平成5年版
図で見る環境白書


 はじめに 環境と共に生きることとは

 第1節 環境の現状

  1.公害等の現状

  2.自然環境の現状

 第2節 環境と共に生きることのできる社会・経済

  消費と環境の密接な関係

  生産と環境の密接な関係

  貿易と環境の密接な関係

  協力によるブレイク・スルー

 第3節 環境と共に生きることの実践に向けて

  1.国民の取組

  2.企業の取組

  3.地方公共団体の取組

  4.政府の取組

  5.国際機関の取組

 参考



表紙の絵は、アメリカの画家、マスコウィッツさんが日本の環境月間のために描いた作品、「Perfect Harmony」です。人間が、地球の生物の一員として、互いに協力して環境にかなった生き方をしていくべきことを、海の魚たちが一緒になってかなでる交響楽に託して訴えています。



読者の皆様へ

 この小冊子は、去る6月15日に閣議決定の上公表された平成5年版の環境白書(総説)をもとにしています。その内容をやさしくかいつまみ、また、新しいでき事や写真なども加え、大勢の方々に親しんでいただけるよう、環境庁で新しく編集し直したものです。
 毎年の白書は、主に前年度のでき事を報告していますが、平成4年度は、内外の環境行政にとって大きな節目の年でした。世界では、6月に国連が地球サミットを開き、また、日本では、平成5年3月に政府が「環境基本法案」を決定し、国会に提出しました。環境行政は、今、大きく変わろうとしています。
 今年の環境白書は、こうした大きな転換点に立って、私達や私達の子孫が、また、世界の人々が、環境と共に末長く暮らしていくために特に大切と思われることをただ一つに絞って訴えています。それは、今日見られる人と人との関係を見直し、より協力的なものへと築き直していくことです。
 環境の将来を考えると、暮らし方、仕事の進め方、生産や消費などをこれまでのとおりに続けていくわけにはいきません。しかし、暮らし方などを変えることはつらいことです。これに伴って、今までにはなかった余分な手間や費用をかける必要が生じますが、それぞれの人が自分の損得だけにこだわっていては、こうした手間などは十分にかけられず、結果として、環境は守られなくなってしまいます。他方、しっかりした責任、納得できる役割分担などの下で、高い見地に立って、人々が互いの長所を生かし、短所を補うような積極的な協力を進めるようになれば、それぞれの負担も節約でき、社会全体としての成果もずっと大きなものとなります。
 それでは、私達の営む経済、社会の中の様々な関係にはどのような至らない点があるのでしょうか、また、どうしたら望ましい協力関係を築いていけるのでしょうか。これらを考える材料として、この小冊子や環境白書がお役に立つことを祈っています。


はじめに 環境と共に生きることとは


 平成4年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれた地球サミット(環境と開発に関する国連会議)は、文字どおり、地球規模で人々の意思を汲み、決定を行う、またとない機会となりました。地球の限られた環境の中で人類が長続きする形で発展していけるよう、人と環境とのこれからの関係を律する原則を盛った「環境と開発に関するリオ宣言」を採択したほか、こうした原則に即して人類の明るい未来を築いていくための取組の方向を詳細に掲げた「アジェンダ21」を決めました。
 私達の日本は、地球サミットでできるだけ多くの、そして中身豊かな国際合意が生まれるよう、会議ではもちろん、その準備の過程でも力を尽くしました。また、その成果を実地に生かすよう、会議の後も努力を続けています。



この水槽の中の魚と藻は、外からは、光のエネルギー以外は何も取らずに互いに助け合って生き続けています。


 日本のこのような努力の一つの、そして大きな実例が環境基本法案の国会提出です。この法案の大きな意義は、まずもって、環境をなぜ、また、どのようにして守るのか、という肝心な点を、理念として、国民が合意するルールである法律の形で示していることです(同法案の具体的な内容は29頁)。その理念は、煎じつめて言えば、人は、地域や地球の環境を生かしながら、環境と共に生きていくべきであることを訴えています。
 人類はもともと、地球の自然が生んだ子のようなものです。豊かな環境があって初めて、人が生きのび、文化を取り入れた生活を営むことができます。しかし、かつては、他人の健康や財産、生活環境に損害を与えない限りで、人々は環境を自由に使ってよいとする風潮がありました。環境のある限られた面しか私達は見ていなかったと言えましょう。結果として、環境の質は大きく損なわれつつあります。
 これからは、人と環境とのより良い関係を築くよう、人の環境に対する責任を今までとは全く異なったものとしなければなりません。
 まず、将来の世代のことも考え、また、地球全体のことも考えなければなりません。さらに、単に損害を発生させないことだけでなく、健やかな生態系がもたらす恵みを損ねないようにしなければなりません。環境の中にごみや排ガスなどの不用物を捨てる時に注意をすることはもちろん、暮らし方から、環境からの資源の採取の仕方やその量、生産に当たっての原材料の選び方、製品を使っている時やごみとなった時の影響などまでも考えて、環境に与える悪影響を減らすように配慮することが必要になります。特に、こうしたことを法に基づくルールがあるときにだけ行うのではなく、日頃から自主的に実行しなければなりません。
 このような新しい責任は急に生まれたのではありません。実は、内外で、いろいろな立場の多くの人々がこれまで積み重ねてきた大変な努力があって、法律ルールの形にまで高められてきたのです。積み重ねがあるとはいえ、この考え方が既に十分に実際に生かされているかと言えば、そうではありません。次の頁からは、新しい理念や人々の責任に照らし、現実の社会では何が欠けているか、また、それをどう直していったらよいか、といった点を見ていきましょう。


第1節 環境の現状


 かつて、環境問題と言えば、多くの場合、地域の特定の工場の活動や開発事業の結果生じるものと理解され、その活動からの影響を減らすことが解決策であると思われていました。現在でもこうした性格の問題も数多くありますが、最近はこれに加え、大気、水、動植物などの様々な変化が互いに関係し、環境がその基礎から、また、広い範囲で悪化するような性格の問題が重要になっています。また、その原因の面でも、網の目のようになって行われている経済社会活動の隅々に問題の根があることが多くなっています。環境には改善された点もありますが、最近の問題の性格を考えれば、将来についての楽観は禁物です。


1.公害等の現状


 硫黄酸化物(二酸化硫黄など)による大気汚染など、かつて著しかった産業公害は大幅に改善されましたが、多種類の経済社会活動に原因する窒素酸化物による大気汚染や騒音、内湾などにおける水質汚濁などのように、悪化したり、改善がはかばかしくないものがあります。また、今はよくても、PCBなどの有害な化学物質が分解されずに環境の中に溜っていたり、酸性雨のように悪影響が将来に向けて蓄積していくおそれもあります。
 海外に目を向けると、多くの途上国に共通して公害が深刻な問題になっていて、中には国境を越えて悪影響を及ぼすような事例も出てきています。地球全体について見ても、地球の温暖化をもたらす二酸化炭素の空気中の濃度は増加し続けています。また、オゾン層を壊すクロロフルオロカーボン類(いわゆるフロンなど)の濃度も、かつてよりはスピードが落ちましたが、増えています。
 私達が住む日本の環境も地球の環境の一部です。日本では、世界の経済活動の1割以上が行われています。日本の環境を地球的な視点で考え、また、良くしていくこと、そして、地球の他の場所の環境を良くすることにも力を尽くすことが急務となっています。

窒素酸化物等による大気汚染
 人の活動に伴って、大量の、そして多くの種類の物質が大気の中に出されています。大気は見えないごみの捨て場なのです。その結果、大気の成分や性質が変わって、人の健康や動植物などに悪影響が生じるおそれがあります。これが大気汚染と呼ばれる公害問題です。
 日本では、窒素酸化物(一酸化窒素と二酸化窒素の合計。煙突などから出たばかりでは一酸化窒素がほとんどだが、空気中で酸化され二酸化窒素になる。)による大気汚染が問題です。工場からの排煙や自動車1台ごとの排出ガスについて、世界でも最も厳しいレベルの規制が行われ、二酸化窒素による汚染は若干の改善傾向にありましたが、昭和61年度から悪化に転じ、平成3年度も高い濃度の汚染が大都市を中心に続いています。環境基準とは、人の健康及び生活環境を守る上で維持されることが望ましい環境の水準であって、各種の施策を総合的に進め、これを確保するよう努めることになっていますが、二酸化窒素についての環境基準を満たせない場所も広がっています。

二酸化窒素、二酸化硫黄の年平均値の経年変化(継続測定局平均)
二酸化窒素、二酸化硫黄の年平均値の経年変化(継続測定局平均)
(備考)環境庁


 窒素酸化物による大気汚染が大都市で悪化していることの背景には、自動車の利用が増えていることがあります。およそ10年後の平成12年には、これから一層の対策を取らないとすると、自動車の走行量が増えるため、東京や大阪では、窒素酸化物の排出量は2割も増えてしまう勘定です。1台ごとの自動車の排出ガスを厳しく規制しても、自動車が増え、また、自動車がどんどん使われてしまうようになっては規制の効果も帳消しになってしまいます。窒素酸化物による大気汚染は人の健康に係わる問題ですが、その原因が経済社会の隅々に根差しているため、決め手となるような、広範な関係者に係わる対策の合意には大変な困難があるのです。
 そこで、国では、自動車排出ガス規制をさらに厳しくするとともに、平成4年6月、「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(自動車NOx法)を制定し、これに基づき、排出ガスの比較的汚い車の使用を取り止めたり、あるいは、事業者に対して自動車の使用の合理化を求める指導を行ったり、といった自動車の使い方にまで踏み込んだ対策を取ることとしました。政府や関係の地方公共団体においても、物流施設の整備、公共交通機関の整備、立体交差化などの道路構造の改善、交通管制システム等の高度化などの対策を強めていきます。しかし、例えば、貨物の自動車輸送の合理化一つをとってみても、貨物運送事業者だけの努力では対応は不可能で、荷主の協力が欠かせません。この制度が実効をあげるには、今後の幅広い関係者の協力が欠かせません。

大阪湾岸地域における二酸化窒素の環境濃度分布
大阪湾岸地域における二酸化窒素の環境濃度分布
(自動車排出ガス測定局)
(備考)環境庁。二酸化窒素の環境基準値は、日平均値が0.04〜0.06ppmのゾーン内又はそれ以下。


 大気汚染には、いろいろな物質によるものがあります。先進国では、日本と同じように窒素酸化物の大気汚染に悩んでいる国々も多くありますし、浮遊粒子状物質、つまり大気中を漂う大変細かい物質による汚染も大きな問題となっています。窒素酸化物や炭化水素に太陽光が作用して大気中で二次的に住まれる光化学オキシダントも問題です。他方、開発途上国では、かつての日本のように、硫黄酸化物による大気汚染が問題となっています。硫黄酸化物は後に述べる酸性雨の原因となり、その対策が急がれています。

自動車NOx法特定地域全体での自動車排出窒素酸化物の削減効果見込み
自動車NOx法特定地域全体での自動車排出窒素酸化物の削減効果見込み
(備考)環境庁


世界の大都市20都市の二酸化硫黄による汚染状況
世界の大都市20都市の二酸化硫黄による汚染状況
(備考)UNEP/WHO「Urban Air Pollution in Megacities of the World」(1992)


地球の温暖化
 地球の大気中には、二酸化炭素などがあって、熱を宇宙に逃げにくくして地球を暖めています。こうしたガスは温室効果ガスと言われ、これらがなければ地球の気温は約30℃も低いはずです。今、この温室効果ガスが増えてきて問題となっています。特に、石炭や石油を燃やすと出てくる二酸化炭素の大気中の濃度は、産業革命の前には280ppm程度(ppmは容積百万分率で1立方メートルの大気中に1立方センチのガスが混じっている状態が1ppm)であったのが、最近では、350ppm程度にまで増えていて、さらに毎年、0.5%ずつ濃度が高くなっています。温室効果ガスには、二酸化炭素以外にもメタンや一酸化二窒素(亜酸化窒素)など様々なものがありますが、これらも人の活動が盛んになるに従い増えてきています。
 こうしたことの結果、何らかの対策がなければ、21世紀の末には世界の気温が平均で3℃ほど高くなり、その後も気温上昇がどんどん続くと予測されています。3℃と言えばわずかなようですが、東京と鹿児島の気温差よりも大きく、世界全体の環境は大きく変わってしまうでしょう。これまでの地球上の気候変化はずっと穏やかなものであり、生物は、このように急速で大規模な環境変化を経験したことがありません。気温の上昇に伴い、海の水が熱膨張して海面が上がり、雨の降り方も集中豪雨型になって水利用が難しくなり、野生生物が減り、食糧生産が減少し、熱帯の疾病が北上し、環境難民が増えるなど、いろいろな悪影響が生じる場合があると予測されています。
 地球温暖化対策は地球的な課題であり、世界の各国が手を携えて取り組むため、平成4年5月に「気候変動枠組条約」が採択されました。6月の地球サミットの機会には、日本を含む155ケ国がこれに署名しました。今後、多数の国々が加入し、早く発効することが期待されます。この条約では、特に先進国に対しては、それぞれ、温室効果ガスの排出抑制対策やこれらガスの吸収源(二酸化炭素については森林など)を確保する対策を進めていくこと、また、温室効果ガスの排出量を1990年代末までに90年(平成2年)のレベルに戻すことを目指して、対策とその効果の予測とを条約締約国会議に送付することなどの義務を課しています。

予測される気温変化と過去の気温変化との比較
予測される気温変化と過去の気温変化との比較
(備考)国立環境研究所、京都大学による原図を簡略化した。


気候変動枠組条約に署名する中村環境庁長官(当時)
気候変動枠組条約に署名する中村環境庁長官(当時)

 日本は、この条約について交渉した外交会議で重要な部分の議長をつとめるなど、国際合意を得るのに貢献しました。今後は、条約の締結とともに、日本としての対策を積極的に進めていかなければなりません。日本では、既に、平成2年10月、政府が「地球温暖化防止行動計画」を定めました。この計画は、2000年(平成12年)以降、二酸化炭素の排出量をおおむね1990年(平成2年)のレベルに保つこと(安定化という。)などを目標に、様々な対策を進めていくことを内容としています。今後は、条約も踏まえ、引き続きこの行動計画を積極的、着実に進めることが大事です。
 日本の平成2年(1990年)度の排出総量は約3億1千8百万トン、国民1人当りの排出量は約2.57トン(それぞれ炭素の量として計算)でした。これが、平成3年度には、それぞれ約3億2千4百万トン(前年度比1.9%の増加)、約2.61トン(同じく1.6%の増加)と増えてしまいました。この背景には、いわゆるバブル経済の下で経済社会の浪費的な傾向が進んだことがあります。二酸化炭素は、エネルギーの利用に伴って大なり小なり必ず発生します。日常生活を含め、あらゆる経済社会活動がその発生に係わっているのです。平成4年度には、エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネルギー法)を強化するなど、政府も対策を強めています。国民もそれぞれの立場でエネルギーを効率的に使うことはもちろん、さらに、エネルギーを地域全体で融通しながら無駄なく使うことなど、国民皆が手を携え、覚悟を新たになお一層の取組を進める必要があります。
 世界の各国でも、対策への取組が進んでいます。これまで特に熱心なのは北欧諸国やオランダ、ドイツなどの一部のEC諸国です。これらの国々では、石炭や石油などに課税して、二酸化炭素の排出量を減らしていく誘因とするための炭素税などを導入したり、各種の経済活動や製品、建物などに一層の省エネルギーを促す基準を課したりして熱心に対策を進めています。

我が国の二酸化炭素排出量(平成3年度:炭素換算)
我が国の二酸化炭素排出量(平成3年度:炭素換算)
(備考)総合エネルギー統計等より環境庁にて試算。
    排出量は炭素換算。二醸化炭素の質量に直すには3.67を乗じる。


 地球の温暖化による被害が現われるのは将来の話ですが、そこに落し穴があります。私達は、直接の被害がないことをよいことに、対策をついおろそかにしがちですが、そうすると、将来の世代には取り返しのつかない被害が生じたり、対策を取ろうにも膨大な費用がかかってしまったり、といったことが起きると心配されるのです。また、1人当りの二酸化炭素排出量の大きな先進国が率先して対策を取っていくことは、当然のことですが、これに加え、途上国での対策も必要です。しかし、途上国には発展が必要ですし、他方では、貧困のため、環境対策に使える資金が乏しい実情にもあり、対策の障害となっています。気候変動枠組条約では、途上国での温暖化対策に必要な資金を国際的に融通していくことを定めていますが、これは、こうした障害に配慮したからです。私達は、国内で力を合わせて取り組むほか、未来の人々のことを思い、また、途上国の人々のことも思って対策を進める必要があるのです。

1人当たり二酸化炭素排出量の推移(昭和25年から平成元年)
1人当たり二酸化炭素排出量の推移(昭和25年から平成元年)
(備考)CDIAC : Carbon Dioxide Information Analysis Center
    オークリッジ国立研究所二酸化炭素情報解析センター推計値より作成。先進国には、日本も含む。


オゾン層の破壊
 成層圏に存在するオゾン層は、波長の短い有害な紫外線を吸収し、地球の生物を守る宇宙服のような大事な役割を果たしています。これが壊れると、有害な紫外線が地表に届き、人の皮膚癌や白内障が増えたり、生物の成長が妨げられたりする問題が起きます。
 オゾン層を破壊する物質は、クロロフルオロカーボン類(CFC。いわゆるフロンの一種で、冷蔵庫等の冷媒、精密機器の洗浄剤などに使われる。)、消火剤に使われるハロン、各種の洗浄に使われる1,1,1-トリクロロエタンなどです。これらの物質が大気中に出されると、徐々に成層圏に達しオゾン層を壊します。未来の世代のことも考えて対策を進める必要があります。昭和62年に決められたモントリオール議定書という国際約束に従い、これらの物質の生産を減らしたり、大気への放出を防ぐ対策が始められました。
 しかし、既に南極では春の時期にオゾンの量が大きく減ってしまう現象(オゾン・ホールという。)が起き、年々ひどくなっています。また、北半球の中・高緯度の地域、例えば、日本の札幌の上空でもオゾンが減っています。そこで、国際社会ではモントリオール議定書を改正して、クロロフルオロカーボンの生産を1996年(平成8年)までに止めてしまうことなどを決めました。クロロフルオロカーボンなどは大変に便利な物質ですので、この生産を止めてしまうのは大変なことです。国民の生活にも影響が及びますが、幅広い関係者がそれぞれ対策に協力していくことが大切です。また、国際協力も大切です。途上国の対策についても先進国が資金を出し合ってこれを助けていくこととなっています。

日本上空などのオゾン全量(平成4年)
日本上空などのオゾン全量(平成4年)
(備考)黒丸印は平成4年の月平均値、色のついている範囲は月別累年平均値(1961〜1990年)の標準偏差の範囲。
    気象庁「地球温暖化監視レポート1992」から作成。


酸性雨
 酸性雨は、2〜3頁で説明した硫黄酸化物や窒素酸化物が大気中を長い間漂ううちに酸化されて、雨に溶けて地上に降ってくる現象です。雨は自然の状態でも大気中の二酸化炭素などを溶かしていて、やや酸性(pHで示す水素イオン濃度で5.6〜7.0程度)を示しますが、pH5.6以下の酸性の雨が酸性雨です。欧米では、酸性雨で森林が枯れたり、湖が酸性化して魚が住めなくなったり、石造りの建築物が溶けたり、といった大きな被害を生んでいます。
 酸性雨については、日本でも昭和63年度以来、全国的な調査が行われていますが、その結果では、欧米と同程度の酸性の雨が降っている状況にあり、酸性雨の影響が徐々に現れてくる可能性があります。この問題についても将来の人々に被害をツケ回ししないような配慮が求められています。監視を強め、対策を考えておく必要があるのです。
 酸性雨に国境はありません。お隣の中国では既に酸性雨の被害が起きていますが、日本の酸性雨に中国などの大気汚染が関係していることも考えられるため、原因物質の日本海上空での移動や反応の状態の研究が進められています。また、中国での大気汚染対策への協力にも努めています。

シミュレーションによる昭和60年(1985年)における硫黄降下量の世界分布
シミュレーションによる昭和60年(1985年)における硫黄降下量の世界分布
(備考)京都大学松岡譲助教授が作成。


現状のまま対策をとらないと仮定した場合の2100年における硫黄降下量の世界分布
現状のまま対策をとらないと仮定した場合の2100年における硫黄降下量の世界分布
(備考)京都大学松岡譲助教授が作成。



海、川、湖の水質の汚濁
 著しい公害健康被害の例である水俣病は、工場排水に混じっていたメチル水銀化合物で魚などが汚染され、これを食べた人々のうちに発生しました。日本では、重金属などの有害な物質による水質汚濁が、深刻な公害に結びついてしまったことを踏まえて対策を進めた結果、今では、環境基準のうちの健康項目、すなわち重金属など9の有害物質については全国的にほぼ達成しています。また、最近の海や川での検出状況を考えて、平成5年3月には、溶剤として使われているトリクロロエチレンなど9の有機塩素系化合物とシマジン等の4種の農薬など合計15の項目を環境基準の健康項目に追加しました(有機燐を除いたので、項目数は23項目)。このように、監視の項目を増やし、水質を常に守るため一層の対策を行っていきます。
 他方、BOD、COD(水の中の物質を酸化して分解するのに必要な酸素量)で表される有機物質による水質汚濁では、環境基準の未達成率はまだ25%もあります。特に、内湾や湖のような水の入れ替わりが遅い水域(閉鎖性水域)では環境基準の達成率は依然として低い状況です。

環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移
環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移
(備考)環境庁


霞ケ浦における発生源別負荷割合(平成2年度)
霞ケ浦における発生源別負荷割合(平成2年度)
(備考)その他系には、森林、市街地からの流出、降雨等を含む。環境庁


 閉鎖性水域は人々に身近な水環境で、地域の人々に様々な形で利用されています。また、生物も豊富で自然環境の観点からも大切です。こうした折角の恵み豊かな環境が汚されてしまう背景には、汚濁の原因が広い範囲にわたり、しかも多種類の、また日常的な行為を含むということがあります。対策の効果が一人ひとりには分りづらいのです。そこで、政府は、湖沼水質保全特別措置法を昭和60年に制定し、また、生活排水対策を実施することが必要な地域での総合的な対策のため、水質汚濁防止法を平成2年に改正しました。関係の地方公共団体は、事業者に特別の規制や指導を行うほか、下水道、導水などの公共事業や河川の水を浄化する事業なども進めています。さらに、生活排水対策のための計画を作り、様々な対策を促しています。対策の気運は高まっていますが、浄化槽の点検の励行などまだまだ行うべきことは多い状況です。
 海外の水質汚濁の状況を見ると、先進国では水質は概して改善の方向にありますが、途上国、特に産業の発展や人口の増大が著しい地域では、水質の悪化傾向が見られ、安全な飲み水の確保などが大きな課題となっています。

先進諸国の主要河川の水質
先進諸国の主要河川の水質
(備考)「OECD ENVIRONMENTAL DATA 1991」


中国6大河川汚染状況の推移
中国6大河川汚染状況の推移
(備考)中国環境年鑑。総合汚染指数は、値が大きいほど汚染が進んだ状態を示している。


海洋の汚染
 地球は、表面の約71%を海が覆う水の惑星です。その大海原にも汚染が忍びよっています。海洋は、陸や空、そして海上を航行する船から汚染物質を受け入れています。陸地から遠く離れた海上で、発泡スチロールが浮かんでいたりします。し尿をはじめ各種の廃棄物が海洋へ投棄処分されています。海洋汚染は他人事では済まされません。海洋投棄は、国際条約により厳しく制限されています。また、最近、タンカーからの大量の油流出事故が相次ぎましたが、これからは、事故が起きても油の流出を最小限で抑えられるような構造の船を造っていくことが国際的な約束として申し合わされています。

生物の汚染
 大気や水などの汚染は、そこに暮らす生物にも関係します。生物は、特定の有害重金属や化学物質を濃縮して蓄積する場合があります。この性質のため、生物を捕食する人間に汚染の影響が強く及ぶこともあります。他方、生物の汚染が環境全体の汚染の指標となる場合もあり、現在、PCB、DDT、有機スズ化合物、ダイオキシン類などの生物中の蓄積状況を監視しています。平成3年度の結集では、多くの化学物質が検出されましたが、いずれも直ちに人の健康に被害を及ぼすものではありませんでした。しかし、環境中で分解されない種類の化学物質では、例えば、かつて便利に大々的に使われたPCBのように、環境問題などを理由に生産が中止され、廃棄の際に完全な処理を義務づけるなどの対策が取られても、今もなお生物の中から検出されている例があります。過去の人々の判断や行動が今日の問題に大きく影響していますが、現在の私達が賢明に行動することにより、将来の世代に負の遺産を残さないように対応することが大切です。
 ちなみに、PCBについては、その重要な用途であった電気機器を見ると、(財)電気絶縁物処理協会の資料によれば、全国で34万台弱のPCB入りコンデンサー、3万台以上のトランスが使用、または保管されています。PCBの実際の処理としては、昭和62年から平成元年にかけて、液状PCB、5500トンが焼却処理されています。この作業は関係者の緊密な連携により、安全無害に行われました。しかし、他のPCB入りコンデンサー等については、処理施設の立地等に関して住民等の合意が得られないなどの事情で、一部を除き処理はされていません。現在使用中、あるいは保管中のPCBが新たな汚染問題を起こさないよう、事業者の処理責任を基本として、国、地方公共団体、事業者、住民等が協力し、冷静に、合理的に取り組むことが求められています。

北太平洋の浮遊プラスチック分布(平成2年)
北大平洋の浮遊プラスチック分布(平成2年)
(備考)水産庁


東京湾及び大阪湾のスズキのPCB濃度の推移
東京湾及び大阪湾のスズキのPCB濃度の推移
(備考)環境庁


騒音
 騒音は大気中に出される無駄なエネルギーの一つの姿で、団らんや安眠を妨げ、精神的な苦痛をもたらします。公害に関する苦情の中で毎年一番多いのも騒音によるものです。工場や各種の交通機関などから生じますが、特に沿道での自動車交通騒音が問題になっています。例えば、最近5年間にわたって測定を行っている1,077地点では、環境基準を満足している地点の割合は総じて徐々に低くなり、1割程度に過ぎません。これまで、自動車1台ごとの騒音規制を強化し、公害防止計画の仕組みなどを活用して、道路構造の改善、物流の合理化などの事業を促進してきました。しかし、自動車騒音の深刻化の背景には、窒素酸化物について説明したように、自動車がますます多く使われるようになってきたことがあります。関係者が役割を適切に分担し、社会全体が協力して取り組むことが不可欠です。
 このほか、工場の騒音に対する苦情も多く、新幹線、在来鉄道、航空機によるものもいくつかの地域で問題となり、対策が進められています。さらに、過密な都市生活の中で、家庭の生活騒音、カラオケ騒音、拡声機騒音などにも苦情が多く、地方公共団体による対策などが行われていますが、住民の一層の協力が期待されています。

自動車交通騒音の環境基準の達成状況の経年変化(62年から継続して測定している1,077地点における測定結果)
自動車交通騒音の環境基準の達成状況の経年変化(62年から継続して測定している1,077地点における測定結果)
(備考)環境庁


土壌の汚染など
 公害では、このほか、振動、悪臭、地盤沈下や土壌の汚染があり、それぞれ問題となっています。これらのうち、地盤沈下はいったん生じると回復のできない公害ですし、土壌の汚染も汚染物質が一箇所にとどまり蓄積して生じるもので、対策の難しいものです。日本では、農用地の汚染が約2400ha残されています。また、市街地での土壌の汚染が明らかになる事例が各地で相次ぎ、平成4年8月現在で環境庁が把握している事例は177を数えています。その原因としては、製造施設等の破損に伴う漏出、工場敷地内で昔に行われた廃棄物の不適正な埋立てなどがあります。原因行為と問題発生の時点が異なり、関係者が変わってしまうなどのため、解決が難しいのが実情です。

廃棄物の増加
 廃棄物の発生は直ちに汚染や公害が生じることを意味してはいません。しかし、不適正に処理すれば汚染の元になりますし、処理の過程で環境へ負荷を与え、また、最終的に埋め立てる際には自然の土地を処分場に変える必要があります。さらに、廃棄物は、有用な資源の終着駅ですが、その資源の採取は環境への負荷になります。廃棄物は、人間活動が環境へ与える影響のバロメーターと言えましょう。
 平成2年度、日本では、約23億5千万トンの資源や製品などが経済活動に使われ、排ガスや廃棄物などの不用物が約7億7千万トン排出されたと推計されます。同じく平成2年度に、そのうち、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)に定める産業廃棄物(産業から出される特定の種類の廃棄物)は、約3億9千万トンで、家庭ごみなど、産業廃棄物以外の一般廃棄物は約5千万トンでした。この5年間の伸びだけでも、それぞれ26.4%、16.1%になります。廃棄物の量の増加により、廃棄物の最終処分場の残りの容量は乏しくなり、一般廃棄物について見ると、首都圏では今後新たな処分場が確保されなければ、1年間で満杯になってしまう勘定です。他方では、法を守らず山野に捨てられる廃棄物も増えています。近代的な日本の社会も一皮めくれば、いわば満足なトイレがない状況です。むしろ、そのことをはっきりと認識し、それを前提にした経済社会を作っていくことが大切です。
 廃棄の行為に係わる各種の環境負荷を減らすためには、廃棄物そのものが出ないようにすること、製品の再使用、有用な物質を回収して再資源化するリサイクルなどを賢明に導入していくことが必要です。政府では、平成3年度、廃棄物処理法を改正し、また、リサイクル法(再生資源の利用の促進に関する法律)を制定し、リサイクル等への取組を強めています。しかし、回収業者の抱える問題点一つを見ても、減量化や再資源化が誰かに任せておけば進むような仕事ではないことが分かります。廃棄物に係わる全ての立場の人々が力を合わせるシステムとして進めていく必要があるのです。政府では、新しいルールとして、デポジット制(預り金制)なども研究しています。
 廃棄物の問題は国際的にも深刻です。ドイツでは世界でも最も厳しいリサイクル対策を着々と進めています。他方、先進国での厳しい規制や高額な処理費を避けて、廃棄物を途上国に輸出し、そこで処理しようという動きが出ています。こうした中には処理されず、汚染を起こす例もあります。有害な廃棄物の国際取引を適切なものとするため、平成4年5月に、バーゼル条約が発効し、日本も同年12月にこの条約を実行するための法律を制定しました。海の向こうで私達の廃棄物が問題を起こさないよう、私達もこの問題に関心を持つ必要があるのです。


わが国のマテリアル・バランス(物質収支)
わが国のマテリアル・バランス(物質収支)
(備考)各種統計より環境庁にて試算。
    廃棄物は再生利用される分は含んでいない。


産業廃棄物の不法投棄量の推移
産業廃棄物の不法投棄量の推移
(備考)警察庁


再生資源回収業者の経営上の問題点(平成2年)
再生資源回収業者の経営上の問題点(平成2年)
(備考)(財)クリーンジャパンセンター「再生資源の需給動向に関する調査」


紙の主な品種別古紙消費原単位の推移
紙の主な品種別古紙消費原単位の推移
(備考)(財)古紙再生促進センター


古紙価格と在庫量の推移
古紙価格と在庫畳の推移
(備考)(財)古紙再生促進センター、日本再生資源共同組合連合会
     1.古紙価格は、東京地区近郊メーカー工場着価格。
     2.古紙在庫量は、関東地区直納問屋大手32社の在庫量。



2.自然環境の現状


 自然環境は、大気、水、光、温度といった非生物的な要素と動植物のような生物的な要素とからなり、これらが相互に関係し合うシステム(生態系)になっています。人類は、この中で資源の採取、自然の形質の変更など、自然の要素を取り去る行為と不用物の排出行為の両面でこのシステムに負荷を与え、システムの動きを変えつつあります。
 自然環境の悪化は、食糧をはじめ自然から得られる多くの有用物の質を損ね、量を減らしてしまいます。自然のシステムのもたらす恵みは、遺伝資源から精神的な保健まで多様であって、自然の悪化の結果私達が失うものは測りしれません。また、自然環境が悪化すると、汚染の浄化力も乏しくなり、公害を加速します。
 日本の場合は、原生的な自然の劣化には一応の歯止めがかかったものの、身近な自然をその特徴を生かして保全していく面ではなお一層の取組が必要な状況です。海外では、多くの途上国で自然環境の急速な悪化が見られ、地球的な影響も生まれつつあります。

森林の減少
 日本は、島国ですが、アメリカ合衆国に匹敵する南北の緯度差がある上、山がちで高度差も大きく、面積に比べ多様な自然が育まれています。こうした日本の自然環境については、環境庁が国民の参加も得て、定期的、継続的に調査(いわゆる「緑の国勢調査」)しています。森林が日本国土に占める割合は約68%と高いのですが、この調査によれば、各種の生物を養い、安定的な生態系を作っている自然性の高い植生(自然植生)は限られていて、国土の約19%となっています。また、人の手が入った後に自然のままに植生が移り変わっている二次林は、約25%を占めています。これらの比較的自然性の高い植生が近年減りつつあり、他方では、経済活動の対象となる植林地や宅地などの人工表土地が増えています。
 世界では、陸地の30%強、約40億ヘクタールが森林であり、その半分が途上国にあります。その中でも熱帯地方の森林は豊かな生態系に恵まれ、地球全体の気候の安定化にも役立ち、種々の経済的資源の宝庫ともなっています。今日、これらの熱帯林が急速に減少していき問題となっています。FAO(国連食糧農業機関)の調査によれば、調査された90ケ国に限っても、毎年、森林面積の0.8%ずつ、約1500万ヘクタールが減っています。これは日本の国土面積にたとえるとその4割強にも当たります。熱帯林の減少の背景には、それが存在する国々の抱える様々な事情があり、開発の主権と地球的な利益とがしばしば対立してしまうのです。この問題の解決には国際的な協力が欠かせず、国際熱帯木材機関(ITTO、本部は横浜)が取り組んでいるほか、地球サミットの機会には、森林原則声明と言われる文章が合意されるなど、内外で、その保全や持続可能な開発などに向けた努力が強められています。

植生自然度別の変化状況
植生自然度別の変化状況
(備考)*1 市街地などには緑の多い住宅地が含まれる。
    *2 開放水域を含まない。
    環境庁 自然環境保全基礎調査 植生調査


地域ごとの森林面積と森林減少の見積り
地域ごとの森林面積と森林減少の見積り
(備考)FA0 1990年森林資源評価プロジェクト最終報告(平成5年)


一層賢明な保護、復元の必要な都市の自然
 大都市やその周辺の地域の自然も国上全体の自然環境の一部です。生態系として見れば比較的貧しいものですが、住民にとっては身近で、その生活に重要な役割を果たしています。この身近な自然が年を追うごとに減っています。東京都心から60kmの範囲の首都圏について見ると、平成元年までの13年間に、東京23区に匹敵する面積の林地や農地が市街地やゴルフ場に変わりました。都市域で自然が失われていく背景には、熱帯林の減少にも一脈通ずる経済的な事情があります。

首都圏における土地被覆改変状況マトリックス(昭和51年〜平成元年)
首都圏における土地被覆改変状況マトリックス(昭和51年〜平成元年)
(備考)1.左横欄の土地被覆から上欄の土地被覆に変化した面積を示している。
    2.3次メッシュによる東京60km圏の数値。
    3.改変後のデータについては、国土数値情報が62年から元年の3年間をかけて整備されたため、「62〜元年」として示している。
    国土数値情報に基づき環境庁にて作成


 例えば、自然とのふれあいが都市住民に欠かせないといっても、自然の土地を持っている人々は、その土地を自然のままにしておくことから特別の利益を得るわけではありません。都市域の自然の保護には都市計画をはじめ様々な制度が係わっていますが、幅広い関係者が参加して利害が調整されるよう、これらを一層総合的に活用していくことが大事です。また、土地が高度に利用されている都市域では、自然をできるだけ多く確保するとともに、自然を保護する技術にも工夫が要ります。天然林に見まがう明治神宮の社は全くの人工の林ですが、それは東京の自然の植生を模したからできたことです。また、小生態系をネットワークにしていくドイツの工夫なども見習うべきでしょう。

首都圏における土地被覆変化状況(昭和47年〜平成2年)
首都圏における土地被覆変化状況(昭和47年〜平成2年)
(備考)環境庁「大都市圏における土地被覆状況の変化に関する調査」により、東海大学情報技術センターが作成。


湿地、干潟の減少
 湿地や干潟にも豊かな生態系があります。例えば、干潟は生態系の活動が活発で、人工海浜に比べ格段に優れた水質浄化能力があるという研究結果もあります。全国には、合計5万ヘクタール以上の干潟がありますが、昭和53年以降に限ってみても合計約4千ヘクタールの干潟がなくなっています。その約半分は埋立てにより失われました。湿地の果たす大きな役割に着目し、内外で、その保護に向けた取組みが盛んになってきています。日本でも、平成5年6月、釧路市においてラムサール条約(特に水鳥の生息地として重要な湿地を保全しようという条約)の締結国会議を開くなど、湿地の保全の努力を強めています。

海域別現存干潟面積(平成3年度)
海域別現存干潟面積(平成3年度)
(備考)「割合」は全国の現存干潟面積に対する割合である。環境庁


砂漠化、土壌の劣化
 乾燥した土地、表土のない土地は、森林とは逆に貧しい生態系の典型です。こうした土地は日本では見られませんが、世界では、森林を上回る約61億ヘクタールもの大変広い面積を占め、人類の5分の1が生活しています。乾燥地の農用地のうち、約36億ヘクタールで砂漠化が進み、さらに、水や風による侵食、塩害などによって約11億ヘクタールで土壌が劣悪になりつつあります。影響の最も深刻なのはアフリカで、乾燥地の8割以上で土壌が貧弱になってきていて、いわゆる環境難民の問題が起きています。お隣の中国にも、日本に黄砂が飛んでくることに見られるように、広い砂漠があります。ここでは、日本の面積に匹敵する約3400万ヘクタールが大なり小なり砂漠化しつつあります。砂漠化は私達には実感のわかない問題です。しかし、地球の気候にも係わり、また、地球生態系にも影響がありそうです。国連では、地球サミットの機会に砂漠化対策についての条約づくりを決め、取組を始めましたが、日本も大いに役割を果たしていく必要があります。

世界の乾燥地域
世界の乾燥地域
(備考)UNEP/GRID、CRU/UEA(1991年)より


人類との共存が難しくなる野生生物種
 生物は、住み場所となる環境の違いに応じて進化を遂げて多くの種に分かれ、自然環境を巧妙に活用してそれぞれの生活を営んでいます。こうして野生生物は生態系の複雑な物質循環や食物連鎖を支える存在となっています。人類は、生態系から種々の恵みを受けるだけでなく、個々の生物種を、生活の糧、科学技術の対象や材料、芸術・レクリェーションなどの対象として利用しています。この大切な地球の仲間が今減りつつあります。
 例えば、日本でこれまでに確認された動物は約3万5千種(亜種を含む)になりますが、脊椎動物各類では、その約20%に当たる種で絶滅のおそれがあったり、あるいは極めて数が少なくなっています。日本産の植物でも約17%の種で絶滅のおそれがあるという調査が出されています。

わが国の絶滅のおそれのある野生動物の種の数
わが国の絶滅のおそれのある野生動物の種の数
(備考)環境庁「緊急に保護を要する動植物の種の選定調査」
    数字は種及び亜種を含む数。( )内は種の数〔 〕内は分類群の種・亜種の数に占める割合。日本産の種・亜種の数はこれまで学名が付されているものの数。
    絶滅種 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種または亜種
    絶滅危惧種 絶滅の危機に瀕している種または亜種
    危急種 絶滅の危険が増大している種または亜種
    希少種 存続基盤が脆弱な種または亜種


 生物種が減っていく理由には、種そのものの乱獲もありますが、生息・生育環境の開発による変化も重要です。政府では、自然環境保全法等の従来からの法律に加え、平成4年に制定された絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律などによって、捕獲や取引などの規制、指定された地域での開発等の規制、輸出入の規制などの対策を進めています。しかし、対策の運用の面では、野生生物の生息する場所が人の生活の場となっていることが多いことなどから、ややもすると地域の住民の利益と国民全体の利益とが対立してしまう場面が見られます。例えば、野生鳥獣による農作物被害が平成2年には約25万ヘクタールに見られました。ヨーロッパでもこのような問題が起き、対応が始まっています。例えば、イギリスでは、特定の地域の農家が野生生物の生息に有利な伝統農法を継続する場合には、専門家のアドバイスを得られたり、補助金を受けたりできる制度を設け、既に74万ヘクタールの農用地を対象としています。日本でも、保護と利用とのより良いバランスを現場で実現していく手法にはなお工夫の余地があるものと思われます。環境に関する新しい理念を踏まえて、新しい目で、地域の住民と国民とが適切に、また公正に、それぞれの長所を活かして役割を分担していくことが大切です。
 地球規模でも、生物の多様性を守っていく必要があります。野生生物が豊富なのは熱帯の諸国です。世界では、既に約140万種の生物が確認されていますが、熱帯を中心とした12ケ国だけで全生物種の6割以上が生息していると言われます。しかし、熱帯諸国は発展の途上にあり、地球的な利益のある保護対策を十分には行えません。世界が力を合わせて生物保護対策に取り組む必要があります。貿易され、少くなってきた特定の野生生物種については、ワシントン条約によって貿易を制限する仕組みが設けられています。平成4年度には、生物の多様性に関する条約が採択されました。この条約では、多様性の保全のための各国の国内措置に加え、途上国への技術移転、資金援助、遺伝資源の利用による利益の公正で衡平な配分などの国際的な措置も盛り込んでいます。
 野生生物の中には、公海に生息し各国の漁業の対象になっている魚などもあります。漁業が盛んになるにつれ、資源の減少が心配される種や場所も出てきました。また、漁業の方法によっては、魚以外の野生生物が混獲されてしまうといった批判もあります。漁業国日本への風当たりも強くなっています。日本でも、イルカなどを混獲する大規模な流し網による漁法を止めたりするなど、いろいろな場面で長続きする形での漁業に向けて取り組んでいるところです。

税関で没収された野生生物(提供WWF)
税関で没収された野生生物


海面漁業の年間漁獲量と持続可能な漁獲推計量
海面漁業の年間漁獲量と持続可能な漁獲推計量
(備考)国連食糧農業機関、「World Resource 1992−1993」



第2節 環境と共に生きることのできる社会・経済


 人類が環境と共に生きていこうとしても、それを実現することは容易ではありません。第1節で見たとおり、様々な社会的、経済的な事情があって環境を守る取組を阻んでいます。ここでは、社会や経済の活動がどのように環境に係わっているかをまず見た上、それを環境にやさしいものに変えていくときの鍵となる事項を考えてみます。

消費と環境の密接な関係

 経済は、異なった立場の人や企業が取引を介して互いに結びつき、依存しつつ営まれていて、全体として織物のような有機的な仕組みとなっています。私達は、自分の行為が環境に直接与える影響であればともかく、自分が消費活動を通じて参加している経済の仕組みから発生している環境への影響はついつい見過ごしがちです。

消費項目別に見た二酸化炭素の一人一年当たり誘発排出量(昭和60年)
消費項目別に見た二酸化炭素の一人一年当たり誘発排出量(昭和60年)
(備考)慶応義塾大学産業研究所のデータより作成。
    1.産業連関表の部門から、二酸化炭素排出量が大きい部門を抽出した。
    2.*の部門名は、分りやすさの観点から産業連関表上の部門名と変えている。産業連関表の部門名との対応は以下のとおり。
     沿岸漁業魚介類→沿岸漁業、肉→と畜、米→製穀、電力→事業用発電、乗用車購入→乗用車、民生用電気機器→その他民生用電気機器
    3.民生用電気機器は洗濯機、冷蔵庫等を意味し、AV機器は含まない。遊戯場はパチンコ、ビリヤード等を意味する。


 家庭の消費は国民総支出の約56%(平成3年度)を占め、生産活動を拡大していく大きな原動力となっています。消費の伸びは、消費の段階での環境負荷、例えば廃棄物の発生につながっているだけでなく、消費者購入する物を生産する活動からの排ガスや廃棄物の増加、さらには、その川上の原材料採取に際しての自然への負荷にもつながっています。

家庭の対策による二酸化炭素排出削減可能量の試算結果
家庭の対策による二酸化炭素排出削減可能量の試算結果
(備考)国立環境研究所(平成4年)
    「リサイクルする」は、アルミ缶を例にとった試算。


 各種の産業から生まれる様々な材料から一つの商品がどのように作られているかという視点で、網の目となった経済の複雑な過程を見る手法に、産業連関分析というものがあります。この手法を応用し、一つの商品が作られ、流通し、使われる過程で生じる環境負荷の量を推計することができます。それによれば、商品ごとに環境負荷の量には差があります。このことは、消費者の選択に応じて経済全体から発生する環境負荷の量が変わるものであることを示しています。また実際、消費者の行動のこのような変化によってどれだけの二酸化炭素が減らせるかを試算した研究では、経済の網の目を通じた波及的な効果を度外視して主に直接に減らせる量だけでも、日本全国の排出量の数%に当たるとの結果が出ています。
 消費者主権という言葉がありますが、その主権の発揮の仕方によって環境が左右されることを忘れてはなりません。


生産と環境の密接な関係

 かつての日本で深刻な社会問題となった産業公害に見るように、生産も環境に大きな影響を与える活動です。最近の都市・生活型の環境問題と言われるものでも、やはり生産が相当に関係しています。原材料や製品を輸送する活動は生産に不可欠な事業活動ですが、こうした活動も加えて考えると、広い意味での生産活動は都市・生活型の環境問題に深く係わっています。
 また、生産は網の目のようになった取引関係の上に成り立っていますので、一つの産業が活動すると、その産業に原材料や設備を供給する、いわば川上に位置する産業も活発化します。左で説明した産業連関分析の手法で見ると、その様子が分かります。いわゆる産業構造に応じて、環境への影響は異なったものとなるのです。個々の企業について言えば、自分の購入する原材料等がどれだけの環境負荷を生んで生産されたかという点に配慮することも一つの環境対策になるのです。

窒素酸化物、CODの環境負荷の発生源の割合
窒素酸化物、CODの環境負荷の発生源の割合
(備考)1.総量規制地域の合計。
    2.「交通」には、生産活動に伴うものと消費活動に伴うものが含まれている。
    3.「その他」には、農業や山林からの負荷などが含まれている。
    4.窒素酸化物の「消費」には、小規模の事業場からの排出も含まれている。


 さらに、生産の川下で発生する環境負荷にも生産者はかかわっています。例えば、廃棄物になりやすい商品しか出回っていない場合などがありますが、消費者の選択の範囲は、事業者がどのような範囲の商品を生産するかによって制限されます。
 膨大で多種類の物質やエネルギーを用いる生産者には、それに応じた重い責任があるのです。

東京都区部における自動車排ガス排出量の内訳
東京都区部における自動車排ガス排出量の内訳

産業部門別にみた二酸化炭素誘発排出強度(昭和60年度)
産業部門別にみた二酸化炭素誘発排出強度(昭和60年度)
(備考)国立環境研究所。
    100万円分の生産のために、当該産業部門と、これへ原材料等を供給する部門で排出される二酸化炭素量の合計を表す。


貿易と環境の密接な関係

 貿易は、異なった国の人々がそれぞれ自分の得意な生産物を交換し合って互いの経済的な福祉を高める行為です。貿易をすることによって、それぞれの国では他国より自国が有利な産業が集中的に伸びていくことになります。その際に適切な環境対策を取らないと環境を壊しかねません。例えば、フィリピンで輸出を振興した場合の研究がありますが、1次産業からの環境負荷が増えてしまうことが予測されます。途上国では環境対策が甘いと見て、輸出向けの汚染多発型の産業の立地が進むのではないかとも心配されます。希少な野生生物が乱獲されて輸出されてしまうこともあります。先進国で発生した有害な廃棄物を、十分な能力のない途上国の処理業者が輸入したり、そうした業者の料金が安いことをよいことに先進国企業が輸出をしたりして問題になることもあります。
 こうしたことから、それぞれの国の環境対策の強化のほか、貿易活動に対し環境保全の観点から制限を加えることが必要になることもあります。他方、こうした制限は不当だとして国際的な議論が起きることもあります。
 貿易には環境上良い効果もあります。例えば途上国の経済が活発になると、貧困と環境破壊の悪循環を断ち、持続可能な形で発展の道を歩んでいけます。しかし、途上国の輸出商品に対して先進国の市場が十分に開かれていないという批判があります。さらに、この市場を閉ざす作用が環境対策から生まれてしまうこともあります。例えば、国際商品の自動車の排出ガス規制は国ごとの汚染状況などに応じて違っていますので、規制の緩い国の自動車はそのままでは規制の厳しい国に輸出で歩ません。環境対策が隠れた形の国内産業保護策だとして他国の非難を呼ぶこともあります。
 国内での経済と環境との間の関係と全く同様に、自分達が使う輸入商品や自国の輸出商品と海外の環境とは関係を持っています。今、ガットやOECD等で検討が進んでいますが、貿易と環境との間に一層望ましい関係を築く必要があります。

ワシントン条約に基づいて報告された野生生物とその製品の取引(昭和63年)
ワシントン条約に基づいて報告された野生生物とその製品の取引(昭和63年)
(備考)World Conservation Monitoring Center
    World Resources 1992-93
    統計が不完全なので世界計と各国計は一致しない。


有害廃棄物の越境移動の主要な例
有害廃棄物の越境移動の主要な例




協力によるブレイク・スルー

 ある企業から特定の汚染物質が多量に出され、すぐに被害が生じるといった問題には、昔はともかく今では比較的たやすく対策ができます。しかし、第1節で見たとおり、私達が直面している主な問題はこうしたものとは違います。
 第1に、問題が自然の複雑な仕組みを通じて起きる慢性的なもの、広域的なものであって、問題を認識することすら難しいのです。第2に、原因の面では、日常的な、それ自身は大きな環境負荷を生まない行動が、産業連関分析で見たように、他の行動と互いに支え合い、集積して環境への影響を生じさせています。この2点だけを見ても、現在の問題への取組が難しいことが分かります。問題が理解できないままに、あるいは資金がない、技術がない、他人が悪いなどと言っているうちに、原因だけが積み重なっていき、取り返しがつかなくなる心配があります。
 幸い、今や私達は、問題が、またひいては対策のあり方がかつてとは違うことをはっきりと知っています。また、慢性的な環境の悪化を防ぐ責任をそれぞれの立場に応じて果たそうと決意もしています。次にすべきことは、こうした新しい理念、責任を実地に生かすことです。
 その際の鍵は協力です。私達がそれぞれの損得勘定にこだわった行動を取ると(図中、A、B両国とも対策を取らないとき)、それぞれが得る利益はかえって低下し、他方、より高い見地から賢明に行動すると(両国ともに対策を行ったとき)、それぞれの利益がかえって増える場合があります。環境の問題では、先に述べたような問題の性格からこのようなことがよく生じます。

社会的ジレンマの例
社会的ジレンマの例
(備考)Negotiation a framework convention on climate change:economic consideration, OECD, 1992より作成。


 しかし、高い見地からの行動は難しいものです。例えば、一つの企業だけが環境対策を行えば、その企業の製品の価格は他より高くなり競争に負けますから、どの企業も自主的な対策実行に消極的になります。他方、企業が皆で対策を行えばこうした不利益はありません。その上、いわゆるエコ・ビジネス(環境を良くする商売など)への需要が増し、対策の結果の価格上昇によって経済が冷える効果を相殺する働きをして、経済全体を小さくせずに環境を良くできると期待されます。大事なことは、それぞれの自主的な努力と、努力が社会全体の成果に確実に結び付くようになる適切な役割分担のための枠組みやルールです。これらに裏付けられた協力的な関係を実地に育てることこそが真の課題です。貿易などを通じて人と人、国と国が関係を持つ国際的な場でも事情は同じです。環境と共に生きることのできる社会・経済とは、内外の別なく、環境を守っていく協力的な関係が結ばれた社会・経済なのです。

企業の公害防止投資の動機
企業の公害防止投資の動機
(備考)都内の製造業の2087事業場を対象としたアンケート調査結果。
    東京都環境科学研究所の資料(平成2年)より作成。


環境保全に関する事業活動(エコ・ビジネス)の例
環境保全に関する事業活動(エコ・ビジネス)の例
(備考)環境保全に関連する事業活動は幅広く多様であり、上記は、これを整理するための考え方の一例である。



第3節 環境と共に生きることの実践に向けて


 人類の生きる自然の環境は徐々に汚れ、貧しくなりました。他人に損害を与えない限り、環境は自由に使ってよいとする考え方は、このような事態に直面して、徐々に現実味を失っていきました。これに代わって、未来の世代や海外の人々のことも考えながら、環境のもたらす恵みを皆の建設的努力で維持していこうとする、新しい理念、新しい責任が法的なルールの形にまで高められてきました。これからは、この新しい理念や責任を現実により良く生かすことが課題です。
 環境問題は多種多様で対策も広範ですが、努力をするのはいずれにしても生身の人間です。そこでここでは、様々な立場の人やその組織が、今、何を努力し、どのような問題を抱えているかを見てみます。また、問題を克服するため、立場の異なった人々の間でどのような協力関係を結ぶことが望まれているかも考えてみましょう。



1.国民の取組


 第2節で見たとおり、国民の日常の生活などは、環境に対して直接に、また、経済の仕組みを介して間接的にも大きな影響を与えています。既に多くの国民がこの点に気づいているだけでなく、さらに、環境への負荷を減らすように自らの行動を変え始めています。

意識は高まっても実行には問題点も
 しかし、環境にやさしくする気持ちがあっても、様々な障害もあります。環境庁の調査では、7割以上の人が何らかの問題点を抱えています。どのような環境保全活動ができるかの情報がない、という問題点が第1位、続いて、時間がない、仲間がいない、などといった点が指摘されています。国民の自主的な活動を活発にしていくためには、このような障害を取り除いていくことが有効と言えましょう。国や地方公共団体では、国民と環境との関係や国民の活動のアイディアなどの情報を提供するよう努めています。

環境保全のための工夫や努力の実行割合
環境保全のための工夫や努力の実行割合
(備考)1.総理府「環境保全に関する世論調査」(平成5年2月)
    2.回答総数は、3,754人

環境保全活動を行う場合の障害
環境保全活動を行う場合の障害
(備考)1.環境庁モニターアンケート調査(平成4年)。
    2.回答総数は1,231人。



ボランティア休暇などで応援する企業
 国民の多くは企業などで働いています。特に、時間の面で環境を守る活動と仕事との両立が難しいのが実情です。そこで、企業の社会貢献の一環として、従業員のボランティア活動を積極的に奨励し、勤務時間内の活動を認めたり、休暇や休職を認めたりといった特別の取り計らいをする企業も出てきました。

従業員のボランティア活動に対する企業の支援
従業員のボランティア活動に対する企業の支援
(備考)住友生命総合研究所調べ(平成3年10月)。回答企業は1,164社。


活躍が期待される民間団体
 国民が互いの長所を活かし、短所を補って皆で組織的に環境にやさしい行動をしていくのも効果的な取組み手法です。環境保護のための民間団体(環境NGO)と言えば欧米のものが有名ですが、日本でも古くから環境関係の団体が活動してきた歴史があります。高度成長に伴い公害が著しくなった昭和40年代からは、産業公害の被害者が自らの被害を回復しようとして進める運動が盛んになり、大きな影響力を発揮しました。最近は、被害の回復にとどまらず、積極的に良い環境を築こうとする団体が活発に活動しています。
 しかし、環境関係の民間団体についての調査では、過半数が年間1千万円未満の予算で活動しており、常勤のスタッフが全くいないものが全団体の半数を占めていました。環境関係の団体の台所はお寒い状態にあると言えましょう。このため、例えば、政府ではできない地球市民としての助け合いである国際協力を見ると、日本の民間団体からの国際支援は欧米に相当遅れた状況にあります。
 環境関係の民間団体は、資金、情報、人材など多くの困難を抱えている現状にあります。自らの責任で乗り越えていかなければならない問題も多くありましょうが、社会的な手助けが有効なものもあります。例えば、平成元年度からは、各都道府県で地域環境保全基金が設けられ地域の環境保全活動への支援が始められ、平成5年度からは、地球環境を守ろうとする民間団体の活動の支援を目的に地球環境基金が環境事業団に置かれました。
 国民が自主的に進める環境保全活動がもっと活発になるよう、政府、地方公共団体にも企業にも一層の工夫と努力が求められています。

環境民間団体の規模と予算
環境民間団体の規模と予算
(備考)環境庁。(平成4年)。回答団体数は386。



DAC諸国におけるNGOによる国民1人当たりの国際援助実績(平成2年)
DAC諸国におけるNGOによる国民1人当たりの国際援助実績(平成2年)
(備考)DAC資料



2.企業の取組


 企業は、高度な科学技術を活用し、大規模な活動を行っていて、環境保全に関する重い責任を負っています。企業には、環境への負荷の少ない、長持ちする形で発展していくことができる社会を築いていく上で大きな期待が寄せられています。

企業が進める環境への新しい取組
 環境対策の実施に関し、企業も数多くの困難を抱えています。従来からあったような資金不足などもありますが、新しい種類の困難もあります。例えば、かつて深刻であった二酸化硫黄などによる公害への対策の場合とは異なって、将来の世代や海外の環境のことにも配慮するとなると、企業の行う環境対策としては大変に幅広いものが考えられることとなります。また、法律などで強制されて対策を行うだけでなく、自主的に対策を進めていくことになると、難しい判断に迫られます。
 そこで、標準的な取組内容を示し、各企業の取組を支援する動きが出てきました。例えば、経団連は、平成3年に、良き企業市民となることを目指して「地球環境憲章」を定めました。これは、経団連会員企業の約7割で活用され、対策の充実に役立てられています。環境庁でも、平成5年、広く企業の参考とするため、「環境にやさしい企業行動指針」を作り、その普及に努めています。
 環境庁の調査では、事務、製造、廃棄の各段階の業務ではおよそ7割の企業が、環境を自主的、積極的に守るよう何らかの形で取り組んでいました。しかし、流通の段階、企業の川上で原材料が採取される段階での取組みは比較的に低調な実態にあります。企業の本来業務としての、以上の取組みのほか、環境団体への資金援助など、約7割の企業が環境分野での社会貢献を進めています。
 資金の面から見ると、公害に限れば、企業は、公害防止設備建設費や設備運転費、研究費として1年間に全国で2兆円程度を投じていると推計されます。製造業に限ってみると、1社当たりその売り上げ額の0.7%が環境関係の各種経費に使われているというデータもあります。しかし、正しい判断に必要なはずの環境関係経費の統計がないとしている企業も数多い実態にあります。

環境にやさしい企業行動を取っている段階
環境にやさしい企業行動を取っている段階
(備考)1.環境庁(平成4年)。回答企業は528社。


「地球環境憲章」に定められている具体的行動
「地球環境憲章」に定められている具体的行動
(備考)経団連「地球環境憲章」(平成3年)より作成。


広がる環境担当組織の活動
 環境対策が広範で複雑になるにつれ、環境保全を担当する独立した組織を設ける企業が最近増えています。環境庁の調査では、これら組織の半数は配置人員10人以下の小さなものです。また、業務の内容別にその影響力を見ると、環境に直接かかわることには相当の力を発揮しているものの、会社全体の方針や投資計画などには大きな力はないようです。環境担当組織が力をつけ、企業内部で協力を一層得るようになれば、各部署の行う対策も充実していくものと期待されます。そのためには適切な仕組みが必要です。各部の行う対策へのアドバイスやチェックなどの具体的な仕組みには、例えば、環境についての目標や取組方針を作ることや実際の取組を事後的に監査すること(環境監査)があります。客観的な評価が難しいこと、外部への公表を予定していない事例が多いことなど問題はありますが、それぞれ約3分の1の企業で実施されていました。
 企業は様々な環境保全努力を行っていますが、その結果は、国民が買う商品やサービスの価格に反映されます。国民には、購買行動を通じて企業の努力を評価し、良い努力であれば支持していくことが望まれす。幸い、環境保全型の商品を扱っている企業などへの国民の目は好意的です。企業は自信をもって自らの環境保全努力を訴え、国民の協力を求めていくべきでしょう。

企業内環境担当部署の影響力
企業内環境担当部署の影響力
(備考)1.環境庁(平成4年)
    2.環境担当部署が上記の項目に対し、「かなり影響力がある」「一定の影響力がある」と回答した企業の割合。
    3.回答企業数は358社。


環境保全型商品を扱っている企業などに対する国民のイメージ
環境保全型商品を扱っている企業などに対する国民のイメージ
(備考)「環境問題と消費行動」日経産業消費研究所(平成2年)
    回答者数は957人。


自信もあるが悩みもある海外での環境対策
 海外進出が増えるにつれ、日系海外企業と環境との関係に関心が集まっています。海外の企業はその国の法律で律せられるものですが、日系企業には十分な環境対策を行って欲しいとする日本国民の期待は高まっています。
 タイ、インドネシアに進出した日系企業に対する環境庁のサンプル調査では、現地政府、環境団体、住民などとの間で、操業に伴う環境をめぐったトラブルを経験している企業は回答した企業の約4%にとどまっています。他の国々から進出した企業や現地資本の企業に比べ同等以上に円滑に対策を行っているとの自信をほとんどの企業が示しています。しかし、約半数の企業が将来トラブルに巻き込まれるのではないかと心配しています。それは、現地での規制が次々と強化されつつある一方で、それを執行し、支える現地での官民の体制が不十分と受けとめられているからです。海外の日系企業が環境問題を起こすことのないよう、日本の私達が手助けできることが数多くあるのではないでしょうか。

日系海外企業が環境対策の充実のために望むこと
日系海外企業が環境対策の充実のために望むこと
(備考)環境庁(平成5年)。タイ、インドネシアに進出した企業82社が回答。



3.地方公共団体の取組


 環境問題は地域において行われる活動から生じます。その解決も地域における具体的な取組の中で進められるものです。そこで、公害がひどくなると、国に先駆けて公害規制立法(条例の制定)を行うなど、住民の福祉などを保持する任務を持つ地方公共団体は大きな役割を果たしました。
 昭和42年に公布された公害対策基本法において、また同45年のいわゆる公害国会で改正され、あるいは制定された各種の法律の中でも、地方公共団体の活力と、地域の自然的、社会的条件に応じた独自の取組とを生かすような制度的な枠組みが積極的に位置づけられ、地方公共団体は環境保全の欠かせない主体として活躍してきました。これから環境に関する新しい理念を実現していく上でも、引き続き地方公共団体が重要な役割を果たしていくよう期待されています。

発揮されつつある新しい役割
 今日の環境問題は、健康影響にはすぐには結びつかないものの長い目では対応を要する環境の悪化であったり、経済社会の隅々に根を張った日常的な行動を原因としているものであったりします。こうした問題に対しても、地方公共団体が、住民の日常的行為を制限したり、進んでより良い環境づくりへの貢献を求めたりすることへの地域の合意を作り出している例が出てきています。
 地域社会で合意されたルールで最も重いものは条例です。条例について見ると、例えば、空き缶の投げ捨て行為に罰則を課した条例、美しい星空を守るために屋外の照明施設に特別の基準を設けた条例、ヨシの群落のある区域の改変行為を許可制の下に置いた条例などが最近生まれました。
 また、地方の単独の資金によって予算を確保し、地方公共団体自身が特別の役割を果たすような事業を行う例も数多く見られ、その規模も年々大きくなってきています。

福岡県北野町の空き缶投げ捨て警告看板
福岡県北野町の空き缶投げ捨て警告看板


都道府県及び11大都市の環境保全施策予算額の経年変化
都道府県及び11大都市の環境保全施策予算額の経年変化
(備考)環境庁調べ。地方単独費のみによる施策に限って集計。



地方公共団体も地球の一部
 豊かな日本では一つの地域でも、外国1ケ国にまるまる匹敵するほどの生産額をあげる地方公共団体があります。「地球規模で考えて足元から行動」という考え方に即し、地方公共団体には、いわば地球市民の自治組織としての役割も期待されています。こうした期待を受け、地球環境保全の視点を盛り込んだ環境基本条例が熊本県等で制定され、地球環境保全行動計画が東京都等で策定され、また、地方庁の内部で地球環境問題への総合的対処を進めるための組織が過半の都道府県で設けられ、庁外の主体をも巻き込んだ地球環境対策組織も愛知県等で設けられています。
 しかし、地球環境問題への取組みに関して地方公共団体は多くの困難も抱えています。地方自治協会の調査では、財源の確保、情報や技術、企業の協力、専門的な人材の確保などに問題があることが指摘されています。地方公共団体が、期待される役割を十分に果たすためには適切な理解と協力が欠かせないのです。また、地方公共団体自身にも協力のネットワークの中で取組を進めることが期待されます。

地方間の国境を越えた協力
 地方公共団体は、所在する場所はそれぞれ異なるにせよ、地域における地球環境対策という共通の課題に直面しています。そこで、地方公共団体の間に、国境を越えて直接に海外の人々や地方公共団体と協力する動きが世界に広がってきました。これも一層の協力に支えられて伸びていくことが期待される新しい動きです。日本では、北九州市が市民、企業ぐるみの国際環境協力で国連の表彰を受けましたが、山梨県などともにさらに地方公共団体の間の国際協力にも取り組み始めました。


地方公共団体の県内総生産と主な外国のGDPとの比較
地方公共団体の県内総生産と主な外国のGDPとの比較
(備考)1.「県民経済計算年報(平成4年版)」(経済企画庁)、「外国経済統計年報(1991年版)」(日本銀行)より作成。
    2.各国は1991年、都道府県は平成元年度。
    3.換算ルートは、1ドル=122円とした。


地方公共団体による地球環境保全施策
地方公共団体による地球環境保全施策
(備考)環境庁(平成4年)




4.政府の取組


 環境問題は、民間の自由な活動に委ねていては解決のつかない問題の典型です。公害が激化するなどし、民間の活動のほころびが目立つようになると、日本でも他の先進諸外国でも、政府が様々な対策を行うようになっていきました。

成果と課題
 日本では、昭和42年制定(同45年改正)の公害対策基本法が公害対策の基本的な法制でした。また、同47年制定の自然環境保全法も、自然環境保全の基本理念を定めるなど、基本法的な位置づけを持っていました。このような中で、環境に著しく影響する行為の規制、公害防止計画などによる各種事業の計画的実施、国の関与する大規模な事業に対する環境影響評価の閣議決定等による実施、公害原因者の責任の明確化、公害健康被害者の救済のための制度の整備、公害対策事業に対する原因者の費用負担の制度化などが進みました。政府の役割が増すにつれ、予算額も増え、また、基本的な政策の企画、推進や各省庁の施策の総合的な調整などを任務として環境庁が昭和46年に設けられて、行政組織も整備されていきました。
 しかし、今日、確保すべき利益は、将来世代の利益、地球的な利益へと広がっています。原因の面でも、日常的、一般的な活動が全体として及ぼす影響が重要です。対策手法の面でも、既に見たような国民や企業などの自主的取組を生かし、経済社会システムや行動様式の見直しが進むように、多様な手法を用いる必要があります。公害対策基本法等を柱とする従来からの枠組みは不十分なものになりました。

対策の新たな枠組み
 日本では、平成4年度には、宮沢総理大臣の指示を受け、地球環境時代にふさわしい法律の整備を目指した取組が進められました。
 すなわち、地球サミットの成果も踏まえ、7月には、中央公害対策審議会及び自然環境保全審議会が審議を始め、関係の団体からの意見聴取を含めた20回以上の集中的な審議の後、10月に答申を環境庁長官に提出しました。答申は、環境政策の基本的な理念とこれに基づく基本的施策の枠組みなどに関して、新たな基本法に盛り込むべき13の項目を示しました。答申に沿った政府部内の検討の後、5年3月、総理大臣から大綱を中央公害対策審議会などに諮った上で、法案が閣議決定され、国会に提出されました。国会では条文を追加する修正をし、全会一致で衆議院及び参議院(委員会)の審議が終了しました。法案は、その後衆議院の解散に伴い廃案となりましたが、そこには、環境に関する新しい理念、これを実現するための対策の新しい枠組みが盛り込まれています。諸外国も、地球サミットの成果も踏まえながら、対策の新しい枠組みを定めようとしています。日本の取組は、中でも進んだものです。環境基本法案の閣議決定時の総理大臣談話にあるとおり、本法案は「新たな取組みを世界に先駆けて始めるための挑戦」でもあります。これからは、実際の行動に結実させていかなければなりません。

国の環境保全関係予算の推移
国の環境保全関係予算の推移
(備考)環境庁


新しい対策手法
 日本でも、諸外国でも、環境対策の目指すものの変化、環境問題の態様やその原因の変化に応じて、様々な対策手法を実施し、あるいは検討しています。日本の環境基本法案でも、環境影響評価をはじめ、広い範囲の手法が位置づけられています。
 まず、計画を一層活用していきます。政府自身はもちろん、社会を作る様々な立場の人々が、共通の認識の下、また中・長期的な視点に立って、広い範囲の対策を担い、互いに協力して取り組んでいかなければなりませんが、その時に社会的な枠組みとなるのが計画です。海外では、オランダの国家環境政策計画(平成元年)、カナダのグリーン・プラン(同2年)などがあります。
 また、民間の自主的な活動を生かす上では、一律的な規制よりも、誘導的な手法の方が多くの場合に効率的です。例えば、環境にやさしい行動が有利になるように経済のルールを変え、後は、市場の力で対策を促す手法(経済的手法)があります。環境に良い行為への優遇税制などは従来からありましたが、最近は、一層効率的に対策を進めるため、環境への負荷に応じて経済的な負担を課す措置、つまり、飲料缶や家電製品などへのデポジット(預かり金)、廃棄物の量などに応じた料金、汚染物質の排出量に応じた税や課徴金なども使われています。日本でも各方面で検討されています。外国では、今最も関心の高い地球温暖化への対策に炭素税を導入する国も増えています。
 海外での環境対策への協力も、地球環境時代では、強力に進められるべき大事な取組です。日本は、環境分野で世界一の規模の政府開発援助を行っていますし、地球サミットではさらに、平成4年度からの5年間で合計9千億円から1兆円の環境分野での援助を行う方針を明らかにし、世界の支持を受けました。こうした資金供給の面に加え、今後は、協力の中身、すなわち、世界共有の科学的知見の充実、政府開発援助における環境への配慮、民間企業の海外進出での自主的な環境配慮と政府によるその後押し、人を通じた協力など、内容面、質の面でも国際的な協力関係を豊かなものにしていく必要があります。環境基本法案にもそうした観点からの規定が置かれています。
 政府には、このほかにも果たすべき多くの役割があります。政府は、施策の執行の体制や運営実務を不断に見直し、改善していきます。

税・課徴金、排出権取引及びデポジット制度に係る世界各国の状況
税・課徴金、排出権取引及びデポジット制度に係る世界各国の状況
(資料)OECD資料、クリーン・ジャパン・センター資料等より環境庁作成。


日本の環境分野の政府開発援助実績の推移
日本の環境分野の政府開発援助実績の推移
(備考)環境庁



5.国際機関の取組


 各国の間の経済等の関係が緊密になる中で、地球環境問題のような国境を越えた問題が起きてきています。各国の複雑に絡みあった利害を調整し、有効な解決策を提示し、各国の協調を促す上で、国連をはじめとした国際機関の働きが欠かせないものになりました。

地球サミットヘの道
 国連は、昭和47年のストックホルム人間環境会議、その10周年の同57年に開かれたナイロビ会議、その際の日本の提案をきっかけに設けられた環境と開発に関する世界委員会といった様々な機会に世界全体の環境保全のあり方に関する議論を積み重ねていきました。
 こうした成果を検証し、取組みの一層の強化を目指し、国連は、平成4年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで地球サミット(環境と開発に関する国連会議)を開きました。慎重な準備の結果、史上最多の100ケ国余りの首脳、180ケ国以上の政府代表が参加した大規模な国際会議となりました。この会議と同時に開かれた様々な会合には、世界の市民や産業の団体も加わって、文字どおり、地球規模で決定を行う機会となったのです。

地球サミットが決めたこと
 地球サミットは、地球の限られた環境の中で人類が長続きする形で発展するために特に大切な原則を盛った「環境と開発に関するリオ宣言」と、こうした原則に即して、人類の明るい未来を築いていくための取組の方向を詳細に掲げた「アジェンダ21」を採択しました。これらの骨子は、先進国は長続きしない形の経済発展を見直し、開発途上国は、貧困と環境悪化の悪循環を断てるような形の開発を実現することに向け、共通であるがそれぞれに差異のある責任を担い、地球的なパートナーシップの下に各国が努力し、また協力することにあります。私逹の日本も、南北対立の焦点となった、地球環境保全のための資金の問題の打開策を探る世界の賢人の会議を東京で開催することを支援するなど、様々な場面で地球サミットの成功に力を尽くしました。

地球サミットからの出発
 地球サミットはゴールではなく、新しい取組の出発点です。国連では、地球サミットでの決定の履行状況を継続的に監視し、必要な提言を行う持続可能な開発委員会を国連本部に設けました。国連がこれから本当に成果をあげていくためには、各国それぞれの対策の実行と国連の各種の活動への各国の一層積極的な参加や協力が欠かせません。
 日本は、前頁で見たように環境碁本法案をさっそく国会に提出するなど、国内で率先した努力を始めたほか、持統可能な開発委員会にも参加し、力を尽くしていきます。

地球サミット(首脳会議)の模様
地球サミット(首脳会議)の模様


参考


環境基本法案について
 環境基本法案は、国会での修正を加えて、全文で46条の法案です。この法律が制定されると、公害対策基本法は廃止され、自然環境保全法からは自然環境の保全の基本理念が削除されます。したがって、環境基本法案(以下、基本法案という。)は環境の分野を全ておおう基本法制としての役割を果たすことになります。正確には条文を参照いただくとして、基本法案の概要は次のとおりです。

基本理念
 基本理念は、環境をなぜ、また、どのように守っていくのか、という肝心な点を明らかにしています。簡単には次のとおりです。
 まず、環境は、人類が地球上で生存を続けていこうとするときの基盤となるものであり、さらに限られたものですので、広く国民、ひいては人類がその恵みを十分に受けられるように、また、それを将来の世代に引き継いでいけるように、守っていかなければなりません。
 第2に、その際には、国、地方公共団体、事業者、さらには国民一人ひとりが、公平に役割を分担しつつ、暮らしや仕事の中で自主的、積極的に努力し、社会そのものを環境への悪影響が少ない、したがって長続きする形のものへと変えていくことが基本ですし、その場合には科学的な知識を活用し、環境を壊さないような先取り的な対策を採ることも同時に基本としなければなりません。
 第3に、地球環境を良いものとしておくことが人類全体にとって、また、日本の私達にとっても極めて大切ですから、これを世界の人々と手を携えて守っていかなければなりませんが、日本と世界との密接な相互依存の関係や日本の豊かな経験や能力に照らせば、日本は積極的に取り組んでいかなければなりません。

責務
 このような基本理念を実現するため、国や地方公共団体が公害防止や自然保護などの施策を講じていくことはもちろんですが、事業者や国民も、事業活動や日常生活において環境への負荷を減らすように努めるなど、進んで環境保全のために行動しなければなりません。このような考え方をそれぞれの主体の責務として定めています。


中央公害対策審議会の近藤会長より「環境基本法案の策定について」の答申を受け取る宮澤内閣総理大臣。
中央公害対策審議会の近藤会長より「環境基本法案の策定について」の答申を受け取る宮澤内閣総理大臣。


基本的な施策
 理念を実現するための施策については、公害対策の目標となる環境基準、汚染物質の排出行為などの規制や特定地域における総合的な公害対策の計画である公害防止計画、公害対策事業における原因者の費用負担などの従来からの施策を公害対策基本法から引き継ぎ、さらに、環境基本計画、国の施策の策定に当たっての環境上の配慮、事業に係る環境影響評価、経済的な措置(27頁参照)、環境の保全に関する施設の整備、環境への負荷の低減に役立つ製品等の利用の促進、幅広い科学技術の振興などの具体的な施策を位置づけています。
 また、基本法案では、6月5日を「環境の日」と定めるほか、中央環境審議会や地方の環境審議会の規定も置いています。