産削減及び全廃等に向けた国際的取組が行われています。


酸性雨

酸性雨の状況(第2次酸性雨対策調査)
酸性雨の状況(第2次酸性雨対策調査)
(資料)環境庁

 酸性雨は硫黄酸化物や窒素酸化物などの大気汚染物質を取り込んで生じる酸性度の高い雨のことで、湖沼、河川等が酸性化し魚類に影響を与えたり、土壌が酸性化し森林に影響を与えたり、文化財への沈着がその崩壊等を招くことが懸念されています。
 我が国では既に欧米並の酸性雨が広く観測されていて、将来的に生態系への影響が顕在化するおそれを否定できないことが推測されています。
 酸性雨は発生源から数千kmも離れた地域にも影響を及ぼす広域的な環境問題です。近年発展著しい東アジア地域において硫黄酸化物や窒素酸化物の排出量が増加しています。


窒素酸化物等による国内の大気汚染

 我が国の大気汚染状況は、二酸化硫黄、一酸化炭素については近年良好な状況が続いていますが、二酸化窒素、浮遊粒子状物質については大都市地域を中心に環境基準の達成状況は低水準で推移しています。
 二酸化窒素は高濃度で呼吸器に好ましくない影響を与えるほか、一酸化窒素等を含めた窒素酸化物として酸性雨や光化学大気汚染の原因物質となるため、一層強力な対策の推進が必要です。
 浮遊粒子状物質は、大気中に浮遊する粒径が10μm以下の物質をいい、微小なので大気中に長時間滞留し呼吸器に影響を及ぼします。ディーゼル排気微粒子(DEP)については、発がん性や気管支ぜんそく、花粉症などの健康影響との関連性が懸念されています。

二酸化窒素年平均値の推移(継続測定局平均)
二酸化窒素年平均値の推移(継続測定局平均)
(資料)環境庁


騒音・振動・悪臭

 騒音・振動・悪臭は、主に人の感覚に関わる問題であるため、生活環境を保全する上での重要な課題となっています。それぞれの苦情件数は全体的に年々減少傾向にありますが、各種公害苦情件数の中では大きな比重を占めており、発生源も多様化しています。
 騒音に対する苦情件数は公害苦情件数の中で最も多く、特に自動車交通騒音は依然として厳しい状況にあり、総合的な対策の推進が必要となっています。
 悪臭については、サービス業や個人住宅など都市・生活型苦情件数の割合が増加傾向にあり、複合臭や日常生活に伴う悪臭の防止対策が進められています。

典型7公害の種類別苦情件数の推移
典型7公害の種類別苦情件数の推移
(資料)公害等調整委員会


海・川・湖等の水質汚濁

環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移
環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移
(資料)環境庁

 我が国の水質汚濁の状況は、有害物質については、前年度に引続きほぼ環境基準を達成しています。しかし、有機汚濁については、なお全体の3割の水域で環境基準が達成されていません。特に、閉鎖性水域及び都市内河川の中には、依然として水質汚濁の著しいものがあります。
 湖沼や内海、内湾などの閉鎖性水域では、汚濁物質が蓄積しやすいので水質の改善や維持が難しくなります。特に湖沼は、環境基準の達成率も低く、水道水の異臭味、漁業への影響等の問題が起こっています。また、都市内河川は、生活排水の増加のため、河川への負荷が大きくなっています。


海洋汚染

 海洋は、汚染物質が最終的に行き着く場所となることが多く、広大ではありますが、人間の活動に伴って、汚染が世界的に確認されるに至っています。平成8年に我が国周辺海域において海上保安庁が確認した海洋汚染の発生件数は754件でした。このうち油による汚染は370件、油以外のもの(廃棄物、有害液体物質、工場排水等)による汚染は294件、赤潮は90件でした。


地下水

 地下水は、重要な水資源ですが、昭和50年代後半より有機塩素系化合物による地下水汚染が顕在化しています。これらは、多くの場合、有害物質やこれらを含む排水、廃棄物の不適切な管理が原因と考えられています。また、多肥集約農業や畜産廃棄物、生活排水等が原因となって硝酸性窒素による地下水汚染が明らかになり始めています。


土壌汚染・地盤沈下

 土壌は環境の構成要素の一つであり、無機物、有機物、微生物及び動植物は土壌を媒介の一つとして循環しています。また、人間生活の面から見ても、農業基盤、地下水の形成、多様な生態系の維持など人間生活に必須のものといえます。土壌汚染は一旦生じると農作物や地下水等に長期にわたって影響を与える蓄積性の汚染で、改善が困難です。農用地の土壌汚染については、汚染検出面積7,140haに対し、対策事業等完了面積の割合は74.2%となっています。また、平成6年度の調査において昭和50年以降累計232件の事例が把握されており、近年判明件数は増加傾向にあります。
 地盤沈下は、地下水取水制限等の規制により、長期的には地盤沈下は沈静化へ向かっていますが著しい地盤沈下が生じている地域が依然としてあります。また、都市化の進展により、地中に水分が浸透しない、土壌の保水力が減退しているなど、地下水への水の供給量の減少が懸念されています。

平成7年度の全国の地盤沈下の状況
平成7年度の全国の地盤沈下の状況
(資料)環境庁「全国の地盤沈下地域の概況」(平成7年度)



我が国の植生

植生区分別の分布状況(地方)
植生区分別の分布状況(地方)
(出典)第4回自然環境保全基礎調査「植生調査」(資料)環境庁


 我が国は、自然植生や植林地等なんらかの植生(緑)で覆われている地域が全国土の92.5%あり、そのうち森林は国土の67.1%を占め、森林の割合は世界的に見ても高い状況にあります。しかし、市街地などで面的にまとまった緑を欠いた地域が広がり、国土全体では自然性の高い緑は限られた地域に残されているのが現状です。
 自然植生の分布を見ると、6割近くが北海道に分布しており、他に東北、中部の山岳部や日本海側と沖縄に多く分布しています。一方、近畿・中国・四国では、自然植生の分布が非常に少なく、山地の上部、半島部、離島等に点在しているにすぎません。


熱帯林の減少

 熱帯林は、二酸化炭素の吸収源や地球の放射及び水バランスの調整に重要な役割を果たし、生物多様性の保全のためにも重要な機能を有しています。近年における熱帯林の急速な減少は森林資源の枯渇のみならず、生息している生物種の減少をまねいています。また、森林消失による大量の二酸化炭素の放出が地球温暖化を加速させることが懸念されています。
 熱帯林減少の原因は、非伝統的な焼畑耕作、過度の薪炭材採取などが指摘されていますが、この背景には開発途上国における貧困、人口増加、土地制度等の社会的経済的な要因があります。


南極地域の環境保護

 南極地域には、過酷な自然環境及びそれに適応した特殊で脆弱な生態系が成立していて、人為による汚染の極めて少ないその環境の重要性が注目されています。南極地域は、1961年に「南極条約」が発効して以来、科学観測の場として利用されてきていますが、基地活動や観光利用の増加による環境影響が懸念されています。このため、「環境保護に関する南極条約議定書」が1991年に採択され、同議定書の締結に向けて「南極地域の環境の保護に関する法律」が第140回国会で成立しました。

アザラシに見入る南極観光ツアー参加者
アザラシに見入る南極観光ツアー参加者


絶滅のおそれのある野生生物種

 人類は野生生物種を生活の糧として、また、道具の素材等様々な形で利用し、共存を続けてきましたが、こうした活動が時には乱獲につながり、また、経済社会活動の拡大に伴う生息地の破壊など、野生生物種は生息数の減少や絶滅への圧力を受け続けています。
 我が国では、絶滅のおそれのある種を国内希少野生動植物種として指定し、保護等の対策を講じていますが、現在、動物種では、「絶滅種」22種、「絶滅危惧種」110種が確認されており、植物種に関しては、絶滅寸前の種として147種、絶滅の危険のある種として677種が存在しているとの報告があります。

シマフクロウ
シマフクロウ


自然とのふれあいの現状

 近年、都市の身近な自然の減少や国民の環境に対する意識の向上等に伴い、人と環境との絆を深める自然とのふれあいへのニーズが高まっています。自然公園を訪れる人々の数(利用者数)は、平成7年に9億7,101万人となっています。


ヒートアイランド、光害など

 首都圏などの大都市圏においては、大量のエネルギー消費に加え、地面の大部分がアスファルトで覆われているため、水分の蒸発による温度の低下がなく、夜間気温が下がらないというヒートアイランドと呼ばれる現象が起きています。
 また、ネオンや街灯の光、必要以上の照明などによって、夜間星が見えにくくなる光害が最近注目され、夜間の過剰な照明の生態系への影響も懸念されています。都市の規模が大きくなるにつれ、星空が見えにくくなっているという調査結果も出ています。
 その他、電磁界による健康への影響や、スギ花粉症の発症メカニズム等について研究が行われています。

日本の夜空の明るさの分布
日本の夜空の明るさの分布
(資料)環境庁



ナホトカ号油流出事故の環境への影響

 ロシア船籍タンカー「ナホトカ」号が島根県の隠岐島沖で船首部を折損、沈没し、船首部が福井県三国町沖に漂着しました。この際流出した油は福井県沿岸を中心に9府県に漂着し海岸部を汚染しました。この事故による海鳥を含む沿岸生態系及び漁業等への影響は重大です。国では運輸大臣を本部長とする「ナホトカ号海難・流出油災害対策本部」を設置し、応急対策等の取組を行いました。一日も早い環境の回復に全力を尽くすとともに、迅速で適切な初動対応を可能にする体制等の確立が求められます。
 また、タンカーなどから流れ出た油は、自然環境の中で分解されるまで長い年月を要し、海洋動植物等自然生態系に大きな影響を与えるため、OPRC条約や海洋汚染防止条約等による国際的な取組が進められています。

船首部位置及び漂着油・浮流油の状況(平成9年1月23日17:00現在)
船首部位置及び漂着油・浮流油の状況(平成9年1月23日17:00現在)
(資料)海上保安庁


むすび


 環境は地球上のすべての生物の生存の基盤です。このかけがえのない環境が損なわれるおそれが生じてきています。
 地球的規模では、地球上に生存する生物の種の数が急速に減少しています。また、熱帯林などの森林の減少も進んでいます。オゾンホールは年々拡大し、砂漠は広がり、開発途上国では深刻な環境汚染に見舞われています。
 国内でも、自動車の排出ガスなどによる大気汚染や生活排水による水質汚濁、都市近郊の身近な自然の消失など、様々な問題が起きています。
 私たち人間の活動が拡大することによってもたらされたこれらの問題を解決し、環境を保全していくことは、世界、国、そして私たち一人ひとりの課題なのです。
 我が国はかつて、水俣病や四日市ぜん息などの産業公害を経験しました。これを克服するために、公害対策基本法を作り、環境庁を設置することなどで成果を収めてきました。しかし、環境保全のための取組が成果を上げるかどうかは、今後にかかっているのです。
 私たちが直面している現在の環境問題は、慢性病に例えられます。その症状は静かに深く進行し、症状が現れたときには既に手遅れとなってしまうこともあります。その特効薬はなく、一日一日の生活そのものを変えていく「体質改善」が何よりも大切となります。大量生産・大量消費・大量廃棄という現在の社会のあり方や、生活様式を変えていくことには痛みを伴います。しかし、この痛みを分かち合い、乗り越えていくことで、このかけがえのない環境を将来に伝えていくことができるのです。
 将来の世代のために恵み豊かな環境を遺していくことができるかどうか、それは、私たちの社会のあり方と一人ひとりの行動にかかっているのです。一人ひとりの行動やちょっとした社会システムの変革がもたらす効果は、一見すると小さく見えます。しかし、それら一つひとつの行動が、社会のいたるところで響き合い、強め合い、あるいは補い合って、社会は大きく姿を変えるに違いありません。